3 用法、用量を正しく守って
どんどん書き続けていきたいと思います。
クリスは教会を出て、自分が今いる街を初めて目にした。
気づけば、ここには気を失ったまま来ていたので、町の事なんて全く知らなかった。
孤児院から教会は繋がっていたため、外には出ていなかったからだ。
「・・・スゴッ!」
つい素が出てしまった。
「そっかー、目が覚めてからまだ外に出てなかったもんね。
どう?これがステイメッカの街よ」
少し小高い丘の様になっている位置に孤児院は在った。
そこから見えるのは白と青のコントラストで彩られ、そこで生活をしているたくさんの人々の姿が見えた。
「人がたくさん」
「ここは中心街というわけじゃないんだけど、大きな協会が中心近くにあって・・・他にも私のようにフェリアーゼ教とは別に様々な宗教がいくつかあるの」
クリスは街の景色にくぎ付けだった。
「だから、教会も小さな所から大きな場所まであるから・・・自然と治療面が・・・一応。他の町よりも栄えているの」
町の説明をしてくれるクレア。
しかし、その強みであるはずの治療に関してクリスに何も出来ない現状に少しだけ引け目を感じていた。
だが・・・クリスが町の風景を見て感動した顔に少しだけ癒されたクレアが気を取り直し説明を続けた。
「ほら、あそこを見て?」
クレアが指差した中央広場近くでは人が密集していた。
「この近くには冒険者がよく行く狩場やダンジョン、少し離れた所には遺跡や洞窟といった場所がたくさんあってね?
冒険者が集ってくるから旅人や商人もたくさん集まってくるの」
「は~~」
ただ生返事しか出てこない。それくらいこの街の景色などに圧倒された。
(東京に住んでたからといって、いちいち大きな建物から町全体をちゃんと見るなんてあんまりしないんだよな~。
ニュースで人通りの多い場所を定点カメラで撮っている映像なんかは見た事あるけど・・・。
人通りが多い場所なんて行きたくなかったし)
地球では容姿などでイジメられていたために自身のコンプレックスが重なって、たくさんの人が集まる様な場所は自然とさけてしまう傾向にあった。
「あそこがメイルアーゼ教会。鐘を鳴らす為に細く高い煙突みたいな建物が3つある大きな建物よ?
あの教会の中には孤児院は無いけど、いくつかの施設を協力して使われているの」
クレアが指を指した方角を見てクリスに説明する。
真ん中の1番高く細長い建物には、大きな鐘が中に入っているのだろう。
周辺を見ると、その煙突の大きさ、横幅や奥行きは一般に並べられている家ぐらいの広さがあると分かる。
その大きな煙突の両脇に、少し低めの細長い建物が2つある。
正面から見ればアシンメトリーのようにキレイに建てられているのだろう。
煙突の下の部分・・・建物の屋根の少し伸びた所で3つが合体しており、クレアの説明を考えると1つのデパートだと思われた。
「その少し手前。
白と黄色と青を所々に入れてるのが、私たち教会と協力してる病院」
他の建物と違って、周りにたくさんの木で囲うようにして病院は建てられていた。
「さらに、メイルアーゼ教会と私達のいる、この教会のちょうど中間あたりにあるのが冒険者達のギルドよ?」
クリスには、この孤児院から屋根部分が少し日本家屋に似ている建物として見える。
特徴的な独特のフォルムをしていた事だけは分かった。
「他にもいろいろとあって・・・食品通りとか、雑貨屋と色々あるんだけど・・・。
まあ、細かく説明するより実際に見に行ったほうが早いと思うわ」
「(まあ、それもそっか・・・)」
敢えて口にはしなかったクリス。
「じゃあ、ちょっと出かけましょうか?」
そう切り出された時。
「クレア姉ちゃんどっか行くのか?」
昼食の時に、急に話しかけてきた・・・おそらく7才前後の、短くちょっとやんちゃな感じの赤い髪の子供がこちらに近づきながらクレアに聞いてきた。
「ええ、そうよ?
これからクリス君に町の案内してあげようと思うの。アーシュも手伝ってくれる?」
そう言われた途端、アーシュはクリスを見て少しだけムッとした顔を向けた。
「え?こいつに?なんで?」
「彼は初めてここに来たのよ?わからないから道案内しないと困るでしょ?」
「・・・そうだけど」
クレアの説明に少し困ってしまうアーシェ。
「(一緒に遊びたかったのかな?)」
クリスにはアーシェの困っている理由が分からないため、そんな事を考えていた。
そんな時に、クリスを改めて見て何かを思いついたアーシェ。
「あ、じゃあオレが町を案内するから、姉ちゃんはキリカ達と遊んであげてよ」
「え?アーシェが?」
「うん」
「でも・・・う~ん」
クリスを心配するクレア。
彼の体の不自由さを気に掛けて、自分がいざという時に対応できるようにと側にいたかったのだ。
「あ、俺なら大丈夫です」
クレアの心配を察したクリスが自分から声を掛けた。
「一応、杖もあるんだし・・・」
「・・・クリス君がそう言ってくれるなら・・・。
うん、分かったわ・・・。
アーシェ、くれぐれもクリス君の事・・・お願いね?
危険な事させちゃダメよ?」
人差し指を立ててアーシェの前で屈み込み、念を押すクレア。
「わ、わかってるよ。
ちゃんと案内するよ」
流石にクレアにそこまで言われたアーシェは、しっかりと案内をすることを約束した。
「それじゃあ、お願いね、アーシェ?
クリス君も、遅くても夕方には帰って来てね。
晩御飯作って待ってるからね?」
「はい」
クリスの返事を聞いたクレアは頷き、孤児院の方へ去っていった。
「・・・クリスだっけ?案内するけど、オレからはぐれないようにな」
「わかった」
2人は町へ向かって歩き出した。
クリスは松葉杖をつきながらなの為、自然とペースは遅くなる。
それに対しアーシュはあまり気にした様子もなく先々行くため、周りを見る余裕も無くついていくのに精一杯になっていた。
「ま、待って・・・はあ・・・はあ・・・速い」
「・・・」
聞こえてないのかスピードを落とすことなく進み続ける。
「ん、・・ふう・・ん、く」
ただ必死についていくクリス。
「・・・・・はぁ」
すると、突然立ち止まり後ろへ振り返って溜息を吐くアーシュ。
「・・・なあ、聞きたいんだけどクレア姉ちゃんのことお前はどう思ってるんだ?」
「んっ・・・ふっ・・・はあ、はあ・・・え?」
追いつくのに必死で何か言われたけどそれどころじゃなかった。
「だから・・・・ん・・・姉ちゃんのことお前はどう思ってのんかって」
顔を少しだけ赤らめて外へと視線を向けながらクリスに聞いて来るアーシェ。
「・・・はい?」
「いや、だから!」
突然の質問に理解が追い付かないクリス。
しかし、アーシェはいたって真剣なようで、クリスに対しかなり真面目な顔になって聞いて来た。
「(そんなこと言われてもついさっき会った人だし・・・)」
クリスは杖に必死にしがみつきながら考え出す。
「(・・・まあ確かに美人さんで面倒見もよくて、いろいろ気遣ってくれる人だけど・・・いきなり聞かれても・・・)」
どう答えたいいのか分からなかったクリスは、率直な答えにした。
「・・・優しいと思う」
「いや、オレが聞きたいのは・・・・いやなんでもない。そうだよなこんな子供に何してんだオレは」
「(君に言われるのはなんとも・・・いや、いいか)」
お互いの間に少しだけ沈黙が生まれた。
すると、突然アーシュが頭を掻き出し、何かを吹っ切った。
「ああ、もう・・・。
はあ・・・この話はもういいか」
一人納得したアーシュは最初の仏頂面から一変、明るくなって話しかけてきた。
「悪いな、歩くスピードが速かった」
「いや、俺も慣れてないから・・・」
「?、前はこうじゃなかったのか?」
「うん(傷口からたぶんだが)。気が付いたらこの状態だったんだ」
嘘は言ってない。
「そうなんだ・・・・・・ごめん」
「いいよ別に」
お互いに初めてちゃんと会話してる気がした。
「じゃあ、ゆっくりいこうぜ。どこか気になる場所はあるか?」
「気になる場所?・・・ギルドかな?」
やっぱり異世界に来たからには冒険者には興味があるクリス。
「わかった。じゃあギルドに行こうぜ」
アーシェはクリスにスピードを合わせつつゆっくりと2人で冒険者ギルドに向かった。
「ここがギルドだ」
「はあ~~~」
アーシュに案内されたクリスは、ギルドを見上げた。
ギルドは町の一般的な建物と違い2階の部屋が手前に出ていたり、4階の部分はかなりこじんまりとしている。
パイナップルの形に少し似たデコボコとした造りの建物だった。
「よし!じゃあさっそく入るぞ?」
アーシェが冒険者ギルドへと入って行くので、クリスも付いて行った。
「おおー!」
クリスは興奮していた。
内装は真ん中正面が受付、入ってすぐの左端にはたくさんの張り紙が張られた掲示板。
右側にはカウンターと十数席の丸いテーブル、一部は2階部分が吹き抜けになっているため、横にも縦にも広い空間に感じられた。
そして、漫画、ゲーム、アニメで見た、エルフ、ドワーフ、獣人といった王道と呼ばれる人達が肩や腰、背中に武器を抱え、防具を装備している。
そんな人達でギルドの中はとても賑わっていたからだった。
「すごいだろ?これでも夕方前だから人はかなり少ないんだ。
人が多いとこんな風に周りを見渡すこともできないぐらい、冒険者で溢れるんだ」
アーシュは得意げに話した。
「・・・これでも少ないの?」
受付カウンターでは2人のギルド職員が対応していた。
そこには十数人が受注か完了の報告待ちをしているのだろう、クリスはそれを呆然とした。
昼過ぎの今の段階で軽く見回しても100人以上はいると思うんだから、この状態でも少し圧倒されていた。
「・・・お前も冒険者に興味があるのか?」
「もちろん!」
アーシュの質問に少し興奮しながら返す。
「・・・でも、今はあきらめるんだ」
「え?今は?」
「ああ。今のお前の体もそうだけど、正式に冒険者として登録できるのは15才になってからなんだよ」
「あ~。そうなんだ」
「ただ、仮登録はできるんだよ」
「仮登録?」
「ああ。正式に登録されないからモンスターとかと戦ってもランクとかに関係ねえんだけどな」
「え?そうなの?」
「仮登録だから、ランクが決まってるんだったよ。
魔物と戦うんじゃなくて薬草をとったり町のごみを拾ったり、町の人の手伝いをしたりするのが仮登録冒険者の仕事なんだよ」
「・・・なるほど。(それもそうか。
碌に戦えない者を行かせていたら死体ばかり増えて商売あがったりだもんな)」
アーシェの説明に、改めてクリスはこの世界の冒険者というモノがどんなものなのかを知った。
「15才になったら正式に入れるから、その時かそれより先に、冒険者としての訓練ってやつを受けて、一人前の冒険者に早くなれるよう、こうりつ?っていうのをよくするんだよ」
アーシュは誰かの言葉の受け売りで言っているんだろうとクリスは思った。
自分でもよく分からず言葉を使っているとクリスも気付いたからだった。
「魔物と戦うわけじゃないのか・・・」
「そもそも仮登録の奴が、1人で街のはずれの森を勝手に自由には行けないぞ?」
「そうなの?」
「?知らないのか?
町の兵士が門で見張りをしているから、外へ出て行こうとしたら気付くぞ?」
「・・・初めて聞いた」
「え?外から来たんだろ?
孤児院に来た時、見なかったのか?」
「起きたら孤児院にいたから・・・」
「そっか~」」
アーシェとは別にクリスも納得していた。
「(まあ、それもそうか。
町にモンスターが入って事故が起きる前に未然に防ぐ。
そのためには兵士を町の中や外周に見回りさせたりするのが普通か)」
「じゃあ戦ったりできないの?」
「いや、弱いモンスターとか害虫なら森に入ってすぐのところとか、ステイメッカの町への通り道に現れたりするぞ?
たまに、見つからない時もあるけど」
「えっ?」
「おまえも町の外から来たんだから結構あってると思うんだけど?」
「・・・。(マジか!一匹も遭遇してませんでしたけど!
確かに町に向かっていた時、野宿してたら遠くのほうで犬なのかオオカミの遠吠えみたいなのを聞いた気がするけど。
会うときはあっさりと会ってしまうの感じなのか・・・。
あぶねー!運がよかったとしか言いようがない。
まともに戦える状態じゃなかったから。・・・本当に良かった・・・)」
かなり運が良かったと気付かされたクリスは安堵の息を吐いた。
そして、ちょっとした好奇心からアーシェに聞いてみたくなったクリス。
「・・・アーシュはモンスターと戦ったことがあるの?」
「フフン。ああ、当然あるぞ!」
よくぞ聞いてくれました!みたいに胸を張ったアーシェ。
指折り思い出しながら話す。
「最近だと、畑を荒らす虫を倒したし、森に行って薬草採取をする時に、スモーラットを8匹は狩っただろ?
違う日の薬草採取の時にココブを5匹倒して・・・。
町のごみ掃除の手伝いをしたときにリンスラがいっぱい出てきてみんなで狩ったな、あれは多かったな何匹と倒したっけな~?・・・30匹ぐらい?」
アーシェは仮登録の冒険者なのか、どうやら他にもたくさんのモンスターを狩っているらしく、こともなげに次々と自分の功績を話してくる。
「そんなに倒せるのに冒険者になれないの?」
「?、ああ。モンスターには個体差?が結構あって、それによって強さが全然違うらしいんだ。
だから、モンスターにもレベルと種族進化?によって強さが違うらしいんだって」
「・・・違うとどうなるの?」
「同じランクでも1つ何かがすごいと同ランクの冒険者が何人か一緒に戦わないとダメなんだ。
最悪の場合を考えてグループを作って戦うことだってあるらしい」
「じゃあ、仮登録と正式登録の冒険者でも違うってこと?」
「いや、それは単純に年齢的なルールの問題だって。
実力的には俺だってもう正式登録でもいいくらいだと思うんだけどな。
仮登録と入ったばかりの正式登録はそんなに差がなかったりするって話だし・・・。
だけど上に行くと、1つランクが違うだけでかなり厳しい戦いになるんだってよ」
「気になったんだけど、冒険者のランクって?」
「冒険者のランクは入りたてがHランクからスタートでAランクまでいくと英雄の仲間入りらしい」
「Aランクまで?」
「ああ、それより上のAAランクがあってさらにその上にAAAランクなんてものがあると噂されてるんだ」
「うわさ?」
「そもそも、AAランクってのが冒険者だけじゃなく世界中の人にとって伝説と言われてる強さなんだよ」
「どういうこと?」
「AAランクに入っているのは世界中でおそらく100人いるかもわからないらしい」
「伝説が100人って多くない?」
「バカ。このシステンビオージではこれでもすげぇ少ないんだよ。
それに1つの国が持っていいAランク冒険者って数が決まってるって話なんだぜ?」
「・・・?」
「・・・はぁ。
いいか、そもそも国じゃなくて、大きな町でもいいけどBランク冒険者がもし数人、その国で暴れでもしたら・・・最悪、1日と持たず国が無くなる可能性だってある。
小さい町なら1人だけで滅ぼせるって話だ」
「えっ?」
「だから、1つの国がたくさん持ってしまうのはダメだって話なんだよ。
世界中の国で決めたルールでそうなってんの」
「・・・はは」
鼻で笑うしかなかった。
「(なにそれ、コワッ!!)」
数より個がかってしまうのか!!
わがままを言って申し訳ないのですが、優しいアドバイスをお待ちしてます。