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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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387 終わりは始まりへのカウント

 ジンとゼクが共に頑張ろうと拳を突き合わせた時、暗闇に包まれていた空間が何処からともなく光りに溢れていった。気付けばジン達はフォーブライト邸の半地下へと出てきていた。


〔どうやら、出てこられたようですね〕「・・・とりあえずは、ここを出ようか。あぁ・・・また服が破れちゃった」(この辺りに残ってたりしないのかな?)〔何年の経っているでしょうし、当時を見た感じですとボロボロなのは確実でしょうね〕「ちょっと申し訳ないけど・・・。レジスタンスの人が居たら、また服を貰えるように頼もうか」(あんな戦いばかりだと、いつかジンは裸になっちゃったりしてね)「ははは。嫌な想像だ」


 歪んだ空間が建物を巨大化させているのかと思ったらそんな事はなかった。フォーブライトの家はやはり豪邸だった。だが・・・映像で見た様に屋根はほとんど無くなっており丸裸になった建物は随分と焼け焦げた痕ばかりで寂れてしまっていた。裏庭に見える花もあまり残っていない。ほとんどが土に還っていた。尤もこちらに関してはジンが最後に悪魔を倒す時に放った攻撃が原因とも見られた。


「生態系を潰してないかな」〔流石にあれでは・・・難しいでしょうね〕(・・・やっちゃったね)「・・・。 ?」


 頭をポリポリと掻きながら申し訳ない気持ちになっていた所、白く柔らかいモノがフワフワと風に揺られて下りてきた。ベルニカという国と季節を考えれば、すぐに分かる事だった。まだ降り始めたばかりの雪はとても軽く自由に動き回っていた。


〔これは・・・積もりそうですね〕「・・・これで、ここの人達は安らかになるのかな?」〔・・・そうですね。そう・・・願いましょう〕(うん・・・)


 感傷に浸って空を見上げていたジン達は再び歩き出す。入り口近くへと来た時、何かが落ちる音がした。気になった彼等が見ていくと、そこにはドミニスクが持っていた剣と炭化した時に見失ったクラレスの杖が寄り添うように落ちていた。


「〔(・・・)〕」


 ジン達はお互いの顔を見て、頷き合うと剣と杖をフォーブライトの玄関付近へと持って来た。比較的、まだ当時の名残りがしっかりと残された場所だった。その暖炉の様な台の上に2つの武器をそっと並べて置いた。一歩離れると手を合わせ彼等の冥福を祈る。降る雪の量が増えてきた。だけど彼等の邪魔をしまいと風すら音を潜めて静かにしているようだった。


〔・・・行きましょう〕「ああ。まだやる事は残っている」(うん。ボク達は・・・あの人達がやろうとしている事を止めたい)「その為にも・・・ちょっとくらい情報が欲しい所なんだけど・・・。ん?」(どうしたの?)〔久々ですね〕


 ポンと軽く頭の中に響く電子音。ジンは久しぶりにステータスボードを開いた。


「随分と成長したな~」〔そりゃあ、あれだけ大変な目に遭いましたからね〕(おお~・・・。他には?)「ん?」


 促された事でステータスの横にあるタブを押してクエスト欄を開く。



【  共に世界へ還せ  】



(どういう事?)〔ふむ・・・。可能性として考えられるのは、悪魔が最後に話していた使徒に関係しているのではないでしょうか?〕「使徒の一部・・・。その神の下へ帰りたいんだな・・・」(・・・。か、帰れる場所があるってのは、きっと良い事だよ)「〔・・・〕」


 元気付ける様に、それでいて相手の事を思うゼクの言葉に少しだけ驚いてしまうジンとサポート。


(えっ、あ、ゴメン。何かいけない事を言っちゃったのかな)「ふ・・・」〔いえ。あなたはそれでいいと思いますよ。私達とは違う視点で考えても良いのです。ゼク・・・あなたは凄いですね〕(えっ、へ?ボクが?)「うん(コクリ)。俺達なんかとは全然違う」(そ、そんな事ないよ。ジンだって、サポートだって・・・)〔ふふ。そうしておきましょうか〕「そうだな。早くここを下りよう。街の外に居るのかな~?」(あ、ちょっと待ってよ~・・・)


 彼等は表情には自然と笑顔が溢れていた。去っていくその後ろ姿を屋敷の中でぼんやりと白く浮かび上がった人影がいつまでもジン達を暖かく見守り続けたのだった。


 ・・・・・・


 街を出て、なだらかな坂を下っていると遠くには一台の馬車が止まっていた。その横に2人ほどが周囲をそれとなしに見回しながら話し合っているようだった。ジン達を見つけると慌てた様に走ってくる。


(誰?)〔初めて見ますね~?ですがこちらに敵意はなさそうです〕「レジスタンスの人達かもね」


 ゆっくりと歩きながら、前にも見た光景だなと思い出していると2人がジン達の前までたどり着いた。


「あなたがジン君ね。私達はレジスタンス。エンシル達から聞いてここにきていたのよ」「随分探したのにいったいどこに居たんだ?」「え?あの町に・・・」「私達が来てから7日も探していたのよっ!いったいどこに隠れていたのっ!」「え?」(7日も)「うわっ。なんだコイツ・・・喋るのか?」「えぇっ!」「ええ?」(え?)〔思ったよりも随分とあの空間に長くいたようですね〕


 全員の驚きと疑問を置いてサポートは冷静に状況を口にするのだった。


 ・・・・・・

 ・・・


 時は遡り・・・。


 首都ベルニカのとある一軒家の前。人通りがない早朝、老夫婦の見守るなかジンとマリティカは別れを惜しんでいた。


「・・・ジン様。ここからはこの方のお家でお世話になるのですよ。あまり我が儘をおっしゃらない様に」「・・・マリティカは・・・?」「私には・・・やらなくちゃいけない事があります。ここでしばらくお別れになってしまいます」「そんな・・・」「ご心配ありません。すぐとは参りませんが・・・必ず、あなた様の下へと戻ってまいります。街も港も厳しいチェックが入るなか、私といると却ってあなた様に危険が及びます。どうか少しの間だけ、ご辛抱ください」「・・・本当に帰って来る?」「はい。もちろんです」


 不安そうに人形を抱え見上げるジンを優しく抱きしめて答えるマリティカ。幼い子供を1人残す自分自身を心の中で責めながらも、ゆっくりと彼女はジンと離れた。「この方をお願いします」と頭を下げる彼女に老夫婦は笑顔で頷き返した。少しだけジンを見つめたマリティカは、後ろ髪を引かれる思いを何とか振り切って、霜と町が出す蒸気の煙に紛れる様に姿を消したのだった。


 ・・・・・・

 ・・・


 そんな記憶がフと蘇ったのは、適当な瓦礫の上に座った自分に寄りかかる様にして眠っている妹と仕えた家の少女が居たからだった。


「・・・良かった・・・」


 自然とその言葉が出てしまった。


 首都で起きた騒乱はついさっき沈静化した。ゴーレムは滅ぼし、テロリストと共犯したアーマー部隊や機械兵もその全てが倒されていた。マリティカ達の近くを数名のファーラン兵と遅れてやってきたベルニカ兵が残っている残敵や市民達がいないかと見回っていた。


 ・・・・・・


 崩壊した玉座の間、兼臨時作戦室。


 そこへ1人のエルフが護衛騎士を2人ほど連れて入ってきた。


「失礼させていただくよ」「あなたは・・・」「私はミゲイラ・コン・フォラウスト。国王ゼテルク・ミュート・フォラットの命により、有事の際の救援に参った者だ」「あなたがファーランの懐刀・・・」「その呼ばれ方は久しぶりだな。ドレッド・フォーブライト君」「っ!失礼しました。ファーランのご尽力のおかげで市民への被害を少なく済ませることが出来ました。感謝します」


 ドレッドを代表としてラナットやベルニカの兵士達が頭を下げる。何故、ファーランがあんなに早く居たとかの理由にはおおよその見当がドレッドには付いていた。


「気にしないでくれ。私も貴国には憂慮していた。まさかこのような事になろうとは・・・。僅かばかりの戦力しか送り込めなかった事。こちらこそ申し訳ない」「いえ。厳しい中での密偵を含めたあの数。そうそう簡単に動かせる者ではないと理解しております」「・・・君のその姿を見れば。ご家族もさぞ喜ぶ事だろう」「・・・だと、いいのですが・・・」


 ミゲイラは視線をシートで覆われた箇所へと向いた。ドレッドにジェスチャー混じりに確認を求めると小さく頷いて案内される。周りが道を開けるなか、1人、シートに包まれた端を持ち上げ中身を確認する。


「・・・君は、何を焦っていたのだ・・・」「・・・」


 聞きたい気持ち。言いたい気持ちがあるが、その当の本人にもはや語る事は出来なかった。


「これは一体どう言う事だっ!なぜ首都がこのようなっ。ファーランが何故ここにいる・・・?!」


 ずかずかと玉座の間へと向かって尊大な態度を取って入ってくる男の声に、ミゲイラはシートをゆっくりと離す立ち上がって振り返る。


「貴様っ・・・!ファーランの狐がどうしてここにいるっ!」「将軍。先ずは落ち着いてください」「ドレッドッ!貴様もだ。何故ここに居るのだっ」「やあやあ、これは将軍、久しぶりじゃないか。今まで何処にいたんだい?首都がこんなに大変だったというのに」「くっ!ワシは市民の安全を守るために──」「港に左遷されてたんだと。それで首都でとんでもないことが起きてると聞いて、軍を連れて戻って来たんだと」「っ!何だキサマッ!」「彼はレジスタンスだよ。この騒動を僕が寄越した兵達と一緒に鎮圧に協力してくれたんだ。テロリスト達から市民を守り、戦ってくれた者達をそんな言い草はないんじゃないかな~?」


 事情がまだ呑み込めていない将軍と連れ立ってきた兵士達はミゲイラの言葉を信じられずにいた。レックスはただの緊急時の案内人程度だと解釈していた様である。周囲の空気と視線から、どうやら嘘では分かって来ていたが、プライドが素直に頷けなかった。


「ぐっ・・・。そんな世迷言、だれ──」「事実です、将軍。彼等の尽力が無ければ被害はもっと酷くなっておりました。最悪壊滅すらあり得たのです。あなたも街を見たでしょう?」「馬鹿なっ・・・!」


 信じられないと大きく開いた壁の向こうに広がる首都を見る。そこには今もなお残った襲撃者の捜索と、遅れた避難民や遭難者、生き残った者達が居ないかを3つの勢力が協力し合う姿があった。遠くからでもその行動は各地で確認できる。


「首謀者はレネッタ。協力者に皇帝の側近だったレダ。我が隊のヒース、フーバ、ディアス。・・・そしてデッドグレムゲンです」「貴様の・・・隊、だと?」「はい。レネッタが裏から手を回していたと考えられます。彼等を押していたのは貴族の過激派です」「馬鹿なっ!それではっ」「はい。今回の騒動は始めから決まっていたのです」「ドレッド・・・。貴様、よくも抜け抜けと」「返す言葉もありません」「お言葉ですが。隊長は決して、見過ごしていたわけではございません。証拠を集め確信を持ち、会議に持ち込むために」「ならばこの事態はどうだというのだっ!お前の失態であろうがっ!」「それは君にも言える事だよ。彼だけを責めるのは筋違いだ。・・・将軍。君がすべきことは誰が責任を負うかの言及か?」「っ!」


 感情に任せ、身勝手な振る舞いをする彼に釘をさす様に見るミゲイラ。その顔は笑っているがとても冷たく、彼に同調する空気が周囲に居る兵士達からも感じられた。将軍達は思わず、後退りしてしまいたくなる気持ちを何とか踏み止まる。そんな彼等にため息を溢し集中を集めるドレッド。


「いずれ、私も裁かれる事にはなるでしょう。理由はどうあれ部下の裏切りは上司の失態ではあります。ですが協力した貴族、並びにその背後にいた者達にも然るべき罰は受けて頂きます」「・・・君がそれでいいのなら。私はいいが・・・周りを悲しませるのだけは避けた方がいいよ。これ・・・僕の経験談」「肝に銘じておきます」


 刺すような殺気が無くなりホッとする将軍達。


「将軍、もう一つ重要な事が」「・・・なんだ」「あちらへ」「?」「「「?」」」


 案内されるシートの前。しゃがんだドレッドが端を持ち上げ、中身を見せた将軍達が恐れ慄いたように後ろへと下がる。口をパクパクさせていた将軍は、何とか言葉を吐き出す。


「っ・・・ぁ・・・。き・・・き、ききき貴様。まさか皇帝陛下をっ・・・!」「私ではありません。皇帝ベルトルンを殺したのは、ルグルット皇子です」「なっ!」「事実だ」「はい。嘘ではありません」


 信じたくないという表情に、目の当たりしていたレックスとラナットが頷いて答えた。


「この場合、無理矢理、皇位を継承したとも取れるんだけど・・・。そんな単純な話じゃないよね?」「はい。皇子はレネッタと共にゴーレムに乗ってどこかへと姿を消しました。現在どこへ向かったのかは不明です」


 事前に情報を得ているミゲイラがわざと将軍達に理解させる様にドレッド達に促す。


「始めから皇帝陛下を殺すことも・・・」「うーん、それはどうだろう?」


 将軍の言葉に疑問を抱いたミゲイラが当事者たちに視線を送る。少しその時の状況を思い出すドレッド達。


「私個人の意見では・・・。少なくとも死に際。以前実家でお会いした事のある皇帝陛下に近かった印象がありました」「フォーブライト家に訪れていたのかい?」「ええ。度々、仕事だと称したりして遊びに・・・」「はっはっは。僕と気が合いそうだ。・・・本当に残念だ」「はい・・・」


 続いて他のレックス、ラナットへと視線を向けると・・・。


「オレはこの国も皇帝をよく知らねえよ。冷たくて厳しい能力主義者。そんな事しか聞いてなかったからな」「まあ・・・そうだよね~」


 それにはミゲイラも分からなくはないと同意する。


「ただ・・・あの瞬間だけは、何て言えばいいのか・・・。人間味があった気がするな。民の事を心配して、白衣着た女に聞いていたからな」「「「っ」」」「私も彼と同じです。最後の瞬間だけは、お会いした中でも一番、人に対して真摯に向き合っている様に思えました」「では・・・」「考えられるのは・・・彼女です。奴の経歴だけが必ずどこかで途絶え白紙になるのです」


 ようやく納得してきた将軍。詳細が分からず悩むドレッド。そこへフとレックスがある事を思い出した。それはレネッタに対し、ロクサーヌが言った一言だった。


「そういや・・・アンタの妹だっけ?何かアイツを別の名前で呼んで、驚いてたな」「・・・確かに。ロクサーヌなら何か知っているかもしれない」「ロクサーヌ?アイツもここにいるのか?」「はい。外にいたゴーレムを部下と共に掃討してもらった後は、街の災害救助にあたっております」「・・・では、後で聞こう。・・・私は軍を指揮する。あの状態では今日を過ごすのも苦労するだろうからな」「・・・お願いします」「・・・」


 将軍は部下を引き連れ、玉座を出て行く。その顔には先ほどまでの横柄な態度は微塵も感じられなかった。それを意外そうに見てしまうレックス。


「もっと粘ると思ったんだけどな」「あの人も国を思う気持ちは一緒だ。今は救助を優先したんだろう」「ふぅ~・・・。さて、ここからが大変な事になるぞ?」「「え?」」「ミゲイラ様はどうお考えでしょうか?」「様は要らないよ。君達には色々と助けられてるからね」「はい?」「ああ、いや。こっちの話だ。ふむ・・・まあそうだね~。ここでこんな大規模な置き土産をしておきながら、あっさりと見ることなく去って行った。そうだよね?」「はい」「だったら・・・」「「・・・」」「統一戦争は、まだ始まっていないって事だろうね」「「っ」」「少なくとも・・・今回を超える規模で・・・世界に向けて戦争を始めると思うよ」「・・・ベルニカもその対象、ですね」「「「っ!」」」


 言葉にせず頷いたミゲイラにドレッドを除く、居合わせた者達全員が驚くのだった。


「こうなると各国は協力し合わなくてはならない。今の世界を守るために、ね」「よろしくお願いします」「・・・君にはベルニカの代表に立っていただきたいのだがね」「残念ながら・・・3年前のあの時。フォーブライトにその資格が失われました」「はぁ~。厄介だね~。皇は死んで、皇子は国外逃亡かな?一体、誰が統治するのやら・・・」「貴族派閥が何か言って来るでしょうね?」「立つのは構わないが・・・大丈夫なのかい?それなりに今後の国を左右する重要な責任だけど・・・?」「はっ。保身や欲ばかりの野郎共じゃ。すぐにボロが出るぜ?」「ま、その辺りはそっちで任せるよ。いなくなった皇家の代わりを誰かが務めるしかないし」「・・・。頭が痛い話ですね。隊長」「・・・全くだ」


 一難去ってまた一難。それでも着実にこなして行かなくては先に進めない。ドレッド達は意識を切り替え、先ずは目の前の問題解決から手を伸ばすのだった。


 ・・・・・・


 複数の足音が歩く通路に響く。硬質な音が返り、通路内を反響するが暗くてよく見えなかった。足元を照らす点線に沿ってレネッタを先頭にルグルット達は歩いていた。


「なんだここは?」「いいから私に付いて来て。ルグルット」「(ボソ)いいな。あんな感じでオレも名前を呼ばれたい」「ああ、無理無理。だってお前、甲斐性無えじゃん」「はあぁっ!どこがっ?!こんな、尽くしてあげたくなっちゃう男のどこにそんな魅力を──」「フーバ、うるせえ。この建物、響くんだからそんなギャンギャン吠えんなよ」「オレは犬じゃねえよっ!」「分かったから、もうちっと静かに歩いてくれ」「(ボソ)はぁ・・・ガキの遠足か」「・・・」


 通りを抜ける明かりが見えてくる。迷うことなく進むレネッタに手を引かれルグルットが部屋の中に入って行った。そこは巨大な円筒の様な空間だった。直線で100メートル以上ありそうな広すぎる部屋の中央には、巨大で角張った四角形とも五とも六とも見えるいくつも厚いプレートで増設した柱が建てられていた。


「何だあれは?」「あれは機械。古代の遺産だよ?アルメラでの映像は、あの機械を小さくしたモノが聖堂教会の地下に隠されてるんだ~」「へー・・・。え?聖堂教会?」


 理解できず彼女の方を向いた彼に口元に笑みを含ませ答える。


「そ。協力者・・・」


 ・・・・・・


 オーラル首都。


 ウガム司教は先日起きた女王暗殺未遂事件の真相を確認するために、城の一室で待っていた。現在は首都の治安を代理として公爵が務め、安定してきていた。そこへ来てのベルニカからの宣戦布告である。ピリついた情勢の中、快く受け入れてくれたことに彼は感謝していた。


「こんな時に大変申し訳ありません」「いえ。中立という立場。そちらも大変な事は承知しております」「それと・・・そのスメラルジザイア女王陛下の容態は・・・?」「あぁ・・・」


 チラッと周囲を確認する案内してくれた兵士。何かを警戒しているのだろうと察したウガムが口に出すよりも先に兵士が彼に耳打ちする様に近くへと寄った。


「(ボソ)実は・・・本当の事はいまだ伏せる様に言われているのです。女王襲撃の首謀者は司教様も拝見されたと思われます手配書の子供ではないのです」「っ・・・。どういう・・・事でしょうか?」


 更に一歩近づき、周囲を警戒。ウガムに視線を合わせないまま兵士は話す。


「(ボソ)この襲撃は・・・偶然その場に居合わせたという侯爵と伯爵が仕組んだ罠だったと知らされております」「何ですとっ。あっ・・・」


 思ったよりも大きな声が出てしまい慌てて口を手で覆う司教。扉や窓、壁の向こうを人が居ないかを警戒する。気配がない事を確認してゆっくりと手を離し・・・兵士と小声で話を続けた。


「(ボソ)すみません」「(ボソ)いえ。こちらも気を付けるべきでした」「(ボソ)ですが・・・その様な重大な事を・・・」「(ボソ)司教様なら大丈夫だと思われたのでしょう。そうでなければ公爵様も・・・女王陛下もお許しにはならなかったと思いますので」「っ! (ボソ)では、女王陛下はご健在であらせられるのでしょうか?」「(コクリ)はい。(ボソ)ですが・・・計画が失敗に終わった貴族のお2人はそのまま消える様に姿をくらませました。虎視眈々とまた狙っているのやもという事で、表向きは公爵様が警戒網を敷き。女王陛下には休まれて、有事の際には立っていただこうと・・・」「(ボソ)なるほど・・・。しかしこんな時に、宣戦布告とは・・・」「(ボソ)はい・・・。女王陛下も公爵様もどうも予定が重なり過ぎると、周囲を警戒している状況です」「(ボソ)貴重な情報。ありがとうございます」「いえ。何かありますと私が上司に叱られてしまいますので」


 社交辞令を言ってスッと離れていく兵士。タイミングを見計らったように、扉の向こうからノックの音がした。近づく足音に気付いていたのだと思われる。あまりの情報に驚いていたウガムは居住まいを正す。「失礼します」と言って入ってきた兵士の手には、当初の目的だったモノが白い布で包む様に持たれていた。スッと立ち上がるとウガムは兵士の前へと進む。


「こちらでお間違いないでしょうか?」「っ・・・。はい、合っております・・・」


 少しだけ跳ねる鼓動。大会の催し物にして創慧法国アルメラにとっては最大のイベント。その大会後に自分が慕う枢機卿が、ある子供に手渡した大切な懐中時計。細部の部品には職人のこだわった技術が詰まっており、時計の裏には始祖アルメラの横顔が刻まれている。レプリカで作ろうとここまで細部を精巧に作ることはしない。これが授けられるのは枢機卿の地位に立った者のみ。見間違えようがなかった。


「それでは・・・」「はい。確かに・・・」「もし、何かございましから・・・私はすぐ傍で待機しておりますので」「ありがとうございます」


 布ごと壊れた懐中時計を受け取ると兵士達は部屋を出て行った。1人残されたウガムは大きく溜め息をつきたい気持ちを抑え、ゆっくりと知覚のソファーへ座り直す。目の前のテーブルにそっと置き、欠けた懐中時計を詳しく確認しながら考える。


「(先ほどの話が本当なのだとしたら、大変な事態です。中立の立場で介入するのは無理が生じてしまう。人々を守るためならある程度は通してくださるでしょうが・・・)それもどこまで・・・。 ?」


 思わずつい自嘲気味に溢してしまった言葉。そんな時だった、キラリと部屋の照明に反射する紫に光に目がいった。時間を指すことも出来なくなった時計の中、壊れた箇所からその気になる光は漏れていた。ウガムは慎重に両手で持ち、外側のカバーを外す。すると中にはかなり小さな部品が所狭しと入っていた。その中の僅かに開いた空洞部分。そこに小さな紫色の宝石が取り付けられていた。


「(何でしょうか?)」


 親指と人差し指でゆっくりと取り出した彼は天井にある照明に当てて中身を確認した。多少なりとも癒す・・・治癒魔法に精通していた彼は大きく目を開いた。紫色の小さな宝石には僅かに魔力痕が残っていたからだった。その魔法の断片を見た彼は、視線を下へと落として呆然としてしまう・・・。


「・・・枢機卿・・・」






  【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 301

 魔法値 314

 潜在値 355


 総合存在値 708


 スキル(魔法):干渉、棒術 8、マナ零子 8、感応 MAX

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