253 寝る子は育つ?
「お~い。到着だよ?」
馬車を開けて、中にいるジン達に告げるガジェット。
「ん・・・ふぅ゛っ・・・ん゛ん・・・。ようやく到着か」
ソファーにだらりと背中を預けて眠っていたベラールが体を起こし、首や肩をコキコキと慣らして解していた。
「よく言うわよ。ぐ~すかイビキを掻いて。うるさくて仕方なかったわよ」「(コクリ)ん。迷惑」「仕方ねぇだろうがよ。あんな経験した事なかったんだからよ」「案内役が一番寝るってどうなのよ」「休憩の時にも何度も寝たのに・・・」「はいはい、悪かったな。到着したんだから下りるぞ」「「・・・」」
リエナとパミルはため息にも似た呆れた息を吐き捨て、ベラールの後を追う様に馬車を降りた。
今日の宿泊場所に来る少し前。森が白く枯れてしまった現象と出くわし、冒険者を襲撃していたモンスターとその元凶を撃破したジン達はガジェット達と合流。
戦闘に関わったのはジン、ベラール、リエナ、パミル。それとベラールとガジェットの騎士達だった。
騎士達はモンスターを大量に倒した事で経験値を得てしまい疲労でフラフラになってしまい途中で離脱。
今回の原因となったボスモンスターにはジンとベラール、リエナとパミルの4人であたり、見事に撃破できたのだった。ここでもジンを除き3人が大量の経験値によりフラフラに。ベラールにいたっては起き上がれないほどの疲労を起こしジンに運ばれていく始末だった。
駆けつけたガジェット達に事の顛末を簡単に報告し、後のことはその時出会った冒険者達と騎士達数人が受け取り、各地に報せに向かってくれた。
そうして少しスケジュールの遅れた休憩とワープを繰り返し・・・。夜、やっと本日泊まる村へと到着したのだった。
「(おお~・・・これだよこれ。まさにザ・ファンタジーだね)」〔ジンの家にあったゲームの中の世界の様ですね〕
夜になったが細い木に蔦が絡まりそこから伸びた花のような形をした実が電球みたいに明かりを点ける。大きく太い切り株を家に改築し、煙突の様になっている場所から白い煙がモクモクと空へ昇っている。通常の家もあれば、切り株の形を使った少し変わった家もある。
それが自然の中に溶け込むようにして存在している村はまさにジンが描いた場所だった。
「あの宿に本日は泊まらせてもらう予定だ。今日、僕達の為に村人総出で歓迎してくれるそうだよ?」「あ、だからか。こんなに中央広場に大勢いるのは」「そう言う事。是非ともって言ってくれてるんだし。ここは招待されようよ」
指差しで、宿泊用の大きく作られた建物を指して教えると、ガジェットを代表にこの村の村長らしき人物へと歩いて行き、頭を下げる。
「よろしくお願いします」「こちらこそ。ようこそわが村へ・・・。しかし、随分と遅いお着きの様で・・・。申し訳ありません。少し先に歓迎会を勝手に始めさせていただいております」「構いません。少々、こちらで問題がありまして。解決に手間取ったのです」「そうでしたか・・・。では、こちらへ」
村長の案内でガジェット達と一緒に、指定されている場所へと向かって移動を開始するジン達。
「へ~・・・ここは昨日の森の町とは違うのね」「(コクリ)ん・・・。普通の家・・・」「ああ、ここにはモンスターが来ることは滅多にありませんからね。来たとしても弱いんで、外に狩りに向かっている連中か、たまたま見つけた村の誰かが倒しているんですよ。だから、村の中は安全なんです」
リエナ達の傍を案内してくれていた村の男が教えてくれる。この村の建物が森の町の様に高い場所に住居を構えるのとは違う構造なのはそれが理由らしい。
「へ~・・・。ここもあそこは違って、なんか私は嫌いじゃないかも」「ん(コクリ)」「ははは。そう言っていただけると嬉しいですね。どうも若い血気盛んな連中は外へ出たがりますから」「退屈なんですよ、ここは。あまりにも景色が変わり映えしないから」
もう1人の男も加わって教えてくれた。
「だから、どうしても冒険者になるって飛び出す者が増えてるんですよ。・・・まあ、それも。数年も経ちゃあ、戻ってくるんですけどね」「結局、生まれ育った場所が一番落ち着きますからね」「ふ~ん」「なるほど・・・」
感心するリエナとパミル。そんな彼女達を置いて、どこからか食べ物を貰って来ていたベラールが合流する。
「もがもが・・・。オレやあ、まだ分からんけど・・・ゴクリ。そう言うもんかね~・・・」「まあ、村の1つの風物詩の様なモノですよ。決まってここを訪れた冒険者や騎士様達に影響を受けて、外へ飛び出す。ここまでが一連の流れです。・・・昔からだそうなので・・・」「ガリ・・・もぐもぐ。なるほどね~・・・」
両手に持った果物屋、肉類を頬張りながら歩くベラール。それを見て呆れるのはリエナとパミルの2人だけだった。
「・・・はぁ。こういう所、叔父さん達を見習わなかったのかしら・・・」「無理。絶対食べ物に釣られてた」「あん?」
更に口に食べ物を運ぶベラール。リエナ達の話も聞いていなかった様子でとても上機嫌だった。
「もぐもぐ・・・んん~♪・・・。くぅぁあ~♪・・・ん、ぷあぁ。何で今日の飯はこんなに美味いんだ~?」
不思議そうにしながらベラールは食べていた。それは騎士達も少し頂いていたのだろう、同じ様子だった。
〔おそらくレベルアップ。総合存在値が上昇したことによる影響ですね。急速に増えた容量を早く補給しているのでしょう。取り込んでいるマナの量がそれを物語っています〕「(なるほど・・・)」
サポートは自分の見ているマナの世界で、ベラール達の体内に通常以上にマナへと分解されて体に入って行く様子が見えている様子だった。
〔まあ、それもそろそろでしょう。上がったと言っても必要分は取り込んでいますし。後は普段通りに戻るかと・・・〕「(そうでない者がいるけど・・・)」「ん~♪」〔・・・中にはこんな者もいるでしょう〕
サポートの言う通り、美味しいが少し変わったという様に不思議に思う騎士達。しかしベラールだけはただ単純に食べ物を美味しく食べている様子だった。サポートの中で若干呆れなのか、ベラールの評価が下がった気配をジンは感じたのだった。
中央広場へは以外にも遠かった。歩くこと数分。元々、馬車で奥へと入って来ていたはずなのに、それだけ歩くというのが、どれだけこの村の規模が大きいかを物語っていた。
「さ、こちらへ」
指定席は中央広場の奥まった場所。少し小高くなった場所に椅子とテーブルが並ばれていた。
「どうぞ、お好きな席へ」「わざわざ・・・。ありがとうございます」「いえいえ。こちらとしても、たまたま祝いの日が重なったモノでしたので」「どういうお祝いで?」「ここは、私が生まれる何代も前からある、古い村なのです。今日はこの村が初めて出来た記念日なのですよ」「へ~・・・随分と良い日に重なったものです」
「ええ、本当に・・・。今日から5日ほどはこの祝いが続くのですが、まあ今日はその最初の1日。最初と最後の日が祭りが大きな日なのですよ。本当に・・・とても良い時にお越しくださいましたね」「ははは・・・。ええ、本当に」
ガジェットは渡された木のコップを受け取ると、村長と軽くぶつけ合い乾杯の合図を交わす。それを見ていた村人達も合わせて手に持つ杯を掲げて祝いを喜んだ。
「それじゃあ、私達も・・・」「ジン君・・・。何が食べたい?」「私が持ってきてあげる」「いや、自分で取りに行くよ?」「いいから、座ってて」
そう言うや否や、リエナとパミルは席を降りて、食事が並ぶテーブルへと駆け出していった。
「至れり尽くせりだな・・・お前?」「・・・」
口に更に食べ物を運んで頬を膨らませながらニヤつくベラールに、ジンは苦笑の表情で黙っている事にしたのだった。
夜は深まり、大人達はそこからさらに盛り上がりを見せ始め。子供達は眠そうな目を擦って、それぞれの家へと親に連れられ帰っていった。
ジンの体は子供に引っ張られている所もあり、また、もともと純自身も夜更かししてまで起きている生活リズムでは無かった事もあり眠くなってきていた。
起きる事も出来るがそろそろ寝ようかと思い、案内される宿へと向かう。
宿に取り付けられていたお風呂に入りさっぱりした事でその眠気が更に強まってしまっていた。
「・・・?」
いつの間にか寝ていたのだろう。起きた時、上手く身動きが取れない事を疑問に思い横を見ると。
「すう・・・。すう・・・」「すー・・・。すー・・・」
ジンの体を抱き枕代わりにしてリエナとパミルが同じベッドで寝ていた。
〔起きましたかジン?〕「(うん・・・。おはよう・・・)」
気持ちよさそうに寝ている彼女達を起こすわけにもいかず、少し変な格好になりつつ相棒に挨拶。
「(2人はいつの間に・・・)」〔ジンが眠って少し経った頃でしょうか?部屋をノックして入って来ましたよ?〕「(気付かなかった)」〔ジンが寝ているのを確認して、そこから自然とベッドに潜り込んで〕「(今に至るわけか・・・)」
色々と突っ込みたい所、言いたくなる部分があるが、とりあえずスルー。・・・それよりも気になる事は別にあったジン。
「(なんか最近よく2人が絡んできているけど・・・)」〔おそらく。学園が違う場所だからでしょう。少しでもジンといたいという事でしょうね。・・・良かったですね、ジン♪〕「・・・」
楽しんでいるサポートに表情と無言の圧にて返事を返す。それにはサポートも楽しみつつも反省をしている様子だった。
〔あ、あははは・・・。すみませんジン。ただ・・・一応言っておきますが、彼女達が来た時にお知らせはしましたよ?〕「(ホントに?)」〔ええ。ですが、ジンもなんだかんだでかなりのマナを使いましたし。今回の相手には粒子化に近い状態で戦いましたからねぇ。彼女達ほどではありませんが少なからず実戦経験も込みで経験値が多少は入って来たのでしょう〕「(はぁ~・・・。なるほどね~)」
体は未だに動かせてはいないが、少しずつ脳は覚醒し始めてきていた。もう少しすればジン自身、眠気が無くなってくるだろうと思っていた。
女の子特有というのか柔らかくいい匂いがするが、ジンはそこは流している。何故ならこういう経験は既に地球で体験済みだからだった。
唯一の違いがあるとすれば・・・向こうは遠縁にあたる親戚で、小さい頃から一緒に住んでいた義姉達。こちらは、たまたま出会った他人という違いだろう。
本来なら無視できない内容だが、この手の事に関してはジン(純)にとって幻想は捨てている。思い込みで勝手に舞い上がっても現実は違う。
そう自分の中で判断してハッキリと一線を区切っているからだった。
〔(はぁ・・・。まあジンとしての生き方がその様な考えをさせてしまった所もあるのですが・・・。彼自身が望んでいない日常だったとしても・・・。今の人生は果たしてどうだか・・・〕
こればかりはサポートもハッキリと主人を否定できなかった。そうする事で自分の心を守って来た部分もあるからだ。そうしなければ生きるという選択肢を、とっくに捨てていた可能性すらあるかもしれない。だが、それでも・・・。
いま現在の生き方は少し違うのではないかと、思わなくもないサポートは何とも言えない残念な・・・歯がゆいモノを持ってしまうのだった。
「(少し・・・。外に出ようか)」
サポートの悲しそうに思う気配を何となく察したジンは空気を切り替える為に、部屋を出る事にしたのだった。
何とか抱き着いているリエナとパミルを起こさない様にがっちりと掴んでいる腕を引きはがして、頭に乗せていた枕と代わりに差し替えて、ゆっくりとスルスルと抜けていく。
リエナには枕を、腰に抱き着いていたパミルには掛け布団に抱き着けるように少し丸め膨らませて渡し、ベッドを抜けて部屋を出て行った。
「・・・ふぅ・・・」〔抜け出すだけでも一苦労ですね〕「・・・・・死屍累々・・・」
ジンは泊めてもらった宿の最上階にあるバルコニーへ来ていた。そこから遠くに見える中央広場付近では、酔いつぶれて倒れている大人達の姿がそこかしこに居た。
〔村総出での祝いなのでしょうね。それだけ、建てられた記念日は大切なのでしょう〕「まだ、飲んでる人がいるのか・・・」〔もう、朝になろうとしているのですが・・・。酒豪というかなんというか・・・〕
遠くの方では数人ほどが、何の祝いか分からないがお互いのコップを軽くぶつけて乾杯していた。ジンのいる場所からではよく分からないが、サポートとの連結したマナの世界で楽しんでいる様子が僅かに見えた。
これにはジン達も驚きを通り越して呆れている方が強かった。
「ははは・・・。すまないね~少年。あ、いや貴族様・・・」
宿の中からジンの会話に入って来たのは、この村の村長だった。
体がドワーフ達の様に小さく、ヒゲをたっぷりと蓄えたエルフのおじいさん。お年で体が丸まっているのではなく、元々血筋の中にドワーフなどの血統が入った混血の為に身長が小さいらしい。
杖が必要なほど柔な体ではないと、昨日の夜に気になっていたジン達に説明してくれた。
「ああ、いや。俺は貴族ではないんで・・・」「そうでしたか・・・。それはすまなんだな」「いえ」
村長はゆっくりとジンの傍へと寄り、手すりの向こう側の光景を微笑ましそうに眺めていた。
「今年も無事に良い祝いの日が迎えられました」「・・・?」
ジンの気配に何となく気付いた村長は、外を見たまま話を続ける。
「数年前、この祝いが出来なかった年があってな・・・。雨が続き、そこで突如、見たことも無いモンスターが現れて、それ所ではなかった時があったのじゃ」「狩猟班は・・・?」
ジンの問いに首を振って微かに悲しそうな顔をする村長。
「大勢の者が襲撃に遭い。中には・・・遠くへ行ってしまった者も・・・。幸い、村の中に被害が出る事は無かったが・・・。当時、外に出ていた者達の半数は・・・絶対安静じゃった」「・・・どんなモンスターが?」
首を振る村長。その背は心なしか悲しそうだった。
「分からぬ・・・。何日も続く大雨なんぞ初めてじゃったし・・・。この村は少し坂になっておるから、水は外へと流されていくが・・・。あのまま更に数日続けば家そのものも流されていた可能性がある。・・・襲撃を受けていた者で、何とか意識があった村人の話によれば突然・・・霧の中に雷が・・・と」
「・・・」〔・・・〕
ジン達はこの地域のモンスターを良く知らない。知っているのは、フォートレーヌの冒険者ギルドで軽くだが見せてもらったモンスター資料のごく一部のみ。だから、どのモンスターがそれに該当するのか見当がつかなかった。
「雨そのものは自然様が起こすモノ・・・。それに、この村は森に覆われた中にある。その為、湿気も雨も特段珍しいという事は無かったん、じゃが。・・・そのせいで異変に気付くのを遅れてしまった原因じゃな。モンスターの消息も分からぬままに終わってしまってもうた。・・・と、ははは・・・。こんな話、子供に聞かせてもようわからなんだな。すまぬ」
そう言ってジンの方へと好々爺の顔になって笑う村長だった。
「・・・して、少年はどうしてこのような時間に?」「ちょっと目が覚めたんで・・・」「そうか・・・。よう眠れんかったか?」「いえ、そんな事はなかったですよ?ホントに」「ははは。無理せんでもよい。慣れぬ布団では心が休まらぬのも・・・ままある事よ・・・」「はあ・・・」
ジンは本当にぐっすりと眠っていたんだが、村長にはそうは見えなかった様子だ。
それも無理はなく。普通なら子供達が起きてくるまで、あと2,3時間ほど後であると思っているからだ。
親の仕事の手伝いで早起きする子供でも日の出が射して少ししてからである。
今は朝を迎える藍色の空から・・・青へと変わる少し手前。小さな子が起きている時間ではないと思うのも無理もない事だった。
「して・・・少年達は学園に向かうのじゃったか?」「はい。そのつもりです」
ふと村長は、ちょっとした質問をジンに問いかける。理由は、この時間に起きてしまったジンの為の退屈しのぎになればというつもりであった。
「そうじゃ。・・・少年はこの世界の歴史を知っておるか?」「世界・・・?」
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 18 → 21
魔法値 15 → 17
潜在値 12 → 16
総合存在値 21 → 23
スキル(魔法): 硬軟緩衝、棒術 0、マナ精緻




