229 ギブ!ミー!経験値ッ!
結果だけ言ってしまえば反省点が多いモノだった。
浮かれていた所もあった。
自分で取り組んでいた事がどんどんと上手くいってしまい有頂天だったのかもしれない。
だからここで、気を引き締めて冷静になりフラットな状態に戻した方がいいという相棒の言葉に耳を傾けたのは・・・結果的には正解だったと思う。
「すまない、回復薬と取りたい」「あ、はい」
ジンは急いで怪我をした人の下へと掛けていく。
「ありがとう」「っ~・・・。油断した・・・」「何をしてるの・・・もう~・・・」
腕を伝い地面に落ちる血。傷口が思った以上に深くまで裂けたという事なのだろう。仲間がジンの荷物から取り出した液体を怪我をした男に掛ける。傷はシュウシュウと若干だが煙を上げる。すると避けていた傷口が見る見るうちに塞がっていく。
目の前で独りでに傷口の皮膚が動き閉じようと動く光景はなかなかグロデスクだった。
「少ししたら完全に傷は塞ぐ。今度は油断しない様に進むぞ?いいな」「ういー。了解」「全く~・・・」
・・・。
〔予想通りと言うか何というか・・・。決して低くはないのですが・・・それほど・・・〕
サポートも言葉を選ぼうとしているくらいフォローに困ってしまった。
戦闘技術、知識に関して言えばジンよりも現場で常に仕事をして生きて来た彼等、彼女等の方が上なのだろう。
しかし、こと戦闘面。単純な戦闘行為に関して言えば・・・。
ジンはおそらく先ほど相手にしていた狐の様なモンスターやハリネズミの様なモンスター。ザ・ゴブリンと言ってよいのか不明だが小さい子供の様な見た目をした鋭い目つきのモンスターとはほとんど苦労という言葉とは皆無で倒せるだろうと思った。
これは決して、それに多少苦戦している光景は見られたが彼等が弱いわけではない。単純にジンが冒険者。正確に言えばこの世界に生きて戦っている者達が誰もが高いレベルであると思い込んでいた結果でもあった。
当然、誰もがいきなり強くなるわけではない。そんな楽ならもっと世界は形を変えているだろう。
これは期待しすぎた結果。ジンは心の中でそう思い込んで一度、冷静になろうと思った。
しかし、驚かされることもあった。
前回の、フォートレーヌに来るまでに騎士達が戦っていた時にはよくわからなかった光景だ。それが今回はハッキリと見えた。いや、視えているのはたぶん・・・ジンがサポートと同じくマナの世界を僅かに視認できるようになってきたからだろう。
ケガをしていた男。全体を指揮する男。周りを警戒する女性。杖を持ちいつでも戦闘できるように構えている女性。それぞれに4人の体に倒したモンスターが内包していたのだろうマナの一部が分配され流れている光景だった。
「(システンビオーネで聞いた話に似た感じだな。経験値って事かな)」〔・・・どうやらそうみたいですね。彼等の中で乾いた水が潤うように少しずつ満たされて行ってます。おそらくその器が壊れる。あるいは溢れれば・・・〕「(レベルアップか・・・)」
多少、分配に偏りはあるが出来るだけ均等になるよう配られている様子が見て取れた。
「よし、それじゃあ出発しようか」「ジン君も大丈夫?」「あ、はい」「そ、それじゃあ行きましょ?君も私達に付いてくれば少しずつ強くなっていくからね?」「はい、お願いします」「ふふふ。そんな畏まらないでくれ。私達が緊張してしまう」
1人の女性が笑うと皆が笑った。ジンも愛想笑いだがそれに乗って流しておく。
「(強くなるって事は・・・レベルアップも含まれているって事かな?)」〔かもしれませんね。後は純粋に知識と技術でしょうが・・・。私達には不足している部分も多くありますからね〕「(うん。これは勉強になる・・・)」
それぞれが出発をし始める頃。ジンもその後に続いて荷物を持ち直して、今回の討伐モンスター達が生息している森の奥へと向かった。
「(そういえば気になったんだけど・・・。この世界ってレベルってあるのかな?)」〔確かに。今回のステータスボードの表示ですとレベルという形では表現されていませんでしたね。おそらくですがそれの代わりとなるその者の実力の数値が・・・総合存在値ではないでしょうか〕「(あれか・・・。俺はかなりベルニカで馬鹿にされていたからかなり低いのかと思うんだけど・・・)」
ジンは少しだけ苦い思い出にとして新たに刻まれた記憶を掘り起こしつつ話に出した。
「(あれはあの国がそうなのかな?)」〔どうでしょう?これまで私達の数値は世間が見るとかなり食い違いがありましたからね~。いえ、別の考え方ですとこの子本人の実力が未発達過ぎた時にあの様な場所に行かなければならなくなったかと〕「(実力主義の様な場所に強制的か・・・。それが良いのか悪いのか・・・)」
ジンは目覚めた場所に思いを馳せた。誰もいない様なボロボロになったビル群。そこに1人、頭から血を流し倒れていたであろう姿を想像する。
〔少なくとも・・・この子にとっては苦しい人生になってしまったのでしょうね〕
サポートもジンの気持ちから考えを読み取って、同情する。
「(出来れば、この持つ主の子には幸せな人生を送って欲しいな)」〔もし、私達に出来る事がありましたら・・・その時は〕「(うん。やろう)」
少しズレてしまったリュックの紐を肩に掛け直して、4人の冒険者達に付いて行きながらジンは誓うのだった。
「(ボソ)いた。目的のブラッドラットだ・・・」「「「・・・」」」
索敵していた女性冒険者が仲間に合図を送ると全員がその場にしゃがみ込んだ。ジンも後方で倣ってしゃがむ。
「(ボソ)・・・80センチくらいか・・・」「(ボソ)という事はまだ大人になったばかり・・・」「(ボソ)早く見つけられて良かったわ」「(ボソ)そうだな。ならいつものやり方で倒すぞ?準備は」「「「(ボソ)OK」問題なし」大丈夫」」」
それぞれが頷くと散開した。魔法使いの女性がジンの方へと寄ってくる。
「(ボソ)いい、ジン君。私達が倒すまであそこにいるモンスターに決して近づかないで」
コクリと頷いて返したジン。それを確認すると女性もまた木々の間に隠れるように移動して魔法のタイミングを合わせる様に仲間の配置を確認しながら待機した。
ぐちゅん、ぎち、ぶちゅ・・・。
そんな事とは知らないブラッドラットと呼ばれる体毛の赤いネズミのモンスターは、先ほど出会ったザ・ゴブリンと思われるモンスターを喰っていた。
このような獰猛性があるからこそ見た目と相まって名付けられたのではないかとジンは思った。
一心不乱に食事をしている為にジリジリと近づいた冒険者達には気付かない。
だからと言って彼等も突っ込んだりはしない。先ほどまでのモンスター達と違い、このモンスターはそれほど危険性が高いという事なのだろう。
〔ジン、念のために〕「(分かってる)」
ジンは誰にも見えない位置で野球ボールサイズのシャボン玉を生み出した。
〔不意を突いて倒すのは簡単でしょうが、私達の今回の仕事は荷物係。あくまでも支援に徹しましょう。もしもの時は魔法を誰も見てない所へ投げてください〕「(このスキルを活かして近くで爆発?)」〔そうです。そうすれば以前倒した希少モンスターの鳥と同様。風の衝撃を与える事が出来ます。倒すほどマナを込めたりはしませんが怯ませるには十分でしょう〕「(了解)」
ジンが魔法をセットした丁度その時。冒険者達が動き出した。
「ッ~・・・!!」「ッ!」
弓を持っていた女性が矢をブラッドラットのお尻辺りに射る。上手く刺さったのだろう驚いたモンスターが振り返った。その隙を突いて両サイドから男性達が一気に斬りかかる。
「ぐっ・・・」「チッ。くそ・・・!頼む!」
剣を振り下ろした男は思ったよりも浅くしか切れてない事に瞬時に感触で気付くとそのまま2撃目を加えようとした。しかしモンスターもそれに気づいて反撃に尻尾でお外を叩き払う。細剣と短剣の男は初めから連続で切り裂くつもりだったのか浅い傷をたくさん作るが全く怯まないブラッドラット。
「・・・どいて!」「「っ!」」
魔法を発動手前状態で待機していた女性は仲間の合図と共に返事を返すと発射。
直径60センチの空気の塊が飛んで行く。
「ギュ?!」
危険察知したブラッドラットが即座に回避しようと動くが、時すでに遅し。
重い鉄球でもぶつけられたようにモンスターの体がめり込んだ。
「まだよ!」
そう言うと女性は魔法を発動。風の鉄球だった魔法がその場で性質を変化させ土の塊を生成。球体の中心から変化していき1本の太い杭が生まれていき、代わるように飛んで行くブラッドラットを追いかけて体を深く太く突き刺した。太い木に突き刺さって僅かな痙攣の後、絶命する。
一瞬の出来事であった。
「やったーっ!成功」
1番に喜んだの魔法を放った女性だった。
「初めて1発で変質出来た~♪」
何をと誰もが聞く前に言ってしまうほど嬉しかったようだ。
「初めてって・・・。ぶっつけ本番かよ」「・・・ちょっと心臓に悪いぞ」
文句を言う男と、驚き苦笑する男。
「まあ、これで楽に倒せたからいいじゃない。それにコレなら損傷もそれほど大きくない。報酬は悪くないかも」「ふふ~♪恩恵って言う意味でもね」
魔法使いがそういうのと同時に4人の中に先ほどまでとは比べ物にならないくらいのマナが1本ずつ、太めのホースの中に大量の水が流れ込んでいくように彼女等に送り込まれていった。
「おおっ。キターーーーッ!!」
そう言ってそれぞれが喜んでいると、細剣使いの男の器であろうマナの球体みたいなモノから吸収した魔力というエネルギーが溢れていく。するとジンにも視える感じで男の体の周囲をマナが湯気の様に立ち昇らせていた。
「(あれがレベルアップか)」〔どうやら今回は、相当経験値が手に入ったようですね〕
溢れ出た事によりレベルアップは完了したのか、彼等の体内にあった器がまるで水が初めから入ってなかったかのように消え失せていた。そして再び満たされ、また溢れていく。
「おお~・・・コレは、思った以上に凄いな」「かなり貯め込んでいたのかな?」「じゃない?まだ大人に成りたてでしょ?それでコレってかなりレアよ」
器が満たされ、空になり。再び満たされを数回繰り返し。彼等のレベルアップは終了した。
〔今回、初めて見ましたが・・・。この世界ではアレが普通なのかもしれませんね〕「(いつでもあの器は確認できるの?)」〔いえ、今回はたまたまかもしれません。もし気付いていれば・・・希少モンスターの時も〕「(あ、そうか。あれは疲れが溜まっていたからじゃなかったんだな)」
〔いえ。それも含まれますが・・・戦闘に直接参加しなくても、あの周囲にいる者達をパーティーと認識して経験値が分配されたのでしょう〕
ポートゥーキューを倒した時。気分を悪そうにしていた者達が数名いた。逆にリエナやパミル、騎士達はどんどんと元気になっていた。それはおそらくレベルアップに慣れているからだ。大量に入って来た経験値に体内のマナ。正確には器が、慣れない者の体にはおそらく驚いて混乱にも似た症状を起こしたのだろう。
この世界はシステンビオーネに似ている部分もある。ジンもかつて・・・昔ながらのクラシカルなメイド服に身を包んだ得体の知れない女性に何度も殺された(その時は特殊な指輪で何度も身代わりにはなってもらっていた)。
死にかける体験はジンの魂を急速に成長させた。結果ジンは、急激なレベルアップ酔いによって気を失ってしまったのだ。
あの時、気分を悪くしていた同行者の者達もたぶんそういう事だったんだなジンは思う。
「(あの時は気付かなかったが皆何かしらレベルアップはしてたのか~・・・)」
腕を組んで頷くジン。魔法はとっくに解除して霧散させているので誰も分からない。というよりも連続レベルアップに4人の冒険者達は浮かれていた為、気付かない。
〔所でジン・・・分配の方は・・・?〕「・・・。(聞かなくても分かるよね?)」〔・・・はい〕
ジンにはこれっぽっちも経験値は入ってきていなかった。
「(まあ、さっきまで倒していたモンスターでそうなんじゃないかとは思ってたけど・・・)」〔やはり私達の場合は、実戦での文字通り経験が・・・値になりそうですね〕「・・・はぁ」
この世界の様に、ゲームの様に・・・。モンスターを倒して毎回毎回経験値を溜めると言った事とは無縁の人生をこれからも歩み続ける事になるジン。肩をガックリと落とし、誰も見てない所でため息を吐くのだった。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 7
魔法値 7
潜在値 5
総合存在値 9
スキル(魔法): 緩衝




