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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
423/473

419 狼煙は上がる

(しっかり捕まってて)「ぇ? うぉぉおお~~っ・・・!」


 連射してくる光線をスイスイと機敏な動きで避けるゼク。両手で膝当たりを抑えられたユティは驚きつつも彼の頭?の雲を優しく掴んでいる。機械と違い、生物独特の滑らかな軌道に竜達は追いつけず、あっという間に距離を離されてしまう。


「あ、ありがとう」(先に行ってってジンに頼まれたんだ。みんな無事でよかったよ)


 程よく離れた所でゆるゆると速度を落とし停止する。ゆっくりと振り返ると仕留め損ねた事が気に入らないのか竜達が憎々しそうに睨んでいた。


「そっか・・・。じゃあ後で来るんだ」(うん。それで・・・あれは何なの?)「私達を浮島に入らせない様に守っている障壁だよ」(じゃあ・・・あれを倒せばいいんだ)「そう。手伝ってくれる?」(もちろん)「おーい!大丈夫かーっ・・・?!」


 微かに聞こえる声に振り返ると飛空船が近くを通る所だった。「少し船に寄ってくれるかな?」というユティの頼みにゼクは応え、スーッと乗り込んでいく。同じく遠くからロクサーヌも着陸する所だった。全員が船に乗ったと同時に障壁から距離を少し開けるレックス。


「皆さん、無事ですかっ?」「それはこっちのセリフ。全く、何してるのよ」「周辺把握」「ご、ごめんなさい」「まあまあ。流石にあれだけ一気に雲を散らされてちゃ、仕方ないわ。無事だっただけ良かったものよ」「一瞬、心臓が飛び出たニャ」「それにしても・・・これは誰の召喚獣?」


 不思議そうに女性陣達がゼクをジッと見つめるなか・・・。


「お?何やゼクやん。久しぶりやな」(あーっ!オメロスにヒーちゃん!)「というか、何であなた皆に見えてるの? 1人? ジンはどうしたの?」「「「えっ!」」」「「「ジン・・・?!」」」


 ギョッとした目でオメロスとゼクを交互に見てしまう関係者達。色々と説明したいがどこから答えればいいのか迷っているゼクと頭を掻いて悩んでしまうオメロス。「・・・」少し考え事をしていたドレッドが先に口を開いた。


「事情があるのだろう。ここにあの子の精霊・・・であっていたか?」(う、うん(コクリ))「が来ているという事は、先に彼だけでも助力を頼んだのだろう。聞きたい事は色々とあるが、先ずは・・・あの障壁だ」


 ドレッドの向かう視線にそれぞれが同じように竜達を見据えた。


「ユティさんに襲い掛かった破壊光線。流石にアレを直撃されては船が撃墜される恐れがある。多少無茶をしてしまったが、手の内を晒せたのは結果だけ見れば僥倖だ。俺は船を護る側に回ろう。(ゼク)の力も借りれば、もっと攻撃の幅は自由に利かせられるはずだ」「(コクリ)そうですね。ゼックン? 確か、ジン君と一緒の時は水玉を生み出していたよね? それを作れる?」(足場にするの?分かった)


 光りに反射する半透明なシャボン玉が次々と生成されていく。「危ないっ」メリリカの声に船の高度を下げて頭上に飛んでくる光線を避けようとするが・・・大小様々な水玉は被弾すると同時に角度を逸らし、弾けると同時に伸びてくる光線を強制的に掻き消した。煩わしそうに宙に無数に生み出されたシャボン玉を・・・その先に飛んでいる船を鼻の辺りに深い皺を作り唸る竜達。敵とは違い、一瞬とは焦っていたユティ達はその強力な盾でもあるシャボン玉に目を大きく開く。


「す・・・凄い」「ふふん♪さっすがジン君の力ね」「(コクリ)この子の力でもあるけど。これならもっと近付ける」「・・・分かっちゃいたが、ホント精霊もかよ」「つくづく、僕達は助けられてばかりだね」「ありがとうゼックン。あ、この上って乗ったり出来るのかな?」(うん。今のボクなら大丈夫だと思うよ。でもあの戦い方って出来るの?)「何度も見てるからね。それに・・・」(わ、凍った・・・)「ただの水と違い、君の魔法が加わったモノなら頑丈だと思う・・・。うん、やっぱり」


 目の前のシャボン玉を冷やすと、ユティは上から少し強めに押し込んで宙に浮ける強度を確認した。


「これならさっきの雲よりももっと自由に使える。私なら凍らせたりもできるから、クッションにも硬い足場にもね」(へ~・・・凄~い・・・!)「なるほどな。それなら私達にも援護が出来そうだ」「空中散歩というには些か高すぎる気がしませんか?」「ドーマ。君は・・・ああ、そうか。いや、君はここで船の防衛を頼む」「無茶はしないでください。バッツ君もロロナさんも僕と一緒にここは大人しく」「分かってるって先輩」「・・・悔しいけど、魔法をそんなに撃てないし。お留守番」「え?じゃあ私達は──」「リエナちゃん達は・・・。(そうか・・・!)ゼックン。彼女達を乗せる事って出来る?」(え?ちょっと待ってね。う~ん・・・!)


 無理矢理魔力で体を少し大きく膨らませ、横の面積を増やしたゼク。普段が約60~80センチだった綿菓子雲が、今は倍の約2メートル近くまで引き延ばされていた。(これが限界)と少し汗を流したように額らしき場所を拭う。


「ううん、十分だよ。ありがとう」


 感謝を述べると視線に気付いたリエナとパミルが頷き、迷うことなくプリメラの手を引いてゼクの体に乗った。一瞬何故?という表情を見せた彼女だが2人の顔を見た時、その意図を組んで乗り込むことにした。


「お兄様。船をお願いします」「(コクリ)」「お姉様、微力ながら援護させていただきます。死角を狙って皆さんと一緒に攻撃してください」「決して無茶はしないでね。・・・ゼク君も、妹達の事、よろしくね」(任せてよ。えっと・・・ロクサーヌっ)「・・・ふふ♪」


 ちょっとだけ目を大きく開いた彼女は愛おしそうにゼクの体を撫でるのだった。


「よし、それじゃあ。第二ラウンドと行くぜっ? お前達、戦闘配置に付けっ!」「「「おうっ!」」」


 バタバタとまたしても皆が散っていく。ユティは凍らせたシャボン玉を足場に障壁へと向かい、ロクサーヌは更に空高くへと跳び上がった。


「先に行ってるね」「後から付いて来て下さい」「・・・さぁ、私達も行きましょう?」「(コクリ)あの顔に思いっきり魔法をぶつける」「少しでも隙を作れば、後はお姉様やユティさんが穴を開けてくださいます」「別に気にする必要はないわよプリメラ」「え?」「私達が壊してもいい。目的はその先だから」「・・・(コクリ)そうですね」


 気合いが入った所でゼクが出発しようとした時、目の前にシャノンノが現れた。彼女はしゃがみ込んでゼクを抱きしめる。


「オメロス君達から聞いたよ? あの時、ずっと守ってくれてたんだね。ありがとう。それだけが言いたかった」(ううん。ボクもジンに頼まれたから・・・)「それでもありがとう。だから・・・あなたも・・・ゼク君も無事でいてね」(・・・うん・・・!)


 自分を気にかけてくれる事にゼクは素直に喜んで力強く頷いた。


「行ってらっしゃい」((コクリ)行ってくる)


 見送られるなか、彼はリエナ、パミル、プリメラを乗せて猛スピードで大空へと飛び立った。


 ドォンッ!ガアアアアビィィイイイイーーーーー・・・・!! ドガドガドガドガ・・・!!!!


 ロクサーヌの光線、ユティの氷の塊と柱。船から放たれる魔法に竜達は長い首を四方八方に広げ、手当たり次第に口からビームの撃ち出して反撃する。ゼクのシャボン玉が相手の攻撃を妨害。大きいものはそのまま弾力を作り、遥か彼方へと強制的に角度を変える。もちろん全てを精密にコントロール出来ているわけではないが、攻撃ではなくサポートに全力を注いでいる今のゼクならそうそう彼女達に被弾させることはなかった。


「私達もいくよ?」「うん」「撃ちます」


 薄っすらと桃色に染まっている火の魔法。碧色が混ざった風魔法。そして紅く染まった矢が竜達に向かって放たれた。ゼクの背に乗り、軌道を都度調整しながら撃った魔法は相手とは比較にならないほど小さなモノだった。だが・・・決して無視してはいけなかった。


 ・・・・・・~~~ッ、ガァアアアアンンン・・・・・・!!!!


 少し遅れての大爆発。竜達の数匹の頭が吹き飛び、だらりと首が垂れ下がりながら粒子となって消え始める。「よし」とガッツポーズをしていた所、生き残っている別の竜の怒りを買い一目散に退散する。しっかりと彼女達をシャボン玉で覆いつつ、自分の背を掴んでいる事を感じ取るとゼクは錐揉み回転をしながら乱射してくる竜の攻撃を避けていく。


「ちょっと・・・」「よそ見はどうなのかしら?」「「「!」」」


 ユティの斬撃と共に飛ばした無数の氷の刃とロクサーヌの光を纏った突き出しに竜達の頭が更に数体、切り落とされて消えていった。すかさず失った首を動かして穴を広げると内側から顔を覗かせた特大竜が怒りに任せ口を開くと同時に魔動砲を放った。当然の様に回避できた彼女達だが、飛空船はそうはいかない。太い首を動かし軌道をずらしながら伸びてくる魔動砲にはゼクのシャボン玉でも完全に逸らす事は出来なかった。


「わわわ」「おいおいっ」「通しはしない」


 慌てて回避行動を取るレックスに慌てる仲間達と違い、ドレッドは冷静に残っていたシャボン玉の足場を踏み、前へ乗り出すと黒炎を纏った斬り上げで相殺する。平然と別のシャボン玉に飛び移り、そのまま飛空船へと戻っていく彼を竜は憎々し気に唸る。


「助かる」「我々は攪乱です。少しでも相手の視界に入れて、意識を散らしてください」「了解だ」


 ドレッドの指示に、レックスは迷うことなく飛空船を急速反転。飛びつきたくても届かない絶妙な距離感で竜達の妨害をする。


「それはお互い様だろ」「!」


 完全に死角からの攻撃に1体の首を大きく抉るナルシャ。失いかけている首の代わりに別の竜が口を開き、喰らい付こうと襲い掛かるがその顔を横から飛んできた巨大な氷の柱が杭の様に貫いた。


「こっちは不利な状況なんだから、ちょっとは手加減してほしいよ」「無茶な注文なんだけどね」


 凍らせたシャボン玉を足場にユティとナルシャは更にすり抜け様に1体ずつ竜の頭を切り落とし、離れていく。宙で停止していたロクサーヌが腕を大きく引き絞り、光を剣に集め始める。高音を上げカラフルな粒子が吸い込まれていくと、小さくも強い光を発し彼女を照らした。


「これは・・・巻き込まれた方々の分です」


 体を捻り、剣を水平に振り斬った。薄く絞られて放たれた光の斬撃はとぐろの竜やその奥に隠れていた巨大竜すら巻き込んで、その顔を、首を切り落とさんと拡がっていく。激しい衝突にガリガリと障壁と竜の頭が次々と霧散していく。浮島全体に張っていた膜に大きなヒビが入ったが、そこまでだった。完全に刈り取る事が出来ず、巨大竜に勝利を確信したかのようにウネウネと内側から1体の竜が周りのエネルギーを吸収しながら、その体を起こしてくる。


「(まだ隠していましたか・・・ですが・・・)」「!」


 残滓を吸収しながら巨大化していた竜は頭上に伸びると同時に上にいた彼女達に気付き大きな口を開いた。それは驚きの表情だった。


「随分、豊かなのね」「ちょっと意外」「でも、これでお終いです」


 ゼクに乗った少女達が放つ魔法。その威力は証明済み、竜が防ぐ術は残っていなかった。


 ・・・・・・


「・・・突破されちゃった」「予想よりも早いな」「ええ。だけど・・・ここからが本番。あの子達がここまで辿り着けるかな?」「ふ・・・まぁ。それも楽しみかもな」


 制御室と同じく円筒の玉座の間。薄暗く高い天井から射す光に薄っすらと照らされたルグルットとレネッタは玉座に座り、今の状況を楽しんでいた。


 ・・・・・・


 何重にも半ドーム状に魔法障壁の膜が形成されていく。それはたった2人の為の約1キロ圏内の闘技場の様なモノだった。


〔先ほどのエルフでしょうか?これで多少は被害を抑えられるでしょう〕「の割には簡単に穴が開いているけど?」〔ただ吸収しているのではなくて味を占めたといった感じでしょうね〕「はぁ・・・めんどくさ」


 ガスガスと数十センチ穴を開けては髪の様な触媒を動かし、転がっているゴーレムの残骸から魔法石を次々と吸収する未確認型のゴーレム。黒と藍色の混ざった肌と触媒がみるみると白く変化していく。「(マジで何なんっ?)」というのがジン()の偽らざる本音だった。


 白い息の様に吐き出しているマナ。相手の体内で急速に変化、上昇している温度を考えれば水蒸気とも言えるが、それにしては明らかに漏れているマナの量が多く見えた。


〔不完全の様ですね。・・・いえ、今自ら変化しようとしている・・・?〕「(それって自我を持ってるって事でいいの?)」〔分かりませんが・・・かなり博打に見えますね。技術者がそれを望んだのか・・・あるいは・・・〕「オレ等のせいか・・・」〔どっちにしても、早めに片を付けましょうか〕「だな」


 相手が進化を遂げている無防備を良い事に、ジンもゆっくりと深呼吸して体内マナの循環を加速させていく。巡るマナの質、量、精密さ。これまでの成果を試す様に引き上げていく。


 パチ・・・パチパチ・・・バチッ!


 ジンの周囲にあるマナがまるで沸騰したように小さく弾ける。炭酸の泡の様にバチバチと小さなマナが次々に作り出されては弾けて消えていく。何だろうと?頭の片隅で不思議に思いつつも、更にマナを引き出していく。


 不思議だった・・・。


 ズレは微かに感じているのに、まだまだ自分の中のマナ出力が上がっていく。粒子化の時にも感じたが気疲れに近い、身体的疲労とは違う明らかに合っていないマナの良質が内側から溢れ出すような感覚だった。〔もういいでしょう〕という相棒の言葉が聞こえなければジンはもっと出力を引き上げていた。


「(・・・何だこれは?)」〔・・・本来の持ち主の力。いえ、潜在能力かもしれません〕「・・・未来があれば、きっと凄い子になっていただろうな・・・」〔ええ。残念です〕


 プチプチと小さなマナの花火を散らすジン。その髪や瞳は明るく、赤と青の色が混ざり合うように染まっていた。今までとはまた少し違う粒子化だった。


〔もう一段、深く・・・いえ昇華できたのかもしれませんね〕「理由はいい。とにかく・・・倒す」「・・・ッ! バァァアアアアアアアアーーーッッッ!!!!」


 両者が戦闘再開したのはほぼ同時だった。相手を見据えるほんの数瞬の睨み合い・・・。掻き消えた次にはいくつもの激しい衝突音が踏みあれた地形をさらに荒らす。ドーム内は土煙で視界が完全に隠れてしまうほどに激しい戦闘音と爆発音で充満しているのだった。


 ・・・・・・


「ぐっ・・・。(無茶苦茶っ)」


 申し子でも少しは足止め出来るはずの結界が、いとも簡単に砕け散る。その都度、残っていた魔法が修復に掛かり、重ね掛けでエルフの少女が魔力を注ぎ込む。数分も持った自分は凄いと内心本気で両手を上げて褒め称えたい気分だった。


「(何で強くなってんのよっ)」


 障壁そのものに大きく影響を受けているのはゴーレムらしき存在の触媒のみ。ゴーレム達に埋め込まれた宝石に近い、妨害性質を持っているはずの魔法。なのにも関わらず、全く阻害も弱体化も出来ていなかった。魔素そのものを散らす行為も出来ない化け物相手に、精神をすり減らす自分が馬鹿らしくなってくる。


「ホントにこれで助からなかったら、呪ってやるからっ!」


 それは本当に彼女の魂の叫びだった。カルローラとリレーネは、弟子の気持ちをただ笑顔で受け止める。何も言い返してこない所が腹立つが、現実を突きつけられ惨めに感じている自分も悔しかった。


「(ホントに勝ってよ・・・)」


 ぷるぷる震える両手で必死にしがみ付く様に杖に力を入れる。と、その時だった。


「・・・舐めんじゃねえぞっ! クソガキがーーーっ!」「はぁぁぁあああっっっ?!」


 今や元同志であるドワーフの男が彼女の出した障壁の一部をハンマーで破壊して、殴り込んでいった。ゴーレムの触媒が突き破り、宝石を奪うために開けた穴を狙って飛び込んだのである。血管が違う意味で浮かび上がりそうな程、理不尽で意味不明な気持ちになり思わず叫んでしまう。


「気にしなくてもいいわ。あなたは被害を抑える事に集中して」「っ、何を根拠にっ・・・!」「あれはいてもいなくても一緒ですから」「・・・はぁぁあ?」


 意味は分からないが気も抜けない為、とにかくガリガリと異常な速度で減り続ける魔力を度外視して彼女は全力で障壁を作り続けた。


 ・・・・・・


「〔?〕」「・・・ーーーっ!」


 誰かが入ってきたのをマナで感じつつ、ジンはゴーレムの攻撃を捌き、棒を振るって確実にダメージを与えていた。高速移動しながら触媒を巧みに鞭の様に繰り出すゴーレム。細部にまで神経が行き渡っているかのように先端まで思考が入っているのか不規則な動きを実現していた。刺す、薙ぎ払う、切り払う。連続串刺しからの隙間を縫うように振り下ろす触媒。自らもその細見からは分からない身体能力で地を砕き、空を裂き、戦場一帯の地形を変化させる破壊の限りを尽くそうと攻撃を繰り出していた。


 ガガガドガバゴボゴガザギザゴドガンボゴン・・・・・・!!!!


 ゴーレムの数えるのも馬鹿馬鹿しくなる攻め手をジンとサポートは最小限で糸を縫うように動いていた。回避、切断、踏み込んでの突き出し、宙捻りからの急降下滑りからの振り下ろしと、一度も攻撃を受けることなく相手にダメージを与えていく。サポートの操作するシャボン玉によって強制的に何度も弾かれ、切断され、空間が開かれれば一気に詰め込まれて、胴体を深く砕かれるゴーレム。


「~~~っ・・・! ・・・・チッ・・・・・・ックショウがーーーーーっっっ!!」


 あまりにレベルの違う戦闘に、勢いで入ってきたドワーフの男は一瞬怯んでしまうが、無理矢理奮い立たせるとジンとゴーレムに問答無用で突っ込んだ。先ほど受けたシャボン玉1発で血を吐くほどのダメージを受けているにも関わらず、男は迷わなかった。


「っ・・・クソ・・・クソッ、クソッ・・・! テメエ等ふざけるなっ! 戦いやがれっ!」


 魔力を全解放状態の男は必死にブレる相手を追ってはハンマーを振るう。振り下ろす、振り上げる、振り払う。だがどれも一発も当たらず、またどちらからも攻撃を加えられていなかった。必死に戦う自分が馬鹿に見えるくらい眼中にされていない気分だった。


「ぐぅ・・・(クソッ!・・・何でだよっ!・・・どうしてだよっ!)」


 青筋の入った気持ちがどんどんと音を立てて崩れていくようだった。自分の尊厳が・・・今まで思いのままに生き、再び振るえる場を求め、ようやく日の目を浴びる時が来たと思った矢先・・・。その全てがあっさりと滑り落ちて惨めになっていく。否定したいが心が折れてしまいそうだった。


「ぁっ・・・!(戦えっ・・・。俺と・・・戦えよっ!)」


 もはやそれはお願いだった。男は気付いていない。自分の作り上げた傲慢が、才能に溺れた慢心が、突き付けてくる現実が・・・精神を蝕んできている事に理解できていなかったのだ。そうしなければ自分は全てを失うと・・・男はここで初めて、戦闘という恐怖を・・・戦争という無慈悲な暴力の意味を身を持って知った。奪う事はあっても奪われる本当の恐怖を知らなかった。


「ぁっ・・・ぁ・・・」


 みるみると動きが鈍くなり・・・やがて立ち尽くす。自身の頑強な肉体と魔力により、中心地で立ち止まっても問題はなかった。しかしそれが自らの惨めさを、尊厳を奪う呪いへと変えてしまっていた。


「・・・た・・・・・・(戦って・・・くれよ・・・)」


 エルフの少女が張った障壁と男が心が砕け蹲るのはほとんど同時だった。ほんの僅かな時間でもドワーフの男にとっては深く心を抉る長い時間だった。


「(障壁が)」〔丁度いい。奴を上空へっ〕


 ワラワラと不規則に動いていた髪の様な触媒は9割近く失っていたゴーレム。それでもなお魔力を解放してジンに果敢に攻めようとしていた。もはやそれは暴走状態に見えた。すかさず一気に懐へと潜り込んだ回転振り上げで遥か上空へと吹き飛ばす。〔拘束します〕というのと同時に数百メートル上空でいくつも生成したシャボン玉に包み込んだ。暴れるゴーレムだがジン達も魔法では外に逃げ出すことは出来なかった。


「・・・っ、はああ゛っ!」


 地面の土を大きく抉り取るほどに引き絞った腕で繰り出した斬撃。魔法も合わさり周囲も辺り一帯の雲も吹き飛ばさん勢いで飛んでいった攻撃は、ゴーレムを飲み込むと遥か空の彼方へと吹き飛ばすのだった。


〔・・・完了です〕「・・・ふぅ」


 残心を解き、ゆっくり息を吐くと同時に粒子化を解くと、地面に勢いよく座り込んでしまう。


「・・・疲れた」〔お疲れ様です〕


 予想以上の解放と慣れない調整に、体が軽く震える。


「・・・お疲れ様。本当に助かりました」「・・・ええ、本当に、ありがとう~──「ぅわっと」 ふふ♪」


 しゃがんで優しく頭を撫でるカルローラと抱きしめるリレーネに、ひとまずジルベガンでの戦いは終わったのだとジンは安堵した。そんな彼等を遠くから見つめつつ、ミゲイラはユーダスに捕縛されているエルフの少女へと向き直る。


「これは・・・終わりで構わないかね?」「・・・異論はないわ」


 苦笑する様に答える彼女。反逆者達も目の前で起きた圧倒的な戦闘に、いまさら反撃する勇気は起こらず、大人しく捕まるのだった。






  【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 301

 魔法値 314

 潜在値 355


 総合存在値 708


 スキル(魔法):干渉、棒術 8、マナ零子 8、感応 MAX

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