33 価値観は人それぞれ?
力任せに殴り、蹴り続けた豪裡は体の痛みにヒートアップした感情とアドレナリンで気づくのに時間が掛かった結果、暴力を振るっているはずの自分が手にかなりのアザと出血と内出血を起こしていることに自分の目で見て初めて止まった。
「・・・ってぇ~。
なんだよコレ?」
感情のままに殴っていたために気づいたのが遅かった。
「・・・」
かたや殴られ続けた純は多少の負傷はしていても、当たった個所が少しだけ赤くなっただけだった。
〔純、あなたの体は再構築されたのです〕
「(再構築?)」
〔一度死んで、その後また再び死に戻ったことで体が器、魂に合った肉体情報に変化したのです〕
「(昨日説明してたことか?)」
〔そうです、より高位に昇る者に物理的に与えることは難しくなります。
それができるのはその域に干渉できる程度の力が必要になってきます。
つまりこの者は、純にとって分不相応な存在なのです〕
「(そんなこと急に言われても・・・あの、あいつが殴って来た時にゆっくりに見えた動作は?)」
〔純。あなたは異世界で命をかけた戦いを何度も経験して生死という何もかもが簡単に失ってしまう極限状態を知っているはずです〕
「・・・」
純にサポートが言っていたのはあの世界での日常的な生と死。
地球にだって危険な場所はたくさんあるがあそこほど、あの異世界ほどは命の価値が低くなってしまう事はそうそう無い。
危険なことに深くかかわらなくても災害の一種で片づけられて終わるなんてことが日常だから。
〔あなたはそこでの力の使い方、戦う覚悟をそれに伴う責任と意志がありました。
だからこそ、このような者の力に勝手に崩されてしまう事をあなたの中の魂が否定なさっているのです〕
何となくサポートの言いたいことは分かる。
純も悔しい思いと情けなさはずっと持っていた。
しかし、染みついてしまった恐怖がそこに歯止めをかけ純の行動を縛り付けてしまった。
その結果が、ただ殴られ続けることだった。
〔あなたは戦闘態勢のときは常に最低限のマナを体に巡らせ、いつでも対応しておけるよう備えていました。
今回もその力が勝手に働いただけの事です。
・・・あなた自身を守るために〕
「(・・・そうだよな。
ずっとそうやって生き延びてきたんだよな)」
一番感じた恐怖は、クレアと対峙した黒い靄を纏った男。
あの、圧倒的すぎる何もできずに殺されてしまうだけの恐怖に比べたら、こんな一時の感情のみで、中身が伴っていない奴に怖気つくほど純の心は柔な作りではなくなっていた。
「(ありがとう。
なんか軽くなった気がする)」
〔いえ、これも私の仕事の一部です〕
「(しかしどうするか?
軽くはなったし、怖さは少なくなったけど)」
〔この状態が続くのは好ましくありません〕
「(だよなぁ)」
そんな二人?の心の中の会話がなされている中、豪裡達は・・・。
「なんだよこいつ、かってぇな~」
「堅太。俺に代わって」
手の痛みで攻撃を止めていた豪裡に代わって、明津 享介が手首をプラプラと動かし準備体操を始めた。
「堅太は力で行き過ぎだって~。
こういうのはしっかり、乗せ方を使わないと・・・なっ!」
すっと体を落とした後、重心とスピードを乗せた左フックを仕掛ける明津。
「ッ!・・・ウッ!
(ッ~~。ちょっと手がしびれた)」
〔直接喰らえば先ほどよりは少しダメージを負いそうですが、やはり程度の問題です〕
「(喰らってるのは俺なんだけど)」
〔では、反撃しますか?〕
「(いや・・・それはちょっと)」
人というのもまた動物の本能で生きる生物。
一度相手を下に見て決めつけた人が下から反撃を喰らえば、その時は終わっても後からあの手この手と周りを巻き込んででも自身の優位性を証明したくなる。
そうしないと事実を認めることも出来ず、不安が押し寄せてくるからだ。
だが大抵の場合は事実の否定からなるようだ。
それほど、相手の存在が対等であることを認めるのは難しかったりする。
「ったた・・・。
結構固いな何か仕込んでんじゃねえか?」
殴った左とを振りながら言う明津。
余裕そうに見えて、口は笑っているが目が本気だった。
明津も純との今のこの現状に怒りが増してきたようだ。
「(・・・あまりマナを使った覚えはないけど、この世界でマナってやっぱ卑怯なのかな?)」
〔まあ、本来コントロールして使える人なんて皆無に近いかもしれません。
何らかの特殊能力のような力を持っている人ならあるいは使っているかもしれないですが・・・。
この者たちはただの生身の人間ですしね〕
「(向こうじゃ、これが無いとまずかなり危険なんだがなぁ・・・使えるかどうかは別にしても)」
〔それだけここは、まだシステンビオーネに比べたら安全ということです〕
「(これでも、今の時代、本気で世界大戦したら下手したら数日で滅びる運命にしかならない世界に出来るんだけど)」
〔それだけの力がここで有っても、向こうじゃ少し規模のデカい爆発程度で終わらされるでしょうね。
町が一つは失うかもしれないくらいにはなりますね〕
「(十分大きな被害だけど・・・向こうだとそんなもんなの?)」
〔そもそもマナが存在している世界、この世界の化学技術だけで、理に果たしてどの程度干渉できるのかわかりませんが、少なくともマナを応用した科学技術を使えばおそらくこの世界、地球を一瞬で滅ぼすことも可能でしょう〕
「(・・・うそっ)」
〔あくまで予測ですが、器を昇華することが可能な世界、神にもなれる可能性のあふれる世界で果たしてどの程度通用するのか、逆算してみると自ずと・・・〕
「(とにかく、豪裡達は直接的には脅威じゃないわけね)」
〔はい〕
長ったらしい話になっていきそうだったが``とにかく問題ない``この一言で済まされるようだった。
しかし現状の問題は解決していない。
「・・・その目、ちょっと調子に乗ってない?
十時影・・・ッフ!」
「っく!」
緩急からのトップスピードで右ストレートで殴り掛かってきた明津。
咄嗟に事で純はガードをし損ねて、左頬にモロに入った。
パキリッ!
軽い骨の音なのかを聞いた後、純は少し後方に転がった。
「(って~、ったた。
ちょっと口の中切ったかな~?)」
少しだけじんじんする頬を触ってゆっくり立ち上がる純。
〔いえ、軽傷にもなっていません。
少しコケてしまって痛めた程度でしょう〕
「(え?いや、でもパキッて音がしたし)」
〔それはあちらです〕
サポートの言葉に明津を見ると、純を殴り飛ばして楽しそうにしていた。
しかし、後ろにいた豪裡と根黒は絶句していた。
なぜなら殴った右手がずっと垂れ下がっていたからだ。
秋津が楽しそうに見て純を体を動かすが右手だけが変な動き方をしていたからだった。
「お、おい享介」
「あ?なに?」
「その手?大丈夫なのか?」
「あ?全然問題ねえよ。
こんなデブを殴ったってケガするかよ。
ただのサンドバックだって」
豪裡、根黒は明津の反応に戸惑っていた。
「いや、おまっ・・・それ」
「え?」
そう言って仲間が気づかせようとしたとき。
「こらーーーっ!何やってるんだお前らーーーー!」
通路の方から階段での問題行動が見えた教師が怒鳴りながら走ってきた。
その声に気づいた豪裡達が逃げようと階段に体を向けるがそれ以上に明津のケガに戸惑っていた。
「おいっ!行くぞっ!」
慌てていった明津の声で今は逃げることを優先したようだった。
急いで階段を下って逃げていく。
「大丈夫か!ケガは!?」
「え?・・・あの、大丈夫・・・です」
「本当か?・・・一応保健室に行って見てもらいなさい」
たまたま居合わせた教師はそれだけを告げると豪裡達を追って下って行った。
「(・・・ふぅ、とりあえず終わった・・・のかな?)」
〔わかりません。
が、純自身は特に怪我はしておりません〕
そんな会話をした後、念のため保健室に残っていた先生に診てもらい軽くシップを顔に貼られてから保健室を後にした。
「・・・ただいま・・・」
中に人がいないことを確認するようにこっそりと言った後、すぐに洗面台に行き、手を洗い顔を洗ってから自分の部屋に直行した。
「・・・・ふぅ」
〔・・・まるで泥棒です〕
「仕方ないだろ!
こんなシップ貼ってんだから」
〔・・・〕
若干サポートからため息のような声が聞こえた気がした。
それから、今日は夜になるまで、今までの勉強を改めて復習をして時間を過ごした。
食事を終え部屋でくつろいでいると、ノックの音がした。
「はい?」
「あ・・純?
今朝言ってた試験の事で話があるから下りてきてちょうだい」
「うん・・分かった」
義母、咲恵からの呼び出し返事をして純は部屋を出てリビングに向かった。
リビングに行くとテーブルに義父の優一と義母の咲恵が隣同士で座って純が来るのを待っていた。
「純・・・座りなさい」
「・・・はい」
純は従ってテーブルの向かいの席に座った。
とても静かで、やけに時計のカチカチする音だけがハッキリと聞こえる。
「純、話は高校受験についてだ。
・・・一応、高校には行くんだな」
「う、うん」
「わかった。
・・・それでどこに行くつもりだ」
「・・・あまり決めてない。
とにかく高校には・・・行こう・・・かな・・くらい」
少しずつ尻すぼみしていく純。
「純・・・お前は今後の将来にも多少は関係することなんだぞ?
もう少し、ちゃんと考えるんだ」
「ご・・・ごめん・・なさい」
「・・・はぁ」
優一は片手で頭を抱えた。
「お父さん、純だっていきなりは無理でしょう。
この子が自分で決めることなんだし・・・」
「・・・そうだな」
「・・・それで純。
あなたはどのあたりに行こうと思ってるの?」
「え?・・・えっと、翔伏第一か征敢高校にしようかと・・」
「・・・そのどっちかなのね?」
「・・・私立は」
「え?・・・駈部乃にしようかと・・・」
「・・・そうか」
「・・・」
再びカチカチを時計の音だけが響く。
「・・・良いんじゃないかしら?」
「・・・そうだな、それくらいなら問題ないだろう」
「・・・」
今言った学校は偏差値ランキング的に言えば真ん中あたりだ。
一般人からしたら少し難易度が高いかもしれないレベルだったりするが。
白星家や純の家系からすれば楽勝、むしろ低すぎるとまで言われてしまいそうなところだった。
「・・・わかった。
私立はそれで申請しておく、公立の方はどっちを選ぶ?」
「・・・一応、翔伏第一を・・考えて・・・ます」
「・・・まあ、私立も受けるんだし大丈夫なんじゃないかしら?」
「・・・・・分かったお前は私立は駈部乃、公立は翔伏第一にするぞ?」
「・・・はい。
ありがとうございます」
「「・・・」」
何とも他人行儀過ぎて親子の会話じゃないが、もともと遠縁の親戚な為にさらに遠慮がちになってしまう純。
「・・・ついでだ。
お前は中学を卒業した後どうする?」
「?・・・どういう?」
「あなたが言った高校は2つともここからは近いけど。
あなたもそろそろ一人暮らしというのをした方が良いんじゃないかって思うの」
「えっ!そんないきなり」
「前から考えていたことだ。
なかなか今まで話さなかったのはこちらの都合だ悪かった」
「・・・」
「そろそろあなたもいい年だし、この際早めに一人暮らしを経験するのも悪いことじゃないと思うのよね~」
「・・・」
いきなりすぎて絶句してしまう純。
「・・・まあ、まだ少し先だ、そのあたりも考えておくんだ」
「・・・あなたもこれからの事を少しは考えて生活を送っておきなさい」
2人から告げられた、出て行けとも聞こえる言葉に絶句するしかなかった。
しかし、そこでかねてから思っていたことを話した。
「あ!あのっ!・・・だったら、お父さんたちの家にしたいです!」
勇気を振り絞って声を出す純。
【十時影 純】 15才 人間?(ぽっちゃり)
レベル 1
HP 1 MP 1
STR 1
VIT 1
INT 1
RES 1
DEX 1
AGI 1
LUK 1




