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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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243 分からん事だらけって精神的に参ると思いませんか?

「──とまあ。ここまでが今お伝えする報告になります」


 そう締めくくってベングットは用意されたグラスに入った酒に口を付けた。頭を掻きながら資料と睨めっこをする領主ミゲイラは一度、報告書をテーブルに置いて、深呼吸する。

 

「んん・・・・・・。はぁ・・・。概ねは理解したが・・・。本当にこんな短期間で直るのか?」「過去の残されていた資料によりますと、ほぼ崩壊して機能不全になった場合を想定した改築だったそうなので、間違いはないでしょう」「・・・そうか・・・」


 下水道秘匿エリア3階層崩壊時の代替の計画書。


 ベングットから渡された報告書の中にそんな資料が書かれた紙も入っていた。


「確かに下層・・・2階の奥にはいくつもの大きな縦穴の貯水池があったが・・・水力に使うとは思わなかったな~・・・」


 広めに大きく作られた空間。今はただ、高い位置から下へと大量の水が流れる場所でしかなかったとミゲイラは記憶している。


「そこに溜めた汚水を吐き出す時の勢いで、現在スリープ状態のどこかの魔術機構を起こす仕組みだそうです」「・・・。(ボソ)防衛機構の一部を修復の力へと変換。また、町から流れ込んでくる水での崩壊と逆流の阻止・・・」


 資料を斜め読みで、理解した場所から咀嚼していくミゲイラ。


「・・・何となくは分かりましたが・・・。可能なのですか?」


 沈黙してしまった彼に変わり隊長がベングットへと質問した。


「ええ。被害規模の確認に向かった際に、その辺りも軽くですが調査してまいりました。なにぶん、古い資料なのとそれを元に建築したであろう痕跡が僅かに残っている程度。今は当時よりも更に拡大したのでどこまで通用するのかは不明ですが・・・。まあ、勝手な意見になってしまいますが私は可能であると思います」「それはギルドマスターとしての言葉かい?」


 目を資料に落としていたミゲイラが、ベングットに視線だけを向けて問う。


「はい。この町の代表の1人として・・・」


 力強く答えるベングット。その目には何の不安も嘘も感じられなかったミゲイラは計画書をテーブルに置いて自分専用のグラスに入った酒に手を伸ばした。


「そ・・・。ならいいんだ。君のこういうキッチリと仕事をこなす調査力と分析力には昔からアテにしてたからね。ベングット君♪」「・・・そういう言い方は止めてください」


 香りを味わってから、ゆっくりと飲むミゲイラに苦い表情をして答えるベングットだった。


「それでは私が今回は点検に向かわれましたので。次回はミゲイラさんがお願いしますね」「ブフッ!」「ちょっと汚い」


 飛び散った酒に掛からないように退避するベングット。咽るミゲイラに文句を言いつつ、自身の酒に掛からないようにも避難させていた。

 隊長が慌てて、近くにあった布巾でテーブルを拭く。


「げほっ、けほ・・・。ま、待ってくれ」「待ちません。というかこれは事後報告です。次に点検に向かわれるのでしたら・・・2ヶ月後でお願いしますね?とりあえず、ウチの冒険者に念のために残った清掃の仕事をするついでに見回らせますので。その後でお願いします」


 ベングットに制止を掛けようとした手が虚しく落ちる。そして、先ほどまでの余裕など無くなり、この世の終わりの様な顔をするミゲイラ。

 それを見たベングットの口元がニヤけていた。意趣返しの成功であった。


「・・・ぁぁあああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ・・・・・・」


 両手で顔を下へと引っ張りながら怨嗟の様な声を絞り出すミゲイラ。


「ぃぃぃいいい゛い゛い゛やあああ゛あ゛あ゛だあ゛あ゛ああー・・・・」


 本当に嫌なのか、その顔にはもはやベングットに文句をつけたいとか、そんなモノではなかった。


「まあ、安心してください今回の点検にはそこに書かれた計画書ほどの最悪はありませんから」


 せめてもの救いとしてベングットが資料に書かれていた事と今回起きた騒動の違いを説明してくれる。


「計画書には換気。風力に関しても下層の方では一時的に停止して他の供給にあてると書かれていますが、今回の被害では問題なく・・・換気機構は作動していましたので」「・・・」


 もはや白い石像の様になって動かなくなったミゲイラ。


「・・・申し訳ありません。本来は私も見回りに出向かわなければならないのに・・・」


 固まった主人に変わり隊長が謝罪する。


「いえ、これもソコのいる無茶苦茶領主(・・・・・・)のせいなので、お気になさらず」「は、あははは・・・は・・・」


 乾いた笑いでしか答える事の出来ない隊長だった。



「・・・それで、他には?」


 もはや後日、下水道に赴く事が決定しているミゲイラのテンションは分かり易く低い。若干やさぐれている様にも聞こえるほどだ。


「そうですねー・・・。しいて言えば・・・。いえ、何といえばいいのか・・・」


 そんな彼のテンションなどお構いなしのベングット。聞かれた質問に対し、何かを思いあたる事でもあるのか少し考え込むのだった。突然の沈黙に気になったミゲイラは見上げてベングットを見た。


「逆に確認したいことがあるのですが・・・」「・・・はい・・・?」


 ベングットは隊長へと向きを変えて姿勢を正す。その顔から重要な話なのだと感じ取った隊長も居住まいを正した。


「ウチの冒険者達も同行したと思いますが・・・。その時、下水道の中はどうでしたか?」「と、申しますと・・・?」「下水道は汚水もそうですが壁の汚れも目立つところが多い。奥へ行くほどそれは顕著です」「ええ。それはまあ・・・」「・・・そう・・・だね」


 それには隊長だけでなくミゲイラも分かっているのか軽く頷いて同意する。長い年月で溜まった汚れは魔法だけで分解しきれるわけではない。住人の数に比例して増大する廃棄物がある以上。追いつかないのが現状だ。

 だからこそ、定期的に上層である1階から下層の2階。街中へと臭気が漏れる可能性のある場所を集中的に清掃して回っていた。


「それは・・・臭いも同じはず・・・」「「・・・??」」


 何処か虚空を見つめながら声に出すベングット。何が言いたいのか分からない2人はますます混乱してしまう。


「お聞きしたいのは、その時の下水道の汚れ具合です。アナタが入った時はどれほどのモノでしたか?」「・・・そうですね。・・・私が向かった時は・・・ミゲイラ様と見回った時と大差ない感じかと・・・」


 腕を組んでその時の状況を思い出そうとする隊長。


「まあ、あの頃に比べますと幾分か手は行き届いているのではないかと」


 心ばかりの労いの言葉を口にする隊長。それに対してベングットは苦笑で返した。現状の清掃具合が、いまギルドマスターやれる精一杯の努力だったからだ。


「ただ・・・そうですね。あの時は調査任務でそれほど気にしておりませんでした。まあ、こんなものだろう・・・くらいでしょうか」「それは、帰って来る時も?」「どういう意味だい?」


 ベングットの目が変わった事にいち早く気付いたミゲイラが、隊長の質問をした。


「今回、私が3階層の被害状況の確認に向かう際。あの異常事態以降、清掃は中断されており。もちろん奥へなんか誰も手を付けていないのですよ」「・・・そういえば・・・」


 ベングットの話で何か思い出したのか隊長も少しずつ当時の事が蘇ってきたようだ。


「あの時、リエナ様達と脱出する時・・・。思った以上にですが・・・その、臭いが」「何ーっ!!ウチのリエナちゃんが臭かったというのかーっ!!」「い、いえ、そうではなく・・・」


 隊長から事前にあの場でのあらましは聞いているミゲイラ。大事な話の最中でも可愛い娘の話題が出た途端、父親モードとなって急に怒り出した。


「話の腰を折るのが好きですね。相変わらず」


 それに対して昔からの付き合いがあるベングットが呆れて果てた。

 隊長は1つ咳ばらいをしてミゲイラにも分かるように説明した。


「そういう話ではありません。私が言いたいのはあの時・・・。確かにお嬢様も我が騎士も落ちたのですが・・・。それほど強い臭いを発しておりませんでした。いえ・・・下手をすればあの空間も・・・」


 次々と、鮮明に思い出されていく記憶を辿っていく隊長。しかしその話の途中で、いくつもの腑に落ちない出来事があった事にはたと気付いた。


「そうです。そもそもあそこは最下層の秘匿エリア。いくらあそこが魔法による保護がなされていたとしても・・・」「臭いが立ち籠らない(・・・・・・)わけがない」


 後を引き継ぐようにベングットが答えると、それに同意する様に首を縦に振った隊長。


「どういう意味かな・・・?」


 流石の不可思議な話に領主モードへと戻ったミゲイラ。


「私も調べに向かった時に気付いたのです。念のために臭いを防ぐ布を口に巻いたりして。しかし・・・それ以前の問題でした。壁や臭いどころか、下水道の水。延いては排水している水の中の溝にまでほとんど無くなっていたのです」「何が?」「汚れが」「・・・・・・はあっ?!」


 理解できないミゲイラが素っ頓狂な声を上げた。隊長は黙って驚き、口を挟めずにいた。


「いくら何でも排水の中の汚れまで取るなんてどうすれば出来るのか・・・」


 ベングットは橋を渡って向かい側にまで伸びるほどの広さと深さの在る排水溝を見た時を思い出して首を振ってしまった。

 その反応が嘘ではないと確信したミゲイラは恐る恐るといった感じで確認を取る。


「・・・確か・・・かい?」「ふ・・・。アナタも見れば同じ反応になりますよ」


 鼻で笑ったベングット。これにはミゲイラもどう答えたらよいのか分からなかった。


「一体何が・・・」


 下水道が綺麗になる事は非常に嬉しい事だが、全く理解が及ばないのでは逆に不安になってしまうものだった。


「そのモンスターが全てどうにかしてくれたのか?」「だったら、ウチの冒険者もそちらの隊長さんも入った瞬間に気付いたはずです」


 振られた隊長がただ頷いてミゲイラに答える。


「・・・」


 これには頭を抱えたくなるミゲイラ。モンスター騒動の事は知られていないのであれば無かった事として伏せる事は出来る。が、そもそもの原因何なのか分かっていない。

 先ほどの話で虫型モンスターとの関係性が薄い事は分かったが・・・それだけだ。肝心のその理由。意図。それが分からなかった。


「「「・・・(分からん)」」」


 この瞬間の3人の境地は似た様な所にあった。




〔そういえばジン。粒子化はどうでしたか?〕「(んー・・・。無理)」


 ジンは1人、部屋のベッドに寝転びながら、サポートの問いに1つ頷いて答えた。と、そこでフと思い出し首を傾げる。


「ん?(あれ?確か、マナのコントロールを極めると粒子化するんじゃなかったっけ?100%のポテンシャルを出すのが、粒子化だっけ?)」〔ああー・・・そういえば・・・〕


 サポートは、クリスとして初めて転移?転生?したその時。まだジン(純)の魂には宿っていなかった。その為、たまに断片的に記憶がジン(純)本体からフラッシュバックとして入ってくる情報からしかジンの過去を知らなかった。

 彼の魂の一部ではあっても、生まれたのは最近の事だからであった。


〔私も、そのジンにその説明をしてくれた召喚獣の猫と召喚者にはあった事がありませんね〕「(ミミとレイシーさんか~・・・。今頃どうしてるかな?・・・まあ、レイシーさんは変わらず本に埋もれてそうだけど)」


 懐かしく感じて、思わず笑みが零れてしまったジン。

 そろそろ寝ようと起き上がり、魔法で点けられていた部屋の特殊な照明器具を消して再びベッドに潜った。


「(ま、どっちにしたって今の俺では粒子化はそう使えない。あの時よりは感覚的に使えた気がするけど。結局、あの戦闘の後、身体がガクガクで助けてもらわなきゃならなかったし)」〔あ、その事なのですが・・・〕「?」


 布団を被り、さあ寝ようとした時にサポートから話が合った。


〔前回の戦いでまだまだなのは分かりました。これまでの戦いでは体内マナを循環させ、コントロールする事に重点に置いていましたから〕「(それは、そうだよ。だってそれでいつも戦っていたんだから)」〔ええ。ですが粒子化と今回の原初の魔法はすべて外。まあ狭い範囲の限定的な場所でしょうがジンの周囲に干渉していたと思われるのです〕「(ふん・・・なるほど)」〔分かってませんね?〕


 ジンの言葉尻が上がっている事で気付いたサポート。図星を突かれたジンは適当に笑って誤魔化した。


〔・・・はぁ。まあいいでしょう。ジンが粒子化している時がどういう時かは大体わかりましたから〕「(え?どんな時)」〔心が強く動いた時です。正確には感情。想いです〕


 ハッキリと断言する相棒。しかし、ジンの中ではイマイチ分からない様子だった。


「(そうか~?だって今回のは──)」〔今回は彼女達。リエナとパミルが全力を出して、あなたに後を託しました。その時のジンは確かに彼女達の想いに応えようとしたのです〕「(んー・・・そうだったか~・・・?)」


 発動後に来た疲労感の辛さと。その後の飛行という可能性に夢を馳せ、ジンはその当時の事は良く思い出せないようだった。まあ、その夢に関しての結果は言わずもがな。ギルドの片隅で真っ白になっていたのだった。


〔あの時は、全力で持って応えようとしましたし。それに、魔法による事象の上書きという、今までにないマナの扱いとコントロール。結果、私達は更に緻密にその世界のエネルギー。マナに対しての扱い方の高みに上ったのかもしれません〕

「(でも、あの時って確か対抗心を燃やしt)」〔私達も更に上へとステップアップしたのです〕


 思い出し始めたジンの言葉に被せるように言い切られる。


「(・・・。まあいいや。それで?何がどう変わったの?)」


 先に進まない可能性を考慮して、ジンは一旦その話を脇に置いた。


〔まず、緻密さで言えばですね。矛盾しているとは思いますが、この世界に来た当初はマナを使うのにもかなりの力を注いできたはずです〕「(ああ、そうね)」


 よくぞ聞いてくれたというように嬉々として説明をするサポート。ジンは最初の頃の出来事を思い出していた。といってもそれも2ヶ月も経っていないので昔というほどの事でもなかった。

 当時は自身の体内のマナの流れ方が不安定過ぎて少々戸惑っていた事を思い出す。


〔あれは、私達の魂がこの世界に馴染めていない事もありましたが・・・。そもそもの話、この世界のエネルギーと私達のマナがそもそも合っていなかったのです〕「ん?(どゆこと?)」


 苦戦していたからそれを合わせるために馴染ませるために頑張っていたのだろうと思うジン。しかし、サポートの気配からどうやら違うと否定している様な意志をジンは感じ取った。


〔分かり易く言うとボタンのかけ違いです。別の言い方をしますとボルト・・・。電圧の違いともうしましょうか〕「・・・」



 ますます意味が分からん。というのがジンの気持ちだった。






 【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 13

 魔法値 11

 潜在値 8


 総合存在値 12


 スキル(魔法): 硬軟緩衝

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