412 それぞれの心の準備
いよいよ世界の命運を掛けた戦争を明日に控え、最後の点検を兼ねた巡回をしていた軍の兵士達。彼等は遥か上空に見える小さな物体に目が止まった。遮蔽物が無い町の外だった事もあり早めの発見に繋がったともいえる。ただの鳥かモンスターだろうと距離もあった事でさほど気にせず、目で追っていたのだが・・・。
「「「・・・」」」
1人が止まると、自然と皆がその場で手綱を引いて停止させた。
「「「・・・」」」
近づいて来たのか先ほどよりも物体が大きく見える。遥か上空の数十キロ以上も離れていたと思われたそれは、小粒からハッキリと拳サイズ程度にまで大きくなっていた。異常な速度である。緊急性を感じた兵士達は抜剣。直ちに本部へ報告せねばと緊張感が走らせるなか・・・ハッキリと目視できた彼等は空いた口が塞がなかった。
船らしき物が空を飛んでいた。
「「「・・・」」」
理解できず、通り過ぎていく空を泳ぐ船。兵士達は唖然としたまま見送るしかなかった。
・・・・・・
一悶着があったのは首都モナメスの港付近での事だった。
見た事ないモノが空から飛んでくる。望遠で発見された飛空船は未知の敵と認定され、即刻護衛を務めているモナメスの申し子・・・ブルッカによって下から渦を巻き盛り上がってくる海水と軍艦の迎撃魔法弾の連携攻撃に遭った。・・・しかし・・・。
「おっほほっ、すげえすげえ♪ 余裕で避けられるし、ビクともしねえ。 マジでこの機動力と速度はおかしいぜっ」「・・・まぁ、そう思うわよね~・・・」「ふむ。良いテストになっているじゃないか。こちらの性能に、モナメスの戦力と対応力・・・。どちらも見られたな」「そういう問題ではないと思うのですが・・・」「・・・すみませんが、ユーティリカ様」
楽しそうに舵を操るレックスに、色々と調べられて有意義だと思っているナルシャ。ドルゴは戦争間近での問題を危惧し、ドレッドもその可能性を考慮して尤も分かりやすい選択を取れるユティに頼んだ。
仕方ないとため息を吐きながら、彼女は船の先端へと歩いて行く。飛空船による特殊技術なのか外からの衝撃はほとんどなく、また彼女達が立つ甲板も姿勢制御の為に非常に足場が安定している様でフラつくことがない。この程度では物ともしないという事が証明されていたのだった。
「・・・っ!」
細く伸びている丸い棒に先へと乗ったユティは、ゆっくりと腰に差した愛剣を構え・・・軽い調子で斜め下へと振り払った。
サーーーーバキバキバキバキッ・・・・・・!!
飛空船に最も近づいて来た海水と魔法弾から波紋の様に凍っていき、巨大なオブジェと魔法の塊なって海へと落ちていった。
・・・・・・
─緊急用執務室─
「あっはっはっはっはっはっ・・・!」「笑い事ではありませんよ叔父様」「・・・」「なはは・・・」
``ですよね~っ``とユティは両手を前で組んで大人しく反省の姿勢を見せる。レックスも頭を掻き、若干冷や汗を掻いていた。ため息を溢すのは一足先に特殊転移陣で返って来ていた姉のレティシカと護衛に就いていた各関係者達。それとレジスタンスの仲間達。無言の圧がレックスに掛かる。
「ああ、いや申し訳ない・・・。いやはや、まさか空飛ぶ船とは思っていなかったもので・・・。あんなにあっさりと突破されては、もはや笑うしかありませんでしたよ」「・・・。あれでは防衛もへったくれもないじゃない。あんな力に、ユティの様な能力者がいたら・・・」「まあ甚大な被害・・・いえ、それだけで様々な常識が覆るでしょうね。あの速度と高度では、種族の特性も能力者の力も大きな違いはないでしょう。実際に乗っていた皆さんに確認したいのですが、彼等の迎撃はどうでしたか?」「「「・・・」」」「という事です。本気ではなかったとはいえブルッカ君でも怪しい所・・・。いやはや本当に、恐ろしい」「「「・・・」」」
口では脅威だと言いつつも笑顔のユークリッド。頼もしい力にまた1つ、希望が持てたと純粋に喜んでいたのだった。
「お姉ちゃん、叔父さん。・・・私達は明日。開始と同時に映像にあったあの浮島に乗り込むから」「!」「(コクリ)それが正解だろうね。本来なら長引けばそれだけどちらにとっても被害が大きくなる。しかし、こちらは7ヶ国が協力関係にあるとはいえ・・・守る数が圧倒的に多い」「短期決戦以外の選択が残されていないのですね?」「ええ。あちら側に与する者も現れるでしょう。ひと月も続けば、人々の精神どころか大陸そのものを・・・我々自身の手で破壊しかねないのです」「・・・結局、私達の負け。生き残った者はルグルット達の奴隷にされてしまうって流れになるのね・・・。嫌な筋書き・・・」「レティ。それだけ相手は用意をしてきたのよ。長い間ずっと・・・」「ネミリア、あなた達翼人種なら」
友人が何を言いたいのかを察したネミリアはやんわりと首を振った。
「宣戦布告した際・・・浮島から発せられた何らかの攻撃。大陸を引き裂く攻撃に私達では太刀打ちできないわ。・・・ごめんなさい」「・・・いいえ。我が儘を言ったわね。・・・短期決戦・・・それを可能にするには、どれだけあちらに残るかね」「隠されたゴーレムに対しての掃討はどのように?」
ドレッドがユークリッド達に確認を取ると持っていた資料を基に現状を教えてくれた。
「避難区画周辺を中心に、発見次第破壊して回っていただきました。分かる範囲ですが待機型のゴーレムおよそ3000体に上る数を破壊したとの事です。ただ・・・年季と複数の型。製造量からして・・・」「やはりそうですか・・・」「特定は難しいでしょう。少なくとも、戦況次第では大人しくしてもらえるかと」「・・・こういうコウモリが本当に嫌になるぜ」
落ち込むユークリッドに間髪入れずドレッドがフォローに入った。レックスは頭を掻いてその苛立ちを隠そうともしない。レジスタンスの仲間の中にも同じような気配がした。そこへネミリアが微笑んで手を叩き、全体の空気を軽くする。
「はいはい。辛気臭いのは無しです。そういったのは特に子供達は敏感なのですよ?」「・・・そうね。不安や悩みを増やしても解決にはならない。とりあえずは目星だけを付けて、大人しくしてもらうしかないわね」「大人しくって?」「聞きたいのユティ?」「ぁ・・・ううん。いい」
姉の笑顔の裏にあるモノを感じ取った妹は大人しく引き下がる。同じく微笑んでいるはずのネミリアからも同じ気配を感じ取ったユークリッド達は冷や汗を掻いてしまう。
「こういう便乗の仕方で子供達に悪影響を与える人は許せません。そんな歴史を偉大なモノになんかさせませんから」「・・・は、はは・・・。そ、そのとおり・・・ですな」
一番冷や汗を掻いていたのはユークリッドだった。
そうして簡単な報告が完了したユティ達は次の目的地へ向けて執務室を出て行こうとすると・・・。
「ねぇユティ?」「ん~?」
姉に呼び止められた妹。「俺達は先に」と言ってドレッド達は出て行き、ユークリッド達も退席した。残されたユティが振り返ると、何かを言おうと迷っている様な恥ずかしそうな顔をした姉がいた。親友でもあるネミリアが両肩に優しく手を乗せると、意を決したように口を開いた。
「その・・・改まって聞くのも変だけど・・・。怖くはないの? 申し子って言ってもあなたはまだ子供。普通こんなのは大人が解決しなくちゃいけない問題よ。いくら神の恩恵を多く受けているからといって」「・・・(フルフル)ううん、大丈夫だよ」
畏まりつつも気に掛けてくれる言葉。いつしか忘れていた、その中に含まれる思いやりにユティは自然と笑みが生まれてしまう。
「ぁ、あー・・・いや。ちょっと怖い事はあるかな?・・・でも、お姉ちゃんとか・・・お父さんやお母さんや叔父さん・・・ネミリアさんとか。たくさんの人に見守ってもらってたんだなって、今更だけど気付いたの。ほら申し子って、生まれた時から強すぎて怖いって言われてたから・・・。でも、もっとちゃんと見れば・・・他にも色んなモノがあるよって教えてもらったんだ。だから今度はその大切なモノを守る為に・・・私はこの力を使いたい。今は、そう思えるようになったかな?・・・あぁ、前から一応そうだったんだけど・・・。今はなんだか・・・その時よりも強く想っちゃった。・・・そんな感じ」
素直で屈託のない笑顔に、姉は毒気が抜かれた様に苦笑した。そして自然と笑みが移ってしまった。
「・・・ふ、なにそのフワッとした言い方は・・・」「ふふん。でも本当の事だもん。だから、私は勝ってくるね。お姉ちゃんは・・・皆をお願い」「出来る限り手を尽くすわ」「お姉ちゃんがサボりそうになったら・・・ネミリアさんお尻を引っ叩いて」「分かった。ユティちゃんもどうか無事で」「なんで私が苦労ばかり・・・。まあいいわ。その代わり。アンタもちゃんと帰ってきなさいよね」「ふふ、もちろん」
そう元気に返事を返し出て行く妹に、レティシカとネミリアは笑ってしまった。
・・・・・・
「・・・皆さんっ!」「お久しぶりですっ、グルタモンさん」「ユティちゃん・・・! ええ、お帰りなさい」「ただいま~タージュ君」「あい♪」「お?」「え?」「ふふふ♪」
彼女の手を元気に握って返事を返す息子に驚くグルタモンとアフネシア。やはり慣れ親しんだ場所に挨拶に向かいたいと思っていたユティ達はいない可能性も考えつつ来て見れば・・・ジンの下宿先であるモンダールは戦争前日でもまだお店を開いていた。
「お2人は避難は・・・?」「そろそろ始めようとしていた所だったよ」「まさか、閉めようとするタイミングで帰ってくるとは思わなかったわ。あ、あなた・・・」「ああ、そうだね。コーヒーでも・・・」「よっしゃー、俺はジュース!」「ダメよバッツ」「何でだよ?」「私達は挨拶に来ただけだ。お2人の避難の邪魔をしては迷惑だ」「おぅっ!」「おっとすまん。そうだなタージュもだ」
ナルシャが優しく頭を撫でると、納得したように赤ちゃんは指を加え、周囲を見回す。
「そうですね。お気持ちは嬉しいのですが・・・それはまたここへ戻ってきた時にでも、頂くとしましょうか?」「・・・すみません。グルタモンさん、アフネシアさんも」「・・・ううん。そうね・・・こんなに大勢で来てくれるのなら。もっと美味しいモノを用意したいわね」「ああ」
いつでも憩いの場を提供する事を忘れない夫婦に感心してしまうユティ達。
「ここがジンの・・・」「あの子はとても素晴らしい所で生活できていたのですね」「今じゃなければ僕達も少しだけ聞きたかったね」「はい。ジルクトお兄様。・・・ふふ。ジンは恥ずかしがりそうですね」「うーん残念。一緒に泊まってみたかった」「(コクリ)本当に・・・」「・・・何か違うこと考えてない?」「「(ふるふる)」」「(ボソ)その時はおじさんに報告か?」「(ボソ)血涙を流しそうだな~」「・・・」「あの・・・」
困惑する夫婦に軽く説明すると、驚きを見せつつもやはり温かい笑顔で「その時は是非」と快く迎え入れてくれた。少し慌ただしくも挨拶できたことに満足したユティ達はそのまま次の目的地へと向かうのだった。
・・・・・・
「お帰りーっ♪・・・ゴブッ・・・!」「あ、ただいまお母さん」「ちょっとだけ帰ってきた」「お帰りなさい。随分と大勢連れて帰ってきたのね」「あらあら~♪皆さんもお帰りなさ~い。マリティカちゃ~ん、キャロラインちゃ~ん? プリメラちゃん達が帰ってきましたよ~?」「(ボソ)何だか前にも見た事あるな。あの光景」「(ボソ)ここまでだったかな?」
夕方近く、フォラウスト邸へと到着したリエナ達をカルローラとリレーネ達が温かく出迎えた。メイドや執事、騎士達も整列し温かく迎え入れてくれる。領主であり父であるミゲイラは娘に出会い頭の飛びつきを妻に問答無用でボディブローを受けて悶絶していた。誰からも介抱されることなくビクビクと痙攣しているその様を従兄達だけが哀れな目で見ていた。
・・・・・・
「なるほど。連絡は受けていたが、本当に空飛ぶ船を手に入れてしまったとは凄まじいな」「「「・・・」」」
全員が寛げる大部屋へと通されて数分。平然と座り優雅に紅茶を飲むミゲイラを妻と娘・・・その場に居合わせた給仕達がジト目で見ていた。先ほどとのギャップと変わり身の早さにドレッド達、半初対面組は驚いていた。その切り替えに慣れたマリティカやキャロラインは苦笑してしまう。
「恐らく、ユークリッド陛下も兵器化の可能性を危惧した事だろうな」「流石に叔父様はその様な事は・・・」「分かっているよ、ユーティリカちゃん。あの人は根っからの商売人であり善人者だ。僕が言うのもなんだがね」「「「(自覚があるから質が悪い)」」」「ん?何かな?」「何でもない」「それよりおじさん。お母さん達もここに残っていいの?」「大丈夫だよパミルちゃん。我々もあと少ししたら移動するつもりだ。流石に民を残したままにはしておけないからね。もうそろそろ・・・」
チラッと騎士の方を振り向けば代表の1人が頷いた。それに笑みを含ませるミゲイラ。
「だそうだ。こちらも準備が完了次第、この邸を空けるつもりだ。全く、戦争とは本当に面倒この上ないね。外からも内からも奇襲を仕掛けられる。ほんと・・・四六時中、気を張り詰めるなんてしんどくてハァーッ、やだやだ」
一切隠すことなくぶちまけるミゲイラに妻達は頭を抱えたり苦笑したり・・・給仕や騎士達も似たり寄ったりな反応だった。ミゲイラのこの様な一面を知らないメンバー達は驚いてしまうが・・・付き従っている者達の表情に暗い者が一切いない事により驚いていた。
「(ボソ)これでもウチの国ではナンバー2なんだ」「(ボソ)元、冒険者というのもあるから実力もお墨付き。知識もあるから、まあそうそう避難者達の被害は心配ないと思っていいよ」「(ボソ)・・・人は見かけによらないのね」「(ボソ)ちょっと胡散臭い感じはしてるけどニャ」「ちょっとは見直してくれたかい?」「「っ」」「いえ、そんな事はっ・・・」
ベラール達の説明にメリリカとミュティアが改めていると、当の本人に聞かれビクッと体を軽く飛び跳ねさせてしまう。
「気にしなくてもいいわよユティ。お父さんが胡散臭いのは昔からだから」「(コクリ)。今に始まった事じゃない。お母さん達が苦笑いしているのがその証拠」「「「・・・」」」
ガクッと肩を落とすミゲイラに援護できない母達や笑う騎士達。そこには変わらないフォラウスト家の日常風景があった。
「プリメラ。私達は大丈夫だから。どうか無事に帰って来てね」「うん、絶対に勝って帰ってくるから」「ドレッド様、ロクサーヌ様、ジルクト様。皆様もどうかお気を付けて」「ああ。妹さんと安全な所で避難していてくれ」「こちらは私達に任せてください」「僕もやれる範囲で援護しますが・・・」「(コクリ)承知しております。有事の際は微力ながら、私のお力でお世話になった方々をお守りします」
マリティカの肩に乗っている召喚獣も小さく頷き同意する。
「ファーランを頼む。総指揮はコートルの爺さんがやってくれるが・・・たぶん、全てを把握するのは難しい。そこの現場監督が指揮を執るだろうから、上手く連携を取ってくれ」「分かりました。・・・色々とお世話になりました」「早いわよマリティカ。それを言う為にも・・・これから勝ちに向かうの」「辛気臭えのは、あのテロリスト共を倒した後だ」「妹ちゃんと待っててね」「(コクリ)。僕達が・・・決着を付けてくる」「・・・はい」
レックス達、レジスタンスの仲間から勇気をもらったマリティカは強い目になって頷く。そんな若人の姿を眩しく思いつつもミゲイラは静かに笑った。
「君達は君達のやるべき事をやりたまえ。後ろは私達の仕事だ。最前線の足を後方が引っ張るわけにもいかんからな」「そういえば、モナメスではブルッカが守護を務めておりましたが・・・?」「(コクリ)こちらでもケーティルが担当する事になっております。ファーランの特性に合っている彼女なら、大陸全土を護る事もおそらく可能でしょう」「さ、流石に1人で全ては──」「能力とは、如何に自分と世界との理を熟知して活用するかだよ」「あの子の意思に森達が貸してくれると思うから~、きっと大丈夫よ~」「・・・」
ドルゴが困った顔をしてナルシャとユティの方を振り返る。同じ申し子の1人としてユティが答えると、ロクサーヌも肯定した。
「ミゲイラさん達の仰る通りかな? 確かに。個人の能力だけでは難しい所だけど・・・。 そこに存在する魔力を使うのなら、あの人の力だったら出来ると思う」「そうですね。森林の多い、この国なら強力な力となってくれるでしょう」「・・・スキルも適材適所か・・・。ふふ、なんだかんだで申し子も案外万能ではないな」「前にも言ったでしょナッちゃん・・・? そんなに便利なら苦労はしないって」「うふふふふ。寵愛者の悲しい性かもしれませんね」「ね~?」
ユティとロクサーヌ。2人にしか分からない共通の認識に、一気に距離感が詰まった様にお互いは顔を見合わせ笑った。そこへポンッと1つ手を打って自分へ注目させるミゲイラ。
「ま、なにはともあれ。こちらは問題ないだろう。一応念のための防衛陣はいくつも作って、それなりの対策は取っているつもりだ。ここから先は正直、出たとこ勝負になっちゃうだろうね」「あの映像。お父さんはどう思ってるの?」「んん?・・・そうだねー」
腰掛けていた椅子にひじを付き、それっぽく娘の質問に考える。
「まぁ、ただのデモンストレーションとしては有効かな?1体1体が脅威だといっても時間を掛ければ問題はない。あっちもそれは承知だろう」「はい。ですからこそ地中にいくつもの施設を仕込んでいた」「私なら、その油断を利用する。警戒する様ならそのポイントを絞るのみだ。向こうにとっての勝利はシンプルだ。王か一定数の兵士と民、どちらかを潰せば終わりだ。どれだけ優秀な指揮官や代理が現れようと、その要さえ潰せば後は勝手に白旗を上げるだろう。機械なんて使い潰せばいいからね」
目の前のテーブルに置かれていた印鑑やペン立てを自陣達と例えパタパタと倒していく。
「全てを失う覚悟で戦う向こうとはそもそもの土俵が違う、という事ですね」「(コクリ)そう言う事だね。情報を集め、より強力なゴーレムを作れる技術者があちらにはいる以上、人的被害が大きくなるのはこちらだけだ。長引けば敗色濃厚なのは数が多過ぎるこちらだろう。物量は強みと同時に大きな足枷なんだよ。多くいた人々がいなくなってしまえば、精神的ダメージはデカい。先に根を上げてしまうのはどっちかなんて決まりきっている。優秀でも限界はあるのさ」「はっ。その前に向こうの数を減らしゃあいい。そう言う事だろうが」
拳を打ち付け、ニヤっと笑ったレックスにミゲイラも口角を吊り上げて座り直す。
「ふ・・・それっぽく話したけど、端的に言えばその通りだ。あっちもすぐには生産できない。重複するだろうがユークリッド王に聞いたのなら、私も同じだ。・・・短期決戦。こちらが先に王か民を失うよりも先にあちらを潰す以外、勝利条件はない。交渉もない以上、それ以外の選択肢はまずないだろう」「選民思想では、数を絞るための虐殺も行われるでしょうね」「ええ。テロリスト達の慰みものにされてしまうでしょうね~。その結果は悲惨な事になりますよ」「「「・・・」」」
カルローラとリレーネの言葉に分かってはいたが、改めて聞かされると恐ろしさを感じる者達が息を飲んだ。そんななか、ユティは静かに微笑んだ。
「大丈夫。そんな事は絶対させないから。それに・・・」「?」「たぶん・・・。(フルフル)ううん。きっと、私達が行けなくとも。あの子なら1人で乗り込んじゃいそうな予感がしちゃうから」
その言葉にミゲイラ達は容易に想像がつき、リレーネもちょっとだけ苦笑しつつも微笑んでいた。少し面白くなさそうなオメロスに、分かると同意のヒー。そしてシャノンノは面白くなってしまった。
「・・・あー・・・」「・・・ふふふ。そうかもしれませんね~」「へっ、アイツならホンマにやりそうやわ」「そうね。バレないようにとかってレベルではないでしょうけど・・・」「ふふふふふ。どこに行ってもジン君はそんな事をしてるのね」
思ったよりも少し長めの滞在に、空は夕日が沈みかけるほどの時間が経ってしまっていた。
・・・・・・
「それじゃあ行ってきます」「ええ、ちゃんと帰ってきなさい」「はーい」
軽い調子で、近くに止めていた飛空船に乗っていくリエナ達。ミゲイラは快く送り出したい気持ちと、涙ながらに留めたい気持ちがぶつかり合い、表情をコロコロと変えていた。もはや芸達者といってもいいレベルなのだが、誰も取り合う気は無かった。
「パミル~。しっかりね~」「(コクリ)。行ってきます」
母親の送り出しに甲板から覗かせていた娘はしっかりと答えると、船は上昇を始めた。「ああ゛ぁ゛~っ!行ってしまったぁ~っ!」と奥の方で声が聞こえるが、飛空船はそのまま方向を転換して次の目的地へと飛び立っていくのだった。
・・・・・・
ー首都ベルニカー
飛空船から降り立ち、挨拶に向かうと・・・「話は聞いている。行け」とベルニカの代表代理は端的に告げた。ドレッドは頭を下げると部下達の所へと歩いて行った。他の面々は明日に備えて、思い思い寛ぐことにした。
「・・・嫌な思い出もあるけど・・・」「こうして直接見ちゃうと・・・悲しいね」
リエナとパミルは首都の現状を何とも複雑な心境で甲板から眺めていた。そんな2人の後ろからユティが近づいて話しかける。
「そういえば・・・ジン君と出会ったのもこの町だったのよね?」「うん・・・。あの時は本当に助かった・・・」「(コクリ)。早とちりさせて、牢屋に押し込んでしまった」「えっ、そんな事したのっ?」「ぁー・・・そうだったー・・・」
本気で忘れていたのか両腕を乗せていたリエナが顔を隠すように下を向く。
「あの時は皆、余裕が無かった。悪魔だと思うけど、あの敵には私達の援軍でも・・・たぶん勝てなかった。本当にたまたま」「地下水道でも本当にビックリしたね」「(コクリ)うん。あれは街そのものが危なかった」「・・・じゃあ今度はその分、私達があの子の代わりに力を貸して助けて上げなくちゃ」「当然」「1人では難しい。だから私達がサポートする。ユティも多少なら助かる」「言うね~」
3人はほくそ笑むとただ静かに町を眺めた。壊された爪痕は大きく、修復には何年も掛かりそうだった。
「首都に人はいないのかな?」「そりゃあね。たぶん、残ってるのはほとんど軍関係の人達だけだよ。これじゃあ防衛が一苦労だろうしね」「・・・」「手放す可能性もある?」「最悪ね。別の大きな町を首都に変えるか、新たな街を作った方がマシかもしれない。あなた達と同じように、ここに住む生き残った人達にとっては・・・悪夢の町に見えてしまうから」「「・・・」」
失った重さを比較しても何も代えられない。それでも・・・その時の恐怖と悲しみを思うとリエナとパミルは胸の奥が苦しく、悲しいモノに見えてしまった。季節による寒さや風の冷たさ。首都から聞こえる音が何処か物悲しさを強調している様に感じられた。ジッと見ていた少女達は大きく吸い込んで吐くと、ゆっくりと振り返り飛空船の中へと入って行く。
「こんな世界にはさせないから」「絶対、勝って終わらせる」
ポツリと小さく誓いを立てる様に呟いた言葉をユティは静かに聞き届けた。
・・・・・・
コツ、コツ、コツ、コツ・・・。
寂しくなった研究室をジルクトは静かに歩く。惨状の痕は申し訳程度にしか直されていなかった。元同僚達の遺体は回収されたようだが壁や床に飛び散った後のシミが現在もくっきりと残っていた。
「っぷ・・・!」
酷い所では、その悪臭が強く残っており胃液が喉を駆け上がりそうになる。必死に口を押さえ堪えると、一部生きている電気を頼りに見慣れた通路を目的地に向かって歩いて行く
「(あなたは・・・本当にこんな事が望みだったのですか・・・?)」
破壊し、燃やし、潰す。当時の彼女を思い出しても、ここまでの行動を取る人には思えなかったジルクトにとってはショックと同時に・・・悲しかった。
道は違えど同じ研究者。より良い世界への在り方に他のアプローチがあったのではないかと・・・どうしても考えてしまうからだった。
「(最初からだったと・・・。僕はそうは思えない・・・)」
何気ない会話。研究に協力してゴーレムへの作り方の話し合った時を思い出す。その時の話している彼女は、ジルクトの案を聞いている彼女は・・・とても素直で純粋で楽しそうな可愛らしい表情をしていた。年相応よりも幼く、少しジルクトがドキッとする様な普段見せない楽しそうな姿だった。
「(・・・あれが・・・君の本当の・・・)」
答えの出ない自問を繰り返してしまう。どこからか吹いて来る風がその空虚を思い知らせてくるようだった。
「・・・ただいま」
元自分の部屋に戻って来た時、自然と小さくそんな言葉がつい出てしまった。しかしというか予想通りというか、ほとんどが襲撃により破壊されていた。・・・いや、彼が研究室を出て行った後にはとっくに・・・部屋は用済みとして残してあった研究資料は回収され、もぬけの殻になっていた様に推察できた。それだけ・・・ジルクトの部屋には貴重な情報が詰まっており、レネッタ達にとっては厄介であるとの判断だったのかもしれない。
「・・・」
予想は出来ていたが、少しだけ寂しい思いをしつつ別の目的地へと移動する。
・・・・・・
「(兄さんの言っていた通りか・・・)」
レネッタの部屋は証拠隠滅を図り、建物は崩れ、機材類がガラクタと化していた。研究材料などの破壊を目的としていたようだが、思ったよりも頑丈に作り過ぎてしまったのが幸いしたのか完全には倒壊していなかった。
「(こんな所で救われるとはね)」
小さくほくそ笑みつつ倒れている壁や柱っぽいモノを避けて奥へと入って行く。全焼に近い状態なのか書類などは当然期待できなかった。ならばと魔法技術を転用したテーブル兼操作盤になっていたデスクに触れる。だがやはり、何の反応もしなかった。「(残念)」期待していたつもりはないが、それでもちょっとだけ苦笑してしまった。
「・・・?」
しゃがんで引き出しなどの中身を調べていると目の端に光るモノが見えた気がした。薄暗い部屋の中、妙に気になって顔を上げると・・・入った右壁の奥その隙間に光の線が一定間隔で動いているのが見えた。それは押し込み型のタンス代わりの空間だった。
光りに吸い寄せられるようにジルクトが近づいていくと、引き出し口の部分が小さく淡い点滅を繰り返していた。
「・・・」
そっと彼が振れるとプシュ―という煙と共に、大きく引き出しが手前にスライドしていく。
「・・・」
そこには半透明なガラスケースの中、特殊な材質のクッションに優しく包まれて眠る裸の女の子がいた。意表を突かれて慌てそうになるが、目を瞑る彼女の顔を見た瞬間。ジルクトは小さく笑ってしまった。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 301
魔法値 314
潜在値 355
総合存在値 708
スキル(魔法):干渉、棒術 8、マナ零子 8、感応 MAX




