397 盟約の問いかけ
「よっしゃ。まぁコイツが体力のない研究人間っちゅうのも知ってるし、ワイが守っておくわ」「ありがとう、オメロスさん」「気にすんな。これも縁っちゅうもんや」「頼りにしてるね、オメロス君?」「おうっ。まっかせてーや」「・・・」「単純・・・」
大きく胸を叩き得意げな表情になった異界の召喚獣に、呆れる友人。思わずボソッと呟いてしまったリエナの言葉に、他の面々達も苦笑いと納得の仕草を取ってしまうのも仕方なかった。
「弟をよろしく頼む」「オッケーや」「・・・では、兄様・・・」「(コクリ)。扉の先へ進もう」
ドレッドの言葉に全員が返事を返したりと気合いを入れ直すなか、彼はユティへと振り返る。理解した彼女はゆっくりと神殿に向かって歩き始めた。すると彼女に反応したのか、淡く光っていた割れた海水の壁がその輝きを強めた。ロクサーヌ達の光も不要な程の光で周囲は照らされる。
「さてさて・・・何があるのやら」「ちょっと・・・。別にケンカするわけじゃないのよ?」「何があるか分かんねえだろ?」「だからってケンカ腰なのはどうなの?」「・・・体が疼いたとか?」「鬱憤晴らし?」「八つ当たり」「ちょっと・・・皆もふざけないで」
仲間達の妙なノリにため息を吐いてしまうメリリカ。
「先ほどはただ山を登り、お次は海と来ましたからね。ここまでして何もないってのはありませんから。気合いを入れても問題はないでしょう」「うーん。こういう時のレックス達にあまり良い事がないのよね~・・・」「でしたら。そういう所なんだと、逆に考えればよいのでは?」「あまり考えたってどうしようもねえじゃん?」「(コクン)。ここまで来たら出たとこ勝負」「・・・君達は凄いね。私なんて退け腰だよ」
ナルシャ達の切り替わりと潔さについつい羨ましくなってしまう彼女。
「よっし、やっとね」「(コクリ)。ばっちこーい」「ちょっとだけ緊張しますね」「大丈夫よ。私達もいるから・・・ね?」「・・・はい」「(ス―ッ・・・)。っし、気合い入れるか」「サポートは任せて」
やる気十分なリエナと気合いは入っているがどこか緩い声のパミル。少し緊張気味のプリメラの肩に手を置き安心させるロクサーヌ。周りの空気に頬を叩き気合いを入れ直すベラールと、静かに微笑みつつも役割をキッチリと理解するガジェットと・・・皆の気持ちが高まっているのを感じ取ったドレッドがオメロス達に視線を向ける。
「彼女の後に俺が入る。3人はレックスさん達を一緒に入って来てくれ」「りょーかい」「わかりました」「頼んだよ兄さん」「こんなに大勢で来たんじゃ、あっちが可哀想になってくるかもね」
彼等の返事に1つ頷くと、神殿の階段手前で待つユティの側へと近づいて行く。彼女はジッとその10メートルもあるかどうかの分からない先の大扉を見つめていた。
「皆の準備は整ったようだ」「ありがとうございます」「・・・この先については?」「(フルフル)。ただ・・・お姉ちゃんやお母さんの話だと盟約が関係してきます」「約束事か・・・。よほど大切な事なのだろうな」「はい・・・。行きます」
歩き始めた彼女が一歩・・・段差を上った時だった。迎え入れる様に大扉が内側から独りでにゆっくりと開き始めた。少し見ていたユティは更に意を決し、上り始める。続く様にドレッドが・・・ナルシャやリエナ達、レックスにオメロス達が次々と後に続いて行った。
少しだけ高い階段。されど決して長いわけではなくすぐにその奥は見通せる・・・はずだった。
「な、何これ?」
誰が言ったのか分からない。分かるのは扉の先には部屋ではなく海水の様な空間が広がっている事だった。
「異空間の様やな」「そうね。進んでも問題ないわよ」
オメロスとヒーちゃんの言葉に頷いたユティが海底神殿の様な異空間へと入って行く。扉の境目に一歩踏み込んだ瞬間、薄い膜の様なモノを通り抜けた感触がした。空間を跨いだ先には、外とはまた違った景色が拡がっていた。
入口手前の10倍はあるだろう長い階段。その先にはボロボロになった建物の残骸やあちこちに柱だけが残した光景が拡がっていた。外に比べて異空間内部はさらに明るく、天井?付近からは謎の光が周囲を優しく照らしていた。亀裂の入った階段や地面の隙間からは様々な色の海藻も生えており、小さな魚達が群を成して空間内部をゆっくりと思い思いに泳いでいた。
「うわぁ~・・・」「キレイ・・・」「また違った意味で幻想的ね~」「うん」「初めて見る光景ですね」「ふむ・・・。悪くないな」「凄いわね~」「うぉおおお~・・・。っく・・・泳げない」「今度はこういう舞台ってのも悪くないね」
ついつい目を奪われる女性達。
「異空間ってこんな感じなのか?」「なんか気持ちワリィな」「気を付けていけ」「これってやっぱ海の中なのか?」「息は出来る様だ」「(ボソ)システム的には設定したモノか場所に左右されるだろうけど・・・。それでもこれは確かにちょっと妙だな・・・? この異空間だけが特別なのかな?」「・・・」
それに対し、男性陣はドライだった。
そんな彼等とは別に召喚獣達は思わず首を傾げてしまう。
「あっれ~・・・?」「うーむ・・・。どっかで感じた事がある様な魔力なのによね~?」「ホント、どこだっけ~? 後ほんのちょっとで思い出せそうなんやけど~・・・」「「ううーん・・・」」
その時。「!」ユティが何かに気付き1点を見つめた。親友も彼女の反応に気付き、その視線の先に目を凝らした。残骸群の中央・・・妙に開けた広場の様な空間。その中心で小さく細い渦が発生していた。しかし、周囲の魚達は気付いていないのか何の反応しない。海藻もユラユラと揺れるのみで渦に引っ張られているような反応はなかった。
「・・・あそこか?」「(コクン)。そのようだね」
気付いたことに答える様に渦がゆっくり大きく、中央広場の空間を揺らし始める。魚達が自然と離れて行くなか、その空間から先ほどまで無かった小さな建物が出現する。4本の柱で支えられた屋根付きの質素な建物だった。中心に建てられた何かから青い光が発している。それはユティ達の方まで届いてくるようだった。
「来なさいって事かしらね」
軽く息を吐くとユティを先頭に一同はゆっくりと長い階段を下りて、中央広場に出現した建物へと歩いて行った。
・・・・・・
中央には龍の様な姿をした像が建てられていた。その石像の咥えている青い水晶が彼女達に向かって光っていたのだった。後ろを振り返るユティにナルシャ達がゆっくりと頷き返す。確認を取った彼女は水晶へと手を伸ばした。触れたかどうかといった所で周囲の景色が光に包まれる。
「「「っ・・・!」」」
あまりの眩しさに何人かが目を閉じる。次に目を開けた時、何も無い空間に彼女達は立っていた。・・・いや、ユティ達の足場には薄らとガラス細工の様な、薄い膜の地面があった。足元を中心にやんわりと淡く照らした空間。今いる場所を中心に深い海が広がっている様に遠くは真っ暗な景色で何も見えなかった。
「「「・・・」」」
思わずロロナやプリメラ、ミュティアが近くにいたバッツ達の服を掴む。ロクサーヌとメリリカが光魔法を撃って周囲を照らそうとした時だった。ユティ同様、何かに気付いたドレッドが上空を見つめ、手を上げて彼女達を止める。ものすごい勢いで何かが近づいて来た。
「待って・・・」
見えない恐怖から戦闘態勢に入ろうとしたレックス達をユティが静かに止めた・・・その瞬間。大きな波の様な圧が届いてきた。飛ばされそうな勢いではないけど、何かが止まった事を感じ取った。
「「「・・・」」」
ゆっくりと見上げて、よーく目を凝らすと大きく鋭そうな水色の発行した2本の目が彼女達を見下ろしていた。
「「「・・・」」」
ユティ達同様、相手の出方を見る様に巨大なナニかはただ黙って見下ろす。そんな睨み合いの様な硬直状態が続く事数十秒といった所、突然後ろから大きな声が発せられた。
「「あーーーーーーーー・・・!!」」
オメロス達である。
「リーちゃんやーん・・・!」「・・・」
その瞬間、名を呼ばれたナニカが明らかに脱力した様な気配をユティ達は感じたのだった。
・・・・・・
「えっと・・・知り合い?」「ああ、そうや。何ていうか・・・」「昔馴染みね」「いや~・・・異界って、広くてぎょうさんいんのに狭いもんやな~」「「「・・・」」」
先ほどまでの緊張感は一体何だったのか・・・。そんな気の抜ける空気だった。それは向こうも同じようで、明らかにため息の様な鼻息を漏らしていた。
「オメロス・・・。ヒ―もか・・・。お前達、この世界で何をしている?」「え?・・・護衛?」「観光・・・?」「・・・」
ハッキリと落胆した様なため息を漏れる。
「貴様ら・・・。仮にも上位の存在だろう。観光気分で他の世界に来るとは・・・何を考えている?」「いや~、そんな固い事言うなや~」「そうそう。私達もたまたま、偶然、召喚されちゃってね。こっちの世界にちょっとだけ干渉できるようになったのよ」「何?」「ああ。そう気にせんでええで? 呼んだ奴は気に入らんから倒したった」「こっちには・・・まぁ、オメロスの好きで来ているだけよ。あぁ、誤解しないでね? 別に悪さしようとかそんなつもりないから」「偶然とはいえ、こっちでの生き方もようやっと慣れて来た所やし、別にええやろ?」「・・・」
相手の目が細まる。疑っているようだが、当の本人達は嘘を言っていないのでとても堂々としていた。諦めた異界の召喚獣は息を吐くと意識を切り替える。
「・・・まぁいい。お前達が(問題を)起こすわけではないのなら、好きにしろ」「分かってる~♪」「助かるわ~。 このまま異界に戻っちゃうのもつまんないしね?」「・・・それよりお前達。いつまでいるつもりだ?」「ん?・・・そりゃあ」
スカッ・・・。彼女の肩に回そうとした手が空を切る。よそ見をしており、避けられたとは気付かず手をワキワキと彼女を探すように動かしていたが・・・やがて諦めた。代わりに空いた手で鼻の下を擦り、どこか得意気である。
「ま・・・何ていうの? 惚れた女の為?」「「「・・・」」」
それぞれが色んな反応を示すが誰もツッコまない。久しくあった同じ召喚獣ですら呆れ返り、思わずため息を溢してしまう。
「・・・はぁ。一度だって成功した事がないだろう」「はぁ?! ちゃ、ちゃんとあるわいっ。 ちっちゃい頃は・・・エルクシュルちゃんやろ?アッキートアちゃんやろ?ほらベントキュルちゃんやシュシュラカーミちゃんとか」「知らん」
指折り数えて話すが一刀両断。
「はああ゛っ!アンタ、あんな性悪女にも告白してたのっ?!」「しょっ、性悪やないで? ちょっと気難しいだけや。 あの頃ってやっぱ色々と我が儘を言っちゃったりするやん? だからワイもぉー・・・(ボソ)ちょっと、気ぃ惹いてもらえんかな~思て、たまたまヒマな時に一緒に買い物を」「デ・・・デートしたって・・・言うの・・・っ!」「そんなたくさんやないで? たまたま・・・たまたま・・・お互いに都合が会った時に・・・」「へー・・・オメロス君って。結構色んな子と遊んでるんだね」「っ! ち、違うんやシャノンノちゃん。ホント、昔っ・・・! 昔、ちょっとそういう事があっただけなんやって」「ふーん・・・」「し、信じてーやっ」「「「・・・」」」
衝撃を受けたヒーがカタカタと小刻みに震える。気付かないオメロスはただ笑顔だけを向けるシャノンノにダラダラと冷や汗を流している。何の反応も返してくれないのが彼を一層焦らせた。
「「(これでは埒が明かんな・・・)」」
この瞬間。ドレッドとリーちゃんと呼ばれた召喚獣の心情は全く同じ思いだった。
・・・・・・
「おほん・・・。では・・・ここに盟約を交わした一族が来たという事は・・・。答えは決まったという事だな?」「「「・・・」」」
周囲を見回して皆の意志をくみ取ったユティが目の前の召喚獣へと振り返り、しっかりと頷く。
「私達にはどうしても必要なモノなの」「・・・。了解した。それが・・・今代の望みとあれば渡そう」
了承を得た瞬間、年少組が喜びの表情へと変わっていく。
「だが、そのためには・・・」「はい。・・・試練、ですね?」「え?」「試練?」「(コクリ)そうだ。・・・この力は扱いを間違えば、世界にとって災害にしかならん」「その為に見定めると・・・?」「いや・・・」「「「?」」」
ナルシャの質問を否定し、周囲を見回す召喚獣。「私は見届ける」と答えたのと同時にユティ達の目の前には学園で見慣れたワープポータルが現れた。
「これは・・・?」「我、リヴァイアサンはかつての友の盟約により、お前達にかの船を持つにふさわしいのか試練を与える」「「「・・・」」」
体を起き上がらせた?リヴァイアサンは厳かにユティ達を迎え入れた。その雰囲気に一同が緊張感を高める。そんな中、一番にやる気を見せ反応を返したのはレックス達だった。兼業でやっていた冒険者魂に火が付いたのである。
「へへ。そうこなくっちゃ」「なんかこういう感じ・・・冒険社って感じがして良いニャ」「戦って勝ち取る。シンプルで良いじゃねーの」「・・・俺はもっと穏便の方が良い」「ニーベルに同意ね・・・。私も安全に済ませてくれた方が楽なんだけど」「おいおい。ここまで来て、ハイ終了じゃあ味気ないだろ?」「明後日には戦争が始まるってのに・・・こんな所で魔力も体力も使いたくないだけよ」「そこはアイテムで何とかなるニャ」「そうそう。何だったらお前は後方で──っと、何でもねえ。すまん」
睨まれたグロッグはあっさりと口を閉ざす。レックスの視線を受けたドレッドが改めて周囲に確認を取ると全員が‘‘受けて立つ‘‘という力強い表情で返していた。視線をユティに送ると、彼女は静かに頷いた。
「受けます。私達はその為に来ましたから」「・・・分かった」
強い瞳を持って答えるユティの顔をしっかりと見つめていたリヴァイアサン。心なしかその口元が緩んだように見えた。
「・・・? あの・・・?」「(覚醒者3に・・・候補者が1人・・・か。他にも・・・)随分と面白い者達が集まったようだな」「?」「いや、何でもない。(これが・・・託す、という事なのかもな。・・・しかし、本当にこの者達が・・・)」
不安・・・がないワケではないが、これもまたこの世界の流れだとリヴァイアサンは静かに受け入れる。
「さあ、決まった者からこのポータルへ・・・」「・・・・・・ナッちゃん」「ああ。行こうかユティ。私達が勝つための最初の一歩だ」「早く終わらせて・・・またあの場所でのんびりとコーヒーを頂きたいものです。会長」「・・・うん。そうだね」
ワープポータルへと近づき手を翳すと、ユティ達は足元から現れた白い光に包まれ、大量の泡と共にどこかへと掻き消える。
「それじゃあ、行ってくるね」「後はよろしく」「・・・行きます」「行くぜ・・・ロロナ」「うん・・・」「さて、僕らも行くよ?」「おう。どんとこいってんだ」
年少グループとガジェット、ベラールもシャノンノ達にひとまずの別れを告げると彼女達を追って光に包まれていった。
「ジルクト。後を頼んだ」「オメロスさん。皆さんをよろしくお願いします」「兄さん。気を付けて」「んじゃあ、行くぜ」「うおおおおお~・・・!やったるニャ!」
ドレッド、ロクサーヌと続きレックス達もポータルへと近づき泡と共にどこかへと転移したのだった。上空へと消えて行く気泡。急に人が減り物悲しさを覚えるシャノンノ。
「・・・行っちゃったね」「はい。・・・皆が無事に返って来るのを信じましょう」「(コクリ)・・・」「・・・リーちゃん。ユティちゃん達の様子って見られへんの?」「確かポータルって外から中の様子を監視する事が出来るって話じゃなかった?」「「・・・」」「・・・(フルフル) この転移は特殊だ」
それを指し示すようにシャノンノ達の前にいくつもの画面が宙に表示されると・・・そのどれもが転移した先で宙に浮かび揺蕩う姿だった。
「これは・・・どういうこっちゃ?」「私にも詳しくはわからん。ただ・・・受けている試練はその者達によって違うという事だ」「全員が一緒というワケではないのですね」「ああ。少なくとも・・・覚醒者にとっては自分との向き合いが問われるだろう」「覚醒者・・・?」「む?・・・そうか・・・確かこちらでは``寵愛者``という呼び方であったか?」「・・・え?」「・・・ついさっき知ったばっかりだからよく分からなかったけど・・・。アンタのお兄さん達ってとんだ化け物だったのね」「・・・(うは~・・・マジか)」「「・・・」」
知っていたつもりではあったが改めて召喚獣という存在から、その言葉を聞き、ジルクトは1人冷や汗を掻いてしまった。
「・・・」
訂正、オメロスもなぜか冷や汗を掻いていた。
「・・・ユティさん・・・ドレッドさん、ロクサーヌさん・・・。あの3人は申し子って事だったんだね」「・・・あれ?でも・・・」「あー、そういやさっき候補者って言ってたな?それって誰なん?」「・・・」
答える気はないと画面を見つめるリヴァイアサンに、やれやれと肩を落とすオーバーリアクションを取ったオメロスだった。そんな彼とは別にそれぞれのモニター見ながらヒーとシャノンノは確認を取っていく。
「じゃあ・・・あのグループで転移している誰かって事よね?」「・・・誰なんだろう?」「・・・」
誰もが可能性があるのではと疑い出すと切りがないので早々に諦めた。今は目を閉じフワフワと浮かんでいる彼女達が無事帰還する事を願いながら静かに見守るのだった。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 301
魔法値 314
潜在値 355
総合存在値 708
スキル(魔法):干渉、棒術 8、マナ零子 8、感応 MAX




