323 救援依頼
ガタガタガタガタ・・・・・・!
「ふふん・・・。うふふふふ♪」
急ピッチで走る馬車。
本来ならもう少し揺れが少ないが今は急を要する為である。
「うふふふふふ~・・・♪」
普段・・・いや、いつも以上に上機嫌なユティがジンを抱っこしながら鼻歌を歌う。
「・・・あの、もういいのでは」「ダ~メ♪こんなんじゃ足りませ~ん♪」「・・・」
現在、ジンとユティを載せた馬車はジルベガンとファーランの境界へ向けて急発進していた。
「・・・もう少しですので・・・」「ゴメンなさ~い」
向かいの席に座るアミルとルチルが申し訳なさそうにジンに謝っていた。
・・・・・・
遡る事、数時間前・・・。
「2人共すまない」
そう言って、ジンとユティが学園長室を入ってくるなりメルギスが謝罪した。
その表情はいつになく真剣だった。
「・・・何かありましたか?」「ああ、緊急・・・いや。救援要請だな。ユティ君はもちろん・・・。ジン君・・・君にとっては当然関係がある・・・ミゲイラさんからの依頼だ」「(わざわざ?)」(なになに~?)〔かなり深刻な問題ですね〕
座ってという、ジェスチャーに従いソファーに腰かけるジンとユティ。
そしてメルギスも対面に座って懐から手紙を取り出した。
「ミゲイラ?・・・確かリエナさんのお父様でファーランでもかなり地位の高い領主様だとか・・・?」「ユティ君は娘さんと知り合いで?」「え、ええ・・・。まあちょっとご縁がありまして・・・」「そうか・・・」
知らなかったのか何回か頷くメルギス。そして一拍置くと封筒の中身を抜き出した。
紙を拡げてジン達の方へと見せる。
「数日前。ミゲイラさん所の親しい人がとある調査から帰ってきていないらしい」「調査とは?」「最近、ファーランでもモンスターの活性化が起きてね。被害が多く出ているそうだ。その調査に友人が怪しいと睨んでいる場所へ向かったそうだ」「その場所とは・・・?」「ここだ」
学園長は用意していた世界地図を見せ、ファーランとジルベガンの国境に程近い、何も書かれていない場所を指した。
「ここは迷いの森と言ってね。一帯が濃い魔力によって空間に少し歪んでいる場所なんだ。だから国民はおろか、周囲のモンスターもそこへは近づかない。中と外では全く違う空間らしいからね。入ったら必ず出口までのルートを確認しておかなくてはならないそうだ」「・・・そうしないと出られない?」
ユティの言葉に静かに頷く学園長。
「何故私達に?」「1つはジン君がミゲイラさんと縁があった事。1つは・・・ミゲイラさんだけでなく、ユティ君からも聞いているが君達2人の実力は、私が見る中でもかなりの上位に立っている事。そして最後の1つが、この事を公にするのは困るからだね」
それが意味する事に当然気にならないわけもなく・・・。
「それは・・・ただの友人ではありませんね。それだけの方ならどうして・・・」「向こうの子とは少々相性が悪い。干渉しあって、不測の事態が起きることも考えてだそうだ。すぐには対応するのは難しく、また時期が時期だ。国としては大きな動きを見せたくないらしい」
大会の期日が迫っている中での救援。
どこの国も学生の大会とはいえ、将来を担う優秀な次代の子供達。
そんな彼等彼女等の能力は他国に対するアピールになる。牽制にも協定にも繋がる大切な催し物だ。
だからこそ、今は代表選手達のコンディションにしろ、スケジュールなどの調整にしろ色々と手詰まりだったりする。
人手は回したいが、それも限界がある。ましてやかなりの実力者を求めるとなると・・・。なかなか難しい・・・。
「私は・・・?」「もちろん。君の事も私は考えているよ。だからこれは救援要請といったが、実際はお願いだな。ユティ君はともかくとして、ジン君にはぜひ力を・・・協力を頼みたいそうだ」「・・・」〔よほど逼迫しているようですね〕(助けに行くの?どうするの・・・ジン?)
オロオロしているゼク。ジンの決断は決まっていた。
「分かりました」「ジン君」「そうか・・・。助かるよ」
1人とはいえジンが向かうと聞いて、思った以上に内心ホッとしているメルギス。
「ユティ先輩はどうしますか?大会で何か出る予定があるなら」「わ・・・私も行くわ!・・・そう、この子を1人にさせないために・・・!」
そう言って隣に座ったジンに抱き着くユティ。
「この子は絶対、無茶するし・・・。そう・・・!保護者。保護者として私が傍にいます」〔・・・色々と言いたいことはありますが・・・。1人より2人の方が助けられる確率は上がりますね〕(よ、よ~し・・・。ボクもがんばるぞ~・・・!)
咄嗟の思い付きとはいえ、ジンの決断にすぐさま付いていく事を決めたユティ。
「そうか・・・ありがとう。急ですまないが今すぐに出発の用意をしてくれないか。君達の欠席は私の方で教師達に伝えておく」「分かりました」「(コクリ)」「用意が出来次第、ホローグの入り口に向かって欲しい。連絡ではもうそろそろ、迎えが来るそうだから」「分かりました。それでは・・・」
ジンとユティ達が退出した後、メルギスも自分の予定が詰まっており、必要事項を済ませると学園長室を後にしたのだった。
そして・・・。
「お久しぶりです」「ジン君~。久しぶり~♪といってもひと月ほどでしたけどね~」
準備を終わらせ、街の入り口に向かうと巨大アルマジロ様なモンスターを引きつれた馬車とアミル、ルチルと再会するのだった。
・・・・・・
そうして現在に戻り・・・。
ジルベガンの国境まであと少しまで来ていた。
「そうですか~。リエナ様とパミル様にはお会いになっていないのですね~」「てっきり、大会に出場が決まったという話を聞きましたから・・・ジン君もそれには出るものだとばかり・・・」「俺は・・・ミゲイラさんや学園長からも止められてたし、出場にあまり興味がなかったので」「・・・なるほど~・・・」「ルチル・・・本当に分かってるの?」「はい。・・・何となく」「やっぱり分かってないんじゃないの」「あは♪」
再開して1ヶ月。あまりに変わらない2人の少しだけ和んでしまう。
「・・・」
ギュッ・・・。
「あらあら」「・・・リエナ様とパミル様も大変そうです」
2人は向かいの席でずっとぬいぐるみの様にジンを離さないユティに、未来の主を思って少しだけ笑ってしまった。
〔さてさて・・・どんな未来なんだか・・・〕「(楽しむな)」(うおーーーっ・・・!すっすめーーーーっ・・・!!)
心の中で相棒にツッコミを入れて、目的地まで大人しく待機。
ゼクは馬車の上にしがみ付く形で乗って、周りの景色を楽しんでいたのだった。
・・・・・・
ジルベガンを訪れた時と同じくファーラン専用の転移ワープポータルを使用。
目的地付近まで移動を短縮する事、数回・・・。
フォーランに来たというのが判りやすい森がジン達を迎え入れていた。
「ここからは・・・お2人にお願いします」「・・・確かに・・・凄い濃さね。前に行った鉱石とは真逆みたい」
目の前には森林が見える。オーフェンツ・ヴァームも季節は秋になり、気温的には長袖を着る季節。
その為、いくら密林だといっても蜃気楼のように奥で空間が揺れるなんて現象を見るわけがない。
しかし、いま目の前には・・・30メートルほど先で明らかに空間が捻じれている様な魔力を感じ取った。
〔あの周囲一帯にだけ留まっていますが・・・。確かにユティが言ったように鉱石の壁や地面にマナが吸収されるのとは逆ですね。溢れています・・・〕「(影響はないの?)」〔・・・。今の所、外には漏れていません。指向性のようなモノでしょう。ですが・・・あの中ではおそらく魔力の感覚が狂わされます〕
それを証明する様に、入口付近には何人もの兵士達が床や木に体を預ける様に倒れ込んでいた。
「・・・あれは?」「おそらく先行していた捜索隊です」「あ、戻って来ますよ~」
気になったユティの質問に答えている時、歪んでいるその先から、何人かの兵士が仲間に肩を預けてヨロヨロと帰還してきた。
「大丈夫か?」「あ・・・ああ。お前達は・・・?」「フォラウスト家に仕える騎士です。この旅は領主の要請でこの子達を連れてきました」「子・・・子供だろ・・・?」「侮ってはいけませんよ~?この子はミゲイラ様たっての願いで、来てくれていますからね~?」「「「・・・」」」
事情がまだ呑み込めず、疲弊し、頭が回っていない者は納得のいかない呆然とした表情を見せる。
だが、理解した者はすぐに立ち上がり近づくと敬礼した。
「要請に応じていただき感謝します。この先は迷いの森と言われまして、ワープポータルの別空間の様な状態となっております。魔力が溢れすぎて不安定ですのでお気を付けください」「分かりました」
ユティが代わりに応対した。
「救助者は?」「2名になります。他の者達はここにいるので全てとなります」「他には?」「2人共エルフです。調査の為に奥に進まれたと思うのですが・・・我々では、途中までが限界でして・・・」「そのお2人は奥にいると?」「おそらく・・・。この中は魔力の流れが濃い上に乱れてまして・・・長時間入るだけでも難しいのです」「・・・なるほど」
遠くで茂みの奥に隠れて吐いているらしい声が先ほどから何回も聞こえたからだ。
「魔力のコントロールが難しく、またあの中にいるモンスターは強力なモノばかりで・・・対処するだけで手一杯です」「・・・その2人のエルフはどうやって?」
ユティの疑問に答えたのはアミルだった。
「おそらく、魔力の扱いが・・・ことコントロールにかけては上手いのでしょう。またモンスターに対しても上手く躱す方法を身に付けているのだと思われます」「・・・。分かりました。とにかくお2人を連れ帰ればいいのですね」「お願いします」
言いたいことはあるがとにかくそれは後回しにして、早速、腰に剣を確かめるユティ。
「・・・前に見た細剣とは違うんですね」「うん。これは私専用に調整してもらってたものなの。やっと、ある程度完了したから今は私の魔力に馴染ませているのよ」「へ~・・・」
刀のようなモノにちょっとだけ興味を示すジン。
「んー・・・」「?何ですか?」「・・・何でもない」
少しムッとしたユティがそっぽを向いてしまった。
〔ジンは・・・正直ですからね~〕「?」(ジン~。ここの穴のなかすっごいよ~・・・?)
頭を傾げつつ、ゼクが手を振っている迷いの森に向かってジンとユティは潜入するのだった。
「お気をつけて」「お願いします」
アミルとルチルが遠ざかっていく2人を真剣な眼差し見送っていた。
・・・・・・
「確かに・・・ちょっと気持ち悪いわね・・・んっ」
吐きそうという程ではないが、濃度の濃さがまるで充満している酒の匂いの様に感じるユティ。
魔力が豊富過ぎるために常に揺さぶられ不安定に感じてしまう。
「・・・ふぅ。違う意味で大変な作業よ。ジン君は大丈夫?」「はい?」「・・・流石・・・」
自分の周囲に魔力を流し、安定化させるというコントロールを地味にクリアさせる。そして、一緒に来た少年の方を振り向けば・・・いつも通り過ぎて、呆れつつ感心してしまった。
ジン達にとっては普段から行っているマナコントロール。この程度では特に響くことは無かった。
むしろ・・・。
(ん~・・・何これ~?・・・ジン~助けて~・・・)
ユティ同様の気持ち悪さを感じていたゼクが助けを求めていた。
〔・・・ゼクにとっては、この波は、虫唾が走るのでしょうね〕「(それだけには見えないけど・・・)」
何かから払う様な仕草。そして少しだけ警戒を強め剣幕気味の顔。
少し不機嫌そうに見えた。
(ふぅ~・・・。助かったぁ~・・・)「(何かあったの?)」(この魔力、気持ち悪い・・・。ずっと触ってくる感じ)〔触ってくる?〕
よく分からないジン達は、ちょうど目の前にフヨフヨと鈍く浮いているマナを見つけて触れた。
バシュン・・・。
「〔???〕」「?どうかしたの?」「あ、ううん。何でもないです」「?そう?」
触れると同時に掻き消えてしまったマナの塊。その意味がよく分からないままジンはユティの後を追いかけた。
・・・・・・
シャキン・・・ドゴン・・・!シャンシャンガキン・・・!ドゴン・・・ボゴバゴドゴ・・・!!
時折聞こえてくる、か弱い断末魔。
先ほどから実に・・・10回以上の戦闘を繰り広げていた。
〔今回で27回ですね〕
だそうである。
迷いの森に入って1時間。足場も凹凸が激しく、草木の高さも異様な状態のなか・・・。
ジン達はクマやゾウ、シカやムササビ、怠けていないナマケモノっぽい巨大で狂暴なモンスターから襲撃を受けていた。
「・・・だいぶ奥まで来たのかしら?」「そろそろ手掛かりがあって欲しいですね。(・・・どう?)」
ユティとジンは武器をしまいつつ、周囲を確認。森が鬱蒼として視界だけでなく空からの明かりもあまり射さない所まで来てしまった事を実感した。
〔・・・・・・。ありました〕(ジン~。あっちになんかある~)
サポートとゼクが同時に見つけたようだった。ジンは近くの高くて太い木に飛んで枝に着地する。少し遅れてユティも太い枝に着地。
「・・・あれかな?」「・・・おそらくそうね」
かなり遠くの方で、微かに明かりが多く射し、開けている場所がある事を発見したのだった。
・・・・・・
「・・・見た事ない彫刻ね」「・・・」
開けた場所に近づくにつれ、まるで誰かが開拓していたかのような跡が、通り道の様に作られていた。
「(・・・トーテムポール?)」(とー・・・てむ?)〔何でしょう?〕
獣道から舗装された様な道に進むにつれ、周囲の道路や奥の木の影等にトーテムポールのようなモノが建てられていた。
「・・・何か宗教的な場所?」「・・・分からないわ。私も初めて・・・」(へ~・・・。?)
何やら頭頂部に彫られたデザインがよく分からず首を傾げるゼク。
周囲を不思議そうに見回しながらジン達はとうとう森の開けた場所へと出た。
「っ・・・。・・・何だろう、あれ?」
森を出た事で射してきた光に視界が一瞬見えなくなった。がすぐに慣れ、ハッキリと見える様になった時、目の前の光景にユティが思わず声を漏らしてしまった。
深い森の中に、何故か金持ちが別荘にしてそうな形の大きな家が建っていたのだ。
見方によっては個人的な博物館やアトリエにも見える。
「・・・何かしら?でもどこか・・・ああ、ベルニカ・・・!あそこと似た建物ね」「・・・」
見た事ない構造。ユティはすぐに前衛的とも言えるデザインから皇国の名を出した。
しかしジン(純)とサポートにはちょっと違和感を感じていた。
〔・・・ベルニカよりも。技術的には進んでいますね〕「(ああ。材質が・・・鉄?・・・何だろう?)」(へ~・・・)
よく分からないが建物は随分古く、壁には罅のようなものが走った後にコケや草が大量に生えていた。
しかし・・・見た目以上に壁の傷みは少なく、磨けばいまだに問題なさそうに感じられた。
「・・・いつからあるんですかね?」「さあ?・・・ここは異空間みたいなモノだし。ちょっと時間や次元もズレてたりするみたいだから、それほど古くないのかも」「あ・・・その可能性もあるのか・・・」「それより、中を調べましょ?」
ユティは扉もない長方形の建物入口から中に入っていく。
「・・・っ。ジン君・・・」「?」
呼ばれて中に入るとジンもユティと同じように止まる。
建物の中央に向かって数段の段差があり、その真ん中には何か刻んだ石碑のような柱が建っていた。
「何かしら?」「分かりませんが・・・。(どう?)」〔・・・あそこだけマナの流れが違います〕「(危険?)」〔どうでしょうか?〕「ユティ先輩。慎重に」「え、ええ・・・」
判断に迷う相棒に念の為に警戒しつつ、周囲を見回す。
他には何もなく、ただ中央に立つ直径7、8メートルはありそうな柱だけだった。
(う・・・うう・・・)「ゼックン?」
傍を浮いていたゼクが頭を抱えてフラフラしだす。
(ダメ・・・。ジン・・・逃げて・・・)「?」〔っ!ジン!〕
サポートの言葉に反応しバッと柱を見ると薄っすらと点滅しだした。
「ユティ先輩!」「え?」
反応が遅れたユティを助ける為に飛び出した時だった。
急に柱に刻まれた文字のような溝が強く光り出した。
「「っ!」」
一瞬の強い光に全員の視界が遮られた。
そして・・・。
ワー―――――――ッッッ・・・!!!!ギュアアアア――――――――――――ッッッ!!!!
バンッ、ドガンッ・・・!ガゴン・・・!!ドドオオオオンンン・・・!!!!
目の前はどこかの戦場だった。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 55
魔法値 60
潜在値 63
総合存在値 118
スキル(魔法):干渉、棒術 1、マナ零子 1




