304 孕む欲望
「ねえ?私達はいつまでここにいればいいの?」「もう少し待ってください・・・リエナ」「・・・」
騒動が発生し、待合室に閉じ込められて30分近くが経過した。
一向にこの後の指示がなされないまま、監禁状態が続いていた。
「(ボソ)特に私達を連れて行くわけでもないし・・・。一体何をしたいのよ?」「(ボソ)リエナ、落ち着く・・・。たぶん、まだ向こうの計画が進んでないだけ」
何かに気付いたのかパミルの言葉と顔付きにリエナとアミル、ルチルが真剣な顔になって見る。
「(ボソ)計画って・・・何?」「・・・・・・・・・・・・わかんない」
溜めただけに、思わせぶりな空気からガクッと肩が落ちそうになるリエナ達。
「あ・・・あっははははは・・・。ですが、パミル様の言い分も間違いないのかもしれませんね」「と、言いますと~?」
チラッと入口を塞ぐようにして立っているテロリスト達を確認して、リエナ達の方へと顔を寄せる。
完全にダウン状態の騎士達を除き、教師達も耳を傾ける様に近付ける。
「(ボソ)人質というのは一部、重要人物を除き分散させるのは監視する上では効率が悪いです。人質の数を全て把握できるわけではありませんからね」「(ボソ)確かにそうですね~。こちらには今回の体験入学の参加者達がたっくさんいましたしね~。全員を監視するとなると一か所に集める方が断然に楽です」「(ボソ)・・・じゃあ、私達も重要人物?」「(コクリ)。(ボソ)立場的にはそうでしょうが・・・。自分達の思惑とは別に大きな指示の下、集まっている連中です。独自判断で動けるのも限られているのでしょう」「(ボソ)なるほど・・・。結果動かせない」
少し前まで下品な顔をしていた男達も、今は少し退屈そうにして何かを待っている姿があった。
欠伸をしてソファーに座って待っている。何かの指令待ちなのがとても分かりやすかった。
「(ボソ)ですが・・・あのウーバと呼ばれた者はどうでしょうか?他の者達とは違い、単独で動いている様にも感じられますが・・・?」
教師の言葉にチラッと面々が見ると・・・入口のすぐ外の廊下で、壁に背を預けていた。
時折、左右を見ては少し動いて戻ってくるを繰り返している。
その行動から観察したアミルが導き出したのは・・・。
「(ボソ)おそらく、毛色が違うのは仕えている者が違うからではないでしょうか?」「(ボソ)雇われ傭兵の様ですが・・・大人しく指示には従うようですね~」「(ボソ)という事は、あちらは問題ない・・・と?」「(ボソ)はい・・・。実力のほどは定かではありませんが・・・。少なくとも私欲で動く事は少ないでしょう。・・・問題は・・・」「おい~。いつまで待つんだよ?嬢ちゃんだけでなくオレもそろそろ我慢が苦しいぜ~」
1人の男がウーバへと声を掛ける。それに同意する様な者達も半数以上いた。
「このままお預けで終わりって事はないだろうな?」「だったらこっちで先に始めちまうぜ?」「ここでやるのも後でするのも同じだしな」「(ボソ)どうやら少し、雲行きが怪しくなってきましたね」
アミルの言葉に、自然と体に力が籠ってしまうリエナ達。
取り上げられていない剣の柄にしっかりと触れて存在を確かめるアミルとルチル。
「俺もそうしたいのは分かるんだがな~・・・。?・・・何だ?」「・・・あ?」「・・・なんだ?」
突然、廊下の向こうを見て止まったウーバ。少し遅れて、何かが聞こえたのだろう男達も廊下側を見る。同じく、聞こえてきたリエナ達も何かわからず疑問に感じつつも、目の前に警戒心を強めていく。
「・・・・・・はぁ・・・・・・ああ゛あ゛っ・・・!!・・・・ぁぁぁあああ゛あ゛あ゛~・・・あぁぁ・・・」
遠くの方で奇声と悲鳴を上げて何かが通り過ぎていった。
「一体、何だ?」「起きてきた奴が逃亡か?」「そんなワケないだろう。かなり強力な魔法なんだぜ?」「でもよ~。それだったらなんて、そこの人質は寝てねえんだ」「・・・」
テロリストの1人がリエナ達を指差した事で、仲間達が一斉に振り向く。
「拡げ過ぎて弱まったとか?」「だったら俺らにも効きそうじゃん」「ばーか、薬飲んでただろうが」「あ、そっか」「でも起きてるのは確かじゃねえか?このまま逃がして大丈夫か?」「・・・後が面倒だな」
仕方ねえと頭を掻いて2人ほどが奇声が聞こえた方へと向かおうと動く。
「ウーバ。構わねえな?」「・・・。待ってくれ。お前達、殺しに行くんじゃないだろうな」「あ?当然だろ」「起きた奴を野放しにする気か?・・・はっ、女だったらちょっと遊ばしてもらうがな」「あ、ずりい、だったら俺も」「俺だって。この際、男だったら情けねえ面を楽しみたいぜ」
次々と名乗り上げ、ウーバの方へと向かうテロリスト達。
完全にリエナ達、人質を油断しきっていた。
「待ってください。まだ勝手・・・っ!」
1人気付いたウーバが横へと転がった次の瞬間。
「ぁ?ぐああっ!」「ぎっ!!」「ぁぁあああ゛・・・はああ゛あ゛あ゛っ・・・はあ゛あ゛あ゛っ・・・!」
斬り付けられて倒れるテロリスト。重い一撃をわき腹から直撃して悶絶し、口から血と泡を吐いて痙攣する者。体が燃えて暴れ回る者と何人もの男達が阿鼻叫喚としていた。
「やった・・・出せた」「成功」「助かりますお嬢様」「騎士達をお願いします」「分かりました」
待合室から飛び出したアミルとルチルが残っているテロリスト達に斬りかかる。
出遅れた者達は斬り付けられて床に転がる。しかしそれも3人までだった。
流石に場数は踏んでいるのか、残った者達はすぐに体制を立て直した。
「てめえ等!それがどういう事か分かってんのか!!」「人質がどうなってもいいんだな!」「(まずい!)」「(いけない!)」
学園内にいる者達を指していると気付いた、アミルとルチルの額に冷や汗が浮かぶ。
・・・が、その時。叫んだ男達のすぐ目の前に突如シャボン玉が出現した。
「あ?ぶびぇ!!」「がひっ!」
顔面へ急速に飛んできた玉が直撃。鼻の骨どころか顔を陥没させかねん程の威力に、宙を舞って転がって行ったテロリスト達。
「な・・・何が・・・?!」
理解できない男が吹き飛んだ仲間の方を見ていた隙に、別の方から仲間の叫び声が聞こえた。
油断した隙に追撃で剣と魔法が向かって来たからであった。
「(何が起きた・・・!?)」
たった数秒、数十秒で圧倒的に数で勝っていたテロリスト達が一気にリエナ達人質の数と同じぐらいにまで減らされていた。2倍以上はいたはずの仲間がどんどんと少なくなっていく。
あまりに一瞬の出来事に、冷静に状況を理解しようとしているウーバも上手く思考がまとまらず、冷や汗を搔いている。
「(まずい・・・ここはっ・・・!)」「逃がさん!」「ぐっ・・・。ちっ・・・!」
反応が遅れ、隠していた小剣で受け止めたが手首を痛めた。更には逃げるための退路を潰されたウーバ。
「・・・くそがあ゛っ・・・」「・・・随分、見にくい顔だな。そっちが本性か?」
忌々しそうに片方の口を吊り上げ吐き出した言葉に対し、冷静に正眼に構えるアミル。
「ぎゃああ~~っっ!!」「っ!!」
またしても倒されていくテロリスト。それに目だけで事態を確認する。
そこには生きてはいるが、起き上がれる者がいない死屍累々の姿があった。
「ふう~・・・。残りわずかですよ~?」「「「っ・・・!!」」」
明らかにテロリストが怖気づいていた。
逃げようにも足止めを喰らい、油断した隙に援護で魔法を放たれるこの状況・・・テロリスト達に逃げる術がなかった。
(よし・・・これで大丈夫だね)
1人?納得している雲の形をした精霊・・・ゼクは形勢が逆転した状況に一安心していた。
・・・・・・
〔ゼク。あなたはリエナ達に付いて行ってください〕(え?どうして~?)「(・・・何となくだけど・・・ずっとあの人が気になってね)」
それとなく横を向くジン。
(あ~・・・あのモールって人?)〔そうです。最初は大きな町ですから、たまたまかと思われたのですが・・・。今日は一段と何やら不快な気配を放っているのです〕(そんなこと分かるの!?)〔細かくはまだ・・・ですが、明らかに敵意に似た何かをずっと近くから放っていれば、嫌でも分かります〕
サポートの言葉に少しだけ真面目な顔になって、笑顔を振りまくモールを見るゼク。
(・・・ぼくにはよく分かんないけど・・・。この人が危ないってのは分かった)〔お願いします。最悪の場合、あなたの判断で構いません。私達の替わりにリエナ達のフォローをお願いします〕(・・・分かった・・・!)
気合いを入れると、ゼクはジン達とは別行動してリエナ達の傍を付いて行くのだった。
・・・・・・
(不安定な空間でもぼくがいればいいって言ってたのは、魔法が使えるって事だったんだ)
安定はしないが魔法を構築して放つリエナとパミルに、サポートの言っていた意味を理解できたゼク。
(・・・でも、ぼくじゃこれ以上は無理なのかも・・・)
援護は出来たが、近くで寝ているリエナ達の護衛騎士達にまで睡眠を防ぐほどの魔力が回せなかったと、少しだけ落ち込んでしまうゼク。
((ぶるぶる)・・・ダメ!今は目の前に集中・・・!)
少し弱気になった気持ちを奮い立たせ、ゼクはリエナ達と共にテロリスト達に攻撃を仕掛けるのだった。
「っ、があ゛あ゛あ゛~っ!ぐはっ・・・!!」「んぎっ!!(何だよ、一体!)・・・ぐうあ゛ぁっ・・・!!」
足に突然、出現したシャボン玉が命中。直撃により骨折してバランスを崩された所を追い打ちで、刺され、戦闘不能にさせられるテロリスト達。
「よっし!ルチル」「はい!」「ぎゃああ゛あ゛あ゛~っ!!」
また1人、倒された。
「こっちも」「了解です」「止め・・・ぐぶぅっ!!」
続けて、もう1人。
気付けば残す所ウーバを含めて3人となってしまった。
「「・・・っ!!」」
ここまでくれば、どっちが不利かなんてのは言うはずもなく。
理由など関係なしに、一目散に逃げる選択肢を取るテロリスト達。
「逃げられるわけないでしょ!」「諦めろ!」
教師陣が放った攻撃にあえなくあっさりと倒されてしまった。
「っ・・・!くそっ、くそっ、くそぉ゛っ!役立たず共が・・・!!」
計画が完全に狂い、体裁なんてものを捨てたウーバ。感情のままに悪態を吐く。
「どうします?・・・降伏するなら」「誰がするか!!ブスがあ゛~っ!!」
目を血走らせ、怒りを隠そうともせずに吼える。
ジリジリと詰められる距離。
後ろへと下がるがすぐに壁に突き当たる。
「(どうにかして・・・!絶対、次合った時は・・・!)」
ギリギリと歯ぎしりしつつ、アミルとの距離を確認していたウーバ。
ベタベタベタベタベタベタベタベタ・・・・・・!!
そこへ、視界の端にたまたま移ったのは高速で移動する生物だった。
それを見つけて思わず口元がニヤついてしまったウーバ。
「?何が?」「俺は幸運だな~・・・♪」「?」
自分に目線を合わせないウーバが気になって、その視線の先を追うと・・・50センチくらいのカメレオンのモンスターがいる事にアミルも気付いた。
「(モンスター?でもどうしてこんな所に?)」「ヒッ!」「っ!(しまった)」
ほんの僅かの隙に、モンスターに飛び込んだウーバ。
飛び込み前転で近くまで飛んだあとモンスターに背を向けてアミルの方へと振り返る。
モンスターに対して、背を向けるという行為に異様さを感じたアミル。
腰を落とし、警戒度を更に上げる。
「ルチル、お嬢様達を!」「っ!」
返事を返すことなく、呼びかけに反射してリエナとパミルの傍へと駆け寄る。
「何・・・?!」「どうしたの?!」「こちらへ!」
待合室から出てきた事情が分からない2人の少女の手を引いて反対側へと避難させようとするルチル。
「ここは任せて!」「お願いします!」
引っ張られ駆け出すリエナ達。
擦れ違う様に教師達が彼女達の盾となるべくウーバ達へと立ちはだかる。
事態が呑み込めず、後方を見るリエナとパミル。
そんな彼女が見たのは、ウーバの肩によじ登って顔をこちらに向けたカメレオンが膨らませた口を開いた瞬間だった。
「「「っ!!」」」
突然、頭を強烈に揺さぶる衝撃が襲い掛かった。
「はははははははは・・・・。はははははははははははははは・・・!!」
すぐ近くにいるはずなのに遠くで笑っている様に聞こえる男の声。
「(何だ・・・これは・・・)」
体はふらつき、閉じようとしている目を開けようと、頭を抱えて抵抗するアミル達。
「っ・・・!(目が・・・!)」
眠気とは別に、目の前が暗い霧に包まれた様に視界が悪くなる。
「抵抗できるってのはすげえな。でも我慢すんなよ。大人しく預けろって・・・!気付いたらすべて終わってるからな~・・・はははははははははは」
遠くで下卑た笑い声が聞こえる。
「ふざ・・・けるなっ・・・!」「おっと。頑張るね~・・・威勢がいいな~。さっきブスって言ったのは訂正する。かなりの美人だからな~・・・。アンタのお嬢様達を美味しく食べたら・・・その後にいただくとしようか・・・」「っ・・・!」「・・・すげえ根性だ」
必死に眠気を耐えようと、口の端を噛み、自分の上ももを思いっきり殴る。
「無理無理w。こいつに抗うだけの抵抗がありゃあ初めから」
ブン!
「効いてねえんだよ」「っ!」
ビュン!
「いやあ~。焦った焦った」
ガチ・・・!
フラフラと揺れている刃を摘んだウーバ。
「ああ~・・・やっぱダメだな。俺はすぐにボロが出ちまう。・・・やっぱ、俺もアイツ等みたいに素直な方が一番だったな」「・・・」
ガチガチと震える腕。力が入らず、気を抜くと剣を離しそうになる。
「ま、という事で・・・お休み♪」
ねっとりと絡みつく様な声が嫌でも耳の奥に・・・脳に入ってくる。
「(どうにかしてコイツの顔を・・・!)」
必死に顔を上げようとするがそれすらも億劫になるほどの眠気と脱力感が体を襲い続ける。
それでも彼女はまだ眠るわけにはいかないと、闘志を燃やす。
「(少しでも・・・。僅かでも・・・。力を・・・!)・・・っ!」
固まったアミル。刃から手を離すと切っ先が地面を叩いた。
「(終わりだな)・・・よし♪」
少し遠くに離れてしまったお目当ての少女達を視界に入れて、とても嬉しそうにするウーバ。
もはや誰も止める者はいないと確信して歩こうとした。
「・・・・・・おい。どこに行く?」「は?ぶぎゅ!!」
顔面を思いっきり殴り付けられたウーバが盛大に転がった。
「な・・・ばがな゛っ!!」
ダラダラと鼻血を流す事など関係なく、しっかりと2本の足で立ち、自分を見下ろすアミルに驚きが隠せないウーバ。
「・・・最悪だな」
彼が触れた肩と剣の腹を拭うアミル。
そこには先ほどまでのふらつきは微塵も見えない。
「な・・・どうなっでる・・・!!」
思わず彼は、転がった拍子に離れたカメレオンの方を向く。
しかし、カメレオンはどういうわけか虚空を見て、何やら警戒しているようだった。
「は?おい!」「余所見をするな」「っ!があっ!」
避けるのが遅れてしまい、ケガを負ってしまうウーバ。
それでも何とか立ち上がると、小剣を持って構えた。
「(どうした?!・・・何でだ?!)言う事を聞けー!」
思ったとおりに従わないカメレオンに苛立ちを募らせてしまう。
「・・・お前に、施しはいらないな」「っ!」
先ほどよりも明らかに冷たい声が浴びせられる。
一縷の望みを掛けて、カメレオンの方を向けば・・・勝手にどこかへと走って行く後姿が見えた。
「っ!!」「・・・あれを野放しにも出来ん。手短に済ませよう」「・・・くそーーーーーっ!!」
廊下に響き渡る男の声。そして始まった剣戟は・・・数分と発たずに幕を下ろすのだった。
・・・・・・
(ごめん。ジン・・・!)
廊下を急いで移動するゼク。その後を高速で追いかけるカメレオン。
(!)
中庭への出口を見つけたゼクは急いで外へと飛び出した。
飛び上がり頬張ろうとしたカメレオンの口とゼクの移動がすれ違った。
ほんの少しの遅れで、喰い付かれる所だった。
(・・・ここなら・・・!)
広い空間。誰もいないのを確認して、急速旋回してカメレオンと相対する。
それに対して、カメレオンもまたゼクとは一定の距離まで近づくべく中庭に出てきた。
(・・・お前か・・・。楽しみを邪魔したのは?)((っ・・・喋れる?)どうしてあんな事するの?)(あんな?・・・人が欲望に動くのは当然だろう?俺がちょっと手を貸しただけだ)
口角が上がり笑っている表情を見せるカメレオン。
(何でそんな事──)(俺にとってのエサになる。欲望も血も魔力も・・・等しく俺のエサ・・・。奴らが欲しいなら貸してやる。ギブアンドテイク)(ぎ・・・ぎぶ?)
言葉の意味はよく分からない。だが、目の前のカメレオンがとても悪い存在だという事だけは分かるゼク。
(とにかく・・・精霊だからって、そんな悪さ)(善悪なんてのを引っ張ってくる時点でお前は半人前だな!)
口を開き笑っているカメレオン。
(精霊はそこに存在するモノ・・・。そこに人の主義なんてのは関係ない。お前・・・人間に騙されてるな?)(っ!)
目を細めたカメレオンが、ゼクの中の何かを覗き込むように言い放った。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 50
魔法値 50
潜在値 50
総合存在値 100
スキル(魔法):干渉、棒術 1、マナ零子 1




