302 狙い
「先ずは市民達の避難誘導と安全確保を優先するんです」「ではあなたも」「私の替わりが務まる者達が代表連にはおります。それよりもあなた方も一緒に避難を」「だったら、僕達もあなたと一緒に市民達を
──」「待ってくれガジェ兄。アイツ等が学園にいる」「・・・でしたら向かってください。私達の事よりも先に」「ですが・・・!」
行き交う人々の波を中、急いで目的地の港。戦艦へと急いでいたユークリッド達。
方々から悲鳴が聞こえる先へと逆走する様に進んでいく。
途中、バランスを崩し倒れた女性を目撃した王は、無意識に手を差し伸べようと近づく。
「っ!大丈夫ですか・・・?!」「王っ!」
それを狙っていたのか、倒れた女性は起き上がると同時に刃物を持って飛び込んで来た、
慌てる騎士。だがガジェット達も含めて、王からはほんの少し遠い。
「っ!」「・・・!」
その瞬間、頭の中は真っ白になって固まってしまうユークリッド王。
ゆっくりと流れる時の中、歪んだ笑みを浮かべて自分へと向かってくる襲撃者。
ダメだと誰もが一瞬思った時、一陣の風が吹いた。
思わず近くにいたユークリッド達が目を瞑ってしまう。
「・・・んぐぐっ!」
何か重いモノが地面に叩きつけれ、くぐもった声が聞こえてきた。
「・・・?」
ようやく目を開けられるようになった一同が見たのは、女性ではなく男だった。
「魔法・・・!」
倒れてビクビクと痙攣している男。護衛の騎士達は急いでユークリッド王を彼から離す。
「なっはっはっはっ・・・。噂には聞いていたが本当に人が好いのじゃな」
人々が避難する細い道から逆走する様に1人の老人が歩いて来る。
「・・・あなたが?」「奴らの仲間には市民もおる。王には悲しい現実だが理解してほしい」「な、何を言って──」
騎士の1人が老人に剣を向けて言葉を掛けた時。またしても風の魔法をどこかへと放つ。
少し遅れてドサッと何かが落ちる音がした。
近くに積まれている荷物類・・・布の上に落ちたようだった。
「これを・・・」「それは・・・デッドグレムゲン・・・!」
先ほど傍にある屋根から落ちてきた男の二の腕には・・・目の形の黒い刻印。その目に横3本線が引かれた狂信者達のマークが刻まれていた。
「そっちのもんはおそらく共謀者じゃろう」「やはり・・・テロリストが・・・」「それもあるが・・・どうも私怨があるようにも見受けてな」「私怨・・・ですか?」「ああ。王よ・・・。あなたの、善人の行動を良く思わん連中がおるようじゃな」「・・・」
ゆっくりとユークリッドに近づく老人。この時には既に騎士達も味方だと判断し警戒を解いていた。
「不甲斐ないばかりです」「はっはっはっ。お前さんはそれでええ。・・・わし等とは違う・・・。じゃが人と思う気持ちを持った、好感が持てる王だとわしは思うぞ?」「・・・あなたはやはり?」「おっと、お迎えが来たようじゃな。それではくれぐれも気を付けてな」
何かに気付いた老人は1人手を振ってどこかの暗闇へと消えて行く。
そして、入れ違いでユークリッドの前に現れたのは、東洋風の独特の服装をした集団だった。
「遅れてしまい申し訳ありません」「ご無事で何よりです」
顔の下半分を隠した、その姿は異様だがユークリッド達は特に気にしていない。
「駆けつけて来た突然で申し訳ありませんが、分かっている事を教えてください」「はっ。どうやらテロリストは入念に下準備をしてその機会を窺っていた様子。一部の市民達を募り国家転覆を画策していたようです」「いえ・・・実際には鞍替えをして。表向きはただの災害として話を付けようとしたのかもしれませんね」「それはどういう・・・?」
ガジェット達の疑問にユークリッドが先ほどまで自分達がいた方の機関。そしてこれから向かうはず国専用の港を見る。
「見てください。市民達は海生物モンスターによる襲撃にパニックを起こしておりますが・・・。先ほど我々が襲われた事実、そして機関内で起きた事件については一切知らない」「・・・表の騒動に乗じて、権利をもぎ取る・・・。そういう事ですか・・・」
ガジェットの問いに頷くことで返すユークリッド。
「私の采配で国の情勢を変えている様に見せかけ、裏で非合法の事をしようと考えていたのでしょう」「一体誰が・・・!」「・・・」
脳裏に浮かぶのは・・・野心が強く、そして国の発展をより願って直談判してきた者達だった。
「王によって提案を却下された者達。その一部であるのは間違いありません」「やはり・・・そうですか・・・」
王の考えを読んだ、東洋風の男が肯定の言葉を告げる。
それを聞いたユークリッドは少しだけ寂しい思いになった。
「思う気持ちは一緒成れど・・・何処で違ったのか・・・」
思いを馳せる、その言葉は無意識に口から出てきてしまった。
「王」
騎士の1人が声を掛けた時。既にそこには国を統べる王としての顔になっていた。
「避難は?」「ここが騒動の中心であります。あと少しで完了します」「テロリスト達は?」「狂信者達の大半は何者かの手により、一部を残し鎮圧されておりました」「先ほどのご老人の関係者でしょうか?」
耳打ちする様なガジェットの質問に首肯する事で同意するユークリッド。
「(コクリ)おそらくは・・・。彼等については置いておきます。・・・協力者は?」「少数が逃亡。一部が自害。大半のものはこちらで押さえました」「ご苦労様です」「ただ・・・問題が・・・」「・・・あのモンスターですか?」「はっ・・・!」
壁を破壊した海生物モンスター達は、まだ残っている戦艦の攻撃で思う様に陸へと攻め込めず、足止めを喰らっていた。
入口付近に溢れかえっているモンスター達。怒りに任せ、魔法を使ったり、その大きな体で近くの壁や、横転した戦艦を破壊して回っていた。
その光景を見ているユークリッド達に、少しだけ重くなった口を開く東洋風の男。
「あれが全てではないと、報告が上がっております」「何ですと?」
・・・・・・
「モール?・・・ああ、そうでした。モールって言うんでしたね。ホント、気を抜くと呼ばれてもつい忘れてしまう」
待合室に入って来た若い男はエンタールモットからここまでリエナ達のガイドを務めた男だった。
「・・・本物はどこにいますか?」「本物?」
ルチルは魔法による偽装を考えて質問したつもりだった。しかし、返ってきたのは・・・。
「ああー、お前達と会う予定だった男か?・・・はぁ、残念な知らせだよ。どこかの林の中で眠ってるかもしれねえし・・・。もしかしたら遠くに行っちまったかもしれねえなあ・・・!」
ニチャアと唾液が糸を引きそうな口の開き方をして、嘗め回すように彼女達を見るウーバと呼ばれた男。
「ああ、でも・・・。そこの木偶共は・・・すぐに会えるかもな」「っ・・・ゲスが」「ははっ!いいな~その顔。それが楽しみだったんだよ~・・・」
嬉しそうに、自分を侮蔑するアミルを見るウーバ。
だが、突然・・・。雰囲気を変え、拡げていた両手をだらりと落とす。
「こっちも残念ながら予定があってな。盛りの付いた思春期共。お前らもちゃんとしっかりと仕事をしろよ」「分かってるって」「リーダーに殺されるのは勘弁だな」「でもよ~その前にちょっと確認なんだが・・・お前はどれを狙ってた?」
1人の男がウーバに質問した。
その瞬間、ウーバはゆっくりと・・・だが迷うことなく一点を見つめた。
「っ・・・!」
一瞬悪寒が走り、声が出てしまったリエナ。すかさず彼女を隠すようにアミルとルチルが入る。
「おいおい。やっぱりか・・・」「小さくて強気な奴が従順に変わっていく様は、何度味わっても変わらねえ。いや、寧ろ強まったかもしれねえな」
リエナに出会ってからのモール(ウーバ)は、まだかまだかとずっと楽しみにしていた。
その機会が訪れるのは近いと分かっていながらもずっと悶え苦しんでいたのだった。
思わず、近くにいる町の子供の1人でも襲おうかと思ったくらいだった。
「今は仕事だ。後は・・・リーダーなら許してくれるだろうな。まったく少しは、その本能に理性を持って欲しいぜ」「無茶言うなって」「こんな連中を集めちまったお偉いさんに言って欲しいねえ」「それだな!」
何が面白いのかその言葉にテンションを上げて笑う男達。
「っ・・・」「おっと、暴れない様にお願いね」「ぐあっ!」
教師の女性が魔法を唱えようとした瞬間、眠気でまともに動けない1人の騎士の膝にナイフが刺さった。
「まともに発動は出来ないだろうが、暴れても困るからさ。ちょっと大人しくしてくんない?」「・・・」
戦闘を解いた教師。急いで応急手当で布で刺さった足を縛る。
「すみません」「いえ。こちらのミスです。魔法が上手く使えれば治療出来ましたが・・・」「い・・・いえ、これで・・・十分」
足にナイフが刺さった事で少しだけ眠気が無くなった騎士は、教師の肩を借りて移動。
リエナ達の傍へと寄る。
「安心してくれ。これ以上、コイツ等に手は出させないよ。今のところはな」「・・・どうするつもり?」
睨みつける幼い少女に嬉しそうになりながらも仕事を優先するウーバ。
「とりあえずはここで大人しく待ってくれ。その後で・・・俺達の指示に従って同行してもらう」「・・・」「先ほどの爆発音は?」
アミルがウーバ達の動向を観察しながら問いかけた。
それに1人の男がめんどくさそうに音のした方向を見て答えた。
「あ?・・・ああ。たぶんアイツだろうな」「どうして、奴を使ってんのか・・・。マジで意味わかんねえ」「(それは、お前らも大差ないだろう)少し粗暴や奴が居てな。たぶん少し暴れたんだろう。・・・大人しくなったことから少しは気が晴れたんだろうな」
震えるリエナの手を、パミルが優しく包む。
「大丈夫・・・」「・・・」
期待とも核心とも言える瞳でパミルはジッとウーバ達を見る。
親友の言葉にリエナもまた少しずつ不安だった心が穏やかになっていく。
「(ボソ)リエナ様、パミル様。最悪の場合は私達を見捨ててお逃げください」「(ボソ)ここでお2人の身に何かあった方が国にとっても大きな痛手となります~。色々と言いたいことはあるかと思いますがお願いしますね~」「「・・・」」
優しい顔で微笑みながら主人達を見つめる護衛騎士。
そこには騎士としての誇りと命運をかけた意志が込められていた。
否定したい2人の少女。何も出来ない現状が悔しかった。
それでも彼女達はまだ諦めてはいなかった。
「・・・大丈夫」「(コクリ)。・・・きっと、何とかなる」
2人はこの状況でも何とか出来る・・・してくれる人物を信じて、今は大人しく待つのだった。
・・・・・・
「・・・ここに何の用ですか?」「ちょっとした確認らしい」
先導されて連れて来られたのはキュレム学園の体育館。
気になったレティシカが大男に質問を掛けた。
「確認?何の?」「ああ~・・・確か・・・戦艦だったか?・・・いや・・・盟約・・・契約だったか?」「「「???」」」
大男の言葉が理解できずレティシカ、ネミリアや教師陣はお互いの顔を見合う。
「古き精霊の盟約だ」「!」
1人のテロリストが言った言葉ですぐに何を言っているのか思い当たったレティシカ。
「お?その反応・・・何か知ってるな?」
目ざとく大男が気付く。
「・・・何処でそれを?」「ウチにも協力者がいるんだよ。っで?何処にある?」「?」「契約だよ。何かあるだろう?・・・もしかして、お前が交わしてるのか?」「?何を言って・・・?」「・・・どういう事だ?」
サッサと終わると思っていた大男は少し苛立ちながら仲間達の方を見る。
「話を聞いていなかったのか。かつての話で、今も残っているのかは分からんという言っていただろうが」「ああ、はいはい。そうだったそうだった」「・・・」
適当に手を振って大男はどかりと床に座り込んだ。
聞く気もない男にため息を漏らす仲間のテロリスト。
気を取り直すと、レティシカの傍へと歩み寄る。
「大丈夫です」
ネミリアや教師陣が前に出ようとするのを止めた。
「アンタ自身に心当たりはない事は分かっていた。だが・・・血・・・。刻まれた記憶はどうだろうな?」「・・・何を言って──・・・っ!」
レティシカの言葉を遮るようにして、テロリストの男が小さな鳥籠のケースを服の中から取り出した。そこには極小さいサイズの人懐っこい顔をしたシャチのような姿の生き物が弱弱しそうにケージの中に浮かんでいる。
「・・・精霊になんてひどい」「こいつ等は俺達の味方ではない」「だとしてもこのような・・・」「・・・キュー・・・?」
怯えた様に人を見て、鳴き声を上げるその姿と体のいたる所に傷跡がある様が何とも痛々しかった。
「・・・一体どうやって?」「企業秘密。・・・これは紛れもない本物だがな」
ホラっといってケージごとレティシカに渡すテロリスト。
彼女はすぐに閉じ込められた精霊を解放、上手くは練られないが魔法を使ってシャチの傷を癒していく。
「あなた方の目的は何ですか・・・!」
落ち着きを取り戻したネミリアが強気な態度でテロリストに投げかける。
それに対して男は、レティシカの指す。
「アンタの中にある精霊との記憶。それと・・・かつて世界を渡ったと言われる船の場所だ」「・・・?」「神から携わったというモノ達の力を借りて作ったという船・・・何処にあるのかを調べる」「っ!それは、御伽噺の──」「いいや、真実さ。それらしい文献が一切見つからないだけで・・・。関連したであろう場所・・・技術の一端。その全てが・・・どこかにあると告げている」「そんな・・・」
わなわなと驚きを隠せず、後退ってしまうネミリア。
「ネミリア、どういう事かしら?」
学園で歴史に一番詳しいのは彼女だった。彼女だけがテロリストの男の口から放たれた言葉の意味を理解できた。
「・・・この世界には、かつて今よりももっと文明に栄えた時代があったそうです。それこそ今の列車だけでなく、空を飛ぶ乗り物もたくさんあったのだとか・・・。しかし、急速に成長しすぎた文明は滅びるのも一瞬だったと・・・古い歴史の文献の一説に残っています」「そんな話があったのなら・・・」
1人の教師の言葉に首を力なく振るネミリア。
「確実に証明するための物的証拠が一切ないのです。あまりにも古く、どれがその時代のものなのか・・・誰も証明できる人がいない・・・」「興味を持って調べた奴らは正気を失った狂信者」
テロリストの男が言った言葉。それが今のこの世界による学会の通説だった。
「証明しようがない。でもそれが・・・」「そうだ。アンタの記憶にある」
嬉しそうにするテロリストの男。フードから覗くその目は正気ではなかった。
楽しそうに男は体育館に備えられた装置へと歩いて行く。
「ただのハッタリ・・・ではないわよね?」「ここまで起こしておいて、手掛かりなしという事はおそらく・・・。何か確信となるものがあちらにはあるのでしょうね」
レティシカの質問にネミリアなりに今、考えられる事から推察する。
「学園長は」「今は普通でいいわ」
気さくな態度になったレティシカに、少しだけ息を吐いてネミリアも友人同士の時の会話に変える。
「レティシカは契約を知ってたの?」「(ふるふる)いいえ。初めて聞いた。でも・・・何となくお母様やおばあ様が似た様な話を言ってたのを思い出したの」「という事はそちらの本当なのでしょうね。それにしてもどうして彼等がその事を・・・」
体育館の床の一部がスライドして大きなガラスケースが起動して、浮かび上がってくる・・・ワープポータルである。
「ですが、あれと何の関係が・・・?」「異空間に入る時・・・対象の細かなデータを魔力水が読み込むんだと。その中から本人でも知らない何かを探し当てるんだとさ」
教師の1人がレティシカ達に質問したつもりが、床に座っている大男が代わりに説明してくれた。
「・・・なるほど。精霊・・・」「魂に宿る、あるいは近い存在を生み出す分身や精霊を介する強化」「顕現にはそんな側面が・・・」「ま、本来なら無意味な事らしいが・・・その点。あそこのイカレタ奴はそれを可能にしてしまう」「スキルか能力ですか・・・」「勿体ねえ才能だって俺も思わなくはねえけどな」
何が楽しいのか、笑い声がどんどんと奇声に変わるほど喜んで行くマッドなテロリスト。
「さあ、さあ!早く来てくれ!君が来ないなら・・・」「分かっています・・・!」「レティシカ・・・」「・・・。この子をお願いね」
しかめつつも笑みを見せるレティシカ。治療を終えたらしいシャチの精霊をネミリアに渡すと・・・1人、ワープポータルへと近づいて行く。
「さあ、さあ、さあほら早く。さあさあさあ!!」
どんどんと声を上げていくテロリスト。
近づいて行くレティシカは隠すことも無く、そんな男にため息を吐いた。
「(他人を顧みない男は嫌いだわ)」
今目の前のテロリストはかつて自分に言い寄って来た、下心丸出しの男と何も変わらないと本心では唾を吐きたくなる気持ちに襲われていた。
「(いえ・・・考えようには、私も似た様なモノ、なのかな・・・)」
皮肉めいた笑みを浮かべてワープポータルの傍へと辿り着いた。
「この後は?」「私と入ってもらう・・・行くぞ」「(はぁ・・・)はいはい」
涎を拭うことも無く、強引にレティシカを連れて男は起動したワープポータルの異空間の中へと入って行った。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 50
魔法値 50
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総合存在値 100
スキル(魔法):干渉、棒術 1、マナ零子 1




