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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
304/473

300 デモンストレーション

「この先が講堂になります。では、私は学園長の所に行きますね」「ありがとうございます」


 別れを告げ、ジンはネミリア教頭に通された講堂の後方から中へと入って行った。


 そこは大講堂といっても過言ではなかった。

 中に入ると同時にたくさんの人の会話が聞こえる。友達同士で来たのか、あるいは保護者同伴なのか、はたまた無意識に呟いた独り言だったりするのか・・・。とにかく、あまりにも大勢が発するために講堂内は騒がしかった。


「お前どうする?」「オレは漁業科かな」「アタシは行商一択」「ウソ、工業じゃないの?」「冒険家ってないのかな?」「流石に世界の未知を見て回るだけの仕事はないだろ」「やっぱ騎士っしょ」「機関目指し?」「当然」「・・・ここから英雄って生まれたんだ・・・」


 そこかしこから聞こえてくる声を耳に何と無しに入れつつ、空いている席を目指して奥へと進む。


〔ジン。あそこはどうですか?〕


 周りを見ていたジンにサポートから声を掛けられ、視線を前へと向けた。

 この大講堂にはたくさんの参加者達で集まっていたが、密集して埋まっているのは前方・・・講堂の前から3分の2ほど。後方は所々、まばらに少々空席があった。


「(これならリエナ達もちょっと見学できたな)」〔確かに。どうやらそれなりの地位を持った貴族か商家などの方達もおりますし・・・。あまり悪目立ちはしなかったかもしれませんね。ただ・・・〕「(そこまで興味はなさそうだったな)」


 分かりやすく、感情を捨てた真顔になっている2人の少女の顔。

 容易にそれを想像できてしまう光景に、これ以上の追及を不毛と流した。


「(これって全部参加者?)」〔見学者もいますが・・・様子見はごく一部でしょう。ほとんどが事しか来年には試験を受けようとしている子供達ばかりのようです〕「(へ~・・・かなり人気なんだな。・・・首都だからって事じゃないんだな)」〔先ほどのトロフィーの様が理由でしょう〕「(・・・信頼は厚い・・・か)」


 今後の将来性にしっかりと安定した仕事に付ける力強さ・・・これが長い歴史のある学園ならではの実績による信頼感だと改めて実感するジンだった。


 相棒とそんな会話をしつつ、遠くにある教壇からほぼ真正面に位置する席に着いた。

 隣は階段という位置取りからすぐに退席も出来るという事を考えて選んだのだ。


「・・・(これって普通見えるか?)」〔まあ段差になっていますし。座っても輪郭くらいはハッキリと見えるので問題ないのでしょうね〕


 体育館の端から見ているのではという程の距離感に、ここで教鞭なんかして意味があるのかと少しだけ疑問に思うジン。だがサポート同様、周囲もそれほど気にしていない様子だった。


〔大体、近くで視たかったら・・・〕「(ボソ)あ、そういう・・・」


 速めに席に着いている者達のこの学園への気概を失念していたと気付いた。


「すごいな・・・」〔それだけ、ここは登竜門という事なんでしょうね〕「だろ~?ま、遅れちまった俺達が悪りぃんだけどな。なっはっはっはっは・・・」


 突然、ジンに話しかけたのは少し肌の焼けたバッツよりも2,3才ほど年上・・・。ユティ達くらいの年齢の男の子達だった。


「(地元の友達かな?)どうも(コクリ)」


 いきなり、会話にフランクに入られ一瞬、距離を作ってしまう。


「悪い。コイツいきなり馴れ馴れしかったろ?・・・って、君・・・年、いくつ?」


 少しだけ場の空気に飲まれていたのであろう体験参加者の男がジンの姿をまじまじと見た。


「(ボソ)おい、もしかしてどこかの金持ちとか?」「(ボソ)だったら使用人の1人くらいは付けてるもんだろ」「(ボソ)そりゃ・・・確かに・・・。でも服装や肌からしてたぶん外国の人だぞ?」


 1人の友達の言葉に改めてじっくりとジンの恰好を見る男達。


「(ボソ)もしかしたらマズい奴に話しかけたんじゃね?」「(ボソ)後で何か起こるより先に謝っておいた方が良いぞ」「・・・いや。いきなりゴメン。俺達はそれじゃあ・・・」


 苦笑いを浮かべてそそくさとジンから離れて行く男達。


「(・・・そんなに珍しいかな?)」〔こちらではあまり見ないのかもしれませんね〕


 正直、急に話しかけられて戸惑っていたために助かりつつも、自分の服を改めて確認する。

 全体的にラフで気安い服に仕立ててもらっているが、今来ている服はリエナ達によって着るように指示された服装だった。


〔おそらく、所々にそれなりの品質を窺わせる何かを彼等が見つけたのかもしれませんね〕「あの僅かで・・・凄いな」


 基本、無頓着で着るものは大体似た様なモノばかりでしかなかったジン。

 その為、疎くても問題ないと判断した所はよくスルーしがちだった。


「(・・・昔、義姉さん達に怒られたっけ・・・)」〔向こうで言えば、かなり最近では?アフネシアにも言われてましたね〕


 地味であればそれでいいと考えているジン(純)にとっては些細な事でも、周りからすればちょっと気になってしまうほどの様だった。


「(大体・・・冒険者が出掛ける旅に新しい服にチェンジなんてするか?いつも同じモノだろう。普通)」〔それは仕事の時はでしょう。休みの日は着替えていますよ。その点・・・ジン(純)は言えば・・・。楽だからとジャージ系やパーカーばかり・・・〕


 思い出したのか少し説教くさくなるサポートに耳を塞いで聞こえないアピールをするジン。

 頭の中に響いているので意味が無いと分かってはいる。

 その為これは、聞きたくないというアピールを伝えているのだ。


〔・・・〕


 ため息のようなモノが相棒から聞こえた。


 丁度、その時、教壇の傍へと誰かが歩み寄っていく姿が映った。

 先ほどまで騒がしかった声がみるみる小さく・・・やがて静寂になる。


 微かに聞こえるのは足音だけ。横の控えから数名が後に壇上へと現れ、垂れ幕の傍で待機する。

 そこへ、中央に置かれた教壇へと2人の女性が近づいて行った。


 先に来ていた者は設置したマイクであろう機材の点検にあたっていた様子。確認を終えると女性に頭を下げ、退出していった。


 そして卓に両手を軽く置き、周囲をゆっくりと見回す女性。

 僅かに息を吸った仕草の後・・・。


「本日、キュレム学園の体験入学にご参加頂きありがとうございます。私が代表のレティシカ・キュレムと申します」


 ただ代表・・・学園長が自分の名を言っただけで周りからはちょっとしたどよめきが上がる。

 しかし学園長は気にした様子もなく話を続けた。


「今回は希望者の多さから、異例となりますが3回に分けて執り行われる事となりました。3回目となる今日も、これだけたくさんの方々が来てくださる事・・・それがどれだけこの学園にとって重要な事を意味するのか、私達一同も改めて痛感させられました。

 参加をする前から入学を希望されている方もいらっしゃることでしょう。あるいは今回の体験で検討される方もいるかもしれません。

 先ずは焦らず、自分が本当はどうありたいかをお考えになってください。その先に、私達のお力が必要ならば、教師の下、全力で皆様のサポートをいたします」


 一拍置いた学園長。

 参加者達の瞳には興味とやる気に満ちた純粋な目が多く集まっている。

 それを全身に浴びつつ、話を再開する。


「この学園を建てられた先代達は常に、次代の子供達の可能性を引き出せるようにと考えておりました。それは今の私の代であろうとも変わりません。

 ですが長い歴史を誇るこの学園も・・・それを支援する意味ではまだまだ未発達だという事です。常に新しい考え方を取り入れる形を取っておりますが、追い付いているとは言えないでしょう。ある分野においてはその考えが受け入れられないとおっしゃられる方もいるやもしれません。時代と共に変わりゆく世界に我々が取れる事はたかが知れています。

 ですが、それでも・・・この学園を延いてはこの学園に集って来た生徒達の為に我々が取れる行動は共に切磋琢磨して、進歩を続けていく事だと考えております。

 この国にとって学園が絶対に有利という考え方で来られてしまった方ももしかしたらこの中にいらっしゃるかもしれませんが・・・それは間違いであるとハッキリと申し上げておきます」


 表情にこそ出さないようにしていたが、保護者の方達は無意識にお互いの顔を見てしまっていた。

 それだけの信頼度の高さから裏打ちされた何かがあると決めつけていたのかもしれない。


「我々もまた生徒達から学ばされている事も多くあります。これまで皆様がどんな話を聞きつけていたのかは分かりませんが、その内容を真実として告げるのであれば・・・。それは、入学してきた生徒達による行動が結果として付いてきただけだという事です。

 我々はその為の方向性を探り、手を貸したに過ぎません」「「「・・・」」」


 思っていた内容とは違うが、そこには積み上げてきた実績が重なる事によって先ほどとは違う真剣みを帯びた話だった。

 いつの間にか、聞いていた参加者達の顔付きも変化していた。


「最初はこちらが教える事が多いでしょう。学科に問わず色んな夢を抱いて来られるかと思います。ですが途中からは常に自分との戦いになるかもしれません。誰かを以上に自分自身との向き合い方になってしまうでしょう。それだけ己という可能性が見えていないのです。

 私はそんな子供達の夢にどんな助言を送ればよいか常に苦慮しております。

 そんな私でも1つだけ決めている事があります」


 ゆっくりと深く吸った学園長。


「己の景色は己で見つけろ」


 堂々と言い放ったその言葉には自分なりの核心あるようだった。


「肯定も否定も全てを含めて、どんなものが見たいのか・・・それを少しだけで構いません。頭の片隅に入れていただけると嬉しく思います。私からは以上。ありがとうございました」


 マイクからゆっくりと離れる学園長。一瞬の静寂。

 しかし、どこかから僅かに叩かれる拍手。まばらだったそれは段々と大きな音となり波になり大喝采となった。


 盛大な拍手の中、ゆっくりと教壇から1、2歩と下がり、脇にいたネミリアと交代する。

 彼女は手にいくつもの資料を持ちながらマイク前へ。


「学園長、ありがとうございました。えー、それでは。これから皆さんが参加される体験入学の流れを説明させていただきます。先ず、ここでの集会の後、一度グラウンドに集まって頂きます。今回はいくつかのグループに別れていただき船の構造説明と操縦の体験。そのまま海に出ていただきモンスターとの戦闘をしていただこうと思います。近場にいる比較的戦闘力の弱いモンスターにあたりますがくれぐれも軽率な行動はなされませんように。続きまして──」


 ネミリアの説明を聞きながら、やる気を見せる参加者達。


〔自分の学びたい科目とは違いますが・・・どうやら先ほどの演説が効いているようですね〕「(自分で見つけろ・・・か。言葉にするのは簡単だけど・・・難しいな)」


 言い放った言葉には、知らず知らずに来る重い重圧を感じてしまうジン。

 それだけ学園長が経験し、その上で出た答えなんだと感心してしまう。


〔上手くいかない事もあったのでしょう。それでもそれすら受け入れて、自分なりに行動してきた表われですね。・・・ジン〕「(?・・・匂い?いや、違う・・・)」


 匂いにジンが感じたのは微かに先ほどとは周囲に流れる空気が違ったからだった。


「・・・で、ここからなんですが・・・。細かく申しますと──・・・?」「ネミリア」「え?」「学園長」


 資料から目を離したネミリアの傍に学園長のレティシカと控えていた教師達が集まっていく。

 何が起きたのか分からなかったネミリアは周囲を見回す。


「参加者達を」


 レティシカの言葉に壇上を降りていく教師達。


「一体何が・・・?」


 分からないネミリアに顎で指し示す。

 振り返って、参加者達の顔を見れば・・・。そこには眠たそうにしている姿があった。

 つい先ほどまで元気だった者達が抗い切れず、次々と机に突っ伏す様に眠っていく。

 多少、抵抗している者達がいるがそれもほんの少しだけだった。


「(ふるふる)」


 参加者達を確認した教師は原因が分からないと告げる。


「(何かの魔法か・・・)」「学園長、ここは避難を」


 パチ・・・パチ・・・パチ・・・パチ・・・。


 言葉を遮るように静まった講堂に乾いた音が響く。


「自分で見つけろ、か・・・。く~っ、いい言葉だね~」


 壇上脇の暗がりから突然、男の声がした。

 反射的に振り返るレティシカ達。

 暗がりからドカドカと一歩一歩踏みしめて壇上へと誰かが上がってくる。


「・・・どちら様でしょう?今は体験期間ですが・・・遅れてきた参加者?」「まさか・・・ちょっとここに用があって来たんだよ。・・・アンタにな」


 現れた男は身長が優に3メートルはあるかもしれないくらいの大男だった。

 背中にはその体に負けず劣らず大きな大剣を背負っていた。

 そんな大男が野生のような獰猛な笑みで歯を見せながらレティシカの捉える。


「なっ、なんですか?アナタ達は・・・」


 恐怖を感じつつも毅然とした態度でネミリアが大男に問う。

 そんな彼女に両手を広げて見せ、堂々とする大男。


「まあ落ち着け。そんな睨み付けんなって。アンタらが大人しく従ってくれりゃあ俺達も暴れない様に頑張るからさ~」


 そう言って大男が顔を僅かに横へ向けると、その合図を待っていたかのように、次々とどこからか顔を布やフードで隠した者達が現れた。中には参加者に紛れていたのか突然、ヌルッと這い出てきて、近くにいた教師達に剣を突き付け、先制した。


「っ!」


 反応が遅れ、ゆっくりと後退していく教師達。

 壇上へと上がるように指示する襲撃者。

 そうして一か所に集められていくなか、レティシカは冷静に周囲の状況を観察する。

 現在、起きてまともに動けているのは壇上に上がっている自分達だけだと知る。


「・・・ここがどこだかは分かっているのですね?」「ああ。もちろん。考えて見ろよ・・・どうしているのか・・・」


 大男のその言葉にいくつもの可能性を考えられるレティシカ。

 だが、いま優先すべきは現状の把握と判断した。


「警備はどうなったのかしら・・・」「安心しろ。殺しちゃいない。ただ・・・まあ、時間の問題だがな」「(最悪ね)ここには他にも人がいたと思うのだけど?」「そっちに関しちゃあ眠ってもらっているさ。騒がれるとうるせえからな」


 スッと目を細め、大男の射抜く様に見つつ、1つ1つ状況と可能性を頭の中で潰していくレティシカ。


「・・・先ほどの時間・・・。それはそちらにもあるのでは?」「あん?・・・まあ、そうだな。・・・ははっ、でも安心しろよ。先ずお前の期待は望まねえ方が良い」「何を言って・・・」


 大男の言葉を理解できないレティシカだが、その途中で、遠くの方で何かが爆発した様な音と振動が微かに響いた。


「今のはっ・・・」「気にすんな。向こうが港の壁を破壊したか何かだろう」「壁っ!」


 大男から発せられた言葉にネミリアが驚く。


「おっと、飛ぶなよ翼人種。まあ飛んでも叩ききっちまうが・・・。いや、その方がいいな。気持ちいい・・・。よし、女。飛べ」「っ・・・!」


 ゆっくりと背負っていた無骨な大剣を引き抜くと、ゆっくりとネミリアにその切っ先を向ける大男。

 大きく歯を剥き出しにして楽しそうにする大男の顔に、僅かに後退ってしまう。

 そんな彼女の前に護るようにレティシカが縦になって出てくる。


「大人しくすれば危害は加えないのでしょう?」「・・・」


 僅かに上がっていた大男の口角が下がる。


「私が目的なら従いましょう。但し、他の誰にも危害を加えないでもらいましょうか」「・・・人質の癖に随分とふてぶてしいな」「初めから攻撃するのなら、こんな悠長にお話しするのですか?」「・・・」


 どこまでも落ち着き、気持ちの上では対等な立場でモノを言うレティシカ。

 そんな彼女に、更に口角を下げ、完全に閉じてしまう大男。

 ゆっくりと突き付けていた大剣を肩に背負い、壇上から飛び降りる。


「ああ、そうだな。確かに危害を加える気はねえさ。・・・だが、それは組織としてだな・・・」「(何を言って?)」


 大男がゆっくりと近くで机に突っ伏している参加者達の方へと歩いて行く。

 その時になってようやく気付き、レティシカの血の気が引いて行く。


「おい、計画通りに動け」「黙れ。それくらい分かっている。ちょっと遊ぶだけさ」


 フードを被っている襲撃者の仲間も思わず、口に出すほど自由に動く大男。

 手を振って適当に流した後、無骨な大剣をゆっくりと下ろして手首を捻る。

 そしてテーブルと同じ高さで水平に保たせて、その先に見える眠っている参加者達をレティシカ達に見せつけた。

 壇上を見上げた大男は、引き攣るレティシカ達の顔をとても楽しそうに見ていた。


「軽く振ったら・・・一体何人死ぬんかな~?教えてくれよ学園長?」「・・・」「これじゃあどうあっても支援は出来ないな~?」「・・・」「あ~・・・さっき殺し損ねたから、疼きが収まらねえ・・・やべえよ」「・・・」


 わざと小刻みに大剣を振るわせて、青ざめている彼女達の顔を楽しむ。


「あー、ホントにヤベ。もう無理だ」


 トーンが変わりボソっと呟く様に言った大男は剣を振りかぶる。


「待ちなさい!分かった。あなた達の指示には従う。だから」「おい、止めろ!計画を無視する気か!」「・・・」


 仲間の言葉を耳に入っていないのか、大男の視線は今から切り払う参加者達から目を離さない。


「止めなさい。・・・止めて!話をっ・・・!」


 壇上から降りようとレティシカが駆け寄ろうとするが、近くにいた教師達が止めに入る。

 そして、大男が大剣を切り払おうと腕に力を入れた。


 ガタッ・・・!ボト、ボト・・・!


「!」


 誰よりも先に反応したのは大男だった。

 たまたま、眠ってしまった誰かが床に転がってできた音だったのかもしれない。しかし、その瞬間。先ほどまで切り払うつもりだった標的が、音の発生源を探す方へと移った。


「・・・」


 ずかずかと壇上を上がり、確かに聞こえた発生元へと歩いて行く。

 標的が変わった事にほんの少しだけ安堵するレティシカ。しかしまだ、問題が解決したわけではない。


 どんどんと壇上から離れて行く大男に目が離せない。


「(ボソ)学園長」「(ボソ)ダメです。今は従う他ありません。それに・・・戦えばどれだけの被害を生むか・・・」


 教師の1人の提言もすぐに取り下げ、大男の行動の行く末を見守るしか彼女には無かった。

 そんな視線の先で不意に立ち止まった大男。


 ニッと笑みを浮かべた大男は上から壇上にいるレティシカに聞こえる様に大声で話す。


「おいおい。この学園は参加者の範囲が広すぎやしねえか?まさかこんな小せえガキまで入学させようってんじゃねえよな~?」「?」


 何を言っているのか分からないレティシカ。それに対して、何か思い当たったのはネミリアだった。


「待ってください!彼はただの見学者。無関係なんです!」「ネ、ネミリア・・・?!」


 今度は自分に代わって慌てて壇上から飛び立とうとするネミリアを止めるレティシカ。


「待ってください。その子には手を出さないで!」「な、何を言って──」「おいおい。それは無理だろう。ただでさえ組織にもそこの学園長にもお預けをくらったんだぜ?それにアンタにも手を出すなって言われて・・・俺はもう我慢が出来ねえんだ(・・・・・・・・・)・・・」


 言葉の後半に行くにつれ、どんどんと声のトーンがおちゃらけたモノから獰猛な太いモノへと変化していく。

 大剣を持って腕に力が入り、血管も僅かに浮き上がるほどに柄を強く握り締めていく。


「止めてください!私が代わりに──」


 ドガアアアアアアアアアンンン・・・!!!!!!


 ネミリアの声を遮って大男のフルスイングが眠っていた子供を含めた周辺が粉々に砕かれる。


「・・・。ふ~、スッキリした~・・・」「あ・・・そん、な・・・」


 絶望の表情になり、その場に崩れ落ちるネミリア。

 その気持ちはレティシカも同様だった。


「・・・危害は加えないと・・・」「あ~・・・ははっ、悪りぃ悪りぃ。ちょっとストレスが溜まってたんだわ。いや、マジでちょっとスッキリ」


 ゆっくりと下りていく大男には悪びれた様子はない。


「・・・全く気を付けろ。流石にあれだけの穴を開ければ、誰かに気付かれるぞ」「大丈夫だろ。あの向こうは校舎だ。外の連中には見えんだろうさ。ま、気付いても、他の連中が死なない程度に斬るだろうがな」「・・・」


 呆然と破壊されて空が見える講堂を見ているネミリア。


「ネミリア」「・・・私は・・・彼を・・・」


 滲む涙と悔しさが、彼女の優しさを誰よりも知っているレティシカの心には痛かった。

 ネミリアに両肩にそっと手を添えて、立たせる様に手を貸す。


「今は従いましょう。これ以上の被害を出さない様に」「っ・・・」


 笑う大男。仲間に注意されても適当に流しレティシカの傍へと歩み寄っていく。


「・・・こっちだ」「「「・・・」」」


 顎で外へと向かうよう指示され大人しくレティシカ達は講堂を後にする。


「(あん?)」「?どうした?」「・・・何でも」


 大剣を背負い直した大男は仲間を片手で追い払いつつ、先ほど振り切った方の自分の手を見る。


「・・・(気のせいか)」


 握っては開いてを繰り返す。だが、ほんの僅かに自分の腕に感じる鈍痛に手を払って気にしないことにした。そうして、仲間が連れて行くレティシカ達の後を追って講堂を出ていくのだった。







 【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 50

 魔法値 50

 潜在値 50


 総合存在値 100


 スキル(魔法):干渉、棒術 1、マナ零子 1

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