298 進めていく計画
時間が経つにつれ、少しだけ客観的な視点で見る事が出来て、頭の中がクリアになっていく。
和気藹々とするこの空間は、本来旅行ならではの特別なひと時だろう。
それがいつの間にか、目的であるクエストにばかり縛られ、尚且つあまりにも自分とは違う立ち位置に居る少女達にかつての自分(純)だった頃をふと思い出し自ら壁を作っていた事に気付かされる。
「(クエストが悪いわけじゃないし・・・。元々、この道を選んだのも俺なんだけど・・・)」
なかなか抜けないなと、自分に少し笑ってしまう。そうして一度決めつけてしまったレッテルに自分で縛られているという事に気付く事で、少しだけ気持ちが軽くなったジン。
「(んー・・・。流石に何か示してくれないと分かんないんだけど・・・)」
少しだけ・・・何も成果を得られないのではという不安が頭をよぎる。
「ウソ~、絶対そんな事ないって」「分かんない。だって、あんなに食い気味なんて声なんて掛けられたこと無いから」「ってことは~・・・。あるかもしれませんよ?」「それは・・・。パミル様、よろしいのですか?」「(ふるふる)。論外」「だよね~」
少しだけ男側が聞くと凹む内容が一部聞こえてくるが、敢えて知らないフリを通す。
そうして楽しく談笑している少女達の目を盗んで、ステータスボード内のクエスト欄を見るが・・・そこには特に変化は無く・・・。
〔何かしら・・・近づくか、あるいは状況なのか・・・。キッカケが必要なのかもしれませんね〕「(流石に、夏休み中に国を回って見つけるのはこの人数でも無理だろう)」〔メルギスの考えにもあった様な重要なモノですから・・・絞れるとは思いますが・・・〕(エンタールモットでは無かったね)〔昨日は軽く有名スポットを見て回っただけでしたし・・・。私達の目的のモノは別の箇所にあったのかもしれません〕「(首都にあればそれでいいけど、もしなければエンタールモット。更になければ別の個所と・・・結局、虱潰しに埋めていくしかないか・・・)」
授業で受けた世界地図を頭の中に思い浮かべ、既に気が滅入りそうになるジン。
思わずため息を溢してしまった。
「ねえねえジン君。ジン君は首都に着いたらどうする?」「1人で行動は寂しい」
一瞬に出来た会話の間。そこへリエナ達が話題を切り替えて話しかけてくる。
「リエナ様とパミル様はキュレム学園の学園長にご挨拶に出向かわなければなりませんからね~・・・」「そもそも何で私達はキュレム学園に行かなくちゃいけないの?」「・・・そういえば、そう」
父親の言伝で行く流れにはなっているがその理由を詳しく知らないリエナ達。
「ガジェット兄さん達と一緒に王様に会うんじゃないの?」「そうですね。その辺りをお伝えする前に・・・そもそもパミル様とリエナ様はキュレム学園がこの国にとってどういう立場か知っておられますか?」「え?・・・有名な所?・・・名門校って話だったし、国にとっても大事な学園としか・・・」「・・・もしかして、王よりも強い立場」「流石にそれはないですよ~」
パミルの冗談にルチルが笑い、全体がほんわかと和やかな空気になる。
そこへ、1つ咳ばらいをしてアミルが答えた。
「立場ではもちろんこの国を仕切る王が上なのですが・・・。ある意味、それに近いくらいの発言権はあるかもしれませんね。あそこからは卒業した寵愛者達も多く。またその力で国を支えた貢献から信頼も厚いですから。下手な貴族よりはずっと立場は強いでしょう」「市民からの信頼も強く、元々あそこは一般人の為に作られた学園でしたからね~。そこを建てるために立案と資金援助に手伝った方が──」「キュレムって人なのね」「その通りです~」
何となく、その場所へ出向く事の重要性が理解でき始めた2人。
「学園内の事は分からないけど・・・。悪い印象を持たれるのはマズい・・・」「はい。ですから2手に別れてでもご挨拶に出向かわなければならなかったのです。それとお忘れですがホローグメッツ学園のメルギス学園長とミゲイラ様・・・そしてキュレム学園の現学園長は旧友です。ですから、``ジン君の探し物の手掛かりの助けに一度会ってみては?``とおっしゃられていたそうなので我々とは一緒に向かう予定ですよ?」「「あ」」「そういえば、そうでした~」
すっかり忘れていた3人。思わずアミルがため息を溢すのも無理はなかった。
「旧友という事でしたので、あちらもお忙しいでしょうがジン君の事を流石に無碍にされないでしょう。ついでにその辺りの話をするおつもりだったかと・・・」
ジンへと振り返りつつ確認を取るアミル。
「都合が合う時に、会えればな~くらいだったので」「でしたら、このまま会いましょう。少し時間を伸びるくらいなら大丈夫だと思いますよ?」「じゃあ、一緒って事ね」「なら安心・・・」
油断していたジン。当然の様に抱き着かれたが・・・大人しく捕まったままでいた。
「っと。あともう少しで着くようですよ~?」
今日はずっと同乗していたルチルが窓から僅かに見えた町に声を掛けた。
「・・・多くな町ね」「フォートレーヌみたい」
思わずパミルが故郷の都市の街並みを思い出して呟いた。
「ウチと同じく、坂になっていますからね。国が管理している大型船が防衛等も担っている為、海が傍にあるんでしょう。住民の数も含めると自然とこのような形になったのでしょうね」
馬車の窓から見えるのは扇形に拡がる町``首都モナメス``だった。
主要。城などは普通、難攻不落といわれるような場所・・・坂の上の方に作られるモノなのだが・・・。この国は海の側面や海上に特別に作られた巨大な城というかビルやデパートのような形がその役割を担う主要機関なのだそうだ。
そのデパートを大きく覆う様に少し高めで分厚い壁が海側には設けられ、その間を巨大な船が行き来していた。
「あそこは国の機関専用の開場ですね。一般はもっと端の方です」
リエナとパミルの視線の先に気付いてアミルが説明する。
「特別に分けてるのは城だから?」「その通りですね。あそこに入場できるのは他国でも王を乗せた船等に限定されます。他国の物流は私達が入港した``モルトヘ``になります。海のモンスターや他国からの襲撃を備えた専用の戦艦がしまわれているのでしょう」「へ~・・・」「観光する事は問題ないそうですよ~?ほら・・・」「あ、ホントだ」
首都の入り口にもまだ入れないほどの巨大な都市なのだが、分厚い壁に上にはたくさんの人だかりが肉眼で見えるほどに集まっていた。
「あの高さから見る海ってのも絶景でいいですね~♪」
海の話題の中でふと疑問が湧いたリエナ。
「さっきモンスターって言ってたけど・・・聞いた事あるけど実際に海で遭った事なんてないわよ?」
出会った事がない為、モナメスに整備されている物々しい戦艦からちょっとだけ興味というものが湧かなくもなかった。
「それは、縄張りを避けつつ、魔物除けの結界の張っていたおかげですね。季節毎や状況に合わせて航路を少しずつ変えて進んでいましたから。遭遇せずに済んでいたのです。引っ掛かった場合も出来るだけ迂回していましたので」「私達が乗ったのは豪華客船ですからね~。海域や生息域の多い場所は避けますよ~。流石にたくさんの一般人を乗せた船での戦闘は考えておりません。あくまでいくつかの最悪の場合に備えての配備くらいですよ~」「冒険者等はいるかもしれませんが・・・戦わないに越したことはありません」「・・・そう。まあ・・・その方がいいわね」「(コクン)」
個人的に少しだけ興味はあるが、周りを巻き込みたいワケではなく大人しく頷いた少女達。
「絵はあるけど・・・この目で見た事ないのよね~」「(コクン)」
でもちょっと興味はそそられているようだった。実際の目で見た事ないからこそ、資料とどう違うのか。本当はどんな存在なのか・・・想像しか出来ないからだ。パミルも先ほどとは違う同意を示していたのだった
。
・・・・・・
・・・
「お・・・っし、着いたぞ。お疲れ~~~っ」
馬車から出てくるリエナ達に声を掛けつつ、肩を回すベラール。
「そっちの方がよっぽど疲れてるわよ?」「まあな。でも今日中に付けたのは良かった」
時刻は夕方。夕日に町全体がオレンジに染められる景色はとても美しい。
「皆様、お疲れ様でした。昨日同様、ホテルの方は既に手配しておりますのでそちらで今日はお休みください」「ありがとうございます。モールさん」
``ではこちらへ``と言って先導しようとするモールだが・・・。
「あ、ちょっと待ってくれ」「はい?」「このまま歩きか?」「流石にずっと乗り続けるというのも疲れるでしょう。少し歩きながら向かいませんか?宿もすぐ近くですので」「・・・それも、そっか」
鍛えられている騎士達は平気な顔をしているが、それでも疲労がないわけではない。僅かに見せるその顔。更に凝り固まった体を解そうとしている自分と従妹達を見てモールの提案にベラールは乗った。
ガジェットに視線を向ければ同意する様に乗り物から降り出していた。
「そんじゃあ、案内を頼むわ」「お任せください」
少しだけ目立つ集団のジン達だが、それもすぐに町の中へと徐々に溶け込んでいく。
これが町としての日常なのか、行き交う人が少しだけ珍しそうに見るが、すぐに切り替えて各々の目的地へと向かって歩き出す。
「・・・何て言うか違う意味で活気があるね?」「へ?ああ、エンタールモットは観光としての賑わいですからね。ここは港町に近いまた違った騒がしさなのですよ」
モールの言う通り屋台に並ぶ新鮮な魚介等のエンタールモットとはまた違った種類の商品がたくさん売られており、店主達の声と客の声も大きく。その騒がしさが伝達する様に、大きな声がそこかしこで行き交っていた。
「兄ちゃん。新鮮な魚が入ったよ!今日の晩飯にどうだい?」「ははは、また後でいただくさ。今は案内が優先」「そんな事言わずに、ホラこっちの貝とイカ。それにこっちのメジロザケも付けるよ」「おお!そりゃあ美味しそうだが・・・。いや、すまねえやっぱり──」「構いませんよ。それは宿に頼めば捌いてくれたりするのでしょうか?」「へ?あ、ああ一応聞いてみます」
どうやらガジェットや他の者達も少し店に並ぶ魚系や野菜、肉。香ばしい香りに味付けされた摘まみに興味があるようだった。
それぞれが自分の惹かれた物に目が移っていくのがとても分かりやすかった。
「・・・この飲み物、なんだろう?」「果物?でも葉の色みたい。でも綺麗」「複数の果実の色彩を使っているのでは?」「飲んでみます~?」
護衛という立場を決して忘れているわけではないだろうが、完全に観光気分であっちこっちとリエナ、パミルと一緒に見て回っているアミルとルチルだった。
「・・・オレも喰いてえモンがあるけど・・・。お前はどうする?」「・・・とりあえず馬車とかをホテルに預けてからじゃないの?」「真面目だね~」
ジンの回答にベラールは両手を上げて首を振り、自分がそそられた肉料理の屋台へとそそくさと向かって行った。
(・・・ジン!あれ、あれ食べてみたい!)〔空腹には、やはい勝てないものですね~〕「・・・」
服の袖を引っ張るゼクを宥めつつ、彼が興味がそそられたスイーツへと足を運ぶのだった。
・・・・・・
本来、真っすぐに向かえばおそらく2、30分ほどで着くであろう宿も、屋台を見て、買い食いして回れば到着する頃にはすっかり夜になる。
「お腹空いた~」「空きましたね~」「料理・・・」
さっきまで何品も喰っていた者達とは思えない言葉にジンは少しだけ突っ込みたい気持ちを我慢する。
「あれだけ食べて、まだですか・・・」
しかし、アミルは我慢できなかった様子。荷物をベッドの傍に置きながら、呆れた声を発してしまう。
「だぁって~。お昼はちょっとだったし。その後、ずっと走ってたでしょ?その間、何も食べてないし」「・・・育ち盛りにはキツイ」「そうですね~・・・」「ちょっと待ってルチル。あなた・・・まだ育つの?」「はい?」
軽装を脱いで楽になった友人の胸に思わず視線が向かう。
「専用の板金を新調してもらわないと」「・・・」
それなりにある自身のモノ。だがあそこには女性でも視線が向かってしまう魅力と破壊力がある。それを見てしまうと、ほんの少しだけ寂しく思う。つい胸をしたから形を確かめる様に掴み上げるのも仕方なかった。
「(食べてる物は・・・まあ、だいたい同じ。遺伝では・・・まだ希望はある。年齢もエルフの血があるから若いし・・・。よし・・・!)」
何かを納得したような顔をするアミル。
そんな行動を2人の少女が見ているとは思っていなかった。
「・・・」「・・・私は少しある」
少しだけ悔しそうなリエナだった。
ちなみにジンは服を脱ぐルチルやアミル。少し着替えたそうなリエナとパミルに気遣って、既に部屋を出ていた。
残念ながら、今回も男性陣の部屋に混ざる事は出来なかった。
部屋はVIPという事でいくつもの部屋は確保されている。騎士達が泊まれる部屋も確保済み。
しかし・・・ジンに選択の余地はなかった。
男性陣は一部の者達から黙殺されて、その発言すら許されていなかったからであった。
・・・・・・
・・・
深夜。首都モナメスは一部の明かりを残し、町は静まり返っていた。
営業している店。今からが開始の店を除けば、町はとても静かなものだ。
一般の家に紛れる様にして建てられた、何かのお店仕様の建物。
少し大きめのその建物に何人もの様々なフード付きの服や外套、マントを羽織った者達が次々と入っていく。
「「「・・・」」」
入った者達と既に建物内にいた者達は視線だけを交わす。
部屋は質素なカウンターのような空間。商品やインテリアも飾られていない。寧ろ、改装中と解釈されてしまうくらいほとんど何もない大きな空間だった。
部屋の奥・・・カウンターの向こうにいた大男は、仲間以外の怪しい存在がいない事を入り口にいた仲間達に確認するとつま先を踏み込んだ。
するとガコっと床の一部、木の板が凹み、微かにネジが嵌り回転しているような甲高い音が聞こえる。
「・・・」
代表として建物に入って来た者が部屋の端を見ると、ゆっくりと厚めに加工された床の一部がせり上がっていく。
フードを被った者達は、その隠し扉の先の階段へ次々と降っていった。
少し詰めれば横に3人がギリギリ並べられるほどの狭い細道を歩いて行く者達。簡素な魔術的な光は細いロープに繋がって等間隔で置かれていた。
真っ直ぐに作られたその空間は年季を感じるほど、古い構造を残していた。
「・・・来たか・・・」
歩くこと数分。
突然開けた、その場所は大きな空洞だった。
くり抜かれた様に広い空間の中央には大きめのテーブルにいくつもの地図や資料が散見されている。
その入口の向かい側で赤いフードを被った1人の男が代表として、入って来た同士を迎える。
「首尾は?」「問題ない。予定が少しズレたが誤差の範囲内だ」「寧ろ、こっちとしてはいくつもの切り札に使える」「あっちも回す手が増えて落ちるだろう」「船は?」「こちらは予定通りだ。このタイミングを逃すと、失敗する確率が高くなる」「という事は・・・?」「ああ。引っ張って来れそうだ。多少の被害が出るが、その時はあちらのモノを使えばいい」「それに関しては、手筈を整えている。仲間と協力者が合図待ちだ」
顔や体を隠した布やフードの者達が多いが、その中では比較的男性が多い様子。顔を晒している者達の見た目は年齢層がバラバラであり、そこには人間、エルフ、獣人、翼人、ドワーフと多彩な種族がいた。
集まった数は優に100を超えていた。
そこへ、奥に用意された豪華な椅子に座っていた男が立ち上がる。
「分かってるんだな?今回の依頼は必ず成功させろ」
少し肥満気味な体型を豪華な服で着飾ったドワーフの男が代表に声を掛ける。
その顔は真剣であり、無意識なのか凄みを利かせていた。
「分かっている。こちらとの利害は一致しているんだ。何度も聞くな」「武器とアイテムは用意したが・・・滅ぼすなよ?」「邪魔なのは王と体制だろう。協力するのならこちらもヘマはしない」「・・・ふん」
ズコズコと重く鈍そうな足を動かして、設置された豪華な椅子に座り直すドワーフ。
テーブルに両手を付いて目の前に並べた地図を見ていた赤いフードの男は、ゆっくりと体を起こして依頼人に質問した。
「王にでもなりたいのか?」「ハンッ。そんなモンは使える奴に与える。利益の邪魔だ」「・・・金か・・・」「全部だ」「・・・死ぬぞ?」「ワシを殺した方が得ならな」「・・・。(ボソ)厄介な爺さんだ」
思わず腰に片手を当てて、ため息を溢す赤いフードの男。
「お前達も必要だろう?だったら切る相手は選ぶんだな」「・・・いいだろう。こちらも乗った身だ。反抗しても抑える手段は考えている」
そう言って赤いフードの男がドワーフとは反対側に大男にへと振り返る。
気付いた大男は大きなソファーに寝ころんだまま手だけを振って答えた。
「改めて言うが、成功しても世界にいる者達すべてが──」「分かっておる。足掛かりさえ付けば、後はコッチでどうにかする」「その時は惜しむなよ?」「それも承知だ」
ドワーフの男は傍に用意された小さなテーブルに置かれたワイングラスを持つと、中に入っていた酒を一気に呷った。
赤いフードの男は気を取り直すと地図に記されたマークを、指し棒で付いた。
「明日、このモナメスを征服する」
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 50
魔法値 50
潜在値 50
総合存在値 100
スキル(魔法):干渉、棒術 1、マナ零子 1




