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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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369 還る場所

「これがそれっぽいね」(うわ~・・・すごくキレイ~。これが・・・幻想的?ってやつなんだね)〔どこからそんな言葉を、ってあーそうか。ユティあたりですね〕


 森の中に広がる花の様な結晶群。薄暗い空には月明りの様な星がジン達を照らすと同時に宝石の花々を色鮮やかに輝かせていた。

 淡く輝くそれは、角度が少し違うだけで周囲を優しく反射して明るくさせていた。

 そんな中をジン達は草を踏みしめ、通路になっている道へと見回しながら歩いて行く。


「・・・なんかここだけかなり明るくて違和感を感じる」〔この花々にはそれなりのマナが含まれております。恐らく大気などのマナと反応しあって照らしているのでしょう〕(うん。なんかすっごいよ。・・・でも、凄い静か・・・)


 楽しそうに飛び回っていたゼクは立ち止まり、どこか寂しそうな表情になって見つめていた。


「?・・・それはどういう?」(・・・うーん、分かんない。なんかボク達のマナってホントはもっと・・・動き回る気がするんだ)〔ここのマナはとても落ち着いた、安らかな場所の様ですね〕「・・・ああー、そういう事か」


 可能性を忘れていたわけではない。しかし実際周りを見てもすぐには気付けなかったのは事実だった。

 静かで穏やか、時折吹く風は優しくジン達を撫でる。


「ゼックン。・・・ここは多分、お墓なんだよ」(?・・・お墓?)


 振り返ってジンを顔を見る。それから改めてゆっくりと周りを見回す。


〔鎮魂・・・。ここは亡くなった方々のお墓なのですよ。ゼク〕(じゃあ・・・これって・・・)「・・・マリティカさんに見せてもらったのと、大分違うけど。たぶん同じモノだよ。これは残った遺品なんだよ」(・・・これ、全部?)〔はい〕(・・・)


 再び吹いた風は、どこか悲しみを残す声の様にも聞こえた。


 ・・・・・・


 少しだけしんみりした気持ちを引きずりつつも、ジン達は先へと進む。


(?なにあれ?)〔トンネル、ですね〕


 それはガーデニング用で使われるような細く白い柵がトンネル状に設置され、結晶化した蔦がその周りに絡みついた入り口だった。

 事情を理解しなければ、本当に庭の一種に勘違いされそうである。


「行くしかないか」〔ですね〕(・・・うん)


 この先へは一本道しかなく、他は花と木で覆われていた。

 周囲を確認したジン達は、ゆっくりとトンネルの中を潜って行く。


(・・・ふわ~、ここにも花)〔これも亡くなった方のモノなのでしょうか?〕「マナで分からないの?」〔内包されていますが希薄ですね。こうなってしまうと、その辺りの生えている木や草とあまりに変わらなくて判断が難しいです〕「思いの一部が残っている感じなのか?」〔分かりません〕(・・・でも、悲しいけど怖くはないよ?)「〔・・・〕」


 元気を取り戻したゼクの表情にジンとサポートは笑顔になって頷いた。


「そうだな」〔そうですね〕


 いつものゼクに戻ってくれたことを嬉しくも思い、またいつの間にか落ち込んでいた気持ちを明るくさせてくれた事にも心の中で感謝する。

 こういった素直な気持ちを時折忘れてしまうジンとサポート。先頭を行く癒しを与えてくれたゼクに付いて行く形でトンネルの中を歩いて行った。


 気付けば200メートルほど続いた道にも出口が現れる。


〔・・・先ほどと似た様な場所ですが・・・あの中央は何でしょう?〕(え?どれ?)


 マナを通してフライング気味に見えているサポートに釣られ、ゼクは小走りする様に飛んで行った。


「中央?・・・慰霊碑ってやつ?」〔でしたらもっと手前に建てませんか?ここはかなり奥ですよ?〕「それもそうか・・・。なんだろ?」


 疑問に思いつつも目の前の出口を見つめる。

 徐々に開けていく視界には先ほど同じく結晶化した花達が所狭しと咲き乱れていた。


「・・・ん?」


 思わず首を傾げてしまった。


 トンネルを抜けた先にある道の最終地点。

 緩やかな坂になった頂点には丸い石が置かれていた。

 遠くからではよく分からず近づいて行く。先に到着したゼクもよく分からないのか、その周りをグルグルと周りいろんな角度から見ている。


〔・・・何でしょう。中心の方に濃いマナを感じます〕「・・・それは何となくわかるけど・・・」


 結局アレはなんだ?という疑問が出てしまう巨大な岩だった。離れた場所からでも既に見えていたので、なかなかの大きさだという事は分かっていた。


 側まで近づいた事でようやくわかるがその岩はかなり大きく、全体的に3メートル級はありそうなほどデカかった。

 お饅頭の様な楕円形をしたそれは、元々なのか風化なのか、細かく視れば凹凸が見られる。

 長い年月、この場所に置かれていたのだと分かるほどの風格を感じられた。


「・・・墓?」〔まあ、そう考えるのが妥当でしょうね〕(こんなお墓もあるんだね)「〔う~ん〕」


 肯定は出来るんだが、なんか微妙に違う。そう言った気持ちが乗ってしまった。


〔とりあえずせっかく来たんですし、何か手がかりを探しましょう〕(うん。終わったらご飯)


 ジンの背負ったカバンの膨らみに気合いを入れ、周囲を探し回るゼク。


「(・・・ここで合ってんのか?)」


 念のために懐から取り出したコンパスを羅針盤に巨大化させ、確認する。

 場所は間違っていないらしい。向かうまでは指し示したポイントに波紋が波打つように表していたのが現在は点滅していた。・・・だが、これ以上のヒントがない。


〔どこかに隠し部屋があったりとか?〕「いや、どうだろう?」


 ぐるっと巨大石の裏へと回る。足元や周囲を調べるがどこにも掘られた様な土の後がなかった。


「埋めるにしても土の色は誤魔化せないと思うんだけど・・・」〔魔法でどうにか出来るのではないですか?実はこの石に仕掛けとか?〕「専門がそれを言う時点でお手上げね」〔もう少し待ってください。真剣に調べますから〕


 からかう意味で言ったつもりはなかったのだが、それを挑戦と受け取ったサポートが周囲をくまなく探し回る。何となく、そんな感覚を体の中で感じながらぐるっと一周回って来たジン。

 手を顎に乗せじっくりと岩を観察する。月明りなどで薄っすらと照らされた凹凸に何らかの痕跡がないかを確認するが、特にそれらしいものは見つからなかった。


「うーん・・・。やっぱどっかなんじゃないのかな?」〔・・・〕


 話しかけるなという無言の圧みたいなものを感じた。

 仕方ないとゼクの方を見るが、彼もすり抜ける精霊の体を活かして、花群や土の中を滑走していた。時折``どこ~?``という声が微かに聞こえてくる。


〔・・・本当にここなのですか?〕「羅針盤はここを指していただろ?」


 数十秒後、何も見つけられなかったのか不満の声が上がった。


〔他の場所と間違えていませんか?〕「いや。他の場所でこんな反応があったか?ここ以外にないと思うんだけど?」〔それは、そうなのですが・・・。ジン〕「?」


 サポートの声が堅くなったことに反応が少し遅れた。

 ゆっくりと振り返ると女性がトンネルの側に立っていた。


「(・・・マズいか?)」〔ここは敷地ではないと思いたいですが・・・〕


 冷や汗を掻いてしまう。女性はゆっくりと落ち着いた歩みでジン達の下へと登ってくる。

 探し回っていたゼクもその存在に気付いたのか、急速で飛んできた。


(え?だれ?)


 それはこちらも聞きたい気持ちだった。


「・・・ここで何をしているのです?ここは遊び場ではありませんよ」「え、あ・・・はい」「・・・」


 到着早々、注意される。怒っているという程ではないが見下ろされている身長差と、目的からついつい申し訳ない気持ちもあって適当に愛想笑いをしつつ、頭を下げてしまう。

 そんなジンを頭からつま先までをじっくりと黙って観察する女性。


 それはジンも同じだった。月に照らされても分かるくらい白い肌に胸元をハッキリと見せる形の紫色のドレスやとヒールの様なブーツ。その綺麗な立ち姿や山には少々不釣り合いな服装ですぐに何処かのお偉いさんだと分かる。


「あなた・・・ここの出身者ではないわね」「あ、はい。ちょっと旅をして来ました」「(こんな子供が?)あなた、1人なの?」「え・・・ああ、はい。まあ・・・」「・・・」


 歯切れの悪さに、怪しむ女性。しかし、周囲に視線を送っても誰もいる気配がしない事でとりあえずの納得をするため息を吐いた。そして先ほどよりも柔らかな声で話しかける。


「・・・先ほども言ったように、ここは子供の遊び場ではないの。ここまで頑張って登って来たのかもしれないけど、もう遅い時間よ?帰りなさい」「(ですよねー)」


 オーラルは常に夜空。その為、時間間隔を忘れがちだが観光ついでに来たので、現在は夜の8時を超えていた。


〔仕方ありません。また明日にしましょう〕(ええ~っ)


 ジン達は女性の横を通り抜けて来た道を下ろうとした時。フと聞いておきたい事を思い出し、振り返った。


「あの・・・この岩って何ですか?これもお墓の一部?」「・・・そうね。確かにお墓ね。ふ・・・もっとも──っ!」「?」


 振り向いた女性が目を大きく開き、固まった。


「(・・・あれ?なんかした?)」〔マナに乱れがありますが、特に敵意は感じられませんね〕(え?知り合い?)「(いや、初めて見るけど・・・)」


 流石にこっちに来る前の知り合いではどうしようもなく、地雷を踏んだかもと焦る。


「(思い込んでるだけ?・・・いえ、それにしても・・・)」「?、あの・・・」「あ、いえ。ごめんなさい」


 思わず顔を隠すように背を向けてしまった彼女。最近の夢を思い出す。


「(・・・全く、こんな返事はないんじゃない?)」


 ジン達に見えないと事で口元を綻ばせてしまう。そしてゆっくりと深呼吸した。


「このお墓は・・・いえ。これは聖女がいた事を残す軌跡の岩なの」「軌跡?」「ええ。ここは・・・アルメラが最後に居たとされる場所よ」


 そう言って女性──スメラルは優しく岩に手を触れた。


「アルメラって・・・世界を救ったっていう」「そうよ。よく知っているわね」


 側に寄って来たジンに優しく微笑むスメラル。


「彼女は世界を救った。人類が一丸となって生き残るための導き手となってたくさんの人々を助けに世界中を回った。それはここも一緒」


 細く美しい手が滑らせるように岩を撫でる。


「彼女の旅はいつも1人だった。従者を従える事を好まなかったそうよ。寧ろその従者達に中央大陸。今は形も変わってしまったけど、創慧法国に救った人々を向かわせたそうよ」「神の恩恵が残り、他の大陸ほどの天変地異を受けていなかったから・・・」「そう。当時は唯一の人類の安住地だったと言われている。・・・でも不思議な事に、アルメラ本人はその中央大陸に留まる事はほとんどしなかった」「救う事が目的だった?それでも危険過ぎたんじゃ」「恩恵があった。使命の為か、彼女の周りではいつも救いの手が・・・奇跡の様な出来事が起きていた。地震も嵐も津波も、火山の噴火さえも・・・アルメラの周りだけはいつも安全だった。それで救われた者達は数知れない。彼女が差し伸べた手を取った者達はそのほとんどが無事に中央大陸に生き延びたという歴史書まで残っている」


 そんなバカなと鼻で笑いたいジン達だが、実際、創慧法国アルメラの首都に在った大図書館にはそのような記録が残っていたのを覚えている。

 どこまでが真実かは不明だが、法国はその当時に建国されて以来変わっていないとあった。

 嘘だと決めつける事も出来なかった。


「渡らずに生き残った者達もいるという話だけど・・・。その数は極少数。一説では潰えて、生き残り達は存在しないという話もあるそう。ほとんどは逃げ延びた大陸の先で共に手を取り協力し合って、現在に至る。私達はその子孫、ふふ」「?」「ああ、ごめんなさい。・・・話を戻すと、アルメラは救済に一区切りを付けたという話だそうよ。その時、最後に彼女の姿を見せたのがここ。現在はお墓になっている場所よ」


 サーっと吹いてきた風に髪を抑えて周囲を見回すスメラル。


「鎮魂の星畑。ここにある花の結晶ってやっぱり」「そう。これは霊石種達が最期に残す花の結晶。霊石種は死ぬ時、体内にある宝石が花の形になるのよ。自分自身、あるいは残った家族の為にこの世界に居た事を証明するかのようにね」「・・・この花は最後にどうなるんですか?」「砕けるわ。残った魔力が世界に還元される最後・・・人知れずゆっくりと砕けていくの。そうして全てを還し・・・またその魔力は現世に戻ってくる。ここは終わりに最も近く。そして世界と最も繋がる場所。霊石種達はもちろん、生命の帰る場所なの。だからこそ、荒らしていい場所ではないの。観光の1つという形は取っていても、あまり中までは入らせないようにしているのはその為」「あ、すみません」「(ふるふる)いいのよ。あなたはそんな事をするために来たようには見えないから。今回は許します」


 微笑んだその顔は最初の頃とは全く違い、とても慈愛に満ちていた。

 話を聞いていたジンは何かを考えジッと岩を見つめた。


「?どうかしたの?」「・・・どうして、アルメラはここを訪れたんだろう?死ぬと分かっていたから?」「・・・どうでしょうね。彼女がここを訪れたのは20になるかどうかだったという話です。恩恵を受けている身で病気というのは考えにくいですね。・・・確かに、どうしてかしら?」


 当たり前の疑問の1つ。彼女の最後の痕跡がここであり、色んな仮説は立てられていた。

 しかし、そのどれもが証明する確かなものでは無かった。

 ジンの疑問も尤もで、簡単に思い浮かぶものの1つでしかないはずだった。

 だが改めて考えた時、何故かスメラルにはフと違和感や疑問にあたってしまいそうな何かが過ぎった。それが何なのかは上手く掴めないが、とても大切な事の様に感じられた。


「(何故?)」


 胸の中がざわつく。当たり前すぎた見落としがあるのではないかと思い始めたその時だった。

 岩が薄っすらと輝き出し、ジン達の目の前の空間が歪み始める。


〔これは・・・〕


 小さく中心に渦を巻き始める空間。引っ張るような力はないが、引き寄せられる何かを感じ、目が離せない。

 胸の中で感じたジンがコンパスを取り出すと羅針盤に変わり、光が空間に向かって細く伸びていた。


「・・・どういう事なの?」「・・・すみません。どうやら行かなきゃならないようです」「それって・・・待って・・・!」


 思わず手を伸ばしジンの肩を掴んだスメラル。

 不安そうにしている彼女に、ジンは笑顔で答えた。


「ちょっとだけ、行ってきます」「っ・・・!」


 自分の行動、落ち着いたジンの態度、今起きている現象、色んな事が頭の中で焦燥と共に駆け巡る。

 そして・・・一瞬だけ、親友の顔が浮かんだ。

 意を決めたスメラルは、しっかりとジンを見つめる。


「後で色々と聞きたい事があります。だから・・・無事に帰ってきてちょうだい」「・・・分かりました」


 彼の意を汲んだスメラルは背中を押した。

 何故こんな状況になったのか意味が分からない。ジンも彼女の言葉に思わず苦笑してしまいつつ、無意識に受け入れてしまっていた。

 しかし不安がないワケではない。歪みから危険な魔力は感じないが得たいが知れないのは確かだった。


「(大丈夫・・・。あの時とは違う・・・)」


 自分に言い聞かせて、空間に進もうとするジンの背中を見守った。

 そうしてジンが中心の黒い焦点に手が触れた時、一瞬だけ輝きが強くなった。

 思わず目を閉じそうになるのを必死に堪え見届けるとやがて淡い光へと落ち着いていった。

 渦から薄っすらと風に揺れるカーテンの様に縦波へと変化する。

 その手前でジンは突っ立っていた。


「?どうしたの?」


 そう言ってスメラルが声を掛けて近づくが反応を示さない。不審に思い顔を覗き込む様に見てみると目を閉じたまま立っていた。


「(どういう事?)何かあったの?っ!」


 軽く肩に触れた時、ジンの体が何かに固定された様な抵抗を感じた。

 どういう事かと、勝手ながら自身の魔力を使い、彼の状態を調べる。


「(・・・催眠に近い状態?・・・どういう事?何でこんなに魔力量が少ないの?)」


 目の前の少年の情報から次々と疑問が湧いてくる。


「(・・・それでも魔力は落ち着いてる)」


 少しだけ取り乱しかけたが、呼吸と共に落ち着き払い。目の前の空間を見つめる。

 何となくだが微かにジンの魔力が伸びているのが分かった。


「(帰ってきてね。・・・ジン君)」


 親友が赤子を抱かせてくれた当時を思い出し、つい笑みをこぼれてしまう。

 優しくその肩を手を乗せ、スメラルは彼の帰りを待つのだった。






  【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 136

 魔法値 145

 潜在値 153


 総合存在値 251


 スキル(魔法):干渉、棒術 6、マナ零子 5、感応 4

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