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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
427/473

423 悲喜こもごも

「!」「?・・・どうかした、っ!」「何かあったの、2人共?」


 瞑想していたジンは中断して立ち上がり、不思議に思ったリレーネは目を光らせ、上空を見上げた。カルローラの雰囲気にミゲイラ達や周囲が異変に気付く。


〔ジン・・・〕「(分かる。けどなんだ?)」「嘘っ、そんな事って・・・!」「何を視たの?」


 思わず後退りして倒れてしまいそうな親友を支えるカルローラ。感じたマナも含めてジン達はとても嫌な予感がした。「何があった?」とミゲイラが問いかけると彼は両肩を掴まれた。


「今すぐ、体勢を立て直してっ。分散していた皆を集めてちょうだい。出なきゃ・・・この世界が地獄になってしまうっ」


 普段では見られないリレーネの焦り様にただならぬ予感を感じてしまう。


「落ち着いて、何を視たのっ?」「・・・悪魔と、この世界じゃない・・・人。千や二千じゃないの。それが・・・世界中に散っていく。破壊して回っていく光景だった。先ほどまでの戦いなんて比じゃなくなってしまう」「「「!」」」「・・・世界が、破壊されてしまうというのか・・・」


 ミゲイラの問いにリレーネは小さく頷いた。「・・・分かった」と告げたミゲイラはすぐさま連絡をしようとアイテムを取り出すと、向こうから緊急の通話が掛かって来た。ゼテルクだけではない、それは各国からの連絡だった。


「緊急事態だ。避難者が次々と倒れ込んでいる」「・・・どう言う事ですか?」「分からん。急にその場で倒れ込んでしまったらしい。体調不良を起こしている者も多くいるとの報告が挙がっている」「こちらも同様です。体力の弱い老人や子供達から次々とうなされているようです」「私の所にも少数ながら同じ症状の者が出始めたとの今しがた・・・」「一体、どうなってんだ?」「・・・マナ不足・・・?」


 ボソッと呟いた言葉に全員がジンの方へと再び振り向く。


「魔力が少ない、もしくは不安定な状態になっている人から次々と弱ってしまっているのかもしれません。さっきから徐々に周囲の魔素が薄れている様な気がしたので、もしかしたら」「彼女か・・・。内包する魔力量が少ない者や戦争で負傷した者から倒れていっているのだろう」「ど、どうすれば・・・?」「気休めだが、余力のある者に魔力の膜を張ってもらおう。一時しのぎでも周囲の魔素を保護する事で命を守らせる」「今すぐ始めよう。それで何とかこの場を凌いで──」「こちらも報告がある」


 指示を出そうとした首脳陣達が一斉にアイテムの方向を見る。


「「「?」」」「先ほどジン君とリレーネが悪魔と未知の敵を感じ取った」「「「!」」」「今すぐに防衛を固めて欲しい。出来る限り1ヶ所にです。今度の敵はゴーレムの比ではない」「「「・・・」」」


 重い沈黙が周囲からもアイテムの向こうからも伝わってくる。「・・・規模は?」というゼテルクの質問に気丈にリレーネは振る舞う。


「視えたのは世界各地。巨大ゴーレムほどではないかもしれませんが・・・1体1体が先ほどよりも強力に思えました。どうやら悪魔と未知の何かは敵対している様にも見えましたので、私達は巻き込まれてしまうのだと・・・」「・・・人の世界を何だと思ってやがる」「我々には関係ない、か」「総員に今すぐ連絡を」「潜伏している敵はどうされますか?」「放って置け。そんな問題じゃねえからな」


 頭を抱えたくなる首脳陣達のため息がアイテム越しに伝わってくる。ミゲイラは少し顔を離すとジンへと振り返る。その表情は以前見た事がある、何かを言い淀むような、迷う顔をしていた。それでも彼は頼むしかなかった。


「・・・・・・すまないジン君。あの子達を追いかけたい気持ちだろうが──」「上空で対応します。それでも、流石に全ては庇い切れないので・・・そこはお願いします」「・・・ありがとう。そこからは私達の仕事だ」「下は気にせずに戦いなさい。それが・・・我々に言える事だ」「ジン。気を付けてね」「スメラル。あのガキをベルニカに寄越してやれ。ワシよりも早いはずだ」「・・・リビットですか? 何かお考えが?」「勘だ。こういう時こそ、直感っつうのをワシは大切にしている。戦いに置いている者の言葉だと信じて欲しい」「・・・。あの子も、あなたのお陰で退屈していた事でしょう。すぐに向かわせます」「助かるぜ」


 ガタガタと何かを動かした音と遠くの方から「──ぃや、僕はそういうの」という微かな声が聞こえてくるのだが、誰も取り合わなかった。``まあまあ``と別の誰かに宥め遮られ、抗議したい本人の声は更に小さくなっていった。ジンも早速行動に移す。


「それじゃあ、先に行きますね」「くれぐれも、無茶は・・・いや。頼んだよ」「あの子達をお願いね」「必ず・・・帰って来てちょうだい」


 2人の母は我が子の様にジンを少し強く抱きしめた。彼女達の想いを受け取ったジンはゆっくり離れると、マナを循環させ、シャボン玉で一気に空へと飛び上がっていくのだった。


 ・・・・・・


 飛空船の前は死屍累々といった状況になっていた。・・・いや、実際にはオメロスによって破壊されたのはゴーレム達と機械アーマーの部分のみなのだが・・・。搭乗者を含み、彼によって敵は全て地に伏して呻くだけとなっていた。初めてその実力を見たシャノンノとジルクトが船から外を覗き込んで驚いていた。


「す・・・凄い」「オメロスさんって、めちゃくちゃ強かったんですね」(? もう終わり?)


 シャボン玉を張っていたゼクは周囲を確認してオメロスに投げかける。ゆっくりと振り返るその顔は笑みを浮かべ、かなりの余裕があった事を窺わせた。


「ああ、終いや。あんがとな」「ねえ、ジルクト? 飛空船はどうなったの?」「もう少しで終わりそうです。低空飛行なら可能ですが、浮島の高度・・・っ!」「何っ?」「町がっ・・・」「・・・何やあれ?」(・・・変形してる?)


 思わずシャノンノに抱き枕代わりにされたゼクは伸びた雲のまま、体を傾けて疑問を浮かべた。


 この時、浮島が大陸に戻ろうと世界中のマナを吸って変成する最中だったのである。「「!」」同時に、体に感じた異変に眉を顰めるオメロス。


「ねえ、これって・・・」「ああ。流石に、ちとマズい事になってるかもしれへんな」「? どうかしたの~?」「皆は、その船から絶対降りんといてくれよ? 何や、魔力の質が上がりやがった」「どういう事?」「・・・恐らく、僕達のいるこの浮島もレネッタが世界中の魔素を掻き集めている事で一気に魔力濃度が上昇したんだと思う。飛空船の中と外では、かなり魔力の濃さが違うんだよ」(そ、それって何かマズいの?)「君やオメロスさんは大丈夫だと思う。だけど僕達は違う。高すぎる魔力は人体に大きく影響を及ぼす」(じゃ、じゃあユティ達が・・・──)「彼女達は大丈夫だと思う。僕達と違って、能力のコントロールしていたから。この変化でも十分に対応できる。だけど・・・」「う、うぅ・・・」


 ジルクトの視線の先、倒された者達からうめき声と共に魔力が漏れていた。それは塔に向かって吸い寄せられるように消えていく。「・・・チ」舌打ちしたオメロスは次々に人々を飛空船の中へと投げ込んでいく。


「お、オメロスっ・・・?!」「ワイの魔力で拘束しとる。先ず回復した所で抜け出す事は出来へんから、人だけでも乗せてやってほしい。適当にどっかの隅っこに集めといて」「・・・分かったわ、ゼックン」(うん)「ジルクト。あなたは低空でもいいから船を動かして。このままじゃ、私達も巻き込まれるかもしれないから」「わ、分かった。手伝って」「(コクリ)」


 それぞれが変化する浮島にテキパキと作業を行い始める。ぽんぽんと投げ込んでいるオメロスは少し不快そうだった。


「(ボソ)全く、何でこんな慈善活動せなあかんねん」「どっかの誰かさんの影響でも受けたんじゃない♪?」「阿保いうなってヒーちゃん。こんなの自己満足や」「それでもいいんじゃない? こいつ等に恨まれてても・・・私達が助けたいと思う人が少しでも救えれば」「・・・・・・そうやな」


 ゼクの協力もあり、船内の隅っこには密集した団子状態の犯罪者達が拘束されて寝転がっていた。彼等の表情は幾分かマシになった様に思われる。


「こんなもんで問題ないやろ」「少し乱暴にして、ゴメンね」「謝る事はないわ。第一こっちを殺そうとして来たんだから、これだけで済んで寧ろ感謝してもらいたいくらいよ」「ゼク。こいつ等が持ってた魔道具系は取ったか?」(え?あ、うん・・・。よく分かんないけど、アイテムと魔法石なら・・・?)「でかした」「これで・・・犯行は出来ないと?」「たぶんね」「こいつ等のアイテムを・・・」


 オメロスはゼク達が持っていた魔法石をいくつか選んだ後、彼等の前に適当に置くと魔力を流し込む。光ったと同時に網目状の魔力格子が拡がり、犯罪者達を包み込んだ。


「これで問題ないやろ」「凄~い。舞台で似た様なモノを見た事あるけど・・・本物ってこういう感じなの?」「空気は通るけど、外界と隔てる異界専用の拘束結界よ」「まぁ、ホンマはあんま使いたないねんけどな」「「「(?)」」」「用途は同じなんだけど・・・。これは・・・私達異界の中でも罪に問われたモノが拘束される結界だから」「「「(!)」」」


 自分の作り出した結界に触れ、しゃがみ込んで何とも少し寂しそうな笑みになってしまう。


「弱肉強食の世界っぽく話してた事もあるけどな~。それなりに秩序っつうもんがあんねん」「呼ばれたわけでもない異界のモノが、好んで他の世界に侵略・・・。異界そのものを壊滅させるような犯罪を犯したモノ達を、罰するための結界が・・・これなの」「今回は簡単な拘束にしたけど・・・本来は拷問や。中にいるだけで内側にある魔力は吸い取られ、その取った力で、拘束と強めて攻撃を繰り返す。完全に死ぬ事が難しいワイらに科せられる罰や」「「「(・・・)」」」「生き地獄・・・。言葉としては軽くても、マジで体験したモンにとってはホンマに受けたくない罰やろな」「死ぬ事が出来ないって事は・・・100年とか1000年とか」「そうや。時間間隔も曖昧やから、それが永いのか短いのか・・・」「「「(・・・)」」」


 嫌な想像にぶるっと震えたシャノンノとゼクはお互いの体を抱きしめ合う。ジルクトと少女は悲痛な表情を見せた事で、思った以上に自分達がしんみりし過ぎた事に気付き、慌てていつもの空気へと変えようとするオメロス達。


「そんな重く受け止めんでええよ。ホンマにこんな拘束方法、滅多に使われる事ないから」「今回は魔法石を使った疑似的なもので本物とは全然違うのよ。色々と面倒だから」「そうそう。実際、自由に扱える奴なんて限られて・・・」「? オメロスさん?」


 話の途中で急に上を見上げたオメロスとゼク。何があるのか分からないジルクト達には分からない。


「ど、どうかしたの?」「何で?」「ヒーさん?」(・・・なんか来てる・・・)「ゼックンも・・・どうしたの?」「・・・なんでやねん」


 その時、震えそうな声でオメロスが天井を睨んだ。無意識に結界を使ったからなのか、それとも話題が出たからなのか・・・。オメロス達の脳裏にはあるモノ達の姿が浮かんでしまった。迫りくる嫌な予感と共に懐かしいマナを感じ取り・・・彼は驚きと共に怒りとなって込み上げたままにぶつける。


「何で諦めなかったんや、コルテュース・・・!」


 ・・・・・・


 マナが異様な動きを見せる世界に、ゆっくりと渦を巻き宇宙から渡ってくるモノ達。彼等は、そこへ迷う事なく降りようとマナの霧となって伸びていく。1人の巨人が異形の姿に変貌した者に恭しく問いかける。


「?」「どうかされましたか?」「・・・いや。懐かしいマナを感じた気がしたのでな」「我々と同じく、悪魔共が世界に下りようとしております」「先に下りた奴らに呼ばれたのだろうな。殺せ、我らの邪魔だ」「御意」「あの世界は、もうすぐ滅びる。ならば・・・どう扱おうが我らの勝手・・・違うか?」「(ニィイ・・・) その通りでございます。コルテュース様」


 先にオーフェンツ・ヴァームに下りていく者達を見つめながらコルテュースと巨人達は、これから起きるであろう惨状を想像して楽しそうに待ち焦がれた。


 ・・・・・・


 急速に変化する街並み。下からも横からも枝の様に生えてきた太い柱の一部が途中で何かにぶつかり、破壊されていく。あまりにも大きな柱に落下した先にあった数ブロックの建物が簡単にあっさりと潰れ、大きな土煙を上げる。それは落ちていく瓦礫の分だけモクモクと舞い上がっていた。


「ガッハッハッハッハッ。やはりお前がいいなっ。あの氷の女も悪くねえが、お前が一番だ」「・・・」「そんなむくれんなよ。ちゃんと大切にしてやるぜ? お前を第一に、もう1人を第二にして、しっかり相手してやるからよ~」「(・・・下品な)」


 あまりの発言に目が据わっていく。何度目かの攻撃を往なしていたロクサーヌが剣でダンバースを大きく弾き飛ばす。・・・が、獣人ならでは柔軟さとデッドグレムゲンナンバー3の実力は伊達ではなかった。彼女の攻撃を足場にした柱の壁を大きく崩す事で受けきったのである。そうしてニヤリと歯を剥き出しに獰猛に笑った。その顔が生理的に受け付けられないのだが、彼には理解する気が無かった。そうしていつも捻じ伏せてきた自負があるからだった。ロクサーヌにとってまさに、傲慢過ぎて嫌いな相手だった。


「願い下げです。大人しく投降だけしてなさい」「おうおう随分と気丈に振る舞うじゃねえか。そんな女をオレ様が何度墜としたか・・・聞きたいか?」「結構です」「そういうなよっ」


 ガキン、ドガドガガガッ、ガギャン、ドゴンボゴンドガンッ・・・!!!!


 変成と共に落下する大きな瓦礫を足場にダンバースはロクサーヌへと飛び出す。上手く影に隠れ、死角からハルバードを振り下ろす。当然、防ぐと分かっている為に手加減はしない。弾かれては近くの落ちてきた瓦礫の足場を使って、空中で高速で跳ねまわり・・・突く、斬る、振り上げる、切り払うと楽しそうに攻撃を繰り出していた。彼女は嫌な表情を見せつつも、光を使い死角になるモノを破壊、斬り結べば、何度も連続攻撃を繰り出して反撃していた。落下する巨大柱の上を滑るように剣戟と火花が走っていく。


「ガッハッハッハッハッ。やっぱりいいなこの気迫・・・度胸・・・。メスの成長はオスより早えっていうが・・・お前は最高だなっ」「っ」「とっ・・・!」


 少しだけ険しくなったロクサーヌ。彼女の放つ攻撃が振り抜くごとに魔力と合わさって重くなる。ダンバースは自身のハルバードを巧みに操り、笑みを見せ余裕をアピールしていたが内心焦っていた。強くて美しい彼女をますます手に入れたくて仕方ないのだが・・・。その実力には明確な差があった。欲求に、本能に従って生きている獣人である彼は・・・直感でその距離が遠ざかって行くのを感じていた。


「(何だよっ・・・! あの時よりっ、強くなってねえかっ・・・?)」


 わざと攻撃を誘導して、宙捻りで空振りを誘うが簡単に、軌道を変えられガードを余儀なくされる。次々と変わる足場でも・・・瓦礫を盾に、空中での変速の動きと緩急を上手く利かせ、戦いやすい様に状況に持ち込んでいるはずなのだが、彼の攻撃が徐々に減っていく。寧ろ、回避する逃げるための動きへと切り替わっていた。そうして初めて彼は気付く。能力ばかりに頼っていない本当の実力を・・・認めざるを得なかったのである。・・・しかし、プライドが邪魔をした。


「やはりあなたは・・・。この島に頼った戦い方をしていたのですね」「ぐっ・・・!」


 寧ろ、ロクサーヌの方が相手の手の内を見抜き始めていた。知らず知らずに出力を上げ、魔力を解放していた男。その力はまだ全力ではないものの、手数が完全に潰され、守りに専念させられていく。歯噛みしたい気持ちも無視するほどの苛烈な攻撃に次々と傷が増えていく。・・・ここにハッキリとした差が出来始めていた。


「首都と変わっていない」「・・・あ゛?」


 反応する顔には笑みはとっくに消え、怒気を混ざっていた。魔力と重心を乗せたハルバードの振り下ろしからの連続付きをロクサーヌは気にした様子もなく躱し、受け止める。反撃に出られれば、加速した彼女の連続斬りに軽く肩やモモが切り裂かれる。ギリギリと嫌な音を立てて武器が悲鳴を上げていた。


 ガンカン・・・ギガギギギギギ、ガギッギガン、ガン、ギ、ドン、ガギギガン・・・!!!!


 立ち位置を変え、足場の柱を変え、瓦礫を渡り態勢を立て直そうとするが、感情が薄れ機械の様に見える可憐な少女の攻撃にデッドグレムゲンナンバー3は簡単に翻弄されていく。


「っぐ、チ・・・! んがっ、がふっ・・・くぞっ、あぎ・・・!」「消えなさい。そして二度と私達にその顔を見せないで」「調子に・・・がはッ!」


 感情に駆られ、余裕がなくなり踏み込んだ瞬間。足場ごとダンバースの足を光の魔法が貫いた。「!」失った足を無視して急いでガード入るのと、胴体目掛けてロクサーヌの光魔法を乗せた切り払いが繰り出されるのはほとんど同時だった。


 ドンッ・・・ドガアアアアアアンンン・・・・・・!!


 鈍い感触の後、勢いよく柱などを貫通して数百メートルも離れた巨大塔の中へ、大穴を空けて彼は消えていった。


「・・・」


 武器を握り、自分の魔力と伝わった感触を確かめる。落ちていっている柱からそっと離れ宙に浮かび上がると、煙を上げて消えた相手の方を見据えた。


「(あれでは・・・再起は難しいでしょう。ですが・・・) もう会う事はありません」


 口に出したのはただ何となくだった。僅かとはいえ相手の性格と行動を読み、起き上がって来ないと判断して踵を返す。己の役割を果たすべく彼女は町の中を飛び回るのだった。


 ・・・・・・


 ロクサーヌが戦闘している最中、街の端っこでは氷山の様なモノがいくつも作られていた。


「アッハハハハハ。君は素晴らしい。まさかここまで戦って頂けるとは思いませんでした」「そりゃあ、どう、もっ」


 全長100メートルにも上りそうな氷の山がまた出来た。しかし相手は余裕を持って回避すると同時に鎌で山を切り裂いた。その切れ味は見事の一言と言っていいほどパックリと切り裂かれていた。


「その攻撃は飽きましたね」「遠慮しないで、まだまだ行くよ」「・・・(ニィ)」


 口で言うのとは裏腹に巨大な氷柱と氷山をコンダートは楽しそうに切り裂き続ける。


「(あの時はあの子のおかげだったのよね。ホント、ふざけてるわね)」


 相手の無茶苦茶具合に申し子である事を度外視して愚痴を吐きたくなるユティ。奇襲時も含めて数度、彼女は切り裂かれ服に血が滲んでいた。相手の魔力が自身の魔力膜をも貫通している証拠だった。


「一体、何で出来てるのか教えてくれる?」「ただの魔力で作った鎌ですよ。以前、自分の不甲斐なさで完全にコテンパンにされた苦い出来事がありましてね。・・・あ~、その時、あなたも最後の方とはいえ、いらっしゃいましたね。覚えておりませんか?」「・・・」


 つい先ほど、その時を思い出したばかりである。「分かりやすい」と彼女の反応をすぐに読み取ったコンダートは踊る様に鎌を振るい、滑るように振り回していく。その曲芸とも言える動きには、目だけでは頼りに出来ずユティは何とか自身の魔力を周囲に散布して戦っていた。


 ガンカン、ガギンドゴンガキン・・・カン、ドン・・・バン・・・!!!!


「(器用だね。それに先ほどから・・・そうか、この霜・・)」「!、・・・ちょっと・・・」「大味だったのはわざとでしたか・・・。本命はこちら・・・」


 降り注いでくる小さな欠片が掌に乗った瞬間、コンダートは握りつぶした。


「我々と・・・いえ、この島の考え逆に利用ですか。私でなければ見落とす所ですよ。やはり・・・君は脅威だ。ここで殺さなければ、私達の願いは成就しない」「・・・お褒めの言葉をありがとう。ついでといってはなんだけど、その願いってのを止めてくれると助かる──」「無理ですね」「即答・・・」「当然でしょう。総帥の考えに共感するところがあって私はいるのです。それを・・・こんな大切な所でお預けを喰らってしまっては・・・僕はっ・・・・いったいっ、何人殺せば気が済むのか分からなくなりそうです」


 身を捩ったと思えば、両手を広げ天を仰ぐように歓喜を上げるコンダート。その顔は・・・明らかに狂っているとしかユティには見えなかった。彼の感情と共に濁った魔力が空へと昇る様に溢れ出す。そこに内包された濃度と質に彼女はゆっくりと腰を落とし、愛剣を握り直した。


「あなたの目的は何?」


 質問の意図を理解した狂人者はゆっくりと溢れ出す魔力を落ち着かせ、前を見据える。


「僕は・・・相応しい死に場所だよ」






  【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 367 → 457

 魔法値 389 → 493

 潜在値 463 → 601


 総合存在値 818 → 1028


 スキル(魔法):干渉、棒術 MAX 、マナ零子 9 → MAX 、感応 → 領域

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