20 ワクワクを求めて
挨拶を交わした人は、筋肉隆々の30代くらいのおじさんだった。
解体とか力作業が多いためについたのか特に上半身のガタイがすごいとクリスは思った。
「ボイトさん、この子はクリス君。
昨日、この町に来た子でここに来るまでにモンスターを倒して素材を手に入れたから鑑定してほしいそうなの」
「へ~?
こんな小さい坊主がかいローナちゃん。
・・・どれ坊主見せてみな」
モンスターの解体というが、しかしどうして解体屋があるのか。
それは、モンスターは成長、進化するたび強くなると、中にマナの質が高くなって自然に消える・・・所謂、還元が進行するまでに少し時間が掛かったりもする。
そのため、死体がそのまま何時間、何日と残り続けることもあると以前の町でクリスは聞いた。
だからこそ、場合によっては早く回収か埋めるといったことをしないと、死霊やゾンビの仲間になって復活するそうだ。
ここの買取兼解体所にあるモンスターの山は早めに回収した、成長したり進化したモンスターだということだ。
クリスはさっそくカバンの中にある、狼種の素材を見せた。
「・・・・ほう、これは珍しいな。
これはライウルフか・・・こんなモンスターの素材なんで、そうそう見るもんじゃねえ。
坊主、これをどこで手に入れた・・・盗んできたのか?
・・・まさか、狩って手に入れたわけじゃあるまいし・・・」
「一応、襲ってきて撃退したんですが・・・」
「は?」
「「え?」」
ボイトとローナの理解できない声と、なぜそんな反応するか理解してないクリスの声が重なった。
「ちょっ、ちょちょちょっ・・・ちょっと待て坊主!
自分で狩ったのか?」
「え!クリス君自分で狩ったの!」
「え?、あ、はい一応。
・・・あ、別に嘘はついてないですよ!
たまたま川に水を補給しに行ったときにいきなり現れて襲ってきたので、仕方なく戦ったんですから。
これをミュリーさんにも行ったらすごいびっくりしてましたけど。
・・・あのー?、そんなに危険なモンスターだったんですか?」
あまりの周りの驚きにクリスは困惑しながら質問する。
「・・・は?
知らずに倒したのか?」
「あ、はい。
最初は逃げてたんですけど、ずっと追いかけてきて・・・仕方なく」
「仕方なくって・・・。
クリス君よく無事だったわね」
「?」
「あー、いいか坊主、あ、いやクリス。
このライウルフってのはまずこの町・・・というか、この近辺では見ないモンスターなんだ」
「はぁ・・・」
まだ呑み込めてないクリスにボイトが説明と続ける。
「そのうえこのライウルフはウルフ種の中では派生種だが、ウルフよりかなり強い。
普通は最低Fランク~Eランクの人間が一匹に対し5人で当たるのが普通なんだ」
「F~Eランクで良いんですか?」
「といってもクリス、それは最低でもレベル70辺りのパーティで5人ということだ」
「あ・・・」
「気づいたようだな。
ふぅ・・・まったくそれでよく生き残ってこれたぜ」
「はぁ・・まったくね」
クリスは知らず知らずにかなり危ないことに巻き込まれていたようだ。
「あ、でも、そんな危険なモンスターが何でここに?」
「いや、それは全く分からねえ。
・・・ローナ?、何か聞いてるか?」
「ううん、私も何も」
「あの、そんなに珍しいんですか?」
「ん?
そうだな・・・まずダンジョンならば現れるが、地上でとなると・・・。
それこそ、ここよりも遠いが魔物や魔族たちも住む別の国のそれも、森の奥のほうにいるってくらいだな」
「私もそれくらいしか知りません」
ボイトもローナもここではまず見ないと言った。
「じゃあ、何でここに?」
「・・・わからん。
ローナちゃん、一応ギルド長に」
「はい、分かりました」
「こんな時期に・・・もしかしてスタンピードに関係があるのか?」
「わかりませんが、その可能性は低いかと」
「どうしてだ」
「クリス君はステイメッカから来ました。
それはこの町の南側からということです。
スタンピードは西からです。
南側にダンジョンや遺跡はありませんよ、一応このあたり一帯は調べているので」
「だよなぁ」
2人はうなってしまった。
クリスはただ、どうしようこの空気と思っていた。
「・・・ま、念のために調べておいてくれと報告を頼む」
「そうしておきます。
・・・あ、それよりクリス君の素材の買取だったね」
「おお、そうだった。
待ってろ、すぐ見るからな」
やっと本題に戻り、ボイトがクリスの出した素材をテーブルに広げ、細かくチェックをしだす。
ルーペのような虫眼鏡で値踏みもしていた。
少し待つ。
「よし!
素材の状態はいいほうだな。
所々、傷んだ場所があるが、冒険者パーティで入手する素材よりはきれいな状態だ。
・・・しめて・・・これくらいだな」
ボイトが銀貨を30枚と銅貨8枚を渡してきた。
「うーん、まあそれくらいが妥当かしら・・・」
「いや、これでも色を付けたほうだぜ?」
「そうなの?」
「ああ。
確かにライウルフはここじゃ珍しいが国を渡った別の地域ではそれほど珍しくなかったりするからな」
「なるほど」
「だから、これくらいでも割と良い報酬になるんだ」
「たしかに。
ありがとうボイトさん」
「いいってことよ。
それじゃあ、また何か狩ったら、俺が買い取ってやるからな」
「はい!
お願いします」
「おう!、それじゃあな!」
ボイトは会計を済ますとさっさと別のモンスターの解体に向かった。
「それじゃあ、クリス君。
私は受付に戻るわね?」
「はい。
ローナさんもありがとうございます」
「ふふ、いいのよ。
それじゃあね」
ローさんも戻っていく。
クリスは少し買取部屋をもう一度、見渡してからギルドを去った。
その後は町の港の商店に行ったりとブラブラしながら夕方ごろに孤児院へ帰った。
そして、夜の孤児院。
夕食をいただき、ローナはやはり残業で帰ってくるのが遅くなって、つい先ほど孤児院の子供たちが徐々に寝るために寝室に向かってくるころ、遅めの夕食をとっていた。
そんな食事テーブルでクリスが飲み物を飲みながらまったりしている所、ロッシュが部屋に入ってきて話しかけてくる。
「クリス君どうだった?
子供用イベントの話は聞けたかな?」
「ああ・・・はい、一応」
「それでどう?
参加してみる気になった?」
「・・・う~ん。
正直に言って・・・あまり・・・」
「おや、気に入らなかったかい?」
「なんて言いますか・・・あまりにお膳立てされすぎていて、いまいち楽しめそうになくて・・・」
「ああ、なるほど。
・・・たしかにクリス君くらい、アスーティまでその年で歩いてきたんだから、子供用のイベントじゃあ、冒険心をくすぐられないか」
「・・・はい、申し訳ありません」
せっかく、ロッシュが楽しんでもらえるように紹介した手前、クリスは申し訳なさそうにしていた。
「いや、かまわないよ。
・・・それで、これからどうするんだい?
このセンリュウ祭はやはり見ていくのかい?」
「うーん・・・いえ、せっかくですが、あまりここにお世話にばかりなっても悪いので、明日にはここを発とうと思います」
「ず、ずいぶん急だね・・・。
そんな急がなくてもいいんだよ?」
「そうよクリス君。
いきなり出て行かなくてもいいのに・・・」
話の途中から、食事を終え自分の部屋に戻ったローナが食事部屋に入ってきて、クリスの急な出発に驚いた。
「いえ、まだここに来て2日しか経っていませんが、他にも色んな所に行ってみたいので、申し訳ありませんが明日、この町を発とうと思います。
それに、スタンピードはもう少し先らしいので、今のうちにここを出て行ったほうがいいかなって」
「・・・確かに。
スタンピードが始まる前後は入場を制限し、まず参加者たちによる討伐の準備とかがある。
もし出て行くなら、今なら良いかもしれない・・・」
「だとしても、急すぎるよ。
せっかく仲良くなれるって時に」
「すいません。
ただ、なんとなく・・・今出たほうがいいのかなって、そんな気がするんです」
「?・・・どういうこと?」
「本当になんとなくです」
「ローナ・・・せっかくクリス君が旅立とうって時に邪魔しちゃいけないよ」
「でも、こんな小さな子供がまた一人でなんて・・・」
「分かるが、彼も冒険者のはしくれだ。
自分のことは自分で決めたんだ、だったらそれを見送ってあげよう・・・」
「・・・ロッシュ」
ローナはロッシュの、クリスの心情を理解してはいるが、それでも実際問題、目の前に幼い子供が一人で旅に出て行くのを黙ってはいられなかった。
「ローナさん。
これでも、ステイメッカからアスーティまで一人で来たんです。
だから、そんなに心配しなくても自分一人で旅は出来ます」
クリスはローナに不安を少しでも減らせるように、笑顔で答えた。
「クリス君・・・。
ふぅ、わかったわ。
でも、絶対無理しちゃだめよ?
危なくなったら逃げてね?
もし、何かあったらすぐにここに戻ってきていいからね?」
「・・・はい!」
クリスは、ステイメッカのみんなを思い出した。
暖かく見送ってくれた皆とローナの自分を思う気持ちは同じくらいとても優しかった。
「それで、次はどこに行くんだい?」
「うーん、明日、旅に出ようとは思うんですが、どこがいいですか?
俺は、南から来たんで北に行こうかなって思うんですが・・・」
「・・・そうだね・・・。
北に行けば、王都があるからその間の村や町に泊まりながら向かうってのもありだよ」
「・・・王都かぁ」
ちょっと楽しそうにするクリス。
「あ・・・でも、その前に。
まだスタンピードが始まる前だから一度、西にある遺跡を見に行ってみてはどうだい?」
「えっ、西の遺跡?
大丈夫なんですか?
・・・モンスターとか」
「ああ、それは大丈夫だよ。
スタンピードの前兆の前にはモンスターの数が急に少なくなったりするから。
しかも、周辺のエリアやダンジョンも・・・それに遺跡も。
そうした情報はすぐに冒険者が町の外に仕事に行ったりするからわかるんだよ」
「・・・そうね。
今のところはそんな情報は、まだ入ってきてないかな・・・」
情報が命。
特にイベントとして毎年行われているお祭りなんだから、そのあたり慣れた感じの様子。
「・・・それで、西の遺跡って?」
「遺跡って言っても、ダンジョンと同じく何個もあってね。
そのうちの一つで、崖の中に扉がある遺跡なんだよ」
「崖の中に?」
「・・・そう、いつ作られて出来たのか、扉も含んで謎なんだ。
この遺跡はスタンピードのよく起こす場所から少し離れていてね・・・比較的、危険なモンスターも現れない場所なんだ」
「へ~」
「それによ?
なんでも、魔物、魔族が作ったものではないのかっていう壁画とかもあったりするの。
だから、一時期は一つの観光名所だったんだけどね」
「だった?」
「・・・結局わからずじまい。
また、少し遠くてここから丸1日掛かる。
それより、近くにダンジョンや別の遺跡も発見されているから、観光客もめっきり減って、今では、ごくたまに、学者が文献の参考に向かう程度なんだよ」
「そっ。
だから・・・まあ、クリス君なら一人で行っても大丈夫なところだよ。
道中も危険なモンスターはいないし」
ロッシュの進めた遺跡に、そこならとローナも太鼓判を押した。
「・・・うん。
わかりました。
じゃあ、そこに行ってから、そのまま近くに村を経由して王都に行きますね」
「あ、少し待っててねクリス君。
簡単な地図を渡すから」
ローナは食事部屋を出て、地図を取りに行った。
「遺跡かぁ・・・ちょっと楽しみ」
壁画もあるなんてワクワクするとクリスはまだ見ぬ遺跡に思いをはせる。
「あ、そういえば。
子供用の遺跡ってここから近いんですか?」
部屋の残っているロッシュに聞いた。
「そうだよ?
なんせ、あまりに幼い場合は保護者同伴で挑戦、ということにもなっているから。
ここから、1、2時間程度で着く簡単な遺跡だよ」
まあ、それもそうか。
この世界の人は地球に比べて移動距離がある分、体力が必要だから自然とあるだろう。
しかし、子供がそんな何時間も代り映えしない景色をただ歩くことに耐えられるかどうか。
大人だって、退屈になるんだから子供の飽きは恐ろしく速いだろう。
クリスはここに来るまでの道のりでその気持ちが少し理解できた。
「クリス君。
また、ここに来ることがあったら、是非、今度はセンリュウ祭を見に来てほしい」
「はい!
その時は」
そして、部屋から地図を持ってきたローナに遺跡までと王都までの簡単な地図を描いてもらい、明日の出発に備え準備をして眠った。
翌日、快晴。
クリスは遺跡に向かって出発のため、町の西に来ていた。
【クリス】3才
レベル 20
HP 128 MP 73
STR 49
VIT 37
INT 40
RES 34
DEX 56
AGI 43
LUK 32




