325 怒れるモノ
遥か上空。雲の中から全長10メートルは超えているであろう獣・・・精霊獣が現れた。
出現した獣2匹は真っ直ぐジンとユティに向かって下りてくる。
1体はホワイトタイガー。もう1体は全身が真っ赤な紅蓮のオオカミだった。
「・・・あれが・・・精霊獣ね」「精霊を見た事は?」「あまりないわね。一時的に宿主・・・契約者に力を貸す時に姿を見せるくらいで・・・。あんな風に精霊本体が単独で姿を見せることは滅多にないの」
ユティは目を閉じ体内マナを練り上げて全身に覆う様に魔力を解放した。そして形状変化をさせる。
学生服から戦闘スタイルである白いナイトドレスへと換装させて、戦いに挑もうと考えたのである。
「・・・」「ん?」「あ、いや・・・。バッツ達から話は聞いた事あったんですけど・・・」「ああ、そっか。ジン君には見せてなかったね。・・・どう、似合う?」
少し体をくねらせポージングを取って見せるユティ。
「ええ。似合ってます。・・・なんか、ユティ先輩っぽくて・・・カッコいいですね」「ふふ♪・・・ありがと。ん-・・・でも、違う言い方が欲しかったな~」「はい?」「ふふ・・・ううん。何でもない」
状況は分かっている。だからこれ以上は何も聞かない。
そしてユティは少しだけ笑った後、ゆっくりと下りてくる精霊獣を視線を戻す。
〔彼女のスタイルと性格や特性から反映された姿でしょうね。確かに、先ほどよりも格段にマナの量が跳ね上がっています。それにしっかりと整えられている。初等部でこれを可能とする子がいたら、かなり逸材ですね〕「(という事は?)」〔はい。彼女に1体は任せても問題ないでしょう〕
ゼルク達の話から申し子すら命がけだったというワードが聞いてちょっと心配だったジン。
過去と今では技術力が全く違うと言っても、無視は出来なかった。
しかし、相棒が問題ないというなら自分のやる事に集中できるとジンも前を向いた。
「「・・・」」
ズゥン・・・!
遥か上空だったから気付かなかったが思った以上のスピードで下りてきていたようだった。
100メートルは離れているにも関わらず、巻き起こした砂煙と振動が僅かにジン達にまで届いた。
そして、ジン達を睨みつけるようにしてジッと見る精霊獣。
先ほどまで火の玉や風をガンガン巻き起こし、放っていたにしては今はやけに大人しい。
牙を剥き出しにして怒りを見せているが・・・。
「・・・んん?何で一気に襲って来ない?」「・・・おそらく。戦っていた申し子達と違うからでしょうね。ちょっと警戒している。意外と冷静」〔外へ向いていないだけで幸いです〕「(確かに。)戦闘はどうします?」「・・・ちょっとだけ能力を見たいわね。・・・相性的には・・・あっちの紅い方かしら?」「分かりました。じゃあ俺はトラで」「ええ、お願い」
ユティと簡単な作戦が行われ、完了するのと同時に精霊獣たちも飛び出していた。
「離します。(ゼックン)」(うん・・・!)
ジンはホワイトタイガーっぽい精霊獣を狙って、一気に距離を詰めた。
体格的には精霊たちの方が圧倒的だが、突然距離が詰められれば距離感の調整に入らざるを得なくなる。
「ガァッ!」「はあああっ!!」「ギャヒッ!!」
噛み付こうとしたトラを避け、すぐ隣を並走していたオオカミの横っ腹を殴りつけ距離を力づくで離す。
「こっちだ!」「グルァッ!!」
ジンの掬い上げの攻撃を辛うじて避けるホワイトタイガー。そのまま上空へと飛んで行く小さな獲物を追うべく、精霊も飛び上がる。
〔喰い付きました。このまま上空で戦います〕「(ゼックン。魔法をシャボン玉の中に)」(わかった)
ポウポウポウ・・・ポウポウポウポウポウポウ・・・・・・ポポポポポポポポポポポポポポ!!
無数の大小さまざまなシャボン玉を生成。そのいくつかには少量の水も生成する。
トランポリンの様に足場にしてぐんぐんと上昇していくジン。
精霊獣も負けじと、空中を蹴る様に加速して上昇して追いかけて行く。
「・・・グルルルゥ・・・!っ!」
バギン・・・!
「やっぱり気付かれちゃうか。でもどうやって分かったのかな?野生?それとも・・・精霊だから?」
吹き飛ばされ倒れていたオオカミ型の精霊獣は、咄嗟に退避。
すると足場には無数の氷の柱が周囲に拡がる様に生え。精霊がいた場所には串刺しにするような太い柱も現れていた。
「・・・」
ボウ!
睨みつける様に彼女を見ながら、口から火を軽くは吐く。
それだけで冷えていた周囲の温度が再び戻るようだった。
「(一吹きで、氷がちょっと溶かされた。精霊だからかな?やっぱり。・・・質はちょっと分からないけど・・・技術に関しては問題なさそう)」
溶かされていく速度を分析して、自分との力を見極めていくユティ。
ザザ―・・・!
「「!」」
突然、ノイズのような高周波の音が辺りに響く。
「ああー・・・聞こえるかい2人共」
スピーカーの様に異空間にゼルクの声が拡がって来た。
「君達の戦闘は辛うじて見えている。我々は安全な所へ避難した。この音声が届く前に言っておく。遠慮はいらん、全力で精霊獣を倒してくれ。以上だ」「ちょ、ちょっとゼ──」
ザッ。
「(・・・そう)」
少女はほくそ笑んだ。
パキパキパキパキ・・・・・・!
驚く紅蓮のオオカミ精霊。見る見るうちに上がっていた気温が下がり、溶けていた氷が再生・・・いやどんどんと増えてきたからだった。
拡がっていく銀世界。それは少女の足場を中心に白く伸びて行く。
谷全体を凍らせるように足場だった土は変わり果て、森にすら浸食を始めた。
「・・・加減するのが癖になっちゃってたから・・・ごめんね」
それは何に対しての謝罪か・・・。
ユティの顔は巻き上がる冷気の中でとても冷たく笑っている様に精霊獣には見えた。
〔おっと〕
サポートは彼女が拡げた冷気により、結晶化しそうなシャボン玉に僅かにマナを促した。
「(どうした?)」〔いえ、何でもありません。(そうですか・・・。やはり彼女の力は・・・)〕
かなり上空へと昇り、距離を離し過ぎたと少し思ってしまうジン。
〔1000メートルはやり過ぎですね~・・・〕「(落ちたら大変だ)」(ジン。こんな高くまで飛べたんだ・・・!)
各々が感想を述べているなか、少し遅れて精霊獣が到着。
すぐさまジンに向かって飛び掛かった。
「っ」「ガァアッ!グラアァッ!ガゥアッ!」
切り裂き、噛み付き、体当たり。
空中にいるにも関わらず、実に自由に飛び回るホワイトタイガー。
ジンは足場のシャボン玉を弾けさせて避ける。粘着性、ゴムによる性質を活かして加速、回り込むようにして反撃を加える。
ガン・・・ガゴゴギ・・・ドガ・・・ボゴン・・・ドゴン・・・!
〔やはり・・・精霊獣ですか・・・。あまりダメージは響いていないようですね〕(・・・そうみたいだよ~)
ジンの切り払いやゼクの水玉。何度当てても、復活するまでが早かった。
怯みはするしダメージを受けているが蓄積が少ないといった印象だった。
「(最初のは油断だったか。失敗したな)」〔消耗しているのは確かですが・・・余程ため込んでいたのでしょうね〕「(ゼックン)」(っ!分かった!)
ジンは精霊獣の攻撃をギリギリで避けて、近づいてきた頬を殴りつけた。更に追い打ちで回転斬りを叩き込んで、吹き飛ぶ方向に生成した巨大シャボン玉に取り込ませる。
「っ!」
精霊獣はクッションによってダメージは緩和されたが、弾力性の強さに出られないでいた。
〔生成では負けませんよ〕(よ~し)
ズバーーーーーーッ・・・!
「っ」
巨大シャボン玉の中から水がどこからともなく大量に出現する。
みるみると中に水が満たされていく。慌てふためく精霊獣。
〔・・・精霊でも溺れるのでしょうか?〕「わからない」(・・・)
ジンは万が一に備えて武器を構えて、生成したシャボン玉の上で待機する。
〔どうしましたゼク?〕(・・・ううん。わからないよ。でも・・・なんか違うんだ・・・)「違う?」(うん・・・)
両手を前に出したまま眉を顰め、首を振るゼク。
自分でも何て言っていいのか説明出来ないという顔だった。
〔・・・少し待ってください〕
サポートもそれが気になり、精霊獣のマナの流れを探ろうと試みる。
ジンは警戒しつつ、遥か下で戦っているユティの状況を確認した。
「(・・・真っ白だ)」
それがジン(純)の第一印象だった。
半径10キロに至るであろう銀世界が地面には拡がっていた。
「・・・(何処に?)」
サポートとの修行もあって、マナを目に少し流し込み集中する。
するとマナの世界と相まってか視界がイメージなのかと共に拡大されていく。
・・・・・・
「はぁ~・・・。ちょっと加減を間違えちゃった」
ほんの少し疲れてしまったユティ。
息は上がっていないが持っている専用の武器との相性もあって、思った以上に魔力を放出し過ぎたようだった。
「グルルルル・・・・・・」「はぁ・・・。(精霊獣って、こんなにタフなのかしら?)」
彼女の攻撃を受けて、負傷した箇所から火の手が上がる。
そして数十秒後、傷が完治する。
何度目かと言いたくなるほどの光景にうんざりしていた。
「(蓄積はしている・・・。だけど、それ以上に魔力が多く過ぎるのね)」
バキ・・・バキパキ、バキパキバキパキ・・・・・・!!
「グルアアアッ!」「ッ!」
ボアッ!!
「ふっ!」
飛び掛かり、火を噴いたものを反撃と同時に相殺。
立ち位置を変える様に、飛び退ったユティが地面を滑らせながら紅蓮のオオカミを見る。
「(私が作った足場は・・・溶かされているか)」
どんどんと上昇させている熱。獣の足跡が銀世界にクッキリと後を残す。
未だユティの魔力が勝っているが、動きを封じることが出来ないのは見て分かった。
「(拘束は・・・だよね)」
ユティの攻撃の中でも、束縛系には敏感なのかひどく警戒している精霊獣。
「(いえ、今までの屈辱から学んでいると見ましょうか)」
オオカミは彼女の行動よりも先に攻撃を仕掛けに行く。
火の玉を正面から打つ。相殺。しかしその時に出来た煙を利用して再度、火の玉を撃つ。
ユティは切り上げで、最小限で氷を生成。それと同時に自らも動き、精霊獣の行動を先回りする様に巨大な氷を頭上に生み出す。
「!」
咄嗟にオオカミは反応、避けると同時におそらくユティが近くにいるであろう場所へ目掛けてスクリュー回転しながら炎を纏った切り裂きに出た。
「っ」
これにはユティが意表を突かれ、少しダメージを受けてしまった。
ズザ―――・・・ダッ!
吹き飛ばされていった体を魔力を流した身体強化で、地面を手で押して空中で体勢を戻す。
そして再び接近戦へと突入する。
巨大な氷と火の玉が周囲の地形をどんどんと変化させていく。
「あわわわわわ・・・。と、とんでもない戦いですね」「不利な条件ながら頑張ってくれている」
映像が見えなくなってしまった教授と助手。
遠くからでも伝わってくる振動が如何に激しい戦闘かを物語っているようだった。
「本当に彼女等は・・・」「分かっている。その時は私も責任は取る」
助手の言葉を最後まで聞かず、教授は黙って届いて来る振動の方角を見ていた。
・・・・・・
「(ユティがちょっと危ない)」〔ジン!〕「っ!」
思っていたよりも集中しすぎていたジン。シャボン玉を蹴って、距離を取る。
その擦れ違いざまに強い風を巻き起こし、精霊獣が通り過ぎたのを確認した。
(ごめ~ん)「(ううん、大丈夫。やっぱり・・・溺死ってのは出来ないのか)」〔どうやらその前に力を解放したようです〕「(なるほどね)」
鋭い風を巻き起こし、近づくモノを全て切り裂く様なマナを放出するホワイトタイガーの精霊獣。
体はびしょ濡れだったが、強風がすぐに乾かすだろう。それだけの強い風を起こしながらジンを殺そうと殺気がかなり増していた。
「(・・・何かアレ・・・変な感じだな)」〔はい。おそらく・・・あれは違う力です〕「(ん?どういう?)」(やっぱり・・・そうだ)
聞くよりも先にゼクが何かを確信したように呟いた。
そして、ジンへと振り返る。
(ジン・・・。アレは精霊じゃない。異界の召喚獣だ)「え?」〔・・・〕
驚くジン。しかし精霊獣と呼ばれた存在は関係ない。
問答無用で襲い掛かって来た。先ほどよりも速く。また風を纏い、それが武器にもなって鋭くジンを襲い掛かる。
「(このっ!)」
ぎゅうううういいいいいりりりりりりりりりいいいいいいいいいいい・・・・・・!!
ジンの棒と相手の風の間でせめぎ合いが行われた。
「ぐっ!」
体内マナとシャボン玉、風の魔法を駆使して戦っていたが質量も合わさったホワイトタイガーには勝てず弾き飛ばされてしまったジン。
ダメージを追ったわけではないので、すぐに足場にシャボン玉を生成。再度接近戦に持ち込もうとジグザグに飛んで加速した・・・が。
「っ」
ジンの攻撃を正面から受け止める事を辞め、急旋回と加速を繰り返す。
そしてどこかへと向かって走っている・・・それは。
(わ・・・わ・・・。まさか・・・ジン!)
気付いたジンが急いでカバーに入り、遮るように攻撃を入れる。
軽やかに躱したホワイトタイガーは捻った体の遠心力を活かして尻尾でジンを弾こうとした。
「っ!」「ガアッ!」
だが、風の斬撃放って尻尾を切断され慌てて、距離を取った。
無くなった尻尾は空中で霧散。新しい尻尾が生成された。
「(・・・あの召喚獣・・・)」〔視えてますね〕(うう・・・。アレはうれしくない)
涎を垂らしそうな程、口元を緩ませてジンの後ろに隠れるゼクを見る異界から来た召喚獣。
「(あれが召喚獣ってのはホント?)」(え?・・・うん。たぶん。何でかわかんないけど・・・たぶん合ってる。アレはこの世界のモノじゃない)「(・・・分かった)」
断言した友達の言葉を信じ、ジンの中で体内マナがどんどんと加速、循環されていく。
「っ・・・!」(・・・ほあ~!)
驚く召喚獣とゼク前で、ジンの周囲のマナがキラキラと粒子の様に光り出した。
・・・・・・
「・・・ちょっとは諦めたかしら?」「グルルル・・・」
ナイトドレスが少し破けたが、異界の召喚獣である紅蓮のオオカミは足を強制的に氷漬けにして動きを封じ込めることに成功したユティ。
悔しそうな恨みの籠もった視線を彼女に向ける。
「(拘束できるほどには弱らせられた。でも・・・)」
周囲をチラッと横目で見る。
「(魔力の効果範囲に比べると威力が弱い・・・)」
自分の力と扱いの悪さに思わず苦笑して鼻で笑ってしまうユティ。
「(あの時に様な事が起きた時、大変な事になっちゃう)」
すぅっと息を大きく吸って吐く。
「(・・・うん。分かってる。でも・・・私はもっと・・・)」
遥か上空を見上げる。
そこには自分と同じようにまだまだ制限が掛かっている空間にいるにも関わらず非常に安定した魔力を微かにだが感じられた。
「(あんなに大きいのに・・・。やっぱり、ちょっと・・・悔しいな)」
上空から突発的に風が吹きつけてくる。どんな風に戦っているのか彼女には見えない。
しかし、明らかに・・・コチラまで届いて来る魔力には、力強さがあった。
「(勝手に思っているだけかもしれないけど・・・。味方でもそれはズルいんじゃないかな?)」
自分ではそれほど欲張っていたつもりは無かった。だけど学園生活が始まってからずっとその思いは強くなっていった。
だから・・・。
「あなたは倒すよ」
ちょっとした負けん気と憧れ。
少女は赤い体に火を纏い始めた召喚獣を見て、ハッキリと告げる。
「・・・何となくは、分かっていた・・・」
悲しい表情を見せる彼女。
それはずっと・・・戦っていく間に浮かんでいた可能性だった。
経験してきたからこそ・・・理解したくはなかった答えだった。
・・・・・・
〔・・・〕「っ・・・」(ジン。すごいよ・・・!)
粒子化して、異界の召喚獣を圧倒しているジンに喜ぶゼク。
(・・・ど、どうしたの・・・?)「・・・。(ふるふる)わからない。ただ・・・何となく・・・。あの召喚獣が・・・気に食わなくて)」
理由が正確には分からないジン。自分でもこんな事を口に出すことは滅多にないと思っている。
それでも・・・何故だか、相手が・・・無性に腹立たしい気持ちになってしまっていた。
〔・・・おそらく。あなたは・・・感じているのでしょう〕「?」(ど・・・どういうこと?)〔それは・・・〕「グルルル~~ッ・・・・・・!!」
能力の高まっているジンの攻撃に流石の召喚獣も再生が効かなくなってきたのか体から緑の煙を上げていく。・・・そして。
「ガアアアアアアアァァァァッッッ・・・!!!!」
大きく鳴いた時。
ジャリジャリ・・・チャリ・・・。
召喚獣から周囲に緑の煙とは別に鎖のようなモノが現れた。
緑と白に点滅する鎖。脈を打っているような様子と共にホワイトタイガーの体がどんどんと変化していく。巨体が更に大きく・・・そして腕、横っ腹や背中から緑色の太いブレードのようなモノが体から生えてくる。
「っ・・・」
その瞬間、どす黒い何かを感じしかめっ面になるジン。
同じくして・・・。
20メートル位に巨大化した紅蓮のオオカミは周囲に火のリングを盾の様に纏い出し、尻尾はヘビの形へと変化していた。
そしてその盾とヘビからは同じように赤黒い鎖のようなモノが巻き付いていた。
「・・・そう・・・。あなた方は・・・。〔喰われていたのですね・・・〕」
この時、ユティとサポートは同じ結論に至った。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 55
魔法値 60
潜在値 63
総合存在値 118
スキル(魔法):干渉、棒術 1、マナ零子 1




