21 世界は・・・不思議で・・・発見だ!
クリスはアスーティに来るまでにライウルフや他のモンスターの素材買取で得たお金で旅の死テクをある程度前日に済ませ、残りを必要経費以外はギルドに専用口座を作ってもらいそこに預けた。
あまりの大金をそのまま持つことや、国によって物価、お金の貨幣のマークの違いなどがあるのでその手間を省くためだ。
国によって取り扱う貨幣が違うと使えないことになるため、それによる国間の行き来に手間がかかるからだ。
そして、その証明が冒険者カードになる。
冒険者カードがそのまま口座用のカードになる。
危険に思うが、卸せる人はその人だけになること。
また、お金に関する預かりは国にとっても大きな経済になるため、下手に脅し、見張りを付け同行させて何かのトラブルを起こさせないようにする防止も可能になる。
そして、冒険者カードのような専用の物にはその人のDNA みたいな、いやもっと強力な専用パスのようなつながりで不用意に卸すことが出来ないようになっている。
どうやら、それも鑑定する板や水晶のように現代のこの世界では解明できない特殊なオーバーテクノロジーともいえる恩恵だそうだ。
(まあ、そうだよなぁ。
だって・・・操られたり、薬を盛られたりすれば簡単にそれこそ借金まで持たせてようがなくなったら捨てるなんて出来そうだし・・・)
と、クリスはその説明をミュリーとローナから口座開設のときに思った。
しかし、もし地球でその恩恵が働いていて、それで安全が守れるかは疑わしいところだとも思った。
おそらくこの世界でも、支配するために躍起になるやつが投資して解読を秘密裏にあるいは表向きは正当にしながら画策しているだろうとクリスは踏んでいる。
それも、また人間なんだからと。
しかし幸い今のところは何もできないらしく、そのため普段から町の人も自然と持ち歩いているし、家に置いているそうだ。
普段からクレジットカードを見せながら歩くような習慣に地球では考えられない状況だと思うクリスだった。
隠して歩くか、見せながら歩くか・・・。
この世界の住人にとっては当たり前の習慣の違いでしかなかった。
クリスは多少戸惑いながらも、冒険している自分のお金を実際、常に持ち歩くよりはいいかと納得して自己完結した。
そして朝。
ローナ、ロッシュ、さらに話を聞いたミュリーが西側の門前についてきた。
「ねえ、ローナ?行かせていいの?」
「・・・うん。
クリス君が決めたことだし。
彼も一応冒険者だから・・・勝手にこっちの都合で引き止められないよ」
「そうだね。
・・・しかし、ちょっとだけ寂しくなるね」
「・・・そうね」
ローナとロッシュは何をクリスの背中に見ているのか、どこか寂しそうにしていた。
「・・・ま、すぐに会えるかもしれないから。
そんなに気落ちしなくてもいいんじゃない?」
「・・・あのね、ミュリー・・・。
はぁ・・・全く、あなたらしいわ」
ミュリーの変わらない言葉に、呆れながらもどこか明るくなっていくローナ。
ミュリーも笑顔で答える。
「クリス君、この道を丸1日行けば昨日言っていた遺跡に着くから」
ロッシュは西側の道、大きな山が見える少し横、その方角を指し示しクリスに教える。
「はい、ありがとうございます。
・・・それと、いろいろとお世話になりました」
クリスは、改めて3人を見回しお礼を言った。
「気にしないで。
それに・・・私、ほとんど手伝ってないっていうか・・・騒いでしまったっていうか・・・」
「ホントよっ。
勝手に個人の情報を言いふらすことして」
ミュリーは初めて会った時を思い出し頭の後ろをかきながら申し訳ないと言って、それに呆れるローナが困った顔をした。
「は、ははは・・・まあ、別に特に問題もなかったですし大丈夫ですよ」
「・・・ふふ、クリス君はやはりとても3才児とは思えないくらいしっかりしている。
・・・これなら道中も大丈夫そうだ」
「それじゃあ、ローナさん、ロッシュさん、ミュリーさんまたいつか会いに来たいと思います」
クリスは頭を下げ礼をして、リュックを抱えなおし遺跡に向かって歩き出した。
「元気でね~」
「またいつか、必ず来てね~」
ミュリーとローナの声に振り返り、手を振って応え、その後は遺跡に向かっていった。
そんなクリスを手を振りながら3人が見送った。
「・・・姫様、どうでしょうか?
何か感じますか?」
「ううん。
少しだけ感じるんだけど・・・」
「ハッキリとはわからないのね、ラーナ」
「・・・うん。
なんとなく、近くはなってると思う」
何かを探し遺跡の中を歩き回る3人。
「この遺跡は広いです。
もしかしたら、もっと奥の方かもしれません。
・・・しかし」
悩む護衛の騎士。
「・・・もっと危ないってこと?
でも、ここまで来たんだもん」
決意を見せる幼い少女。
それを見た、もう一人の少女も覚悟を決め。
「分かったわ。
行きましょうラーナ。
ダルトも」
「・・・承知しました。
では、参りましょう」
3人は遺跡の奥へと進んでいく。
遺跡には様々な壁画があるが目もくれず、目的のためにどんどん奥に向かって歩く。
「!
姫様っ、サーニャっ、私の前に。
後ろからモンスターが来ます」
護衛の騎士ダルトがかすかな殺気とマナの気配に気付き、ラーナ達後ろを守るために腰の剣を鞘から取り出し構える。
ダルトの言葉を聞いた二人は即座に指示に従いダルトの後ろに隠れた。
タタタタ、パタッパタッパタッ、ザッザッザッザッザ。
遠くから複数のこちらに向かってくる音が聞こえてきた。
「・・・数が多い。
ここは、下がりながら戦います。
姫様、ラーナ安全ではありませんが気を付けて前にお進みください」
「・・・ダルト」
ラーナの不安そうな顔にサーニャは顔を引き締め、彼女の手を引き遺跡の奥に向かう。
「ラーナ、ココはダルトの任せましょう。
私たちがいたら彼の戦いの邪魔になっちゃうから」
「・・・うん、わかった。
ダルト、絶対来てね?」
「はい、承知しております。
必ずやダルト、姫様に追いついてみせます。
姫様もくれぐれもご無理はなさらないように。
・・・サーニャ、姫様を頼む」
「分かりました、ダルト」
会話を終え、ダルトは後方から迫ってくるモンスターのほうに向かって歩き出した。
ラーナとサーニャはダルトが後方に向かうと、前に向かって周りからの襲撃に気を付けながら奥へと走っていった。
「・・・思ったより早く着いたな・・・?
なんかデジャヴが・・・」
クリスはアスーティを出て夕方前には目的の遺跡の入り口に着いていた。
「これもステータス向上のおかげか。
疲れはしているが動けないほどじゃない。
っというか、動けないほどだったらモンスターに狙われたら・・・死ぬな・・・」
そんな自分の今の体調を気にしながら、少しずつ一人で冒険しているためのリスクに対しての意識の上方修正を行うクリス。
「・・・は~、しっかしデカいもんだな~」
目の前の高さ20メートルはありそうな崖に10メートル以上はある大きな扉を見て感心する。
扉そのものには何らかのマークや絵のようなものが描いている。
クリスはその扉と絵をじっくりと見る。
(確かに、学者が来そうな感じがする。
・・・扉のところ所が少しはがれているから相当前に作られたんだろうな。
ん?なんだ?)
かすかな嫌な感じが扉の中からした。
クリスは警戒しながらあたりを見て、そこから再び扉に注視して近づいて行った。
扉の中を覗き込む中の広間はずいぶんと広く高い。
入口から三叉路、正面と左右に分かれていた。
クリスは警戒しながら辺りを見渡す。
(・・・右から特に何か嫌な予感がする・・・。
う~ん、どうしよう。
せっかく来たのにここで帰るのはなぁ~)
クリスは迷った。
危険は避けたいがせっかくの遺跡をまだ観光もしてない。
そんな風に悩むクリスは、ふと気づくと嫌な感じがしなくなっていたため首をかしげる。
「・・・?、何だったんだ?、今の」
クリスは、急に何も感じなくなったために少し恐怖を覚える。
(・・・普段なら、絶対撤退したいんだけどな~。
・・・でも、進まないといけないような気もするんだよなぁ~?)
クリスは観光したさも含んで悩んだ。
「よし!決めた」
クリスは覚悟を決め、左の通路へと向かう。
(まあー、わざわざ右に行く必要はないよねー)
現在、夕方、そろそろ日も沈み始め夜になる頃。
扉の中に体をすべて入れ、クリスは遺跡探索を開始した。
「はあ~、すげー!
日本でもそうだし、世界中にも色んな歴史のある壁画はテレビで見たことあるけど・・・実際見てみると、なんか全然違う感じ。
ここ、異世界だけどやっぱりこういう歴史ってすごいことなんだなぁ・・・何でここに築いたんだ
ろう?
もともとここは都市の中心とかだったり重要な場所だったなのかな?・・・」
クリスは歴史が残した偉大な遺産ともいうとても大切な場所に触れて、普段以上にテンションが上がっていた。
遺跡なんてのは修学旅行で行ったかどうか、歴史的文化を遠くからは見たものの、これほど間近で体験したのは初めての事かもれしないと感じていた。
クリスは天井を通路の壁を、部屋の中をと。
当時のまま残っているものに感動を覚えていた。
ロッシュに聞いたように、魔物、魔族たちが何かを奉り、その恩恵を授かっている絵。
また、その力で歴史の中で人間たちや様々な種族と争っている様子の絵。
そして、手を組み繁栄をもたらした絵。
または、その当時の衣装で生活し、さらにその生活で暮らしていた時代だったであろう絵。
どれもこれもが、とても大切なことの一部だったのだと思われた。
クリスは、周りを見ながら時折ある部屋の中を見て当時の生活感のあった空間を知った。
「ここで、当時は何かの祝いや大切な儀式が行っていたんだな」
そんな風に感心し歴史遺産を楽しんでいた。
所々に、コケやどこから生えてきてるのかツタなどの植物が自然繁殖していた。
ふとしたら、いつの間にかずいぶん奥まで来てしまっていた。
「あっ、思った以上に夢中になりすぎた」
様々な道の曲がり角を適当に進んできたため自分がどこに居るかもわからなくなっているクリス。
「・・・完全に忘れてた。
どっから来たんだっけ?」
思うがままに歩いてきたので辺りを見回しても全くわかってなかった。
自分が坂を上ったり下ったり、階段を上ったり下りたりというのは何となく覚えている。
しかし、どうやってここまで来たかの導線に覚えがなかった。
目の前にある部屋は大きな広間。
広間の半分以上がコケやツタと緑に覆われ、下が何メートルあるかも見えない大穴があり、かすかに水の流れる音が聞こえていた。
「・・・どうしよう?
とりあえず、水の方向に進むか戻るか・・・」
一応、飲み水はある程度リュックの入れ物に入っているが、やっぱり生きていく上では飲み水の確保は重要だ。
それをクリスは、短い旅の中でもすごく実感していた。
「・・・まずは、安全な水が確保できるかどう・・・・!」
今から流れる水に方向を向けようとした矢先、こちらに向かってくる足音が聞こえてきた。
(・・・走ってくる音が、2歩目の音の間隔が短い・・・獣か!?)
クリスは、すぐに臨戦態勢から戦闘に切り替えられる準備をしながら、腰にあるスリングショットを持ちながらゆっくりと、音が聞こえる方から遠ざかり、逃げ道と視野が広く見えるように角っ子に移動し隠れられるような大きさになっている遺跡の、天井の一部か柱の一部が落ちて出来た、石のブロックに隠れていた。
どんどんはっきりと4足歩行で走る音とそれに伴うように微かに感じる嫌な感じを受けながら、クリスはもうすぐ広間に入ってくるモンスターに備えた。
そして、三頭の狼が入ってきた。
若干浅黒くも見える大きな獣、それの後をすぐに入ってきた緑の毛がラインの様に入っている獣、それが三頭。
クリスは微かに浅黒いが近くで見ると紺色が混じっている獣の方を見た。
(あの紺色、まさかライウルフ?
でも、川で襲われていた時のウルフと同じやつか?
だとしたらマズい!)
前回は傷を受けてかなり弱っていた。
しかし今回は、まったく負傷をしてるようには見えない、それが二頭。
それに、見たことない緑の毛にラインが入った狼種が一頭。
クリスは、とてもじゃないが勝てないとすぐに気づき、通り過ぎるのをやり過ごそうと思った。
しかし、タイミングを見計らったように一斉にクリスの方に向く三頭。
そしてのまま一直線に、クリスに向かって駆けてきた。
「また狼かよ!
しかも前回と同じ!」
クリスは一目散に広間の奥、ライウルフらが入ってきた扉の逆に走って逃げた。
【クリス】3才
レベル 20
HP 128 MP 73
STR 49
VIT 37
INT 40
RES 34
DEX 56
AGI 43
LUK 32




