227 遊びはほどほどに・・・
「・・・ココかな?」〔の、様ですね〕
そこはフォラウスト家の豪邸からそれほど離れていない所だった。リエナの家の敷地が大きくて気付きにくかったがこの辺りは比較的簡素な住宅街。地元でも利用するのは周辺に暮らしている住民に限られているのだろう。人で賑わう中心地とかけ離れている為かとても静か・・・いや、落ち着いた街並みだった。
〔いいですかジン?受けられるのは限られてます。慎重に尚且つ。確実に色々と能力の試せる相手を──〕「(だーかーらー。俺達の受けられるのはお使いとかその程度だって)」〔そんなの〕「(バレなきゃ大丈夫とかできないからね)」〔・・・〕
サポートから残念そうにする気配がした。それに思わずジンはため息を吐いてしまった。
今回、冒険者ギルドにお試し期間として入会する事が決まったのは昨日の事である。
「よろしい。では、早速私の方でやっておくので君は今日はもう休んでいたまえ」「ミゲイラ様っ」
と言って意気揚々、部屋を出て行った領主ミゲイラ・コン・フォラウスト。それに焦りつつも騎士隊の隊長が続いて行った。
「・・・はぁ。全くこういう所は昔と変わってないんだから」
呆れながらも優しい口調で去って行ったミゲイラを追いかける妻のカルローラ。
「うふふふ・・・。なんだか昔を思い出しちゃうわね~?」「止してよ、もー・・・」
パミルの母、リレーネの言葉に笑顔で返して共に去って行った。
それを見送って部屋に留まっていたジン、リエナ、パミルはお互いの顔を見合わせた。
「・・・ま、ジン君が冒険者になるのは問題ないわね。たぶん君なら・・・初心者くらいの実力はあるんじゃないかしら?」
ジンの実力が分からないリエナは、何となく自分の予想できる範囲で応援する。
「ん、問題ない。寧ろ色々とやってくれそう・・・」
それに対してパミルは明らかに違う事を期待している雰囲気があった。
「・・・が、頑張ります」
それは数々の前科があるからこその殊勝な言葉であった。
「所で、学園はどうするの?ジン君も来るの?」「出来れば同じ・・・クラスは難しいけど一緒の学園だといい・・・」「・・・さあ、それは何とも・・・」
学園に行くかどうか別にしても、それに関してはリエナパパにお任せするしかない。もし行くとした場合、手配をするのは彼だからだ。そこに自分の都合がそれほど入る余地はないとジン自身も分かっている。その上で学園について改めて考える。そして何気ない質問を口に出してしまった。
「学園・・・。学園って何するの?」「え?ジン君もベルニカ学園の生徒じゃなかった?」「あっ」
一瞬気を抜いてしまった。
急激に体の中の血液が高速で巡っていく感覚。額に水滴が集まっていきそうな感覚があった。身振り手振りでアクションを起こすジンに2人は頭に?を浮かべる。
〔何をやってるんですか〕
流石にサポートも呆れながらツッコミを入れてしまうほどの失態だった。その後、ため息を吐いたサポートが〔私の言葉に続いてください〕とジンをフォロー。すぐさま従った。
「いやその、学園が違うとやる事が違うのかな~・・・とか思って。やっぱり有名な学園と他では授業内容が違うのかな~ってて・・・」「ああ。そう言う事」「・・・なるほど」
理解したリエナとパミルは頷いた。冷や汗が僅かに出したが上手く誤魔化せたか?とジンは2人の顔を伺う。2人はそれに気づいていない。
「まあ、国の歴史とかはたぶん教える内容が違うでしょうけど、もっぱら魔法の授業とか実践形式の戦闘訓練とかは一緒だと思うわよ」「実践?」「実践と言っても模擬。本当の訓練は冒険者と同じ内容でどこかのモンスターを討伐、あるいは採取とか。でもそれは時々・・・。冒険者とか国の騎士とかの引率があるの。本当に授業で大怪我を負わせるのは本末転倒」「・・・確かに」
珍しく長く発したと思われるパミルの説明に、ジンは内心ほっとしつつ聞く姿勢になり同意した。
「まあ、保険の防護魔法を掛けられたりするから本当の戦いと変わらないんじゃない?」「それはリエナが魔法を連射するから。防護はあくまで保護。もしもの為の措置。それが破壊されるまで前提で戦うのは違う」「えーっ?そうかしらー?」「絶対そう」
きっぱりと言い切るパミルに、心底不思議そうにするリエナ。
〔リエナは戦闘。もっぱら攻撃系を得意としているようですね〕「(今の会話と性格からすると何となくわかる気がする)」「?どうしたの?」「ううん。学園って言っても、それほど変わらないんだね」
ジンはとりあえず無難な会話で誤魔化した。
「それはそうよ。この世界は色んなモンスターもたくさんいるし。未知の場所もまだまだある。ただ勉強するだけじゃ生き残れないの」「学園に入る者には将来、騎士や軍に入る人が多い・・・」「まあ、それだけ生活も安定するし、仕事に困る事も無いからね」「?・・・軍と騎士って違うの?」
ジンの中、というか純の中では騎士は国の忠を尽くしている以上は軍だと考えていた。しかしリエナ達ではどうやらその辺りが違うらしい。
「似ているけど違うのよ。軍は国・・・。正確には王に従うの。王の意向に沿う形で動いたりするの」「それに対して騎士は違う。当然、王に仕え騎士の剣として就く者のいるけど。コッチは少し冒険者に近い」「自分で決める・・・とか」「その通り」
ジンの答えにリエナが頷いた。
「例えばだけど、私がもし王の考えに添えなかったとしても、それで騎士職が外されることは無いの。``私が仕えるのはこのフォートレーヌであり、そこの民の為に動くんだ``って決めた場合よ。結果的に国に仕えているとも言えるけどその辺りの裁量は自分で決める事が出来るの」「何が最優先か決められるの。軍は絶対に王やそれに次ぐ官職が最優先」「(なるほど・・・。だから、冒険者に近い、か)」
自分の行動を自分で決める。冒険者が取っているスタンスを取り入れつつ、騎士としての立場に就く。一見するとどっちつかずにも考えられるが、冒険者と違い自分で守る者、場所は決めていたりする。だから、どこの国にも結果つかない冒険者とは毛色が少し違うという事になる。
「まあ、軍に入る方が仕事は安定するし出世もしやすいから、進んで入ろうとする人も大勢いるんだけど・・・」「ただ、仕事で遠征。モンスターの繁殖を阻止、ダンジョンや大陸の異変に駆り出されることもよくあるそう」「結果、とあるアイテムの入手にたくさんの人員を割いて怪我人や死んじゃう人もそれなりに多いと聞くわね」
ため息にも似た息を吐いて首を振る2人。
〔こういう所はハイリスクという意味では冒険者に近いですね〕「(リターンが少ない事を除けばね)」
ジン達がすぐに気付けたように、リエナとパミルも分かっているのか軍には入りたくないという空気がありありと伝わってくる。
「ただ、まあそれも国の王や官僚の人がどんな性格かによって変わる」「ああー・・・。ベルニカなんかはその辺り軍は相当厳しい仕事だって聞いた気がする」「(コクン)だからだと思うけど。それの代わりに特殊部隊の騎士が国中を駆けまわってカバーに入ってるって話。独自の最新技術もいれてるのかどんどん力が増してるって話」「・・・それって騎士なの?」「(コクン)一応、騎士らしい」
リエナはパミルの話から、それはもはや騎士という形の新たな軍ではないのかと思って聞いたのだった。一応パミルは肯定したが・・・。
「でも、やってる事は新たな軍。何に属しているのか知らない」「それじゃあほとんど軍じゃない」「そうとも言う」
呆れ果てるリエナ。パミルもそれほど詳しくは無い。町に出掛けた際、見る新聞などの情報とそこに掲載された内容。住民達の声から予想を立てているだけでしかない。学生の本文とは少々違うが情報集めもそこそこに、それから程なくして身動きが取れない状況に立たされたからであった。
「ま、ファーランではそこは大丈夫だから心配ないか」
余所は余所。ウチはウチよ割り切ったリエナがそう言って意識を切り替えた。同じようにパミルも切り替える。
「・・・今度はジルベガン。・・・リエナとはある意味相性が良い?」「私は接近タイプじゃないけど・・・。確かに戦闘とか闘技場なんかはあそこが一番かな?あとはレツガイス」「・・・どっちも武闘派」
少しだけパミルの眉間に皺が寄る。暑苦しいと思ったのか、それともその土地の空気感に苦手意識でも持っているのか、何とも言えない表情をしていた。
「パミルってあういう所苦手だったわね」
からかうように口元をニカッと笑うリエナにそっぽを向いて、頭のフートを少しだけ目深に被るパミル。
「国が嫌いなんじゃない。ただ・・・」「あそこの男達にとってパミルは守ってあげたい衝動に駆られるのかもね。可愛くて・・・おまけにっ」「ちょっ、とっ」
リエナがパミルを背中から覆いかぶさるように抱き着くと胸を揉みしだく。
「ふふ~♪やっぱり、少し前から大きくなったんじゃない?ブラも新しいのに変えなきゃ」「・・・余計なお世話」
ジンがいる事なんてすっかり忘れているように2人で無邪気に戯れていた。
「・・・こういう所、叔父さんに似て来たねリエナ。というかオジサンになってきた?」「そんな事ないわよ。私だって結構せいちょー・・・」「・・・」
自分の胸を寄せてあげる動作をした所でジンの存在を思い出したのか振り返るリエナとパミル。一瞬だけ気まずい空気が漂う。がそれは本当に一瞬だった。
「ふふん。なんならジン君も私達の胸触ってみる?」「・・・」
悪い顔をしてジリジリと詰め寄っていくリエナ。パミルは何を思っているのか同じようにジリジリとリエナと一緒にジンを挟むように距離を詰めていく。
彼女達にとってはジンはまだまだ幼い子供。しかしジンにとっては違う。
「え、遠慮しますっ!」
精神年齢(魂実年齢)高校生のジンは、まだ中学生に入るかそこら女の子にからかわれながら急いでその部屋を飛び出していくのだった。
近くを通ったメイドがジンに声を掛ける。部屋を案内するよう頼まれたのか、ジンはそれに従って部屋へと通されしばらくはそこで寛ぐことにしたのだった。
それともう一つ・・・。
〔ジン、気付いているとは思いますが・・・〕「うん・・・」
ジンはキングサイズのベッドに寝転びながら自身のステータスボードを見た。更にそこに表示されているタブからクエストをタップ。
【クエスト】
リエナ、パミルと共に鋼刀ジルベガンにある学園に入学せよ
目的は決まった。
・・・・・・
・・・
だからこそジンはクエストの指示で学園へと赴く前に一度、この世界の冒険者というモノがどんなものなのかを知っておきたくて現在、目の前にある少々閑散とした冒険者ギルドの門を開いたのだ。
「いらっしゃ~い・・・」
閑古鳥、という事は無いが冒険者と言われる者達は本当に少なかった。これはジンが来たのが昼近くだからだろうと言いたい・・・が。
「(チラ)・・・」
ジンと同じように少しだけこちらに振り向く者達が2,3人。しかしすぐに飲み交わしを再開。もはやジンの事など気にしていなかった。テーブルに突っ伏す様に寝ている中年男性。酒を飲み交わすのは今日は休暇なのかココを地元にしている若い男女が3人。他にはちびちび飲むおっさんに・・・。訳ありな雰囲気を醸しながら、ずっと手元のトランプをペラペラ捲る妙齢な女性。後はココに遊びに来ているのかと思われる子供が5人と・・・。
ここが本当に冒険者ギルドなのかと疑いたくなるくらいのただの広場と化していた。
先ほどジンが扉を開けた時に返事をくれたのは14,5位に見えればいい所の少し幼い感じの女の子だった。髪をツインテールにして、ギルドお決まり正装のカチューシャの横からひょこひょこ跳ねる感じが小動物の様にも見える。それがより幼さを強調していた。
「・・・どうしたのかな?えっと・・・ボク?」
一瞬女の子と間違われるジンだがもう気にしていない。そんな事はココに来るまで何度もあった。だからこそジンはミゲイラから貰った紙を彼女に渡した。
「?・・・え、お試し冒険者?!」「えっ」「なに?」「なになに?」
受付の少女が出したそれほど大きくもない驚きの声でも、この閑散としたギルド内では周囲にハッキリと聞こえてしまうほど響き渡ってしまった。
興味を持った子供がワラワラと少女の傍に寄ってくる。
「見せて見せて」「ねー見せてー」
手紙を掴みとろうと手を伸ばす子供達。それをわずかなりとも身長では勝る受付の少女が手紙ごと腕を上に持ち上げ阻止。その状態のままテーブルに突っ伏す中年男性へと向かった。
「ちょっとマスター。起きて、起きてください」
子供達の妨害を何とか掻い潜り、マスターと呼ばれる男を起こそうと肩をゆする。しかし、一瞬の隙を突いたのかキラリと目の端を輝かせた少年が手紙を奪い取ろうと椅子からジャンプして飛び込んだ。
「ちょっと、こら」「あああ~~っっっ・・・!!」
ドダーンと飛び込む軌道がズレて少女の体にタックルしてしまった。
「っ~~~・・・たたた・・・!コラっ!」「えっ、あっ・・・わざとじゃ・・・づっ!」
ゴスっと鈍い音がしそうなほどの重い拳骨が少年の頭に落ちた。一瞬赤らめていた少年はわたわたしていた瞬間に落ちて来た強烈な攻撃に頭を両手で抑えて悶絶していた。ゴロゴロと転がり回っている。
「あ~、えっち~・・・」「今、わざとやったんだ~」「っ~・・・ちが・・・」
涙ながらに否定しようとするが、その時、受付の少女の顔を見て少年は黙って項垂れるのだった。
「全く・・・。君達もこれは遊びじゃないんだから。そういうのは外でやるように」「「「は~い」」」
起き上がり、服を叩いて汚れを落とす少女。
「んん・・・。?・・・何やってんだ?」「あ、起きたんですねマスター」
汚れをはたき終えたタイミングで起き出したマスターに手紙を見せる少女。
「これ、見てください」「あん?・・・領主の手紙?コレが何だって──」「いいから読んでください」
ズイッと顔の前に押し込まれるように手紙を持っていかれ、男性は頭を後方へと下げながら手紙を受け取った。まだ寝ぼけている頭を起こすように。頭を叩き、目を擦って書かれている内容を理解しようと試みる。そして・・・。
「・・・誰が?」「ん・・・」
簡潔に少女に聞いた質問に、ジンを指差しする事で答えた。
「・・・・・・は?」
たっぷりと溜めた間を空けて声を出した男性。少女の方を振り返り、頷かれ言葉を失い頭を掻く。
そして、何を思ったかゆっくりと椅子から立ち上がりジンの下へと歩き出した・・・。
「・・・えー、君がお試し冒険者に入るジン君・・・だね?」「はい」「・・・」
首に手を回し、どう答えたらいいのかそっぽを向いて考える。しかし、何も思いつかないのか諦めた様なため息と共に・・・。
「それじゃあ、君を期間冒険者として認める」「え゛っ!!」「(よし・・・!)」
あっさりと許可が下りた事に驚く少女。ジンは心の中でガッツポーズを取った。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 (真化体)
身体値 7
魔法値 7
潜在値 5
総合存在値 9
スキル(魔法): 緩衝




