22 しみじみとした実感と見えぬ糸
クリスは体内マナを使い少しでも身体能力を強化し走っている。
そのおかげか狼種とは一定の距離を保てていた。
しかし、それも時間の問題。
徐々にわずかだが差が縮まりつつあった。
気づけばもう夜も深くなっていた。
だけど、この遺跡内に留まるマナの影響か明かりがあって、通路の奥までは見えた。
細かく視認できるほど明るくはないが、コケやツタなど緑の中にヒカリゴケのようにより灯りを照らして部屋の中で火を付けたりしなくても道が見えていた。
さらにクリスは体内マナを使っているために、目から入ってくるものの明るさに助長をかけた。
だからこそ、全力で走っている。
(くそっ!やばいな。
これじゃ追いつかれる!
どこかに隠れる場所はっ!)
クリスは走りながら、必死に周りを、奥を見つめ隠れ場所を探す。
「はっ・・・はっ・・・はっ・・・はあっ・・・・・・!」
後ろから吠えられ、それでも振り返ることなく走り続けるクリスはそこで、何回通ったのかわからない通路と通り道の部屋を通り過ぎ、曲がり角を曲がったところで通路の横に部屋を見つけた。
すぐに入り、少し高めの3,4段だけだが段差にコケそうになりながら下り、目の前にはずいぶん昔に風化して刀身の半分が折れ、それでも残り続けている剣を発見した。
それをすぐさま持つと急いで段差の下に仰向けになって隠れた。
剣を取り行くときに周りを見たが、ココは誰かの部屋だったが中にはほとんど物がなく隠れる場所がなかったからだ。
そして、いつでも迎撃できるようにリュックを近場に置き、スリングショットのゴムに石を包み、それにもマナを気持ち注ぎ威力を増すイメージで固めて覆う。
その場で構えて斜め下から入口に向けて構え、いつでも打てるようにして待つ。
扉を強く叩きつける音が数回した瞬間、勢いよく扉が開いた。
バッ!
黒い影が扉から飛んで入ってくる瞬間を目でとらえたクリスは、反射で石を構えた手を放し、撃つ。
ゴン!
「ギャンッ!」
入ってくると同時にライウルフの一頭の下あごから頭にかけて石が貫通し、そのまま滑るように部屋に倒れながら入り動かなくなる。
そんなことにクリスは意識を向けず次に備える。
間髪を開けず2匹の狼種が寝転ぶクリスの上を飛び越え入ってきたからだ。
飛び入ってきたライウルフらは仲間の死を無視しクリスのいるこちらに警戒してか一度距離を保つ。
「「ウウーッ!」」
警戒して唸る狼種。
すぐに残りの一匹のライウルフがクリスに向かって襲いかかってきた。
「・・・くっ!」
とっさにクリスは折れた剣を構えすれ違うように横にずれライウルフの飛び込んだ勢いに合わせて剣を横薙ぎに振りぬいた。
「・・・・・・」
ドサッ!
よほどカウンターの剣が上手くいったのか声を出さずにライウルフは絶命した。
しかし、代償にボロボロだった剣が柄部分を残し刀身がほとんど砕けてしまった。
(くそっ!)
悪態をつく気持ちでて、つい剣に意識が向いた瞬間。
緑の毛にラインの入った狼が襲いかかってきた。
「!」
咄嗟に狼の口に残りの柄部分だけの剣を突っ込んだ。
「ガッ!・・・ウオッ!、ガアッ!」
突然のことにパニックになる狼種にクリスはすぐそばで砕けた剣の破片の一つをスリングショットのゴム紐にあて、構え撃った。
「アアン!、グアッ」
しっかり構えて頭を狙ったが、必死に口の剣を取り出そうと暴れる狼種に狙いが定まらず左側の鼻から右目と右耳に損傷を与えただけのとどまった。
しかし、狼にとって予期せぬ大きな損傷と衝撃になり、また脳の一部を狂わせるダメージだったのか、三半規管を狂わせた。
「キャン!・・アアッ!・・・」
狼種は必死に、しかしクリスから見たらヨロヨロと横を通り過ぎ入ってきた扉の向こうに逃げようとしていた。
(あそこまでダメージを与えれば・・・いやでも、ここでこいつを残すのはマズいな)
以前ケガを負ったライウルフが死に物狂いで殺しにかかった時が思い起こされ、ここで仕留めることが最善だとクリスは判断した。
(・・・ごめん)
たとえ危険でも、必死に逃げようとする狼に心の中で謝罪し、地面に落ちている剣の破片の1枚を拾い、もう一度ゴム紐にあて・・・ゆっくりと構え・・・撃った。
「ガアアッ!」
後頭部から貫通した破片が``ガンッ``と強い衝撃を壁に響かせた後。
1歩、2歩3歩とヨロヨロ進みゆっくりと倒れた。
「・・・・ふうぅぅ」
ゆっくりと深く吐いて、残心を解き戦闘を終わらせた。
レベルアップしました。
以前とは少し違う報告を気にすることなくクリスは辺りを見回し、他のモンスターが襲ってこないか警戒しながら、部屋の段差を上がって扉を閉め、休憩をとることにした。
すると、すぐに一番最後に倒した狼がかすかに黒い光の粒子を残したのちに一部が下に溶け、一部が空に消えた。
「なんでだ?
消えるのが早すぎるだろ」
クリスは疑問に思って倒したライウルフの2頭を見たが、こちらはまだ触れたりしていないから原形をとどめたままだった。
戸惑うクリスだが、こんなこともあるのかもしれないと判断し、残っている死体に触れ素材が残れば回収しようと動いた。
今回は毛皮は手に入らなかったが、代わりに肉と結晶がそこそこの大きさで回収できた。
リュックの中身を調整し、左横の腰に紐で固定し、かつてお世話になり一命をとりとめたシリンダーが10本入るようなケースを付け、そこにポーションの入ったシリンダーを入れた。
もともと緊急時用に持つはずだったがまさかこんなところでライウルフレベルに合うとは予想していなかった。
そのため、ホルダーケースのもしもが数本とリュックの中に予備が数本入れているくらいしか用意していなかった。
クリスは、改めて戦闘の準備に備えて腰に装着した。
薄くきれいな緑の液体と水色に染まった液体のポーション。
効果は、微妙に違いマナを少し回復させるものとケガ、体力を回復に重点を置いた薬の2種類だ。
そして、解体用のナイフを護身用に右腰、スリングショットに並んで固定していつでもすぐに使えるようにした。
それによって少し余裕を持てるようになったリュックの容量に先ほどの肉と結晶を詰め込んだ。
ようやく一息つき、座って水を飲みながらクリスはステータスの確認をする。
【クリス】3才
レベル 20 → 30
HP 128 → 305 MP 73 → 278
STR 49 → 116
VIT 37 → 103
INT 40 → 111
RES 34 → 98
DEX 56 → 145
AGI 43 → 124
LUK 32 → 87
『身体強化:レベル1』『マナ:レベル1』『マナコントロール:レベル1』
「おお!一気に増えたーっ」
たった10されど10といった風に感じるクリス。
あまりに最初のステータスがあまりだったので、ここまでの成長を思うと感慨深くなって感動する。
(こんなに成長できたんだ。
やっぱりあきらめずに頑張った甲斐があったってもんだよ)
少し泣きそうになったクリスだった。
「・・・しかし、レベルは上がりづらくなるもんだって聞いたけど・・・もしかして、それだけ子のモンスターたちと俺には差があるってこと?
・・・いや確かあったな。
普通は一匹に対し数人で対処するんだっけ?
・・・あれ?やばいことばっかりしてない?俺」
クリスは改めて自分の運を考えていた。
(え?、冒険者ってこんなにいきなり危険なモンスターとバンバン出くわすもんなのか?)
あまりの遭遇率にクリスは冒険者になったことを後悔しそうになる。
こんなすぐに出くわすなら安全に世界を見て回りたかったかもと。
しかし、この世界はモンスターが世界中にたくさんいてまた生まれてくる世界。
この世界に安全を求めるなら旅をしないことが一番とも言われるもの。
それぐらい運命によって、平穏な町や村であろうと、凶悪モンスターや危険な集団、盗賊などによってつぶされてしまう世界だとクリスはかつてステイメッカで教えてもらっていることをすっかり忘れてしまっていた。
つい、今しがたそのことを思い出し気を引き締め、自分の人生を、第二の転生による生活ライフを楽しもうと思っていた。
「よし、ここで休憩終了!」
クリスは自身に気合の発破をかけ立ち上がり行動に移った。
扉を少し開け、右左とチェックしてから外に出て再び散策を再開した。
(最初の予定通り、水の流れる場所に行こうかな。
もし見つけられなかったら、この部屋に戻って野宿しよう)
クリスは、水の流れる音を探しに遺跡のさらに奥に進んだ。
「はあっ・・・はあっ・・・はあっ・・・」
「はぁ~・・・はぁ~」
二人の少女は走り疲れて、近くの隠れられそうな部屋の中、別途があったであろう場所の横のタンスに隠れやり過ごしていた。
「・・・・・ふぅ。
ラーナ、もう大丈夫だから」
「はあっ・・・はあっ・・・ふぅ・・・うん」
ラーナとサーニャはダルトに先に進むよう言われ進んでいると運悪く一匹のライウルフに見つかり、そこからとにかく、無我夢中で走って、近くの部屋の隠れたのだ。
少しすると。
「ギャンッ!」
ドサッ
モンスターが倒れる音がして、その後、二人の隠れる部屋にノックが響く。
「ご無事ですか、姫様」
言いながら、護衛騎士のダルトが入ってきた。
「ダルト!」
「ほっ・・・」
ダルトの姿を見たラーナが駆け寄り、サーニャが歩いて近づいていく。
しかし、すぐに止まった。
「ダルト?」
「?どうしたの、ラーナ?・・・!」
ラーナだ止まり、サーニャが驚いたのは、騎士鎧が一部砕け、方から血を流し、足を怪我し、腹部を押さえそこから大量に血を流すダルトの姿だった。
「「ダルト!」」
「・・・ふふ、ご安心ください姫様。
これはちょっとしたかすり傷です。
あなたをお守りすることに問題はございません」
「・・・」
ラーナはそれでもダルトのケガにとても不安な気持ちになる。
サーニャは、荷物の中にあった布と回復薬を出しダルトの治療の手伝いに急いだ。
「・・・ありがとうサーニャこれで、大丈夫だ」
「・・・もう回復薬は残ってないの・・・ごめんなさい」
「いや、かまわん。
もともと、ここに来るまでそんなに持ち歩けなかったのだから。
そのすべてを私に使わせてしまって申し訳ない。
・・・姫様、申し訳ありません」
3人が地面に座り休憩を取りながら、ダルトはラーナに頭を下げた。
「ううん、いいの。
私のお願いについてきてもらってるんだから」
「・・もったいなきお言葉」
3人は休憩し一息の束の間を得る。
「ダルト、モンスターは?」
「私の方でここに来るまでの道中のものはすべて倒してまいりました。
しかし、さすがに数が数だったために・・・負傷してしまいました」
「それでも、ダルトが無事でよかった」
「・・・すまぬな、サーニャ」
「ううん、私の方こそ、ダルトが無事でよかった」
3人が無事だったことに安堵し、疲れたが出たのかラーナが眠気に襲われ目をこすっている。
「ラーナ少し寝ましょ?」
「う、ううん。だいじょうぶ」
そう言いながらも徐々に目が半分落ち、電池が切れかけるラーナ。
「姫様、大丈夫です。
このあたりのモンスターは掃討したと思われます。
しばしここで休眠を取っても問題ないでしょう」
「そうよ、ラーナ。
まだ目的までかかるから、ここでちょっと寝ましょ?」
「・・・うん」
3人は、遺跡の部屋の一角で部屋にモンスターが急に入っても大丈夫なように入口に部屋にあった箱を置き、ダルトがそこに背もたれして座って眠った。
ラーナとサーニャは二人で手をつなぎ荷物を枕代わりにして横になって眠った。
「目的の場所までもう少しよ?」
眠っているラーナの頭を優しく撫で、サーニャは眠った。
【クリス】3才
レベル 30
HP 305 MP 278
STR 116
VIT 103
INT 111
RES 98
DEX 145
AGI 124
LUK 87
『身体強化:レベル1』『マナ:レベル1』『マナコントロール:レベル1』




