250 狩る側だったモノ達
「・・・大丈夫か?アンタ達?」「ああ。助かったありがとう。えっと・・・貴族・・・様」
おそらく代表だろうと思える少し年配というか、そのガタイと醸し出す雰囲気のあった冒険者にベラールは話を掛けた。男もベラールの雰囲気と身なりから予想を立てて話す。
「気にするな。・・・それより、これはどういう事だ?何で木が真っ白に・・・それにこんなに枯れているんだ?」「・・・俺達も分からないのです。・・・今日は少し遠くの場所にある薬草の採取に来たのですが・・・」「(薬草っ!しかも特殊・・・?!)」〔ジン、話の腰を折らない様に〕「(あっ・・・はい。ごめんなさい)」
冒険者をやってはいたが、遠出は出来ていなかったジン。そのため、本当の意味でまさに冒険をしている彼らに触発されかけた。
「・・・ここは普段からこんな感じなのか?」「いや、まさかっ・・・!」
ベラールが白い木々の光景を見ながら問いかけた。それに強く否定する冒険者のリーダー。
それに同意する様に仲間の冒険者も口々に説明する。
「私達が1週間くらい前に来た時にこんな事は・・・」「そうです。あたし達がここに来る前に来ていた冒険者からもそんな話は1度も・・・」「って事はつい最近か・・・」「そうなんですよ。俺達も最初は突然、木が真っ白になってるから驚いて・・・。ギルドに報告するにもちょっと調べなくちゃいけないっと思いまして・・・」
そう言った後、悔しそうにする冒険者達。リーダーが話を引き継ぐ。
「奥までは入る事が出来たのですが・・・。見たことも無い様な大きな木のモンスターがいまして・・・」「トレントか?」
ベラールの問いに首を振って否定するリーダー。
「あれは、そんなモンスターのレベルじゃない。明らかにオカシイ。第一、全く関係ないモンスターを従えるトレントなんて聞いたことがない」「どんなモンスターだ?」「狂暴な獣型のモンスターだったの。その化け物トレント・・・。実があるわけでも・・・この白い木に何か実っているわけでもないのに従う様に襲い掛かって来たのよ」「・・・あんな感じ?」「え?」
ジンが会話に自然と入って指した方角を、問われた女冒険者も見る。
「・・・どこ?」「あ・・・(ボソ)見えないのか。失敗した」「?」
首を傾げてしまうのは女冒険者だけじゃなくてベラール達も一緒だった。しかしリエナとパミルだけは違った。ジンと戦った経験から嘘ではないのだと確信していたからだ。
「・・・どこにいるの、ジン君?」「少し遠く・・・。木の上に上ってジッと見てる。あ、同じモンスター達が別の木にも・・・」「「ヒィッ!」」
ジンの発したワードから思い当たったのか身を震え上がらせ竦ませる女性冒険者達。ベラールもゆっくりと剣に手を掛け、ジンの傍へと近づいて行く。彼も本当の話なんだと感じ取ったようだった。
「・・・数は?」「正確には・・・。その奥にもゾロゾロと増えてきているし、白い木の・・・トレントだっけ?それも来ているから・・・・・・300程かな?」「っ!(さんっ・・・!!)」
驚くベラール。出来るだけ声や態度に現れないようにしていたが、ジンの言葉に一瞬ビクッと跳ね、強く腰の剣の柄を握ってしまった。
「・・・撤退しよう。ガジェ兄達にも伝え、急いで避難するんだ。ワープポイントも少しの間使用を禁止にして・・・。最悪破壊も視野に・・・」
近くに寄って来た騎士達に指示を出すベラール。それは、親の仕事を手伝いで何が最優先かを経験して身に付けた最善の判断だった。
今の戦力。未知数の敵、強さ、数。そして、そこから起こり得る被害を想定した賢明な判断だった。
・・・しかし・・・。
「それは・・・。たぶん、無理なんでしょ?」「うん・・・」「勝てる?・・・」「強さが分からないと何とも・・・。でも、元凶を叩かないと終わらないのなら・・・冒険者さん達が言ってた大きなトレントを何とかしないと」
ジンの横へと移動するリエナ達は、彼がずっと視線を奥の方から外さない事で何となく理解した。だからこそ、どうすればこの難を切り抜けるかに思考を切り替えたのだった。
「お、おい・・・。お前達・・・。今がどういう状況か──」「分かってるのよ。だから・・・」「ここで戦うしかないの」
リエナ。続けてパミルがベラールの方へと振り返りその目をまっすぐに見た。
「・・・正気か?」「「・・・」」「マジ・・・なのか・・・。わかった」
そう言うとベラールは近くの騎士に指揮を任せて、剣を抜いた。
「とりあえず冒険者達を連れて何人かは避難しろ。もし可能なら、ガジェ兄達に増援を寄越してくれ」「分かりました」
騎士は仲間にジャスチャーで指示すると、頷いた騎士2人が冒険者達を連れて撤退していった。そして残された騎士達も抜剣する。その顔はいまだ見えない未知のモンスターに緊張を隠せないでいる様だった。
「(・・・なあ、あのモンスターって・・・)」〔こちらの世界ではどう呼んでいるのか知りませんが、間違いないでしょう。・・・マントヒヒの一種ですね〕
全長は約1メートル50程。中には2メートル位と地球にいる動物の約2倍以上はありそうな体格に、顔は酒に酔った様にピンクとも真っ赤とも言える色をしていた。狂暴なのはすぐに見て取れたが、体の大きさ以外はいたって地球のマントヒヒとそう変わらない姿をしていた。・・・が、一部例外がある。
「(あの目・・・)」〔はい。狂気の中に強制的に操られ、無理やり従わされたマナが感じ取れます〕「(分かるの?)」〔その線を辿ってみてください〕
サポートはジンの目に、自らが見ているマナの世界の光景を映し出した。そこには前回、下水道で見た濁ったマナが一匹一匹に伸びて繋がっているようだった。足は遅いが後方から来ているトレントも同じようだ。
「下水道で見たのと同じで何かに操られてる」「って事は・・・また何か変なウネウネ?」「むー・・・呼び出したモンスター?」「(フルフル)たぶん・・・違う気がする。元々どこかにいたモンスターをここに呼んだんじゃないかな?だから無限にって事は・・・」
ジンの言葉に二ッと笑い、やる気を見せるリエナ。
「それを聞いて安心したわ」「リエナ・・・。火は気を付けて」
先に注意しておこうとするパミル。二次災害は避けたいからだ。
「大丈夫よ。周りに燃え移らない様に魔法を使えばいいんだから・・・」「・・・それでも、気を付けて」
信用したいがテンションが上がればと考えて釘を刺しておくパミルだった。
「お、お前ら・・・。本当に成長したんだな・・・」
それがどういう意味かはベラールにしか分からない。しかし、この時。彼は確かに彼女達2人を立派な戦力として考えてあてにする事に決めたのは確かだった。
「来た・・・。先行しようか?」
ジンは手元にマナを集め、武器の棒を形成した。
「私が・・・ううん。そうねお願い。ジン君が突っ込んで、ある程度蹴散らしてくれると私達も戦いやすくなると思うから」「・・・そっちでお願い」「了解」
頷いたジンはゆっくりと白い世界に変わった森の奥へと歩いて行く。
「「「っ・・・」」」
そんなジンを警戒しつつも喜色の笑みで待ち構えようとするマントヒヒの様なモンスター達。
「だ・・・大丈夫、か?」
ベラールは最初に出会ったジンの頼りないイメージがあるために不安が拭えなかった。思わずジン・・・というよりもリエナ達に聞いてしまっていた。
「問題ないわよ」「うん・・・あの子は私達の救世主」「・・・」
その言葉と態度には一切の迷いなく信頼を寄せているのだとベラールも伝わってくる。自信に溢れているのかリエナ達の顔には笑顔があった。
「・・・(頼むぞ・・・?無理なら、急いで戻って来いよ)」
責任者として、そして従妹達が信じてやまない少年の身を案じつつ、事の成り行きを見守ったベラールだった。
「(・・・さて、行ってみますか・・・)」〔少々・・・あのモンスター共の顔にはムカつきますが・・・。まあジン達の良い経験値となって戴きましょう〕「(勝てる?)」〔本気で言ってます?〕
ジンだけでなく相棒のその余裕の声から、杞憂なのだと確信してジンは動き出した。
〔しかし・・・念のため〕「(ああ。あのマナの繋がっている先には警戒しておこう)」
ジン達は話し合いが終わると立ち止まり、少しだけ重心を落とした。
「ベラール・・・始まるわよ?」「分かってる・・・」
リエナの報告に、軽く返すと剣の柄を強く握り直した。
「(さあ・・・来いっ)」
覚悟を決めたベラールと騎士達。・・・しかし、その視線の先で・・・。
「は?」
突然、ジンの姿がブレた。そして、いつの間にか遥か遠くへと飛び上がり、向かって行く姿をなんとか目で終えるに留まる。そこで攻撃を仕掛けたのだろう。大きな衝撃音がいくつも響き渡り自分達の所まで届いて来る。
「え?・・・は?・・・え?」
これにはベラールだけではなく騎士達も困惑していた。そんな中。
「それじゃあ、私達も行くから」「怖かったら、後で来てもいいよ?」
そう言い残してリエナとパミルの駆け出して行った。
「・・・・・・。ちょっ、ちょっと待てって・・・!」
少し呆けてしまった意識を取り戻したベラールも、プライドがあり、リエナ達の手前引くわけにはいかなかった。だから、後を追いかける様に走り出したのだった。それには騎士達も慌てて付いて行くのだった。
「(ん~・・・。身体能力は・・・流石、野生の動物。あ、いやモンスターか。俊敏でこちらの攻撃にも本能で対応しようとしてくるなぁ・・・)」〔そうですねぇ・・・。まあ・・・反応、出来ていませんが〕
ジンが振り下ろした棒によって頭を破壊されるマントヒヒの姿をしたモンスター。仲間がやられて怒り狂っているのか次々と飛び込んで襲い掛かってくるが、そうなればジンの棒術の餌食だった。
手元で回転させつつ、1匹1匹の顔、部位の大部分を破壊されていく。あっさりとモンスターの死骸の山が積み上げられたのだった。
〔そこに逃げられても・・・。あ、これは都合がいいですね。ジン、斬撃を〕「ん」
向かってくるモンスターを屠りながらジンは、サポートが示したトレントとその後ろに隠れた数匹のマントヒヒモンスターを狙った。
風と水の魔法にプラスして体内マナのブレンド技で合わせた斬撃を飛ばし、あっさりと斬り殺してしまった。
〔加減も上々♪被害を少なく戦えそうですね〕「ちょっとジンく~ん・・・!」
サポートが喜んでいた所へ、遠くからリエナに声を掛けられた。そして火魔法と風魔法が生き残っていたモンスター達に直撃。あっさりと死骸へと変えていく。
「あれ?思ったよりも弱いじゃない」「・・・1人占めはダメだよ」
ジンの元に辿り着いたリエナとパミルは、それぞれの感想を述べて戦闘に参加するのだった。
「いや・・・俺は別に・・・」
襲い掛かって来たマントヒヒの1匹を回転による斬り払い、振り下ろしの形で頭部分を吹き飛ばして絶命させながら、困った顔をしていた。
ひどく現実離れした光景だが、今は戦闘中、気にする者はまだ到着していなかった。
「私達の分も残してよ。このままじゃ、あっさり全滅させる所だったでしょ?」「ん・・・」
コクコクとリエナに同意するパミル。2人もそんな事を口にしつつ魔法を放ち、モンスターを寄せ付けずにいた。
「・・・私の火魔法も向上してるんじゃない?」「それは強くなったのとスキルが手に入ったおかげ・・・」「そういうパミルも一緒じゃない」「ふふん・・・♪」
お互いをカバーしつつ余裕の戦いを続ける2人。敵が周囲に居なくなったと思うと自らモンスター達の集団に飛び込んでいく。
「だからっ・・・!勝手に飛び込み過ぎるなよっ!」
遅れてやってきたベラールがトレントを倒しながら、駆け出していったリエナ達のフォローをするべく追いかけて行った。
〔振り回されてますね~・・・〕
他人事のサポートにとってはほのぼのとした光景に見えたようだった。
〔さて・・・ジン。ウォーミングアップはその辺で〕「(う~ん・・・。初めてだけど・・・やってみるか・・・)」
少しだけ緊張するジン。昨日今日ではそこまでの変化があったのかは分からないが、サポートの強制的なマナの疎外と奪取のせいかおかげか。ジンは前回よりも細かく、モンスター達と繋がっている濁ったマナを見る事が出来ていた。それは・・・妙な点が映るくらい・・・。
今、モンスターと繋がっている伸びているチューブの様な濁ったマナ。ジンはその管の途中途中に点が見えていたのだ。まるで関節のつなぎ目・・・弱点ポイントの様に。
「(行ってみますか)」
ジンの纏うマナが今までよりも細く細かなモノへと変化していく。しかし、そこに流れる1つ1つのマナの濃度は濃くも、乱れる事無く安定していた。今回サポートはこの制御に参加していない。
〔おお~・・・!ジン成功ですね〕「(上手く言ったが・・・なんかまだ太い気がする。もう少し小さく細くできそうな気がするんだけど・・・)」〔うんうん♪私の教えがこんなに早く顕れるなんて・・・〕
その言葉にジンはどうしても1つだけ言いたい事があった。
「(あの・・・。自分が俺の為にやって上げたみたいな偉そうなこと言ってるけど。単純に実験的な考えで勝手に拷問まがいな事をしただけだからね?)」〔そんな、これはあくまでジンの為に・・・〕「(人を気絶させといてよく言う・・・)」〔あ・・・あっはははは・・・。・・・すみませんでした〕
流石にやり過ぎたなと反省する自覚はあるらしい。
〔でも、これだけジンを追い込むことが。結果、こんな短時間での成果に繋がっていたのですから。その点は褒めていただいても──〕「(そういう博打の様な事はもう少し考えていかないと・・・。いつか俺はお前の実験で殺されると思うぞ)」〔ま・・・まさか~?〕「・・・」〔はい。気を付けます〕
冗談ではないという圧を感じあっさりと白旗を上げるサポートだった。
「・・・(ボソ)よし、こんなもんか。(マナを引き上げるのに時間が掛かったけど)」
魔力の線は細かく、それでいて密度を濃く・・・。慣れていないやり方と引き上げるのに少々手間取っていたジン。しかし、この間に彼に向かってくるモンスターは一匹も現れなかった。それは・・・。
〔・・・操られてでしょうか・・・いえ、本能もかもしれませんね。命令は与えられているのに、自分達が強化されて、それが逆に・・・ジンの存在に恐怖しているのでしょうね〕
サポートの言う通りだった。威嚇のする様に鳴いているはずなのだが、ジンが少し視線を向けただけで分かり易いくらい弱弱しくなる。数歩も下がって、仲間達と密集していく様がなんとも哀れに見える。
「(・・・襲って来たのは向こうだから自業自得なんだけど・・・。可哀そうになって来たな)」〔しかし・・・。ジンの力に気付くって事は後ろに控えているモノはそうとう強いのか、あるいは過敏なのかもしれませんね。気を引き締めませんと彼女達が危険です〕
ジンは火の魔法を器用に操り、周囲の自然を巻き込まない様にしながら戦っているリエナ。それを支援魔法でフォローしながらも、さらに自ら攻撃魔法で敵を蹴散らしていくパミルを見た。
形勢はほぼ変わらず圧勝。
ベラールと騎士達も加わって戦闘に参加しているので、負傷者ゼロで相手側の被害だけを拡大させていた。
「(・・・ま、お前の言う通りだな。リエナ達には悪いけど・・・少しだけこの状態でのチェックに使わせてもらおうか)」〔あまり、取り上げ過ぎないようにしてくださいね。そうしないと、拗ねた彼女達の矛先が・・・〕「(気を付ける)」
自分に向くのだと気付き、注意をしておくことにした。
〔で?狙うは・・・?〕「あのマントヒヒ集団の・・・マナ」
ジンの目が、リエナ達を警戒し密集。隙を伺っているモンスター集団を見つける。
そこへ向かって、この力がどの程度通用するのかを少しだけ楽しみにしつつ、ジンは跳び出したのだった。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 18
魔法値 15
潜在値 12
総合存在値 21
スキル(魔法): 硬軟緩衝、棒術 0、NEW→ マナ精緻




