25 加護と平和を願って
また夢を見た。
知っているような、それでいて知らないようなそんな夢。
夢とは人の記憶の中での精神状態によって見る夢が変わる。
だからといって、深い意味があることもなく、どこまで行ってもその人の想像できる範疇のものしか見ないとも言われている。
この夢は何なんだろう?
「―――――ありがとう」
そう言って、以前に見た女性、しかし、今回は立っている、こちらに背を向けて。
前回は上半身から鼻辺りまでしか見えなかった。
今回は距離が遠いが目の部分以外はしっかり見えた。
修道服を着ている。
(・・・クレアさん!)
心の中でそう思っていると、立っていた女性は振り返り微笑んだ、光で顔がはっきり見えない。
(・・・クレアさん?)
クレアに見えるけど、そんな感じじゃなさそうな雰囲気を前に立っている女性から感じた。
(あなたは・・・誰?)
「クリスー?起きてー」
ゆっくりと目を覚ました、目の前にこちらを覗き込むラーナの顔があった。
「あ!サーニャ、クリス起きたー」
ラーナはクリスから離れ、昨日食事をとった場所に戻った。
そこでは、食事の用意をしてるサーニャの姿があった。
「クリス君、おはよう。
起きられますか?
そろそろ食事の準備ができますので顔を洗ってきてください」
サーニャはそう言って、小さな鍋をお玉でかき回していた。
クリスから借りた食器類ともらった食材と香辛料でスープを作っていた。
ラーナはまだかまだかと楽しそうに待っていた。
クリスは起き上がり、近くの水場で顔を洗い、サーニャ達の食事場に向かった。
タイミングよく、軽く周辺を見張りにでも向かったダルトが戻ってきた。
そして、昨日のお肉と少し固めのパンにサラダを挟んだサンドイッチにサーニャが作ったスープをいただき、満足のいく朝食になった。
「ダルトどうだった?」
「うむ。
やはりおかしい、ココにはモンスターは一匹も来てはいなかった。
おそらくいないのだろう」
「でも、昨日はいたよ?」
「はい、それが気になります。
・・・姫様、魔族の印は近いのですか?」
「うん!
なんかすぐそこだと思う」
「・・・ラーナがそう言うんだから。
本当に近いんでしょう」
ラーナ達は魔族の印を探しにここまで来たそうだ。
クリスはただの観光、物見遊山である。
ちょっとした興味出来たつもりが、すごいタイミングに出くわしてしまった。
「・・・迷惑じゃなければ、俺もラーナ達について行っていいかな?」
「?・・・いいけど」
「クリスついてきてくれるの!」
サーニャは戸惑い、ラーナは喜んだ。
クリスは夢の中で言われたことに引っ掛かりを覚え、ラーナ達についていこうと思っていた。
(―――お願い―――――ついて行って――――――――気を付けて――――)
そんなことを断片的に聞こえ言われたこと。
クリスの中の直感ともいえるところが信じたほうがいいと感じた。
黙って聞いていたダルトも。
「クリスなら構わない。
ライウルフを倒せるということはそれなりの力があるということだろう。
戦力としてあてにさせてもらうが構わないか?」
「はい、よろしくお願いします」
ダルトは武器のチェックをして立ち上がり、出発の準備を終える。
ダルトの肩、足、鎧の隙間からの出血に気づいたクリスは昨日、食事の前に自分の持っていた回復薬のポーションを半分ほどダルトに渡していた。
昨日の段階では、ある程度は治っていたが、動きにぎこちなさがあるように見えた。
どうやら今日はポーションのおかげで傷もだいぶ回復し動きが戻っているのだろう、クリスが判る範囲ではぎこちなさが取れていた。
クリス達も出発の準備に移り始めた。
「ラーナ?
魔族の印って何?」
「わかんない」
「え?」
あっさりと目的のものが何なのかわかるのかと思いきや、どうやらそうじゃなかったようだ。
「・・・私たちも何かは解らないの」
「なんでも、王家・・この場合は姫様にしかわからないものらしい」
「?そんな解らないもののためにここまで?」
「え、ええ」
「そうだ」
クリスは一瞬固まった。
そんな不確かでわからないもののためにわざわざ来るのかと。
(・・・いや、考え方を変えると、よっぽど必要なんだろう。
でもだったら、もっと大人数で来ないか?
ラーナは王族だとしたら、普通はもっと強い護衛を何人も)
クリスの考え込んで黙ってしまう姿を見て、サーニャが弁解した。
「クリス君の言うことは分かるんだけど、私達にも理由があってこの人数でしかこれなかったの」
クリスの意図を理解したサーニャが答えた。
「・・・そもそも、ここまではもっと安全にお連れできると踏んでいたんだ。
しかし、まさかそれの読んで先に回り込んで邪魔するものが現れるとは思わなかった」
「魔族の印を手に入れると問題があるんですか」
「いや、我々の国は特に、むしろ見つけて持って帰ってほしいと王から頼まれた」
「・・・王からの要請なのにこんな小さなラーナ達を?」
「あー!クリスに小さいなんて言われたくない」
クリスはラーナとサーニャを見て聞いた。
するとラーナはふくれっ面になって言い返した。
幼い顔だからとても可愛らしかった。
「我々の事情をクリスは知らないからな。
それも仕方あるまい。
我々魔族にも他の種族のように国があり領地がある。
ラーナ姫様の国は戦争を望まず、できるだけ他国とも友好に平和な国であり続けようと努めておられるが、なかにはそれをよく思わない者のいてな。
戦争を望むものはどこの国にもいる。
その者らの力が増している国からに嫌がらせであろう。
我らの中にその考えに賛同する者が現れ始めておる。
そこで、もし王が権力のみで圧政すれば、他の民達にまで恐怖を植え付け、今までの平和は失ってしまいかねない」
「だからこそ、私たちはラーナと一緒に魔族の印を手に入れて、王としての信頼と安心感を国の人々に与えるために魔族の印を探しに来たの」
「・・・・魔族の印にそんな力が?」
「うん!すっごい力なんだって」
「へ~」
安心させる力ってなんだ?
「・・・クリス、ホントはね?私、王家じゃないの」
「・・・?」
「・・・私たちの国は、確かに国ではあるのですが、王家としての加護、シンボルを持っていないのです」
「?シンボル?加護?
加護って称号ですか?
神を崇めて・・・いただくってもの」
「そうなの。
それなんだけど私たちの国は昔に立ってから今まで大きな争いは避けてこれたんだけど」
「・・・シンボルがないといけないんだって」
少しラーナが暗い顔になった。
ダルトが説明をサーニャから引き継ぐ。
「魔族にも神から祝福され加護とシンボルをもらっている国が、この長い年月の間に増えてきてな。
その流れがどんどん進んでいき、加護、シンボルを持てぬものは他の国に対しての発言力が弱くなり軽視されるようになってきた。
その結果、別の加護を持つ国から難癖や強制的な協力をさせようとする国が出始めてきた。
まだ我々の国は古い歴史であるためにそこまで発言力は失っていないがこのままでは・・・」
「・・・それを解決する魔族の印・・・ね」
「そういうことだ」
クリスはサーニャの説明で必死になる理由に納得した。
国を守るために行動だった。
「だから、現在、王や家臣、その国の貴族たちが時間を稼いでいる間に一刻も早く探すためにこの人数でここに来るしかなかった」
「これ以上増えると怪しまれるから。
それに、王家の中で顔が一部の関係者しか知らないラーナならここまで連れてこれると判断した王様が私とダルトをラーナの付き添いに指名したの」
「・・・なるほど」
クリスは今後のラーナ達の国を大きく左右場面に出くわしてしまったようだ。
``とんでもないことに夢でお願いされた``とクリスは頭を抱えたくなった。
話をしながら、玉座、祭壇の部屋があった奥の通路を進み続けることしばらく。
途中で休憩と昼食を済ませて、再び通路を奥に進む。
時折、右に左に、上ったり下ったりとラーナの感知する方角に従い突き進んだ。
どうやら、王家の血としての波動か何かをどんどんと強くは感じているらしい。
いつの間にか、通路から、洞窟に代わり舗装された場所から自然な硬いでこぼこした地面の形に代わっていた。
ここもかすかにマナで明かりがあってくらいが進むことに問題はなかった。
さらに進むこと数十分。
大きな水の流れが聞こえてきた。
「・・・!すぐそこから感じる!」
ラーナは走り出した。
「ラーナ!危ないから走っちゃダメ」
サーニャは急いでラーナを追いかける。
クリスもダルトも続き、走った。
ラーナは大きな石の塊の前で止まっていた。
サーニャもラーナの隣まで行く。
クリスとダルトは歩いて通路から抜け、大きな空洞になった場所を見渡した。
とても広く大きな空洞、奥の左斜めから下にかけて裂けた大穴が空き、そこから光が部屋を照らしていた。
光は輝いて空間全体を優しく照らす、外の灯りは月明りであり、この場所にたどり着いたのは夜だった。
水の流れる音はこの場所が高いために自然落下で大量の水が落ちている滝の音だった。
ザッー―――――――――――――――――――――――――。
大瀑布こういうことなのかな?
とクリスはこの時の滝の大きさに圧倒されながら見た。
流れる水は遥か下に落ち、地面は暗くて全く見えなかった。
「何十メートルあるんだ?これ?」
あまりに凄すぎてクリスはすぐに底が見えない谷になった場所を覗き込む止め遠ざかった。
その谷から先にだんだんと細くなる自然にできた通り道が橋代わりに一つだけラーナ達が見る大きな岩の右斜め奥ありその奥からうっすらと光が見える。
自然にできた岩の橋の下は底が見えない滝。
その橋の向こうまでの距離は最低でも50メートルはあるんじゃないだろうか。
何の度胸試しだよ。
クリスは心の中でツッコんでしまう。
そんなことを考えている間にクリス以外の三人が大きな岩の前に着いて見上げていた。
高さ20メートル、横幅10-メートル、奥行き5メートくくらいはありそうな岩だった。
その周りに草花が咲いていた。
正確にはその岩の周りだけが咲いていた。
それ以外特に特徴がない岩。
しかし、ラーナはそれをただ見つめ続けていた。
「あなたはだーれ?」
「ラーナ?」
しゃべりだしたと思うとラーナは岩に向かって話しかけた。
サーニャはラーナを見るが、ラーナは掛け合わない。
「うん!私はラーナ!。
あなたはここで何してるの?」
「姫様」
少し困惑しながらもダルトもラーナに声をかけるがラーナは聞いていない。
「うん、お願い。
・・・助けてほしいの。
・・・・お願い手伝って・・・」
そんな会話をラーナは誰かをし、お願いをした時、急に大きな風が岩から舞った。
「「「!・・っく!」」」
クリス、サーニャ、ダルトが目を瞑る中、ラーナはその風を全身に受けながら、何かを祈るポーズを取った。
そして、風が通り過ぎ、目を開けた時、クリス達の前に視認できるくらいマナを体の周りにまで迸らせ、頭上に、白い光と赤い光に縁を黒で描かれる龍と天使が背中向きで羽を交差し魔法陣で囲まれた紋章が浮かび上がった。
少しすると紋章は消え、ラーナから漏れたマナも消えていった。
「ラーナ、大丈夫?」
心配になってサーニャがラーナをペタペタ体を触り異常がないか聞く。
「うん!
大丈夫だよ。
それに、力を貸してくれた」
「誰に?」
「・・・あれ?さっきまでいたのに」
ラーナはキョロキョロしている。
「姫様、ココには我々以外おりません」
「え~?本当だよ~。
さっきここにいたんだもん」
ラーナは小さな頬めいいっぱい膨らませ抗議する。
「・・・それで、ラーナ?
力を貸してくれたって?」
クリスはサーニャ達に代わり聞きたいことを聞いた。
「なんかね、加護はまだ時間が掛かるから、ラーナを主人に仮契約?をしてくれるんだって。
・・・サーニャ、これでもうラーナ達の国は加護の元に守られるんだって。
だから安心してって言ってた」
「ラーナ、だからそれは誰に言われたの?」
「えっとね・・・?
あっ、名前聞いてなかった」
どうやらいきなりだったので名前を聞きそびれたようだ。
「・・・あの?
これが魔族の印・・・さっきラーナが見せたものが加護やシンボルマークなんでしょうか?」
「・・・わからないの」
「・・・私もだ。
シンボルマークがあるとは聞いているが実際には見たことがない。
だから、姫様が授かったのが本物なのかどうかわからない」
(う~ん、どうしよう・・・)
クリスも悩んでいた。
これがラーナ達の探していたものかが解らなかったからだ。
「(いや待てよ。
発想の転換か?)
ラーナ、ここに来るまでに感じた魔族の印。
まだ感じているか?」
「ううん、もう何も感じないよ?」
「・・・と、言うことは」
そう言ってクリスは、ダルトとサーニャに振り返った。
クリスの意図を理解した二人は頷いた。
「・・・うん。
たぶんクリス君の考えた通りだと思う」
「私もそう思う。
姫様がここまでの道を辿ってきたのなら、まず間違いあるまい。
・・・・そうか、あれがおそらく・・・シンボルマーク」
2人は何か目的達成までの長かった道のりに感慨深いものがあったのか、徐々に顔を綻ばせている。
3人の魔族の印探しの旅はこれで達成できたのだろう。
そんな風に喜んでいた時、かすかな話声がクリス達が入ってきた通路の方から聞こえてきた。
そして、クリスはマナから感じるものに少し不快気なものを感知した。
【クリス】3才
レベル 30
HP 305 MP 278
STR 116
VIT 103
INT 111
RES 98
DEX 145
AGI 124
LUK 87
『身体強化:レベル1』『マナ:レベル1』『マナコントロール:レベル1』




