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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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444 呼ばれた邂逅

 ズンズンと大股に歩きながら周囲を見回していると、異様な空気が厚い雲の中で感じられ、目を細めてしまうルグルット。


「(誰かの魔力か・・・?)」


 視認はできないが膨大な数の不定形モンスターが次々と倒されていくのを感じる。まだまだ数は増殖し続けており、心配はないが・・・。「(目障りだな・・・)」と微かに思考が浮かぶそんな時だった。微かに作り出したものとは別の霧が周囲に漂い始める。視線を前に気付いた時には、目の前に氷柱の先端が無数に飛んでくる所だった。慌てることなく魔力の盾でガード。いくつかを防いだ所で盾を捨てて、その場で回避行動を取った。


 ビュン、ボシュンボシュン、バチンバチン・・・ドゴン・・・ボオオオオオオオ・・・!!!!


 濃くなっていく霧の向こうから貫く氷柱。上空への回避にも対応しており、彼は頭を左右に、上半身を横へと逸らし、1本の大きな氷柱を足場に飛び退いた。だけどその先すらも読んでいた様に紫電の玉が投げ込まれる。速度は氷に比べれば緩やかだが、無視できない何かを察し、更に大きく宙を上がる。予想通りか、僅かな膨張の後に玉は爆発。範囲を拡げルグルットの動きを拘束しようとした。``やはりか``と浮かんだ所で視界の端に巨大な氷が目の前に迫って来ていた。咄嗟に魔力の盾による二重ガード。更に剣で振りかぶると2つの魔力の周囲にギリギリと障壁を生み出しながらぶつかった。「・・・」押し込まれて地に着地し滑りながらも受け止めているとその向こうから黒と青の炎が飛んできた。


「・・・!」 バギンッ・・・!


 慌てることなく僅かに目を細めると薄っすらと魔力の圧を強め、クロスによる2連斬りで氷と炎をぶった切った。轟音を上げ後ろへと流れていく攻撃。激しく揺れる髪を無視して見据えるのは霧の向こうの来人物達だった。


「ますます強くなってる・・・」「だが届かんわけではなさそうだ」「今の内か・・・。好きなように動いてくれ」「後ろを頼みます」「飛ばすぞ?」「うん・・・」「・・・(妥当か・・・いや)。嫌な人選・・・か」


 強化した目でなければ捉えられないほどの遥か遠くにいるユティ、ナルシャ、ドレッドに彼は微かに口端を吊り上げ剣を握り直したのだった。


 ・・・・・・


 モンスターに囲まれた状況にミュティアが思わず叫んでしまう。視界を覆い尽くさんとする敵に嫌気が限界に差し掛かろうとしていた。


「ンミャアアアーーーッ・・・! 内部よりもデカくて鬱陶しい奴が一杯ニャッ・・・!」「っ、離れるなっ・・・! ここで散り散りになれば終わりだっ」「っ・・・と言っても・・・」「そろそろ、限界・・・っ」「くぅ~ん」


 なけなしの換装で戦っているバッツとロロナ、黒柴の魔力が心許なく体表から揺れていた。援護しながら立ち回るニーベルも気付いてはいるが打開策が見つけられず、周囲を睨みながら迫ってくる敵を斬り伏せる。ミュティアも若干、自棄になりながら必死に戦ってるのだが・・・彼女の場合、その方が動きに磨きが掛かるのか3人と1匹に引けを取らない働きをしてくれていた。少し幼馴染に思う所もあるがニーベルだが、本気なのは分かっている為に口には出さない。働かせる口があれば、思考と体に力を入れる。


「頑張るニャッ。焦らず何とか切り抜けるニャッ。そうすれば・・・ニーベルが何とか」「お前もやるんだミュティアッ・・・!」「こんなのどうやってニャッ・・・!」「そんなの・・・っ!」「「「!」」」


 それでも、少しは言いたくなってしまった時・・・一条の紅い矢が通り抜けた。続けていくつもの光の降り注ぎ、モンスターを次々と塵へと変えていく。


「間に合いましたっ」「加勢いたします」「~~~っ・・・来てくれたニャッ・・・!」「助かる。子供達を守ってほしい」「払い除けます」「「「っ!」」」


 両手を組み若干涙を流していたミュティアを無視してニーベルが告げると、到着早々、ロクサーヌが周囲に向かって小さな光を無数に生み出して、剣の振り払いと同時に回転させた。不定形モンスターに比べれば彼女の掌に収まるサイズの小さな玉。「えっぐ・・・!」しかしその威力に思わずミュティアが呟いて引いてしまった。洗濯機の様に円を描き、回った光に風通しの良い大量の穴を開けられ、囲んでいた100近いモンスターが塵へと変わった。更にそこへ一部の密集地に向かってプリメラが矢を射る。


「・・・っ」


 恐怖を感じていないモンスター群は数十メートル近くにまで伸びた紅い矢に飲み込まれ消し炭になっていた。お陰で見晴らしは幾分良くなったが2人の少女は納得がいかないようだった。


「減らない・・・」「さらに増えている・・・」「あ、あれだけやって何で悔しそうにしてるニャ?」「申し子である君に聞きたい。この雲や魔力を払いのけられるか?」「(フルフル)残念ですが・・・」「先ほど感じた危険な魔素はリエナさんとパミルさんが何とかして下さいました。ですが・・・お姉様と私でもこの数は・・・」「そうか」「いえ・・・。ただ、これは賭けになってしまいます」「どういう?」


 少しだけ落胆してしまうニーベルとミュティアに向かって、しっかりと目を見る。


「出し惜しみするわけにはいきませんが・・・私にとって、恐らく最後の換装スタイルになるかもしれません。全てではありませんが・・・ある程度ならモンスターを一掃できるでしょう」「ほ、本当ニャッ?」


 喜ぶ彼女とは違い、ニーベルは静かに厚い雲から落ちて向かって来るモンスターを見つめる。


「・・・(相手の)数は1万じゃない。晴らせない中で使えば、か・・・」「後方はお2人が何とかしてくれています」「そうニャッ・・・。よく分からなかったけど、あのゴーレムみたいなのはいったい・・・?」「ご自身でも分かっていらっしゃらないそうです。ただ・・・プリメラの話からおそらく・・・魂の1つの具現化かと」「あれもオレ達と同じ換装って事っすか?」「恐らく、としか私も・・・」「今はこの場を何とかするのが先」「ワンッ」「っ、そうだな」


 戦闘態勢にニーベル達が入るのとほとんど同時に光と紅い矢が放たれ、近くのモンスターは消えていく。


「話している場合ではありませんね。プリメラ」「っ・・・。どうか無茶だけはしないでください」「ええ、分かっているわ」


 優しく妹の頭を撫でた彼女は殺到して迫りくるモンスターに向かってゆっくりと歩いて行った。


「皆さん、私が退路を開きます。リエナさんとパミルさんの近くへと向かいましょう。ここにいてはお姉様の邪魔になってしまいます」「! 分かったっ」「りょ、了解ニャッ」「ロロナ、行けるか?」「もちろん」「ウォンッ」「では・・・」


 確認したと同時に赤く穿いた軌跡が道を開く。先行する彼女に従って付かず離れずで付いて行くニーベル達。「・・・」遠ざかる足音に交じり、硬質な床を叩いて歩いたロクサーヌは1つ大きく深呼吸した。


「・・・力を貸して・・・メル・・・!」


 強い目となって名を呼び掛けた時・・・意思に反応した魔力はロクサーヌを光で包み鮮やかな衣装へと変更させた。それは・・・これまでの戦闘が嘘であるかのような身綺麗な服へと変わり、髪の一房が白く変わっていた。


「少しだけ・・・お相手願います」


 ゆっくりと地を滑らせた剣。横に向けて見せた剣の腹を縦に変えた瞬間、彼女はまさに光となってモンスター達の中を飛び回るのだった。


 キュンキュン、ガクガク、ズバズバズバッ・・・!!


 光りの線が通り抜ける度に細切れになったり、大きく抉られて消滅するモンスター達。1秒という僅かな時間で百単位が消えていく。高速に加え突然の軌道変更と、不規則な動きに翻弄されて何も出来ないモンスター。叫び声のほとんどが発されないか突然途切れる。感情の持たない人造物はただ指示に従い、敵を捕らえようと駆け出す。「(させませんよ)」当然の様に標的を変えた事に気付けばいち早く光の雨が降り注ぎ、塵と化す。制限が掛けられている中でも、申し子の強さは健在だった。


 1000・・・3000・・・7000・・・12000・・・。


 大きく作られたフィールドの一角は彼女の支配権となっていた。


「(あれですか・・・)」


 飛び回る戦闘中、高くなった中央のレネッタ・・・その近くにある装置に目が入る。一瞬もたげる欲。しかし、ここでかけば仲間の命も危険に晒すと理性で溢れる気持ちを抑えた。そうして自分とプリメラ達と周囲の敵を一掃したロクサーヌは生成され続けている発生源の雲の中へと飛び込んだ。


「(対策を取られているのなら、少しでも・・・僅かでもっ・・・。この魔素を世界に還すのみ・・・!)」


 理由は何でも良かった。ただそこに・・・使命と出来るという何となくの直感が、光の戦士となったロクサーヌは薄汚れた暗く厚い雲の中を飛び回らせた。


「はぁぁぁああああっ・・・!」


 自然と込み上げた想いが声に出てくる。自覚は無く。今は・・・宙に生成する敵を屠る事だけだった。飛び交う軌跡と降り注ぐ光線。稲光と同等の明かりが雲の中でいくつも明滅していた。


「(もっと・・・力をっ・・・!)」


 これほど求めた事は何時ぶりなのか・・・。ロクサーヌは意識よりも体に刻まれた感覚と魔力によるセンサーに従い、縦横無尽に移動しながら攻撃を繰り出していた。直接、その光景を見ている者はいない。だが、雲の中の光が発するたびに目に見えて生成されるモンスターが減っていく光景は、もはや奇跡とも厄災とも映る。思わず黙ってしまう、あるいは引きつってしまう傍観者を誰にも咎める事は出来なかった。


 ・・・・・・


 ガン、ドガン、バゴンドゴン、ビシャン、ガチ、ドゴバゴドグガギバキドガ・・・!!!!


 氷柱からの大きな波の結晶。それを突き破る太い腕を持ったルグルット。間髪入れずに懐へ飛び込んだユティの攻撃を軽やかに躱してから斬り結ぶ。ノールックで彼女が飛んでくる紫電とすれ違い離れると、迷わず魔力の盾を生成。1回で壊されたが無傷の男がそこにはいた。死角を縫って伸びてくる剣閃に、今度はルグルットが平然と受け止める。僅かに顔を歪ませるドレッドは、そのまま連撃を切り替える。右から左から、斬り上げに振り下ろし・・・。ユティも反対から攻撃を加え、ナルシャが伸縮剣を巧みに操り、縫うように斬り払い突き刺そうとするが・・・そのどれもが強化されたルグルットにあと一歩届かなかった。一瞬攻撃のリズムが止んだ所へ大きく斬り払い3人を離す。そのまま近くにいたユティ目掛けて、踏み込むと飛び出し体重を乗せて剣を振り下ろした。


「っ!」「・・・なるほどな」「・・・・・・」


 振り下ろし状態のまま笑みを浮かべる。そんな彼に地を滑って受けきったユティが静かに睨み返す。親友が近づき、少し遅れてドレッドはルグルットを警戒しながら寄って来た。


「大丈夫か?」「ええ・・・。でも・・・」「マズいな・・・馴染まれている」「(コクリ)このままでは取り返しがつかなくなる」「だが、そうなると・・・」「やってみるが・・・」「私も、どこまで力が使えるのか・・・」「(レネッタ)に関しては後回しだ。王が潰れれば状況は一変する」「「・・・(コクリ)」」「時間は稼ぐ」


 手短に交わすと同時に飛び出したドレッド。そんな彼を大男は笑みを浮かべたまま剣を構える。


「手負いは危険だな・・・?」「そうだ、なっ!」


 魔力の盾を砕き、黒と青の炎が猛威を振るうがルグルットには生ぬるい風に感じていた。


「貴様が目障りだった」「っ・・・」


 斬り払う力が増している。上手く受け止めるか、流さなければ芯にまで響く一撃だった。何の気なしに出しているルグルットに対して、ドレッドは出来るだけ能面になって対応する。


 ガン、ドゴン、ガゴン、ドゴンドゴンッ・・・! ガゴンッ・・・! ガギギギギリリリリリ~~~・・・バゴン、ドゴンッ・・・!!


 何度も斬り結び、生み出した床を大きく砕いて土煙を上げる。伸びる煙から姿を見せるとさらに笑みを浮かべ斬撃を繰り出すルグルット。


「どこまでも冷たく、実力主義なくだらない選民思想の象徴。貴様はまさにその代表だった」「・・・」「親父がいたく気に入っていたが・・・昔から気に喰わなかったな」「っ!」「っと・・・。まだそんな力があるとは・・・」


 受け止められ剣を弾かれると、そのまま身を捻り回転しながら炎の渦を空へと放ったドレッド。魔力を突き破り、強化された肉体が僅かに赤くなる。空いた手で埃を払っていると、赤みも自然と治っていた。気にせず剣を構え直したドレッドの体から魔力の膜が静かに立ち昇る。


「新世界も同じ通りにしか聞こえんな・・・」「選民だけ見ればな。だが求めているのは・・・整った国だ。肥えに肥え、太った欲望は一度、浄化しなければならん」「苦しい世界だな」「それは一瞬の出来事だ。表しか見えない貴様には未来など分からん」「・・・歪んだ見方では、目の前の可能性も気付かない。人はいずれ気付く・・・。創り上げた世界が間違っていたと・・・」「させんさ・・・。縛るのではない。正しき世界を正しき在り方へと導く。その為の指標となるのだからな」「かつてのアルメラの様に、か?」「彼女は道化だった・・・。この世界を創り上げるのは・・・オレだ」「・・・。憂う気持ちは・・・真実を見えなくするか・・・」「さあ・・・? それはどうかな」


 振り絞った魔力で質を上げ、短時間の換装状態へとなるドレッド。そんな彼に呼応する様にルグルットも魔力を外へと迸らせる。されど王には余裕が見て取れた。


「時間が無いぞ?」「・・・」


 分かっていた・・・。吸収した力が馴染み、更に強化されていく男。一進一退のまま傾かないモンスター群。天秤はどちらも悪い方へと傾いたままだった。


「よく保っているな。ここまでの人材を揃えるとは・・・確かに。惜しい駒を失ったモノだ」「・・・」「言わないのか?」「求めるモノが違う」「そうか。ふ・・・確かに認めよう。どうやらオレは・・・人望が少々・・・足りなかったよう、だっ!」「!」


 衝突。一振りで床が凹み炎と魔力が渦を巻き上げ、空へと昇っていく。


「だが、大切なモノは足りている・・・! キサマと違ってなっ・・・!」「!」


 ガガン、ドゴン、ボオオオッ・・・! ドゴン、ガゴン、バッゴン・・・!!


 ぶつかり、炎が、魔力が、地を宙を走る度に地形の一部が変化する。圧縮された特殊な空間でなければとっくに数キロ範囲が茶色剥き出しの地面に変わり果てていた事だろう。


「足搔いて何になるっ? 差し出せ・・・! そうすれば楽に死なせてやる」「無理な、話だっ・・・!(まだか・・・)」


 体内から失われていく魔力の速度に、平静を装う事にも限界が来ていた。それが見た目にも感覚にも分かってしまうルグルットはますます口が回り始める。


「死を悼む事は、オレが受け止めよう。それが皇としての責務だ。これは・・・世界の為に起こってしまった哀しき歴史。成し遂げねばならなかった未来への戦いなのだからなっ・・・」「勝手な事を・・・」「人は学ぶ。世界には・・・正しき秩序が必要なのだと・・・。欲望に塗れた歴史を変えるための大きな変革だと・・・」「既に世界は変わり始めていたっ・・・」「見せかけだけのなっ・・・!」「それは貴様達の仕業だろう・・・!」「我々の願いは、世界の為にあった。邪魔立てしようとした無能とは違う」「必要な犠牲は無かったはずだ・・・」「増えすぎた理念は、妨げにしかならん。貴様達の親がそうだったようにな」「っ・・・」


 ドゴンと大きな衝撃と共に薙ぎ払われたドレッドは剣を突き立てて、体を地に杭縫った。髪に隠れ、俯く彼は微かに震えていた。換装は解けかける寸前で、何とか踏みとどまっている状態だった。


「(ボソ)本当に、変わってしまったのだな。あの頃なら・・・考えが違えども、良き国王になる可能性もあると思っていたのだが・・・」「オレは変わっていない。これまでの歴史で誰もが願い、為せなかった事を実現しようとしているだけだ。臆病な親父では出来なかった、な・・・」「(見ていなかったのは俺も一緒か・・・)」


 沈みかけた体を起こし、柄を逆手に持ち上げて高々と掲げる。・・・そして、ゆっくりと正眼に構えた。


「もはや言葉は無いな・・・」「いや、少しは楽しかったぞ? こうして真面に会話した事はなかったからな」「・・・」


 静かに重心を落とした所で足に一気に飛び出した。案の定、ドレッドの前に魔力の盾が道を阻んだ。「っ・・・!」ギリギリと炎と魔素がぶつかり粒子の火花が散る。


「止めとけ。もうお前との勝負は──」「済んだか?」「! っぐ・・・!」


 声を掛けられた事で初めて紫電に包まれた少女の存在に気付いたルグルット。間合いの内側からの繰り出された伸縮剣の薙ぎ払いに剣でのガードが間に合わず、強烈な痺れと痛みを味わう。強化された巨体は簡単に後方へと押し込まれ、彼は滑っていく。


「時間はないっ」「っ」


 ナルシャは追い打ちを掛けるべく飛び出した。紫のジグザクとした軌道の跡を引きながら、鞭の様にしならせ攻撃を加えていく。と同時に、雷の小玉を相手の周囲に散布する。ドレッドも半白と置かずに駆け出し、ルグルットに迫った。


 ガンドガン、ガンガンッ、ズバンズバン、バリリリズバンドゴンバゴン・・・!!!!


「ぐっ・・・が・・・。(くそっ・・・)ちょこまかと・・・!」「っ!」「っち゛ぃぃっ!」


 魔力の盾を搦め手切り裂く剣。その合間に飛んできた魔力玉を避けようと離れるが、先回りしたドレッドが捕まえる。強化された肉体で空へ自由を求めるが巨大化が仇となり、いくつもの紫電の餌食となって地上へと墜とされる。一撃一撃は大したダメージではないはず・・・なのに体の動きが鈍くなる。


「(何だこの雷はっ・・・!)」「(ジン君)ほどではないが、逃がしはしない」「こんなものっ・・・」「・・・!」「! はぁああああ゛っ・・・!」


 空間・・・とりわけ空への硬い網に、つい魔力を高め感情が持っていかれた瞬間、ドレッドががら空きの脇を狙って切り裂いた。鮮血は一瞬にして高温の炎に蒸発し、流れた本へと火が伸びていく。盾を消失したルグルットは強引に体内のマナを解放。衝撃波で周囲のモノを弾き飛ばそうとした。2人はすぐさま飛び退き、紫電の玉が連鎖爆発した。


「ルグルット!」


 思わず叫ぶレネッタの声は簡単に掻き消された。紫に光った煙の向こう、ドレッドとナルシャは顔も合わせずに入っていく。


「ぁぁぁあああ゛あ゛あ゛っ・・・!」「!」


 ルグルットの叫びと共に、スパークと炎が煙の外へいくつも出てくる。ぶつかり合う音に衝撃波。空間や地を切り裂く斬撃が飛んでくる。響いて来る間隔が狭くなっていく。苛烈な戦いに思わずレネッタが息を飲み、状況を心配した目で見つめると・・・。


「ぐっ・・・」「くそ・・・」


 砲弾の様にナルシャとドレッドが煙の外へと弾き飛ばされた。彼女達の姿勢が整うより前に、煙を霧散させたルグルットが追いかけるように飛び出した。「!」慌ててドレッドが剣を盾に構えるが、乗せた勢いに押されていく。急ぎナルシャが援護に入る。体に巻き付け紫電を発するがモノともせず相手を力で押し込んでいく。目は血走り、倒れ込んだドレッドを押しつぶさんと剣に力を込める。


「な゛かなか・・・良い攻撃だったが・・・そこまでだな」「っ・・・ぐ・・・く・・・!」「(この・・・)」「邪魔だっ・・・!」「っ、・・・!」「!」「がっ、チィッ・・・!」


 取り込んだ魔力を本能のままに同じく魔力弾として飛ばし、紫電を相殺させたルグルットだったが、ナルシャの方が一枚上手だった。効かないと理解した時には切り替え、伸縮剣を引っ張り切り裂くと同時に拘束。僅かに作り出した硬直時間で正面から顔面を蹴り上げた。体の出血よりも顔に受けた衝撃で上を向きかけた所、したから吹き上がる炎を気付き舌打ちして離れたルグルット。そうして3人は一定の距離を保ち睨み合った。


「すまない」「いや、こちらこそすまない。(炎による)怪我はないか?」「ふ・・・。親友と君の弟のおかげで無傷だ」「?」「ジン君・・・。数値上は低くとも、魔力の扱いは段違いだ」「どうしても、昔の印象が拭えんな」「直接見なければ私も同じ気持ちになっただろうな」「・・・彼女(ユティ)は?」「もう少しなんだが・・・」「オレは(換装が)解除されてしまう」「悔しいが同じくと言った所だ・・・」


 前方に警戒を向けながら後方を確認する2人。パラパラと粒子となって換装した装備品の魔力が空へと舞い上がり霧散していく。還元されるその先が分かっているからこそ悔しい気持ちもあるが、文句を言ってもいられなかった。目を瞑り剣を抱きしめて座り込む彼女が立ち上がるまで、2人にやれる事は限られていたからだ。


「レネッタッ・・・どうなっているっ?」「魔素は貴方にしっかりと流れ続けているわ」「(くそっ、だったら何でだ・・・。何であの女の攻撃が・・・)」


 シュウシュウと小さく煙を上げて傷が回復するが、肉体以上に意識と精神的に受けたダメージにルグルットの中で理解が追い付いていなかった。僅かに脳に残る揺さぶられた衝撃と痛みに苛立ちを抑える様に顔で抑え、指の隙間からナルシャを睨む。


「(あの女は危険だ・・・)」「!・・・おや。どうやら私の様だ」「向上し続ける肉体でも、芯に響いたか・・・」「今更、プライドも何もないと思うのだが・・・?」「元は大国の皇子。それなりの自尊心はあるさ」「やれやれ。厄介な似た者同士が揃ったもんだ」「・・・これも因果か」「断ち切るさ」「・・・。ああ、そうだな」「だが・・・。悔しいが、私達では届かない」「・・・重荷は背負う。君は親友を信じてやるんだ」


 ルグルットの見た目による変化はない。但し、肌で直感では向上し続けているのは分かる。それに引き換え、2人の魔力は刻一刻と消耗していた。


「99%・・・! ルグルット、もうすぐよっ・・・!」「! そうか・・・。どうやらオレ達の勝ちの様だな」「「・・・」」


 視線だけを外へ動かせば、不定形モンスターの数が心なしか増えている事が分かる。仲間達の処理よりも生成速度が上がっているのだ。パフォーマンスの低下に無意識に表情が険しくなってしまう。


「不満か? だがこれが現実だ・・・! お前達に加勢する者はいない。初めから犠牲を前提にもっと多くをここへ連れてくるんだったな」「・・・」「申し子とはいえ、所詮は恩恵を多く受けただけの人間でしかなかった。それだけの事だ。そこの娘も・・・向こうで戦っている貴様の妹もやがては力尽き、死に絶える。なぜそこまで抗う? そこまでする価値が今の世界にあるのか?」「言ったはずだ。モノの価値は人によって違う。少なくとも・・・我々は反対だ。今を生きたいと望む者もいる」「紛い物のおままごとでか?」「歪でも、いずれはより良い形に変化する。崩壊させる醜悪さに比べればな」「・・・そうか」「「!」」


 ルグルットが空いた手を上げる。それだけでまるで魔力が意を汲んだようにモンスターを大量に生成し始める。


「もはや、世界の魔素はオレが生み出しているといっても過言ではないぞ? ここからどう逆転する?」「「・・・」」「(やった・・・♪)」


 例え申し子が来ても、形勢がここから逆転する事は考えにくいと判断したレネッタは思わず小さくガッツポーズを取る。ルグルットもその確信があるのか先ほどとは打って変わり、かなりの余裕を見せていたのだが・・・。


「さあ・・・そろそ──! ち、次から次へと」「「?」」「なに?」


 雲の向こうを見る彼に引っ張られると、濁った暗闇から炎や風、水の魔法が飛んできたりと騒がしくなっていることに気付く。それは1つ、2つじゃない。明らかに複数の何かが飛んで来ているのが爆散したりするモンスター達で分かった。「来たか・・・」少しだけ微笑んで声に出したドレッド達の視線の先、厚い雲を突き破り飛空船が姿を見せる。


「ここかーっ・・・!」「しゃあ、到着だーっ・・・!」「っていうか何なのこれっ! 物凄く気持ち悪いんですけど」「つべこべ言わず撃て、メリリカ」「っ、あちらに皆さんがいます。寄ってくださいっ」「そんなボロボロで飛び下りるんかーい!」「ああん、もう。ぐちゃぐちゃよ。オメロス、フォロー」「これが頂上?」「(コクリ)その様です」「!」「あの空飛ぶ船か。・・・ふ、乗組員は満身創痍か? 援軍としては頼りないな~?」


 船から飛び下りて、ニーベルに一目散に駆けていくドルゴに甲板から見えるレックス達。面々の服装や魔力からすぐに状況が読み取れたルグルットは憐れみと嘲笑が出てしまう。しかし・・・レネッタは違った。


「(ジルクト君・・・。・・・受け取ってくれたんだね)」


 ハッキリと見えるわけではない。それでもこの瞬間・・・彼と、その横にいる彼女を見つけてレネッタは小さく微笑んだ。言葉は無い。ただ互いの存在を認識し、そして・・・。


 心残りが1つ消えた。


 そんな彼女の気持ちに重なる様に操作盤から明るいアラームが鳴った。「ルグルット」呼びかけられた愛しい人が振り返る。その時の彼女の笑みで、彼は悟った。


「そうか・・・」「っ」「(しまった・・・!)」「ぁぁぁああああああっ・・・!!」


 彼の言葉と魔力を解放せんとする気配に現実に引き戻された2人が飛び出すが、それよりも速く内から放たれた光に阻まれ、後ろへと押し流されてしまった。


「ぐっ」「っ・・・!」


 踏ん張りが効かず、地を滑り風圧で離されていく。紫電と炎を飛ばすが、それは障壁によって届かなかった。ユティの近くまで押し込まれると同時に2人の換装は完全に解けてしまった。「「っ・・・!」」力が抜け、床に膝を付いてしまった。


「これで・・・終わりだ」


 短く発した方角を見れば・・・輝きが落ち着き、そこから人間サイズに戻ったルグルットの姿があった。僅かに髪が伸び、上半身は裸で下半身に布を巻いた姿だった。片手にはシンプルなロングソードだけを持っている。それでも思わずナルシャとドレッドは息を飲んだ。本能が意志とは逆に降伏しようと訴えかけていた。もはや魔力の有無に関係なく、脳が選択を呼びかける。そんな彼女等に向かって、1度深呼吸したルグルットが真剣な顔を向ける。


「・・・感謝する。理由はどうあれ、私をこの領域まで至らせた事・・・。慈悲を持って返そう。それが、私から君達への最後の手向けだ」「っ・・・」「(まだ・・・)」「無理をするな。首を絞める必要はない」


 ガチガチと突き立てた剣が床と擦り、立ち上がろう抗おうとしながら2人は体に力を入れる。その行動にゆっくりと目を伏せ、ルグルットは溜め息を吐く。


「・・・私の覇道に、ここまで食い下がろうとは・・・」


 自分の認識を改めねばなと、心の中で思いながら1歩前へと踏み込んだ所で彼は止まった。彼の視線は再び雲の中へと向いていた。


「? どうしたのルグルット?」「・・・やれやれ。本当に、次から次へと・・・。 ? これはいったい・・・?」「「「?」」」


 彼の反応の変化に3人も気付いた時、濁った雲の中からたくさんの汽笛の音が響いてきた。少し遅れてたくさんの魔法がモンスター目掛けて飛んでくる。「え? 一体何っ?」思わずレネッタがモニターを確認すると、ウネウネと高速で動くモノが接近してくるのが映った。それは彼女が声を掛けるよりも早く姿を現した。


「はぁっ?! 列車っ・・・!!」


 飛空船もさることながら、宙に薄っすらと浮かぶレールの上を列車が走ってくる光景にレネッタは理解できなかった。全員がポカンと呆けてしまうなか、1台の列車がルグルット達の側で止まる。そこからゆっくりと下りて来た人物に彼等は目を大きく開く。


「・・・父さんっ・・・母さんっ・・・」「・・・短い再会だな・・・父上」


 ドミニスク・フォーブライト、クラレスメルク・フォーブライト・・・。そして・・・ベルトルン・フォーゲルがゆっくりと彼等へ向かって歩いて来るのだった。






  【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 718

 魔法値 775

 潜在値 923


 総合存在値 1405


 スキル(魔法):干渉、棒術 MAX 、マナ核

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