257 孤立無援・・・な感か・・・く?
ホローグメッツ学園。
開設されて10年かそこらの新学校。
一般市民が受ける学園として広く認知されて、まだ日も浅い。ここ、オーフェンツ・ヴァームでは珍しく、貴族学園に並ぶ勢いになり始めているほど功績を残し始めている有名校の1つらしい。
最もそれは入ってくる生徒数の多さ。その中から稀に見る才能の持ち主や、学園の中で能力が開花した生徒が世に貢献してきた実績による所が大きい。
しかし、結果的にその発想を利用し、各国でも貴族以外の市民が学園へと通わせる試みが広くなった。そうして知識という力を身に付ける事が国としての利益になると考えられたからであった。
既得権益。その力は強いが時代の変化に対応できるほどは盤石では無かったようだった。
現在オーフェンツ・ヴァームでは・・・貴族としての地位は未だに健在だが、実力や功績を残した平民は同等、あるいはそれ以上の待遇でもてなされることも珍しくない。
結果・・・昔の力に溺れた貴族の中から害ある者と判断された一族は、国の王達によって、剥奪されてしまう事があるという話もまた自然な事だった。
ここ2,30年で、地位を失った貴族達の数は世界中で半数以上もいるという話をジンはミゲイラから聞いていた。
「こちら初等部の試験会場の入り口になります。空いている席に座って待っていてくださ~い」
そして、平民達・・・市民にもそれなりの発言力が付き始めた頃に。このホローグメッツ学園は、新たな可能性を広げるための学園として開設されたらしい。
ジンから見れば、大きな扉になるだろう両開きの手前で、学園の教師であろう男が受験生達に向けて声を掛けていた。
〔・・・こうして見ると・・・。確かに少々目立ちますね~・・・〕「(種族的な問題というのはどうなんだろう?)」〔幼いドワーフと言ってもそれでもジンよりは少し大きいですね。・・・やはり年齢的に特例だったのでしょうね〕「(・・・大丈夫か~?)」〔その辺りは当然、ミゲイラも理解しているでしょう。だから融通を利かした便宜も図ってくれている事でしょう。問題があるとすれば・・・〕「(・・・俺か・・・)」
胃がキリキリする様な思いだったジン。
せっかくのミゲイラの計らいもジンの実力次第であっさりと御破算・・・なんて事になるのでは?と思うと気が気ではなかった。
〔まあ、その辺りも最悪は想定しているでしょう。グルタモンも、いつまでも居て構わないと言っていた様にそこまで心配する事はないでしょう〕「(・・・だといいんだけど・・・)」〔いつになくネガティブ思考ですね〕「(やっぱり受験には慣れないよ・・・。いつまでも・・・)」〔それは数の問題です。これからの人生・・・受かるも落ちるの星の数ほど経験していくモノですよ。ジンはまだまだ幼い。達観するには早すぎます〕「・・・」
ジンはキョロキョロと周囲を少し探るように見回しながら、空いている席・・・。比較的、奥の方の端の席でひっそりと隠れる様に座った。
先に来ていた受験生達からジンの存在に気付いた者達は少ない。大抵は試験の事で頭がいっぱいだったり、自分に集中している者達ばかりだ。
それに、気付いた者達の中からジンの存在を不思議に思う受験生は更に少ない。
疑問に感じるのは見た目。受験としての最低限の年齢に達しているのかどうかと思うくらい。
よって、ジン(純)が思う様な絡んでくるようなイベントも特に無く。滞りなく試験開始の時間までその場で待機するのだった。
・・・・・・
〔問題ありませんでしたね〕「(まあ、これくらいは・・・。この子の肉体に残っていた記憶もあるかもしれないね)」
試験は、以前ベラール達に教えてもらったように簡単な読み書きだった。私生活で慣れ親しんだ者達は問題ない様子。
しかし、この手の授業を教会で教わるのを避けてしまったりしていた子供達は別。唸り声の様な呻き声が教室内からチラホラと聞こえてきた。
それを聞いた試験会場にいる教師達は微かな笑いと苦笑の表情を浮かべている。毎年恒例の様子らしい。特に注意することなく、寧ろ``焦らないでじっくりとやってみて``という応援する様な優しい声が聞こえてきた。
「(終わったけど・・・。これでいいのかな?)」〔まだ時間がありますが・・・。退出は自由にとは言われてませんからね。この場で時間になるまで待機かと〕「(なかなか長いな)」〔ですね~〕
試験開始から数分。一応の2重チェックも終えたジン達は紙を裏返しにして、待つことにしかなかった。
「(んー・・・。こういう時、周囲を向けないのがな~・・・)」〔カンニング扱いになりそうですからね~〕「(仕方ない・・・)」
ジンは心の中で諦めると意識を切り替え、体内のマナを練り、操る練習をすることにした。
〔お?大分上手くなってきましたね~。この数日でかなりスムーズになって来ましたよ?〕「(そりゃあ、気合いを入れるとか言ってほとんどを奪うヒトがいたからね~)」〔酷いヒトですね~。加減というモノをどう考えているのか〕「・・・」
いけしゃあしゃあと平然とするサポートにジンは無言の圧を掛けるが全く効果は無かった。
諦めたジンは、再び目を閉じてマナの練成に勤しむことにしたのだった。
一方、そんな事など分からない監視していた教師陣は・・・。
「(・・・あの子、諦めちゃったのかしら?)」「・・・(やれやれ、やはりあのくらいの子では難しかったか?)」
心配したり、呆れられたりしていたのだった。
・・・・・・
・・・
「それでは次は実技になります。20分ほどの休憩後、実技用の体育場にて集合してください」
試験問題の紙を集めた監督の教師が教室全体に伝わるように説明すると部屋を出て行く。退出した教師に続き、他の教師陣も教室を出て行くのだった。
「・・・っはぁ~・・・」「もう~・・・だめだ~・・・」「うぅぅっ・・・。頭が・・・」「これくらいなら問題ないわね」「本当に名前とかの読み書きとかとは思わなかった」
苦しんだ受験生と、予想以上に簡単と思ってしまった受験生で教室の中がワッと沸いた。
「だから言ったのに~」「よく頑張った方じゃないか?お前にしては・・・」
と、中には一緒に来ていたのだろう受験生が友人達を慰めたりしている姿もチラホラとあった。
「(あ~・・・こういうのはどこも一緒か~・・・)」〔そう言えば純の中間試験の時もクラスメイトが騒いでいましたね~〕「(まあ・・・試験を受ける者が通る恒例行事みたいなモンだからねー・・・)」
こういう所で不思議とホッとするジン。どこの世界でも同じなんだと、しみじみと感じられる瞬間だった。やはり共通の理解があると、どこか仲間意識が働くものだった。
しかし、友達同士でのこういった話し合いが出来ないジンはひっそりと教室を後にする。
「(まあ、俺は1人だけど・・・)」〔私がいるではありませんか〕「(お前はある意味、俺だろ?)」
その8才とは思えない哀愁に思わずサポートがすぐに反応を返すが軽く受け流してしまうジンだった。
・・・・・・
「おはようございます、メルギス学園長」「?・・・ああっ、ユティ君。ありがとう休日にわざわざ来てくれて」「いえ、一応その様に頼まれていましたので・・・」
ホローグメッツ学園、その門の入り口でたまたまばったりと出くわした2人。
メルギスと呼ばれた男はベージュの猫っ毛のある髪をハットの様な形をした帽子で抑え、ダボついた大きめのローブを着ていた。一見、怪しい感じにも見えるが、その男の顔と茶色い瞳はどちらかと言うと紳士然とした雰囲気を感じさせる若い好青年に見える。
ユティという少女は、腰に差した細剣を持つ、緑の瞳に青いゆるふわロングな髪をした学生だった。全体的にお嬢様を思わせる様な柔らかな雰囲気を纏う少女だが、その物腰はしっかりとしていた。
「いや、それでも申し訳ない。これから私は学会や運営の話し合いで少し席を外せなくてね・・・」「高等部は、次の大会に向けての会場の下見と競技の話し合いですし・・・。私が来るのが当然かと」「そう言ってくれると助かるよ」
そう言って少しダボっとした大きめのローブの裾を持って、学園の外へと向かうメルギス。
「ああっ、それと・・・」「はい?」
思い出した男はユティと呼ばれた少女の傍へ・・・。
「以前、君に伝えていた・・・」「ああ。確かご友人の紹介で受験する事になったという・・・?」「どうやら本当に来たみたいだね。全くミゲイラも無茶をする・・・」
少し昔の友を思い出したのか、メルギスの顔には苦い表情と共に愚痴にも聞こえそうな言葉が呟かれる。
「・・・本当・・・なのですか?その子・・・まだ既定の年齢にも・・・」「(コクリ)その様だね。ただ・・・彼がそれでも推したって事は、何かしらがあるのは間違いないよ」「へ~・・・」
少し可愛らしく、瞳を大きく開かれて驚く少女。しかし、すぐに意識が切り替わり表情は笑っているが、その目は真剣なモノになった。
「(ボソ)て事は・・・?」「(ボソ)ああ。それなりの力があると考えてもいい。・・・だが、私としては、まだまだ幼い子供だからこそ力の使い方が甘く、不安定なんじゃないかと思ってね」「(ボソ)だから監視しろと?・・・私は会ってもいませんが・・・」
姿が分からないユティに対してメルギス学園長は少し笑って答えた。
「(ボソ)その辺りは問題ないらしい。教師達の話を盗み聞きした感じだと見た目でわかるらしい。どこかの貴族が経験を積ませる為に試験を受けさせたと話していたよ」「(ボソ)この学園は、その手の事を採用していましたか?」
耳を近づけてたメルギスは体を戻し、普通に立った。
「いいや。今回は特例だよ。本来は教会などで多少の読み書きは習わせる様に世界中で行わせているからね。実技にしたって魔力のコントロールの基礎を教えてからじゃないと、小さい子は危なっかしい」「力の使い方が不安定ですからね」「本当に。ミゲイラに借りがあるから採用したけど・・・大丈夫かどうか私も不安になるよ」
この世界に生きる者達にとっては、もはや当たり前になりつつある流れなのだろう。
幼い子供が魔法を使って失敗。ちょっとした騒ぎになる光景を何度も見てきたと言わんばかりの表情が見て取れた。
「私も早く会議は終わらせて戻ってくるから──」「(コクリ)ええ。それまでの間の見張り・・・ですね」「(コクリ)ああ。それと・・・まあ、ないと思うが受験生同士の問題等も君の方で仲裁に入って欲しい。場合によっては力を使っても構わない」「分かりました。それでは私は」「よろしく頼む」
町へと急いで去って行くメルギスに、ゆっくりと頭を下げてユティは見送るとすぐに踵を返して学園の中へと入って行った。
・・・・・・
「ここからは実技試験になります。教師陣が1グループにつき1人付いて行きますので、数人ほど固まってください。なお、能力によっての向き不向きは・・・コチラの方で判断されるので安心してください。また、直接の活躍が出来なかったからと言って評価対象に減点がなされるわけではありませんので自由にグループを組んでください」
代表監督の教師の1人が試験内容を説明。その途中で、傍にあった高さ2メートル位の透明な溶液で満たされた細長いビーカーに触れる。
「(あれって)」〔ミゲイラの屋敷で見た鑑定表みたいですね〕
ジンは以前、屋敷の地下の訓練場で見たこの世界独自のステータスボードを思い出した。
「知っている者も、中にはいると思うが改めて説明すると・・・これは鑑定表と訓練用ワープポータルだ。鑑定と念じれば自身の能力値が・・・。転送と念じれば・・・」「「「わっ・・・!」」」
教師が軽く名前と総合存在値を表示させる所まで見せた後、続けて転送を念じた。すると微かな水色の残滓だけを残して、目の前から忽然と姿が消えたのだった。
あまりの事に見ていた子供達が驚く。しかし・・・。
「っと、この様にこのポータルが専用の訓練用空間へと転送してくれるってわけだ。もう一度、転送と念じれば戻って来られるから心配しなくても大丈夫だ」
不思議そうにする子供達がほとんどの中を、特に気にした様子も無く説明を続ける監督教師。
「ふーん・・・ここも同じか」「まあ、そう言うもんよね」「初めて見た子にとっちゃあ驚くのも仕方ないけど・・・」
と、経験済みの子供達は少しだけ得意げになって、驚く子供達を眺めていた。
「(へ~・・・以前、システンビオーネで経験したダンジョンみたいだね)」〔地球でも影の世界の様に別の場所に行きましたからね。ここは見慣れたモノでしょう〕「(いやいや。それでも少し違うだけでもちょっと面白いだろう)」〔確かに・・・〕
そんな中、見た目も年齢も一番幼いジンは、サポートと違う意味で興味を示していた。それは冒険心というモノが擽られるような刺激があったからだ。
〔しかし・・・。確かに、転送はしていましたが・・・。その転送先は何もない空間の様に感じられましたが、これはいったいどういう・・・?〕
それについてサポートがジンと話し合う前に教師の方から先に答えが帰って来た。
「この溶液は魔力を凝縮させた水でな。マナを物質的に留めているんだ。まあ、言わば媒体だな。コレを使って、こことは違う特殊な空間を新たに作り、その中に私達を転送してくれてるんだ。
今はまだ何もない真っ白な空間だが、入ってくる人数や、それぞれの個性によって空間の地形、規模、出てくるモンスター等が変化するよう組み込まれている」
半分ほどの子供が疑問に思い首を傾げる。しかし中にはその機能にジン同様、興味を示し、まじまじとビーカーをジッと見ている子供もいた。
色々と教師側は説明をしたいが、子供達が付いて来れるとは考えていないのか、とりあえず注意点だけを述べる様に1つ咳ばらいをして説明を続けた。
「ここで気を付けて欲しいのが、訓練用だからと言ってふざけない事。中に出てくるモンスターは本物と同じように私達を攻撃する。下手をすれば大怪我をしてしまうから、くれぐれもそこは注意しておいてくれ」「「「・・・」」」
子供達も流石に真面目な話だと分かっている為、聞き流すような事はしない。それをするのは経験がある者・・・つまり、ジン同様に、子供達の集団の少し外から見ていた受験生の子供達だけだった。
しかし、中には教師の説明で不安になる子も出てくる。
そこへ教師達は受験生に安心させるように補足説明をしてくれた。
「安心してくれ。一応そうならない様に私達が1人1人それぞれのグループに付いて行き、危ないと感じた時は加勢に入り、避難する手筈となっている。君達は存分に自分の実力を最大限出せるように努力してくれればいい」
肩に手を乗せられた子供は教師の余裕な表情に安心したのか頷いて、監督教師の方へと振り返る。
他の教師からの合図に説明役の教師も頷き返し、最後の締めに入った。
「それじゃあ、ここからは各自、出来れば10人前後で好きなパーティーを組んでくれ。もし集まらなかったり、余った場合は私達の方で勝手に入れさせてもらうから、そのつもりでいてくれ」「(あ、やばい・・・)」〔あー・・・〕
この流れには心当たりがありまくりのジンとサポート。
「どうする?」「俺達は既に組んでるけど・・・入る?」「待って。勝手にあたしを入れないでよ」「へへへ・・・これで勝負が出来るな」「今日こそ決着を付けてやるよ」
あーだこーだと集団になっていた子供達が少しずつ、流れる様に分かれ始めていく。組むことが決まっていた者達はすぐに別のグループに入るか、誰かを引き入れて次々と1つのパーティーを作り上げていく。
どうしようとオロオロしていた子供も誰かに拾われるか、進んで入り、また1つのチームが出来上がっていく。
「やれやれ・・・仕方ない」「ここは私達も組みましょう」「まあ、安心してパーティーに入り給え」
力に自信がある者もそれぞれのパーティーを作ったり、組んだりと決まり出していく。
「あー・・・」
そんな中、1人ポツンと取り残されている子供を見つけた教師陣がどうしようかをお互いの顔を見合わせる。
チラッと目配せする気遣いに心を抉られる気持ちになるジン。
「・・・え~と・・・じゃあ、君は──」「その子は、私と一緒に組んでも良いでしょうか?」「「「?」」」
教師陣が声がした方向を一斉に振り向く。それはジンも受験生の子供達も同様だった。
「・・・今日は休みのはずだが・・・どうかしたのかい?ユラウレム君」「はい。少しだけ学園長のほうから少しだけ、助手をしてくれないかと頼まれまして・・・」
教師陣に柔らかな笑顔で答える青い髪の少女。しかし、その緑の目はジンをしっかりと見て離さない。まるで何かを探るように、観察していた。
「・・・学園長は」「先ほど運営の方へ向かわれました」「そうか・・・」
教師の質問に簡潔に答えたユラウレム。担当の教師は口元に手を当てて何かを考えた後、1つ頷いて答えた。
「よし。それではその受験生は君に任せよう」「ありがとうございます。よろしくね?」「あ、はい・・・」
代表の決定という事で他の教師陣も特に異論がないまま話が進む。
いきなりの展開に少し置いてきぼりをくらうジン。だが振り返った少女が手を差し出してきたので、握手を交わし、とりあえず返事を返す事にした。
「では、改めて実技試験を開始する。いくつかのワープポータルは設置済みだ。それぞれ教師に指示に従い付いて行くように」
ジン1人に対し少女1人でいいのかという疑問はあるが、それはどうやら受験生達だけの様で、教師の方は特に気にしていない様子だった。
体育館は、代表の教師の合図で、一部の床がスライドしてその下からワープポータルのビーカーが次々と浮上してきた。
「さ、皆さ~ん、こちらです~」
そう言って教師達が先導していく。それに従って受験生達のパーティーはいくつも出現してきたワープポータルの前へと移動し始めたのだった。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 21
魔法値 17
潜在値 16
総合存在値 23
スキル(魔法): 硬軟緩衝、棒術 0、マナ精緻




