29 帰ってきた現実?
目の前の構造を見た時、一瞬はパニックで分からなかったが、少し経って落ち着いてみたらとても見覚えがあり懐かしくなった。
同時にかすかに嫌な気持ちも出てきた。
「・・・学校・・?」
約3年間もの間見慣れた廊下、色、空気感。
「・・・さぶっ!」
このひんやりする感覚。
間違いない。
たぶん・・・いや、間違いなく。
「帰ってきたんだな・・・」
自分がクリスとして転生する前に・・・。
(ということは、ひょっとして・・・長い夢を見てたのか?・・・俺は)
あまりに以前のままといえばおかしいが、それでも転生したころと何も変わっていないことに自分の中で一つの考えが浮かんだ。
「・・・夢・・・か?」
そう思う方が納得のいく現実感だった。
あまりにも長く、すごくリアルに体感するものだったとしても、だ。
(・・・・おそらく飛び蹴りか何かされてここまで落ちたんだろうな。
っていうかよく生きてたな、俺)
階段の折り返し地点から4階に続く廊下を見上げて思った。
「・・・あれから少し経ったってことか・・・」
いじめられてた時はまだ夕日ではなかったことから、少し時間が経過したと判断した。
(・・・とりあえず帰ろう・・・)
立ち上がり、自分の教室からカバンを取って帰ろうとする。
「っ!・・つぅ。
いっちち・・」
ずいぶん体を堅いところで寝かせていたので、固まってしまっていたようだった。
「っと・・・?
・・っ!・・・・あれ?」
階段を降りて歩こうとしたら、ズボンかずり落ちそうになった。
とりあえず、ベルトを調整し短くしておく。
「・・・あれ?
(何だ?ずいぶん、服が・・・)」
服が少しダボっと、大きくなっているような感覚がした。
「どうなってんだ?」
階段を下りて、トイレの鏡を見に行った。
扉を開け、すぐ左手目の前にある鏡に映る自分の顔を見る。
「・・・・」
顔の鼻近くまで伸びた髪、気力の感じられない死んだ魚のようなタレ目、つぶれたような平べったい鼻、顔の半分にあるそばかす、ところ所の赤身、見方によっていつも不満が出ているようなムスッとした口。
そして、全体的に重力によって下に面積大きくなった丸い顔。
少し離れてみれば、身長がちっちゃいために横ばかりが大きくなった丸みのある体型だった。
・・・しかし。
「・・・前と変わっ・・・て・・な・い?」
自分で見てて少し違和感を覚えた。
(なんか、ちょっと痩せてないか?
・・・昔、体重計で図ったときは100キロ前後はあったと思う・・・でも、今は)
昔からチビだデブだキモいだのなんてさんざん言われ続けてきて慣れていた。
しかし、心の中は何度も言われ傷つき、いつしか、鏡をあまり見なくなった。
できるだけ見ずに生活を送ってきていたために、自分の変化が判らなかった。
(そもそも、今までしっかり自分の顔なんて見たことないし・・・あれ?
いつから、見なくなったんだっけ?)
自然と見ること事態を意識したことがなかった。
そんな自分の顔を改めて見た気がした。
まじまじと見てみる。
「・・・あれ?
殴られてケガしてなかったっけ?」
階段前でのイジメられていた出来事を思い出してみる。
「顔を殴られて、口の中を切ったと思うんだけど・・・ケガしてないな」
もう一度顔や口の中を鏡で覗いてみるが、特に怪我した様子はなかった。
顔にある赤みはもともとだから無視した。
「・・・どうなってんだ?
あの時のこと自体が夢?・・・は、ないよな」
イジメられて階段に落とされた流れを思い出してみる。
感覚的に確かに落とされて・・・そこから今トイレに向かうまでの意識がハッキリしているから。
それは考えにくかった。
キーンコーンカーンコーン。
「・・・あ、もう下校の時間か」
学校に残っている生徒が帰るよう伝える音。
部活もそろそろ切り上げて帰ろうとしてる声が遠くからかすかに聞こえる。
「・・俺も帰ろう」
そろそろ夕日も沈んで暗くなってきていた。
トイレを出て、急いで自分のカバンを取りに教室に向かう。
(・・・やっぱり、あの時のはただの夢、俺が望んだ妄想だったのかな?)
長くとも短い自分にとってとても鮮明に映った3ヶ月の出来事。
ただの夢とは違うと思えるくらい、生々しくも楽しかった日々。
それはとても大切な思い出として心に残っている感じがした。
(辛いこともあったけど・・・楽しかったなあ・・・ふ。
ま、妄想なんだけど・・・)
「・・・ステータス・・・なんてな」
ボソッとつぶやき、それ以上気にすることなく教室に向かった。
・・・スー・・・ザッ・・・。
かすかに聞こえたようなノイズを残して・・・。
教室には誰もいないので、カバンだけを取って学校を出てサッサと家に帰る。
現在はその帰りの途中。
改めて帰りの途中で町の風景を見た。
舗装されたアスファルト、ほとんど自然のない風景、たくさんのビル雑居群。
行き交う車に空に見えるのはたくさんの電線、匂ってくるのはたくさん車が通るほどガス臭い。
季節は冬の2月。
だからか、まだ夏場ほど匂いがもっと充満しているような感じはしなかった。
(妄想だとしても・・・あそこは空気が澄んでいたな~、今思うと。
澄むってなんだって思ったけど、なんていうか入ってくる呼吸に重さというか、行き渡る感覚が違うっていうか・・・)
ふと、地球と異世界のことを比較してしまっていた。
流れる風景、行き交う人、しゃべる内容。
まったく違うけど、そこで生きている人の行動には少しだけ似通った所もあるな楽しみながら家に帰った。
学校からはそこまで遠くはなかったが、いろいろと改めて見て回った結果、思ったよりゆっくりと帰ってしまい時刻は夜の7時を過ぎていた。
「・・・ただいま」
少しだけ大きな2階建ての家の玄関を開けて入り、帰ったと中の人に伝える。
しかし、誰かが出てくるわけもなく返事をするわけでもなく静かな暗い廊下だった。
「・・・・」
黙って鍵をかけ、靴を脱ぎ、2階の奥の自分の部屋に向かう。
扉を開け自分の部屋を見る。
以前と変わらない部屋、六畳間でタンスと勉強机。
小さい頃の写真が机のところに立て掛けている。
漫画本とかはなく、型の古いノートパソコンが一台机に置かれているだけの質素な部屋。
入口近くにフックがありそこで制服をかけて、部屋着に着替える。
ふと机の上の写真に目が入った。
とても楽しそうに笑っている家族と祖父母とのどこかで遊んで撮った時の写真。
自分自身はいつ撮ったものなのかもう覚えていないがとても大切な写真の1枚だった。
コンコン。
ノックされる音で現実に帰った。
いつまでそうしていたのかノックの音が聞こえるまでしばらくじっとしていたようだ。
「はい」
「もうすぐご飯だから」
「・・・はい」
それだけを言って階段を下りて行った。
「・・・ほら、さっさと食べてしまいなさい?」
「・・・はい」
リビングではソファー座り、バラエティー番組を見ているのが1人。
その横で、何かの本を読んでいるのが1人。
一人用ソファーにてスマホをいじっているのが1人。
そして、少し離れたテーブルに食事を用意する人が1人、と。
現在この部屋には自分も含めて4人が居る。
「あ!純お兄ちゃん、お帰り~」
「お帰り、純」
「・・・・・」
ソファーで番組を見ている夏奈が声をかけ、続いて紅百葉も声をかけた。
一人用のソファーに座る昂輝は黙ったままだった。
「ほら、用意したから早く食べてね」
「ありがとう・・・ございます」
後半に行くにつれ声が小さくなっていく。
食事を用意した母親の咲恵は、その後すぐテーブルの椅子に置いた自分のカバンから資料とスマホを取り出して何かを調べだした。
「あっ・・・美月姉さんは?」
「うん?、美月はまだ帰ってないわよ?
みんな食べ終わったんだから、あなたもさっさと食べて頂戴」
「・・・はい」
黙々と黙って食事をする純。
しかし、内心は少しだけ涙が出そうにもなっていた。
夢の中では3ヶ月も現代の地球の食事を食べてなかった。
さらに異世界では、日本食なんてものはなかった。
それを再び食べられたことに。
異世界ほど空気も風景もキレイじゃないけど、慣れ親しんだ場所、雰囲気、そして食べ物の味にとても感慨深いものが溢れてきた。
「・・・美味しい」
ボソッと誰にも聞こえないくらい小さな声で純は言った。
「あ・・ごちそうさま」
食べ終わった食器を流し台に置き、誰に言うわけでもなく口に出し、それだけを言って純は部屋に戻った。
部屋に入り電気もつけず、小さなベットに横になった。
「・・・・」
ボーっとただ目の前の机辺りを見る。
(・・・・結局あれは何だったんだろう?
本当に眠ってただけ?)
折り返しの階段の中間地点で出来事にとても夢では片づけられない現実感が確かにあった。
でも、それ以外特に純には何かこれといって変わった変化は判らなかった。
「特に・・・何もないし。
ステータスだってあるわけじゃないし・・・」
口にして考えを声に出していた時。
ジ、ジジッ。
「?」
ザ―――――。
突然のノイズのような音が聞こえた。
(・・・耳鳴りか?
いやでもこんな音するか?
・・・・どっかで聞いたことあるような・・・)
ノイズが消え、静寂に包まれた。
「(・・・気のせいか)
・・・ッ!」
ガバッとベットから跳ね起きた。
その結果ベットが大きく軋む。
目の前には半透明の板が浮かんでいた。
「・・・これって」
【十時影 純】 15才 人間?(ぽっちゃり)
レベル 1
HP 1 MP 1
STR 1
VIT 1
INT 1
RES 1
DEX 1
AGI 1
LUK 1
「ステータス・・・何で?
夢じゃなかったの?」
純は軽いパニックになりながらも、深呼吸をして状況を整理していく。
「はぁ~・・・・すぅ~・・はあ~・・・落ち着けー。
(・・・とにかくあの異世界での出来事は夢じゃなかったってことか?
いやでも、そもそもあの世界は現実で合ってるのか?
・・・分からないが、ステータスがあるってことは全くのウソではなかったわけか・・・)」
まだ頭の中がパニック気味だが精一杯、自分なりに整理を試みる純。
「だとした場合・・・あの時、俺って死んだ・・・のか?
(嫌そうだとしても・・・なぜわざわざそこからまたここに戻ってくる?
・・・ひょっとして、この世界事態が地球じゃないってこと?)」
〔いえ、違います〕
「わぁぁああああっ!!」
思わず純は叫んでしまった。
「えっ?えっ!・・何っ!?」
突然の誰かからの声が聞こえ部屋の周りをキョロキョロする。
〔あまり騒がしくしない方が・・・〕
再び声がして身構えた時、
「・・ちょっと純、うるさいわよ」
あまりに大きな声だったために扉に向こうから母親に注意される。
「ごっ!・・す、すいません。
なんでもないです」
扉越しに謝罪した純。
「・・・急に叫ばないでね。
何かあったのかと思うから」
それだけを伝えると階段を下りて行った。
「・・・ふぅ」
〔いきなり、叫ぶと怪しまれますよ?〕
周りを目で走らせながら聞く。
「誰だ」
〔・・・申し遅れました。
私はあなたの内から支援いたしますサポーターです〕
「・・・は?」
〔マスターの考えで言うところの鑑定に近い存在です〕
「・・・(どういうこと?)」
〔あなたの専属でサポートをするものです〕
【十時影 純】 15才 人間?(ぽっちゃり)
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