26 不快と勇者
クリス達は遺跡の通路から聞こえてくる話声に警戒を示す。
まだまだ距離はあったが、声がでかいのかそれともここの空洞まで声が響きやすいのかは不明だがしっかりと届き、こちらに向かってきていることが分かった。
(・・・何故だろう?
こっち来る連中から嫌な感じがする、敵意とか殺気っていうより・・・ただ不快な感じがする)
クリスはラーナ達に振り向いた。
「魔族と人間って敵対関係だったりしますか?」
「クリス君?」
「・・・いや、そんなことはないが。
・・・よく思わない者も確かにいる。
それはどの種族の中にもいるものだからな」
「ダルト?」
クリスの質問に少し考えた後、ダルトが答えた。
ラーナとサーニャはクリスが何を言いたいかわからなかったようだ。
だが、クリスの意図にダルトは何となく気づいていた。
クリスは黙ってダルトを見た後、洞窟の奥。
ラーナが加護を得たであろう岩の右斜め奥の細くなっていく削れている自然にできた天然の岩の橋の奥の光が見える方向を見た。
ダルトは黙ってクリスが見てる方向をクリスの視線から感じ取り、自身がこの後どうするべきかを考えた。
そしてクリスは黙ってダルトに頷き、岩の方に向かった。
ダルトがクリスについていくのでラーナ達もクリスの方に寄って行く。
「・・・これ、そこまで多くないですが渡しておきます。
もし、何かあってもこれだけあればおそらくダルトさんたちなら大丈夫だと思います」
「・・・クリスは・・・良いのか?それで・・・」
「・・・ふ、正直嫌です。
・・・でもせっかくここまで、ほんの少しですが仲良くなれたのに、ここで``はい、さようなら``ってのは自分ではどうかと思ってしまったので・・・それに・・・」
「・・・共に行くのは?」
クリスはただ首を横に振った。
2人の会話から、何となく気づいたサーニャが食い下がろうとする。
「クリス君も一緒に行きま・・・」
ダルトがサーニャに肩をつかんで止めた。
「ダルト、サーニャ?
どうしたの?
クリスとここでお別れになるの?」
ラーナは寂しそうな顔で聞いてきた。
「うん。
ごめんね、ラーナ。
どうしてもやらなきゃならないことがあったの忘れてたんだ。
だから、ここでお別れになっちゃうんだ。
・・・ラーナ達はこのまま奥に向かっていくと早くこの遺跡に出られるんじゃないかな?」
「だったら、そこまで一緒に行こうよ?
いきなりバイバイは・・・いやだよ」
悲しそうになっているラーナ。
そこにサーニャが肩を抱いて話しかける。
「・・・ラーナ?
わがまま言っちゃダメよ?
クリス君だって困っちゃうんだから。
私たちは国に早く帰って報告しないといけないでしょ?」
「うん・・・でも」
「ラーナが悲しい顔をするとクリス君も困るの・・・分かってあげて?・・・ね?」
「・・・うん」
サーニャに説得され、ラーナはサーニャと二人先に奥の橋を渡りだした。
クリスは荷物をサーニャと交換していたのでずいぶん小さなかリュックになっている。
中身もかなり渡したため、クリスの荷物の中は最低限のものしか入っていない。
「・・・クリス、お前はまだ幼すぎる。
・・・なのにどうしてこんなに・・おまえが大きく見え・・・「ダルトさん」」
クリスの違和感を口にすると同時にダルトはサーニャ、ましてやラーナより幼い少年に対して自分の立場を天秤にかけて迷っていた。
そこをクリスは感じ取り、今やるべき道を示した。
「・・・あなたの仕事は何ですか?
・・・あなたがしなければならないことは何ですか?」
とても真剣にただまっすぐにダルトの目をクリスは見た。
ダルトはクリスの言葉と目を受け、その表情から自分の今やるべき大切なことを胸に刻む。
「私の仕事は、王の娘、ラーナ姫と侍従サーニャを必ず我が国、王の面前に必ず連れ帰ること」
それを聞いてクリスは笑った。
(もしかしたら、誰かのために・・・と思ったクレアさんはこんな気持ちだったのかも・・・)
「そのこと忘れないでくださいよ?」
ちょっとしか軽口でダルトにお願いした。
「・・・心得た」
ダルトはそれ以降、何も言わずラーナ達が待つ岩の橋の向こうへ向かった。
(・・・すまぬ、クリス)
「・・・すぅ~、はぁ~」
ゆっくりと深呼吸した後、クリスは橋の向こうのラーナ達が見えなくなったのを確認してから、徐々に力を付けてきたと自覚している身体強化混じりのステータスで橋の細く狭くなってる部分の手前まで来たとき手に待った30キロはありそうな岩を周辺に転がっていた岩から回収し脆そうな所目掛けて思いっきり叩きつけはしを壊す。
橋はもともと、ボロボロになっていたのか片方の支えがなくなると同時に傾きだし、ボロボロと崩れ始めた。
急いで、洞窟の方に戻って岩の裏で何かないかと対策を練っていると・・・。
「―――もう。
なん―――、ユクーズは!」
「――ハッ、まあ――――よ。
こんなとこ――――あるって」
「――――かな?
だって――――っだのに?
今回もそう―――なんじゃない?」
「いや今回は大丈――――パルア」
「本当かよユクーズ。
そんなこと言って――――みたいなのはごめんだからな」
「分かってるって」
徐々に風の中から反響して聞こえた声がハッキリと直に聞こえてきた。
「まあ、こんなに奥まで来たのに何もないってのも・・・お?光が外から見えてこねえか?」
「・・・ふぅ、やっと外に出られたわ・・・って、ただのだだっ広い空間なんだけど?」
「ッチ、まじかよ、ツイてねーな」
「ほら、だから言ったじゃない。
こんなとこ来るくらいならサッサとアスーティって町に行ってイベントまでのんびり遊べたのに・・・」
「・・・悪かったって、リコス」
通路の向こうから結構大きな声で話す5人組が現れた。
一人は剣を背中に斜めに差し赤いマントを羽織っている、まさに勇者然とした鎧を付けた髪はややツンツンでまだまだ遊び足りないとか常に考えて、遊んでそうな20代に入ったくらいの男だった。
一人は目元と口元以外は服で全身を隠しているいかにも盗賊してますといった風の緑と黒目の服を着た男だ。
こちらもおそらく若い。
一人は先ほどとは逆に服もラフにベストのような服を1枚羽織、ズボンはひざ下まで。
手には包帯を軽く巻いてその上に手抜きグローブを付けている男。
一人は柔らかめの羽織を首から腰にかけ、その下に紺のワンピース型の服、腰に革のベルトをして、
小さな木の棒とプラスチックのように見える指揮棒みたいな白く細い棒を漬け、手には金属製に先端部分がこれでもかというくらい大きめの水晶のようなものを付けた杖を持っている女性だ。
一人は、獣の皮を首から胸辺りまで羽織、背中に弓と矢筒、腰にダガーとショートソード、上はへそが見える服装で下は短パン姿の女性だった。
全員が人間で20代に入ったばかり、あるいはギリ10代がいそうな5人組だった。
「・・・・・・」
しかし、クリスは彼らから何とも言えないマナの不快感を感じ、隠れて様子を見ていた。
クリスは思い出し考えていた。
(もしかしたら、夢の女性が``気を付けて``といったのも、助けてあげてとも言ったのは、おそらくこいつらにラーナ達を接触させないためだったんだろう)
クリスは通路から入ってきた冒険者の集団を見て、そう確信した。
クリスは彼らが入ってくる前にマナの外漏れを避けるために体内のエネルギーを抑え低くして尚且つバレにくいように、意識的に心の揺れをも抑えるように呼吸をゆっくりとしたものに変えた。
できるだけ、気配が殺すように・・・。
「・・・?どうした?ゲンスーリ?」
「・・・ここに、さっきまで誰かいたのかもしれない」
「え?、ホントに?
でも私たち見なかったわよ?
だってここの通路ほぼ一本道じゃないの」
「・・・マジかよ。
モンスターだったら俺に戦わせてくれ。
最近、楽なんだが手ごたえのないモンスターばかりだったからなあ?
あ、別に魔族でも魔物でも構わんから、とにかく俺に殺させてくれ」
「おいおい、カイミッス、血の気多過ぎだって、そんなことが、王たちにばれたら俺たちだって危ないってこの前も言ったろ?」
「ああ!そうだった、悪ぃ。
どうもうずうずしてしまってな」
「はぁ~、あんたはすぐそうやって何でもかんでも・・・」
「なんだよパルア、つれねーじぁねーか。
お前だって、狩りがモンスターばかりだと張り合いがないとか言ってたじゃねーか。
・・・なんだったら、お前が俺の疼きを夜に発散させてくれよ」
「ふん、嫌だね死んでもお断りだ」
5人組は雑談をしながら辺りを見回す。
冒険者ってのは本来、血の気が多くならず集団も多かったと聞いている。
しかし、ギルドが現在の冒険者カードになる少し前から意識改革の変化によりめっきり減ったとは聞いている。
時折、冒険者になりすまし、ギルド内を、冒険者を、国を潜入調査して中から腐敗を撤廃させる調査が行われ、ギルド内に抜き打ちテストのようなことも行われているそうだ。
これには、そのギルドのギルド長ですら知らされていないらしい。
調査する方も細心の注意を払って行うそうだ。
そうしないと権力もあり、さらに実力のあるギルド長が裏で犯罪行為、不正行為が行われていたらその地方は誰が助けるのか?
その事実や証拠を探すのも一苦労するそうだ。
昔は実際にそこそこあった事件で、たまたま勇気がある正義感の男が立ち上がって公にしたこともあるらしい。
しかし、大半はその陰でたくさんの人が命を落とし、表に出ることがなかったものもあるんだと言われていた。
たまたま、違和感を覚えた別の地方の貴族が国に掛け合い取り締まったこともあるそうだ。
国が一筋縄でいかないように、ギルドの中も昔は今以上にゴタゴタしていたそうだ。
そのための一斉変化による意識改革が行われたそうだ。
現在はかなり少なくなったとはいえ、世界中に脅威はたくさん潜んでいるため、冒険者の数は減ることがなく、今も増えているそうだ。
数が増えれば、中には素行の悪い連中もいるのが当たり前になってくる。
どうやら目の前の連中はその一部かもしれない。
「ちょっとユクーズ、早く帰りましょうよ。
ここに居たってどうせ何にもないんだから。
早く帰って遊びたいわ~」
「帰るにしても2日くらいはかかるって。
・・・でもそうだな、リコスもそう言ってるし・・・みんな帰る・・ぞ・・・?
どうしたゲンスーリ?」
「・・・まだここに居る。
・・・誰だ!」
ゲンスーリと呼ばれた男は大きな岩の方に眼を向け、鋭くする。
(・・・ここまでか。
やっぱ気づかれるな)
未だ、自分のマナのコントロールが下手だとは分かっていても上手くいけばバレずに済むと考えていたがやはり甘かった、とクリスは諦めて岩から姿を出す。
目を細めて、ユクーズ達がクリスを見る。
「・・・ガキか?」
「何あの子供?
ブッサイクわね~」
リコスと呼ばれた魔法使いがクリスを見て第一声に発し、身を守るように手で胸の前を隠す。
(頭からの言葉がいきなりそれですか・・・傷つくなぁ・・・)
クリスは地球でさんざん言われたことを改めて異世界で、それもとても響きやすい洞窟でハッキリと言われたことに内心でへこむ。
へこみながらも両手を挙げて気持ちおどおどしながら月明りで照らされる場所まで移動した。
(というか、あの人、暗くなっていて離れているのによく顔なんて見分けられたなあ)
相手の視力の高さに若干、的外れな考えを持って感心してしまうクリス。
「おい坊主ここで何してる?」
「え・・・えっと、ココには観光で・・・」
「は~?
こんななんもないような場所にか?」
「・・・しかも、こんな子供が一人でここに?」
ユクーズ達はクリスをより怪しんだ。
「あ、あの・・・あなたたちは誰?」
「あ?俺を知らねーのか?」
「え?はい、すみません」
「・・っく、はっはっはっはっはっはっは」
「おい笑うなよ」
「だってよ~、まあお前がこんなガキにまで知られてるってのもおかしな話だぜ?」
「・・・ッチ」
「まあ、そう熱くなるなって。
俺たちはまだ勇者になってまだそんなに時間が経ってねえんだ。
このガキが知らないだけかもしれないだろ?」
クリスの発言にユクーズが絶句しカイミッスが腹を抱えて笑った。
「分かってるって、それくらい。
っていうか勇者は俺であってお前らじゃねえーだろ」
「あ!ひっどーい。
私たちがいたから攻略できたのに」
「そうだ。
別にお前だけの力じゃない」
ユクーズの言葉に文句を言う女性二人。
「私たちの力あってこそでしょ?」
「そのことを忘れないで」
「わ、分かってるって」
2人に責められ、弱腰になるユクーズ。
「・・・お前は誰だ?
そもそもこんなトコに一人で観光する子供なんていない」
一人、ユクーズ達とは別にクリスに警戒を解かないゲンスーリと呼ばれた男。
「あ!あの、僕も一応冒険者なんです」
クリスは右手に着けた白いタグを見せた。
「・・・マジかよこんなガキが冒険者?」
「仮登録だけど・・・あれは正式なカードよね?」
「ああ、間違いねえ」
「・・・」
「・・・仮登録の子供がこんなトコに一人で?」
5人はそれぞれに違う感想を持ちながらもクリスから目を離さない。
「ああ、あの皆さんはいったい?」
「おっと忘れてた」
「あんたが忘れてどうすんの!」
「・・・名売りの練習はもっとするべき」
「いや、こういうのって周りが立てるもんだろ?」
「そうだけど、自分でもやっておかないと世間は気づかないもんじゃない?」
「は~、マジかよ~」
「あのー?
(さっさと退散してやり過ごしたいんだけど・・・)」
「んあ?、あ・・・んっ、んん。」
咳払いをしてユクーズが身なりを正した。
それに気づき、残りの4人も黙る。
「俺たちは``アロンクリッテから選ばれた勇者``だ。
そして俺が勇者のユクーズだ!」
男はどこかいたずらをしそうな顔で得意げに笑った。
【クリス】3才
レベル 30
HP 305 MP 278
STR 116
VIT 103
INT 111
RES 98
DEX 145
AGI 124
LUK 87
『身体強化:レベル1』『マナ:レベル1』『マナコントロール:レベル1』




