255 ついでの闇討ち御免。
「──とまあ。学園の事はざっとそんなもんだろ。・・・そう言えばお前、生活はどうするつもりなんだ?」「ああ、それは・・・ミゲイラさんが友人の宿を使いなさいって。支払いは私がしておくって」「は~・・・。叔父さんってホント顔が広いっつうか・・・」「(コクリ)うん。領主になる前に冒険してた頃の繋がりがあるんだろうね」
腕を組んで感心するベラールと納得するガジェットは、改めてミゲイラの凄さを実感していた。
これは普段、どこか飄々とした印象もあるからだろう。2人は父親の仕事の手伝いで色々な人と面会している。その中では一癖も二癖もある人物とも出会っているはず。
しかし、そんな中でも親戚であるミゲイラの人物像が・・・時折、掴めていないのだろう。2人の表情からはそんな印象を窺えたのだった。
「(領主ってやっぱ顔が広いんだな~)」〔長命ってのもありそうですね。エルフは人間よりは長く生きそうですし。生きていく中で横との繋がりが広くなっていったのでしょう。ある意味、顔パスできるのも年の功って言っては失礼ですが・・・。生きて得た経験に差がありますね〕
ジンは納得する様にベラール達には見えない小ささで頷いていた。
「だったら大丈夫だろ。叔父さんが信頼してるんなら問題ない。お前は、ゆっくりと学園生活を満喫すればいいさ」「僕達は付き添いとしてリエナ達に付くけどね」
ガジェットの言葉で思い出したジン。
「そういえば、従者って話ですけど・・・。1人の主人に付き1人って事ですか?」「ん?ああ、あっ。あ~・・・そうか~・・・」
ベラールは頭をポリポリと掻いてガジェットの方へと振り返る。
「ガジェ兄はどちらに付くつもりなんだ?リエナか・・・?それともパミル?」「ん~・・・正直言うと僕はリエナの方に付いておこうかなって思ってる」「理由は?」「お前達・・・なんだかんだで親戚同士って事もあって言い争いを頻繁に起こしそうだから」「・・・ああー・・・」「何だよ、ああーって」
ベラールがすかさずジンの声に反応を返す。
「ほら言ったろ?そういう風にすぐにリエナにも返すだろお前。ジン君ですらすぐに分かってしまう行動を取る2人を組ませると学園内では悪目立ちしそうでな。だからだ」「ああー」「だから、ああーってなんだよっ」
色々と納得のいかないベラールを置いて、ガジェットは話をまとめていく。
「とりあえず、2人が常に一緒にいるわけじゃない。その場合を考えてリエナには僕が。パミルにはベラールが付く様に分かったね」「・・・了解」
渋々といった感じのベラール。付く対象が問題ではなく、セットにされて問題児扱いを受けている事が納得できない様子だった。
しかし、それに関してガジェットは「普段の行い」と言って切り捨てるのだった。
そうこうしている内にリエナ、パミルと2人の護衛を務めていた女性騎士達がジン達の下へと戻ってきた事で、話はお開きとなった。
・・・・・・
「(・・・ん?・・・はぁ・・・またか)」
サポートからの修行という事で、ジンは現在マナをどこかへと奪われ、ほとんど失っている状態でいる。そのため、上手くマナを練られるようにしないと大変苦しい状態だったりする。
この世界で生きる者達なら誰もが持っているマナの抵抗力を奪われている状況だからだ。
ジンは必死にマナを練り。細く、鋭く・・・されど密度を高めて圧縮させる。そうして濃度の濃いマナを身体に循環させるという練習方法を強制的にやらされていた。
そうしないと倒れてしまうからだ。
結果、一度寝るとほとんど気を失う様にぐっすりと熟睡してしまう。これは本当に気絶なんじゃないかとジンは思うが、サポートは``そんなことはない``と断言してきっぱりと否定してくるため、それ以上深く聞くことはしなかった。
〔今回も起こそうかと思いましたが・・・。2人にとっては最後の日でもありますし。このままでもよいかと・・・しかし・・・〕「(分かってる)」
ジンは馬車のソファーを横へと倒して、足場を塞ぐ形でくっ付けベッドに変えて眠っていた。気持ちよさそうにジンに抱き着いて眠っているリエナとパミル。ジンはそんな2人を起こさない様に剥がしてその場を抜け出したのだった。
「ん?どうかしたか?」「ちょっと、おトイレ・・・」「あまり遠くに行くなよ?」「は~い」
騎士数人とたまたま見張り番だったベラールが、馬車から降りてきたジンを見つけたのだった。
適当に言葉を交わし、ジンは1人、暗闇の中を茂みの奥へと入って行った。
「(数は?)」〔ざっと・・・52くらいでしょうか?たくさんの動物達が寝静まっているので助かります。こちらとしては気配が読みやすい〕「(モンスター?)」〔いえ、大半は盗賊でしょう。たまたま、ここを縄張りにしていた所へ入ってしまったのでしょうね〕「(って事は?)」〔致し方ありません。解禁〕「(よしっ)」
ジンは自分の中に巡るマナを確かめる。少しずつだが以前よりもスムーズに体に巡っていくのを実感する。
「(出来れば殺さない方向で行きたいけど・・・どうしたらいい?)」〔少し待ってください・・・。あー・・・どうやら私達を狙っているのは別部隊の様ですね。他の部隊はさらに離れた所で誰か・・・おそらく冒険者か警備に回っていた騎士達に接触したのでしょうね〕「(方角は?)」〔あちらです〕
特殊なスキルでサポートとリンクしたジンにしか見えないマナの世界で方角を示してもらう。
〔まだ連絡が行き届いていないようですね。こちらに向かって駆け出す盗賊が2人〕「(じゃあ、そこを分断しつつ、コッチに来ている盗賊を排除しようか)」〔了解です。あ、武器ではなく素手で行きましょう〕「(・・・上手く加減出来るかな~?)」
自分の手を握っては開いてを繰り返し力加減を確かめるジン。
〔その辺りはお任せを。魔法も少しだけですが試したいことがあるので〕「(?、わかった)」
よくは分からないがとりあえず納得するジン。そして体内マナの巡りが安定した頃。一気に駆け出して、奥の闇へと消えていくのだった。
「っく、思ったよりも数が多い・・・!」「まだか!」「もう少し待ってくれ!増援がくる!」「へへへ。ほらほらサッサと降参しなよ?っとそこの姉ちゃんと嬢ちゃんは俺達が責任もって美味しくいただくからさ~♪」「俺はあっちの気の強え騎士の姉ちゃんがいいな。鎧に隠れてるが・・・ありゃあすげえモン持ってるぞ~?くう~・・・っ!やべえ想像しただけで滾ってくる~♪」
深いそうな顔をする女性達。しかし劣勢な状況が覆ることはない。徐々に囲まれつつある冒険者達と騎士達。
盗賊を逮捕するつもりが思った以上の抵抗と数に危うい状態だった。
「くっくっくっく・・・。おい、応援はどうなってる?」「もうそろそろでしょう。ああ、アッチもどうやら獲物を見つけたようで少し時間が掛かるかもみたいな話が」「おいおい。今日は大繁盛だなっ♪こんなに景気が良いとは俺達も付いてるぜ♪」
歓声と下卑た声を上げる盗賊たち。勝つことが見えている戦いに、欲望がうずうずしているような表情だった。
「っ・・・最悪っ!」「うう~っ・・・♪いいね~、その表情。俺の下でもその表情で抵抗して見せてくれよ♪」「・・・」
ますます嫌悪感を露わにする騎士の女性。しかし、男にとってはそれすらも興奮材料でしかなかった。
「?・・・なんだ?」
微かに、草を掻き分ける様な音が聞こえた最後方の男。一瞬だけ後ろを振り返る。次の瞬間。
「がっ!」
ほとんど声も出せず、木々の奥へと掻き消えていった。
少し前・・・。
「はぁ・・・はぁ・・・。思ったよりも遠いじゃあねえかっ」「怒るなって・・・。はぁ、はぁ・・・もうすぐだ」
茂みを掻き分け仲間の下へと伝達に向かう盗賊の2人。
「で?・・・どこにいるんだよっ」「確か・・・あの黄色い木の近く・・・」
縄張りにしている盗賊達はこの周囲の地形に詳しい。それゆえ、どこで集合かもちょっとした特徴を伝えるだけで十分だった。
「あそこか・・・。はぁ・・・あと少し。そうすれば(俺にも美味しい・・・)」
伝達前、こちらから逆に襲撃した冒険者と騎士達の中には数人ほど女性が居た。それを確認し、更には別の部隊からの情報で、他にも女が手に入る事を想像した男は、息も切らしながらも別の意味で涎が口の端から垂れ落ちて、だらしない笑みを浮かべていた。
「(だったら・・・全は急げっ、てな♪)あそこでいいんだよな?」「ああ。はぁ、はぁ・・・。間違いなぃ──」
前方を走る男は欲望と息切れのせいで、仲間の言葉を最後まで聞いていない。
「(ひひひ・・・待ってろよ~。俺の可愛いペットにしてやるからよ~♪)」
寧ろ妄想が膨らんで爆発するのも時間の問題だった。
「はぁ・・・はぁ・・・。(?)」
しかし、そこでようやく男は走っている足音が自分1つだけであることに気付き後ろを振り返った。
「はぁ・・・はぁ・・・。あん?・・・どこいった?」
息を切らしながら周りを見回す。しかし仲間の姿が全く見えない。盗賊として生活してしばらく経つ。その習慣で暗闇には多少慣れているはずだった。
しかし、そんな培ってきた目でも仲間の姿が見えなかった。
「(・・・どうなってる?)」
本能的にモンスターの襲撃か何かと感じ取り、腰に差している多少ボロくなった剣を取り出す盗賊。
だが、獣の独特の臭いや虫系ならではの鳴き声が全く聞こえない。
男の中で一層警戒心を高めて周囲を見回す。
「チッ。(来るなら来いってんだよ。後が控えてんだ。血祭りに上げてやるからよぉ・・・)」
お預けをくらった苛立ちに少しだけ注意力が散漫になってしまう男。我慢が出来なくなり声を張り上げる。
「おいっ!隠れてな──」「騒がれると困るんだよな~」「(っ!)」
突然、自分の顎を抑える様にしてどこかへと連れ去る幼い姿と声がした瞬間。男の意識は刈り取られたのだった。
「(もう少しペース上げようか)」〔ですね。風による音の遮断も多少は通用しますし。このままバンバン闇討ちしましょう♪〕
楽しそうになっているサポートの声と示す方角に従いジンは次々と盗賊達を襲撃していくのだった。
闇に紛れて次々と仲間が消えていく現象にパニックを引き起こす盗賊達。しかしそれもほんの数秒後には、自分もその闇に引きずり込まれているのだった。
そして現在。
冒険者や騎士達を襲撃していた者達も同じ末路を迎えようとしていた。
「おい、どうし──」「ひゃっは──」「もっと楽し──」
元々、ジン達を襲撃するために集まっていた盗賊達は分隊のようだった。本体であるこちらには100を超える盗賊達が密集していた。
〔どうすればこれだけの盗賊が集まるのか・・・〕「(トップが強いか、それとも頭がいいのか・・・。にしたって、それじゃあわざわざ盗賊をする意味が・・・)」〔ジン・・・。すぐに手に入るモノと、得られる結果は大きいけど手に入るか分からないモノ。どちらに人は飛びつきたくなりますか?〕「(ああー・・・)」〔地球と違い、ここはもう少し本能に寄っている世界です。理性より先に本能が勝つのでしょう〕
サポートの言葉にジンは納得してしまった。地球が必ずしも安全とは言わないが、このオーフェンツ・ヴァームに比べれば人や動物達の命は重く受け止められている。
ここには地球以上に簡単に死んでしまう状況が作られやすい。結果、命が軽くなってしまう。そう言った意味では欲望に忠実に動く事は何ら不自然な事ではないのかも知れなかった。
ついつい、地球での・・・さらには日本でも価値基準で考えてしまうジンは少しだけ反省した。
「(ま、とりあえずは目の前っ)」
しかし、本当に少しだけだった。だからと言って急に変えろというのは無理だし、するつもりもないジン。
だから、その事は脇に置いて目の前の盗賊を狩る事に意識を向ける事にしたのだった。
「おい!気を付けろ。今、目のま──」「?なんだっ──」
仲間の数が急に減ってきたことに異変を感じた盗賊が叫ぼうとするがその前に退場。気付いた者達も退場。後ろから次々と刈り取られていくが戦闘での高揚、後の楽しみによる興奮で、冷静に状況を判断できる者の数が少なかった。
結果・・・。
「ぐっ・・・どうなってる!早く加勢し・・・」
反撃する騎士の剣を何とか受け止めて、声を掛けようとした盗賊は後ろにいるはずの仲間がほとんどいなくなったことでようやく気付いた。
「な・・・ぐあっ」
よそ見をしている間に斬られ倒される盗賊。そんな盗賊の後方を見ていた騎士達や冒険者達も驚きを隠せない様子だった。
「いきなり数が・・・!」「どうなってるっ」
先ほどまで戦意高揚していた盗賊達も仲間達が消えてしまった事に唖然としてしまった。
このチャンス逃すつもりはない冒険者と騎士達。一気に押し込み、次々と盗賊達を倒していく。
「(くそっ)逃げろーっ!!」
1人の盗賊の叫びに反応し散り散りに闇に紛れて逃げようとする盗賊達だったが・・・。
ドダン・・・ダッ・・・ザー・・・。
どこからともなく仲間の盗賊が降って来た。
「は?」
これには盗賊達も呆然と立ってしまう。そこへ・・・。
ドダドダドダドダドダドダドダドダ・・・。
次々とどこからともなく仲間達が飛んできて地面を強く打ち、転がって来た。
あまりの数に騎士達や冒険者も戦闘を止めてしまう。
飛んできた盗賊達は全員が何らかの方法で気絶しているのか身動き一つしていない。
それが山の様に重なって作り上げられていく様に盗賊達は恐怖を覚えた。
「ひゃああああ~~~っ・・・!!──」
叫んだ盗賊の1人がどこかへと走り出した。がすぐに暗闇の中で何かに横から掻っ攫われる様にして消えてしまう。そして、ほんの少しの間の後。盗賊の山に向かって、また一人投げ飛ばされるのだった。
「「「ヒィッ・・・!」」」
混乱する盗賊達。思わず後ろへ一歩、騎士達の方へと後ずさってしまう。
しかし驚いているのは騎士達も同様で、何が起こっているのか理解できなかった。
「どっ・・、ど、どどどどどうするんで──」
ガタガタと震えながら仲間に声を掛けようとした盗賊がまたしても連れ去られ、山になった盗賊達の仲間入りを果たす。
何も出来ず、次々と倒されていく仲間に盗賊達は剣を落とし、その場で蹲ってしまった。
プライドよりも欲望よりも、恐怖に本能が屈した瞬間だった。
〔これだけ絶望を与えて置けば後は彼等が何とかしてくれるでしょう〕
そうサポートが言ったように、闇夜に紛れる襲撃者に対して警戒心を高めていた冒険者達だったが、何もない事を察して騎士達と目配せする。それに気付いた騎士達も再び動き出し、降伏していた盗賊達を次々と捉えていくのだった。
「(しかし・・・。思った以上にいるね)」〔どこかにアジトでもあるのでしょう、と。どうやらあそこがその様ですね〕
少し高い木の枝に這い付く様にして隠れて状況を見ていたジン達。そこへサポートが微かに感じたマナの流れから盗賊のアジトらしき場所を見つけたようだった。
「(まだまだいるのかな?)」〔・・・おそらく騎士達に増援が来ている事から察するに規模もそれなりになるでしょうね。しかし、ここにこれだけの数を投入した事から控えは少ないかと。捕虜がいるかもしれません。どうされますか?〕「(時間は・・・。まあ散歩してて、ちょっと迷ったとでも言えば誤魔化せるか・・・)」〔それでは・・・〕
サポートの案内の下、ジンは月明りの照らす中を闇に紛れて、再び飛び出していくのだった。
後日。大量の物品やお金と、たくさんの捕虜を抱えた盗賊のアジトは良く分からない子供の襲撃に遭い。討伐隊が組まれていた騎士達が到着する頃にはほとんど壊滅させられていたのだった。
捕虜の中でも戦える者達が武器を手に、盗賊から捕まった者達を守り。助けが入った頃には既に終わった後だったらしい。
彼等の証言では、目の前にいくつもの武器が転がってきて、牢の扉もいつの間にか破壊されていたという。
ボスを狙って何人かが募り、押しかけていったそうだが・・・。目的の大部屋に入った時には、壁に上半身をめり込んで倒れている状態だったそうだ。
酔った勢いでこうはなるまいと後々、町の牢の中で尋問をする騎士達。だが、盗賊のボスである大柄の男は``子供が・・・子供が・・・``とガタガタと震え、呟くだけだったそうだ。
よく分からない報告書に、その街を取りまとめる領主とその補佐は首を傾げるしかなかったのだった。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 21
魔法値 17
潜在値 16
総合存在値 23
スキル(魔法): 硬軟緩衝、棒術 0、マナ精緻




