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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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238 ドアップは止めてください。(割とマジで・・・)

 まるで周囲で流れている滝のように大量のイナゴがどこからともなく出現。リエナに向かって殺到するのだった。あまりの数に一瞬でリエナの姿が誰にも見えなくなった。もちろんそれは、呼び寄せた巨大イナゴでも・・・。


 人間の様に柔らかい表情をしているわけではないが、その目や雰囲気にはニヤついたような、勝ち誇った様な空気を醸し出していた。


 しかし、その余裕は一瞬で消えた。


 ボガアアアンンン・・・!!


 一瞬、空気が中心に吸い込まれた様な現象が起きた後、特大の爆発が発生した。先ほど召喚されたばかりの大量のイナゴだが、そのほとんどが原形留めることも無く消失していた。残っているモノも体が半分以上が失い、真っ黒の消し炭になって空中からボタボタと床に叩きつけられていく。

 そして落ちた先からガラスの結晶となって消えていった。


 流石に予想外だったのか巨大イナゴですら固まってしまった。

 その従者であるイナゴ達は主人からの指示を失い困惑してその場で足をバタバタさせ右往左往していた。まさに混乱状態だった。


「・・・消えなさい」


 スッと片手を前に突き出したリエナが火の魔法を放つ。今までは火の玉等を直線的に放っていた普通の玉だった。しかし、今回放った火は色が少し違った。黄色がかった朱色へと変化していたのだ。更にはその火は追尾性能があるのかホーミングする様に1匹1匹目掛けて飛んで行った。


 飛び上がり本能で避けようとするが、すぐに軌道を変えて追いかけ燃やす。絶命する瞬間の鳴き声すら残さず一瞬で燃やし尽くしてしまうのだった。


「・・・」


 そしてゆっくりと手を下ろす。リエナの瞳が捉えているのは巨大なイナゴモンスターだけだった。


 ここで初めて立場が逆転した。

 今まで恐怖を与える存在だった巨大イナゴがリエナという存在に恐怖し後ずさったのだ。


「逃がすわけないでしょ」


 そう言うといつの間にか巨大イナゴの後方で突然炎上が発生する。


「~~~~っ・・・!!!!」


 直撃していないとはいえお尻辺りや、そこから伸びた羽に火が付いた。それはもはや熱いというレベルを超えて、即痛みに入るという領域だった。


 混乱する中、巨大イナゴはなりふり構わず鳴いた。そして、それに呼応するかのようにどこからともなく無数のイナゴの群れが召喚され、下水道3階層の空間を覆い尽くさんほどに溢れかえっていた。


「・・・邪魔よっ!」


 リエナが吼え、それに反応して魔力が膨れ上がり爆発した。


 火と火が連鎖する様に爆発して、地上や上空を埋め尽くしていたたくさんのイナゴ達が燃やし尽くされていった。


「・・・?」「・・・?」


 その連鎖的な延焼は仲間の冒険者達はもちろん、負傷した隊長の回復に向かったパミル達にまで伸びていた。しかし、リエナの意志に従っているかのように彼女達に火が移る事は無く。パミル達を素通りして敵対するイナゴだけを燃やしていく。


 そして、火が掻き消えた時。残されたのは巨大イナゴたった1匹になってしまっていた。


 そんな敵の方へとゆっくりと向き直るリエナ。蛇に睨まれたカエルの様に巨大イナゴは身動きが取れなくなってしまった。


 巨大イナゴは何を思うのかリエナには分からない。しかし、そんな事はどうでも良いと思った。


 1歩、リエナが踏み出すと、僅かに跳ねるように動く巨大イナゴ。


 更に1歩、リエナが近づこうと踏み出した。


 が、それは無理だった。


 膝を曲げ、前に歩み出した瞬間、そのまま流れる様に倒れ込んでしまったのだ。


「え?・・・リエナ?」


 無事、隊長の欠損した部位も含めて回復を終えて、状況を見守っていたパミルはいきなり倒れてしまった親友に困惑してしまった。しかし、その理由は自身も身をもって知る。


「うぐっ・・・(え・・・?)」


 突然襲われた気持ち悪さの後、視界がブラックアウトしていくのを他人事の様な認識でとらえてパミルもリエナ同様倒れ込んでしまったのだった。


 それは他の者達も同様だった。バタバタと倒れ込み、誰も起き上がる事は無かった。

 何が起きたのか、よく分からない全員が気絶したのだった。



 理解できないのは巨大イナゴも一緒だった。しかし、それも少しの事。突然、現れた恐怖が消え失せて困惑していたが、それも落ち着いた。

 そして目の前に転がる人間を獲物として再び認識して見た時。自然と忘れていたかのように大量の涎が口から垂れていた。いつの間にか、リエナに焼かれてしまったはずの顔の後は、綺麗に無くなり溶解液になっている自分の血は吐かずにすんでいた。


 先ず誰を食べようかと選り好みをするように顔を行き来させる巨大イナゴ。


 しかし、その視線はリエナで止まった。

 やはり、自分に恐怖を与えた生物をこのままにするのはマズいとでも考えたのか、迷うことなく近づいて行く。


 突然、起き上がる可能性も一応警戒しているのか。僅かにでも動き出さないかとずっと視線をリエナから外さない。


 そして目の前。後ちょっと、口を開けて前に踏み込めば喰えるという状況になった時。先ほど以上に口から涎が垂れていた。


 ただの獲物でもこれほどの涎が出た事は無い。しかしイナゴにとって、それの理由が何であろうとどうでもいい事だった。


 ただ目の前に美味しいエサがある。それを食べればいいだけだから。


 口を開けてゆっくりと近づいた時だった。


 ドバアアアアン・・・!!


 遥か上空から大きな水しぶきを上げて何かが吐き出された。それに巨大イナゴが気付いたのは先ほどまでの戦闘による警戒心が尾を引いていたからだろう。

 せっかくの食事を目の前にしてお預けをくらったのだった。


 一瞬にして、邪魔されたイラつきから巨大イナゴは吐き出された何かを排除しようとジャンプした。

 その勢いと風圧は倒れていたリエナを吹き飛ばす。


 だが今はそれよりも、瓦礫であっても、よく解らないモンスターの死骸であっても邪魔するモノは何であれ許さなかった。


 邪魔されること何度目か、いくら無視である巨大イナゴでも我慢の限界だった様だ。



「・・・ん?(・・・っ!虫っ!)」


 突然、目の前に急接近してくる巨大な虫には流石に耐性が無かったのか問答無用で手にした棒で叩き落としてしまった。


 ドガアアアンンンン・・・・・・!!


 その巨体が弾丸となって床に叩きつけられる。それでもその勢いは止まらず空中で数回転して遥か遠くへと飛んで行った。


 ドサ・・・。


 遠く離れた所で微かにそんな音を聞きながら、ジンは秘匿エリア3階層に到着したのだった。




 少し前に遡る。


〔ジン。このまま正規のルートを通ると、かなり遠回りになりそうですよ?〕「じゃあ、何か手は?」〔ここはショートカットしましょう〕「お願い」


 この手の緊急時はサポートに案を任せている事が多いジン。今回も急いでいる為にすぐに頼むことにした。するとサポートによるマナの視界を通してナビゲートする様に下水道の水の中を矢印で示した。


「え?」


 これには素で理解できずにその場で急停止して止まった。


〔私達も流されましょう。幸い、この下水道。ある程度の識別があるようで私達がおそらく送られる場所は決まってくるようです。コレを利用して、急いでリエナが流された場所へ追いつきましょう~♪〕「・・・マジかよ」〔大マジです〕


 肉体があれば片手を上げてノリノリといいそうな言葉を発しているであろうサポート。そんな相棒に戸惑いつつも、それが最短で言われてしまえば取らない選択肢は無いように思える。


「・・・(でもな~・・・)」


 緊急時なのはわかるが、如何せん下水道。躊躇う気持ちが出てきてしまう。


〔リエナ達が危ないのですよ?〕「(うん。それは分かってる)」


 言いたいことは分かるし、気持ちも理解できる。がどうしても1歩踏み出せないでいた。人命優先そんな時に四の五の言う場合ではないのはジンも分かっている。ここで立ち止まっている間にも事は一刻を争う。

 ジンが躊躇ってしまうのは、何も汚水だけが理由ではない。


 それは運動神経。今でこそ身体能力が鰻上りの爆発的に向上しているが、かつてはそれこそ運動音痴も良い所といった風体だった。その状態での水泳何て文字通り、泳げているのか怪しいと言われるレベルであった。

 学校の教師に気を使われるという事態になるのは考え物であった。


 だからこそジンは飛び込んで無事に問題なく辿り着けるのか心配だった。もちろんサポートという頼れる相棒がいればある程度は問題ないだろう。しかし、今までの嫌だが経験がある。大丈夫という確信が持てないのだった。



 だが、そこでもすぐに更なる案をジンに持ち掛ける事が出来るサポートさんだった。


〔そうです。今はシャボン玉という魔法が使えるではありませんか〕「緩衝ね」〔それです。それを使ってジンの周りを、かつて地球で使用した魔法のように覆うのです〕


 サポートが出したのは地球でジン(純)が魔法を使い、熱さ、寒さをしのぐために粘膜の要領で覆ったことを言っていたのだ。


〔もし不安なら私の方でサポートしますので、その膜の範囲を広げて見ても構いません。更には汚水の中に魔法を流し込んで見ましょう。原初の力を駆使すれば、ある程度こちらの都合よくこの世界のマナが言う事を聞いてくれたりするかもしれません〕「あれ?上書きじゃなかった?」〔要はコチラの都合のいい様に作用させるのです。同じ意味でしょう〕「そうかな~?」


 なかなか豪快な解釈を交えて、サポートはジンにさっそく実践させることにした。


〔(やっと、清掃以外のやり方が楽しめます♪)〕「楽しんでない?」〔気のせいです。さあ、急ぎましょう〕



 そう言ってサポートの指示の下、水の中に飛び込んだジン。


 最初は清掃のついでに使っていた魔法。それを今度は直接潜って、汚水の中を原初の魔法で上書きした。ジンとサポートの願いとも言えそうな原初の魔法の上書きで見る見るうちに汚水の中が浄化されていく。

 見た目が綺麗になるのはもう少し時間が掛かる。が、それでもジンの放つ魔法で本来数年単位分の掃除に必要な労力があっさりと変わっていく様は常軌を逸していた。


 これを知らないのは本人達だけである。


 とにかく、浄化されていく水の中を含まれていた大量の自然のマナの力をも借りる事で、ジンは目的地まで一気に泳ぎ切ったのだった。


 しかし・・・飛び出した瞬間。目の前に現れたのが巨大なイナゴだったのが、ジンにとってはトラウマモノになりそうな出会い方だったのだが・・・。



「何とか間に合ったのか?」〔どうやらその様ですね〕


 着地すると同時に周囲を見回す。倒れているリエナ達を見つけたジンは慌てて、近くに居たリエナに近づいて行った。そして倒れた彼女を抱き起そうとする。


「リエナ・・・!」「・・・」


 その時、無意識に彼女の体に触れ。


 サー・・・。


 みるみる内にリエナの服から黒ずんだ汚れが無くなっていく。臭いも心なしか浄化されていく気がした。


「・・・何これ?」〔下水道の中に落ちていたのですし。そのせいで彼女の体が汚れていたのでしょう。まだ私達は魔法を解いていなかったので上書きされて洗浄されているのではないかと〕


 説明してくれたサポートの言う通りか、リエナの服は乾いていたが少しだけジンが触れた事で湿っていく。代わりにその濡れが染まっていくに従って彼女の衣服や肌の汚れがみるみると綺麗に落ちていった。


〔流石にこのままでは風邪を引いてしまわれますね〕


 そう言うとマナを利用して、濡れた先から風を送り込んだ。服を湿らせていく用量と同じような方法で急速に乾かしていく。


〔マナの上書きを利用した方法です。濡れた所だけを細かなマナの働きで水を除去させていきました〕「便利・・・」


 あっさりと事も無げにこなしてしまったサポートに、素直に感心するジン。しかし、そんなジンの感想をさておいてサポートは別の話題に入った。


〔彼女達は無事の様ですね。気絶しているだけの様です〕「でも何で?」〔分かりませんか?〕「え?」


 そう言われても急には分からないジン。仕方ないとサポートはヒントを与える。


〔よく見てください。先ほどまで感じたモノと違うはずですよ〕「(よくって・・・何を?)」


 ジンはリエナをジッと見る。ほっそりとした体だが別に痩せすぎているとは思えなかった。髪や服にもしっかりと気を使ったファッションで決めていた。まあ今回は、普段見ているお出かけ用の服よりかは幾分か動きやすそうな恰好をしていた。


〔ジン・・・。マナです〕


 リエナの頭のてっぺんからつま先まで見て首を傾げたジン。サポートが言いたかったことを理解していなかったのだろう。呆れたサポートは答えを告げた。


「あ、そういう・・・」


 慌てて気付いたジンは改めて、リエナの体内に巡るマナ。魔力の容量を確認する。


「・・・ん?(まあ、たぶん。たくさん戦闘を繰り返したんだろうな。魔力の残量がかなり少なくなってる・・・けど)・・・ちょっと増えた?・・・それにマナの質が・・・」〔はい。彼女達は所謂レベルアップをしたのですよ。急速なマナの向上に精神が耐えきれず意識が持っていかれたのでしょう〕


 現在、彼女のお屋敷に居候しているジンは自然とリエナやパミルと接触する機会が多い。そのため、彼女達の持つマナの波長、波形等を特にサポートが覚えてしまった。ジンも何となくだが彼女達の持つ力の底は分かって来ていた。

 それが今回の戦闘で、明らかに今までよりも多く濃くなっている事に気付いたジン達。


「(うん・・・。何となくだけど分かる。でも何で?)」〔先ほどここに向かう最中、大量に私達も戦ったイナゴの群れが召喚されていたのを感知しました。おそらくその数が膨大だったのでしょう。いくら1匹の能力や経験値が弱く、少なくとも1000を超える数となりますと〕「1000っ・・・!」


 予想以上の数に驚き、大きな声を出してしまったジン。3階層の広い空間に響き渡った。

 しかし、ジンの声に反応を返す者は誰もいなかった。


 否・・・。1つ・・・いや、1匹だけ反応したのがヨロっと立ち上がり動き出したのをサポートは感知した。


〔ジン、話は後です。・・・どうやら来るようですよ〕「ん?」


 何が来るのかと、リエナをそっと床に寝かせながらジンは周囲を見回した。すると遠くの方でヨロヨロしながら起き上がってくる物体を確認した。


「・・・どうしてあんなに」〔あなたが出合い頭に武器で叩き落したからです〕


 ついさっき自分が取った行動をすっかり忘れてしまっていたジンに説明をしてあげた。


「・・・ああ~。そうだった」


 思い出したのか分かり易く手を打つ。


〔・・・余程、苦手だったのですね〕「いや、流石にいきなりあのドアップはキツイだろ。流石に」〔・・・まあ、分からなくはありませんが〕


 サポートもまたジン(純)の魂の一部から創り、生み出された存在。その為、ジンの心情が分からないわけでは決してなかった。


「・・・それと・・・。アレは・・・なに?」〔さあー・・・?〕


 ジンは巨大イナゴを見ていた・・・のではなく、その数十メートル上空。そこに独りでに浮かんでいる怪し気や濁った色の黄色い波動を周囲に撒き散らしている大きな画用紙(・・・・・・)を見ていた。






 【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)


 身体値 7

 魔法値 7

 潜在値 5


 総合存在値 9


 スキル(魔法): 緩衝

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