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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
263/473

259 どこの世界にも色々とヤバいヒトはいるもんだね

「ぐっ・・・。皆さん、決して私の傍を離れてはいけませんよ」「「「うぅぅ・・・」」」


 囲まれる様にして体の大きなブタの様なイノシシの様なモンスターに襲われる教師と受験生達。中には涙を流す受験生もいた。

 そんな中、必死に教師は近づけさせまいと奮闘していた。・・・しかし・・・。


「(マズい・・・。私の魔力も・・・)」


 受験生を守るために範囲を守る魔法と攻撃魔法の乱用で、急速に体内に残るマナの残量が減少していくのを感じている教師。

 その表情には余裕が全く見られない。しかし、それでも諦める事無く魔法を使い続けていた。


「(私なのが失敗でした・・・。もう少し戦闘に向いた・・・)」


 いつか、助けに来てくれるであろう教師達を信じて魔法を使い続ける。

 残り少ない魔力を守るために全力で注ぎ込みながら・・・。


「遅れてすみませんでした・・・!」


 そして、その願いは果たされる。


「ユラウレム君・・・!助かりました。早く子供達を・・・!」「いえ、あのモンスターを倒さないと脱出は出来ません」「っ。何ですって・・・!」


 受験生を守る事で必死だった教師は、そこで初めて遠くにある壊れたワープポータルを知ったのだった。


「大丈夫です。私も脱出、侵入出来た様にモンスターを倒しさえすれば、一方通行ではなくなります」「・・・分かりました。私は、子供達をこのまま守り続けます」「お願いします」


 すぐにお互いの役割を認識したユティと教師は迅速に対応にあたった。


 ・・・・・・


「これで皆さんも脱出できます。急いで・・・!」「分かりました。ありがとうユラウレム君」


 子供達を引き連れて全員が脱出するのを確認してから、ユティも脱出の為、ワープポータルへと向かった。


「(ここのモンスターはそれほどじゃなかった。じゃあ・・・やっぱり・・・)」


 細剣を鞘に納め、自分の手や魔力。戦闘から受ける感触を確かめるユティ。


「(とにかく、早く回らないと・・・)」


 そう思うと、頭の中で転送と念じて特殊空間を後にしたのだった。


 ・・・・・・


「くそっ!どうしてこの僕が・・・!」「早く倒しなさいよ・・・!」「そう言うんだったら、お前が何とかしろ!」「ケンカするな。今は目の前に意識を持て!」


 受験生の中で実力に自信があった子供が教師と共にモンスターを戦っているが、その成果は芳しくない。既に戦う気力の無くした子供達は怯える様にして教師や同じ受験生の後ろで見守るしかなかった。


「っ!危ない」「え?」


 前で戦っていた受験生の1人が、集中力が切れて、別の方角から来ていたモンスターを見落としてしまった。


「ぐぅ~・・・!!」


 教師が縦になって庇う。その教師が武装していた鎧がジュウジュウと煙を上げながら、巨大スライムによって溶かされて、大ケガを負っていく。


「あ・・・あ、オレ・・・」「何してる!どけっ!」


 慌てて、周りにいた受験生が魔法を放ち、巨大スライムを遠ざける。風に土を混ぜた魔法によって少し遠くへと離されたスライムだが特にダメージを受けていないのかピンピンしていた。


「先生・・・!」「だ・・・大丈夫だ・・・。誰か・・・回復系を・・・」「それなら私・・・が・・・」


 トサ、トサ・・・。


「どうした・・・!っ・・・。(これは・・・)」


 突然、次々に草原に倒れる受験生達。

 その時。教師も微かに感じた甘くも香しい香りに気付き、咄嗟に口と鼻を抑えたが負傷し反応が遅れてしまった。


「(くそ・・・最悪だ・・・)」


 終わらぬ戦闘と負傷で、たくさん息を吸わなければならない状況が最悪の結果を生んだ。


「(起きろっ!・・・寝るなっ!)」


 無理やり霞みそうになる目と、今にも倒れそうな体を動かそうとする。が、それを悠長に待ってくれるモンスターではない。


「っ!(ぐっ、待て!)」


 モンスターの1体が眠っている受験生に近づいて行く。

 そして・・・楽しそうに揺らしている花が大きく開かれ、受験生を飲み込もうとしていた。


「ぐ・・・!・・・がっ!」


 必死に大剣を地面に刺して立ち上がり、向かおうとしたがそれよりも先に後頭部を鈍器で殴り付けられ昏倒してしまう教師。


 誰も起きている者がいなくなった特殊空間で、花の形をしたモンスターがゆっくりと受験生を飲み込み始めた。


「流石に、それはダメだよ」「!」


 ナチュラルに誰かの声がしてすぐに振り返った花のモンスター。しかし、その瞬間には茎の部分からバッサリと切り捨てられてしまっていた。


「よっと、危ない」〔眠り薬系が蔓延していますね。私達には効果がありませんので、早く始末して負傷者達も含めて救出です〕「了・・・解っ!」


 ・・・・・・


 ガサガサガサガサ・・・。


 草木を掻き分け、深い森の中を一心不乱に走る2人の子供達。


「ちっ、まだまだ!」「焦っちゃダメ・・・!ぐっ、きゃあ!」「ロロナっ!」


 モンスターのタックルをまともに受けてしまった少女が10メートル以上も転がり、吹き飛ばされていく。


「このヤローっ!」「Aaaa・・・」


 ガラ空きだった横を上段から振り下ろされた剣で絶命する突進型のモンスター。少年は急いで少女の下へ。


「大丈夫か・・・」「う・・・うん。油断しない・・・で」


 何とか返事を返す少女だが、その顔色はとても悪い。しかし、ヨロヨロとした状態ながらも立ち上がろうとしていた。


「無理するな」


 少年は少女に肩を貸して、ゆっくりと座らせる。

 そして2人はゆっくりと前方・・・いや、周囲を見回す。


「・・・ごめんなさい」「何が?」「付いて行くとか言って」「はっ、今更だろ」「うん・・・でも・・・」


 少女が暗い表情を見せる。少年はその頭を優しく撫でて笑った。


「俺達はいつも一緒。そう言ったのはお前だろう?」「・・・バッツ」


 微かに涙を浮かべる少女を、明るい笑顔で答える少年。


 周りには誰もいない。教師達が脱出する間の時間稼ぎとして、独断で動いてしまい孤立状態だからだった。


 しかし、2人は気付いていなかった。

 いつか来ると思い、信じて動き回っていたがその教師や受験生もまた既に、モンスターに敗れてしまい捕食寸前だという事を・・・。


「・・・っ。ごめんねぇ・・・」


 耐えられなくなり涙を流す少女。その頭を優しく抱きしめて、剣をモンスターに向ける少年。


「(コレが俺達の最後だってのか。クソっ・・・せめてコイツだけでも)」


 必死にどうにかしようと考えるが囲っているモンスターの数も、自分の体力的にも現実的ではない事は分かっている少年。それでも諦めたくないと必死に剣とその目はモンスターに向かっていた。


 ジリジリと獲物を襲うタイミングを計っていたモンスター達。秒読みが開始されるのも、あと少しという時だった。


「よっと」


 軽い声のすぐ後、一瞬にしてモンスターの1体が消滅した。


「?・・・何だ?」「?」


 少年の声に、少女も顔を上げてモンスターの方を向いた。


「遅れてすみません。ワープポータルで倒れていた人達の周りのモンスターは倒しました。後はここだけですね」


 そう言って軽い口調でモンスターの前に降り立ち振り返ったのは自分達よりも幼い子供だった。


「・・・(あいつは・・・)」「・・・」


 2人の少年、少女は目の前にいる受験生の中でも一段と小さな少年・・・ジンを知っていた。



 それは読み書きの筆記試験の時・・・。たまたま入って来た彼を見つけた者達の中に、2人も含まれていたからだった。



 そんな事とは全く知らないジンは、とりあえずモンスターを倒そうと動く。


「「・・・」」


 そして、バッツとロロナの2人はそこで見た光景に、理解が及ばず呆然としてしまう。

 次々と倒されていくモンスター。先ほどまで苦戦して、ほとんど倒す所か負傷させることも出来なかった化け物達があっさりと葬られていく様を目撃したからだった。


 更にはそこに、ジンの姿がほとんど目に映らなかった事だった。

 理由は単純明快。ジンの速度に2人の目が追い付いていないからだった。


「・・・まあ、こんなもんか・・・」


 最後まで、軽い準備運動の様な気軽さで呟いたジンにただただ2人は唖然としてしまうのだった。


 ・・・・・・


「とりあえず。このまま抜け出そう。後は外で他の先生方が治療とかしてくれると思うから」「あ、ああ」「・・・ありがとう」


 戸惑いが隠し切れないバッツとロロナ。だが、ジンとしても今はとにかく、この空間を抜け出させることを優先している為に、それ以上何かを言う気は無い。

 2人も何となくその空気は分かっているようで、礼を言った後はすぐさま脱出するのだった。


「ふぅ~・・・これでラスト?」〔はい。私達の担当は終わりでしょう〕「担当って・・・そんなの決めてないけどね。・・・それにしても、ここの空間とか他もそうだったけど・・・。やけに広くないか?」〔人数と力量や性質等を合わせて鑑みているのでしょう。それに見合った地形として作り出す過程で広くなっていったのではないかと〕

 「は~・・・。俺達とはエライ違い・・・」〔あの空間も広かったのでしょうが。そもそも私達とユティと呼ばれる少女の2人のみ。力量を見合わせると言ってもあまりに広すぎては意味がないと判断したのでしょうね〕「そんなもんかぁ・・・」


 ジンはどこから吹いているのか分からない風を肌で感じつつワープポータルで自分達も脱出しようとしていた。


〔今回の襲撃。負傷者はいましたが死者は1人も出さずに済みました〕「って事は?」〔ワープポータルに取り残されているのは我々だけです〕「良かった・・・。って事は・・・」


 ホッと胸を撫でおろすジン。そして先ほどとは違うニュアンスでサポートに問いかけると・・・同意する様な声が返って来た。


〔はい。既に首謀者と思われる者の位置は大体、把握済みです。向かいますか?〕「もちろん。あまり目立ちたくはないが。流石にこのままはダメだ」〔了解です〕


 ・・・・・・


「良かった・・・!良かったよ~・・・!!」


 お互いが無事、脱出できたことを喜び合い、抱き着いたまま泣き出す少女達。少年達も思い思いに喜んだり、泣き出したりしながらも無事に生きて、学園に帰って来た事を喜んでいた。


「・・・帰って来たのか・・・」「・・・うん・・・!」「あ、おい・・・!」


 ロロナが少し勢いを付けて抱き着いた事で、支えきれなくなり倒れる様にして座り込んでしまったバッツ。


「すん・・・ごめん・・・」「泣くなって・・・。俺達はもう大丈夫なんだ」「うう~っ・・・。う゛ん・・・」「・・・」


 流石にそこまで悲しそうな顔をされると、バッツも黙ってロロナの頭を撫でで泣き止むまで受け入れ続けるしかなかった。空いた手で頭を掻いてやれやれと思いつつも、本心では自分達も無事に帰って来られた事にホッとしていた。


 そこへ、2人を見つけた教師が駆け寄って来た。


「君達、ケガは?」「あ、コイツがケガを」「では、こちらへ。無理しなくていい。動けないならこの場で先ずは回復を」「だ、だいじょうぶ・・・」


 そう言って、涙目だった顔を手でこすりゆっくりとバッツの支えを借りて起き上がるカルラ。

 しっかりと起き上がるまで見ていた教師は1つ頷いて、2人を誘導する。


「では、こっちへ。負傷者達と同じく治療室に向かおう」「はい・・・」「あの・・・」「?」


 歩き始めた時、突然バッツからの声に教師が足を止めて振り返る。


「俺達を助けてくれた子供は・・・」「子供?」「一番、背の低い・・・」「・・・ああっ」


 誰を指しているのか分かった教師は、笑顔になって遠くの方で話し合っている少女、ユティの方を振り向いた。


「彼女と一緒に入った子だね。彼女が出てきたのと同じように無事に出てきているはずだよ?」「あ、いやそうではなく・・・」「バッツ・・・」


 ジッとロロナがバッツの目を見た。


「あ、いや・・・その・・・。そう、無事ならいいです」「?、そうかい?」


 よく分かっていない教師だが、とりあえずは先にロロナの治療が優先だろうと別の治療部屋へと案内する事にしたのだった。


「(ボソ)忘れてた・・・」「(ボソ)気を付けて・・・」


 思わず舌を出して反省するバッツ。それを軽く注意するだけに留めるロロナ。


 これは、脱出する前にジンから軽く、秘密にしてほしいという口止めがあったからだった。


「(そりゃ、そうだよな。あの強さなら目立つか。俺だったらもっとアピールしたいけど・・・)」「(フルフル)」


 昔からの付き合いで何を考えているのか分かっているロロナは首を振る。バッツは黙って、それに従うことにした。



「あ、ジン君。お帰り・・・」


 受験生の安否確認と、今後の行動に付いての話し合いに参加していたユティ。

 丁度、きりの良い所で転送して帰って来たジンを見つけて駆け寄って来た。


「ありがとう。君のおかげで全員、無事に脱出したわ」「・・・」「ジン君?」「あそこか・・・」「え?」「すみません。何人か教師を・・・あちらの方へ連れて行ってくれませんか?」


 突然、明後日の方向を見た後、お願いするジンに困惑してしまうユティ。


「ど、どうしたの?突然・・・」「この騒ぎを起こした張本人らしき人がいますので」「っ!・・・確かなのね?」「・・・」「分かったわ。すぐに向かいましょう・・・先生!」「?」「どうしました?」


 ジンの真剣な顔つきに、ユティも喜びムードから一気に思考を切り替えて、教師を呼んだのだった。


 ・・・・・・


「(くそっ、くそっ・・・!話が違うじゃないか・・・!どうして、ポータルが暴走しない。モンスターが飛び出していく手筈だろう・・・)」


 ギリギリと悔しさで歯ぎしりをしながら、学園の廊下を急ぎ足で退出する男が1人いた。


「(やはり、邪魔したのは学園長か?いや、だがあいつは運営でいなくなるはず)だったら──」「何処へ行かれるのですか?・・・ボートゲス先生?」「っ!・・・ユラウレム生徒会長。(そうか・・・申し子か・・・!・・・こいつのせいで・・・!)」


 腹が煮え繰り返る思いをしながらも、顔は平静を装いつつ。先ほどの様な怒気を纏った足取りではなく、ゆっくり歩調でユラウレム・・・ユティの方へと歩いて行く教師ボートゲス。


「何やら、騒ぎがあったとかで心配したんですよ?」「それはそれは・・・。申し訳ありません。ボートゲス先生もいらっしゃったのならぜひお力をお借りしたかったのですが・・・」「その様子ですと、もう問題は・・・」「ええ。概ね(・・・・)解決いたしております」


 笑顔になっている目からうっすらと見えるその視線は、とても凍てついたモノだった。


「っ!」


 それを本能で察知したボートゲス。一瞬ビクッと跳ねてしまうが、必死にその心を落ち着かせ自制心を保たせる。


「おや?どうかされましたか?」「いや、ちょっと運動不足でね。たまに体が跳ねてしまったりするんだよ」


 脂汗で背中に張り付いてしまった服のベタつく気持ち悪い感触を味わいながらも、必死に笑顔で取り繕う。


「でしたら・・・少しお手伝いいたしましょうか?」「いやいや・・・それほどの──・・・っ!」


 ゆっくりとユティに向かって歩いていた体が突然の寒さに震えた。その瞬間、すぐに後方へと飛び退いた。


「(逃がさないよ)」「ぎゃあ!」


 後方へと大きく飛び退き、地面に着地する瞬間。何かに凄い勢いで足を払われてしまい激痛で思わず叫んでしまった。


「ぐっ・・・ううっ・・・。ぐああっ・・・あ、足が・・・」


 あまりの痛さに転げまわるボートゲス。ふくらはぎ辺りを手で添え、苦悶の表情をしていた。

 足が無くなってはいないが、あらぬ方向を向いていた。

 明らかに見えないナニかが一瞬にして自分の足を砕いたことを理解するボートゲス。


「あら?お怪我をされてますね。このままでは炎症を起こしてしまいます。いますぐ冷やして──」「い、いい、いや。そんな事しなくて、ぎゃあああああああ~・・・っ!!」


 突然、無数の針にでも刺された様な激痛が走る。それは痛みに思わず添えていた手ごと、足が凍り付いた事による激痛だった。

 張り付いた足と手はセットになってしまい、動く事が出来なくなったボートゲス。


「あ・・・あああ。・・・ああああああぁぁぁ・・・」


 横向きに転がるように倒れてしまい、床に付いてしまった頬などの顔が地面から離れない状態になってしまったボートゲス。

 痛み以上に恐怖が僅かに上回り声が震えていた。

 これはユティが発動している魔力によって周囲は急速に冷やされている結果である。


「・・・先生方」「(コク)」「(コク)・・・」


 ユティの合図で隠れていた教師達がボートゲスの傍へと歩いて行く。

 その歩調はまるで彼女の能力の効果を受けていない様子だった。


 これもまた、彼女の意思により対象物だけに有効化させているからこそ起きている現象だった。その対象である教師、ボートゲス以外には今は誰にも束縛させるような効果は発揮していない。

 だからこそ教師陣は気にせず、捕獲の為に彼へと歩み寄っていけるのだった。


「・・・っ」「間違いない・・・」「貴様・・・」


 教師陣はボートゲスのローブの袖をまくり、そこに魔力を流し込んだ。

 するとじんわりとボートゲスの床に付いていない頬に黒く何かが浮かび上がってきた。

 それは横に3本線のラインが引かれ、その上を跨ぐように横向きの目が描かれていた。


「デッドグレムゲン・・・」「狂信者か・・・」「とっくに滅びたはずじゃ・・・」「はっ。甘いんだよ・・・!世界はいつでも我々が見ている。神ではなく我々こそが・・・!」


 もう取り繕うつもりも無くなったボートゲスはその顔を歪ませて楽しそうに叫んでいた。


「古の産物が・・・今さら何を」「そんな呼び方をするんじゃねえ!俺達は世界中に同士がいる。世界が滅びるまで我々はどこにだっているんだ・・・!はははははっ!!この学園にだって・・・あと少しで──」「それが聞けて、安心しました。つまり・・・あなたが先兵だった、というワケですね?」


 ユティの発言に激昂し、足元を掬われ、ボロを出してしまったボートゲス。その顔から先ほどの愉悦の表情は消えていた。いや、寧ろ彼女の魔法の影響もあってか顔色がどんどんと悪くなっていく。


「あなたには色々と先生方が聞いてくださるでしょう。私の役目はここまでの様です。ありがとうございました」


 皮肉とも取れる様なゆっくりとした礼。その下げられた頭を血走る目で睨む様に見ているボートゲスだが、どうしようも無かった。


 ユティの魔法から解放されても、その時には教師陣による別の対策魔法で逃走も自殺も自爆も自己崩壊も出来ないように拘束されてしまっているのだった。


 数人の教師に捉えられ、どこかへと連行されていくボートゲス。その背中はとても丸くなって、先ほどまでの元気さが見る影もなかった。



「・・・ありがとう、ジン君。アナタのおかげでテロリストの潜伏を許さずに始末する事が出来たわ。後は先生方に何とかしてもらいましょう?」「・・・」


 ユティは自分達以外、誰もいなくなったのを確認。それからボートゲス達がいた場所の更に奥の廊下の影に隠れ潜んでいたジンへと話しかけた。

 ジンもゆっくりとその姿を現し彼女の下へと歩いて行く。


「さっき言ってたテロリストって・・・?」「・・・ああ、別にジン君が気にする事じゃ・・・」「・・・」「そうね・・・。アナタには助けてもらったもの・・・」


 ジンが見つめる視線にすぐに白旗を上げたユティがボートゲスの存在に付いてを説明する。


「彼等は・・・古の狂信者達なの。かつて、神に代わり、力と存在でもって世界を支配しようとしたテロリスト・・・。絵本で言う所も魔王みたいな者達ね」


 やれやれと分かり易く肩を落として首を振っているユティ。


「自分達の力は自分達が身に付けたモノ。神の支配ではないって事で、まあやりたい放題しようとしていた連中らしいわ。あのボートゲス先生もその一員なのでしょうね」「滅びたって事は生き残り・・・?」「でしょうね。無茶しすぎて、どこかで昔の王様達が倒していたのでしょう。だからほとんど耳にすることは無かったのだけど・・・」


 そう言ってユティは連れ去られてしまったボートゲスの方を悲しい表情で見る。


「(ボソ)歴史を繰り返したいのかしら・・・」「?」「あ、ううん。何でもない。とにかくこれで問題は解決。急だけど今日はもう試験は終了だから。アナタも帰りなさい?」


 ジンの表情に気付いたユティは笑顔に戻っていた。だからか、ジンには彼女が何を思っているのか分からなかった。


〔ジン、帰りましょう。私達も目的も終わりました〕「(・・・そうだな)」


 ユティの表情が気にならなくはないが、彼女の指示に従いジンも学園を出る事にしたのだった。


 頭を下げてから、駆け出し立ち去っていくジンの背中を微笑ましそうに見るユティ。


「(また逢いましょ・・・。今度は先輩、後輩として・・・)」


 ユティはその背中が見えなくなるまで、ジンずっと見つめていた。






 【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 21

 魔法値 17

 潜在値 16


 総合存在値 23


 スキル(魔法): 硬軟緩衝、棒術 0、マナ精緻

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