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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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457 今後の方針と対策は慎重にしていこうと思う今日この頃

 王宮の廊下。扉の前で立っていた磯部達は中から出て来たクラスメイトの女の子へと近寄った。


「どう?」「(フルフル)。今は北野さん達に任せましょ」「そう・・・」「壊れたんじゃ、どうしようもねえだろ」「帰すにも周囲の魔力の安定と、姫様達の回復を待つしかないって言うし・・・。で、その姫様は?」「使い果たしたらしく、今は安静にしてもらうしかないらしい。これ以上は命懸けになるらしい」「マジで賭けだったんだ」「魔力が回復しても、乱れた力場を安定させて繋げるのも今はその目途が立たないと従者の人が・・・」「こんなたくさん来ること事態、想定してなかった聞こえたし・・・ってか私達じゃ、どうしようもないじゃん」「今は、舟木さん達も落ち着いてもらうのを待つしかないね。その間に私達はやらなくちゃいけない事もあるし」「ああ」「(ボソ)はっ。くっそ弱ぇ」


 少し離れた所、廊下の壁にもたれ掛かっていた野田が呟いた。音が思いの外、反響しその声は磯部達の耳にまで届く。振り返った彼等に小馬鹿にするような、面白くなさそうな鹿熊達の姿がそこにあった。


「来たんならサッサと切り替えればいいのによぉ」「うじうじしやがって、マジでキモイな」「はぁ~あ。サッサと強くなって、遊びて~♪」「お前、殺されっぞ?」「ははっ、冗談冗談♪」


 ニヤニヤと笑みを溢し、近くを通りたかったメイド達が気味悪がり方向を変えて別の道へと避けていくが彼等はまったく気にしていなかった。


「(ボソ)何なのアレ?」「(ボソ)自分達だって、ビビッて喧嘩売ってたくせにね~?」「(ボソ)ああやって、言える相手にしか偉そうに出来ないんだから。ホント、マジ勘弁なんですけど」「あ゛? 何かあんのか? あ゛っ・・・!」「調子乗んなよ?」


 イラついた谷川と清水が脅しを掛けつつ近づこうとするが、すぐ傍に居た磯部の存在が目に入ると舌打ちをして大人しくなる。鹿熊はただ黙って磯部を見た後、どうでもいいとその場を立ち去ってしまった。慌てて谷川、野田、清水が付いて行った。


「無駄に争うのは止めよう。僕達の目的は世界を混乱させている魔王とその協力者を何とかする事だから」「ええ~、でも~」「あんなに偉そうにしてた奴が大人しく下がっていくのとか・・・ちょっと、ね?」「分かる。何かしら問題起こしてるから、何で先生とかもっと何とかしてくれないのかってマジで思ったしよ」


 学園生活は楽しい・・・が、その中でどうしても関わりたくない人種。それが一緒の学校に来ていた事で嫌でも不快な思いをする事があったクラスメイトから小さな鬱憤を晴らすかのように盛り上がる声が出てきた。そんな気持ちを持っても仕方ないと理解している磯部も流石に今後の状況を考えて口を挟もうとするよりも先に、少し小太り気味の男の子が口を挟んだ。


「あんまり聞こえる様に大声で言わない方が良いんじゃね?」「え? 何で?」「鹿熊達も俺達も、この世界では地球の時よりも判りやすく強くなれるって事だから。今は良くても・・・アイツ等の性格考えたら、この先どうなるかなんて、ちょっと予想付くじゃん?」「「「・・・」」」


 傍若無人。勝手なイメージもあるかもしれないがこれまでの振る舞いを考えればクラスメイト達には容易に想像つきそうなモノだった。


「警察に注意されてたってのは聞いた事あるけど・・・。実際、学校に停止や退学を言われた所なんて見た事ないかも」「上手くその辺りは立ち回ってんじゃないの?」「だったらその可能性も考えて動いた方がいいって事だよ。力を付けば、下手したらやりたい放題じゃん」「「「・・・」」」


 嫌なイメージを想像してしまったクラスメイト。特に女性陣の顔が凄くその気持ちを物語っていた。


「何で、アイツ等も選ばれたわけっ・・・?!」「そんなの知らないわよ。っていうかほとんどクラスメイトばかりだったじゃん? それ関係じゃないの?」「はああああっ・・・! んも~・・・あり得ないんですけど・・・。 何か私も早く帰りたくなったんですけど~」「まあまあ」


 しゃがみ込んでやる気を失った少女に苦笑するしかないクラスメイト。ほとんどの者達にとっては厄介な種が無条件で追加された気持ちだったからだ。


「・・・でも、僕達もそうだけど・・・。あの人達はもっと辛いかもしれない」「?」


 磯部の視線の先、閉じた扉の向こうを見る。そこにはクラスメイト以外の呼ばれた者達もいた。精神的に参り寝込む者までいる事実に少女達は押し黙ってしまった。


「冷静に考えれば、僕達を呼んだのはこの国の人達だけど、使えない奴は切り捨てる事だって出来たはずだ。面倒を見る責任?そんな義務が必ずしもあるわけじゃない。道理なんて無視する事も出来た。・・・でも姫様はしなかった。あの人は本当に助けを求め、代わりに困っている僕らの保護を約束してくれた。利用するだけなら見えない所で邪魔をする者達を排除する事も出来たはずだ」「それって・・・」「殺すって事だよ」「「「・・・」」」


 頭では分かっていても聞きたくなかった言葉をクラスメイトの男子が答え、息を飲む者達がいた。


「それでも・・・どこまでできるかは分からないが約束してくれた。少なくともこの世界に置いての一先ずの安全は保障してくれた。それは、手伝う事を決めた僕らにとっては良い事だ。・・・だけど。知り合いがいるわけでもない彼等(同じ転移者)にとっては・・・ここは僕達以上に巻き込まれて、不安になる場所でしかないんだよ。同じ境遇が1つの心の拠り所に成ればいいのだが・・・」「「「・・・」」」


 漠然としたイメージしか彼等も分かってはいない。ただ自分達が住んでいた地球・・・その中でも日本という国の中の安全性がどれほどすごい事なのか、何となくしか把握していないのが現状だった。当たり前・・・という前提下における環境がそもそも難しい世界。それは多くの国で嫌というほど情報ではキャッチしているはずだった。しかしそれでも・・・現実を体感したわけではない多くの者達にとっては・・・どこまで行っても他人事にしか映らなかった。

 異世界を渡り、少しずつ飲み込み始めた彼等でもまだまだそれは序の口でしかなかった。磯部はクラスメイト達に言葉を掛けながらも改めて自身で、その認識の甘さを実感している所だった。


「僕らは勇者って言う扱いになっている。この肩書きに見合った成果があれば恐らく周りは手を貸してくれるだろう」「(コクン)問題は・・・たぶん、あの謁見にいた貴族とか・・・。良い人だったらいいけど・・・。最悪、俺達を悪者として吊り上げる」「どうして?」「派閥争いや何かに使う為。決めつけは良くないけど・・・」「(コクリ)真実はわからないけど。善意でずっと支えてくれる人なんてそうそういない。ここで文句を言っても状況が良くならないのなら、僕達も出来る限りで何とかするしかないよ」「・・・」


 しゃがみ込んでいたクラスメイトに手を伸ばす磯部。全てを納得はしていないが女の子はその手を掴み立ち上がった。その目には先ほど呟いてしまった弱音とは違い、強い意志が宿り始めていた。それは周囲にいる者達も同じだった。


「自信はないけど・・・。生きる為か・・・」「重えって、もう少し気楽に行こうぜ?」「そうやって、この前、ヘマしてなかったっけ?」「あれは先輩がパスをミスったからだって。オレがもっと出れば活躍なんて──」「「「無理無理無理」」」「否定すんのが早えよ。もっとオレを見てから言えよっ」「見てるから言ってんじゃん」「どこ?」「グラビアの写真に目を奪われて、顔面にボールが当たったトコ」「そこじゃねえよ・・・!」


 クラスメイトのいつものノリに笑い声で包まれる。緊迫していた空気がいくらか和んだのを皆が感じていた。そうして改めて皆の視線が磯部へと自然に向かう。それを受けた彼は力強く頷いた。


「これから色々あるだろうから、今のうちに僕達も作戦を考えよう。何があっても助け合えるように」


 居合わせたクラスメイト達の気持ちは1つに固まり、小さく輪になってクラス内会議を始めるのだった。


 ・・・・・・


 バサバサと本が何かの紙束が乱雑に宙を舞い、床に散らばった。豪華な机に整えて置かれた資料もまた男は乱暴に投げ捨てる様に払う。


「(クソッ、クソッ、クソッ・・・!)」


 怒りが収まらず男は壁に立てかけてある専用の棚からお気に入りの酒を持ち出し、グラスに注いでゆっくりと飲む。ようやくそこで、その脳にガツンと来る強さとスッキリとしているのに芳醇な喉越し。後味の中に優美な感覚を印象強く残す酒に・・・宰相は溜飲を下げた。そうして酒とグラスを持ったまま、傍にあるソファーへとドカッと据わった。何の気なしに見つめるのは飾り気のない壁の一点。


「(成功したはずだ。だったら何故、あの鏡が壊れた? ・・・主様の力がそこまで・・・? (フルフル)いや。欲するのならご自身で取り込んだはず。あれではどこに向かったのかすら分からんっ・・・)・・・クソ・・・」


 思わず毒を吐き、再び宰相は酒を煽って壁の一点を見つめたまま当時の状況を整理しようとしていた。


「(・・・あのヒョロ長のエルフを送り込んだだけで隷儀鏡が壊れるのか? それともこれまでの蓄積? ・・・傀儡共すら分からないと言っていた。では・・・何故? 奴でたまたま・・・?)」


 反芻し、バレない様に1人1人の魔力を確認していた宰相は異変が起きる瞬間を思い出す。


「(奴の魔力は、そこらの兵士でも勝てる程度。上昇したあの瞬間でさえ・・・。カスにしかならずお怒りに? いいや、あの方なら魂を含む肉体に宿る魔力すら糧になさる。 クズでも立派な糧だ)では・・・何故・・・?」


 答えが見つからず、1人悶々と考え続ける宰相は私室の外に潜む気配に知る由も無かった。


 ・・・・・・


 嫌がらせによる強制転送から数時間。ようやく荒野と自然あふれる木々が生い茂る境目までやって来た細めエルフは見晴らしのいい崖から荒野と砂漠地帯の中間にある位置を見つめ、正座していた。


〔・・・ギノ()〕「・・・すみません」


 厚く立ち込める暗雲。降りしきる暴雨に数十キロ先にある荒野と砂漠はミックスされ、濁流の海と化していた。右へ左へと大きく大量の洪水が流れては渦を作り、その中を映画やファンタジーなどでしか見た事ないワームと呼ばれる巨大ミミズが数十匹ほど暴れ回っていた。いや、それは明らかに溺れているように見えた。


【どうして、こうなったの?】「〔・・・〕」


 ギノは俯き、ただ黙って横殴りの大雨に打たれる。


 理由は明白にして軽率だった。


 ・・・・・・

 ・・・


 サクサクと草木を踏みしめ、どこかで小鳥が鳴く声が聴こえてくる森の中。木漏れ日と少し熱いが気持ちの良い風と空気にギノは生き返った気持ちで歩いていた。


〔もう少し先に、おそらく見晴らしのいい場所へと出ると思いますよ〕「緑の自然が傍にあるありがたみ・・・助かる」〔まあそれが人体に影響しなければ尚良しなのですが〕「怖い事言うなよ。あんま見えないけど小動物とかもいるじゃん」〔動物達には影響しない、という見方も出来ますよ〕「大丈夫・・・だよね?」〔さあ~? この世界の事は知りませんので〕「・・・」


 無意識に大きな葉っぱらしきものに伸ばしかけた手を引っ込めた。知識が無いため見えるモノ全てを警戒しながら歩く事になってしまう。


「(もう少し人里がないか探した方が・・・)」〔まあ問題ないでしょう。流石に危険な食肉植物なんかだと他の鳥達も警戒を強めるでしょう。そこまで多くの虫がいるわけでもありませんし、幸いこの場所は比較的安全な場所と判断しても良い所だと思われますよ〕「はぁ・・・。勿体ぶった言い方しないでくれよ~」〔水辺の傍に居た動物達の姿を見ればいくらか気付く者なのですが・・・〕「あーはいはい。確かに無警戒過ぎましたよ?」【近くに川が合ってよかったね?】〔全くです〕


 危険が無いとの言葉からギノは少し大きく生えた雑草や草を掻き分け、日の射す面積が多くなる先を目指して坂を登っていった。登り始めて数分、木々の間を抜けるとそこは少し開けた見晴らしのいい崖だった。


「ここで大きな川があるとジャングルっぽくて探検してるって感じがするんだけど」〔流石にちょっと前までだだっ広い荒野がほとんどでしたからね。ここで急に川や森林がある事自体、不自然に見えるのですからファンタジー感や冒険してるというのは合っているでしょう〕「何ともご都合主義みたいで、泣けてくるな」【どうかしたの?】〔お気になさらず。ただの子供の我が儘です〕「ひっでー言い草」〔事実でしょう〕


 ため息の代わりに肩を落とす事でギノは肯定して、改めて辺り一帯を見渡してみた。向かって左側、自分達が歩いてきた荒野は手前、数キロ当たりでそこから奥に向かっては砂漠が拡がっていた。右を見れば荒野にいくらかの草木が生えており、人里はそこまで遠くなさそうな雰囲気だけは伝わってくる。


あっち()に行けば、街が無くても村くらいはありそうだな」〔ここまでに利便性があれば人里も近くにはありそうですが・・・〕【なにも居なかったね】「強いて言えば森と動物があったことくらいか・・・」〔もしかしたら立ち入りを制限している区域だったりするのかもしれませんね〕「ファンタジー世界だからてっきり色んな種類のモンスターが現れると思ったんだけどな~」


 これまでの経緯を思い出しても、それほど危険と言うほどのモノは感じなかった。ちょっと大きめのトカゲっぽい生き物、のんびりとした歩きのマンモスの様なモンスターにゴーレムと思われる存在が遠くの方で数回目にしただけだった。縄張りを主張したり争う訳でもなく、各々の生活スタイルが独立しているという印象だった。


〔温厚なモンスターばかりが済む生態系なのかもしれませんね〕「どうやって生きてるんだ?」〔そこはほら・・・ファンタジーですし、何かしら自然のマナを食べて生活を──〕「どうでもいいってわけね」〔普通に考えましたら、あの岩のモンスターはともかく、巨大動物なんかは大量の食事が必要ですよ? あんな場所に食料なんてありましたか?〕「【・・・・・・】」〔ね? 考えるだけ無駄でしょう。きっと長い旅路のルート上にあるのかもしれませんが、今の私達にはどうでもいいことなのです〕「・・・」


 突っぱねる様な言い方だが、特に掘り返す必要も感じないギノは本題へと切り替えた。


「それで? ・・・ここで魔法を・・・?」〔はい、ちょっと気になる事がありましたので〕「ずっと勿体ぶってたけど、そんなにマズい状況なの?」〔それを確かめるのです。ようやく最低限の条件がクリアしたのです〕【ここなら魔法を使っても迷惑にならないから?】〔ええそうです。予想ではそうならないのですが・・・。まあ・・・念のために〕「なんか怖いんですけど」〔まあまあ。とりあえず、使ってみてから判断しましょう〕「・・・」


 正面を向き直った。通常の気配と期待している様な2つの気配に、内心ドキドキしてしまっているギノ。普段通りの通りに使う意識のはずなのに妙に突き出した両手にじっとりと汗を掻いている様な感覚があった。「フーゥ・・・」と緊張感を落ち着かせる様に息を吐き、いつも通りにまずは水魔法を発動させた。


「・・・ん?」〔やはり・・・〕


 プシュウウウウという音と共に湯気が両手からモクモクと空へと昇っていった。


【これが、マスターの魔法?】「あれ?どうなって?」


 機械の接触不良を確かめる様に何度も軽く叩き、魔法を発動させるが出てくるのは僅かな水しぶきと湯気だけだった。「はあああああっ?!」理解できないと今度は風魔法にトライしてみるが巻き起こるのは生ぬるい微風のみだった。


「ちょ、嘘だろ・・・?! どうなってるんだよ・・・!」【マスター・・・】


 落胆よりも憐れみと心配が入り混じった気配と文字にギノはもっと焦らされる。


〔ギノ〕「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんな事──」〔ギノ〕「こんな事今まで無かったって。流石に成長が期待できないといっても、これまで何度も強くなって──」〔ギノ。落ち着いてください。これは・・・予想通りの結果なのです〕「いやいや、あり得ないでしょ。いくら何でも理不尽・・・え? ・・・予想通り?」〔はい。少しだけ気掛かりだった事があったのです。色々な理由も含まれますので、まだとも・・・考えていたのですが・・・〕「え・・・なにっ・・・?」


 溜める様な言い方に不安も入り混じり、思わず唾を飲み込むほどの緊迫感が圧し掛かってくる。考え事をしているかのような間がよりその緊張感を高めてくる。そんな気配が意を決した様に口を開いた。


〔まず先に結論から言いましょう。ギノ()・・・あなたは弱体化しています〕【?】「じゃく・・・たい、か・・・?」


 上手く意味が頭の中で変換できず固まってしまう。


〔急ピッチで急がせている事から再構成とあなた自身が持てるマナの総質量が格段に上がっているのは間違いないでしょうが、今回は著しかったのです〕【うん。基のマスターと、今の体と魂を同時に直したりしている最中だよ?】「・・・」


 油が切れかけのロボットの様に震えそうになる体と気持ちを抑え、目の前にある表示を追って何とか理解しようと努める。


「・・・それ・・・って。落っこちた・・・から?」〔それによる並行処理もあるでしょう。あなたの核自身が余儀なくされているのですから・・・。ただ私は大きく別の要因があると思っています〕「それ・・・って、何・・・?」


 いくつもの自分の中で思い当たる可能性を浮かばせようとするが、無我夢中で動いている事も多く、その出来事の間に起きた事ではギノ()にも明確に決めつけられるような事が見つからなかった。


〔ジンです〕「・・・は?」【?】


 突然、ほんの少し前に別れた少年の名前が出て来て、ますます混乱してしまう。そんな彼の身上を理解しながらもサポートは言葉を止めなかった。


〔まず、先に申し上げると・・・あの子は天才がだったという事です。本人がどう思うかは分かりませんが本当に・・・原石の塊のような子だったのです〕


 その言葉にギノは否定しない。借りていたからこそ、その潜在能力の高さは嫌というほど後々、気付かされたからだった。


〔あなたの粒子化の性質すら雷に変えて、発動させられる存在。しかもぶっつけ本番で本人が使いこなしていましたからね〕「ぇ・・・マジ?」〔マジです・・・〕


 あまりの驚きに固まっていた気持ちもどこへやら、素で思わず反応を返してしまう。


〔戦士系と魔法系・・・その両方の力を一時的に発動させることが出来る様になったあなたの力を・・・私がフォローしたとはいえ、とんでもない学習速度で身に付けていましたからね〕「・・・」


 あまりの才能の違いに、少し凹んでしまう。


〔ああぁっ、気にしないでください。あなたのこれまでの努力は私も一緒になって、分かっていますから〕「うん・・・」


 申し訳程度にされるフォローが心に痛く感じてしまう。


〔そんな事よりも問題は別にあります〕「?」


 つい俯いてしまっていたギノはその言葉に顔を上げた。


〔あなたの弱体化の多くの理由は・・・そのジンを復活させたことにあります〕「復活って・・・もともと彼は──」〔ええ。確かに消えてはいませんでした。しかしそれも、私達があの世界に転移してあの子の肉体に宿った事で繋ぎ止められたのです〕「? ・・・死ぬはずだった彼の魂を戻したって事?」〔はい。世界に散らばるはずのマナを、私達が取り込み、抜け出そうとした魂ごと元の肉体に押し込んだのです〕


 目覚めた時には空を見上げて倒れていたので、その瞬間を覚えていないギノ(純)にとってはどこか他人事の様に少し感じてしまう。それでも現在はそれが問題に関わるのだからを必死に思い出しながら問いかけた。


「どうしてそんな事が・・・?」〔構成されていく質量の中で吸収してしまったのだと思われます。基が彼の肉体へ入っていく所でしたので〕「・・・でも、あの子が表に出た事なんて」〔そこがポイントです。先ほど言った様にギノ・・・あなたは彼を復活させたのです。いえ・・・正確には、創成と構成による、新たな存在による創造・・・と言った方がいいでしょう〕「・・・俺が創ったって事?」〔はい〕


 俄かに信じがたく、眉間に皺が寄って唸りそうになる。


「さっき元からいたって・・・」〔魂としてはの話です。但し、それが再びジン=フォーブライトという個の自我として復活できたかはかなり怪しい所です。私の考えですと・・・あのまま私達が彼の中に入っていたとしても・・・もし、クエストが完了し、帰還していたならば抜け殻として放り出されるか、我々の糧となっていた可能性があげられます〕「ぇぇ~・・・」〔引かないでください。現実問題、あったかもしれない事なのですから〕「・・・」


 腕を組み、考えたくはないがステータスボードを出現させて観察する様にじっくりと見つめる。すると感覚でしかないが、新しく仲間になった意思がどこか気恥ずかしそうにしている気配がした。

 冷静に考えてみれば、これまでギノ達にとっては・・・何ら不都合らしいことは起きていない。命懸けで大変な目にはあるが、それも自身の目的・・・家族や大切な人を守る為、成長の手助けとしてくれる存在だったし、何も思わなかった。そんなモノだろうと流していたのだ。


〔あなたの意志にどこまで応えるのかは分かりませんが、あなたの命と天秤に掛けられた場合・・・。必ずしもジンという少年を助けたのかは分かりません〕「・・・たまたま、良かっただけ・・・。そういう事か?」〔はい・・・。もはや医師や一般の魔法では回復する事は望めない、そんな存在を復活させるだけでなく、あなたは新たに創り変えたのです。ハッキリ言えば自力で、迎える筈だった現実を書き換えたのです〕「蘇らせるなんて、そんな御大層な──」〔そう言えるレベルをやってしまったのですよ。弱体化はその代償です〕「・・・」


 その言葉に納得がいった。それでもどうも気掛かりはあった。


「何であんなに遅く? もっと早く復活も出来たんじゃないの? それに・・・ゼックンとは繋がってたって言うけど、どうして体内に・・・?」〔ゼクに関しては、契約かどうかまでは定かではありませんが・・・。おそらく自責の念とジンの持つマナに無意識に引き寄せられた事だと推察されます。憔悴し、前後の記憶を無くして、ただ彷徨っている内に入り込んでしまったのかと・・・〕「いつも傍に居たのに、互いを認識できない・・・。辛いな」〔ええ。ですがこれからは楽しく過ごされると思いますよ〕「そうだな」


 ちょっとだけ・・・見てはいない想像なのに、とても微笑ましい光景が浮かび、ギノもサポートも思わず笑みを溢してしまう。


【マスターが弱くなった理由って、それ?】〔大本はそうです。あの子を復活させるのに時間が掛かったのもそれだけ魂が大きく砕けてしまっていたと考えられます〕「整えるのにかなりの時間をくったのか・・・。よく復活出来たな」〔そこは()()()()()()()()()()()心血を注いできましたからね〕「文字通りの意味でな」〔何か?〕「いや、何も」


 思い起こされる相棒からの訓練と称した拷問。おかげでいらん意味で疲弊をしまくった事が昨日の事の様にフラッシュバックしてしまったが、おくびにも出さないように努める。


「彼を復活させた事で、俺は大量のマナを消費したって事か・・・」〔さらに言えば、彼をマナが扱えるくらい十分にコントロール出来る肉体と魂に作り変えたのが原因です。自覚はないでしょうが、あの戦争時・・・最後の舞台に集まっていたマナでも量は十分でも、彼の個と質を確立する事は難しかったでしょう。あなたの戦ったという上位の存在でも可能だったか怪しいものです〕「なるほどな~・・・」


 自分の掌を見つめ、何度も閉じては開いてと繰り返し、ようやく理由に納得がいった事で安心した。


「今回は大きく弱っちゃったけど、別に初めてじゃないんだし問題ないって事でいいんだよな?」〔そうですね~。ただ、先ほど体感したように従来の魔法等をもう少し確かめた方が良いかもしれません〕「そうだな・・・。つってもそんなに変化ってもうないだろ?」〔それがそうでもないのです〕【マスターは、さっきマグマで魔法をもっとしっかりと放ってたよ?】「ん?」〔私もそこが気になっていた所です。集中か、それとも循環の練りか・・・。もう少し試して行きましょう〕「・・・ああ! それでここに」


 ようやく気付いた所で、ギノ達はさっそくどの程度やれるのかと試し始めたのだった。


 ・・・・・・


 その結果が台風やハリケーンでも起きたかのような暴風と大雨だった。







 【 ギノ=ラモウリ 164才(21) (十時影 純)】(急ピッチで変成中・・・)


 ジョブ: しがない3流狩人 レベル5

 体力 : 103  魔力 : 78   攻撃力:  22  防御力:  12

                     知力 :  10  抵抗力:  45

                     器用 :  18  素早さ:  29

                     運  :  32

 スキル(魔法):干渉、マナ流儀  水&風&土 レベル 0

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