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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
454/473

450 気付かされる瞬間

 ドガン、ビシュン、バゴドガバキンッ・・・ガキン・・・ドゴン、ドゴンッッッ・・・!!!!


 降り注がれる黒い光と白と黒の羽。対抗する様に立ち昇る白い光とサンゴ礁。作りられた空中フィールドはもはやバラバラに散らばり、いくつかの残った足場を使ってユティ達は戦いを継続していた。時折、彼女が宙に作り出した足場とルグルット&レネッタの化身が生み出した巨大な土塊の魔法を強引に破壊し、くっ付けて不格好なフィールドを新たに形成させて戦闘を続けていた。


「・・・っ」「くっ・・・」「ぐ・・・」「・・・」


 そんな彼女達も集中力とマナ(魔力)は限界を迎え掛けていた。開始から10分と満たない戦闘。それでも連戦に次ぐ連戦からの更なる強敵との戦闘は体力をごっそりと持っていくのに容易だった。


「(何やねんコイツ。ついさっき目覚めたばかりのヒヨッコやろが・・・!)」「(集中を切らさないで・・・)」「(分かってるけど・・・ぅあぶっ・・・!)」


 慌てて大きく横へその巨体な軟体の体を移動した瞬間、黄色く輝く刃が通り抜けていった。あと少し反応が遅れれば深い傷を負う所だった。


「(途切らせないでユティ・・・!)」「っ」「(致命傷を狙わなくていいわロクサーヌ)」「・・・」


 友達の指示を耳に入れつつ仲間の立ち位置を乱さないように入れ替わり立ち替わり攻撃を繰り出していく。足を腕を腹を肩を胸をと・・・確かにダメージを与えているのだがその度に吸収して取り込まれたマナが偶像神となったルグルット&レネッタの体を即癒してしまう。更に悪い事がマナの扱いに化身が慣れ始めた事だった。


「!」「ユティ・・・!」「へっ?」


 ルグルットとは別にチラリとレネッタの視線が動いたのに気付いたユティ。オメロスの前に飛び出し氷を生成すると突如、もう一本の黄色い刃が飛来してきた。


 ドッガアアアンンン・・・!


 張った守りをあっさりと貫通してユティはフィールドの破壊しながらその上を滑っていった。


「ユティちゃんっ!」「!」「オメロス!」「っ!」


 援護に入ろうとしたロクサーヌは瞬時に踵を返して剣を振るい、更には魔法を放ち相手の攻撃をなんとか全て打ち消した。


「私だけでは持ちませんっ・・・」「!(くそっ・・・!)」


 簡潔に現状を述べられオメロスは振り返るりたい気持ちを抑え、敵の足止めに専念する。彼のタコ足も何とか保っているが所々が深く傷つけられ、また焦がされていた。「ボケが――――ッ・・・!!」自分の不甲斐なさと理不尽さを逆切れ気味に発して意識と気合いを入れ直す。


「──ティ・・・。・・・ユ、ティ・・・。起きて・・・。お願いユティ。起きて・・・!」「っ・・・」「・・・良かった・・・」「・・・ラフィー・・・」「喋らないで、私のマナを・・・」「・・・」


 ゆっくりと目を開け見える範囲から情報を働かない頭で確認する。


「(熱、い・・・?)」


 氷と土で出来た不格好な足場。そこで横になっている自身の近くには新たに赤い血が流れているのが見えた。そこでようやく自分がどうなっているのかを知る。


「・・・(悔しい・・・なぁ・・・)」


 小さく息を吐き口を微かに引き結ぶ。感覚が分からない体で手をゆっくりと握り締める。僅かに視界が掠れた様な気がした。そんな彼女の手を友達の精霊女王は優しく包み込む。


「大丈夫。あなたはまだ・・・負けてない」「っ・・・。うん・・・」


 勇気をもらい瞳に強い生気が戻る。分けてもらったマナを使い自分の怪我を無理矢理、氷で止血する。無茶をする友人をラフィーナは呆れつつも小さく微笑み、その手を引いて立ち上がらせた。


「ありがとう。もう大丈夫」「(コクリ)。でも無理はしないでね。負った傷は治せても蓄積したダメージまでは消せないから」「・・・うんっ・・・」


 気合いを入れ直し武器を構え直した時だった。化身が一段と光り輝いた。


「あなた達の意志に・・・私達も、応えましょう・・・」「へ、そんなん要らんわ」「サッサと諦めてよ」「これが・・・。オレ達の・・・捧げものだ」「!」「んぐっ・・・!」


 マナの出力を上げると翼を大きく羽ばたかせて衝撃波を発生させ強引にロクサーヌとオメロスを吹き飛ばした。離された彼女達の視線の先ではルグルット&レネッタは両手を空へと緩やかに持ち上げていた。


「何をする気や」「考えたくないわね」「(これは・・・マズいわね)」「(メル。魔力を全部使います)」


 ロクサーヌが換装が溶けるほどの魔力を剣に練り上げていくのと同じタイミングで周囲の空気が振動をし始めた。感じるプレッシャーから相手の放つ魔力と感じ取ったユティ達もマナを引き上げる。


「くそったれっ。あいつホンマにこの世界を・・・!」「とにかくマナよっ・・・!」「・・・」「(ユティは、私が何としても・・・!)」


 それぞれが最大限にマナ(魔力)の密度を上げた。そして完了したロクサーヌが飛び出し、オメロスが続いた時だった。見上げていたルグルット&レネッタが正面へと向き直り上げていた腕を振り下ろした。


「「破滅の楽園(じひのこころ)」」


 黄金に輝く空から、音も無い静かな白と黒に包まれた太い光が大量に降り注いだ。


「「!」」


 触れた足場は衝撃の振動すらなく、まるで本当の光に包まれた様に静かに消滅していく。その中をロクサーヌとオメロスは臆することなく飛び込んで行く。ユティもまた小さく息を吸いこんで止めると同時に飛び出して行った。


 ピシリ・・・!


 それは、その場にいる誰にも気付いていない頭上で大きく罅が入った。


「「!」」「ぁ・・・!」


 プリメラ達が止めに入る間もなくリエナとパミルが飛び出して行く。


〔ジン〕「(何だ・・・?)」


 厚い雲からでもその異様なマナは感じられた。


((・・・ははっ・・・♪))「!」


 ジン達に僅かに遅れて化身達が気付く。しかしその時にはすでに遅く2人は自身の体内からマナが吸い込まれていくのを感じた。危険と察知した彼等は一部その技を裂けた空間目掛けて放つが、吸い込まれる様にして吸収されるだけだった。対処不能と判断し逃げる様に技の力を強引に終了させようとした所で桃色の炎と碧い風が飛んできて亀裂から吸い取ろうとしていた不快な気配が分断される。


「「!」」


 何が起きたのか理解できず飛んできた力を出所を探して振り返る化身。


「何なのアレッ・・・!」「どっち・・・?」「どっちもよ・・・!」


 リエナとパミルの存在を警戒するルグルット&レネッタだが、その意識はすぐに変えられた。体に感じた強い痛みのせいだった。体を九の字に曲げられ、その横を小さな存在と巨体が擦れ違った。服の所々が黒い煙を上げ頭や体から血を流したロクサーヌと足の一部を完全に消失しながらも残った足で巨大サンゴ礁を剣代わりに振り切ったボロボロ姿のオメロスだった。更にそこへ目の前に飛び出して来たユティの巨体な氷剣が化身の顔面を狙って叩きつける様に振り下ろされる。


「やああああああっ!」「「あああああああああああっっっ・・・!!!!」」


 ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ・・・!!!!!!


 1秒間のマナの障壁同士のぶつかり合いはユティの勝利に終わる。


「・・・~~~・・・!!」


 驚きの表情と断末魔の様な声は轟音と光に包まれて掻き消えていく。床を盛大に壊し周囲に暴風と共に冷気を撒き散らされていく。オメロスはロクサーヌをタコ足で包み込んで庇い、リエナとパミルは守護神がマナを発して見えない障壁を張っていた。それでも感じる冷気と風に顔を腕で護りつつ様子を窺った。


「(どうなったのっ・・・?)」「(どっち・・・)」


 徐々に静まり返る現場。それが却って不気味に感じられた。全員が見守る中、武器を振り下ろしたままだったユティが飛び退った。すれ違い飛び出して来た巨大な刃。


「「ぁぁぁぁああああああっっっ・・・」」


 深い冷気の霧から腕が伸びてくる。みるみると触手が腕を伸ばす様に再生され、残った足場を掴み強引に体を起き上がらせる。


「ぐっ・・・!」「(いけないっ・・・)下がってっ」「「「!」」」


 慌ててもう少し距離と取ろうとするがガクリとバランスを崩し、転びかけるユティ。彼女の髪は青く、瞳は緑に戻っていた。満身創痍な彼女達では碌に動けないと直感で感じ取ったリエナとパミルがいち早く飛び出した。


「パミルっ」「!」


 巨大チャクラムを更に巨大化させて化身の頭上と足場に展開する。そして・・・。


 ズンンン・・・!! 「「!」」


 圧縮されそうになる見えない力に押しつぶされそうになるのを腕で強引に外へと伸ばそうとして抗う化身。見えない障壁がまるでゴムの様にユティ達の方へと伸びている。それでも何とか動きを止めるのに成功した所でリエナの守護神が炎を纏ったグレイブの刃で薙ぎ払った。


「「ああああああ゛あ゛あ゛っっっ・・・!!」」


 化身は纏わりつく桃色の炎に焼き祓われるのを嫌がり、空間内で黒い光を適当に乱発しながら暴れ回る。「持たない・・・」と苦しい表情で告げる親友に言葉を聞き、急いでユティを回収して離れていくリエナ。距離を取ったと同時にガラスを砕いたような音と共に解放された化身が彼女達を睨みつけた。


「「まだだっ・・・!! 私は・・・この世界の神だ・・・!!」」「っ・・・本当に厄介ね」「ありがとう」「とりあえず、あなたはオメロスさん達と後方に下がって」「・・・ごめんね」「謝らないで」「うん・・・。ここからは私達も本気・・・」


 オメロス達に合流すると振り返ったリエナとパミル。「死んだらアカンで」察した彼はすぐさま反転して残った足場を使い避難していった。十分な距離まで離れたのを確認すると少女達はゆっくりと振り返った。そこには徐々に破損した体と出血を修復させ、いつでも戦える状態のルグルット&レネッタの姿があった。


「随分と優しいのね・・・」「・・・慈悲のつもり?」「(とき)を与えてやるのも・・・必要だからな」「その力・・・。よもやただの少女に持てるとはな・・・」


 返事が返ってくるとは思わなかった2人。だがそれよりも気になる事が出来る。

 

「この力を知ってるの?」「・・・教えて、くれはしないよね・・・?」「必要がない・・・。なぜなら──」「あーはいはい。どうせ死ぬからとかそう言うんでしょ? 聞き飽きたわよ」「(コクリ)もっと違うリアクションを求む・・・」「・・・あなた達の魂が私達の中で生きていれば・・・いずれ分かるわ」「「・・・。なら遠慮する」」


 少女と守護神達が戦いを始めようとした時、厚い雲が突き破ってジン達が戦場に入ってきた。


「!」「「(ジン君っ・・・!)」」(うわっ、なにアレ)〔あれが・・・マナの塊ですか〕「それより今は」〔ええ〕「「・・・~~~っ・・・!!」」


 近づいて来るジン達に注目が集まる中、化身はジンの胸にある一点に釘付けになって大きく見開いていた。


(? ジン、コンパスが・・・!)「〔?〕」


 何だと視線を落とすと服の中に仕舞っていたコンパスが強く光り輝いて羅針盤へと勝手に切り替わってしまった。驚きつつ上空を目指していた時、化身が両手を伸ばして笑い出した。


「アッハッハッハッハッハッハッハ・・・! こんな所にあったっ・・・! やはり・・・その力は私達に帰還する・・・!」「何を言って・・・」「っ、下がって・・・!」


 親友の助言にリエナは反射的に後退。通り抜け様に刃を振り抜かれていたからだった。ルグルット&レネッタは彼女達を無視して嬉々としながらジンの下へと飛び出した。


(うわ、来たよっ・・・!)「(こんな時にっ)」


 足下にシャボン玉を生成、爆発させて加速。捕まえようと伸ばしてきた巨大な手をすり抜けて懐に飛び込むと棒で顔面を叩きつけて落下させるジン。何が起きたのかも分からず地面を錐揉み上で転がっていく化身。


〔ジン・・・!〕「!」


 サポートの言葉に慌てて空へと飛び出そうとするが・・・それよりも先に宙に出来た亀裂が大きく裂けた。


「しまったっ・・・!」〔っ・・・〕


 一瞬ジンが硬直している間に裂けた間の黒い空間から急速に吸い寄せられる力が発生する。僅かに瞳を輝かせたパミルはリエナを手を引き守護神を使ってチャクラムの重力魔法で床に自らを押さえつけた。もう一つのチャクラムは負傷して踏ん張りが効き辛いオメロス達のフォローへと使う。


「何っ・・・!」「吸い込まれちゃだめ・・・!」


 理解できず混乱する周囲の者達。しかし壊れた幽霊列車が黒い亀裂の内部へと吸い込まれて分解されるの様を目撃した時、その危険性にすぐさま理解した。


「退避しろ―っ・・・!」「うぉぉぉおおおおおお」「頑張ってオメロス・・・!」「っく・・・一体何が・・・!」「そんなっ・・・」「知ってるのっ・・・!」


 味方の列車に叫びつつレックスは飛空船を逃がし、オメロスは必死に残った力と吸盤で体を地面にくっ付いて食らい付く。ラフィーナはユティの声すら聞こえず空を見上げていた。

 ガラガラと吸い込まれていく魔素で創られたフィールド。その尤も近くにいたジン達も引っ張られないように抗っていたその時だった。ガタガタと震えていた羅針盤が亀裂に向かって飛んでいったのだ。慌てて掴もうとするが間に合わず羅針盤はみるみると遠ざかって行った。


(わわわわわっ・・・!)〔マナで穴を囲みます〕「わかっ──!」(ぇ・・・?)〔ジン!〕


 苦肉の策を取ろうとした時、亀裂の手前で大きな光が発生した。光はグラデーションを持ち6つの巨大な光となって亀裂の手前で障壁を張り、また大きなカーテンとなってその場にいる全員に降り注いだ。そこでジンは心臓が1つ強く高鳴った。次の瞬間、体から力が抜ける感覚がした。


(えっ? ジン・・・)〔ジン!〕


 名前を呼ばれ、振り返ると自分(少年)の体から白い人型となって純が離れていこうとする所だった。


「っ・・・! 皆を頼むっ・・・!」〔っ!〕(ジン!)


 咄嗟に思った言葉を伝え、純は黒い亀裂の穴の中へと吸い込まれていくのだった。


 ・・・・・・


 吸い込みが落ち着き始めた空間をサポートとゼクは呆然と見ているしかなかった。


〔・・・〕(ジ・・・ジン・・・)


 声には出していないが動揺が隠せないサポートは必死に自身の理性を強く保とうと努めていた・・・が事態は時は待ってはくれなかった。


「は・・・あはは・・・」(〔!〕)「あははははは。 来た・・・来たわ・・・! 満たされていく。 そうこれよ・・・これこそが・・・」「本来の・・・力・・・」


 ゆっくりと倒れていた体を起こす化身。造形美としては完成されていたと思われたそれは・・・柔らかな薄い布で上半身を纏い首元には長いマフラーを巻かれていた。そして・・・2対だった翼は4つに変わり体の周囲を柔らかく発光させていた。


「・・・ったく。何なのよ。次から次へと・・・」「凄く危険・・・。それでも」「(コクリ)うん。逃げるなんて真っ平よね」


 静かに桃色と碧のマナを纏い始めるリエナとパミルと守護神達。その姿に先ほどまでの人間味が何処へ行ったのかの様にただ笑みだけを見せるルグルット&レネッタ。目の奥の瞳が笑っていないのがまた薄気味悪さを際立たせるようだった。


(ど、どどどどうしよう。ねえ、どうしようっ?)〔・・・〕


 あわあわと初めて起きる出来事に右往左往して混乱するゼク。それはサポートも同じだった。主人である純を失うという初めての現象に分身(魂の一部)でしかない自分に迷いが生じてしまう。存在の意義を見失いかけていたのだ。


〔(どうすればいい・・・。私は・・・。しかし、彼の・・・)〕(ねえどうしよう? これって追いかけるの? それともアイツと戦うの?)〔っ・・・!〕


 下では戦闘が今にも開始されようとしていた。それでもサポートには自主的に自身だけで動くという選択肢が取れずにいた・・・。〔私は・・・〕迷う心を掻き乱す様に戦況は変化していく。自分の不甲斐なさに歯噛みをしたくなった時だった。


「大丈夫」〔!〕(えっ?)


 俯いていた少年の上体がゆっくりと起き上がる。そしてニッと笑みを見せてゼクを見た。


「僕達は・・・()()()からこの世界を頼まれたんだ。行こうゼックン・・・。サポートさん・・・!」〔この・・・マナは・・・!〕(ぇ・・・ジン・・・?)「お願い・・・僕に、力を貸してっ・・・」


 パチパチと少年の周囲で小さなスパークがいくつも弾けた。


 ・・・・・・


「・・・」


 薄っすらと光がある様な静かな空間で純は目覚めた。よく見るとその微かな光は純が発しているモノだった。手を見れば薄っすらと輪郭が分かる程度で肌色なども識別は出来なかった。


「(ここって・・・)」


 状況を理解すべく周囲を確認するが・・・何も無い、ただの真っ暗な空間にしか見えなかった。何となくだだっ広いという事だけは感覚で分かる。しかし・・・それ以外の情報が何も無かった。・・・いや。


「(足場はある・・・)」


 発光が消え、ぼんやりと自分の輪郭で軽く蹴れば堅いタイルに触れた様な感触が伝わって来た。そうして改めて自分の触覚、嗅覚、聴覚、視覚と分かる範囲から情報を集めていく。「・・・」意識を集中させようとするがどこか落ち着けなかった。気が立っているのかそれとも・・・と考えていた所で1つの答えに辿り着く。


「(そうか・・・。1人でいるってのが、久しぶりなんだ)」


 (素材)には自身の魂が入っているのだが、サポート(相棒)という頼れる存在が常に一緒に居た事で安心感を得ていた所もあったのだと改めて気付かされた純。もう1人の分身が何とかしてくれる、助けてくれると依存していた事に気付いた。


「(そっか・・・俺は・・・1人じゃなかったんだな)」


 姿のハッキリしない体で眉間に皺を寄せ、純は何処かスッキリしたように息を漏らしたそんな時・・・上空で微かに明るくなって事で気付いて顔を上げた。


「・・・」


 1つ1つは小さな光。しかしそれは様々な色を放ちキラキラと煌めいて流星群の様に伸びていく。瞬く間に光は天の川の様になって何処かへ向かって一方向に流れていった。思わず見惚れていた純は突然、視界に溢れた白い光が驚いた。次の瞬間、セピア色に染まっているが見知った空間に来ていた。


 義理の家族に与えられた純の部屋だった。


「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」


 セピア色の視界ではそれが夕暮れなのか分かり辛いが、その中で息が荒くかつての純は息を荒くして一点を見つめていた。勉強机にはカッターナイフとハサミが置いてあった。


「はぁ・・・はぁ・・・っっっ!!」


 荒かった息のまま気合いを入れる様におもむろに片方付く掴む。窓から射し込む光に刃物がその危なさを強調する様に反射していた。体重もあって肉付いた両手で刃物はプルプルと震えていた。


「っ・・・! っぐ・・・! ・・・んぐっ・・・!!」


 震える手は次第に大きくガタガタと尋常じゃなく揺れていた。気合いを入れ勢いを付けたはずの声には微かに迷いと恐怖が混ざっていた。「っ!」次の瞬間、投げ捨てるようにして手放す。


「っ・・・ぅ、うぅ・・・うぅ・・・」「・・・」


 嗚咽を漏らしその場で崩れる様に膝を付いてしまう自分をどこか一歩離れた所で見ていた純。ただ・・・泣き崩れる自分を見ているしかなかった。少しすると場面が切り替わった。カツ、カツ、カツと階段を上がっていた。壁は罅割れ、階段も手すりも錆び付いていた。廃墟となったビルの1つを純はフラフラとまるで引き寄せられる様に上がっていた。


 ガチャリ、ギギギ・・・ギィィィ・・・。


 ドアノブを捻ると管理もされていないかのように錆びた最上階への扉が開いた。迷わず屋上へと出て行く。セピア色だった景色が心なしか灰色へと変わっていた。


「・・・」


 フラフラと吸い込まれる様に今にも壊れる可能性がありそうなボロボロになった手すりへと両手を乗せる。廃墟ビルという事もあってなのか屋上から見える世界はどこか街中なのに違う世界に感じられた。「・・・」小さく息を吐き軽く乗せていた手にゆっくりと力を入れていく。履いていた靴を一足ずつ脱ごうとしていた。何故そんな事をしているのか当時の純には分からなかった。


「・・・」


 僅かに、息を吸う勢いが震えていた。気合いを入れてゆっくり吐くと手すりに更に力を入れ体重を乗せる様に手すりの先へ乗り越えようとした。


 20センチ先にはもう・・・足場は無い・・・。


 掴んでいる棒へと体を少し寄せてただ乗り越えるだけ・・・。それだけで後は高さと重力が自分を自由にしてくれる。・・・ただそれだけなのに徐々に息が荒くなる。


「・・・ふぅ・・・ふぅ・・・ふぅぅっ・・・」


 震えが止まらない。握った手が手すりから離れない。掴んだ手が血の気が引いて真っ白になっていく。頭ではもう少し、あとほんの少しの勇気だと、勢いだと叫んでいるが・・・その場で体がガタガタと震えて動けなかった。


「ぅ・・・ぅぅ・・・ぅぅうううっ・・・!」


 興奮していた息は次第にまたしても嗚咽へと変わっていく。揺らいだ気持ちがタイミングを失い、純は力が抜けて尻餅を付いた。そのまま誰もいない屋上で純はただただ・・・日が沈むまで泣き崩れていた。


 ・・・・・・


「・・・」


 いつの間に目を閉じていたのか不快に感じたまま現実へ戻ってきていた。なぜあんなモノを今頃、思い出させるのか疑問で仕方なかった。そうしたイライラを落ち着かせようと息を吐こうとした時。ジャリと硬質な音が聞こえた。下を向けば自分の体や手足、首にと暗赤色の鎖が何本も巻き付いていた。そこから悪意のあるマナを感じられた。


「(これか・・・)」


 伸びている鎖の先が見えない為、自身のマナで無理矢理引きちぎろうと純が掴んだ所で話し声が遠くから聞こえて来た。


「──ないって。だからあれは遣いの最後の悪あがきだって」「だーっ・・・! くっそ、最後の最後で邪魔しやがって。アレが無ければ今頃オレ達が参入できたかもしれないのによぉっ・・・!」


 緩くだがエスニック風の衣装を着こなした2人の男がいた。


「お前、そんな事考えてたのかよ。それなら傘下に入った方が堅実じゃね?」「んな事できっかよ。小間使いになって用済みとなれば消されるオチしか見えねえだろ」「穏健派に入ればいいだろう?」「下っ端が目を光らせるに決まってんだろ。チッ・・・たくよ~。本当に余計な事知れくれやがって」


 腹立たしいのか1人の男が見えない床を蹴った。それだけで足場は大きく波打ち、純の居る所まで波紋が広がって抜けていった。そんな癇癪を起した男に怯え、彼の頭上に天の川の様に流れていた小さなマナの欠片が穴を開けた様に蜘蛛の子を散らした。その様子を見てもう1人の男がやんわりと肩に手を乗せる。


「落ち着けって・・・せっかくのエサが逃げてしまうぞ?」「あ?・・・ああ、そうか。まあ、あれだけでも・・・それなりにはなるか」「そうそう。どうせならもう少し力を付けてから、あの世界に乗り込んで奪っちゃえば良くない?」「ふ・・・まぁ、そうだな」


 2人は見上げると吸い込む動作をした。すると空気の層が存在するかのように見えるくらいの吸収力で近くにあった小さなマナ達を次々と吸い寄せ飲み込んでいった。


「(一体何をっ・・・!)」


 その小さな1つ1つが欠片が世界の、人々の(エネルギー)であるかもしれないと気付いた純が一歩踏み出した時。その気配と鎖の音で2人の男は吸収を止めて振り返った。


「・・・誰だお前・・・?」「・・・」


 警戒心の中に見下すような視線を向けてくる2人に純は直感で、分かり合えないだろうなと理解した。


「・・・」






  【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 718

 魔法値 775

 潜在値 923


 総合存在値 1405


 スキル(魔法):干渉、棒術 MAX 、マナ核

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