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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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240 ヒーハーしようぜ!! 「・・・おかしい・・・」

「(っと。流石に簡単には無理か)」


 ジンが飛び出した時、元々遮るようにして飛び回っていたイナゴの群れが阻んだ。いくら虫達より早く飛んだとはいえ数が数。ジンの移動速度に反応は出来なくとも、軌道上に飛んでいる進行ルートでは接触事故を起こしてしまう。


 ジンはすかさず棒の両端で輝いている刃で切り裂いていく。しかし、これは少し体を動かすだけで減速する事を意味していた。床の石畳を踏み砕くほどの勢いで飛んだとはいえ数回、数十回と斬り伏せて行けば画用紙に到達する頃には、虫達が先回りする事も可能になっていた。


「・・・(このっ)」


 何とか濁った黄色い歪なマナのオーラを周囲に撒き散らしていた画用紙に到達。ジンは一太刀?入れるつもりで振りかぶったが、防衛機構なのか、それとも意志があるのか。ヒラリと躱しジンから逃げる様に後方へ、虫達を盾にする様に逃げてしまった。


「(逃がすかっ)」


 ジンは十時影 純の時に地球で身に付けた風と水の魔法によるアレンジを加えた飛ぶ斬撃で追い打ちを掛ける。今回は、棒の両端に刃が出現している状態なので、手首を使って回転加え乱撃にしていた。


〔ダメです。虫共の数は減らせますが、あと一歩届きません〕「っ・・・」


 歯噛みしそうになるが諦めず乱撃を続けた。途中、ほんの少しのジンの周囲に空間が空く。その瞬間を見計らって、腕を引き、体内マナを溜めて斬撃を飛ばす。重い一撃となったソレは先ほどの比ではない範囲に拡がった・・・が。


「(集団で盾になるのかっ・・・)」〔ジン、横から来ます・・・!〕「っ!」


 ジンの斬撃に向かって画用紙を守るように突っ込んでいくイナゴの群れ。その数はリエナの時とは比較にならず。ほとんどジン達の周囲は虫達の視界で埋め尽くされていた。

 大量にガラスの結晶になって消えたり、バラバラになって3階層の床に落ちていく虫達。

 そんなジンが視界を遮られる中、突進してきた巨大イナゴに気付いたサポートがマナの世界で向かってくる方角を教え、ガードを指示する。


 タックルを受け、一気にイナゴの群れの外。3階層の壁にまで吹き飛ばされる。


「(あぶな・・・)」


 壁に足で着地?したジン。大きく壁にヒビが入った。ジンはすぐさま壁を蹴って床へと回避した。そのすぐ後をイナゴが壁にぶち当たっていった。回避という事を考えていない捨て身のタックルだった。


〔空中では向こうの方が有利ですね。しかし・・・〕「(あいつ・・・。絶対、降りてこないだろ)」〔はい〕「・・・」


 少し不満に思うが向こうからしたら危険人物にわざわざ突っ込むわけがない。ジンは向かってくる虫達を屠りながら立ち回り、もう1匹の面倒な相手。巨大イナゴの居場所を再度確認して間合いを測る事にした。


〔あの巨大虫は全力で阻むことにしたようですね。従者を送り込んで機を伺っているようです〕「はぁ~・・・メンド・・・」


 思わず愚痴を溢してしまうジンだった。



 遠くでジンと虫モンスター達の戦闘を見ていた3人は呆然としていた。何故なら、ほとんどイナゴ達が視界を遮って何が起きているのか分からないからだ。だがそれでもかなりの数が決まった方向へと目的を持って向かい。その度に、たくさんのバラバラになった虫達がボトボトよ床に落ちていく事から戦闘は継続している事は理解できた。

 そして何より驚いたのは・・・あれだけの膨大な数に加え、巨大イナゴがたった1人の小さな子供にしか意識を向けていない事だった。それは、つまり・・・。


「・・・圧倒的ですね」「・・・アレって彼が倒してるのよね?」「ん」


 隊長は愕然とし、リエナはまだ理解が追い付いないない部分があるのか親友に聞く。パミルはそんなリエナに力強く頷いて事の成り行きを見守った。


 しかし、ここでリエナは疑問に思い2人に聞いた。


「でも・・・さっきからジン君は何をしようとしてるのかしら?たまに上に方に向かって何かを飛ばしているようだけど・・・?」「はい・・・。それに、彼のその行動に対して虫達は全力で盾になるように守りに入っています」「・・・何かがある?」


 巨大イナゴですら、何かを守り阻んでいる行動を、3人は不思議に思い始めていた。当然ジンの放つ斬撃と虫達の全力で守ろうとしてるのか、何かの先の直線状を見る。


「・・・分かる?」「(フルフル)」「同じく」


 3人には何も見えない。だがジンや虫達は明確に何かがある事をその行動で示していた。


「(魔力・・・?ひょっとして、特殊なマナの集まりとか・・・?)」


 リエナは目を閉じてジンに教えてもらったやり方で、マナの気配を察知しようと試みる。そんなリエナの行動に気付いたパミルも同じく探ろうと目を閉じた。

 2人の前に立っている隊長だけが、未だに戦闘中のジン達の行動の意図に気付けず疑問が晴れる事は無かった。


「・・・っ!」「っ!パミル!」


 声を掛けられたパミルはリエナに反応に頷く事で返した。突然の声に驚きつつも振り返る隊長。


「な、何か解ったのですか?」


 2人はハッキリと首を縦に振った。


「正確には分からないけど・・・彼が向かおうとした先。虫がいた先で変なマナが集まってるのよ」「(コクン)。汚染されているのか、明らかに違うマナの集まりがあそこにある」


 2人が指した方角は全く同じだった。巨大イナゴの背後、数メートル後方の何もない空間を示していた。


「あんな所に?・・・私には何も見えませんが・・・?」


 そう言いつつも隊長は不慣れなマナを感じ取るという方法を試みる。自身のマナを扱う方法は実戦経験である程度は可能。しかし、長けていると言ってもそもそもが魔法タイプでもなければジンやサポートの様に体内マナ・・・世界のエネルギーを感じ取る訓練をした事も、そんな発想になったことも無い。

 だからこそ、自らやった事のない分野に触れるという挑戦は、普通に考えれば凄い事だった。


「・・・う~ん。・・・私ではうっすらとしか見えませんが・・・。確かに、あそこで揺らいでいるような感じが・・・」


 ほとんどそんな気がするという、あやふやなモノでしかないと隊長は言った。それでもリエナとパミルがあるというのだから嘘ではないと信じていた。

 それに・・・。隊長は戦闘経験からくる直感という意味では、それは当たっているのだろうとも考えていた。


「(確かに、そうでなければ説明が付かないだろう。しかし・・・)」


 そこで冷静になって考えられるのは・・・どうすれば良いのか。何をしたらこの状況を打破できるのか、である。


「今の我々では、彼の足手まといにしかなりません」「「・・・」」


 満足に戦える状況ではない。愛剣は破壊され、魔力はガス欠寸前。支援タイプのパミルも体内マナの残量は心許なかった。

 しかし、ここで手をこまねいていても埒が明かない事は3人も分かっていた。

 それに・・・。ジンがいつまでもあの状態を維持できるとは3人には考えられなかった。


 たくさんのイナゴの死骸が床に落ちてくる。それも少し経つとガラスの結晶となって消えていく。しかし消えるよりも前に上からどんどんと追加され、山積みになっている箇所がチラホラと出来上がっていた。

 ジンは地上と空中を行き来しながら何度も迫りくるイナゴの群れを排除していた。


 空中に跳ぶのは回避と、画用紙を狙う為だが当然、阻まれるために地上に戻るを繰り返していた。工夫しなくては意味がない事は分かっているが如何せん邪魔なモノが多過ぎた。

 ジンの魂と肉体は強化されているとはいえ、練るための時間も与えられないのではどうしようもなかった。

 サポートによる補助もジンに対しての強化。周囲の感知と把握。それに加えて、念のための重ね掛けなどで、リエナ達の周りに魔法による保護に割いている為に少しだけ余裕がない。


 ジンも体内マナで強化して実際に動き回っている。今のところ、対応は出来ているのだが後ほんの1歩、いや半歩足りなかった。キッカケが作れないとどちらかがエネルギー切れに陥るまで長期戦になるのは必至だった。


「(参ったな~)」〔ええ。少し困りました・・・〕


 当の本人達は軽く悩む程度だが、機会はそこまで先じゃないとどこか気楽なものだった。


 だがリエナ、パミル、隊長の3人にとってはそうは見えなかった。


 そして決断を下す。


 カッと目を瞑っていたリエナの瞳が開かれた。


「パミル、彼に補助魔法を掛けて。アナタはそこに倒れている騎士か冒険者の武器を拝借しなさい。無いよりはマシでしょ?」「うん」「わ、分かりました」


 いきなりの指示だがこういう時のリエナの決断力にはいつも救われている隊長とパミルはすぐさま行動に移った。


「私のなけなしのマナを受け取りなさい」「え?そんな事が出来るのですか・・・?!」「たぶんよ・・・!私も初めてやるんだから」


 そう言ってリエナは、丁度良い剣を見つけると勝手に借りて状態を確かめている隊長に向かって手を伸ばした。


「?・・・これは・・・」


 それはパミルの補助による身体強化と、それとは別に自分の中に流れ込んでくるマナのエネルギーだった。



〔なるほど・・・あういう方法も出来るのですか〕「ん?」〔いえ、こちらの話です〕


 サポートは体内マナを感じ取らせる方法には使っていたが譲渡する、あるいはそれを使って増幅させるブーストには使用したことが無かったと思い出す。


〔(魔法による身体強化とは違いますね。エネルギーそのものを変換?しているのでしょうか?・・・本来の彼が持つ波長に合わせる様に・・・)〕


 戦闘の最中でもサポートは勤勉だった。いや、趣味に向かって突っ走っているとも、この場合は言えた。



「ありがとうございます、お嬢様」「はぁ~・・・本当に限界」


 気持ちげっそりした思いで突き出した手をダランと下に落とすリエナ。


「こっちも強化は完了」「感謝します。パミル様」


 隊長は体の調子を確かめるとジン達が張ったシャボン玉の膜から出て行った。


「(・・・コレは・・・私達を守ってくれていたのですか。外に出た途端に感じる、この濃度の濃くて重い重圧感・・・。こんな中で彼は・・・)」


 自分が仕える、将来有望な2人のまだ幼い魔法使いにも当然驚いたが・・・。それ以上の存在が向こうで戦闘をしている姿には、もはや恐ろしくて寒気すら覚えそうになった隊長。

 それでも味方であることに喜びつつ口元に笑みを浮かべて前へと歩き出したのだった。


「私達の方でもフォローするから。あなたも上手く、ジン君は動きやすくなるよう時間を稼いで頂戴」「承知」


 返事を返すと同時に、ジンとイナゴの群れに向かって隊長は突貫していった。


「パミル・・・。私達は・・・最悪──」「ううん。言わなくていい」「・・・」「何となく分かるから」「・・・そ。・・・ありがと」「ん」


 親友同士だからこそ分かるモノがある。リエナもそれ以上は何も言わずそれぞれ、体内に残っているマナを出し切るつもりで全力で練りだした。


「狙うのはあそこの歪んでいるマナ。たぶん何かしら起きると思う」「ん。最悪、それを守るあの大きな虫に当てればいい」「それすれば」「きっと・・・」


 勢いよく顔を上げて上空、巨大イナゴの後方で蠢くマナを睨みつけるリエナとパミル。


「「(きっと・・・あの子が何とかしてくれる・・・!!)」」



 リエナ達が魔力を練って最後の特大魔法を放とうと機を伺っている頃。


「すまない・・・!微力ながら助太刀させていただく」


 突貫してきた隊長はイナゴの群れを斬り伏せながらジンの近くまで来て大声で伝えた。


 ジン自身はサポートからの報告で既に気付いていたので分かっていたが、ここは口に出して答える。


「ありがとうございます。もう大丈夫なんですか?」「・・・。こういうのは間違っているが。正直に言うと、本調子とは程遠い」「(はは・・・確かに、騎士の隊長という立場からしたら言うべき所じゃないのかもね)」


 ジンは心の苦笑しつつも、正直に言ってくれる隊長に好感が持てた。戦いにおいて見栄も大事だが、ちゃんとした戦況、戦力把握もまた大事。良い方向にも悪い方向にも転んでしまう戦いの中で、正解を探すというのはなかなかに難しい事だった。


 ジンと隊長は迫りくるイナゴの群れを屠りながら会話をしていた。


「ここに来たって事は何かあるのですか?」「いやっ・・・私の方ではっ・・・!はああーっ・・・!!しかし、リエナお嬢様の方で策があおりの様です。私は、っ!それをっ。しんっ・・・じます!」


 何度も動き回りながら隊長は必死に多くのイナゴの群れを倒していた。一匹の強さは大したことが無くとも数匹単位でチームの様に組んで襲われては隊長の話をするのは難しい様子だった。


 ジンは隊長とは少し離れた場所にいるがもはやダース単位の数ではない。もはやショットガンの弾よろしく散弾のようにイナゴが突貫してくるのだ。床や壁、仲間にぶつかって爆散なんて気にしない突撃だった。


「(リエナ達の方で何かあるようだけど・・・?)」〔ふむ・・・なるほど。魔法の練り上げと彼女達の見上げている方角・・・。おそらく画用紙か巨大な虫型モンスターを狙っているのでしょう。モンスター達はこちらに全振りしているようですし。タイミングを計っているのかもしれません〕


 イナゴ集団に覆われてジンには見えないがサポートが代わりに分かった事を説明してくれた。


「(えっ・・・!それって、大丈夫なの?)」〔多少ダメージを受けて、怯んだりしてくれればいだろうと考えているのかもしれませんね。2人の体内のマナ残量ではそれが限界なのでしょう。その隙を突いて私達が何とかしてくれると思っているのでしょう〕「(いや、それはちょっと)」


 これまでの経験で勝手だとは思うが、自らの自己犠牲は良くても、他人がその行動を選択する事には反対に思ってしまうジン。

 本音で言えば、すぐにでも別の方法を考える様に話をしたいが今はそれが出来ない。何とも歯がゆい思いに少しだけ顔に皺が寄ってしまう。


 だがここでサポートから話を持ち掛けられた。


〔彼女達の作戦は尊重しましょう。その上で提案があります〕


 自分自身の為に動いてくれる頼れる相棒。その言葉には元気を与えてくれるが・・・逆に不安も齎してくれる。


〔兼ねてよりやってみようと思っていた事があります。ぶっつけ本番ですが、やってやれない事はないでしょう〕


 とても不穏な言葉だった。


〔急成長しているのは彼女達だけではありません。ジン・・・!私達もやりますよ・・・!〕


 姿はないがメラメラと闘志を燃やしているような幻覚が見えてしまうジン。


〔さあ行きましょう。負けてられません〕


 どんどんと気合いを入れている様に感じるジン。


〔さあ、私達も・・・突貫です!!〕


 そこまで対抗意識を燃やさなくてもとか、気合いを入れなくてもとか思うジンを置いて。サポートは勝手に体内マナを強制活性化させ、循環率を加速度的に引き上げたのだった。






 【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 7

 魔法値 7

 潜在値 5


 総合存在値 9


 スキル(魔法): 緩衝

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