37 後悔した、あの時より・・・笑顔のあなたに・・・
クエストをあきらめ帰宅中。
断念した純は何気なく外を見て家に近い最寄り降りるまでバスに揺られながら時間を過ごした。
「ただいま・・・」
純は声に力なく吐き出した。
結局、何の成果も無かったため、精神的に少し疲れていた。
純の声に気づいた長女の美月が廊下に出てきた。
「あれ?純お帰り~。
今日はどうしたの?ずいぶん遅いけど」
「あ・・うん、ちょっと気分転換に駅の近くの本屋に寄ろうかと思って・・・」
「え?あ、そうかそうか。
あんたもそろそろ受験だったわね。
ふふ~、何だったらお姉ちゃんがお勉強見てあげようか?」
「え?・・あ、うん。
そうしてくれると助かるなー」
「わかったわ。
じゃあ、さっそく、あんたの部屋に行くわよ?」
「え?今から?
帰って来たばっかなのに・・・」
「つべこべいわず。
ほらっ、さっさと行くわよ?」
姉の美月は楽しそうに純を連れて行こうとした。
「あら純お帰り。
今帰ったの?
ご飯できてるからさっさと食べて頂戴」
「あ・・・はい」
義母の咲恵に言われリビングに向かった。
「美月・・・あなた、課題はもういいの?」
「ん?・・うん、もうやる必要があるものはとっくに済ませたから。
それに、大学の春休みがそろそろ始まるのよね~。
ついでだから、この機にお母さんのお仕事の見学しようかと思ってるんだけど?」
「ああ、この前言ってたあれね~。
いいわよ?・・・それよりも、そんなに暇なんだったらお母さんの仕事内容を見せるから参考が欲しいのだけど?」
「それは良いけど・・・大丈夫なの?
私部外者だけど・・・」
「いいのよ・・・いくつかあるマーケティングの資料からのアンケートみたいなものよ。
まだ決定段階の前の参考資料だから」
「う~ん。お母さんがいいならいいけど・・・」
「あら?どうしたの?」
「これから純の受験勉強を見てあげようかと思って・・・」
「ああ~そ~ね~。
ま、純がそれで良いなら構わないんじゃない?」
そんな話が廊下で交わされる中、純はリビングに入りうがい手洗いをして食事の用意されたテーブルに着いた。
「いただきます」
純は黙々とご飯を食べ始めた。
「・・・純、お前がその恰好をするのは珍しいな。
どこかに出かけたのか?」
「え?・・あ、うん。
ちょっと駅の方の本屋に寄ろうかと」
「・・・そうか。
まあ、お前の事だ。
少し受験でナーバスになってしまったんだろう。
たまには息抜きも必要だ」
「・・・うん」
ぎこちないが、それでも、こんなに両親と会話することがあまりない純からすれば珍しく親子らしいものだった。
それをソファーでゆっくり本を読んでた次女の紅百葉が横目で温かく見守っていた。
長男の昂輝はスマホをいじり、三女の夏奈はバラエティー番組を見ていた。
そして、9時前、バラエティー番組を見終わった夏奈がチャンネルを変えた時、純は衝撃を受けた。
「えー、現在も木田福製鉄工場前に居るのですが、現在、中の油か何かが引火したのかいまだ火の手が上がっています。
ご覧いただけるように、今なお煙が激しく中の様子が見えません。
今消防隊が懸命に消火活動にあたっていますが、火が弱まるにはまだまだ時間が掛かりそうです」
それは、生中継で話されている様子だった。
カメラの切れ目にはたくさんの野次馬が出来ていた。
建物のすぐ手前の入り口に消防車が何台もあり消火活動に追われていた。
入口付近は昇華されたが中は炎が激しく燃え盛り、一部が天井を突き破り燃え上がっていた。
「前田さん、なぜこんな事態になっているかもう一度教えてもらえますか?」
「・・・・・はい。
時刻は午後7時13分ごろ。
この工場近くを警察官が自転車の盗難車チェックのために通る方に事情聴取をしていた所、一人の男が急に暴れだし、この工場に逃げ、工場手前に合った車を盗み運転して逃げようとしたところ、急発進して工場に突っ込み中の鉄製品を破壊しながらも操縦、しかし、何を見たのか突然叫びだした後トラックの中の物を手当たり次第に投げた模様、その一つのライターが漏れた車のガソリンに引火してしまったようです。
しかし、幸い気づいた付近の従業員が叫び他の従業員たちに知らせ避難は出来たようですが、奥の方に居て気が付かなかった従業員3名取り残された状態となり安否が未だ分かっておりません」
「裏に逃げたとか分からないのですか?」
「・・・・えー、従業員の話だと、取り残された従業員は建物の2階にいた模様で爆発を聞きつけた時には遅かった模様。
他の従業員の方もすでに気づき裏から避難しているものだと判断していた模様です。
しかし、一人の従業員が裏に行くと扉の一部が破損し出られなくなっていたようです」
そんな緊迫した会話が行われていた。
「(・・・これって・・・)」
〔・・・おそらく、突発クエストです〕
「現在、火の手が上がって一時間以上が経過しております。
未だ、火が衰えた形跡がありません!」
「はい、前田さんありがとうございました。
引き続き何かありましたらご報告よろしくお願いします」
「・・・わかりました。
現場からは以上です」
「えー、ここからは、緊急でご連絡させていただいた、工場の火災に詳しい専門家との連絡が今つながっております・・・ーーー」
専門家の高齢なおじいさんが火災がこんなに大きくなった原因についてを詳しく話しているが純にとってはどうでもいいことだった。
純は急いでステータスを見た。
ステータスは純にしか見えてはいないため、変に細かく動い辺り怪しい行動をとらなければ、まず変には思われなかった。
【突発クエスト】失敗
ただ、それだけが表示されていた。
それ以外に何も情報は無かった。
しばらくすると、そのクエスト表示も消えタブが無くなった。
純は呆然と、未だアナウンサーと専門家による事故の話をただ遠くから聞き続けている。
「・・・純、どうしたの?」
純の止まった姿が気になった紅百葉が聞いてきた。
「え?いや・・・何でも・・・ない」
「・・・・」
純は返事を返すだけだった。
それから、食事を手早く済ませ、部屋に戻ろうとしたところで美月に話しかけられた。
「・・・ごめん、純!」
「どっ、どうしたの?・・・突然」
いきなり謝って来たのでびっくりする純。
「ついさっき友達から連絡があって、今から課題を付き合わなくちゃならなくなったの」
「そ、そうなんだ・・・」
「ごめんっ、勉強はまだ今度見るから今日は無しで、お願いっ」
「う、うん。わかったよ。
それなら仕方ないしね」
「・・・ありがとうね、純」
それだけを言った後、美月は自分の部屋に行った。
友達と連絡しながら大学の課題を済ませるようだ。
純も自分の部屋に行き、今起きた、事故についてを考えることで精いっぱいになっていた。
「(・・・あの時、俺が残っていたら何か変わっていたのかな・・・)」
〔わかりません〕
「(もし、あそこで身体強化を使っていれば、こんな大惨事も少しは減らせたのかな?・・・)」
〔不明です。
少なくとも、あそこまでの事故を未然に防げたかどうかが判りません。
ただ・・・〕
「(ただ?)」
〔何かは出来たかもしれない・・・と。
しかし、あくまでそれは可能性です。
起きてしまったことに、``もし``も``たら``も無いからです。
純が悪いわけではありません〕
「(・・・そんなの・・・わかってるよ)」
力なく返事をし落ち込む純。
頭では分かっていても、知っていながら何も出来なかった。
見過ごした結果、取り返しのつかないことをしてしまったのだ、強く心に刻みつけてしまう。
〔純・・・あなたは正義のヒーローではありません〕
「(わかってる)」
〔あなたが出来ることはたかが知れています〕
「(そんなの前から知ってるよ)」
〔・・・すぐに解決しようとはしないでください。
あなたには、あなたの守りたいものがあり、失いたくないものがあるはずです〕
「・・・」
〔あなたが自己犠牲で何かをしても、、何の影響もないかもしれないのが、この``世界``というものです〕
「(・・・かもしれないだろ?
・・・だけど・・・)」
純は自分のために身を守り盾になって死んだクレアの顔を思い出していた。
あの時、自分は助かったんだという安堵の気持ちと目の前で必死に戦い亡くなった彼女の顔がどうしても、自分の心の醜さを、浅ましさを見ているようで凄く後悔した。
あの最後に見せた笑顔が、純の、クリスの心を強く打ち付けた。
あの笑顔が自身の今までを受け入れ、優しく手を伸ばしてくれたことを・・・。
今の純は、果たしてクレアの願いに答えられているのか?
そんな気持ちが押し寄せてくる。
``あなたなりでいいから、できることで助けてあげて``
純がクリスとして、クレアに託され残された遺言のようなものだった。
〔・・・願いは時に呪いになります。
もし、クレアがあなたに願ったのなら、それはあなた自身を犠牲にすることなくという事も含まれているでしょう〕
サポートは純が強く意識してしまった光景から読み取り助言する。
「(・・・うん、そうだよな。
クレアさんがそんなこと望んでないことは分かっている。
これは、勝手に自分で決めつけてしまっていた我が儘だ)」
〔・・・〕
「(・・・だから、今度は・・・。
次こそは、自分の犠牲に・・・家族の迷惑をできる限り避けて、そのうえで頑張ろうと思う。
・・・矛盾してると思う。
無茶苦茶だと思う・・・でも、俺は決めた。
俺が出来る範囲で精一杯生きて足搔こうと決めたから!)」
純は気づかぬうちに出ていた涙を拭って、ノートパソコンを起動した。
現在、午後10時を過ぎていた。
ネットニュースには工場での話が大きく掲載されていた。
午後9時半ごろ大きく上がっていた火の手が引くように小さくなり鎮火。
そして、中に消防隊が突入、焼け焦げた焼死体を3人回収したと書かれていた。
そこには、ビニールシートに包まれ運ばれている写真が映し出されていた。
純は黙ってネットニュースに書かれた、事故の状況を目に焼き付けていた。
自身の心をもっと強く持つ覚悟を決めて。
その時、通知音に似た音を聞いた。
スマホからではなく、純の頭の中に聞こえるように。
純はステータスを覗いた。
そして、タブがあり、スライドさせて新たな表記を見た。
【突発クエスト】まで
諸毘志製鉄工場
71時間24分56秒・・・55・・・54・・・
あの突発クエストが表示された。
「・・・ここは・・・」
〔木田福製鉄工場の大手本社にあたる工場ですね〕
「(ああ。そうだな)」
純は先ほどのニュースにも関連して書かれた工場名を確認していたので頷いた。
〔発生時期は3日後、深夜12時ちょうどになります〕
「(・・・家族にバレない様に家を出ないと。
それに、何が起こるかわからないから動きやすい格好で行こう)」
〔はい。それと、今日のようにお姉さんが突然、勉強を見ると提案してくる可能性があります。
事前に予定を組んでおきましょう〕
「(そうだな。
・・・そっちは今日は早めに寝る予定と言っておこう。
睡眠不足で集中力を欠かさない様にとか何とか言って。
それじゃあ、さっそく場所と距離と道を調べておかないと。
今日みたいに、着くまでに時間が掛かりすぎると困るから)」
〔その時は体内マナを自身の中だけで巡回させて走っていきましょう。
そうすれば今の純なら、並のスポーツ選手も呆気にとられる速さで移動可能です〕
「(・・・俺ってそんなに早く走れるのか?、こんな見た目で・・・。
っていうか、中だけで循環か~、それを維持するのは難しいんだよな~。
少しの間は出来るけど・・・気づくとマナが外に漏れてしまってるし・・・)」
〔ご安心を。
純は少しずつ上達しコントロールが上手くなっていますし、何より私がいます。
純のマナをコントロールできるようサポートするのも私の務めですから・・・〕
「(・・・そうか、じゃあ、頼むよ)」
〔お任せください〕
「(3日後という事は土曜の深夜か)」
純たちは着々と計画を進めていった。
〈実績:あの時はホッとした を獲得しました。
生き恥をさらしても生き残る を獲得しました。
思い込みと呪縛 を獲得しました。
忘れていた覚悟を 獲得しました。
決める想い と獲得しました〉
【十時影 純】 15才 人間?(ぽっちゃり)
レベル 1
HP 1 MP 1
STR 1
VIT 1
INT 1
RES 1
DEX 1
AGI 1
LUK 1




