30 気づかされた変化と変わってないこと
「・・・うん、わかった。
(意味が解らん)」
まったく理解が追い付かないためテキトーに振りだけをしてしまう純。
〔意味は先ほど申し上げた通りです〕
「!、・・・(お前、心の中を・・・)」
〔はい。
あなたの内にいるので〕
「いや、そんなあっさりと・・・。
っていうか、俺のプライバシーはっ!」
〔ご安心を、あなたにしか私の声は届きませんので〕
「いや、そういうことじゃなくて!」
〔マスター。
あまり叫ばれますと、また注意されてしまいます〕
「あっ・・・」
純は扉の方を向いて少し黙った後、小声でそのサポート?なる存在に話しかけた。
「・・・押し問答みたいになってるけど、もう一度聞くけど・・・。
お前は、俺の中にいるサポート、と・・・」
〔その通りです〕
「それで、お前は鑑定に近い存在だと」
〔はい。
厳密にはあなたをサポートするために作られた存在です〕
「作られた?(誰に?)」
〔``あなた``にです〕
「・・・は?」
純はサポートの説明に意味が解らず混乱していく。
〔マスターは異世界。
システンビオーネで最後どうなったか覚えておいでですか?〕
サポートの質問に純はクリスだった頃の最期を思い出す。
「・・・確か、偽勇者に攻撃されて・・・それからー」
〔あなたはユクーズの攻撃で吹き飛ばされ、滝の底に落ちていったのです〕
「・・・ああっ。
・・・う~ん・・・?」
何となくは覚えているが、ハッキリとは覚えておらず首を傾げる。
〔あの時、あなたの力で生み出された存在。
それが、わたし``サポート``です〕
「生み出し・・・た?」
〔はい。
落ちていく中で、あなたはレベルを上げ、実績を積み、器を進化しました。
その結果、私という存在が生み出されたのです〕
「?・・・実績?・・・器?」
〔実績とは、あなた専用の器を磨く経験値のようなものとお考え下さい。
器とは、そのものの存在を昇華するものの事です。
マスターの記憶から説明しますとステイメッカのギルド長、バルクを覚えていらっしゃるでしょうか?〕
かつて、純がクリスとして転生しステイメッカの町で出会った男。
ギルドといわれる組織の冒険者を束ねるギルド長、その男のついてをサポートは純に聞いてくる。
「・・・あのはた迷惑なおっさんか・・・」
冒険者としての実力は超一流。
しかし、自身の冒険を優先してギルド長としての仕事を部下にほっぽりだしている男。
野性的で獰猛な感じだが、しっかりギルドや町の事にはちゃんと配慮できている男だった。
まあ、とりわけその中で損を食う大体、ギルドの仕事をしてる受付や裏方でお仕事をしてる方々。
とても、50を超えた見た目じゃないおっさんというかおじいさんに入る人だった。
〔あの者は自身で限界を超え、器を昇華したものです〕
「・・・ああ。
確か受付のお姉さんも言ってたかな?」
〔本来、器の昇華は起こりにくいものなのです。
限界を超えるのすら難しいこともある中では、あの者は珍しい者のようです〕
「確かに。
見た目も若く寿命も延びるんだっけ?」
〔はい。
ただし、延命し肉体も若くいられるのは限界を超えても可能です。
しかし、器はその者の存在が上位になることを意味します〕
「上位って・・・。
神になる・・とか」
冗談交じりに半笑いで聞いてみる純。
〔はい。ありていに言えばその通りです〕
「マジかよ・・・あのおっさんが神・・・か・・・」
冗談で言ったつもりが本当の話で戸惑うクリス。
〔いえ、神になるのはそうなれるものではありません。
ただ、そのための・・・半券、切符のようなものを得ることが出来た、といった方が正しいかもしれません〕
「・・・切符?」
〔そもそも世界は・・・・〕
突然ノイズが強くなった。
それによりサポートが答えなくなる。
「・・・どうした!
何かあるのか?」
いきなりのことに若干焦る純。
〔申し訳ありませんマスター。
どうやらこれ以上は分からないようです〕
「・・・え?
どういうこと?」
〔申し訳ありません。
サポートとしての私の力ではこれ以上の情報がありません〕
「・・・じゃあ・・切符が何なのかとか。
あの世界が何なのかとかは・・・」
〔・・・〕
「・・・そう、なのか・・・」
謎が謎を増やされただけのように感じる純。
〔マスター。
今わかることは、あなたは器を昇華し存在を大きくしたことです〕
「それが神になるためだってことは分かるけど。
その根本のなぜそうなるのかは・・・」
〔・・・・・・〕
「分からないわけね。
はいはい、わかりました」
サポートの無言の返事で純は自分の中でこれ以上この話題について話すのは諦めた。
「・・・でも昇華したわりには。
特に何か変わったところはないように思うんだけど。
ステータスとサポート以外は・・・」
〔いえ、変化はしております〕
「え!・・・どこに!?」
〔わかりやすく言えば・・・見た目にです〕
「・・・え?」
ハッキリと断言するサポートに純は首を傾げる。
地球に帰って来た時、すぐにトイレに向かって鏡で自分の顔を見たからだ。
(いや、特に変わったようなことは無かったと思うけど・・・)
〔マスターはあまり鏡を見ないのでお忘れですが、しっかりと昇華の恩恵を受けております。
先ずは、体重を量ってみてください〕
「え?体重?」
純はサポートの答えに疑問を持つ。
しかし、それ以上特に言うことがないのか黙っていた。
仕方なく純は部屋を出て階段を下り廊下をまっすぐ行き、お風呂場に置かれた体重計に乗った。
「・・・お、おお。
・・・あれ?」
体重計に乗り量った数値は80。
「以前量ったのは身体測定のときだから・・・普通に痩せた?
(いや、でも20キロ痩せたってのはデカいなぁ・・・デカいけど・・・)」
個人としては良いことだったが、ステータスとかそういう特別な何かを少し、いや実はかなり期待していた純はこの結果にいささか素直に頷きにづらかった。
「う~ん・・・サポート。
もう少しわかりやすいのは無かったの?
いや、体重が落ちたの良かったけど・・・」
〔昇華といっても、いきなり姿かたちが劇的に変化する方が稀です。
モンスターなら可能ですが人の身でいきなり変わることはそうそうありませんので〕
「いや、まあ、うーん、そうなんだけど」
納得がいかず未練がましくなってしまう純。
〔それでも、マスターはしっかりと変化をしております。
体系のみならず、わずかにですが細くなっています〕
「え?そうなの?」
鏡で自分の顔をほとんど見なくなった弊害か、自分がどんな顔を以前はしていたのかわからなかった。
〔しかし、モンスターのようにいきなり変化がないのは幸いかもしれません〕
「え?なんで?」
純にとって、この姿からイケメンは・・欲張りすぎでも、普通に人くらいの容姿にはなっていたいと思っていた。
〔お考え下さい。
マスターは以前の体重がちょうど100キロございました。
それが急に見ない内に、それもわずか数時間で激やせして容姿が整いだしたらどうなりますか?〕
「・・・・・あ」
純はその現場を想像して困った。
先ずそもそも人が違うと言われ自身が一体だれかを聞かれるということが簡単に想像できた。
そうなれば、家族はもちろんクラスメイト達にも注目される。
それも、一種の奇異とも恐怖とも呼ばれる眼で疑われる。
そうなると身元が何なのどうだのと大変ややこしいことになってしまう。
〔そういうことになります。
むしろ、昇華した上に程よく懐疑的に思われにくい良い所ではないでしょうか?〕
「いや、まあ・・・確かに」
未練はまだあるが純は納得のいく答えに頷いた。
〔それに、分かりやすい所で見た目をご説明しましたが、マスターはちゃんとステータス、能力の方も反映されております〕
「え?でもステータスって・・・」
ステータスに映し出されたものは、数字だけ、しかもオール``1``のみだった。
「1しかないけど?」
〔いえ反映はされています。
今現在は、数値上は1しかございませんが、異世界で得たステータスやスキルなどはしっかりと魂である器に昇華され強くなっております〕
「へ~」
サポートの説明に純はまるで通販番組の客のように感心した。
「スキルも昇華したんだよね」
〔はい〕
「なら・・・・お?
おおっ!」
純はクリスとしていた時によく使っていた体内マナの流れを感知コントロールしてみた。
「確かに感じる・・・マナだ。
?・・・でも、おかしいなぁ。
なんか、違う」
純はマナのコントロールに今までと違って量と流れるスピード、そしてそもそもの性質の違いに違和感を覚えた。
〔おそらく昇華の影響でマナの性質に変化が起きたのでは?〕
「性質って変化するの?」
〔はい。
器が大きくなればそのものの存在にも必要となる性質と力がついていきます。
以前と同じままでは出力量に無駄なエネルギーだけが大量に消費してしまうために肉体と精神が再構築されるためです〕
「今の自分にカスタマイズしたってことか」
〔その通りです〕
純は納得しマナコントロールを続ける。
「こんな所で何してるの?」
「あっ。
いやちょっと体重を量ってみようかと・・・」
突然、母が入って来たのでつい咄嗟に言い訳をした。
本当の事ではあるが、別の理由もあって言えなかった。
「・・・そう。
あ、お風呂に入るならサッサと入ってちょうだい」
「・・・はい」
純は一旦部屋に戻りタンスから服を取り出してから言われた通りお風呂に入った。
お風呂から上がりさっぱりした後、そのままベットに仰向けに寝転がった。
「ふぅ・・・・何も聞かないんだな」
〔何がでしょうか?〕
「・・・・俺の家族の事」
〔私はマスターの中で作られ生まれた存在です。
過去に何があったのか、関係が何かは把握しております〕
「ああ、そうなんだ。
じゃあ義理の家族ってのも・・・」
〔はい〕
「・・・そっか」
その後は、何も言わず天井を眺めていた。
純の家族は純が小さいころに他界し、現在の家族、白星家が引き取った。
引き取ったというのも純の本当の親は親族に嫌われていた。
純の家系は両親ともにエリート家族でどこの業界にもそれなりの地位を得ている優秀な家系だった。
そのため、エリート志向が強く、それ以外のものには排他的な部分があった。
だから、業界で成績トップだとか、何かの賞を受賞し一代企業にまで昇り詰める人も現れたりと一定以上の地位を持てて当たり前と考えている。
そんな思考主義にそりが合わなかった、はみ出し者同士がくっついたのが純の両親だった。
だから、純の親が交通事故で亡くなったとき誰も引き取ろうとはしなかった。
そのため純は児童養護施設に送られるはずだった。
そんな所に一族集会のように家族親戚が一斉に集まる集会が合った時にたまたま、その中にいた遠縁の家族が引き取ってくれた。
それが白星家である。
以来、引き取られてからの数年間はここで過ごしている。
ただやはり、純の家系はエリート志向の人が圧倒的に多くその結果。
親戚が集まる集会になると純はいつも蚊帳の外にされ蔑まれていた。
そのためか異世界では最初はおどおどしながらだったが後半になるにつれ普通に会話ができていた。
しかし、いざ地球に帰ってきてみれば、以前の人見知りで顔色を伺う怯えた性格やしゃべり方が出てしまっていた。
「・・・異世界で旅して、いろんな人とも話せたのに、日本に帰ってみればこんなもんか」
どこか自身を呆れかえり卑屈になってしまった。
〔・・・・〕
サポートは何も言わず黙っていた。
それから風邪をひかないように布団を深くかぶり、早めに就寝した。
【十時影 純】 15才 人間?(ぽっちゃり)
レベル 1
HP 1 MP 1
STR 1
VIT 1
INT 1
RES 1
DEX 1
AGI 1
LUK 1




