403 見えていた代償
ガン・・・ガカン、ガガギリリィィィ、ガキキン、ガッボウ!ボウボウボボーーー・・・!!
明かりもほぼない暗闇の中。黒、紫、赤の火がたくさんの火花を周囲に撒き散らせる。それはまるで明かり代わりの星のきらめきの様だった。更には天の川の様に・・・あるいはスクランブル交差点の様にライン線の軌跡が無数に暗い床を駆け巡っていく。
「「・・・」」
チリチリと燃える床に照らされたドレッドと分身と思われる鎧。戦闘が始まって数分。睨み合う両者に負傷の後はない。
「(お見合い、だな)」
手を抜くつもりはないが合わせ稽古の様な戦闘に内心、笑ってしまう。本気を出すには、相手の出方が分からず危険。そういった心理が膠着状態を作り出していた。埒が明かない。つい慎重を期してしまう。その思考と状況が生んだ僅かな時間が、フと彼に気付かせてくれる。
「・・・そうか。俺が臆病・・・。その通りだな」
ボソッと独りごちたつもりがニヤっと笑ったような鎧の気配を感じた。重心を落とし4本の剣を構え直す。
「そうだ・・・。だが、それは今に始まった事ではない」「なに? っ!」
身体強化からくる純粋で分かりやすい大振り。読めてはいてもドレッドにはそれを避ける事が出来ず、逸らしたり弾いたりと捌く事を余儀なくされる。技術ではまだ互角に戦えているが、それ以外の力、魔力、能力値といったモノが全てで相手の方が格上だった。倒れてないのは手を抜かれているからだ。その相手の油断をチャンスに変える瞬間を逃すまいとひたすら受けの姿勢を取り続けている。だがそれも・・・。
「お前の悪癖は、そこだ」「っ!」
表情には出さないように常に努めていたつもりだった。そんな心を見透かすように鎧は剣戟の隙間を縫うように1本の鮮やかな線がドレッドの懐へと伸びてくる。「!」咄嗟に生み出した闇の魔法弾と剣が接触。爆発の反動で服を少し焦がしつつも上手く距離を取る事に成功させた。ダメージがほとんどない事を確認し剣を握り直す。「・・・」ユラリと体の周囲に薄く魔力が溢れ出す。
「回避できたと?」「まさか・・・。あの程度、いつでも出来るという事だろう?」「・・・。その通りだ」「・・・(コイツは本当に俺の分身か?)」
少し陰湿に感じる雰囲気につい疑ってしまう。しかし全身を覆う鎧のせいで表情が分からない。ただほくそ笑んだ事だけは分かった。
「本気を出すのも手を隠すのも好きにしろ。お前の人生・・・せいぜい後悔の無い選択をする事だ」「・・・。(ボソ)そんなモノ、ずっとしっぱなしだよ」
チリチリ・・・。ドレッドの周囲に溢れていた魔力が燃える様な黒い火の動きへと変化する。
「意図は知らないが・・・。これ以上、ここでのんびりしているわけにもいかない。・・・そうだろう?」「・・・フフ」
小さく笑い3色の炎を燃え上がらせていた鎧はゆっくりと体を起こすと、持っていた4本の剣を地面に突き刺した。背中から生えていた腕が消え、全身を覆い隠すほどの激しい魔力を迸らせる。
「!」
ジリジリと体が後ろへと押し流される。腕で顔を庇わなければ相手の姿を見る事も出来ないほどの魔力。異空間内にある全ての魔素が鎧に向かって吸い寄せられていくかのような奔流だった。
「(・・・魔力の底が分からない。あれではもう・・・。いや・・・)」
集まっていく魔力に一瞬思考を止めてしまいそうになったが次の瞬間には切り替えた。先ずは・・・前提条件から潰す。
「・・・!」
体内にある魔力を練り上げ解放。足元で闇の火が円陣を描く様に渦を巻き、燃え広がっていく。
「(受け入れるだけなら、こんな回りくどい事はしない。勝利をさせたいなら、俺ならサッサと追い込ませて全力を引き出させる。・・・奴が求め、俺が気付いていない・・・。何かを忘れているもの・・・)(ボソ)そうか・・・さっきの臆病・・・」
フと昔の事を思い出した。
それは・・・まだ自分が10になるかならないかという年だった頃・・・。
自分は・・・周りの視線への意識に過敏になり始めていた。
「フフ」「?」「フハッハッハッハッハッハッハッハッハッ・・・!!」
突然の大笑いに現実に引き戻される。うず高く昇っていた魔力の柱が一陣の風と共に消え去った。そうして目の前に現れたのは獰猛な笑みを浮かべる自分だった。青い髪に黒い服。肌などの一部を除き、対となる姿となって立っていた。迸り圧倒する様な魔力に野性味の溢れる笑みが、ドレッドとは真逆に映った。
「少しは思い出したようだな」「・・・」
漆黒の様な火を纏い、目を細めた。
「お前は・・・常に焦り・・・怯えていた。いや・・・」「見えていなかった。そう言いたいんだろ?」「(ニィ)分かってるじゃねえか」「少なくとも・・・。俺の分身ではないな」「一部を除けば、紛れもなくお前だぜ? あぁ・・・この状態の事を言ってるのか? それはまぁ・・・少し気分が高揚しているだけだ」「・・・そうか。それも反対なのか・・・」「どうとでも受け取れ。・・・いくぞ?」
笑みが消えた瞬間。分身は音を置き去りにして、剣を振り下ろしていた。ドレッドは飛び込んできたその攻撃を冷静に受け止める。
ズォン・・・ゴゴゴゴゴゴバキバキバキ・・・!!
上段攻撃からの攻撃に異空間の床が沈み、2人を中心に数十メートルの地面が割れて隆起する。
「よく受け止めた。それなら問題ないな」
確認するや否や、着地と同時に低い姿勢からの腹を狙った回転斬り。受け止めたドレッドだが、その力に上昇した床を貫通して吹き飛ばされる。空中で姿勢制御もままならないまま追いついた分身によって斬りつけられる。
ガンガンドガドギャンバゴドゴドガボギャ・・・!!!!
切り落とし、切り払い、切り上げ・・・。縦横無尽。空中戦での戦闘も交えた360度からくる斬撃戦。分身に引けを取らずドレッドも冷静に対処し、反撃していた。もはや剣の音なのか地面を削ったり砕いた音なのか、たくさんの音が入り乱れ絶え間なく響き渡る。
「能力だけはしっかりと磨いてきたようだな。いやそれも・・・己可愛さか?」「・・・」
楽しそうな分身に対し、ますます能面になっていくドレッド。白と黒の魔力が異空間内をあっちこっちへと飛び回る。剣閃が床を、空気を、引き裂き土煙の様なモノを舞い上がらせる。入り乱れ、散り散りになる魔力の粉は追いかける様に吹いた突風によりどこかへと飛んで行ってしまう。
ギャン・・・ギャギ!ガガン、ガキッ!ドガドガバゴドゴ・・・ギギギギギギギギ・・・!!
あらぬ方向に飛んで行く白と黒の魔力弾。黒い火は宙で燃え、白い斬撃は遥か彼方の地面をなぞる。硬い何かに接触した瞬間、白と黒の閃光が空間内の明かりを支配しようとせめぎ合う。数百メートルもの面積をあっさりと更地に変えそうな程の激しい戦闘だった。
「「・・・」」
そんな中、互いに一切息を切らすことなく戦い続ける。しかしこれは、短期決戦を意味していた。例え申し子であっても超大な力を行使し続ける事は出来ない。広範囲の影響は余波による所も大きく、本来の射程範囲は絞られる。長期戦になればなおの事、力の範囲は限定的にしておいた方がいい。
「・・・ふふ。お前がここまで必死だとは、少し予想外だ」「・・・」
螺旋を描く様に何度も斬り結んでいる中、分身が話し始める。
「誰かの為に戦う。己の信念の為に、誓った信条の為に力を振るう。さぞかし耳障りの良い事だ。お前の本心すらを惑わす。甘い、言葉だ」「・・・」「お前には出来ない。いや、する気がないだろう」「・・・」「ヒヒッ♪」
眉間に僅かに皺が寄る。またも剣が通り、僅かに服に赤い血が染み込む。裂傷が増えていくが手を止めない。・・・いや、止めることが出来なかった。分身はその溢れる魔力とテンションによってダメージをものともせずに攻めに掛かって来ている。対するドレッドには目に見えて傷痕が増えていった。だが何より気に障るのは、彼の言葉だった。
「まぁ至極当然だ。お前は大義名分で立っているが、本当は自分が可愛い。誰だって、いや・・・家族であろうと自分以上に代えられるモノはない」「・・・」「おっ? 気に障ったかw? だが、それがお前だ。・・・いつまで、誤魔化しているつもりだ?」「っぐ!」
剣や魔法にばかり意識を向け過ぎていたドレッドは、宙で腹を蹴られ、大きく地面に叩きつけられた。間髪入れずに、追いかけ剣を振り下ろす分身。
「死ね。・・・ち」
舌打ちをして、咄嗟に避けたドレッドを追いかける。またしても入り乱れる接近戦が繰り広げた。そこには先ほどまでのテンションが嘘の様に薄暗く、怨嗟の籠もった声をして彼を睨んでいた。
「そっちが本心か・・・」「どれもお前が生み出し、私に送ってきたモノだ」「それは・・・」「その言葉は、必要なモノか?」「・・・」
開こうとした口を閉ざし、宙で斬り結んでいた所へ闇炎の斬撃で大きく距離を開かせた。ゆっくりと着地。高速戦闘とは打って変わり、静かに距離を詰めていく。お互い、あと一足で間合いに踏み込めるといった所で立ち止まる。
「分身。精霊。・・・自我を持つにも対話するにもお互いに時間が掛かる。お前の場合・・・少なくとも、形成された時期は・・・」「そうだ。・・・お前が・・・``劣等感を抱いた時``だ。それはずっと大きく、暗くなり続けていく」「・・・俺は、今もそうなのか・・・」
今出た言葉は自嘲なのか呆れなのか自分でも分からずに出てしまっていた。
「どうして俺が平然としているか分かるか?」「・・・供給しているからか」「・・・」
得心がいった。最大の悪人は自分自身だった。
相手は自分ではありつつも精霊に近く、一番の被害者だった。
「これは・・・俺の欲か・・・。いや、恐怖・・・どちらもだな」「・・・」
大きく上を向き、目を瞑って息を吸い込み吐く。分身が攻めてこない事が分かっていたからだった。
「そうか・・・。分かっていたつもりだったが・・・本当に、小さなプライドだったんだな」「言葉で伝えたとして・・・。お前はどこまで受け入れられた・・・?」「・・・」
僅かに口角を上げた顔は、自分でも情けないくらい不格好だと想像できた。
(無理だ)
そう断言できるくらいの・・・分かっていながら、どこかで無理矢理納得させようとする自分がいたからだった。
「負けず嫌い、といっても良いものかどうか・・・」「その勇気すらなかった者に、資格はない」
それも道理だと納得してしまった。
ドレッド本人が気付いていなくとも、本能で恐怖を感じ始めていたのはロクサーヌが生まれて間もなくの頃だった。彼女の数値は申し子と即判定されるくらいの能力を持っていた。湧き上がる周りに、嬉しそうな両親。彼も最初は妹が生まれた事に純粋に喜んでいた。
ほんの些細な・・・小さなきっかけが知らず知らずに自分の心を蝕んでいた事も知らずに・・・。
両親は家族が元気であれば幸せだと言っていた。数値はお飾りだと・・・。実際、技術などを伴わない子供の数値は大人程の明確な差が生まれず、分かり難い事も往々にしてあった。
例外は・・・祝福された寵愛者だった。
両親、使用人、友人に町の住人達。ほとんどの者はドレッドに優しかった。立場もあるが、それは祖父からの改革により、生活と治安が大きく改善された事が理由にある。皆が優しく他人にさえ親身になってくれる・・・。それだけの肉体的、精神的なゆとりが作られていたからだった。
キッカケは何だったのかは分からない。何気ない住人の一言だったのかもしれない。
(これで・・・この領地は安心・・・)
彼等の、彼女等の見ている期待の先にいるのは・・・生まれたばかりの妹だった。
優しい両親達にドレッドは無意識に・・・ほんの小さな本心を隠した。生まれたばかりの妹を兄が黒い感情を抱えているなど馬鹿馬鹿しい。嫉妬というほどの確固たるモノではない小さな我が儘。ほんの少しの羨ましさが彼に偽りの仮面を作り始めた。
それは年月が経つにつれて肥大化していった。生まれてくる弟、妹達にもその片鱗は表れていた。自分では分からない理解できない先を視る妹達に焦りを感じていたのだ。かといって自分を慕う彼女等を無碍にも出来ず、ドレッドが取った最善の選択は・・・逃げる事だった。
物理的に、精神的に・・・。最初に首都の学園に入学を希望したのはその為だった。
見えない所での必死な努力。それが自分自身の平穏を保つ為とは本人ですら気付かないまま、ドレッドは今を生き続けてきた。
「凡人では天才に勝てない・・・。それを否定したかったのかもしれない」「嫉妬もまた、お前を強くさせた。お前に付き従う者も現れた。だがそれは・・・」「ただの隠れ蓑。・・・フ、本当に馬鹿馬鹿しい・・・小さなプライドだな」「比較する事は簡単だ」「分かっている。一般的な数値上は・・・申し子の部類に入るだろう。分身にすら対面できなかった精神的弱さを無視すれば、な」「換装すら到達できない歪な存在・・・。それがお前だった」「・・・」
正眼に構え、相手を見据えるドレッド。彼の纏う闇の火に僅かな色の変化が見られ始める。黒い火の中に煌めく魔力の輝きが混ざり始めていたのだ。
「この異空間内の魔力が、何故私にだけ力を貸していたか分かるか?」「拒否していたからだ」
ドレッドの即答に分身はニヤっと笑った。
白く輝く魔力にくねる様な僅かな気配を感じた瞬間、ドレッドは握る柄に力を入れる。
ガンカンカカンガンギンカンカン・・・・・・!!
分身からの連撃。地面を滑りながらも冷静に受け止めるドレッド。斬り結ぶ音は変化し、体に掛かる衝撃がかなり軽くなっていた。
「お前のわだかまりが軽くなったのだ。出力を上げるぞ?」「・・・」
湧き上がっていた分身の魔力が彼の周囲にだけ収まっていく。白かった魔力にうっすらと藍色が混ざっていた。剣を握り直したドレッドは今度は自分から攻めに掛かった。
ガン、ドンカン・・・キンギンキキン、ガンッ!・・・キキキキキン・・・!!
上段、中断、下段。入れ替わり立ち替わり・・・攻防は徐々に加速して激しさを増していく。彼等の足元の床には遅れて斬撃の後が小さく、深く刻まれていく。地形すら大きく変える様な派手戦闘とは一変。狭い範囲での近接戦だった。しかし、そのスピード。彼等の繰り出す斬撃は、先ほどとは比較にならず、他の者達を近くにいればほとんどの者が参戦する事が出来なかっただろう。
「そうだ。魔力とは鏡だ。お前が認めずして、何の意味があるっ・・・?!」
分身の僅かな後退。コンマ数秒と掛からず20メートル以上も離される。同時に空いた手でドレッドに向かって魔法を放つ。軌道を読ませないうねる藍色の魔法弾は着弾のタイミングをずらしながら飛んでくる。
「・・・ふぅ」
小さく息を吐き、目を閉じたドレッドは右斜め上に斬り上げる。続けて回転してからの水平斬り。爆風に巻き込まれながらも宙を横回転して3つの魔力弾を斬った。
ボガンボゴンドゴンドガドガドガドドドドドドドドド・・・・・・!!!!
斬った先から爆煙が発生。ドレッドの体はあっさりと包み込まれる。モクモクと拡がっていく煙に向かって無数の魔力弾が飛来する。そんななか、分身は重心を落とし大きく身を引く。腕を後ろに引き絞り掴んだ柄に力を込める。「!」カッと目を開くと縦に半円を描き地面を叩き割る力で剣を振り下ろした。
ゴァアアアッ!!・・・グゥゥゥォォォォオオオオオオオオオ・・・・・・!!!!
巨大な白い龍が大きく口を開き、まるで鳴くような轟音を上げて異空間の地を砕きながら飛んで行く。
ドガアアアアアアアアアアアアンンン・・・・・・!!!!!!
今までとは比較にならない爆発と振動。キノコ雲でも作り出しそうな大きな粉塵は、放った分身体すらあっさりと煙に包み込み、異空間全体に悲鳴を上げさせる程の大きな揺れを起こした。
ピシッ・・・ピシィ・・・。
地面や宙にいくつものスパークが小さく走る。僅かに歪んだ空間はたわみ、小波を発生させ、緩やかに元の状態に戻っていく。「・・・」地面を割って振り下ろしていた体を起こす分身体。その目は深い煙に包まれた向こうを睨んで逸らさない。
一陣の風が吹いた。
煙を大きく晴らし、空洞を作ったそこで見た分身体は口角を上げた。
「お見事」
肉体を持たない彼でも肝を冷やす。人間であれば冷や汗を掻いているほどだった。
特殊軍で使用されているコート。その上着は黒く染まり、右肩から腕にかけて青い手甲が燃える様に煌めいている。纏う魔力は彼の体を薄っすらと発光させ、髪の一房には鮮やかな藍色のメッシュが入っていた。無言で見返すドレッドは無傷のまま静かに佇んでいる。まるでこれまでのダメージが嘘の様に見られなかった。
「今のお前は・・・その力を持って何をする?」
知らず知らずに笑っていた分身体はつい好奇心に駆られ問いかけてしまった。それに対し、ドレッドはゆっくり正面へと向き直る。
「決まっている。・・・守る為だ」
地を僅かに白い火花が走っていた。いつ通り抜けたのかも分からない。後方から聞こえた声に、分身体は静かに笑って消える様に崩れ落ちた。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 301
魔法値 314
潜在値 355
総合存在値 708
スキル(魔法):干渉、棒術 8、マナ零子 8、感応 MAX




