27 ニセ?勇者と昔の記憶
そのどこかいじめっ子を思い起こす、顔に少しだけクリスは顔をしかめた。
初めて勇者と呼ばれる人に会った。
クリスはその人に会ったら何を聞こうかなとも考えたことがあった。
が、彼らからは特に男連中の方から不快なマナの流れがここまで近いと、より強く感じた。
「ゆ、勇者・・・ですか?」
努めて、小さな何も知らないような子供のようにふるまうクリス。
「おう!まあ、坊主。
俺に会えたことを幸運に思うんだな。
俺と直接こんなに話せる奴なんて限られるんだぞ?」
クリスには``VIPなんだからもっと敬え``と言いふらしているようにしか聞こえない。
「は、はあ」
「・・・なんだこのガキ?
反応が全然薄いんじゃねえか?」
「まあ・・・世間知らずそうだしな。
仕方ねえって」
クリスの反応の悪さにユクーズは仲間に不満を漏らす。
「・・・」
「・・・ゲンスーリさっきからどうしたんだ。
いつも以上に黙って」
「・・・冒険者だとしても、こんな子供が一人でこの遺跡にここまで突っ込むものか?」
「ん?・・・あー俺だったら、やってるかもな」
「あんたはバカだからでしょ?」
「おいおい、リコスお前だって、この前のダンジョンで・・・」
「そんな昔の事は忘れたわ」
「おい」
「まあ、リコスもたまにやってしまう部分はあるけど・・・。
ユクーズ、あなたほどじゃない」
「パルア、お前まで」
「ほら、そうじゃない。
普通こんなところに一人で来るなんてよっぽどの``バカ``かよっぽどの``能無し``よね」
「それお前のことも入ってるんじゃねえか?」
「ハアアッ!ふざけたこと言ってるんじゃないわよ!」
クリスを置き去りにユクーズはリコスと言い争いをする。
クリスは心の中でリコスの言葉に反省する。
(・・・すいません。
あなたの考えで言うなら、俺は2つとも当てはまりそうです)
「・・・現にココに居る、ひとりで」
ゲンスーリという盗賊っぽい服をした男の一言を機に空気が一変した。
「・・・確かにそうね、あなた・・・何者?」
パルアが質問をしながらも背負っていた弓を手に待ちだす。
「・・・もしかしてモンスター?」
魔法使いっぽいリコスが少しずつパーティから下がり、魔法を唱える準備をしようと距離を置いた。
「へ?違いますっ!
ほらっ、さっきも見せたけど冒険者カードだって」
クリスは右手のリストタグ式冒険者カードを再び見せるが、ユクーズ達はどんどんと戦闘態勢に入ろうとしていて、クリスの話にまともに取り合わない。
「・・・ここはずいぶん古い遺跡」
「っつう事は見たことねえモンスターがいても不思議じゃねえってことだ」
ゲンスーリはナイフを取り出し構え。
カイミッスは両手こぶしを胸の前で打ち合い、クリスの方に前に出てくる。
「おいおい、ってことは俺の勇者宣伝は・・・」
「全くの無意味」
「ッチ、マジかよー」
ユクーズは背中にかけた剣を抜き、カイミッスと同じく前に出てきた。
「あの、僕は人間ですよ?
だから冒険者カードだ「だから何?」・・・え?」
クリスの言葉を遮ってリコスが聞いた。
「確かに、キミのカードは白く、正式に登録されているように見える」
「・・・えっ、されているように?」
「でも、そんなのただの見せかけかもしれないじゃない」
「あ・・・」
クリスの意見はパルアとリコスにバッサリと切り捨てられた。
「ふふ、っというわけだ。
大人しくくたばるんだな、擬態モンスターが」
「・・・油断はするなよ?」
取り合う気はさらさらないようだった。
「ホントどうしてくれんだよ?
俺がせっかく親切に話してやったのによ~」
ユクーズ達は殺気を向き出し、殺す気で見ていた。
クリスは猫かぶりを止めた。
「・・・それが、勇者の行動か?」
「あ?」
「・・・話を碌に聞かず、自分の力だけで、暴力だけで解決しようとするのがお前らのやり方か?」
「はっ、何言ってんだ?このモンスターは」
ユクーズから不快なマナが強くなってくる。
「俺は勇者なんだよ。
人が脅かされている、そのために行動し助け、危険から事前に守るために邪魔な``モンスター``を倒して何が悪いって言うんだ」
「・・・ああ、そうだったなぁ」
クリスはユクーズ達を見て思い出す。
ここに来る前、アスーティの町でお世話になったローナやロッシュが勇者について話してくれたことを。
「確か、アロンクリッテから勇者が来るって・・・」
「あ?・・・なんだ。
知ってたんじゃねえか」
「国が決めた勇者であって、本物の勇者かどうかは別だって」
「ああ?」
「あくまで国が決めただけで、実力がない奴でも勇者になれるって。
・・・確か、自称してる人もいるって話だっけ?」
「・・・このガキ」
クリスはこの状況、内心は殺されてしまう気持ちがいっぱいで怖がっている。
しかし、同時に憧れていた英雄や勇者って存在に過剰な期待をしていたと理解した。
そして、目の前の勇者がたとえ国が認めた本物でもクリスはユクーズ達を認めないと決めた。
あまりに理不尽になっていく状況、確かに向こうの言い分も理解できるところはあった。
しかし、ユクーズの顔、そしてその仲間たちの顔、特に男連中から来るのはかつて自分をいじめ楽しんだ奴らと同じものを感じた。
それが、クリスの過去の恐怖とともに呼び起こされ、黒い気持ちがどんどんと膨らみ。
気づけば、ユクーズにケンカを売ってしまっていた。
「こんな奴らが勇者なんて・・・」
「・・・」
(こんな奴らにラーナ達が出会ったら、問答無用でこいつらは殺そうとする。
それだけは絶対だめだ、またあの時を繰り返すのは)
自分と守り死んでしまったクレアが思い出された。
その時。
ザー、ザザッ、ザ―――
クリスの視界に半透明のステータスと同じ表記が現れた。
【緊急ミッション】
一定時間まで勇者を足止めする
その後、離脱せよ
短く表れた文字、理解はできないがとにかくクリスの心情と同じだった。
(だったら、やることは変わらない。
時間稼ぎだ!)
クリスは体内マナを引き上げ戦闘態勢に移り、腰からスリングショット取り出した。
「・・・おい、ゲンスーリ?
こいつどれくらいだ?」
ユクーズはクリスを見ながら聞く。
「・・・?・・・・45」
「は?こんな奴が45もあんのか?
意外だったのかゲンスーリの答えに全員がゲンスーリを見た。
「信じられない」
「・・・やっぱりモンスター」
「こんな小さい子供に見えるのに」
「ひゅ~♪
弱えが面白えじゃねえか」
「・・・で?他には?」
「・・・・・・・何も」
「は?」
「・・・・何も見えなくなった」
「は?どういうことだよ!」
「わからない・・・」
ゲンスーリは若干焦り、警戒心が一層強くなった。
「はぁぁ、仕方ねえな。
とりあえずサッサと倒すぞ?」
ユクーズ達は行動を開始した。
クリスはいまだ向こうが警戒はしているが舐めているのだろう所に付け込んで、距離を一定でつかず離れずに保ちながら下の石を拾ってスリングショットのケースに入れていく。
(まだ、向こうは走ってこない、警戒心が無意識に勝っているのかも・・・。
さっき聞いた45はおそらくステータスを鑑定したんだろう。
何をもって45なのかは知らないが、俺のレベルは最近30になったばかりだし。
鑑定にも表記や調べ方が違うのかもしれないな・・・)
ゆっくりと、クリスは大きく描くようにで時計周りに動いた。
「っち、じれってぇなぁ」
そう言った後、カイミッスが走ってきた。
かなりのスピードで迫り一気にクリスを叩き潰そうと振り上げた右こぶしを振り下ろす。
威力が強く肘近くまで岩の地面にめり込んだ。
「っ!」
クリスはギリギリで身体強化を使って後方に飛んで躱す。
すかさず石をゴム紐で掴み、構え、撃った。
「って~」
腕を引き抜き咄嗟に顔を上げ避けようとしたが、クリスが狙ったのは首から鎖骨の辺り、面積が大きい図体のためひねって避けるだけでは無理と判断して手でガードした。
ガードのために出した左手の甲から小指にかけて裂傷し、さらにそれた石が右胸から右手近くまでも裂ける。
すかさずユクーズがカイミッスの横を通り過ぎ、斜めに斬り下ろしてくる。
切った場所は小さなクレーターを作る。
咄嗟に気づいたクリスはさらに左斜め後ろに回避し、石を2つ取り出しスリングショットで構えた。
クリスはユクーズを無視し後方の3人を捉え石を撃った。
同時にパルアの弓がクリスに向かって飛んでくる。
それを、目で追って大きく飛びのくと近づいてきた近づいてきたユクーズとカイミッスにスリングショットのケースに入れた石を手に持って、身体強化とマナを最大限使って散弾のように思いっきりばら撒いた。
「っぐ!」
「クソッ!このガキがあっ!
2人は無理やり近づいたためもろに食らって顔面を抑えうずくまった。
ユクーズは鎧の着けてない顔や頭、おなか、足を。
カイミッスは全身にあたった。
「ユクーズ!カイミッス!」
「はぁ・・・はぁ・・!、んぐっ!」
周りに気を配れなかったクリスが接近したゲンスーリの横薙ぎのナイフに回避が遅れ、ガードしながら後方に飛んだ。
ほぼ無意識の本能で飛んでいた。
そして、転がりながら、また一定の距離でにらみ合う両者。
(くそ―、いてぇ~)
切られた箇所が熱を持ち痛みを訴えてくる。
「ふう・・・ふう・・」
クリスはシリンダーケースからポーションを取り出し、飲む。
「っぐ、ぐぞがきがあ!」
「んんぐっうう」
2人は所々血だらけになり何とか顔を片方を手で抑えながら立ち上がった。
「はあ・・・すう~・・はぁ~」
クリスはゆっきりと呼吸を整える。
(おかしい、なんかビリビリして動きづらい。
・・・ナイフに何か?)
クリスは5人を警戒しながら、全体を見渡す。
石2つのスリングショットは二人の女性にちゃんと当たっていたようだ。
一人は肩を抑え、一人は足を負傷し持っていた杖で体を支えている。
(・・・無傷なのはシーフっぽい奴だけ)
そのゲンスーリはユクーズ達に近づきクリスと同じように回復薬を直接体にかけた。
頭からかかったポーションの液体がすぐに消え失せ、傷か少しずつみるみる治っていく。
(直接かけても効果があるのか・・・)
「・・・フ――ッ」
ユクーズがこちらを睨みつけながら長い鼻息を漏らす。
戦闘は数秒~数十秒くらいしか経っていないだろうがクリスにはとてもプレシャーの大きくとても長い時間に思えていた。
「どういうことだ―!!ゲンスーリ!!
あのザコは45しかねえはずじゃないのか―!!」
怒りのままにゲンスーリに怒鳴りつけるユクーズ。
それは、他のメンバーも気持ちは同じようだった。
「・・・確かに見た時は45だった」
「だったらなんで、さっさと殺せねーんだよ!
なんで俺がこんなケガ負ってんだよ!」
「・・・わからない」
「もう一度調べろ!」
「・・・わからない」
「・・・ああ?」
「さっきから何度もやってるが、あいつを鑑定すると強制的に消える。
・・・ステータスが見えない」
「・・・・どういうことだ?」
「・・・」
ユクーズの詰めよりもゲンスーリは首を横に振って返す。
「そんなことあるの?」
リコス、パルアがゲンスーリたちに寄ってきて質問した。
「・・・レベルが圧倒的だったり、特殊な能力を持っていたら可能性はある」
「あの子供がそうだっていうの?」
「・・・わからない。
少なくとも、まったく鑑定できなかったり、ほとんど見えないことってのは聞いたことがあるけど。
・・・奴の場合、ステータスの表記が強制的に消される。
最初の少し見えた後は使っても全く効果が出なかった。
・・・こんなことは今までなかった」
普段から口数は少なかったり短めな方なんだろうゲンスーリがここまで言ってくるということに、ユクーズ達は改めてクリスという得体のしれない存在に警戒をしっぱなしにする。
「っくそ、こんなバカな事があってたまるか!」
カイミッスがキレてクリスに突っ込む。
クリスは体内マナの流れと循環させてゲンスーリのナイフに仕込んだ毒を無理やり緩和させていた。
(っく!)
カイミッスの攻撃に避けたり咄嗟にガードをし、突進してきたら石を持ち警戒させ、止めたりしながら対応していた。
体の小ささもあって逃げるのは難しくても避けたりして小回りを利かせチョコマカを翻弄させることはできた。
しかしこれも時間の問題だった。
「ッ!」
少し距離を開けた瞬間を見逃さずスリングショットを構え撃った。
「っぐう!」
今度は距離が近いため避けられずガードした腕ごと直撃する。
撃ったと同時に距離を開けるクリス。
カイミッスは両手を下げプルプル震えながらにらみつける。
「マズい、カイミッスを助けるぞ!」
「わかった!」
「ゲンスーリ。
ポーションを私達とカイミッスに」
「・・・わかった」
ユクーズはクリス達のところに向かい、リコスはゲンスーリから回復薬をもらい足にかけ、呪文を唱える。
パルアも飲んだ後、ユクーズ達のサポートに矢を番える。
ゲンスーリは負傷したカイミッスにポーションを届けに行く。
「ここでお前を殺す!」
ユクーズがカイミッスと入れ替わりに斬りかかった。
【クリス】3才
レベル 30
HP 305 MP 278
STR 116
VIT 103
INT 111
RES 98
DEX 145
AGI 124
LUK 87
『身体強化:レベル1』『マナ:レベル1』『マナコントロール:レベル1』




