28 あの時の選択・・・
もはや、体裁とかを捨てている感じで叫ぶユクーズ。
いや、もともとそうだったのかもしれないが、一度手に入れた地位がデカければデカいほど人は横柄になりやすいのだろう。
それが、自分が望んだものが実現して手に入ったものならなおさらだ。
クリスを自身の欲望のために殺そうとする勇者一行。
クリスは必死に一手一手に対応していけたからこそ、まだ生き延びていた。
しかし、タイムリミットは近づいていた。
ただでさえゲンスーリの攻撃による状態異常で体が動きづらい。
幸い毒系ではなく麻痺系だったのが幸運なのかは不明だが、そちらに体内マナを意識的に消費して徐々に持っているマナ、MPが減ってきている感覚があった。それも急激に。
クリスは気力がどんどんなくなり脱力感が支配してくる中、懸命にユクーズ達の足止めに努めていた。
(・・・いつまで続ければいい?)
ユクーズの攻撃を懸命に避け、カイミッスの攻撃に多少ダメージを食らいながらも、頭は疲れから回らなくなり、しかし同時に冷静になってきていた。
「・・・!」
「ッ!。・・・ッ!」
ゲンスーリの不意打ちに必死で避け、反撃にスリングショットをお返しする。
しかし、さすがも連携で避けられるが、後ろから迫ってきた、カイミッスやユクーズに被弾する。
「っぐう!・・・チ・・ク・ショー!」
「ゲンスーリ!俺たちのいない所に避けろ!」
「!・・すまない」
冷静になっているからこそ全体をどこか客観的に見る気持ちが持てていた。
そのおかげで、クリスは戦闘しながら少しずつ戦い方を肌で脳で直に感じて学んでいた。
死が隣り合わせの恐怖を。
だからこそ、ちょっとずつユクーズ達は責める回数を減らしていく。
しかし、
「!・・ッ。
はあ・・・・はあ・・・はあ・・」
遠くからリコスの魔法、パルアの弓矢が飛んできて、明確な被弾はないが掠ったり避けたりで体力も限界が近かった。
一旦、ユクーズ達の攻めが止まる。
「はあ・・・はあ・・はあ・・はあ・・・はあ・・」
クリスの呼吸が荒いままだった。
「ッチ、どこまでもチョコマカチョコマカとふざけやがって・・・」
くいしばった歯の隙間から怨念のように声を絞り出し、顔を充血させ今にも血管が切れそうなカイミッスが体のマナを大きく迸らせクリスの走って殴りかかってきた。
「っく!・・・(くそっ!)」
急にガクッと力が入らなくなった。
足に蹴り上げる力が弱くなった瞬間に、カイミッスの突進と振り下ろしが炸裂する。
文字通り周辺半径2メートル超える大きな爆発と衝撃をまともに食らいクリスは吹っ飛ばされた。
何度ももんどりうって底の見えない滝の近くまで吹っ飛ばされた。
「・・・ン、ンンッ!
はあっ・・・オエッ!・・・カハッ」
自分の肉体の限界と衝撃で立ち上がろうとしたときに吐血した。
(・・・目が!・・・ほんとうにヤバイ・・死ぬ・・・)
目がかすみ意識が朦朧としている。
頭からの出血しているのか血が垂れてくる感覚と片目が開けづらくなっていた。
突然、勝手にステータスが表記された。
【緊急ミッション 達成】
離脱せよ
「・・・ㇷッ。
(ははは・・いまさら遅いよ・・・)」
クリスは弱弱しく笑った。
ポーションも使い果たした。
この戦闘もクリスにとってはものの数分が数時間以上も戦っているようなものだった。
もはや万策は尽きクリスは笑うしかなかった。
(こっからどう逃げろって言うんだ?)
クリスは何とか起き上がりユクーズ達を見るだけだった。
「・・・ふう、やっといいダメージが入ったぜー。
直に殴れなかったがな」
「・・・ダメージを食らわせれば問題ない」
「ハッ、やっと死にやがるか。
ずいぶんてこずるモンスターだぜ全く。
・・・おい、お前ら、最後は俺にやらせろよ?」
「はあ!?どうして?」
「ここ最近俺がトドメを刺せてないからだよ。
接近だったらカイミッスがやるし、奇襲ならゲンスーリが、遠くからだったらリコスかパルアがやるだろ?
俺だけ、ご無沙汰なんだよ」
「おいおい、こんなにすばしっこいのなんて初めてなんだぜ、俺に経験値をくれたっていいだろ?」
「いや、今回は私にちょうだいよ!いつもいつも私に回ってくるのなんて雑魚の経験値ばかりなんだから」
「・・・それを言ったら、俺も欲しい」
「・・・誰でもいいから、倒すならサッサと倒しなさいよ。
嬲るの私は趣味じゃないの」
「じゃあ、パルア以外で決めようぜ?」
ユクーズ達は揉めだしていた。
しかし、今のクリスにもう戦闘する気力は無かった。
マナは底を尽きたのか、体内のマナも今まで感じていた相手や大気、自然の中にあるマナも全く感じることが出来なくなっていた。
(最初のころを思い出すなぁ・・・といっても2ヶ月ぐらい前になるけど。
こっちに転生して約・・・3ヶ月ぐらいか・・・ずいぶん短い転生人生だな)
クリスは全体といつの間にか戦いのさなかに近くまで来ていたサーニャと交換したリュックを見ていた。
(これ、夜に話していた時、親からもらった大切なリュックって言ってたっけ?
・・・申し訳ないことしたなぁ・・・)
ボロボロの体でサーニャのリュックを手に持つクリス。
そうこうしてる間に話し合いが決まったのかユクーズが動き出した。
「よし!やっぱり最後は勇者が倒してこそ物語は綺麗になるってもんだよ」
「くそっ!次は譲れよ!」
「・・・残念」
「・・・今回は仕方ないわね」
「・・・」
ゆっくりと剣を構え近づいていくユクーズ。
「じゃあな、レアな擬態モンスターのガキ。
ここで、勇者の俺に会ったのが不運だったな」
そう言った後、剣が光り輝き、刀身に粘りつくように黄色と茶色い何かが纏わりついた。
とぐろのように。
「おいおい、トドメを刺すのにド派手だなー」
「・・・・やりすぎ?」
「でしょうね・・・まあ私も妥当だと思うわ」
「・・・」
カイミッス、ゲンスーリ、リコスは楽しむ観客のように、パルアはただ黙ってクリスの最期を見届ける姿勢でいた。
「これで、死ねるんだ、幸運に思えよ」
ユクーズの見下した顔にクリスは笑った。
「・・・は」
「あん?」
「偽勇者に殺される気持ちってのは何ともなー」
「・・・ああ!?」
クリスのボソッと言った独り言にユクーズにはしっかりと聞こえていたようだ。
声のトーンが下がり怒気を孕んで剣を振り下ろした。
「死ねっ。クソガキ」
ユクーズの振り下ろした剣は刀身に纏ったマナがユクーズ自身の攻撃に上乗せするように大きな波と破壊の衝撃を巻き起こした。
ユクーズの前からクリスの横数メートルにある大岩までを地面が大きくめくり上げ、とても大きな落とし穴のように陥没していた。
「・・・・あああ~スッキリした~~。
おかげでマナがもうねえな」
ユクーズは仲間の元に戻る。
「じゃあ、さっさと帰ってアスーティの町に行くぞー」
「は~、やっと終わった~。
結局何だったのかしらね?、アレ」
「さあ、まあどうでもいいだろ、それよりサッサと夜の姉ちゃんたちと遊びたいぜ~」
「・・・疲れた」
「・・・・・・・・」
「どうしたパルア?」
「・・・・別に」
ユクーズ達は来た道を帰り、アスーティに向けて歩き出した。
くそっ!
くそっ・・・ちくしょ~。
横に膨大な水が流れる暗闇の中、重力に従って落下していく。
俺の人生は・・・あれで終わりなのか?
いつもいつも、信じた結果がこれかよ・・・
俺は何のために?
・・・
・・
・
いや、俺はあの時、あれが一番だと思ったんだ。
だったらここで、否定したら今までのすべてが無かったことになるだろ!
・・・・でも、悔しい。
立ち上がりたい。
・・・・・もう一度!
・・・・・
・・・
・
長い長い暗闇の中を落下していった。
レベルが上がりました。
実績を獲得しました。
アンロックされました。
〈実績:死に戻り を獲得しました。
俺を置いて先に行け を獲得しました。
不死鳥は甦る を獲得しました。
いつもいつも泥仕合 を獲得しました。
予期せぬエラー を獲得しました。
はみ出し者 を獲得しました。
イレギュラー? を獲得しました。
・・・・
・・・
・・
・
塵も積もれば山となる を獲得しました〉
実績が一定数を超えました。
これより統合します。
肉体の生成、創生を実行。
能力の複合、器の拡大を実行。
・・・
・・
成功。
ザッ、ザッザーーーー
ジ、ジー――
ザ、・・・ッジ・・ザ
ザ―――――――――――――――――――――――――――――!
「・・・・・・・・・・・・意外です」
「ンアッ!」
勢いよく跳ね起きた。
辺りを見回す。
「あ・・・あれ?」
(どこだココ?
・・・いや)
よく知っている。
床を薄いゴムのようなもので無機質感を無くし、一定間隔で作られた階段。
建物の構造をしっかりと考え、合理的に作られた形。
壁をキレイに塗装し、階段でコケるのを防止するための金属の手すり。
そして、少し高めの位置に設置された縦長の窓。
その遠くから誰かたくさんの人の掛け声。
夕日が差し、キレイなオレンジ色が中に入ってきている。
(見覚えのある階段、壁、窓。
外の掛け声)
「・・・戻ってきたのか?」
【クリス】3才 →?
レベル 30 →?
HP 305 MP 278 →?
STR 116 →?
VIT 103 →?
INT 111 →?
RES 98 →?
DEX 145 →?
AGI 124 →?
LUK 87 →?
『身体強化:レベル1』『マナ:レベル1』『マナコントロール:レベル1』 →?
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