表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
252/473

248 ショッピングモー・・・ル?

「ん?どうしたのジン君・・・気分でも悪いの?」「熱・・・?」「いや、問題ないよ?」


 ジンの顔色が良くない事に気付いたリエナが心配し、パミルがおデコに手を当てた体温を測る。


「そう?」「無理は良くない・・・。ここで休憩」「いや、本当に大丈夫なんだ。(体調面はホント・・・)」


 もし止めて欲しかったら言ってね、と告げてリエナとパミルは座り直した。それでも心配なのかジンの方を見ている。ジンは作り笑顔を浮かべ、2人が安心するまで平然とし続けた。

 そして、大丈夫なんだと2人が納得した瞬間。サッと窓の外へと向く。


「(っはあああぁぁぁ~・・・っ。・・・キツイ)」


 まるで屍の様な声を出して心の中で本音を漏らす。


〔早すぎますよ。もう少し粘ってください〕「(とか言ってるけど・・・。絶対・・・。確実に・・・地下室にいた時よりもマナを奪って行ってんだろ・・・?)」


 ジン(純)がげっそりとしていた理由はサポートがジンに課した漫画等を参考にした修行のせいだった。まだ出発して間もない頃までは周りに見えない所で出力を自分なりに上手く調整していたジン。

 しかし、そろそろガス欠だった。いくら体内マナが普通の人間に比べて大量に持っていようと、ずっとものすごい勢いで疎外され、奪われ続けては身が持たなかった。


 元々、このジンという子供の身体は赤子の様な最低限の能力値しか持って生まれていなかった。その為、世界に豊富にある魔力に対して、本来持つべき自然抵抗力もまた最低限しか備わっていないのだ。そこへ重力という自然も加われば・・・。ジン(純)へ掛かる相当なモノだった。


「(これは辛い・・・。何が辛いって、辛いしか思えない所が辛い・・・)」〔もはや思考力が・・・〕


 流石に少しやり過ぎたかな~っと、ちょっと反省するサポートだった。


 途中、何度か走らせている動物達を休ませる為に休憩しつつ、目的の場所への近道・・・ワープポイントへ到着。

 ワープポイントの場所の手前には一軒家の様な建物が自然に紛れ込む形でひっそりと建てられていた。1人の騎士が動物から降り。そこで見張り番の騎士に筒の中に入っていた紙を広げて見せた。


「確かに。・・・では、あちらへ」


 その案内に従い、騎士がジン達が待つ馬車の方へ手で来るように合図を送った。


「いよいよか・・・」「もうすぐ着くと思うから、頑張ってねジン君?」「は、はいぃぃ・・・」


 もはや隠しようがないほどげっそりしているので気遣われている。膝枕をしようとしてきた2人をやんわりと断りつつ、今は馬車に寝転び周りを見ている余裕がないほど疲れていた。


「(だ・・・だから・・・吸い過ぎ・・・)」〔・・・まだ、余力があるようですね。ジンも思ったよりも体力と精神力が付いてきているじゃないですか〕


 果たして、寝転んで本当に倒れる寸前を元気というのだろうか?


 心の中でそんな事を思いつつ、ジンは揺られる馬車が止まるまで、必死に体の中のマナを維持、開放を続けていた。


 ジン達の乗った馬車は見張り番の騎士の案内の下、岩の幻影によって隠された通路の先へ向かう。

 そこは、少し広めの正方形に整えられた石作りの空間だった。淡く渦巻く光の柱以外は何もない部屋。

 特殊な光の渦はうねる様に上へと舞い上がっているが、石造りの天井までギリギリで霧散する様に消えていた。


「そのままお進みください」


 見張り番が道を開けると、案内された騎士達も頷き返し、そのまま光の柱へと向かって突き進む。


〔・・・ほう〕


 微かに感心か興味か・・・サポートがそんな声を上げた瞬間にはすぐに見た事ない場所へと到着していた。

 先ほどとは違いここはもう少し自然を利用したような古い遺跡の様な場所だった。


「いらっしゃいませ。報告は受けております」


 遺跡の入り口近くから騎士の1人が出迎えてくれる。


「この先、少し衝撃あるかもしれませんがお許しください」「分かりました」


 そう言って通例業務の様に簡単な話し合いが終わらせると再び馬車はゆっくりと前進した。

 衝撃は思ったよりも小さく少なかった。



「よ。久しぶり」「久しぶりだね2人共」


 ワープポイントを抜けた先、少しは走らせた所に2人の少年と数人の従者らしき者達が、ジン達の向かう道の先で待っていた。


「あーっ!ベラール、ガジェット(にい)!」「久しぶり・・・ガジェット兄さん」「うん。久しぶり」


 馬車から降りたリエナとパミルが2人の下へと走っていく。


「っ・・・。オレの事は呼び捨てかよ。パミルにいたっては無視してるし・・・」「そんな事は無い・・・。気のせい」「ホントかよ」「(コクリ)・・・」


 ほとんど無表情の様な顔で頷かれるベラールと呼ばれる少年は、どう反応を返していいのか困惑していた。


「それにしても・・・2人共。随分と大人っぽくなったんじゃない?」「え?えへへ・・・そう?」「ん。・・・少しは成長」


 素直に喜んでいるリエナと少し威張るように胸を反らすパミル。


「・・・(ボソ)そういう反応が子供っぽいんだけどな」「何か言ったっ・・・?」「いーや、何も」「ははは。お前は本当に2人にはいつも突っかかるな・・・」「そんな事ねぇよガジェ兄。こいつ等がいつまでもオレを同列に扱うのがオカシイんだよ」「でも、立場は2人の方が上だよ?」「いや、そう言う事じゃなくて・・・」


 的の外れた答えにベラールは気が抜けてしまった。とそこへ・・・。


「ん?誰だ?」「あ、この子はね~・・・ジン君♪」「私達の友達♪そして救世主♪」


 少しヨロヨロしながらだが、馬車から降りてきたジンを見つけベラールが問いかけると。リエナとパミルがジンに抱き着いて紹介を始めた。


「ど・・・どうも」「(こんなヒョロっちい女の様な奴が・・・?)」


 前髪のせいでジンの顔がハッキリと見えないベラール。抱き着かれたジンの姿を見て訝しむ。しかし、従妹のリエナ達がここまで懐いているならと流す事にした。


「そうか・・・。何はともあれ自己紹介をしなくちゃね。僕はガジェット・キール。で、この子が・・・」「ベラール・ロンドだ。まあ、よろしくな」「は・・はい・・・よろしくお願いします。俺の名前はジン・・・です」


 咄嗟にジンはファミリーネームを言うのを避けた。それはミゲイラから何があるか分からないと止められたからだった。

 まあジンも大方、碌でも無い事に巻き込まれるだろうなと感じ。サポートもそれに同意したので言わないようにすることに決めた。


「ああ。よろしく」「よろしくね」


 気軽に返してくれる少年2人。

 ベラールはボーイッシュでまだ少しやんちゃ盛り感じが残る少年だった。

 ガジェットは落ち着いた雰囲気のお兄さんという感じがする少年だ。

 この2人・・・なかなかの美少年だった。見た目がリエナの従兄弟という事もあり更にはエルフ。

 ファンタジー世界だからという一括りだけで済まされると何とも言えない気分になりそうなジンだった。


「(きっと、周りから言い寄られるんだろうなー・・・。こう、何かやっててもキャーキャーとか。何かしら話しかけられたりして・・・)」〔ジンもそういう意味では同じでは?〕「(いや・・・俺なんて)」


 思い出されるのはどうしても絡まれた記憶。思春期には強すぎるインパクトとトラウマ。消すのはなかなか難しい。


〔多分・・・。ジンは他人から恨みを買われるタイプですね〕「(何で・・・?!)」〔今の状況をどう思います?〕「(・・・)」


 抱き着いたリエナとパミルがジンの頭にすりすりと頬擦りしてご満悦そうだった。


「(ふ・・・。これは可愛がりであっても、そういうのではない。経験で分かる。愛玩動物を可愛がるようなモノだよ)」


 経験から、ジンは抵抗する事を諦めただ身を委ねる。それが、一番の正解だと知っているからだ。


〔・・・そうでしょうか?〕「(お前も義姉さん達の事は知ってるだろ?小さい頃からずっと気に掛けてくれてたんだよ・・・。こんな感じに・・・)」〔ああー・・・〕



 地球で十時影 純(ときかげ じゅん)として、生活をしていた時。遠縁の親戚であり、引き取ってもらった事で義理の家族になった白星(しらほし)家。そこの長女の美月(みつき)、次女の紅百葉(ことは)には特に可愛がられていた。

 何故かジン(純)には知らないが、2人はとにかくジンと一緒にどこかへ出掛けたりしようと誘う事も多かった。

 が、いじめを受け。その状況を居候の身で知られるのは迷惑になるだろうと思い、やんわりと断るようにしていた。


 美月と紅百葉は何となく気付いていたがジン(純)のプライドを傷つけまいとして見守っていただけなのだが・・・。


 とにかく、リエナ、パミルの2人に可愛がられているこの状況は義姉達の反応と似ていると判断したジンは無抵抗だったのだ。サポートもそれは何となくわかる気がしてこれ以上、ジンに対して何かを言う事は無かった。


〔(しかし・・・。それだとやはり・・・彼女達も・・・)〕



「わかったわかった。そいつがお前達のお気に入りって事は・・・。だから、いい加減離してやれ」「ええ~・・・」「え~・・・」「同じ顔をすんじゃねえよ。ほら」


 解放されたジンはゆっくりと体に自然の空気を取り込むべく、大きく深呼吸する。


「ほら、お前達。強く掴み過ぎなんだよ。大丈夫か、ジン?」「え?あ、はい。ありがとうございます。(この人、良い人かも)」


 自然にジンを気遣う事が出来るベラールに、勝手な思い込みをしていたジンは心の中で反省した。


「ははは・・・。さ、ここで立ち話もなんだし、今日の宿はすぐそこなんだ。サッサと出発して、そこで休もう」


 ガジェットは森の切れ間から見える、大きな木がいくつも並んでいる場所を指し示す。そこは森の中でも一段と大きな大木が並んでそそり立っていた。


「あそこが通称、森の町。ここからでも大きく見えるけど近くに行くと更に大きく感じるよ?」「「「おお~・・・!」」」


 知らないリエナ、パミル・・・ジンも少し楽しみなって声が出てしまった。


「さ、それじゃあ君達は馬車に乗って」「あれガジェット兄達は?」「オレ達は乗り物がある」


 そう言うと大きなアルマジロやカバと馬が合体したような何とも可愛らしい顔をした動物を親指で指す。


「こいつ等をここに放置するわけにもいかねえからな」「僕達が先導するから、後に付いてきて欲しい」「分かりました」


 ガジェット達はリエナの護衛騎士達に頼むと動物達の背中に乗った。そして、リエナ達が馬車に再び乗ったのを見届け、出発の準備が整ったことを確認してから走らせた。


「・・・(はぁ~・・・。気付いたらここは・・・何と言うかフォートレーヌの森とはまた違って。どっちかって言うとジャングルって感じをイメージさせる雰囲気だね)」〔だいぶ回復したようですね〕「(ああ。おかげ様で。ベラールとガジェットが来たからマナ阻害と吸収を緩めてくれたんだろ?)」〔え?ええ、そうですね〕「(?)」


 一瞬、妙な返答に不思議に思うジン。だが特にそれ以上、深く聞くつもりも無く。再び外の流れる景色を楽しんでいた。


〔(確かに緩めましたが、ほんの少しだけ・・・。これは思った以上にジンがマナの扱いに慣れてきましたね。次のもう少し複雑な段階に変えてもよさそうです♪)〕


 悪巧みとも言えるサポートの考えをジンは知らない。だが、ジンなら特に気にすることなくあっさりと攻略してしまうのでは?とも期待してしまうサポート。その心は少しだけ弾んでいた。



「到着だよ?下りてきて」「んん~・・・。もう少しだったのに・・・」「無念・・・」


 ガジェットが馬車の扉を開けた時、目に入って来たのはガックリと首を落とすリエナとパミルだった。


「(あ・・・危なかった)」


 その反対に心臓をバクバクさせながらゆっくりとガジェットの横を通り過ぎて下りてくるジン。


「一体何があったんだ?」


 不思議に思ったベラールがリエナ達の方を見るが、ガジェットも分からないため首を振るしかなかった。

 そして、ジンは皆と少し離れた場所へと移動して、ブツブツと何か言っていた。


「突然上げないでよ。っ・・・。ブラックアウトって・・・。いや、だから。別にそんな事は求めてないって。・・・。2人にオイシイ所?何が?・・・はあ?それが何で?・・・。はぁ・・・とにかく、もう少し俺が慣らしてからにしてよ。これじゃあ持たないって・・・マジで・・・。うん、そうして」


 ジンに何があったのか遠くてよく聞こえないベラールとガジェットは、お互いの視線を交わす。しかし、2人が分かるはずも無く首を振って流す事にした。



「おお~・・・!大きい・・・町・・・」「・・・高い・・・」


 リエナとパミルは数十メートルはありそうな木の上にいくつも設置された橋と中継地点。その中を行き交いするたくさんの種族がいる事を目にし、その規模の大きさと多さに驚いていた。もちろん地上にも人はたくさんいる。エルフ、獣人、人間、ドワーフや、翼人と言われる背中に翼の生えた人達だ。


〔大型ショッピングモールみたいですね〕「(いくつもお店とかあるんだろうな。流石に渡り廊下が一ヶ所だけってのは不便なんだろ。・・・。それにしても・・・思った以上に人が多い)」


 首が痛くなりそうなほど直角の高さにまで木がある上に、まるで迷路とでもいう様に折り重なるようにして中継場所と橋がいくつも設置されれば・・・。見慣れていない人はリエナ、パミルと同じように口を思わず開けて見上げてしまう事だろう。


 ジン(純)はまだ、見慣れている為にそれほどの驚きはない。いや着眼点としては、とんでもなく太い木の中をくり抜き、大型ショップや家が入り乱れて作られ生活を営んでいる事だろう。

 ここまで雑多だと、いっそ商店街といった方がしっくりきそうだと思わなくも無かった。


「ははは、凄いだろ?」「何でお前が自慢しているんだ。お前も昨日は驚いていただろう」「ちょっ、(ボソ)黙っててくれよ」〔なるほど。彼等は既にここに来ていたのですか〕


 リエナとパミルの見えない所で指で口に当ててガジェットに黙ってるよう頼むベラールがいた。


「ねえ・・・ここっていったい何人くらいいるの?」「え?んん?・・・そうだなー・・・」「確か、約1万8000人くらいだって・・・。年々、観光とかで来る人が増えているみたいだけど・・・。だいたいそれくらいだって話だよ?」「へー・・・」「いつの間に・・・」


 ガジェットはまるで昨日来た人とは思えないほど自然に説明してくれた。その話に感心したのはリエナ達と同じように口をあんぐりと開けていた騎士達だった。どうやら彼等も初めて訪れたらしい様子。


「ここは地上にも住まいがもちろんあるけど、どちらかと言うと荷物倉庫とかみたいだよ?外敵、モンスターから守るために皆、2階から上に住むのが普通なんだって・・・」「2階・・・」「ちなみに、聞いた話じゃ20階以上あるらしいよ?」「ええっ!」「そ・・・それはすごい・・・」


 分かり易くリアクションを取ってくれるリエナに心を良くしたガジェットが追加情報として教えてくれた。それで更に驚くリエナ。騎士達もそれには驚きを隠せない。


「さ、とりあえず。今日宿泊する場所へ行こうか。確か・・・あそこの木の5階だったはず・・・」「その通りです」


 視線を向けられたガジェットの従者が頷き、道案内をしてくれた。ジン達もそれに続く。


「あ、馬車なんだけど・・・。上に運ぶルートが決まっているから遠回りしないといけないんだ。すまない」


 伝えるのを忘れていたガジェットは騎士に謝り、1人の従者に視線を向けた。理解した従者は馬車と動物達を運搬する為に使われているルートへと案内していく。


 残った者達は先に徒歩で宿泊場所へと向かったのだった。






 【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 18

 魔法値 15

 潜在値 12


 総合存在値 21


 スキル(魔法): 硬軟緩衝、棒術 0、???

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ