310 報告会と新情報・・・+(精神的疲労)
キュレム学園の学園長室・・・。今ここに関係者が集まっていた。
「いやはや、申し訳ない・・・」「いえ、こんなお忙しい中、わざわざ申し訳ありません」「ありがとうございます叔父様」「いや、大丈夫だよレティシカ。・・・ユティも元気そうで・・・いや本当に元気で何よりだよ」「ありがとうございます。叔父さん・・・♪」
スリスリ。
「再建に調査、発注・・・。本当に大丈夫なのですかユークリッド王」「ええ。私1人ではありませんから。それに姪達の頼みでもあります。時間くらいは簡単に作って見せましょう」「恐れ入ります」「いやいや、そこまで畏まらなくとも結構ですよ。皆様のおかげで被害の大変少なく済みましたので・・・」
入って来た部屋のソファーにゆっくりと座るモナメスの代表ユークリッド。
「偶然とはいえ少しは尽力できた事・・・誇らしく思いますわ」「(コクリ)力を貸せて良かったです」
リエナとパミルがユークリッドの感謝を受け入れる。
表面上はお嬢様としての対応を。しかし片方の腕はある者の服を握って離さない。
「私も驚きました♪たまたま駆けつける事が出来て、改めてホッとしています。・・・ふふん♪」
スリスリ。
「・・・。ウウ゛ンッ。とにかく叔父様も無事で安心しました。お互いに忙しくて会えませんでしたから」「はっはっはっ・・・すまない。商会の者達と話し合っていてね。今回の首謀者と協力者。並びにテロリスト達の洗い出しに時間を取られてしまったよ」「「「・・・」」」
真剣な顔つきになるガジェット、ベラール、レティシカ。そして部屋に集まっている護衛騎士達・・・とジン。
代表してガジェットが問う。
「それで・・・判明したのは・・・?」「テロリスト・・・先ずは首謀者から・・・。私達の前に現れた赤いフードを被った男が今回の襲撃作戦のリーダーだったようです」「デッドグレムゲン」「はい(コクリ)。この男の所在は掴むことが出来ませんでした。おそらくもうこの首都にはいないのでしょう」「・・・」「ちっ、くそ・・・」
当時、何も出来なかったガジェットとベラールはよりその悔しさが滲み出る思いだった。
「それ以外は?」
代わりにレティシカが質問する。
「大体の者達は問題なくあの場で捕まえる事が出来ました。どうやら彼等とは敵対関係にある者達のおかげですね」「その方達は?」「(ふるふる)・・・。いつの間にか去って行きました。お礼を申し上げたかったのですが・・・」「叔父様達を救ったという少女の方は・・・?」「そちらも。たまたま居合わせただけという事で、モンスターを倒すとすぐに何処かに・・・」「何者なのでしょうか?♪(スリスリ)」「分からない。・・・ただ、申し子の1人だと私は思う」「赤い髪の剣士・・・」
教えてもらった特徴からレティシカが口元を隠し、考え込む。
「お姉ちゃん、心当たりが?」「・・・いえ。正確じゃないから確かとは・・・」「そうか・・・」
本当にお礼を言いたかったのか少しだけ残念そうにするユークリッド。
「王様・・・それで?」「あ、ああ、申し訳ありません。・・・テロリスト。今回の騒動を起こした者達は捕まえました。中には死者も出ていますが・・・」「まあ当然でしょう。あれだけの騒動。こちらも絶対に取り押さえる事なんて」「いや、違うんだよレティシカ」「?、どういう事です?」
姪の言葉に口を挟んだユークリッドは、どう答えたらよいか少しだけ考え・・・結局、分かっている事を話す事にした。
「今回の騒動。どうやら1つの組織だけで動いていたわけじゃないんだ。その中には私達と同じく商会の連中が味方していてな」「なっ」「私達の代表連ではなく、野心を持った者がテロリストに資金等の支援をしたようだ。組織内部の連中でも話の内容が違う事から、雇い主が違うのだろう」「・・・」
商業の国モナメスを愛し、また今の国の繁栄と平和を誇りに思っているレティシカ。
彼女にとって、商業を営む者達は同士という認識でもあった。
共に築き上げてきた経験が彼女の中で大切になっているからである。
そんな同志たちの中に裏切者がいる。
商売という仕事の下、理解は出来るが納得できることではなかった。
「欲を持つのも立派な商売の要素。間違ってはいないだろうが・・・今回は非常に残念な形になってしまったよ」「騙される方が悪い・・・ですか・・・」「欲に染まるのも生き物の本能。人が人に染まってしまうのも、また道理という事だよ」「・・・悲しいですね」「(ふるふる)いや。私達は恵まれていたのです。人も運も・・・」
商売に置いての約束というのはなかなかに難しい。契約というのですら守るとは限らない。
そこに道理があろうがなかろうが関係ない。
信頼関係に成り立つと同時にそれは・・・相手を信じるという自分の中の判断だけに委ねられる所が大きすぎた。
盟約、誓約で条件を出しても抜け穴はある。
あまりにも縛られれば・・・。それは先に強い手札を持っていた方がずっと優位に立つ出来レース以外の何物でもない。
逆転の目など初めから無い決められたゲーム。ただそれを、相手が満足するまで続けさせられる負の連鎖に仲間入りされるだけである。
人の心を読み切る事など出来ない以上・・・それは延々に続くジレンマとの戦いだった。
「今回の首謀者の商人は・・・殺されておりました。協力者した他の商人と一緒に・・・。腐っても商人。何とかして這い上がろうとするためにテロリストの情報も武器にしようと考えたのやもしれませんね」「先手を打った、と」「はい・・・。他には・・・もともと今のこの国が嫌いだった者達を集めたようですね。おそらく没落した豪商人の関係者達でしょう」「叔父様達なら、出来るだけの支援はしたと思いますが・・・?」
その言葉にレティシカが不思議に感じた。
人の善いユークリッド並びに、今の商会の代表連。
全てとは言わないが、それなりのフォローやサポートはしているものだとばかり感じていたからだった。
「生活に関しては。贅沢を言われると困りますが・・・ご家族や使用人達などの一通りの物や部屋。生活に必要な最低限のものは用意して、仕事も私達の方で斡旋はしたのですが・・・。やはりかつての埃までは捨てられない方もいたのでしょう」「それだけしてもらって・・・。それってただの我が儘──」「ベラール」「いいんです。他の国と同様、この国もまた変わっていくしかなかったのです。その結果、取り残されてしまった・・・。彼等もまた被害者とも言えるのですよ」
変化に追いつけなかった者が悪い。
そう言って切り捨てる事が如何に簡単か・・・様々な助けを借りて、今の国が成り立っているユークリッドにとっては他人事とは思えなかった。
「失礼脱線しましたな」「いえ」
頭を下げると、用意された紅茶を飲んで喉を潤して話を再開させた。
「亡くなった商人、協力者達の死体の状況から考えますと・・・元々、テロリスト達は彼等を切り捨てるつもりだったようですね」「使い捨てで仲間に?」「ええ。おそらく商人側も同じことを考えていたのでしょう。今回、テロリストが使用していたアジトと荷物。どこを拠点に活動しているのかを記録に残そうとしていましたからね」「その口振りだと、燃やされたってか」「お察しの通りです。今回の襲撃場所の一部が残っていたのを調査した冒険者が持ち帰って来てくれました」
そう言って、懐から出した小さな紙切れ。焼け焦げ、大部分が失っているが。
丸が付いた所と補足した文字の位置から大体の場所が予測できた。
「機関と学園・・・それと・・・?戦艦?」「ええ。目的の1つが戦艦の奪取ではなくどうやら戦力の分散にあったようですね。出発の時期は外からでも分かりますが、中の乗組員の数までは、そうはいかないでしょう」「協力者が中にいて漏らしていたのか」「高等部の遠征に同乗させることも予定に組み込んでいたのですね。だから学園を・・・」「手薄な時に、レティシカを捕縛すれば私への切り札になると考えたのでしょうね」
その言葉は理解できた。ただ1点気になる事があった。
それは学園の体育館にレティシカ達を連れて行った事だった。
「叔父様、たぶん少しだけ違うのかもしれません」「?、というと?」「一石二鳥を考えたのは間違いありませんが・・・。奴らの中の1人は私の中の記憶を探していたようです」「記憶?」「ああ、いえ。記憶というのはちょっと語弊がありますね。私の中の血。・・・その中に眠っている力・・・精霊に関しての情報と別の何かを探している様でした」
レティシカの言葉に今一つピンとこない様子のユークリッド。
それはガジェット達も同様だった。
「・・・血の記憶・・・。義姉さんからそんな話は聞いた事ないな」「私も同じです。おばあ様もそんな事は知らないかと・・・」
そう言って話していたレティシカは、自分の手前に用意された紅茶を見つめた。
揺れる中の液体。それを見ながら当時の出来事を思い出す。
「だけど、あの時・・・異空間に入った時、確かに精霊・・・召喚獣と名乗ったモノが言っておりました。近い将来、誰かが選択をしなくてはならない時が来る、と」「何の?」「(ふるふる)分かりません。その盟約とやらを私は知らないのです。それよりも先にテロリストの男が立て続けに質問しておりましたから」
異空間が壊れ、強制的に外へと出されるというのを初めて経験した。
まるであの時の出来事は夢なのではないかとすら思える話だった。
「盟約・・・。精霊ではなく召喚獣。テロリストは何をやろうとしていたのか」「碌でもない事だろ」「ベラール・・・。それはそうだが・・・」「考えたってどうしようもねえ。大体それをやったっていう男はアイツが倒したんだろう?」「あー・・・」
ベラールが指し示す先を見てガジェットが何とも言えない顔になって目を逸らす。
「おほん・・・。そ、その・・・彼が・・・」「ジン君です・・・!」
元気に答えるのはご機嫌のユティ。
膝の上にジンを乗せて、大きなぬいぐるみの様に抱きしめている。
両隣に座るリエナとパミルが無言で彼女の腕の服を掴んで、ユティに離す様にアピールしている。
当の本人は無視して先ほどからジンの頭を頬擦りしており、その顔はとても幸せそうだった。
ジンは・・・虚空を見つめて廃人と化している。
夏休み前に会えなかった反動が爆発したのか、その勢いが凄まじく。ジンは文字通り人形と化してしまっていた。
(ジン・・・)〔ゼク止めましょう。傷口を広げる事になります〕(う・・・うん・・・)
申し訳なく思いつつ、1人?ジンから少し離れるゼク。
「そのジン君が倒して?くれたという男なんだが・・・」「?、やはり何か?」「まあ、君達の予想通りというか何というか・・・。元々、精神的に参っていた様でね・・・。とてもじゃないがマトモに話せる感じではなかったよ」
担架に運ばれていく彼は``あり得ない``とずっとうわ言で呟いていた。
出会った時はまだ正気だったが、徐々にその精神が病んでいたのはレティシカも分かっていたようだった。
「それでは尋問も・・・」「(ふるふる)。あの部屋や資料に関して聞こうとしたら・・・突然叫んで蹲ってしまったよ」「この子が悪いわけじゃありませんからね」「もちろん分かっているよユティ。・・・そろそろ解放してあげては」「ふふん♪」「「・・・(ぐいっぐいっ)」」
スリスリ・・・。
「・・・はぁ」
ユークリッドが躊躇ってしまう光景に思わずレティシカがため息を吐いた。
「ユティ。いい加減、解放して上げなさい」「や」「ユティ?」「・・・お姉ちゃんが抱き着きたいんじゃないの?」「そんなワケないでしょ?」「んー・・・」「ほら」
少しだけふくれっ面になりながらもジンを解放するユティ。
やっと少しだけ生気が戻ったジンは、そのまま自然な流れでたまたま近くに空いていたレティシカの横へと座った。
「・・・」「お姉ちゃん?」「ま、全く・・・。あなたって子は・・・」
若干誤魔化す様にユティに注意するレティシカは、正面を向き直り話の続きを促す様に叔父であるユークリッドを見た。意図を理解した王。
「あああっ、今回の被害者に関しては・・・死者が襲撃者に留まったのが奇跡というか何というかだな。建物への被害も・・・あれだけにしては比較的軽微な部類に入るだろう」「学園も同じですね。多少襲われた使用人たちは気の毒ですが・・・死者を出さなかったのは不幸中の幸いです」「何やら別の問題もあったと聞いたが?」「眠っている女性達に不埒を働こうとした者達が多くいたそうです。結局未遂に終わったそうですが・・・」
報告しながらチラッと視線送るのは紅茶をゆっくり飲んで精神的疲労の回復に勤しんでいる少年。
「被害に遭われた学生達の回復と、起こした者達への処罰に少しばかり手間取ってしまいました」「なるほど・・・。建物に関しては・・・私達の方で任せなさい。レティシカは学生達を」「叔父様」「いいんだよレティ。君も挫けずよく頑張った」「叔父様・・・。ありがとうございます」
レティシカが礼を述べたタイミングで部屋を誰かがノックした。
「どうぞ?」
入室許可を得て入って来たのはネミリアだった。手には1冊の本を持っている。
「お待たせして申し訳ありません」「いえいえ。こちらからお願いしたのです。・・・それで何か分かりましたか?」「はい・・・。レツガイスなんですが、魔法の祖とも呼ばれるものがありましたね」
ネミリアは持って来たほんのあるページを示す。
「それを見る者は世を知り。それを理解する者は世界をも統べる・・・。何か本の冒険モノの一説みたいですね」「って言うか世界を統べるって、魔王かよ。あれ、ってか魔法の祖だし、まんまじゃねえか」
自分で気付き思わずツッコんでしまうベラール。まあまあ、とガジェットが抑えつつ苦笑する。
「これだけじゃ分からないわね。それよりもよく見つけたわね」「私もさっきまで忘れてたんですよ。ただ、そう言えば昔話で聞いた事あるなってフッと思い出したんですよ」「それが・・・魔法の祖、でしょうか?」「(ふるふる)いいえ。ウチではコレを玉樹と呼んでおりました。・・・まあ、そう言っても実物は見た事ありませんでしたけど・・・。懐かしいなー・・・」
少しだけ昔を思い出して馳せるネミリア。
「地元ではどんな風に伝わってたんでしょう?」「岩なのか木なのかは分かりませんが・・・幻の石だと伝わっております。まあそれが本当に石なのかもわかりませんけど・・・」「どうしてその様な?」「先ほどの一説の様に、それを理解できたものは超常の力を身に付けたという話があります。その遥かな子孫達がレツガイスの中でも険しい山に住まう民だとか・・・。あ、これですね」
話をしながらネミリアが本のページを捲る。そして見つけた箇所を全員に示した。
そこには険しい山の絵の桃源郷を思わせる様な、独特で豪華そうな建物の絵が描かれていた。
「見た事ないけど・・・こんなのがあるのか?」「さあ?」
ベラールの問いにガジェットが首を傾げる。
「流石に昔の話ですし・・・。今はこの場所も廃れてしまったでしょうが・・・その麓には大きな都がありますよ?」「流石、地元民」「と言っても、私も昔何度か行っただけの旅行者だけどね」
友人であるレティシカに少しだけ茶目っ気を出して答えるネミリア。
「様式は時代も変わって少し違いますが・・・この絵の名残りは確かにあったと思いますよ?」「という事は・・・ジン君の探す手掛かりになるな」
また一ついい情報が手に入ったと喜ぶユークリッド。
しかしそれに対し、少しだけ難しい顔をするネミリア。
「ん-、ちょっとそれは厳しいかもしれません。ここは大陸の中心に位置する場所なのですが・・・そこはとても険しい山ばかりで・・・人が登山で向かうというのは、あまり聞いた事がないですねぇ。それに・・・自国の者でもない旅行者が訪れて、受け入れてくれるかどうか・・・」「それじゃあ、あなたは・・・ああ、翼ね」
僅かに広げたネミリアの仕草で理解したレティシカ。
ネミリアのその答えに唸るユークリッド。
「んー・・・翼人種達なら問題なく踏破できるだろうが・・・翼の無い者には厳しいか・・・」「その点なら問題ないですね」「ああ、コイツならきっと1日でそんな山くらい越えられる」
ガジェットとベラールがジンに変わり勝手に太鼓判を押す。
よく見れば、話を聞いていたらしいリエナ、パミル、ユティも同じく頷いて同意していた。
その反応に少しだけ困ってしまうユークリッド。ジンの素性をまだ詳しくは知らないレティシカとネミリアは静かに彼の気持ちに同情した。気を取り直して、話を再会する王。
「オホン。ま、まあ皆様が信頼されているのは分かりました。ですが問題は部外者だという事です」
その言葉にフと思い出したガジェットがネミリアに振り向く。
「確か、レツガイスは武の道を目指したりする者達が多くいるとお聞きした事がありますが・・・?」「ああ・・・修験者ですね。元は過酷な環境に身を置いて、自身を見つめるものですが・・・武も確かにその1つですね。ですがそれはもう少し大陸の北の方ですね」「修行の一環でその場所に立ち寄ったというのは・・・?」「うーん・・・確かに、通じる事は通じるかもしれませんが・・・流石に玉樹関連の情報を教えてはくれませんよ?」「・・・そうですか」
お互い苦笑して、この話は無かったとものと終わらせる。
「まあ、そもそも玉樹がここにあるかは不明ですね」「と言いますと?」「実はずっと昔から、その行方が分かっていないそうなんです。確かにあった、とだけ伝わっているようですね」「って事は振り出しか」「そうなりますね。ごめんなさい」
眉を下げるネミリア。
玉樹と呼ばれる幻の石については、一旦保留という事になった。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 50
魔法値 50
潜在値 50
総合存在値 100
スキル(魔法):干渉、棒術 1、マナ零子 1




