2 大丈夫、僕は平気です。
文章の流れは難しい。
書けば書くほど前へ進まない。
壁は白めのコンクリート、床は木の面積が主に使われた古くからあるような教会だった。
天使の羽のようなもので誰かを慈しむような像があり、全体で4,5メートルはあるだろう巨大な石像。
その後ろにはステンドグラスがあってきれいな七色の光が教会の中を彩っている。
「少し古いけど、昔からある立派な建物なんだよ?」
確かに、よく見ると、所々にひび割れが走っている壁があるし、隅のほうは少し黒くくすんでいた。
「ここは、町からちょっと離れていて、町の人たちは後から建てられた中心近くにある別の教会で礼拝をしたり。
そこでは、今からクリス君を治癒する活動や定期的の食事の提供、ボランティア活動なんかもしてるのよ?」
「へ~」
周りを見回しながら話を聞く。
「じゃあ、まずはフェリアーゼ様の像の前まで行きましょうか?
像の前にある段差に気を付けてね?」
「フェリアーゼ?」
「そうよ。・・・あ、フェリアーゼ様を知らないの?」
「あ。・・はい」
申し訳ない。異世界なので。
「フェリアーゼ様は私たち、この世界で生きる様々な生き物の為に慈しみの心で守り、この世界で生きていくための魔法・・・特に回復魔法を携わっていて様々な病気、ケガから守ってくださっているのよ」
どうやら目の前の羽の生えた石像がまさにそのフェリアーゼ様らしい。
「この石像は、実際にこの世界に舞い降りて1人の途方に暮れていた病人を救った時の状況だそうよ?」
と説明してくれた。
自分にとってとても大切で誇らしいものなんだろう。
ちょっとだけ声に尊敬と喜びが混ざっていた。
クリスは祭壇にある像の前に自力で向かい立った。
どうして自分で動けるのか?
それは、この街には教会とは別に病院もあったりする。
魔法ばかりではなく、薬草などの薬学もこの世界では一般的に使われている。
教会ばかりが・・・病院ばかりが、といった一ヵ所に病人達を抱えきるのではなく、それぞれが助け合い受け持ったりして対応しているのだ。
そのため、この孤児院兼教会にも松葉杖が必要になったりする人達の為にいくつか予備を持っているらしい。
その1本を、小さな子供用に削って持たせてもらった。
さすがにどこに行くにも誰かの手を借りるのは恥ずかしい。
「じゃあ、そこで私のほうを向いて立っててね?」
クレアの指示に従い待っていると、彼女は目の前で片膝をつき、手を包むように重ね合わせ、目を閉じて祈りのポーズをとった。
明るめの青に襟から胸元、手首、スカートの裾は白の布で、胸元の布の縦じまのライン線には赤が使われている修道服。
首から下げたアクセサリーと繫がったブローチは縁を黄緑に、真ん中は半円状の黄色い宝石が付いている。
彼女の体から柔らかく淡い光が出てくる。
それは重ねた手から体全体へと溢れ出すと、クリスに向かって飛んで行く。
クリスの体の周りを薄いカーテンが多い優しい緑や青に光が雪のように降ってきた。
(なんだろう?これが回復か?)
見たことなど当然ないのでされるがままでいる。
「・・・?、おかしいわね?」
「え?・・・(何だ?)」
彼女は目を開け、クリス見て首を傾げた。
「この回復魔法をかければ症状が軽くなるはずなんだけど?」
「?」
それぞれ違う意味で疑問を浮かべる。
「ちょっと待ってて今度はもう少し強力な魔法をかけるから」
彼女はそう言うと、今度は立ち上がり手を重ねながら言葉を紡いだ。
「命の輝くままに、そのものの本来の姿を照らし加護と治癒の恩恵を彼のものへ慈しみ救わん
《レザリーヒーリング》!!」
クレアは言葉にして呪文を唱えた。
緑、青、白に黄色の光が重なりクリスの体へ、今度は吸い込まれるように入っていく。
・・・。
しかしそれだけだった。
特にクリスの体に変化は見られなかった。
「どういうことかしら?、この魔法をかければクリス君の失った手や足は治るはずなんだけど」
困惑するクレア。
クレアがクリスを見た後、あーでもない、こーでもないと別の方向を見て他の方法が無いか考え出す。
クリスも困っていたが、念のためこっそりステータスを見てみる。
【クリス 3才】
レベル 1
HP 3 MP 2
STR 1
VIT 1
INT 1
RES 1
DEX 1
AGI 1
LUK 1
『欠損』
(あ、衰弱が無くなってる。
まあご飯を食べたし気絶とはいえ睡眠もとっていたし当然といえば当然か・・・)
そんなクリスとは別に、クレアは振り返って暗い表情をする。
「ごめんねクリス君。
私の力が足りないから、クリス君の体を元に戻してあげられないみたい」
眉を下げ、申し訳ないと泣きそうな顔をする。
「ああ、だ、大丈夫だよ。
ほら、シスターさんのおかげでなんか体が軽くなったし。
無くなった手とかも痛くなくなったから」
「そう?」
「ほ、ほんとだよ」
クレアに気を使って明るく話した。
実際、失った切断面の部分に少し痛みが残っていたが、彼女のおかげで痛みは無くなった。
クリスの、テキトーに上から布で覆っていただけの状態が続いていたら・・・。
菌が入りもっと危ない事態になっていたかもしれない。
だから、その切断面が皮膚で覆うようになって変わっていき、骨等が見えない状態(実際は怖くて中身を見てない)になったのは回復魔法が聞いた証拠だと思ったクリス。
そうして元気付けた結果、気を取り直したクレア。
そんなクレアにクリスは質問をしてみる。
「どうして教会で回復魔法を使うの?、ここじゃないとだめなの?」
「う~うん、そんなことないよ?
ただ・・・教会のほうが魔法を唱えた時の効果が違うからだよ?」
「効果が違う?」
「そう。
回復魔法とか癒すものは神聖な場所やマナの流れが安定した場所で唱えると効果が高いんだよ。
ちなみに言葉を口にするとさらに効果が高まったりするんだよ?」
「へ~・・・。
あっ・・・安定した場所、マナって何?」
「マナっていうのはこの世界のありとあらゆるものに備わっているといわれているものよ?
ある学者は体から自然と発したり、精神を使っていることから生命エネルギーを使っているんじゃないかって言われているわ」
「・・・生命エネルギー・・・」
「まぁそれだと高齢の方たちで、レベルの高い人達だと生命エネルギーを使っているというだけじゃあ・・・説明が難しいんじゃないかっていう意見もあるわ」
「?」
「もし高齢の・・・おじいちゃんおばあちゃんが生命エネルギーを使って強い魔法を何回も使用したら・・・それだけですぐに命が危険になっちゃう。
そんな魔法、危なくて使えないから・・・」
「(確かに・・・。
昔読んだ漫画だと命を代償にして大技を使っているけど、漫画の中ではそれはかっこいい・・・。
だけど実際に、この世界で日常生活を送っている人達からしてみれば・・・毎回毎回、冒険をしているわけでもないのに回復させるたびに死にかけるなんてシャレにならない)」
クリスはクレアの説明に納得する。
まだクリスは飲みこめていなかった。
ファンタジー世界・・・その考え方がクリスをどこか他人事のように思わせた。
理由はどうあれ、この世界の住人になってしまったという自覚がまだ出来ていなかったのだ。
「生命を使っているのかはわからないけど、精神力を使っているのは確かよ?
魔法使うとやっぱり疲れだってたまっちゃったりするしね・・・。
だから何人も回復魔法を使える人が要るのよ?
それだけじゃない・・・回復魔法だけが治療ではないから病院だってあるし、薬草だって使用される。
教会や病院と違って、常時数人も回復魔法士がいるわけでも無いから・・・」
「へ~(なるほど)」
まだ魔法というのをあまり理解はできてない部分はあるが、とりあえず納得する。
「(結局、魔法では俺の部位欠損は戻らない、と)」
「安定した場所って?」
「マナはありとあらゆるものに存在するといったけど、それは体内・・・自分の中にあるものだけじゃなくて、空間とか自然にもあるものなの」
「自然にあるもの・・・」
「マナにはたまりやすい場所・・・性質と言って、わかるかな?
とにかくよく使う場所・・・逆にあまり魔法が使われず時間をかけて溜まっていった場所なんかには濃いマナが漂っているのよ?」
「よく使う場所?」
「例えば、ココのような回復魔法をよく使う教会とか・・・。
その場所で決まった魔法だけを使い続けたりすると・・・長い時間をかけて、その場所に合った性質を好んだマナが作られていくの?」
所々で子供に理解してもらおうと言い方を変えたりしながら説明してくれるクレア。
「マナに好みがあるの?」
「そうよ・・・。
マナには人のようにはっきりとしたものはないけど・・・よく使用する魔法、場所には似たものが集まりやすくなるの。それによって好き嫌いといった相性が生まれたりするの」
「ふ~ん」
「(ゲームでいう・・・相克とか特性かな?)」
「う~ん・・・でも、回復魔法の効果が強く出る教会でクリス君が治らないとなると・・・。
一度シスター長に話して他の教会にも掛け合ってみないと」
まだクリスのことをあきらめていなかったようだ。
何とか助けようとクレアは真剣に考えていた。
クリスは、そんなクレアに申し訳なく思っていた所・・・シスター長、ミリアーゼが教会の広間に入ってきた。
「あら、どうしたのクレア?、考え事かしら」
「あ!シスター長」
彼女は小走りでシスター長のもとに行き、回復魔法でのいきさつを話した。
「そうですか。・・・しかし困りましたね・・・。
あなたほどの魔力でもどうしようもないとなると・・・。
もうこの町ではなく、王都にいる高名な神父かシスター・・・あるいはかなり名のあるヒーラーの冒険者に頼ることになりますね」
「ではそちらに頼むのは?」
シスター長は首を振った。
「残念ながら・・・。
そこまでの高名な方ともなると、こちらに来ていただくことも出向いて診てもらうことも難しいでしょうね~。
彼と同じく・・・診てもらいたいと思っている人がたくさんいます。
どれだけ時間が掛かるか・・・治療にしたっておそらく高額になるでしょう」
「では冒険者に?」
「それも難しいでしょう。
それだけ力のあるヒーラーが故郷でもない場所にずっと留まっているとも考えられませんし・・・。
もし魔法以外だとしても、その手の回復アイテムは高額過ぎて、私たちには手が出せません」
「教会は、困っている方達に出来るだけ手を差し伸べ、助けてあげる場所です」
クレアの気持ちにシスター長は目線を下へ下げて申し訳なくに言った。
「・・・。
あなたの考えは決して間違いではありません。
ですが・・・生きていくうえでは・・・先立つ物がないと生きていけないのもまた事実です。
分かりますね?」
「・・・はい」
悔しくなるクレア。
生きていく以上支え合うという理想が、常に守られるわけじゃない。
クレアも孤児院を支える立場に立っている以上、シスター長の言い分が嫌でも分かる。
孤児院を支える事が如何に大変か・・・。
「あなたもわかっているはずです。
あなたの考え方はもちろん素晴らしい。
しかし・・・騎士が貴族に従うように、向こうには向こうの優先するものが、それぞれの教会には教会の掲げている掟があるのです。
それを、こちらの都合を優先して聞き入れていただくのは・・・」
「・・・」
とても暗い話になってしまった。
この空間だけ先ほどとは打って変わって静けさが強まったような・・・明るさに陰りが出てきている雰囲気だった。
しかし、場を明るくしようにもそんなボキャブラリーは誰も持ち合わせていない。
ましてや自分の事だからと、ここでまた気を使ったことを何とか頭からひねり出して声をかけけようものなら、また暗い空気を作ってしまう。
クリスにはそんな気がして、話題を変えられない状況になってしまっていた。
その時、救いの神ならぬ無邪気な天使たちがこの空間をガラッと変えた。
「あ!シスター見つけた!」
「シスター遊んで!」
「絵本読んで!」
「こ~ら、廊下を走ったら危ないでしょ?」
子供達がクレアやミリアーゼを見つけると走って近づいていき思い思いしてほしいことをおねだりしていく。
その後を追いかけ2人、子供の面倒を見ていたシスターさんが困った顔をしながらクレア達に寄っていく。
「あらあら、困ったわね」
困ったといいながら笑顔で答えるシスター長達。
「クレア、この件につきましては私のほうでこの町の別教会の方へ掛け合ってみます」
「ありがとうございます」
2人は会話を切り上げ、シスター長は子供達や他のシスター達を引き連れ、教会を後にした。
「私達も外に行こうか」
クレアはクリスと一緒に教会を出た。
度々、修正変更していこうと思います。