217 ほどほどな距離って・・・大切ですね。
〔大丈夫ですかジン?〕「・・・ああ。自分でも思った以上に勝手に出てしまった」
孤児院を去って数分。周囲の人気がまばらになり、適当に誰もいない広場の椅子に座り落ち着いたジンはゆっくりとサポートと話しをする。
〔・・・。ジン自身よりも、もしかしたら持ち主の子の残っていた記憶の一部が刺激されて、大きく揺れ動いたのかもしれませんね〕「亡くなった後にまでこの仕打ちというのは・・・。流石に俺も・・・」〔ええ。私もです。ですが、先ほど言いましたように──〕「分かってる。俺が怒りのままにあそこのいる全員に襲いかかっても意味はない。そんな事すればそれこそ。・・・借りたこの子の大事なモノを踏みにじる事になっちゃう」〔・・・そうです。それに・・・その人形。彼はとても何かに憧れていたのか、大事にしていたのだと思いますよ?お借りした肉体。でしたら、それに見合った何かで恩返しするのがせめてもの救いになるのではないでしょうか?〕「・・・そうだな」
誰かと会話している様にしか見えないジンに一瞬だけ通りかかった者達が横目で見るが、すぐに興味を無くしどこかへと歩いて行く。
「・・・さて、どうしたものか・・・」〔少しは休憩して、今後の事をゆっくりと考えられると思いましたのに。まさかの門前払いとは・・・〕「(・・・まあ、泊まれる場所は無くなっちゃったから。この後の行き先は自由という考え方もできるよね?)」〔そうですね。予定が少し狂いましたが、後は私達の方で自由に動き回れると考えると・・・。これはこれで良かったのかもしれませんね〕
開き直ったジン達はゆっくりと周囲を見回す。
駄々をこねながらも楽しそうに子供は親と手を繋いで歩いていた。どこかで飲んで来たのか陽気な者達が肩を組んで、どこかへハシゴしようという楽しそうな声が響く。広場の隅っこでは老人達がそれぞれに楽器を持って演奏をして楽しんでいた。その音楽を広場の長椅子に座るカップルが。階段に腰かけている地元の人や子供達が。そして小動物達が、思い思いにのんびりと聴きながら過ごしていた。服をしっかりとめかし込んだ女性がどこかの高級そうなお店に入って行く。別の方角では男性が花束を持って急ぎ足に目的地へと向かって行く姿も見えた。
「(あー・・・もうそろそろ夜か・・・)」
ジンは冷静になって、ようやく気付いた。夕日もかなり傾き、夜の顔がどんどんと空には拡がって来ていた事に。
〔さて、どうしましょうか?お金というモノは持っていないでしょうし・・・。代わりとなる物も持ち合わせてはいないでしょう〕「(まあ、この状態じゃねえ)」
丸まったボロい風呂敷の様な布をお腹に抱え込むようにして座り込んでいるジンは傍から見れば途方に暮れている様に見えなくもない。だからと言って、すぐに次の方針が見つかるわけでもなく。結果、周囲を観察という名で、ただ広場を呆けて見ていたのであった。
「あなた・・・1人なのかしら?」「?」
そんな時、急にすぐ近くから声を掛けられた気がしたジンは顔だけを横へと振り返る。
「途方に暮れている、といった感じかしら。もし良かったらだけど。どこにも行く当てが見つからないのなら、私の屋敷に泊って行ってはどうかしら?」
白くストレートな長い髪に碧眼。右の1房だけをフリル付きの可愛い黄緑のリボンで結び、首のは黒のチョーカー。ベルニカ学園の制服を少女がそこにいた。目鼻立ちも整っていて、同じ年の男の子なら、憧れる学園のアイドルの1人に確実に入りそうな容姿をしていた。
「・・・。いきなり何?」
そんな女の子からいきなり家に招待すると言われれば、これが本当に出てくるだろう素の言葉だろう。ジンは思った事をそのまま告げた。
そんなジンをクスクスと笑い。少女はもう一度、順を追って話す。
「ごめんなさい。あなたがこんな所で一人で途方に暮れているから、もしかして住むところが無いのかなーと思って。放っておけなくて、つい声を掛けちゃったの」「・・・はあ・・・?」
生返事で返してしまうが女の子は特に気にしていない様子。
「ココって、浮浪者とか本当に少なくてね。まあ、首都だけかもしれないけど。この国ではどんな人たちもそれなりに国がサポートするの。だからここでは、今のあなたの様に椅子にただ座って黄昏ている人ってのはほとんど見かけないのよ?」「え?・・・あ、本当だ」
少女の言葉で改めて周囲を見回す。更に、ココに来た道すがらも思い出してみた。すると確かに、思った以上に飢えや生活に苦しんでいるホームレスの様な人達をあまり見かけていない事に気付いた。
「私、こういう困った方々に手を差し伸べてくれる国って本当に素晴らしいって思うの。その精神を、ぜひ見習いたいと思っておりますの。ね?セバス」「はい、お嬢様。大変すばらしいお考えです」
先ほどまで少女の近くに居なかった、ヒゲを蓄えた壮年の執事の男が同意する様に畏まった。サポートはもちろん、ジンもマナを介して徐々にだが近づく者の気配が分かるようになっていたので気付いてはいたが・・・。それにしても自然体というか、気配が小さいのか。丁度、近くを通りかかった住人は突然の執事の出現に驚いていた。
「見ず知らずの初対面をいきなり招待するのは・・・。それに、そんな事をして何に──」「私はこの国の理念を学ばせていただいているのです。先ほども申し上げた様にぜひ、その考えの下、手を差し伸べてあげたいと思っておりますの。それに・・・。あなたの様な子供をこのまま見過ごすことも、野ざらしにする事も。私は大変、心苦しく思います。ですから」
スッと手をジンに差し伸べる少女。
「少しの間だけでも、私の屋敷で泊ってはどうでしょうか?あなたがやりたいことが見つかるまでの間だけでも」「・・・」
いきなりの事にどうしたものかと困っているジンを見て何を思ったのか少女は「・・・あぁ」と小さな声を出して納得。伸ばしていた手を自分の胸元へと持っていく。
「あなたが言いたいことは分かります。・・・これは勝手な想像かも知れませんが。おそらくあなたも、私と同じ学生服を着ている事からこの国の・・・。いえ、この上流階級による格差。扱いを受けてしまわれたのでしょう。その点は私も思う所が無いとは言えません。この国では、そうやってここまで発展し続ける為に流してきてしまった部分がありますから・・・」
そういうと彼女はとても悲しそうに眼を伏せた。
「どれだけ民を思って改革をしようとも、必ず妨害をしてくる方が現れてしまうのです。どれだけ尽力しても・・・」
何を感じて震えているのかジン達には、その奥までは分からない。ただ、彼女が真剣にこの国の人々の事を思っていることは窺えた。
彼女はゆっくりと息を吐き、俯いていた顔をゆっくりと上げて笑顔をジンに向けた。
「って私が勝手に言ってるだけですから、気にしないでください」「お嬢様・・・」
スッと薄目で彼女を心配する様に声を掛ける執事。
「大丈夫よ、セバス。留学生の身分であまり他国に首を突っ込み過ぎるというのも外交問題になりかねない。ですから私が出来ることはコレぐらいなのよ・・・」
執事に肩越しに返事をして、再びジンへと手を差し伸べた。
「今は少しずつ改善されている。でも、この子の様に未だ苦しんでいる人もまだいる。もっとたくさんの民が過ごしやすい国に変わるまでには・・・まだ少し時間が掛かる。だから私は、私のせめて出来る範囲だけでも救いたいのです。それが出来るうちでも・・・」
その言葉に執事は黙って、頭を下げ。一歩下がった。
そして、ジンの目を視て優しく声を掛ける。
「だから、私の勝手な我が儘かもしれませんが・・・。あなたの生活が落ち着くまでは私の住む屋敷で泊ってはいかがですか?」「(・・・うーん。どうしよう?)」〔よろしいのではないでしょうか?彼女自身に、私達をどうこうしようというモノはありませんし・・・〕「(・・・(コクン)。分かった)」
ジンは少しだけ顎て手を付けたりして考えた素振りを見せてから、彼女の話に乗った。
「少しの間だけ、お世話になります」「そんなに畏まらなくてもいいのに・・・」
少女の手を取ったジンに、眉を少し下げて笑ったのだった。
少女が乗る馬車に同乗させてもらい揺られる中。改めてお互いに自己紹介をする。
「俺はジン・・・です。ジン・フォーブライト」「ジン君ね。私はリエナ・コン・フォラウストよ」「リエナ・・・さんは、この国の人ではないのですか?」「ええ、そうなの。この国の技術を知りたいというのもあるけど、見聞を広める意味で両親から進められて留学しているの」「留学・・・。(すげぇ。俺、いきなり外国に飛ばされたりしなきゃ絶対無理だよ)」〔まあ、地元から少し外へ出るだけでかなり印象も変わりますからね。そこへ1人で立たされると・・・ジンの場合、先ほどの様に途方に暮れているでしょうね〕「(うるさい。・・・そうだけど)」
少女の何とも自然体な姿にジンは素直に感心した。国柄か立場からか。慣れない相手や場所などに赴くことに慣れているのだろう。彼女の佇まいはとても洗練されたものだった。
「あなたは何処から来たの?」「えっ。・・・あー・・・それが~」「分からないの?」「実は~・・・。ちょっと前に頭をぶつけてしまったのかその辺りの記憶がちょっと」「ちょっと大丈夫なの」
心配するリエナはジンに近寄る。
「ああ、大丈夫大丈夫。ホントにちょっとぶつけただけだから」「それでも記憶がって・・・。セバス、ちょっと近くの病院へ──」「ああ、そこまでしなくても」「でも・・・」「ホントに大丈夫なんだよ。・・・それに、もう帰る場所も無いだろうし・・・」「・・・ごめんなさい」
何かを察したのか彼女はジンに謝り、乗り出していた身を椅子へと座り直した。
「そうね・・・。君には君の事情があるわね。ごめんなさい」「いや、その・・・ううん。別にいいんだ」
ダラダラと冷や汗を流しそうになっているジン。口元を若干引きつらせながら出来る限りの笑顔を見せた。そんなジンの様子を、健気に感じたのか彼女もまた優しく微笑んで返して、この話を終わらせた。
「(あぶねー・・・。いきなりの事に適当に言っちゃったけど・・・)」〔どうやら誤魔化せたようですね。・・・そもそもジンに嘘を吐かせるのが如何に向いていないのかが良く分かりました。前々から思っていましたが自然体でウソを吐くのが出来ないのですね〕「(俺は、そんな器用じゃない)」〔でしたね。これは私のミスです。しかし・・・。逆に考えれば、ジンという立場で行けば孤児院と思われるあの場所から追い出されたと言えば何とかなりそうですね〕「(その前の事を聞かれたら?)」〔覚えてる事が無くて、気付いたら孤児院に預けられていたとかでいいのでは?〕「(それじゃあ、その時の事とか、昔のこの子を知っている人に出会ったら・・・?)」〔あんまり覚えていないで押し通しましょう。それで暗い表情をして顔を俯かせれば・・・。適当に誤魔化せるでしょう。これで、こちらの意図を汲めない者が絞られます。その手の相手は・・・その時々で対応しましょう〕「(・・・。臨機応変って事ね)」〔そういう事です♪〕
リエナが馬車に揺られ、流れる景色を眺めている間に小さな作戦会議を済ませていくジン達だった。
「あ、そうだったわ」「へ?」
丁度、ジンの体内会議がひとまず終えたタイミングで声を発したリエナ。その声に軽く飛び跳ねる様に勢いよく振り向いたジン。
「これから行く私の屋敷なんだけど・・・。他にもジン君の様に私達が連れて来て、雇っている方達がいるの。悪い人達ではないから怖がらないであげてちょうだい?」「は・・・はあ・・・」
生返事で返してしまうジンにクスリと笑うリエナ。
「大丈夫よ。少々、君の様に事情があって。苦しい環境で生きて来たから、ちょっと粗野な所もあるかもしれないけど悪い方達じゃないからね」「・・・(いったい、どんな人たちなんだろう?)」
内心、少しだけドキドキしながら、住宅街から高級そうな住宅へと移動していく外の景色を眺めた。
等間隔で並べられた並木道。一軒一軒の住宅の間隔は拡がっていく。先ほどの住民の密集地帯とは違い人通りが少ない。しかし、警備はしっかりされているのだろう。一般住宅街と違い警察官達が一定のリズムの巡回している姿が目撃される。
「・・・警察の人が多い・・・」「ココは高級住宅街。貴族や階級の高い要人の住む場所だからね。もしもの時にすぐに駆け付けられる様に巡回しているの」
ボソッと零したジンの言葉を聞いて、リエナが説明してくれた。
「この内の何割かでも、一般の住宅街に巡回に向かってくれれば・・・もう少しは事件、事故もすぐに早期解決に繋がるのかもしれないけど・・・。それは難しいって返されたわ。貴族、要人、政治家達の安全は国の礎に大きく関わるために最優先で守らなくては場所だって撥ね退けられたの」「お嬢様」
運転席からの声でリエナはジンがいる事に気付いて、居住まいを正す。
「コホン・・・。ごめんなさいジン君」「ああ・・・いえ」
そんなジンの反応にリエナは微笑んで優しい目を変わる。
「そうね。ジン君にはまだわからないものね。難しい話をしてごめんなさい」「「・・・」」
揺られる馬車。リエナを見ていたジンは、どう言っていいのか困り黙ってしまう。執事は、それ以上首を突っ込ませる気は無く。リエナに注意した後は、前を向いて運転する。
静まり返る空間。耐えきれなくなったジンはリエナに質問して、この空間を消そうと試みる。
「ああー・・・。その、リエナさんのお屋敷ってのは・・・?」「もうすぐ着くわ。・・・ほら、あそこよ?」
指し示す方向を見ると、高級住宅街でも一際大きな建物があった。若干、坂になっているこの住宅街でも、それは目立つ場所に建てられていた。
その建物の近くには他に屋敷と呼ばれる場所が見当たらなかった。大きな潜り戸の門には橋が掛かっており、領主の邸宅にしてもとても大きかった。まるでお城の様にすら見えるほどの超豪邸と言えるお屋敷だった。
「す・・・凄い所に住んでるんですね」
ジンの素直な感想に、リエナは微笑んで答える。
「留学生の中には重要なポストのいる親の立場もあって、あのような場所が充てられますの。今回、留学中の私の住まいはあそこになりますのよ?他にも、毎年何人か留学生は入学されますし。その都度、あの様なお屋敷を1つ貸してもらえるのですわ。少々、大袈裟ですけども・・・」
はにかんで謙遜するリエナ。リエナにとってはもう少し小さくて住みやすい場所を希望していたようだった。
「セバスも、私がこの学園に入学する時にこちらの国から派遣されましたの」「へ~・・・」「お嬢様が学園を御卒業するまで。しっかりと努めさせていただきます」「(国から派遣されるんだ~・・・)」〔仕えるという名の監視なのでは?〕「(またそんな事言って。国としては、リエナさんは大事な人だから安全の為にでしょ。もし何かあったら、それこそ問題だし・・・。あ、そういう意味では結局、監視になるのか~・・・。うーん・・・なんか複雑)」
ずっと傍に仕えられているという感覚が分からないジンにとっては、それがリエナの為であっても自由に行動できない窮屈さに息苦しさを感じる思いだった。
しかし、ある事に思い至った。
〔その考えは心外です。これでも私は空気の様に立ち振る舞い。あなたの必要な時に支援してきたつもりです。そのお考えには遺憾の意を表すしかありません〕「(俺が言う前に先手を打っている時点でどうなの?)」
相棒ではあるが、かなり自由奔放な気がしないでもないと考えたジンが咄嗟に思い至った瞬間だった。間髪入れずに先読みしてきたサポートにはどうしても言いたくて仕方なかったのである。
「(お前もある意味──)」〔聞こえません~。きーこーえーまーせーんー〕
くだらない話し合いは屋敷に着くまでの僅かな間だけだが続いた。
【ジン・フォーブライト(純、クリス)】8才 現在調整中・・・。
身体値 2
魔法値 2
潜在値 1
総合存在値 5
スキル(魔法): 緩衝




