39 あっけない幕切れと次に向かう場所
今朝、学校に行くと緊急集会を行うらしく体育館で全校集会が行われた。
全校生徒が集まり、体育館で生徒たちが座り、高台に校長が現れ教卓の上に置かれたマイクで生徒全員に聞こえるように話し出した。
最初に挨拶をした後、少々雑談が始まる。
テレビで見たことがあった。
校長の集会で生徒たちの前で話すための手順、マニュアルである。
そのマニュアル通りに話が進んだ後、いよいよ本題に移る。
「え~、この時期に皆さんに言うのも問題になるかもしれませんが、昨日の夜中、ある路地裏で複数の男性が問題を起こし警察のお世話になってしまいました。
その中にはうちの生徒達も含まれていました。
警察に話によりますと、通りかかった女性に対し、不正を働こうとしたところ、たまたま居合わせた警察関係者数名に見つかり、そのまま一時的に身柄を確保するという問題が発生いたしました。
え~他にも、事情があるため詳細は話せませんが三年生の皆さんはもうそろそろ受験も間近というこの時期を改めて、自覚をもって学生生活を送っていただきたく思います」
校長が退出した後、警察の方による再度の注意と巻き込まれない様に警察や大人たちに相談するようその旨が伝えられた。
「(いきなりどうしたんだろう?)」
純が疑問に感じたように周りの生徒達も聞かされた会話の内容から憶測が飛び交っていた。
「どうせあいつらなんじゃねえの?」
「まあ、十中八九そうだろ」
「やめてよね、こっちは受験で親に言われてるのにー」
「ああ、分かるー。
私も言われてるの、もうちょっといい所行ける様に勉強頑張りなさいって」
「こんな時期に!それって遅すぎじゃない?」
それぞれが好き放題話をしている。
「し・ず・か・に!」
ヒソヒソが蔓延して話が大きくなってきたところで教師の一人が止めに入った。
注意されたことで静かになる生徒たち。
しかし、内緒話が完全に止まることは無かった。
「なんでも、通りかかった女の子を襲おうとして捕まったんだって」
「え?でも不正って」
「バカ、考えろよ~。
あいつらがただナンパしてフラれて、はいさようなら何て出来ると思うか?」
「あ~、確かに、いやそっちの方が察しはつくわ。
っで、警察に見つかって捕まったと」
「まあ~、そうなるよな~。
っていうか、捕まってくれたら捕まってくれたで助かるわ~。
いちいちアイツ等に付き合わされるとせっかくの学校が楽しくなくなるし」
「あ~、それわかる~」
何で事件が起きたかより、問題児がこの学校から排除されたことに生徒たちが一番安堵した気持ちでいた。
昔から、問題を起こしてよく起こしていたグループなだけに誰一人として本気で相手の身の心配をする生徒はいなかった。
「(ここまで、来ると凄いな~)」
〔人にとって重要なのは自分に関わる事のみです。
それ以外に割くにはよほど自身の中の価値観や考え方による違いになってくるでしょう。
それが普通の事です〕
「(まあ確かに、自分の家族を犠牲にして全く縁も何もない人を優先して助けるのなんて、その仕事か使命みたいなものが無いとそれは普通は選ばないよな)」
〔その通りです〕
集会は終わり、教室に戻った。
授業も終えあとは帰るだけとなり、サッサと帰ろうと支度をしていると。
「十時影、ちょっと残っててくれないか?」
担任の教師に話しかけられた。
「あの、何か?」
「いや、時間はそんなにかからないから少しだけ付き合ってくれ」
「は・・はあ」
純は仕方なく、帰りのホームルームが終わりを今日の別れのあいさつを終え、生徒たちが各々の目的に沿って向かっていく中、教師に呼ばれた純は職員室の休憩場所のソファーに座るよう案内された。
すると、担任の教師が今朝、全校集会で生徒たちに話していた警察官を一人連れてやってきた。
「・・・あの、話って・・のは・・・」
あまり進んでここによく来るわけではないため妙に緊張してしまう純。
「十時影、お前、豪裡達と仲良くしていたよな?」
「・・・は?」
「友達なんだろ?」
「・・・えっ!」
「・・・違うのか?」
「違うっていうか・・・その・・・脅されていた・・・ていうか・・・」
「?どういうことだ?」
「・・・その、別に友達なんかじゃなかったし・・むしろ、絡んできた・・・っていうか・・・」
教師は純のモゴモゴした話を聞きながら困惑していた。
それを黙って聞いていた警察官が言う。
「・・・やはりそうですか。
どおりで彼らの話が二転三転するわけです」
「・・・いったいそれは?」
「彼らはたまたまあそこに居合わせて、騒動に巻き込まれたと言っていたのですが、そもそもあそこはよく不良のたまり場でして、警察の方でも定期的に巡回ルートに入っているのです。
もしそこに、彼が居れば自然と名前か学校のどちらかが警察間の中で情報共有されるはずなんですが・・・。その話をすると急に口裏を合わせた様に話し始めて、その友達とはどういう関係かを聞くと似た様な話しか答えない、とウチの事情聴取した警察官が話していたのです」
「・・・」
学校の教師達というか、純の担任を受け持った教師は豪裡達とじゃれてケンカしただけのホントは仲の良い友達と勘違いしていたようだった。
しかし、これには理由がある。
純が去年の中学2年の時に1人となった所を豪裡達が面白がってイジメ始めたのが原因で、それを担任の教師に話したことがあった。
すると、どうやってその話が伝わったのか、教師にとっては注意のつもりが、豪裡達のプライドを刺激してしまった。以前は軽く叩いてくるだけのものだったのが、それ以降ケガを負い、体のどこかがアザになることが日常になってしまった。
ヒートアップした豪裡達の遊びはストレスが溜まる度、放課後に純を呼びつけては痛め続ける毎日へと変わった。
純はこれ以降、教師に助けは求められないと分かった。
また、家族にも迷惑が掛かると思い、出来るだけ大ケガや顔に痕が残らない様に蹲り頭を守って、ただただ豪裡達が飽きて去って行くまでサンドバッグになっていたのである。
友達は居ない、クラスメイトには気持ち悪がられ近づかない。
誰も、学校に味方は居なかった。
その中のイジメによる拷問。
クラスメイトだって純に嫌がらせをすることもあるが、豪裡達ほど毎日ではなかったというだけの話だった。
1日1日が毎日が長くどんどんと何も感じることも楽しむこともなく生きていたのだった。
「・・・そうだったのか」
初めて知らされる衝撃に教師は眉間にしわを寄せ黙ってしまった。
「それとなんですが・・・豪裡堅太、明津享介、根黒基毅この3人ですが、以前問題を起こして警察の方で捕らえたことがあります。
特に、明津享介は少々、大事になりまして。
これは、つい最近だそうですが・・・以前のボクシングジムの教室で反りの合わない生徒達とケンカになり、相手方を病院送りにしているそうです。
その問題は向こう側にも多少はあったそうなんですが、それを焚き付ける様な話に持っていき相手を鈍器で殴っていたそうです。
止めに入った、数名も巻き添えになって」
「・・・知りませんでした」
秋津の担任教師も聞いていたそうで話に衝撃を受けていた。
「親御さん事務の責任者たちが話し合いこの事は内々に終わらせたそうです。
しかし、今回の騒動がキッカケでコチラの事も調べることになりまして現在、他にも何か問題がないか事情を聞きに回っている次第です。
豪裡堅太、根黒基毅も明津享介ほどではありませんが過去に問題を起こしているそうです」
「・・・・」
近くにいた教師陣は今まで知らされなかった問題が次々と出てくることに頭を抱えたい気持ちで聞いていた。
「・・・あの、それで・・・俺は?・・・」
「すまない、十時影。
先生は何も知らなかったようだ」
担任の教師は頭を下げた。
「・・・いえ・・・別に・・」
あまりに唐突なことに純は先ほどとは違う意味で戸惑ってしまっていた。
「十時影君のように、脅されたり脅迫され言えなかったという話がほかの学校でもありました。
今回の騒動は彼らがたまたま集まっている所に警察関係者が居合わせたことで初めて明るみになったことです」
「そういうことだったのですか」
「今回は念のため、確認の裏を取るために十時影君に事情聴取を取らせてもらいました」
「・・・」
静かに納得して頷く純。
「以上で確認は終わりです。
何かほかに聞きたいことはありますか?」
代表して校長が質問した。
「問題を起こした生徒ではあるのですが・・・うちの生徒です。
それに、もうすぐ受験が始まってしまうのですが・・・彼らはどうなるのでしょう?」
「・・・少し難しいかもしれません。
何分、これまでは内々で終わらせてきたことが大きくなって起こってしまったので・・・。
今の状態ではまだ何とも・・・」
「そう・・ですか・・・」
仕方がないとはいえ何ともやるせない気持ちでいるようだった。
校長たちが見送り警察が帰って行ったのを皮切りに教師たちはそれぞれの活動に動き出した。
そして、担任教師も純に帰っていいぞと話し、その場での事情聴取は終了した。
「(ちょっと巻き込まれた気はするけど。
特に、厄介な事にはならなかったな)」
〔私の方でも一応未然に防ぐ手立ては考えていたのですが・・・〕
「(どんな風に?)」
〔もし純の家族に降りかかるなら事前に察知し、その場を離れるように促しながら、近くの警察が家族の方へ通るルートに巡回するようにちょっとした細工を・・・。
それを無意識化で働きかける様にと考えていたのですが・・・。
どうやら今回は、何もせずとも誰かが問題を解決したようですね〕
「(若干怖いことを聞いたけど・・・それって意識を操ったりしてない?)」
〔大丈夫です。
そもそも、そこまで強い力ではありませんから。
それに、今の段階では純に幻覚で人を操るような性質の力は向いていません〕
「(そうなのか、だったらいいが・・・・・・俺には向かないのか?)」
〔どう純が成長するかは・・・本心でもある魂に宿っている私でもわかりませんからね。
ここはひとつ、楽しむ余裕をもってその時を待ってみましょう〕
「(う~ん、よくは分からないが。
とにかく、これで一つは問題が片付いたのか?)」
〔おそらくは。
ココから、何かあるとしたらそれこそ最早、直接の決戦で行くことになるでしょう〕
「(できればそうならないことを願うよ)」
純は、帰りの夕日に照らされながら家路についた。
今日は金曜日。
明日の深夜12時が純にとって緊張の走る本当の闘いがいよいよ始まろうとしていた。
「はぁ~。
まったくお前らというやつは~」
スーツ姿の男とその横に私服のラフな格好の女性、秘書のように勤める女性が二人の少女を正座させ目の前に立って説教していた。
正座させられた女の子二人の後ろに一人の同年代くらいの少年が椅子に座ってくつろいでいた。
「勝手に現場近くを調べるなっていつも言ってるだろう。
おかげで、関係のない不良どもをあいつらに押し付けなきゃならなくなったじゃないか」
「ハハハハハ、まあいいんじゃないの?
この子たちに聞いたけど、ずっと下品な笑いを浮かべながら迫ってきたそうよ?
それって、もうセクハラよりわいせつ行為に入るはずだし。
正当防衛って言っても間違いないはずでしょ?」
「だからって、全員に怪我を負わせ数人は病院送り。
これは過剰防衛にあたってもおかしくないんだぞ?
大体彼らはただの一般人、しかも全員学生だって話じゃないか」
スーツの男性と私服の女性が話し合っていた。
そこに、秘書然とした女性が。
「私もあれには、虫唾が走りました。
あれだけやっても罰は当たらないと思います」
「・・・お前も参加したんだって?
・・・それにお前も」
スーツの男は秘書と椅子に座っている少年に言葉と目で訴えを送る。
「・・・ふ、あくまで途中からだよ。
そもそも、俺はこいつらにあの不良どものたまり場になってる所に来るよう連絡が来たから言ったんだよ。
そして、着いたらいきなり戦ってて、言うなれば俺は巻き込まれた被害者なんだよ」
事情は一応聞いているが、面倒事を本来の仕事前に起こされ精神的に少し疲れてしまうスーツ男。
「・・・分かった。
今回はもう終わったことだし、向こうも向こうで色々と問題を起こし怪しまれていた連中だ。
この話はこれで終わる」
スーツ男はため息を漏らしこの話を終わらせた。
その後、急に真剣な顔になりだす。
「お前たち・・・仕事だ」
この一言で、周りの空気が一変した。
「今回は連絡が入った、場所は諸毘志製鉄工場。
かなり大きな場所だ。
今回はここに居る全員だけでなく他のチームとも連携して対処にあたる」
「おお!そんなにたくさん来るの!?
ってことは、大物っ!!」
「慌てるな。
まだそれは判ってない。
だが、大物でなくてもかなりの数が出没することが予想される。
だから、東京支部からも連携チームとは別に数名派遣されると連絡を受けた」
「ということは~いつもよりもいろいろとボーナスも?」
「ああ。国からの要請だ、それなりに色は付けてもらえるように話は付けた、があまり期待はし過ぎるなよ?」
「やったー!ちょうど欲しいものがあったんだよ~」
「・・・なかなか、面白いことになりそうだねー」
「それってことは、もしかしてあいつも来るの?」
「さあ、どうだろうな」
「別に来なくてもいいんだけど・・・」
「ハッハッハッ。
ライバルの子がどんどん強くなっていくのが悔しいのかな?」
「そんなんじゃありませんー」
「ふふふ」
「もう、笑わないで!」
ある一室の部屋の中、6人が楽しそう話し合っていた。
【十時影 純】 15才 人間?(ぽっちゃり)
レベル 1
HP 1 MP 1
STR 1
VIT 1
INT 1
RES 1
DEX 1
AGI 1
LUK 1




