437 開いた花の行き先
ガゴンガゴンとまるで巨大なブロックの様に瓦礫が勢いよく繋がり塔と合体していく。変成が少しずつ落ち着きを見せ始める浮島と違って塔は次々と土やコンクリの破片と組み合わさり変形していく。瓦礫の塔として一回りも二回りも大きくなっていった。それでも飽き足らずにグルグルと塔の周囲を回り始める瓦礫群。建物だけでなくその中からもボコボコと奇妙な変形を遂げて不安定な姿の獣が次々と生まれては街へとゴーレムと一緒に飛び立っていた。
「っ!」(てぇいっ!)
向かって来る鳥なのか人なのか分からない土気色のモンスターを次々と倒していくゼク。ゴーレムも含めた迎撃魔法をスイスイと躱しながら塔の内部へと突き進む。ミュティアも振り落とされないように必死に雲を掴んでいた。水玉防護により、被弾を一切せず上下左右、錐揉み回転しながら突き進むと流石のモンスター達も反応に遅れが生じ、直接攻撃へと突進を始める。
(もっと加速するよ?)「これよりっ・・・?! ニャアッ!」
シャボン玉の防壁をわざと手前で生成して、落ちのけたり激突させたり同士討ちを狙う。友達の戦闘をいつも側で手伝い、戦っていたからこそ出来るミュティアを安全に届けようとするゼクなりの工夫だった。
((ジン達もこれくらいやっていた。僕だって・・・))
その甲斐あってか、スピード、攻撃、迎撃に誤差が生まれる。大きく飛び回ったりと緩急も付けるために、狙いが外れ、彼等は瓦礫の渦巻く塔の内部へと見事に到達する事に成功する。
(着いたよっ?)「ぁ・・・ぁ~・・・」(ぁ・・・)
但し、搭乗者にまでは気が回せられなかった。目を回し、少しぐったり状態のミュティア。(ごめん)と小さく、謝るとフラフラになりながら「だい、じょう・・・夫。ありが、とう・・・」とだけ述べてゆっくりと背中から降りようとしていた。
彼等が到着したのは変形して瓦礫と一体化した外側の通路。そこからどうするのかとゼクがミュティアを見ていると、獣の叫び声とゴーレムが近づいて来る音が聞こえて来た。
(また・・・)「こんなトコで・・・!」(・・・。ミュティア、先に行ってっ・・・!)「!」
歯噛みする彼女の表情から何かを察したゼクはシャボン玉を作ると、敵の姿が見えた瞬間に叩きつけ吹き飛ばす。
(時間がないんでしょ? だったら早くっ・・・)「・・・ありがとう・・・」(どこに行くのっ?)「あっち」(っ!)
彼女の指し示した方角にすぐさま数体ほどいた敵を蹴散らす。がら空きになった通路の先、2人は同時に頷くと走り出す。直線の通路に入った所でゼクは反転した。迷わず駆けていく足音を耳にしながら、ゼクは外側通路に飛び込んだりと密集してきた敵を睨みつつ、水玉をいくつも浮かび上がらせる。
(ここはぜったいに通さない・・・!)
叫び、襲い掛かってくる獣とゴーレムをゼクはシャボン玉をぶつけ、来るモノを遮るのだった。
・・・・・・
「「・・・」」
ガンカン・・・ガカン、カカン・・・!! ガッカカカカカッキンキンブンカンキンブォンフォン、ヒュヒュッ・・・カキン・・・!!!!
回り込む様に走り、一気に近づいた所で2連、一歩距離を離し、緩急で加速させ2連。極小の牽制用魔法の刃をいくつもナイフ代わりに放つ。途中で片方は弾き返し、片方はスウェーから再び攻め込み、間合いに入った瞬間、斬る斬る斬る。振り下ろし、斬り払い、斬り上げ、回転斬り。途中、間合いが近すぎたら蹴りや肘打ちと徒手空拳を織り交ぜ、空振りを誘い、誘われ・・・。丁度良い距離感になった瞬間には互いが双剣での連撃に切り替える。片やデッドグレムゲンや冒険者業で培った力。片や暗殺業も含めた裏稼業で鍛えた技術。動きの洗練さもスタイルもよく見れば全く違うのだが・・・両者の動きはとてもよく似ているように感じられた。
「「ふ・・・」」
まるで鏡写しの様な既視感にすら思えてしまう両者の動きに、心の中で思った事が口から微かに出てしまう。
「「(まるで型稽古だな・・・)」」
示し合わせたつもりがなくとも、両者の力量と思考が分かる様な不思議な感覚をニーベルとレダは感じていた。だからこそか・・・。
「1つ聞きたい?」「なんだ?」
レダの方からつい質問をしたくなってしまった。
「どこかで会った事があるか?」「・・・いや。それだけの実力なら隠していても分かる」「(だよな)・・・」「こちらからも聞きたい?」「?」「お前の目的は何だ?」「そんな事を聞いてどうする?」「・・・いや。ただ・・・気になった。他の奴らと、求めているモノが違う気がしたから」「・・・」「余計な詮索だったな」「ふ・・・くだらん話だ。それでも・・・聞きたいってんなら・・・」「そうか・・・」
魔力を更に吹き上がらせるレダに、ニーベルもまた静かに腰を落とし魔力の出力を上げた。
武器を構え互いが睨み合う・・・。静かになった空間で僅かに振動だけが響き渡る。
「「・・・!」」
動き出しは同時だった。迸る魔力すら置き去りにする勢いで迫り空を斬る。互いの刃が擦れ小さな火花を散らし流れる。振り切った瞬間も互いの目を離さない。2撃目、返す剣で振り上げるニーベルに対し、レダは強引に横斬りで弾く。次の瞬間、堰を切った様に乱撃に入る。
ガキガキガチガギンガギガギンギギギンガギガギガギガギガヂン・・・!!!!
周囲に散っていく魔力の欠片と火花。もはや2人の中心で花火が上がっている様に煌めいていた。
シュン、シャン・・・!
弾く、往なす、また弾く。微かに切っ先が触れて互いの頬や肩、脇と浅い傷を刻むが、それでも視線は相手から外す事は無かった。
「「!」」
片方が動き出せば、追いかけるように斬り結びに向かう。中途半端な小手先よりも純粋な手数による技量勝負へと持ち掛ける様に移動。押しては引き返し、飛び上がって天井を蹴ったり、壁を蹴ったりと四方八方を飛び回って斬り合う。彼等の通り過ぎた後には深々と鋭利な傷痕が無数に彫られる。ガラガラと一部の柱や階段の手すり・・・壁や調度品らしきモノが壊されていくが、そんな些末な情報はとっくに彼等の意識から排除されていた。
「っ!」「っ!」
上段からの下段。半歩下がっての宙捻りからの斬り返し。血が滲み、新たな傷が作られていく両者。表情も険しくなり、とうとう別の手に思考が移り始めた時だった。
パチ・・・パチ・・・パチ・・・。
暗い通路の向こうから拍手する様な音が届いてきた。耳にした瞬間、弾かれる様に押し合い2人は距離を開けて着地する。
「「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」」
気付いた時には汗を拭う様に顎に手を置いて息を切らしていた。
「ガッハッハッハッハッ・・・。おおぉ? ハッ、すげぇすげぇ。まさかこんなにやれるとは思ってなかったぜ」「ハァ・・・ハァ・・・」「フゥ・・・フゥ・・・。(マズいな)」「どうした続きをしないのか?せっかくだから見学させてくれてもいいじゃねえか」
明かり差す部屋へと姿を見せたダンバース。背負ったハルバードはロクサーヌと戦闘した時よりも分厚く大きくなって禍々しい物に変わっていた。横にあった壁にもたれ掛かり顎で戦闘の続きを促すが・・・レダは無視し、ニーベルはジリジリ後退して間合いを計る。察したダンバースが適当に手の甲を上げて、ヒラヒラと振る。
「・・・ん? あ~。 気にすんな、オレ様は戦う気はねえからよ。なんたって大事な嫁との再戦が控えているからな」「「・・・・・・」」
堂々と言い放つ男に、2人はただ無言で息を整えていた。
・・・・・・
新たに出来た花びらの様な頂上。レネッタは中央にある小さな操作盤の円柱と睨めっこしていた。そうして、いくつかのモニター画面を見比べて小さく呟いた。彼女の声が聞こえたルグルットが傍へと寄ってくると1つのモニターを指し示す。
「・・・あぁ、こういう事か・・・」「?、どうかしたのか?」「これ・・・さっき言ってた昔のモンスターなんだけど・・・姿が不安定なのは、あなたの魔力と一緒に変化しようとしているからなんだって」「オレと?」「最適化って所かしらね」「つまり・・・この塔と同じで、まだ王として成りきれてないってわけか・・・」「もうすぐよ。ただ・・・」「ん?」「こうすれば・・・ちょっとは役に立つんじゃないかしら?」「なるほどな。確かに・・・ゴーレムだけでは心許ないかもしれなかったな」「・・・」「ああ、いや。君の作ったものは素晴らしいぞ、ただ・・・」「ふ♪ 分かってる。そんなに焦らないで・・・旦那様・・・♪」「う・・・うん」
まだまだ昔と変わらない姿にちょっとだけ嬉しくなってほくそ笑みつつ、レネッタはいくつかの操作を終了させ、モニターを閉じた。腰を折る様に曲げていた彼女は伸びをすると同時に旦那にもたれ掛かる。それと堂々と大きな体で受け止め、彼等は再び外を見回した。
「綺麗だ・・・いつかはこの空の様にオレ達の世界も・・・」「そうね・・・」「なあ?」「ん?」「・・・いや」「なぁに?」「ふ・・・何でもない」「えー・・・言ってよ~。気になっちゃうから~・・・」「・・・」「もう・・・。ふふ」
自然と笑みが生まれるルグルットとレネッタ。ほんのひと時、2人だけの暖かな時間と空間が包まれる。魔力が集まり、花びらが鮮やかな極彩色のグラデーションで彩られていくのを何の気なしに見つめるレネッタ。そんな彼女の視線に彼も釣られる。
「外は・・・どうなるか分からないけど・・・」「(コクリ)ああ・・・。もうすぐ、だ──っ!」
レネッタは塔が揺れ、バランスを崩しかけた所を支えてもらった。そのままルグルットに腕を強く掴み、顔を上げて強い意志の籠もった目を向ける。
「・・・あと少しよ。・・・あと少し・・・。こっちが先にマナを奪い切れば・・・」「オレ達の勝ちだ・・・」「傍で見ているからね・・・ルグルット」「ああ。・・・一緒だ」
光りに包まれる中、2人は熱い抱擁を交わすのだった。
・・・・・・
中層と上層の間の制御室。
「・・・さっき何をした?・・・くそ、排除されたか・・・。・・・切り離したが・・・よし。少し時間が掛かりそうだが、停止させる事が出来るぞ」「やった・・・!」「よっしゃあっ」「っ!」「があっ!」「おごっ・・・!」「やりましたね、お兄様・・・!」「ワンッ♪」
ガラガラと剣を転がし、崩れ落ちる様に倒れ込むナルとキネシュタ。換装スタイルの服装はボロボロになり、疲労が溜まっていたバッツとロロナ、汚れた黒柴は目的の達成に喜び合う。プリメラもまた息を吐き・・・「ありがとう」と小さく感謝を述べて、精霊を帰した。
「うっ・・・うぐっ・・・ど・・・」「どうな・・・ってん、の・・・よ・・・」
腹這いになり倒れている2人。とっくに限界は超えているのにも関わらずなおも痙攣を起こしながら立ち上がろうと頑張る・・・が。
「止めとけよ。勝負は付いたんだ」「これ以上、あなた達に勝ち目はない・・・」「ふざけん・・・じゃ」「誰が・・・こんな所・・・で」「もうおしまいです。バッツさん達の仰る通り、戦いは終わりました。これ以上の戦闘は何の意味も生みません」「調子に・・・!」「乗ってんじゃ──」「これ以上続けようとするのなら・・・気の毒だが、俺の手で始末を付けさせてもらう」「「っ!」」「お兄様・・・」
停止作業が行われているのを確認しながら、ゆっくりと妹達の近づいてきたドレッドが静かに剣を抜く。
「ちょ、っと・・・。なに、やってんのよ・・・」「ベンド・・・ジパーグ・・・。さっさと、起きなさい──」「無駄だ。お前達も分かっているはずだ」「「・・・っ」」
激しい戦闘により、いくつもの地面が凹み、砕け、焼け焦げていた。その中にベンドは血を流し壁にもたれ掛かり、ジパーグは地面に叩き潰される様にクレーターの中心でうつ伏せに倒れていた。
「お前達の実力は確かに侮れるモノじゃない。だが所詮・・・付け焼き刃だ。能力に過信した結果が今だ・・・。これ以上立ち上がるようならば・・・彼等に変わって俺がお前達を・・・殺す」「「「!」」」「お兄様・・・」「君達には惨い光景をあまり見せたくはない。出来るだけ遠くに──」「いえ、私は見届けます・・・。首都で起きた惨事。今の戦争・・・。たくさんの方々が亡くなられた事でしょう。私は・・・皆様の分まで、目を逸らすわけには参りません」「・・・オレ達もいいぜ?・・・嫌な気分だが・・・学園のクエストでちょっとは見て来た」「まだ戦うというなら・・・私達も引く事は出来ない。そうしたのは・・・あなた達の皇子だから・・・」「グルルルル・・・」「「・・・」」
彼女達を見て、悔しそうに地面を睨み歯噛みするナルとキネシュタ。ただの意思だけではどうにもならない差を子供達に見せつけられてしまったのだった。そうして彼女達に諦めが付いたとドレッド達が油断した時だった。
ドッガアアアンンン・・・!
「「「!」」」
壁が大きく破壊され、巻き込まれて吹き飛んでいたベンドが土気色の巨大な四足歩行の獣に飲み込まれた。その瞬間、大きな硬い外殻の土がガラガラと崩れ落ちる。
「なに・・・?!」「(何だヤツは・・・。 !) 皆下がれっ!」「「「!」」」「バアアアアアアア゛ア゛ア゛ーーーーーッッッ・・・!!!!」「「「あああ~っ・・・!!!!」」」
咄嗟にドレッドが黒炎を纏い剣を振り下ろすが、それより早く衝撃波が部屋全体を襲った。バッツ、ロロナ、プリメラは魔力を練る時間も間に合わず、数十メートル向こうの壁際にまで吹き飛ばされた。同じくキネシュタとナルも吹き飛ばされ、受け身も取れず乱暴に壁にぶつかって弾き戻される。ドレッドは何とか耐えきったものの大きく全員とは違う方向へと押し出されてしまった。「!」その間に獣は、近くに転がっていたジパーグを加え、持ち上げると血を噴出させながら咀嚼していた。
「な・・・!」
目の前で起きている状況に大きく目を見開くドレッド。危険と判断し、換装すると同時に斬り上げ黒炎の斬撃を走らせるが、獣はガラガラと剥がれ落ちる外殻の破片を身代わりに俊敏に移動して、近くにいたナルとキネシュタの下へと降り立った。
「「!・・・」」
ガタガタと震えてしまう。視界のほとんどを影で覆い隠すほどの巨大な獣が目の前にいた。しなやかさなフォルムへと変化してますます動物らしさが浮かび上がってくる。ドレッドを睨みつけていた獣がゆっくりと視線を動かし、足元の2人を見た。
「(ひっ・・・嘘・・・何これ・・・!)」「(こんなの知らない・・・それに・・・あの血って・・・)」
一瞬で分かる強者の存在感。口から少しだけ垂れる様に付着した血が、自分達がどんな状況に立たされているのかを瞬時に理解させられた。急ぎ飛び出したドレッドが放物線を描き力一杯に振り下ろす。
「止めろっ!」「ッ!!・・・ガアッ!!」「っ・・・!(何だこれはっ・・・!)・・・ぐっ・・・!」
彼の力に大きく切り裂かれ、負傷したかに見えた瞬間、ボコボコと修復を始めながら、振り返り分厚い鎧の様な肩当てで体当たりする。咄嗟に宙へと跳び上がり捻った所で剣を振り下ろすが、獣は器用に爪で受け止める。その目はしっかりとドレッドを捉えていた。押し返す力に大きく弾き飛ばされ、砲弾の様に壁に吸い込まれて盛大にドレッドは土煙を上げた。そんな光景を黙って見ているしかないナルとキネシュタへ獣はゆっくりと振り返った。大きくて獰猛な牙を剥き出しに顔を近付けてくると、血生臭さと一緒に獣の目が微かに笑っているのが目に入った。その瞬間・・・2人は悟った。
「ちく・・・しょう・・・」「あの・・・ババア・・・」
微かに滲む涙と怨嗟を呟き、2人は暗い影の中、突き刺さる猛烈な熱い痛みを一瞬だけ感じたのだった。すると、体が膨らみ、ボコボコと変形してまたしても姿を変えていく。
「っ・・・!」「いったい・・・」「ッ、ケホ・・・ケホ・・・」
一瞬気を失っていたバッツ達が覚醒した時、操作盤の近くには見た事ない巨大なトラの様な獣がいた。ボコボコと大きく膨れ上がった土くれが変化していく。肩や足に装甲が生え全体的にがっしりとした筋肉質へと変わっていく。背中と頭に4本のウェーブの入った直角の角も生えてきた。
「っ、くそっ・・・!」「バッツ・・・!」「ロロナさんっ・・・!」
残り少なくなった魔力で換装するバッツに反応してプリメラも精霊を呼び出す。2人の姿にロロナもまた換装して黒柴を呼び出した。((・・・!))召喚された小さな少女達もすぐに事情を察する。
(とんでもない奴ね・・・)(どこから・・・。それにこの魔力・・・どこかで・・・)「・・・先ほど側近達を奴が取り込んだのだ・・・」「お兄様・・・っ!」「心配ない。それより・・・精霊としての意見を聞きたい」
近づいてきたドレッドは口元の血を拭い、新たな敵に視線を固定したまま問いかける。少し悩んでいた少女達は互いを見て、頷いた。
(・・・混ざっちゃいるけど・・・。たぶん、古代の生物の成れの果てよ・・・)(かつて・・・いえ、人が辿る・・・実験という1つの生物兵器。恐らくその1体ではないかと・・・)「・・・つまり、昔の馬鹿な奴が作った兵器ってか」「・・・最悪ね」「グルルルルルル・・・」
鼻で笑いニヤつくが嫌な汗が止まらないバッツとハッキリと不快感を表すロロナ。黒柴が牙を剥き出しに今にも飛び掛かりそうなのを抑えて唸るほどに、見た目も発する魔力も彼等にとっては全てが汚点となる象徴に映った。
「(ボソ)どうされますか?」「(ボソ)4人の魔力残量は少なかったとはいえ、魂に根付く魔力は高い。出来ればここで倒しておきたいが・・・」
チラッと見るのは円柱のモニター画面。あと少しで停止するのを確認して、視線を戻す。
「最悪時間稼ぎは俺だけでする。プリメラ達は仲間の助けを呼んでほしい」「冗談・・・」「こんな所で・・・」「言いたい気持ちも分かるが・・・ここで全滅は避けたい」(それは同感ね。だけど・・・)(今なら全員で対処できます。プリメラ・・・あなたも遠慮なく私達を使ってください)(惜しんじゃダメよ? ここで奴を止めないと・・・)「(コクリ)分かりました。お兄様・・・ここは・・・」
目の前を警戒しながらも視線が集まっているのを感じたドレッドは軽く息を吐き、笑った。ゆっくりと前へと出て行く。
「そうだな。・・・俺が奴の意識を引きつける。確実に倒すぞ」「おうっ!」「了解っ」「ワンッ」(行くわよっ)(倒しましょう)「分かりました」
揃った全員の返事を合図にドレッドは不要な土の泥が剥がれ落ちるよりも先に飛び出して攻撃を仕掛けた。睨む獣の威圧感が増すが、望むところと受け止め斬り下ろし、斬り上げる。未完了の体で対応しようとした獣は黒炎に混ざって伸びる青い炎の波紋に体を焼き焦がされる。ビクつき痛みを感じた所へ、プリメラが問答無用で紅い矢が射る。2つのらせん状の渦を描き精霊達が飛んでいく。「!」本能で危険を察知全力で回避行動を取るが、バッツとロロナ+黒柴が飛び上がるのを予測して全力で叩き落す。
ドゴン・・・! バシュン・・・! 「!」((くっ・・・))
九の字に曲がって落とされた所へ、尚も器用に体を捻り直撃を避け、肩から背中にかけて一部の肉片を抉られるにとどまり着地しようとする。だが先回りしていたドレッドが飛び上がると同時に黒炎で回転斬りが待ち構えていた。モロに直撃した獣は胴体を真っ二つにされ口から大量の血を吐き出す。そのまま消滅するかと思った瞬間、角が光り急速に修復される。
「「「!」」」
驚く彼等の前で、着地と同時に衝撃波を生む雄叫びを発すると左前足で地面を強く叩きつける。振動と同時に地面が海の様に揺れ、獣を中心に隆起した土の塊がボコボコと飛び出して来た。
「!」「わわっ」「っ」(下がって)「っ!」
剣で隆起した土塊を斬り燃やすドレッド。驚きながらも回避行動を取るバッツとロロナ。離れていたプリメラには精霊の1体が障壁を張り、その中で彼女はもう一度、弓を構え射った。1体が火の矢と共に獣へと飛んでいく。「!」獣は睨みつけると足に力を籠め、魔力の障壁を張った。
バギイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ・・・!!!!!!
小さな精霊と獣が睨み合い障壁同士のぶつかり合いが始まる。床が大きく歪み、いたる所に亀裂が走っていく。(くっ)悔しそうに火の矢が消えると同時に精霊も消え、獣の障壁も消失する。プリメラの側に瞬時に精霊が戻ってきたその時だった。
「! しまった・・・」「えっ・・・?」
出来るだけ対象を絞り制限を掛けていたつもりだったが、とうとう部屋が限界を迎えようとしていた。焦るドレッドはモニター画面に視線を移す。・・・ゆっくりとチューブらしきケーブルが剥き出しになり、乱暴に引きちぎれて落ちていく。その画面は、完了のあと少しだった。
「(くそ・・・)」
ダメかと顔を歪ませた瞬間、停止という文字に切り替わり安堵の息を静かに吐く。兄の視線の先に事情を察した妹が慌てて駆け寄る。
「お、お兄様っ・・・申し訳──」「いや、何とか間に合った。ここからだ・・・。皆、力を貸してくれっ」「・・・はいっ」
ドレッドの掛け声に獣へと視線を移せば、まるで憎々しそうに大きく牙を剥き出しにした頬を痙攣させ、彼等を睨んでいた。
「・・・悪いが今は・・・お前の時代ではない。ここで大人しく、自然に還ってもらおう」
武器を構えるドレッドに合わせてプリメラ達が戦闘態勢に入ると、獣は唸り、前足に力を溜める様に身を屈めるのだった。
・・・・・・
「(また変化っ・・・?)」
ガラガラと崩れ落ちる吹き抜けの天井の破片から手で顔を守り、空を覗き込むロクサーヌ。魔力消費を抑えて走っていると巨大洞窟が崩れ、そこから太い枝が大量に剥き出しになって現れた。足場を失い、枝を飛び跳ねて、進んでいると何やら菱形の巨大な水晶を目撃した。怪しくも魅力的な紫の光が500メートルも離れていた彼女の下まで届いていた。
「(あれは・・・。もしかして・・・塔が?)」
あまりの巨大さに、感覚が狂いそうなのを気を付けながら注意深く周囲の状況を観察していくと・・・太い枝の中から巨大な石柱が姿を見せる。それは、島からゆっくりと浮上し離れていくのが分かった。
「(あれが制御コア?・・・そうじゃなくても・・・)」
``くい止めるに越した事は無い``・・・。そう思い、魔力を少し高めて一気に飛んで近付いて行くのだった。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 718
魔法値 775
潜在値 923
総合存在値 1405
スキル(魔法):干渉、棒術 MAX 、マナ核




