218 御厄介・・・。だから、仕方ない・・・仕方ない・・・。
「お帰りなさいお嬢様」「お帰りなさいお嬢様」「お帰りなさいませお嬢様」
門に掛かった橋を通り抜けて馬車は豪邸屋敷の中で停車。降りてきたリエナを見つけ、来ている服装こそマトモだが明らかにゴロツキにしか見えない男達が駆け寄って出迎えた。少し遅れてメイド服の女性か3人ほどリエナの傍へと寄ってくる。
「ありがとう。それと、彼が新しくココに少しの間、住むことになったからよろしくお願い」
メイドの1人がリエナの荷物を受け取って下がった。馬車から降りてきたジンが紹介されると、家主の少女に頭を下げ、先に荷物を持ったメイドともう1人が屋敷へと向かって行った。
「こちらをお願いします」「分かりやした」
執事のセバスに手綱を渡され、交代した男が屋敷の奥へと馬車を引いて行った。
「それではお嬢様、私は──」「セバスは何かやる事があるんじゃなかったかしら?先にそちらを済ませてちょうだい。ジン君は私が案内するから」「・・・。分かりました」
一瞬、仕える立場としての考えが過ぎるが主の意向を無碍にするわけにもいかず、頭を下げて先に屋敷へと入って行く。
「お嬢様、この坊主は?」「皆さんと同じで、生活するのに困っていたの。だから、彼が1人で何とか出来るまでの間、少しだけ面倒を見てもらってもいいかしら?」「もちろんでさー。お嬢様がそうお決めになったのなら、俺らはそれに従うだけです」「その通りです」
集まった男達も同じなのか皆がリエナの頼みを快く受け入れた。
「ジンです。その・・・よろしくお願いします」「おうジン。何があったか知らねえがよろしくな」
そう言ってジンからしたらかなりの力でバシバシと肩を叩きながら、男は笑顔を見せた。
「あまり彼に乱暴な事はさせないでね」「そんな事しませんよ」「ホント~?」「も、もちろんですよ。なあ」
からかいの混ざったリエナの確認に男は焦りながら周りの男連中を見回した。周囲も、当然と頷いたり、言葉に出して同意する。その表情は真剣そのものだった。
〔どうやら、リエナに仕えているというのは本当の様ですね〕「(あの反応からして随分と親しいみたいだし・・・。悪い人じゃないのかな?)」〔さあ・・・?その辺りはどうでしょう〕
ジン達は友達を会話する様に親しくしているリエナの姿を見て、ゴロツキの様な印象を受ける人達の見る目を改め直そうとしていた。
豪邸とはまさにこのコト・・・。
真ん中には大きな階段。2階へ通じる踊り場から左右に別れ、緩やかなカーブをえがきながら上がっていく。オシャレなデザインだった。大きなシャンデリアには明かりからはまるで昼間の様に屋敷の玄関から広間一帯を照らしていた。綺麗に整え、磨き上げられた窓や床、調度品などが揃えられている。ココはあくまで玄関の入り口のホール。だが、それだけでどれほ屋敷を大切に扱っているかが分かるというものだった。
何処かの世界のホラーな屋敷とは大違いだと、この時ジンはちょっと、どころかかなり思わなくもなかったが敢えて口にはしなかった。
「ジン君のお部屋は?」「お客様用の部屋を一室ご用意させていただきます。・・・ただ、お嬢様。お召し物の方が・・・」
そう言ったメイドがリエナに耳打ちする。リエナは少しだけ眉を寄せて唸るとジンへと近づいて行った。
「ごめんなさいジン君。ジン君の着る男の子用の服の持ち合わせが今は無くて・・・。代わりの服で申し訳ないのだけど。セバスや雇っている人達と同じ使用人用の服でも構わないかしら?」「え?」「その学生服や・・・。あなたが持っている服を一度洗濯した方がいいんじゃないかと思って・・・その・・・」
チラッと目線を下げて、ジンが持つボロい風呂敷を見るリエナ。気を使って、申し訳なさそうに言葉を選んでいた。
「(あー・・・)そうですね、お願いします」
流石にジンも察し、リエナの提案を飲んだ。
「そう。では、お願い」「畏まりました。着替えはお部屋の方でご用意させていただいておりますのでこちらへ」「あ、はい」「それじゃあ、ジン君また後で・・・」「はい」
メイドの1人に案内されて大きな部屋の一室へと通された。
「ほぁ~・・・」
20畳はあるのではないかと思われる広い部屋。魔法でなのか不明だが玄関同様、白い明かりが部屋を照らしている。ベッド、机、イス、鏡、タンス等々。いつ来賓が来ても対応できるように綺麗に掃除が行き届いていた。
「お着替えはベッドにご用意したものを。・・・もし着替え方が分からないのでしたら、お手伝いいたしますが」「だ、大丈夫です」「そうですか。それでは」
メイドが頭を下げ、部屋を出て行った。
「・・・」
1人になり、広々とした部屋を改めて見回すジン。タンスやテーブルの引き出し等を開けたりと部屋を物色して楽しんでいた。
〔あまり時間を掛けてると、お手伝いに入ってきますよ?〕「そうだった」
急いで汚れてしまっている学生服から用意されたポロシャツのような服と半ズボンへと着替えた。そして、入口の外で待っていたメイドに布に入った服と学生服を渡す。
「あれ?・・・この人形は私共の方で直しておきますね」
学生服を受け取る時にポケットから落ちてしまった騎士か勇者の様なボロボロの人形を見て、メイドは何かを察した。それだけを告げてジンの荷物を受け取って去って行った。
部屋に戻り、窓の外を見るジン。坂になっている場所に建てられた屋敷の為、首都の城下町が少しだけ見える。明かりに照らされた町がキラキラと輝いて綺麗だった。数分ほどそんな街並みを見とれているとノックする音が・・・。
「入っていいかしら?」「はい」
ジンの返事を聞いて、部屋の中にリエナが入って来た。
リエナも着替えたのか黒いガウンとその下はワンピース型の服を来たラフな格好をしていた。
部屋に入るとジンを見て、1人うんうんと頷いた。
「似合ってるんじゃないかしら?」「そうですか?なんかちょっとブカブカなような気がして・・・」「どれ・・・?」
リエナは近寄ると、ジンの服を整える。
「ここで少し、この紐を引っ張って・・・こう。・・・はい。これでバッチリよ」「ありがとうございます」
ズレてしまう半ズボンの様な服には、ベルトの代わりに腰に伸びている紐があり腰回りを一周させて固定してもらった。
「ごめんね。流石に君くらいの小さい子用ってのは・・・」「ううん、ありがとう」
ジンが礼を言うと、「そう・・・」と言って微笑んで優しく返した。
「着替えが終わったのなら、食事にしましょうか?今後の事はそれから・・・」「分かりました」
返事を返したジンはリエナの案内で食事用の部屋へと向かった。
部屋に入ると豪華な料理が並べられ、周囲には数人のメイドが控えていた。
「さ、ジン君はそこに座って?私はこっち・・・」
そう言うとジンの向かい側に座るリエナ。
「・・・」
ジンは指示された場所に座るが周りに立って控えているメイドに何ともいたたまれない気持ちになる。それに気付いたリエナが笑った。
「あはは、そんなに気を使わなくても大丈夫よ?ほら」
リエナが座ると控えていたメイド達も一緒に座り始めた。どうやら食事の準備をしたうえで、主を待っていただけのようだった。
「本来なら同席しないだけど・・・。流石に1人で、ずっと周りに視られながら食事を続けるのは私も嫌なのよ。だから、この屋敷では身内だけの場合は全員で食事をする様にしているの。全員は流石に入らないから今回はココに居る者達だけ」「・・・なるほど」
リエナの説明を聞いている内に用意が出来たのか集まったメイド達がそれぞれの席でリエナの次の言葉を待った。一瞬だけ静寂に包まれる。
「それでは・・・。全ての主の恵みに・・・」
リエナが両手を組んで祈るとメイド達もそれに倣い、祈った。
「「「主の恵みに・・・」」」「それじゃあ、いただきましょう?」
リエナがジンに言うのと同時。メイド達が姦しく話し合いながら食事を始めた。その中に時折、リエナも混ざって話し合っていた。世間話から他愛もない噂話など。先ほどとは打って変わり、とても賑やかな食事タイムだった。
「ふ~・・・美味しかった~」〔見事な贅沢・・・〕
用意されたベッドに寝転び。気持ち少しだけ膨らんだお腹を擦っている姿に若干呆れながらサポートはそう思った。しかし、すぐに気を取り直す。
〔ジン。それよりも先ほどの話を受けるのでしたら、この建物を見て周りましょう〕「・・・ああ、そうだった~」
まだ満喫気分に抜けきれず、上手う切り替えが出来ないジンを無理矢理、動かそうとするサポート。
〔この建物の構造。まだ本調子ではないので把握できませんでしたがかなり広いですよ?〕「そりゃあ、見りゃわかるよ」〔いえ、そうではなく。この屋敷・・・。地下があるかもしれませんよ?〕「そりゃあ、こんだけデカいんだもん。備蓄とかで──」〔だとしたらますます内見をしっかりと把握しておきませんと。ほら、ハリアップ〕「分かったよ~・・・」
もう少しまどろみたいジンを無理矢理立たせ。サポートは部屋の外へと歩かせるのだった。
食事中の事、リエナがある提案をしてきた。
「そうだジン君。ウチで働かない?もちろんお給金も出すわよ?」「へ?」「あ、それはいいですね」
それは会話の中で弾みで突然思いついた事だったのだろう。食事の肉を口に運んでいる最中のジンは停止し顔だけをリエナに向ける。
「君の年で自立して生活を送っていくのはこの国では難しいと思うし・・・。何かしたい事とか、学校に入るのだとしても色々と学んでおいて損は無いと思うの」「(・・・まあ、確かに・・・)」
手に持ったフォークとナイフを置いてリエナの提案に考えるジン。
「ココにいるセバスやメイド達が、ジン君が自立できるようになるまで色々と教えてくれるから。どうかな?」「流石、お嬢様。良いお考えです」「・・・」
と、そんな提案を持ち掛けられ。ジンは少しだけ我が儘を言って、こちらもお願いして雇ってもらう事にしたのだった。
ならばさっそく、その仕事の為に行動に移せるようにと建物を色々と調べる事にしたのだ。
「(・・・ここは厨房・・・。広いな~)」〔働いている人がいます。邪魔しない様に次に行きましょう〕
明日の朝食の下準備をしているのだろう。数人の男性達を見かけ、ジンは黙ってその場を後にする。
「(なんか変な匂いしたな。何だろう?)」〔下準備の段階だからでは?〕「(それもそっか)」
気にせず、ジン達はサクサクとサポートと一緒に豪邸屋敷のマップを埋めていく。
「(ココは・・・鑑賞系・・・かな?)」〔美術品を来賓時はもう少し並べたりするのでしょう。今はその予定もなさそうですね〕
「(風呂場・・・でけー)」〔泳いだりしないでくださいよ〕「(し、しないよー・・・)」〔・・・〕
「あら?どうしたの?」「何々?もしかして覗き?」「お邪魔しましたー!」「うふふふ。可愛い!」「(話し声が聞こえたと思ったら・・・)」〔狙ってました?〕「(違うよ!っていうか何で教えてくれないの!あの距離くらいなら中の様子分かってたでしょ)」〔いえ、そんな事はありません〕「・・・」
「・・・階段?」〔一通りは見て回りましたし、後はココですね〕「・・・あれ?そういえば玄関の前で出迎えてくれた男性達は?」〔・・・。そういえば見てませんね〕
ある程度の屋敷マップは埋めたと思うジン達。後は目の前に見える下へと通じる階段を残すのみとなったのだった。
〔それにしても・・・。やはりありましたね地下階段〕「(なんか楽しそうにしてない?)」〔それはジンもでしょ?〕
まるで悪だくみを話し合う子供の様に聞くサポート。しかし、ジンはそれに否定をしなかった。なんだかんだ、大きな屋敷を見て回るのが少しだけ冒険しているような気分になって楽しんでいたからだった。
「(こんな気分、久々だな)」〔大人になると世間の目がありますからね〕「〔・・・〕」
ジン達は黙って照明が影になって少しだけ暗くなった地下へと通じる階段を見つめる。・・・そして。
「(いざ・・・)」〔出発〕
残り続ける子供心の好奇心なのか、あるいは肉体がそうさせているのか。ジン達は未だ冒険心溢れる少年気分で地下へと下りていくのだった。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 現在調整中・・・。
身体値 2
魔法値 2
潜在値 1
総合存在値 5
スキル(魔法): 緩衝




