346 静かな戦い
「ええ?!学生の通報?」「正確には注意喚起です、ウガム司教。今までは全て、首都や隣町で起きていた騒動なのですが・・・今回はどうやらここで起こるかもしれないと・・・」「・・・わざわざ学生を会場に集めて警備を固くしたのですか?」「はい。高等部と軍。空いている者達にそれとなく協力を頼んでおいたのです」「・・・」
案内された部屋に緊急で駆け付けたウガムは、運営責任者の言葉にどう答えたらよいか迷ってしまう。
少し取り乱した心を落ち着かせ、周囲の警備に気を遣い、そっと耳打ちする様に近づいた。
「(ボソ)このような事、流石に市民の方々も不審に思われますよ。冗談で済まされることでは・・・」「(ボソ)知らせてくれたのが前日の申し子の1人であっても、ですか?」「っ!」
またしても大袈裟な反応をしてしまった事に気付き、警備隊に頭を下げて再び責任者に顔を突き合わせる。
「(ボソ)確かな情報なのでしょうか?」「(ボソ)確証は無いとのこと。しかし・・・注意しておいて損はないと・・・。非常に落ち着いた振る舞いをされておられましたが・・・あの目には何か確信めいたモノがありました。私としても住民と大会の為を想い、この様な手段をとった次第です」
前のめりになっていた体を起こし、自分の中で反芻する。
「・・・。中止をするには弱く。またたくさんの方々の不満に繋がる・・・。分かりました。枢機卿も協力をしてくださることでしょう」「ありがとうございます」「私の方で出来る事は?」「緊急時の救援と安全に避難させることをお願いします」「分かりました。同行して頂いた信者達には、ステージ付近で警戒してくれている皆様のサポートに向かってもらいます」「よろしくお願いします」「それで・・・その報せてくれた方は・・・?」「・・・狙われる可能性を考えて・・・あちらへ」「・・・なるほど」
誘導された先。遠くに拡がるそこには疑似的に作られた山々や街並みがあった。
「一般ではなく学生を・・・」「命の重さに違いはありません。ですが、後々を考えると、どちらの方が周りに響くかを考えられたのだと思われます」「数か月前にもありましたテロを想定して、ですか・・・」「はい。司教もお分かりの通り、この大会でその様な事が起きれば・・・。それは世界中に大きな波紋となってしまいます」「中立国でその様な蛮行を許しておくわけにはいきませんね。急ぎ手配します」「よろしくお願いします」
一礼して、ウガムが退出すると同時に運営側も動き始める。
その心は・・・何としてもこの大会を何事もなく終わらせるという気持ちだった。
・・・・・・
「うっひゃあ~・・・もうスモールワールドって感じだな」「はっはっは・・・。初めて大会に出る者達は皆その様な気持ちだと思うよ」「バッツの田舎者ー」「お前も一緒だろうが・・・!」「・・・ね~えドルゴさん?なんか私達の腕輪、初めて見る気がするんですけど・・・?」「ちょっと大きい・・・」「初等部は中等部よりもまだまだ魔力の扱い方が未熟な上に、我々の戦いにも参加するのですから・・・。何かあった時の為にと強く保護されているのです」「へ~・・・」「ふーん・・・」
授業等や今大会で見てきた物よりも厚く、ちょっとだけ重めの腕輪を不思議そうに見る少女達。
「今年はどこの初等部も豊作だと聞いたからね。大会とはいえ、万が一は起こしたくないという運営側の配慮だろう」「はぁ・・・」「そーいうモノなんすね。・・・あれ?待てよ?って事は俺達って・・・」「ああ。紛れもなく、優秀だと思われているよ」「ぃよっしゃー・・・。やる気出て来たー」「・・・」
簡単に調子に乗る幼馴染の少年にため息と共に呆れてしまうロロナ。そんな光景を微笑ましく眺めるナルシャとドルゴ。
不意にお互いが視線を見合わせると、気付かれないように小さく頷いた。
「代表者の皆様。スタートまで10分を切りました。離れていた皆様は指定された持ち場へと集合してください」
アナウンスに従い、ゾロゾロと代表達は決められた指定エリアへと移動を開始。
バッツ達も戦意を高揚させながら集合場所へと向かって歩いて行った。
「(ボソ)ドーマ・・・分かっているな」「(ボソ)もちろんです」
気合いを入れつつも、その後ろ姿はどこか楽しそうな初等部の子供達。それとは違い、中等部の面々には違う意味で緊張感が高まっていた。
「全く・・・。周りを気にしながら、大会を勝てなんて・・・無茶な注文だ」「僕はいつも似た様な事を言われ続けている気がしますよ」「君は出来るからだ」「光栄と受け取っておきます」「その意気だ」
軽く背中を叩いたそれは信頼の表れだった。
(ぼくも守るよ。みんなの事・・・)
誰も見ていなくとも、ゼクはそう固く誓うのだった。
・・・・・・
・・・
大会が始まって20分が経過・・・。
元々、各チームも情報を集めつつ、持ち味を活かした大胆な行動に出ようとした者達もいたが・・・蓋を開けてみれば、スタートから今までは静かな立ち上がりだった。
少し不満そうにする観客達もいたが、概ねはそのキッカケがいつ始まるのかを見守る姿勢のようだ。
その期待とは裏腹に、中等部の指揮は慎重であった。特に連絡系はかなりしっかりと取れるように定期的に交代しつつ、範囲を拡げていた。
例え、見方が多く自分達の得意とするエリアであってもだった。
「他の代表は?」「現在も似た様な感じ」
そう言って簡素な地形に、そこらにあった石等を使って分かっている配置に置く偵察部隊。
「・・・例の方は?」「(ふるふる)」
少し離れた所にいる初等部を気にして小声で話をする。
「調べた範囲には怪しい者はいなかった。何かあってもたぶん・・・警備隊が先に反応すると思う」
情報を聞きつつ、指揮官は配置された石達の進み具合を考える。
「・・・他の似た様な判断だろう。よし・・・ここはこちらも打って出よう。後輩達もじっと待ち続けるのは退屈だろう」「ふ・・・、のようだな」
緊張感はいつまでも続かない。流石に警戒のための見張りだけでは退屈なのだろう。
欠伸をする者や、話し込む子達がチラホラ増えてきた。
「作戦は?」「配置の数からすると、勝利を狙いつつ、安全を・・・だな」「半分ほどか?」「ああ。補助には中等部が回ってくれ。あの子達にとっても色々と経験をさせてあげよう」「了解。・・・おーい。誰かー?」
会議をしていた1人が手を振って仲間を呼び集める。気付いた中等部を中心に初等部達も集まり、そっちで話を始めた。
残った指揮官と部隊達は・・・地図を見ながら先ほどの話しを続けた。
「初等部の達には警戒の範囲を拡げてもらおう。中等部は更に外へ。緊急だと判断した場合は連携を取って退避してくれ」「「「了解」」」「可能性があるとしたら・・・端っこの視界が見え辛い所だな。他の代表達もそこを警戒している」「既に内に入っている可能性は?」「無いな。その時点で大会は中止だろう。警備だって巡回と連絡は取っているはずだ」「無いって事は、まだ深くは入って来てない」「(コクリ)ああ。だが既に、ステージ内に潜入している可能性もある。十分に注意してくれ」「はぁ・・・。何か軍事演習を混ぜられたみたい」「クエストでのアクシデントだと思えばいいだろ?そっちの方がオレは納得できる」「確かに」「言えてるな。そっちの方が気がちょっと楽だ」
少しだけ場の空気が軽くなる。
「イレギュラーは・・・まあ、よくあるもんだしな。あまり気を張り過ぎずいこうか」
指揮官の言葉に賛成とみんながそれぞれに反応を返す。
「とりあえず・・・外は警戒しつつ、中心から何処が覇権を握るかの勝負と行こう。気合い入れ過ぎて、勝過ぎるなよ?」「分かってるよ。去年は狙われて悲惨だったのを観てるんだからな」「あの時とは皆戦い方は違うけど・・・目立ち方よね~」「悪目立ちをするなら・・・個人でね!」「って、オレかよ!」
頷いていた所へ仲間の女の子から肩を乗せられて、思わずツッコんでしまう男の子。
その光景に笑いが生まれる。少しずつ作戦が決まり、程よく緊張感も取れてきた所で各々が動き出した。
・・・・・・
ドサドサ・・・。
「あん♪つまらない」「はぁ~あ。冒険者の質も落ちたもんだな」「サッサと行くわよ。そいつらを殺しても意味はない」「う~い」
ドサドサ。
放り投げられた者達の小さい山がいくつも出来上がる。
全員死んではいないが、重症ないしは大きなダメージを受け気絶していた。
「・・・随分、静かな大会だな」「合同という事で慎重に戦ってるんじゃない~?」「その可能性もあるわね。・・・。(私達を警戒して?・・・いえ、組織が来る事を知っているのは全部身内側・・・だとすると・・・)どうやら当たっていそうね。確実かは知らないけど」「あ・・・あ~あ。先に倒しちゃった」「え?・・・あ、その為の警戒だったのか」「こっちにいないって事は別の所から入ったって事かしら?」「行きましょ。私とドトクルは少し迂回する様に進むわ。ジャグラとリダリーは市街地を突っ切って森に向かってちょうだい」「もし見つからなかったら、森を進んで合流ね?オッケイ~♪」「うし!やりますか」「殺すんじゃなくて、見つけるのを優先よ」「わかっている。・・・ったく、信用ねえな~」「同類だと思われてるからだよ~?」「あんだと?」「失礼ね~」「ほら、じゃれてないで私達も行くわよ」
ため息を吐きつつアフタネの指示に従い、3人もまたステージの中へと入って行った。
・・・・・・
数分後。
「・・・!・・・おい!大丈夫か!!」「!どうした・・・!」
巡回に来ていた警備が倒されて転がっている数十人のスタッフと冒険者達を発見したのだった。
・・・・・・
ドガ~ン・・・ボンボン・・・!ドゴォォォオオオオオオンンン・・・!!
ステージの中心エリア。そこでは各代表達が覇権を握る為に熾烈な戦いを繰り広げていた。
建物や自然を平地にさせる勢いの激しい戦いが行われていた。
スクリーンでそれを大々的に公開され、観客達が大いに盛り上がっていた。
時折、それぞれ主戦とは別のエリアでも激しい争いが行われている。そちらにもいくつか映像が流されているがやはり注目は中心での覇権争いだった。
「カバー!」「はい!」
先輩の声に反応して巨大な壁を作り出し、その上から仲間が魔法を撃ち落としていく。
一息ついた代表達。その中、1人の少女は遠くを見つめていた。
「(プリメラちゃん・・・大丈夫かしら?)」
・・・・・・
「はぁ・・・はぁ・・・」
紅いツインテールを揺らし、少女は潜入していた敵チームを追い返していた。
「よく頑張ったわ。後退よ」「はい」
先輩の言葉に従い退避すると入れ替わりで仲間が迎え撃ってくれた。
「よく気付いたな」「見落としていた。助かった」「いえ、出来る事をしたまでですわ」「ここは俺達が出る。君は休んでいてくれ」
頭を下げるとプリメラは、ベルニカの陣地付近へと戻って行った。
味方の姿がまばらになり、敵の気配を遠くで感じるようになった所で、とうとう地面に座り込み休息を取らざるを得なくなった。
「はぁ・・・はぁ・・・」
少しだけ表情を悔しいものに変える。
「(お姉様なら、この時にはもっと力を付けていた。お兄様だって・・・)ふ・・・地形の悪さ何て言い訳ね」
思わず愚痴を溢してしまう。
プリメラの実力は子供の中でもかなり高い。しかし・・・上には上がいる。
ましてやそれが血の繋がった兄妹だからこそ、その悔しい思いが一層強くなってしまう時がある。
尊敬しているからこそ・・・甘えるわけにはいかないと考えているからだった。
「・・・」
自分の掌を見つめる。
そして、いつの日か姉に言われた事を思い出す。
(いいプリメラ?まずは知ること・・・。あなたの力を知って上げることが最初よ?強さは後で身に付けられる。でも・・・知らないと、本当の意味での力が振るえなくなるわよ)
「・・・」
ギュッと強く握る。
そして目を瞑ると、ゆっくりと呼吸を整えつつ、自分の魔力の調子と波長を合わせる。
初等部で習う・・・知覚、コントロール、解放、練り。
ベルニカ学園初等部で誰よりも先に習得し、磨いてきた基礎に立ち戻る。
そして・・・彼女は無意識に体内マナを練ることで、この世界の自然では集められない魔力の濃度を身に付け始めた。
一時的とは言え、体内のマナを巡らせるという方法を掴んだのであった。
「・・・(何これ?)」
フと目を開けると、薄っすらと普段とは違う魔力が流れが体の外を巡っている事に気付く。
弱弱しく見える見た目の魔力量。しかし、プリメラ自身が感じているのは今までよりも明らかに1段も2段も強い質だった。
「・・・(お姉さま。こういう事なのですね)」
兄や姉とは別の道に辿り着いたが、結果的にプリメラは今大会で自らの成長を確かに感じていた。
「っ!」
その成果の一部が、離れた所にある不思議な気配だった。
誰かに知らせようと思っていたが、いつの間にか1人となってしまっていた。
「・・・・・・!」
普段なら学園の為にと真っ先に知らせに向かう所、少女は1人、気になる気配に向かって駆け出して行くのだった。
・・・・・・
「っ!(ここであたるか・・・)」
ステージでも端の方に作られた市街地エリアのある建物内を偵察中だったナルシャは接敵してしまった。どうしようかと考えていた時、相手側が両手を見せた。
一瞬、不意打ちの可能性を考え警戒するが・・・手を上げたのは他の代表チームも含めてだった。
「どうした?」
ナルシャが近づいた時、彼女の腕を引くと、内側の肘から手首に掛けてスーッと指を滑らした。
「!確かか?」「(コクン)もう少し先の所で不審な人影を見た。明らかに変な魔力だったらしい」「だが、遠くからでは姿を確認できなかった。今、内のパーティーが向かっている」「その間にこの事を全体に知らせて、初等部の子達を遠ざけねばならない」「・・・。分かった。そっちも気を付けてくれ。私達は・・・」
後方を見ると、少し遅れて来てくれた者が事情を理解して頷いた。
「大丈夫。指揮官に言っておく。ナルシャは念のために確認に向かって」「分かった」「念のために、警備にも連絡を入れて置く」「よろしく頼む」
全員が視線を交わし、頷き合うとすぐに行動を開始。散り散りに別れるのだった。
・・・・・・
「ふぁ、あああ~~ぁ・・・。さっきの奴らに比べれば歯応えはあるが・・・拍子抜けだな」「んん。ド派手に始めてくれたから、探せると思ったのにね・・・」「ぐぁっ!」
リダリーが爪を伸ばし、返り討ちに遭わせた中等部の子の足を突き刺した。
「ね~ぇ?・・・ここに鎌を持った気持ち悪いエルフの男・・・見なかった~?」「ぐっ・・・!」
睨みつける男の子。そのまだ幼さがある反抗的な顔が嗜虐心を煽る。
「はぁ~♪止めてよ~。もっと見たくなっちゃうじゃない♪」「お前も似た様なもんだな」「ええ?ちょっと待ってよぉ」「がっ」
倒れた仲間達の傍へと放り投げられた男の子。
何とか立ち上がろうとするが、もはや気力が限界だったようでガクッと気を失った。
「ぁ・・・残~念♪もうちょっとお姉さんと遊ぶには、早かったようね」「はぁ・・・。全くどこにいんだか・・・」「アフタネの言った通り森に進みましょ?」
頭をポリポリと掻くジャグラが反転して森に進もうと歩き出した所へ、突然、空から誰かが降って来た。
「~~~フンンンッ・・・!!」
剣を叩きつける勢いで振り下ろされ、地面が大きく亀裂が入り抉れた。振動とクレーターも作られたその影響で近くの廃墟がガラガラと崩れていく。
「新手?」「の、ようだな。・・・だが・・・今度は面白そうだ」
ジャグラは大盾を持ち、鎧を着こんだ男に背の大剣を抜いて獰猛に笑った。
「負傷者の救出を」「分かった」「すまん」
駆け付けた各国のチームが連携して急いで、倒れた者達を避難させていく。
そんななか1人・・・剣を向けたまま視線を離さない少年がいた。・・・ドルゴである。
「ここは神聖な大会の会場。このような場所にどの様なご用向きでしょうか?」「・・・ちょっと人を探してるのよ~。お兄さん・・・知らない?エルフで身長ほどもある大きな鎌を持った男なんだけど~・・・?」「あいにくあなた方のような不快な魔力を発する者とは縁がありませんので、申し訳ない」「そう・・・それは残念・・・。悪くないタイプなのに・・・」
頭からつま先までじっくりと見て、最後に紳士的でキリっとしたその目に、口元に手を当てて舌なめずりしそうになる。
「ホント・・・結構タイプかも・・♪」「おいおい。早く始めていいか?」
本来の目的は大切だが、せっかく相手してくれようと構えているのにずっと待たされ続け、ウズウズが止まらないジャグラ。
早く戦わせろと彼女に楽しそうな顔を向けていた。
「・・・」「ヒヒ」
どうぞと手で許可をもらい、すぐに飛び出そうと振り返った瞬間だった。
「おい。何だこれは」「ナルシャさん・・・!」「・・・。どこかで見た顔だな。大人しく囚人として捕まっていれば良かったものを」「先日はどうも。・・・本当に嫌な気分だったわ~」「はっ。こんな所で会うとは嬉しいね~。・・・で?もう1人の女はどうした?」「さてな。・・・テロリストは出て行ってもらおうか」「あの時のようにはいかないわよ・・・子猫ちゃん♪」「負けた者がよく言う」「・・・粋がるなよ」
頬と目の端を引きつかせ、ドスを利かせる様な低い声でリダリーは殺意たっぷりにナルシャを睨みつけた。
「行けるな?」「もちろんです」「では・・・」
紫電を纏う様に魔力を輝かせると、軽装鎧の換装スタイルへと切り替えた。
「倒すぞ」
観客の誰も見ていないステージの端で・・・静かに学生VSテロリストの戦いの火蓋が切って落とされた。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 90
魔法値 107
潜在値 115
総合存在値 178
スキル(魔法):干渉、棒術 3、マナ零子 3、感応 1




