398 過剰な試練
「・・・ん・・・」
意識が覚醒したユティはうっすら目を開く。
「・・・」
周囲は視界を遮るように薄く霧に包まれていた。すぐ後ろにあるはずのポータルがない事に少し驚く。
「(・・・どう言う事・・・)」
心なしか肌寒さを感じ思わず身を抱いて服の上から体を擦る。
「(・・・寒い・・・?)」
耐性があるはずの自分が寒さを感じることに先ほどよりも驚いた。警戒心を高め、周囲を見回していると・・・コツコツとヒールで歩く音が高く響き近づいて来る。
「(誰・・・っ)」
薄っすらと見え始めたシルエットに武器を構え、戦闘態勢に入る。
「・・・」
冷たいはずの周囲の空気なのに思わず冷や汗を掻いてしまう。魔力を感じられなかったからだ。誰も味方はいないなか、明らかな異常が自分に向かって近づいて来る。いっその事、自分から責めていく事も考えていた時だった。視界が開け、そこに現れたのは煌びやかなドレスに身を包んだ女性だった。少しだけ身長が高く。ヒールを履いているのも相まってよりその立ち姿からくる所作には風格を感じさせられる。しなやかさの中にある気品と威厳が・・・思わず彼女を黙らせてしまう。・・・いや・・・。
「お久しぶりね」「っ・・・」「ふふ・・・。こうして直接会うのは何年ぶりかしら?」
透き通るような綺麗で穏やかな声。こちらを慈しむ様に目を細めるその優しい表情にはとても安心感を覚える。
「・・・まさか・・・」
違和感は出会う前からあった。寒さを感じる冷気ながらも、そこには決して刺すような冷たさを感じてなかった。寧ろ・・・心のどこかで暖かさを感じるほどだった。
「あの・・・過去の幻影以来ね。あの時は刹那の再会・・・でしたものね。うふふふふ・・・」「・・・」
片手を持ち上げ手のひらを上に、ゆっくりと優しく誘う様に少女へと向かって差し伸べられる。
「あなたは私、私はあなた・・・」「・・・!」
どこまでも優しい口調。それはとても甘く妖艶に聞こえる。そんな彼女の怪しくも漏れ出す魔力に、内包する本当の力が感じ取れず、ユティの表情は強張ってしまう。
(これが・・・試練かと)
一瞬の油断。それが敗北に決する・・・と、心が知らせてくれているようだった。冷える空間なのにジワリと嫌な汗が出て来そうだった。そんなユティに目を細めた女性は口元が軽く弧を描く・・・そして。
「っていえば何となくそれっぽく聞こえない? うふふふふ」「・・・へ?」
先ほどまでの女王様然はどこへやら。ガラリと雰囲気が切り替わり、友達の様な親しみやすさに変化する。それには一気に肩の力が抜ける様な脱力感を感じてしまうのだった。
・・・・・・
「ぉぃ・・・ぉい・・・。・・・きろ・・・。おい、ドーマ」「んっ・・・」
ぼやける視界が定まっていくと自分を見下ろすナルシャの姿がある事に気付く。覗き込むようにして思ったよりも近くから声を掛けられていた事に驚く。慌てるドルゴに対し、スッと立ち上がったナルシャは特に気にした様子もなく周囲を見回すように腕を組む。
「こ、これはナルシャさん」「さっさと起きろ。ここには私とお前しかいないのだぞ」「え?」
いつの間に横になっていたのか、腕に力を入れ上体を起こすと同時に視界に入る情報に心の中で静かに驚きつつも慌てることなく彼女同様、警戒心を高めて見回していく。
そこは円形状に広がる空間・・・所謂、闘技場の様な場所だった。
「会長達は?」「いない。ここに倒れていたのは私達のみだ」「・・・すみません」「私も先ほど起きた所だ。・・・それよりもだ。・・・お前は他の者達を感じるか?」「・・・いえ」「という事は、別の空間に転移したと考えるべきだな」「はい。・・・少なくとも、あの様な高圧的な魔力を発する様な関係ではなかったと自負しております」「なんだ・・・。お前なら、多少はどこかの女性から嫉妬を買っていると思っていたのだがな」「ご冗談を・・・」「冗談ではないさ。少なくとも・・・好意を持たれていると知っているからな」「・・・また詮索しにくい事を」「っと、無駄話はそこまでだな」「はい」
四方に大きく開く巨大な通路。10メートル先は明かりが届かず真っ暗闇。その一つから刺すような鋭い魔力が伝わってくる。ドルゴが換装するとナルシャの前に立って、自分の体すら容易に隠せる大楯を構えた。そんな彼女達の戦闘態勢に応えたかの僅かに振動と駆動音が聞こえてくる。
「ゴーレムの類?」「分からんが十分に警戒しておけ。必ず受ける必要はない」「・・・(コクリ)」
ガシャン・・・ガシャン・・・ガシャンガシャンガシャンガシャン。
音と共に彼女達にまで床の振動が伝わってくる。それと同時に何かを引きずる様な音まで聞こえて来た。「(馬車か?)」とそんな考えがナルシャ達の脳裏に過ぎった時、一足で巨大通路からナニカが飛び出してきた。
「これは・・・」
思わずドルゴは自分達の頭をも軽々と超えて闘技場の円周をグルグルと走っているソレに目を奪われた。厚く踏みしめる機械仕掛けの足とその図体を支える巨躯。時速7、80キロは軽く出しているにも関わらず安定した走りと、くっ付く様に後部に備え付けられた乗り物がバランスよく引っ張られている。
それは、チャリオットと呼ばれるモノだった。
洗練された綺麗なフォルムは光沢に輝き、本物の馬を模した様に見える。しかし、上半身が人型なのがナルシャ達にはモンスターそのものに映る。10メートルを超えそうな大きな槍を携え走る姿は恐怖を感じさせる。引かれている乗り物は機械馬の腹から厚手の布らしきもので膨らんだように覆い隠され、一体型となっている様に見えた。
そんな馬のゴーレムに乗車しているもう一体のゴーレムがナルシャ達を侵入者と捉えいつでも射れる様にと弓を構えて、じっくりと観察していた。
「見た事ない乗り物だ・・・いや」「確か・・・授業で少しだけ習った・・・」「ああ(コクリ)。 現在の魔法技術とは相性と効率の悪さからすぐに撤廃されたという代物だったか?」「・・・しかし、あれならば十分活用可能そうですが・・・?」「あれだけならばな。あの技術の再現は今の世では難しいだろう」「何とも・・・皮肉ですね」「可能性の高そうな者が相手側に付いているのがますます・・・な」
鼻で笑い飛ばしたくなる彼女達だが、そんな冗談を言い合う時間は終わりを告げていた。
ゆっくりと速度を落とし2人の前に歩み寄っていくチャリオット。
「これは・・・騎士道精神・・・というものか?」「どうでしょう・・・? 僕には・・・圧倒的な上からくる品定めを受けている様な感覚です」「ふ・・・つまりは・・・。私達はさしずめモルモットといった所か・・・」「・・・何で笑ってるんですか・・・」「おや。見えないのによく分かったじゃないか」「それはもう・・・付き合いがありますから」「では・・・私の次の行動も分かっているんだろう? っというか・・・それしか答える気はないが・・・」「・・・ええっ」
軽く呼吸したドルゴが気合いを入れ直すと、それを返事だと受け取った機械仕掛けのゴーレムは槍と弓をナルシャ達に向けて構えるのだった。
・・・・・・
「おいおいマジかよ・・・」
バチバチと所々の火花が爆ぜながら、暗く広い空間のいたる所で燃え盛っていた。そんな中、ベラールは思わず遠くの暗闇からゆっくりと火に照らされて現れた3人の男女に顔を引きつらせて、笑えない笑みを浮かべた。それは同じ空間に飛ばされたレックス達も同様だった。かつての英雄達が目の前に出現した事で驚きを隠せずにいる。
「あれ・・・アタシでも知ってるよ? 確か英雄って呼ばれた呼ばれた人達だよね?」「礫積のボルムッドに闇海のヤターシャ・・・臥吞ジルドリック・・・」「ふざけないでよ。どれも総合値でいえば800を超える化け物じゃない」「え・・・Sランク越えかよ」「そんな生易しいもんじゃねえよ」「っ・・・!」「その数字も当時のもの」「ええ(コクリ)。 国の防衛として専属に付く前の記録・・・。実際は1000を超えてるでしょうね」「・・・マジかよ」「(ニャーーーッ!)」
メリリカの言葉に思わず頭を抱え、心の中で涙ながらに叫んでしまうミュティア。
「俺の気持ちが分かったかよ」「ここに僕達が集められたのも・・・これが理由って事でしょうか?」「だけ、じゃないでしょうね・・・」「ニャ?」「・・・く」
双剣を鞘から抜き放ったニーベルが暗闇に向かって苦いの表情を見せる。「ニャ?・・・ニャッ?」少し遅れてミュティアが耳をピクピクとさせて周囲を見回し、何かに怯える。
「な、何だ?どうしたっ?」
わけが分からないままグロッグが2人に声を掛けつつ斧を構え始める。「来た・・・」と静かに発したメリリカは照明を点けるべく上空へと魔法弾を放った。強力な明かりが視界を更にクリアにした時、全員の顔が更に引き攣ってしまった。
ザ・・・ザ・・・ザ・・・ザ・・・。
原形すら留めていない。ボロボロの布でも来ているだけマシと言われそうなゾンビに見間違う様な大量の腐敗したモンスターやらスケルトンが生者を求める様にレックス達に向かってゆっくりと歩いて来る姿がそこにはあった。
「な、なななな何だあれっ!」「ニャーーーッ!お終いニャーーーッ!」「落ち着いてっ!これはたぶん、召喚と生成だから」
パニックを起こし慌てふためく2人の服を掴みメリリカが落ち着かせる。
「召喚と生成?」「ええ。ヤターシャ・・・恐らく彼女のスキル。闇という性質と彼女の魔法が死者と間違う様な能力を使えるのよ。そこらに歩いているのをスケルトンと侮らないで。そこらの冒険者よりもよっぽど頑丈で強力よ」「マジかよ・・・。それもこの数・・・」「1000や2000で済めば御の字ね」「いやいや既に桁がオカシイって・・・」「そんな申し子3人と・・・俺達は戦わなくちゃならねえ。へっ、これが試練っつぅなら受けてやるよ」「ちょっとレックス」
長剣を引き抜き、構えるレックスに色々と言いたい気持ちが湧き上がるメリリカ。だが、既に囲まれた状況ではじっくりと作戦を立てる事もままならなかった。徐々に近づいて来るヤターシャが生み出したモンスター達。武器を引き抜き警戒態勢に入った事で相手側の3人もそれぞれが武器を構え始めた。
「ジルドリックをやる。メリリカとグロッグはボルムッド。ニーベル、ミュティアはヤターシャをあたれ。ベラールとガジェット・・・お前達2人は悪いが周囲のモンスター共を蹴散らしてくれ。何とかそっちに援護を回してやりたいが・・・」「大丈夫だレックスさん。それよりも・・・」「?」「こっちが片付いたら。そちらに参戦しますね」「おいおい、何を言って──」「オレ達は、リエナとパミルに付いて行くと決めた時から面倒事は承知だよ」「それに・・・。 っ!」「「「っ!」」」
ドッガアアア~ンンン!!バキバキバキ・・・!!
ゆっくりとモンスターへと歩いて行ったベラールとガジェットは剣と弓に魔法を付与し攻撃すると、束になっていた所を中心に大きな爆風等が発生し軽く100体ほどが塵へと変わっていった。あまりの光景に驚くレックス達。これには申し子達も立ち止まり、ベラール達に視線を向ける。
「我が儘でも頼んだ甲斐があるってもんだ」「おかげで死にそうな目に何度あった事か・・・」「あ・・・あなた達・・・」
思わず言葉を漏らすメリリカに2人はニッと笑う。
「こちらは大丈夫です。もし余裕があればこちらの方からフォローしますので」「・・・言ってくれるね~」「寧ろ、問題は本命のそっちだろ?」「(コクリ) ここに7人が飛ばされてきたという事は、そういうことでしょう」「っ・・・。 そう・・・よね。レックスっ」「ああ、分かっている。それじゃあ・・・俺達もこの試練に勝利するぞっ!」「「「おうっ!」」」
戦闘の火蓋は切られた。
・・・・・・
光りも射し込まない様な暗い空間。だが自分の体の見ることが出来るくらいのほんのりとした明るさを感じる様な矛盾した不思議な空間。音も無ければ、とりわけそこから変化もない空間。
まるで1人だけ取り残された空間だったが・・・不思議と焦りも不安も起きない。
「(・・・静かだ)」
ゆっくりと息を吸う音すらハッキリと遠くまで届きそうだった。
「・・・。教えてくれないか?」
歩くのを止め、下を向きつつも分かっている気配に問いかける。すると返事が近づいてくれた。
ガシャン・・・カシャン・・・。
金属音が僅かに擦れる音。足音の感覚と気配から1人だと分かる。ゆっくりと顔を上げ音がする方向へと振り向いた時、それは怪しくも惹かれそうな紫と黒い火を金属の隙間から立ち昇らせる。
「(・・・?)」
先ほど同様、敵?と認識するには不思議と強く警戒心を抱かなかった。これはドレッドのこれまでの経験が相手に強い危険性を感じさせなかったからだった。しかし、その考えも一瞬の事だった。
「(その考えこそが、油断か)」
ゆっくりと腰に指した剣を引き抜く。体や刀身の縁が黒い煙の様にチリチリと魔力を視覚にまで現象化させる。そんな彼に再び反応し、全身を鎧で覆い尽くされた大きなソレは紫や黒とは別の赤い火を仮面の目元から外へと溢れ出させた。また、身長3メートルにも上るその巨体の背中から同じく赤い火の魔力を燃え上がらせ2本の腕が剣を持って出現する。
「(これが、試練か?)」
腰を落とし戦闘態勢に入るドレッドに対し、10メートル程手前で制止した鎧。
(ようやくの対話か・・・)「!」(これが・・・天命というモノか?)
耳ではなく直接、頭から話しかけられたドレッド。一歩飛び退り、警戒心を1段引き上げて注意深く相手を観察する。そんな彼の反応に何かを感じ取った鎧の気配が変わる。
(いや、違う・・・。・・・ああ、そうか。ここは・・・お前の意志で無いのだな。・・・そうだった・・・お前はいつも慎重で・・・臆病・・・)
燃え上がっていた紫、黒、赤の火が小さくなる。明らかに落胆していた。
「・・・お前は・・・俺の中の精霊・・・いや、自身か・・・」
スッと視えない仮面の空洞部分がドレッドの顔を見つめる。
(・・・そう。だが・・・お前では、俺を倒すことも、手を借りることも出来ない)「・・・理由は?」(それだ)
間髪入れず人差し指を指す鎧。
(生きていくために・・・。必ず悲願を成就させる為にと・・・感情を殺し、表情を殺し、関係を殺し・・・偽りに生き・・・全てから逃げ続けてきた・・・。その意味・・・お前は、分かっているだろう?)「・・・」(兄だから・・・そんな言い訳は通じない・・・。何故なら──)「それを全て呑み・・・押し殺してきた」(そうだ(コクリ)。 ・・・その結果、お前自身が自分でも分かっていない・・・)「・・・」
ドレッドは戦闘態勢を解き、剣を下げてゆっくりと立ち上がる。目を閉じ、上を向いて大きく深呼吸をすると正眼の構えへと剣を持ち直し、真っ直ぐな目で相手を見据えた。その一連の動作に鎧は呆気にとられる。だが決して呆けていたわけではない。その証拠に鎧の関節部分から先ほど以上の火が全身を燃やさんと魔力を溢れさせていた。
(・・・面白い)
笑っている様な声。腰に指した2本の剣を引き抜き、4本の腕で今にも襲い掛からんと鎧もドレッド同様、腰を落とし戦闘態勢に入ったのだった。
・・・・・・
廃墟群が立ち並ぶようなボロボロの建物。その空間はまるでアルメラで行われた大会を彷彿とさせていた。人の気配もない薄紫に覆われた曇り空が、陰鬱でもの寂しさを感じさせる。
「・・・ここにオレ達を呼び出した理由って何だろうな」「(フルフル)わからない」「あの時の最終戦は、結局アクシデントで流れてしまいましたから」「表向きは問題なし」「でも私達にとっては・・・かなり危なかったわよね」「ん。死ぬかと思った」「うぅ・・・」「おい、今更震えてどうするんだ?」「だって・・・。バッツは怖くなかったの?」「そりゃあ・・・。怖ぇな」「・・・」
あの時、少しでもユティ達の助けが間に合わなければ、あっさりとなぶり殺しにされる未来しか見えてなかった。それは今、この場にいるバッツ、ロロナ、プリメラ、リエナ、パミルの5人全員が同じ感想を持っている。
「あの時は、分かんなかった。・・・めちゃくちゃ差があったんだな」「うん(コクン)。先輩達がいつもいたから・・・どこかで安心してた」「・・・私も。あの場にお姉様やお兄様がいれば・・・迷わず頼ってしまっていたと思います」「・・・そうね」「(コクン)。私達も、ジン君がいれば頼りっぱなし」「えっ?!」「ふ。まあ、そうだなっ。アイツがいると本当に感覚が狂うぜ」「・・・色々と常識が崩れちゃうもんね」「・・・(ジンは一体、どんな生き方をしてきたの?)」
肩を落とし笑うバッツとロロナ。リエナとパミルも同じようで1人残されたプリメラは自分の弟に対する認識に困惑してしまった。「あの・・・」っとプリメラが質問しようとした時、バッツが手を上げ皆を止めた。先ほどまでの和やかな空気が一変、ロロナも真剣な顔へと変わった。いつでも抜ける様に2人が腰に下げた剣の柄を握り締めた瞬間、3人もその様子に気付き周囲を警戒する。
「(ボソ)どこ?」「(ボソ)わからない。でも・・・」「(ボソ)ああ・・・。(二ッ)分かりやすい殺気だな。こっちを敵と見ているみてぇだぜ?」「(ボソ)・・・パミル」「・・・ちょっと待って」
何を?とプリメラは心の中で思いつつも黙って周囲を警戒していると、閉じていたパミルが目をカッと開き「左の2階っ」と建物に向かって風の刃を放った。間髪入れずにリエナも黄色が混ざった火の魔法を飛ばす。
ズン・・・ドガアアアアアンンン・・・!!
「「「っ!」」」
思った以上の破壊力と衝撃波に顔を手で守る3人。一瞬早く、外へと飛び出した何かをリエナ達は見逃さなかった。
「バッツっ」「分かってる」
即座に戦闘態勢へと入る2人。最後方で火の弓を構えていたプリメラは敵意剥き出しならば容赦する必要はないと判断。逃げた先の建物ごと射った。
ヂュボンッ!!
後ろ髪が引っ張られそうなその速度と貫通力は、あっさりと数棟の建物に大穴を開け、退避していたナニかごとダメージを与えるつもりでいた。が、あっさりと避けられ、目の前のアスファルトへと下り立った。
「「「・・・」」」
数は2。全身灰色のボロボロ布に覆われた相手は成人に思われた。だが判別が難しく、責めるタイミングを掴めずにいた。「(誰だ?)」そんな言葉が彼女達の脳裏に浮かんだ時、風に煽られ僅かだがその顔を窺い知ることが出来た。見た瞬間、全員が冷や汗を掻き始める。
「・・・この仮想も含んで、そう言う事かよ」「・・・悪趣味」「・・・でも、いつかは──ううん。明後日には戦わなくちゃいけない相手」「ええ。先ずはここであの時の雪辱を晴らすっ。行くわよ」「リベンジマッチ」「ああ。・・・オレ達は勝つっ。勝ってこの試練を超えてやる」
武器を構え戦闘態勢に入った時、全員の意識が固まった。
「・・・」
デッドグレムゲンのメンバー、アフタネとドトクルを模した何かは無表情のまま、ただ5人の子供達を黙って見つめていた。
・・・・・・
「ぐ・・・ぐはっ・・・!」
ポタポタ。剣を床に突き刺し血を流すロクサーヌ。衣服のいたる所が破れ、無くなっている。満身創痍といった姿。荒い呼吸を繰り返しながらも乱れた髪の隙間から闘志を絶やさず相手を睨みつけていた。
「ですから言ったはずです・・・。あなたは・・・己の魔力に頼り過ぎていると・・・」「くっ・・・」
背中に優しい光に包まれた翼をふわっとはためかせ降り立ったのは、女神にも映る女性。
「今まで、あなたが使えていたのは私との繋がりが強かっただけ。いま、それが断たれ、無力化されてはこの様なのです」「・・・」
悔しい気持ちに歯を食いしばる。そんな彼女を心配そうに、悲しい表情を見せる女神に見える女性。
「・・・あなたには早すぎたのです」「・・・まだです」「・・・」
目を伏せ悲しそうな女性に対し、ロクサーヌは力を振り絞り、立ち上がった。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 301
魔法値 314
潜在値 355
総合存在値 708
スキル(魔法):干渉、棒術 8、マナ零子 8、感応 MAX




