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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
208/473

205 肌で感じる終わりへのカウント

「・・・可愛い」「・・・アン」


 白くてフワフワの毛に体と同じくらい大きな頭。まるでぬいぐるみの様な姿だった。実際にそこまで重くないのか明らかに澪奈の手よりも大きいサイズだが問題なく持ち上げられていた。


「ふわ~・・・」


 ペタペタと短い脚で澪奈の手の感触を確かめた後、澪奈の肩に飛び移り、うなじの辺りをグルっと回って反対の方に乗り頬を摺り寄せてくる狐。


「アン♪」「ふふふ」


 戦闘中だというのにちょっとくすぐったいが柔らかい感触と小さい小動物に癒されてしまう澪奈。


「・・・何かの一種でしょうか?」「自立している所からしてそうでしょうね」「ただの使役とはちょっと違うんやろか?」「だと思うわね」「ははは・・・」


 騎士に警戒しつつ澪奈にすり寄っている狐について話し合う楓花、花蘭、佳胡の3人。そんな中、澪奈と傍に寄った守護者達に頭を撫でられて喜ぶ狐。


「・・・何か不思議な感じがします。これが霊力というものでしょうか?」「さあね~。あたしも初めて感じるし何とも・・・。魔力ってのにも近い様な気がするんだけど・・・」「と、話し込んでるとこ悪いんやけど。アチラさんは痺れ切らしてもうてる様やよ?」「「・・・」」


 花蘭の言葉に騎士の方をよく見ると先ほどまで噴き出していた魔力マナが徐々に体の表面に集まっていくのが見て取れた。その証拠に騎士の体には先ほど大剣に宿していた赤と紫の火が舞う様に周囲をグルグルと緩やかに回っていた。


「明らかに本気の様ね」「・・・やっとか・・・。出し惜しみ過ぎとちゃうんか、アレ?」「私としてはそのまま倒されてくれれば助かったのですが」「そんな都合良い事・・・。あらへんわな」「・・・ですね」


 花蘭の言葉に肩をハッキリと落として答える佳胡だった。


 そんな澪奈に白い狐の何かが現れた様に鏡花、茉莉にも霊力の塊から何かが出現する。



「ふわ~・・・猫ちゃんですね~」「・・・何なのかしら?この子?」


 鏡花の手からはしなやかな肢体をした黒い猫が現れた。と言ってもまだ生まれたばかりの様な子猫の様な姿だった。全体的に漆黒の様な色に足元だけは白いぶち猫と言うかプチ猫とした姿だった。


「・・・」


 鏡花は微笑みながら片手に乗った子猫の頭を撫でる。気持ちよさそうにされるがままの姿がとても愛くるしかった。


「わ、私にも~。・・・ふわ~・・・」「ちょっと來未。今は戦闘中よ。ほらあの大男に集中して」


 翼は來未に対して注意して、遠くに吹き飛んだ大男の方へ体を向けているがチラチラとその目は猫を追っていた。そんな翼に興味を示したのか翼の方に乗る子猫。


「・・・ナ~♪・・・」「ちょ、ちょっと・・・」「ああー。翼ちゃんズルいですよ~」


 表向き嫌がる素振りを見せる翼と羨ましがる來未。ひとしきり顔にすり寄っていた子猫は満足したのか、再度飛び跳ねて鏡花の肩に飛び乗った。その瞬間、ちょっとだけ残念そうな声を出してしまう翼。


「・・・あなたはだ~れ?」「ナ~♪」


 鏡花の質問に理解できていない様な返事を返す猫。


「んー・・・いいな~」「ほ、ほら來未。目の前」「分かってますよ~」


 渋々、槍を持ち直し來未。ブスブスと煙を上げながら起き上がった大男は体に激しい炎を纏う様に走らせながら鏡花達を睨みつけていた。


「面白そうじゃない」「やっと、本気ですか~。苦労します」「それだけ向こうもやる気って事よ」「(鼻息)・・・」


 ガクッと肩を落とす來未だった。



「ピィ・・・」「ええ、よろしくね」


 茉莉の肩に乗るのは煌めく様に輝く青い鳥だった。尾羽の部分が少し長く。どこか神秘的な風格を魅せる。


「・・・何かが現れたかと思えば・・・。君の使い魔かい?」「ううん、違うわ。私はそういうのは持っていないモノ」「では、この鳥は・・・」「ピ?」


 芳守を見る青い鳥は首を傾げる動作を取った。


「ふふ、まるで俺達の会話を理解している様な仕草だね」「(笑い)フ・・・。かもしれませんね」「2人だけの空気を作ってるとこ悪いんだけど。コッチにも意識を向けてくれると助かる」


 茉莉達の傍まで下がって来た彰隆は2人に声を掛けながらも目の前にいる戦士に注意を払っていた。


「申し訳ありません」「すまない、社長」「・・・で?その鳥は何なの、茉莉ちゃん?」「・・・私にもさっぱり・・・。でも・・・どうやら、あちらは警戒しているようですね」「・・・の様だね」「何かあるんだろうか?」「じゃねえの?」


 下がる彰隆を追う事も、茉莉達に向かってくる事もなく戦士はその場に立ち止まっていた。骸骨の表情なので感情が分かり辛いと思っていると幽鬼的なその火が紫に燃え上がり。他の2体同様、体に紅い火を纏い出す。


「・・・他の2体と同じでどうやらこれが、本来の姿って所かな?」「・・・だろうね」「・・・茉莉ちゃん?霊力の方は大丈夫?」「・・・先ほどの戦闘でほぼ切れてしまいました。ただ・・・どういうワケかまだ多少は使えると言った感じです。変な言い方なんですが・・・。このコが現れてから不思議とまだ力が残っている様な・・・。まだ使える様な感覚が・・・あります」「・・・そうか。まあ俺達も状況は理解できてないが。さっきとは違うって事だけは分かった。あいつ等が本気になるくらいの事が君達に起きたんだろう。その鳥も重要なファクターの1つだろうな」「はい・・・」「それじゃあ。コッチも決着を早いトコ付けようか?」「ああ」「了解です」


 芳守が剣を構え、茉莉が破魔の矢から光の弓を出現させると。肩に止まっていた鳥が飛び上がり茉莉の上空で待機した。


「ピイィィィィ・・・」「ニャアアァァァァァ・・・」「オオオウウゥゥゥンン・・・」


 そして戦闘準備を再開した澪奈達に反応して鳥、猫、狐が鳴き出すと全員の体に光の粒子が降り注がれた。


「・・・これは・・・」「力が・・・」「なるほど・・・一時的な補助効果ですか。この状況では助かりますね」


 それぞれが体に掛かっていた戦闘の疲労が少しだけ和らいでいくのを感じていた。しかもそれは少しずつだが確実に軽減されていく。


「・・・うん。何だろう」「はい~、漲って来ましたよ~?」


 どうやら更に能力の向上ももたらしている様だった。それを感じていた者達の顔には余裕が見え始めて来た。


「・・・これなら」「面白うなってきましたな~」「あのモンスターは、ココで倒します」


 先ほどとは打って変わって、それぞれが自ら動き出して3体を囲むように移動を開始。自分が持てる力を全て出し切るつもりで再び戦闘が始まったのだった。


「でえええやああっ!!」「がああっ!」


 翼の剣と大男の拳がぶつかる・・・が。


「っ、ぐああっ!!」「こっちもですよ~っ」「っ、ガアア~~ッ!!」


 剣と真正面から打ち合った腕がはじき返すことも出来ずに深々と刺さり。そこへ更に腹部へと突き刺された大男は苦しみ出し、無理やり力技で振り払った。


「あわわわ~・・・っと」「ううう~っ・・・っと」


 同時に吹き飛ばされていた空中で姿勢制御して着地する翼と來未。それは振り回している途中で鏡花の振るった扇から放たれた巫術の風が猫の力で更に力を増し大きく大男の体を切り裂いたからだった。


「グアアアアア~~~~~ッ・・・!!!!」


 深く切り裂かれたいくつもの箇所から一斉に碧と翠の火が燃え広がっていく。大男の体を覆っていた火が強制的に飲み込まれているように見えた。黒い煙が途中で白く変わり、霧散していく。


「あの苦しみよう・・・」「いけます~」


 今までにないほどのダメージを受けていると分かった翼達はますます大男に攻撃を仕掛けていった。



「ッッッッ・・・!!!!」


 声は発せられないが戦士も同様の苦しみを味わっている様だった。


「っ」「ふっ」「ッッッ!!」


 苦しみ出し油断していた隙を突いて彰隆が鎧に思い切り警棒を叩き込む。芳守も反対から鎧を切り裂いていた。それでも戦士が大剣と魔法の杖がどうかした特殊剣で魔法を唱えようとすれば・・・。 


 ヒュ―ン・・・パアアン!


 まるで魔法の発動場所を分かっているように滑空してきた青い鳥が発生源のマナの集合場所を貫いていった。


「・・・っ!」


 ビュン、ガゴオオオン・・・!!


「ッッッ!!」


 そんな鳥を目障りに感じた戦士が攻撃をしようとした所へ足元に向かって光の矢が飛んでくる。茉莉の放った矢の威力は増していた。戦士の足を多少ぐらつかせバランスと崩す程度のはずが、鎧ごと一部を射抜いてしまった。結果、体勢がちょっとどころか大きく崩され倒れそうになる戦士。


「ぬん!」「ッ!」「チッ・・・」「(あそこで避けるか・・・)だがっ」「ッ!」


 上段から叩き斬ろうとした芳守に対して、無理やり魔法剣による薙ぎ払いと爆発の合わせ技で大きく飛んで逃げる戦士だったが、予測して先回りしていた彰隆に地面に叩き落されてしまう。


 ズガアアアアアン・・・。


 受け身を取れず、大きな土埃を上げて叩きつけられた戦士。震える体で魔法陣を作り出し、スケルトンを召喚するが・・・。


 ビュンビュンビュン、カンカンカン。


 矢を切る音と軽い音がスケルトン達の下で発生する。すると生み出されたばかりのスケルトンは灰になって消えていく。


「先ほどの様にはいきませんよ?」


 矢を番えたまま言う茉莉。その上空と戻って来た青い鳥が滞空していた。



「澪奈ちゃん、お願い」「はいっ」


 澪奈は楓花の頼みで肩に乗る狐の力も借りて扇子で騎士と自分達の周りに大きな碧と翠の混ざった色の火を作り出し、取り囲むように包囲した。


「ありがとう~。さあ、これで逃げられなくなったでしょ」「・・・あの言葉だけでよくわかりましたな~」


 薙刀を構える花蘭は楓花のいい加減の注文に的確に答えた澪奈を褒めるべきか楓花に呆れるべきか悩んでしまう。


「すみません。こういうのはきっと付き合いで何となく分かるんだと思います。澪奈さん、少し楓花さんとは波長が合うと言いますか」「ああ。それ以上言わんでも何となく分かったわ・・・」


 すかさずフォローに入った佳胡に軽く返答だけを返して、やはり呆れる方へと傾くのだった。


「いいじゃん別に~。困った事になってないんだし~」「そういう開き直りが、後々面倒事を起こしてしまうんやろ?そういう所、師匠達とそっくりに見えますわ」「ちょっと~。あたしはまだおじいちゃん達ほど年も取ってないし、無茶苦茶もしてないわよ」「時間の問題やって言うてるんです」


 呆れる花蘭を無視して騎士が大剣を大きく引き絞ると澪奈目掛けて駆け出していく。以前とは比べ物にならない速度に、遠くの方で澪奈達の戦いを見守っていた守護者達は目を見張った。彼等には騎士の姿が全く見えないからだった。それは澪奈も似た様なものだった。澪奈も戦闘向きというワケではないため、どうしても楓花達ほど動体視力が強化されているわけではなかった。


「ぐっ(ブレて分からない)」


 咄嗟に扇子から光の刀に変える。すると丁度、切り替わった瞬間にかち合う事になった。体格と勢いで押しやられそうだった所へすかさず佳胡が騎士の顔面に銃弾を撃ち込んだ。


「ッ~~・・・!」


 予想以上のダメージに堪らず、1歩2歩と下がってしまった。そこへ狐が白と黄色の火を放ち、更に澪奈が刀で斬り込んでいく。


「いやあああ~っ!!」「ッ!!」


 体を覆っていた炎が狐の火で上書きされ、外から焼かれていく騎士、苦しみ出している間に澪奈の斬り込みを受けてしまい、頑丈だった鎧がいとも簡単に切り裂かれてしまう。


「っ!」「おっと、そこまでや」「っ。ッ!!」「こっちもお忘れなくっ」


 大剣を振って澪奈を振り払うついでに攻撃を仕掛けた所、横合いから薙刀で止められた騎士。逆に振り上げられ、鎧が下から切り裂かれてしまう。黒い煙が血の様に鎧から吹き出す。更に楓花が刀を首目掛けて抜刀。慌てて、頭を下げた騎士の兜の羽がバッサリと斬られてしまう。それでも避けた騎士は大きく後退。だが澪奈の生み出した碧と翠の結界の外には逃げなかった。いや、逃げられなかった。


「・・・」


 騎士は結界の外。上空と目の前の敵を見る。上に逃げ出せば叩き落されると分かっている以上不用意に高く飛べない。そのため再び目の前の相手に向かって飛び込むしかなかった。斬撃もまた澪奈と狐によるコンビネーションの巫術で燃やされてかき消されてしまう事は実証済みだった。


「いい加減。終わりにしたいのよね~?ホントに」「それには・・・同意見やっ!」


 大剣と刀、薙刀が何度も斬り結ぶ。ぶつかり合うたびにその余波が澪奈が生み出した結界の外。守護者達が待機する所まで届く。


「おいおいおい・・・あいつらマジか」「どっちが化け物なんだか・・・」「さっきから思うけどよ~。あいつ等だけ次元が違うだろ」「言うな、凹むだろ。コッチの味方なんだ。そこだけ考えよう」「まあ・・・確かに」「それに可愛いし」「あの~。それって通報もの?」「バッカ止めろよ。アッチには警察だっているんだぞ?」「いや、だからだけど」「質悪ぃ~」


 もはやどうする事も出来ないものを判断したのか守護者達は他人事の様に話し合っていた。が、もちろんそれだけ信頼しているともいえるから出来る状態だった。流石に危険なら彼等もまた動いてくれる。そういう者達の集まりで構成して挑んでいるからこその今の空間だった。

 若干名、違う意味で怪しい人がいそうな感じではあったが・・・。




 澪奈達が少しずつ形勢が逆転してきた辺りから他の国々でも・・・。


「っしゃあ―――っ!!」「よくやった、このまま押し切るぞ」


 態勢を崩された8メートル級の戦士に一斉に飛び掛かる守護者達。そして体から黒い煙を上げて崩れ去っていく戦士を確認した時、その場にいた者達から歓声が沸き起こる。


「お・・・終わった~・・・」


 ゲートが収束していき、何も無い空間へと戻っていったのを見た守護者の1人がへなへなと地面に座り込んでしまった。そこへ同僚の女性が肩を組み、笑い声が・・・。


 いたる所で同じ光景が見える。しかし中には・・・。


「・・・戦力は?」「重傷者、約3割強。死者・・・」「・・・構わん、報告してくれ」


 重い口を和らげるために上に立つ者は優しく部下に言葉を掛けた。


「・・・死者・・・125名・・・。80年前に起きた事件の時以上の損害です」「・・・半数近くが戦力を失ったわけか・・・。ご苦労。君も少しの間、休むといい」「・・・了解です」


 去って行く部下の俯く姿。その背を見ながら上司は思う。


「(悔しかろうが、これも現実だ。・・・スマンな)・・・いや、悔しいのは・・・私のミスか・・・」


 事前の警告。最善の準備を整えてあたった結果がこの始末に自分の不甲斐なさを改めて痛感してしまう上司だった。


「(それでも・・・)」


 悲しみに暮れている者を慰め、今回の勝利に喜ぶ者達もいた。そんな光景を一瞥して上司はどこかへと去って行く。少しだけ笑顔になったその顔も、反転した時には何かを思い強く誓う様な引き締まった顔をしていた。



 断末魔を上げ、倒れる大男。その体に深く刺したハルバードを引き抜き、一息つく女性。


「・・・他は?」「大丈夫よ。今のでラスト」「・・・はぁ・・・ホントに疲れたわ」「フフフ、お疲れ様」「ああんも~・・・。一時はどうなるかと思ったわよ」


 煙を上げて消えていくモンスター達。女性と同じようにその場に座り込む守護者達が大勢いた。そんな中、まだ動ける相棒が近づいて労ってえ来たのだった。


「・・・ゲートも閉じたみたい。ちょっと待ってて・・・」


 相棒の女性はどこかへと連絡を取る。


「・・・はい。ご報告いただいた通り、この場に現れるモンスターの一掃は完了いたしました。これ以上の増援は・・・。そうですか、ありがとうございます。それではこちらで救護班を呼んで治療の後、撤収いたしますので。はい・・・また後ほど・・・」


 相棒の声に座り込んでいた女性はやっと解放されたと気が抜けて、その場に倒れ込んでしまった。


「ああっ・・・。ホント・・・この仕事止めようかな~?」「ふふ、そう言わないで。今度、あなたが生きたいって言ってたお店、何とか予約を取って招待するから」「絶対よ?」「・・・」


 女性は相棒の顔から確認を取った後、再び立ち上がるのだった。処理のためである。


「・・・~っと。さて・・・まあモンスターは煙に消えちゃうけども」「ええ。亡くなった人の遺留品だけでも、せめて回収しましょう」


 女性と同じく疲れて動けない者。戦闘が終わった喜びに浸る者。そんな守護者達の間を抜けて激しい戦闘が行われた一帯から探し始めるのだった。




「っ」「グウウアアアアアア~~~・・・!!」


 シュンシュ、ギン、ガンガンガン、ギギン。ギィィイリギリギリギリギリ・・・ガゴン・・・。


「・・・(更に鋭くなってる)」〔まだ対応できますが。これ以上は流石にこちらも危険です〕「(分かってるけど・・・どうすれば・・・)」


 倒すだけではダメだというのは分かっている純。しかし、指輪が反応しなくなって数分が経った現在。どうしても光明が見えず、時間ばかりが過ぎていく。攻撃パターンも変わり、更には時間が経つにつれ狐のシルエットと同化し始めている女性。既に尾の数は6本目である。


「グアアアッ!!」「ッ!!」


 高速で純の頭上を通り抜ける爪。魔法で守っていなければ風圧だけで吹き飛ばされる場面ばかりが増えてくる。更に女性は尾を使って連続突きを仕掛けてくる。飛んで回避。捻りながら姿勢を整えて別の尾が飛んでくるのに合わせて双剣を斬り込む。そこからのラッシュ。お互いの力が拮抗しているのか、どちらもその場で弾かれ、払い、逸らし、流しを繰り返す。重力に従い落ちていく純を下から鋭い爪で切り裂こうとする。純もそれに気付き、クロスガード。大きく上空へと吹き飛ばされていく。


 ボボ・・・ボボボボボボ・・・ボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボボ。


 大量の焔の玉が狐の周りに出現。上空へと飛んで行く純に向かって発射される。


〔純っ〕「ぐ・・・くっ。ふっ!」


 何とか急速に上へと引っ張られる力から切り離せた純はすぐさま、体内マナを高速で循環。双剣へと魔法と共に流す。そして自分が生み出した魔法とのブレンドの斬撃を飛ばし、向かってくる火に迎撃する。


「っ~・・・!」


 自分の飛ばした焔があっさりといくつも消し飛ばされる様子に驚く狐(女性)。純の飛ばした斬撃を打ち消すために自らの生み出した弾を数十とぶつけなければならなかった。一発一発が家を、建物を半壊させるほどの破壊力を秘めていたが、純の一振りの斬撃の方がマナの濃度は上の為にあっさりとかき消されてしまうのだった。


 ズオン。ズウオン、ズオズオン。


 数回ほど狐に向かって飛んでくる斬撃、もちろん純はトドメを刺すつもりでは放っていない。あくまで飛んでくる火の玉を消し飛ばすために放っていたのだ。しかし、その威力は十分に狐(女性)まで届くモノだった。威力はかなり削ぎ落されているが、ダメージを負わせるには十分なのか狐はぴょんぴょんと動き回り避けていく。


「(俺も学習しないな)」〔流石に体格が違い過ぎます。近づくためには飛んで一気に詰めてしまうのも仕方ないでしょう〕


 斬撃を飛ばした純は、よく上空へと持ち上げられることに半ば内心で呆れ返ってしまう。だがそれも、すぐに切り替える。飛んできた火の玉は大半が消し飛ばせたとしても、まだまだ大外回り、斬撃に当たらない場所に弧を描いてホーミングしてきた玉は残っているのだった。


 ザン、ザン・・・ザンザンザンザンザンザンザンシュパシュパシュパシュパシュパシュパ・・・。


 サポートとの特殊スキルにより飛んでくる火の玉の軌道と接触タイミングを計り、双剣で切り裂いていく。斬られた火は純の横をすり抜けるとコンマ数秒後爆発。切り裂けば切り裂くほど連鎖爆破の様に衝撃と爆音が巻き起こる。落下する純を中心に煙が内から膨れ上がり、外へと飛び出していくように爆発の煙が生まれてくる。それは落下する純に合わせて爆発の箇所も落ちていく。


「・・・っ」


 ドオオンンン!!


「っ?!」〔尾と矢が飛んできます〕「(マジかっ)」


 飛んでくる弾から切り裂き、火と煙で視界が遮られた純は、更に高速で切り裂くために逆手に持って回転斬りの要領で自ら回りだす。とにかく遠心力を使い、飛んでくる玉から斬り飛ばしていた。そんな中、純も集まっていくマナを感知、飛んでくる方角と濃度から今来ている火の玉以上に意識してあたらなければならなくなった。


「(魔法を強化)」〔了解。出力を上げています。思いっきりやってください〕「っ~~~・・・っ!」


 純を覆う魔法の膜にマナの濃度を増していく。それは透明だったモノからうっすらとだが水色の膜が浮かび上がるほどに変わっていった。そこからの斬撃を極短い射程で乱舞して飛ばす。


「っ!ギィヤアアアアアアア~~~ッ!!」


 斬撃が再び飛んでくる事は無くなったが狐(女性)は更に追撃で飛ばした強力なたくさんの矢が、更には伸ばした尾までが切り裂かれて強い痛みに叫んでしまう。


「っ」〔手を止めないでっ〕


 狐(女性)の叫びに反応して一瞬手を止めてしまった純。そこへ横から火の玉と矢が煙の向こうから飛び出してきた。


「ぐっ」


 向かってくる場所は分かっていたが反応が遅れ、掠ってしまう純。魔法で防いではいるが衝撃から完全に守れるものではない。斜め下へと軌道がズレ、更に上から追尾して飛んできた玉と矢に叩き落とされてしまった。


 ドオオオンンン・・・。


「ぐっ・・・」〔立ってくださいっ〕


 珍しく焦るサポート。しかし、思った以上に体内マナを連続して消費し続けた影響がここに来て体に現れた。思った以上に体に力が入り辛くなってしまう。必死に立ち上がる純の周りは黒と白の煙で何も見えなくなってしまっていた。いや、正確には所々に畳が燃え上がっているシルエットが見えるが・・・肝心の狐(女性)の姿が確認できてなかった。


「(煙幕?)」〔後ろです。避けて!〕「っ!」


 見失っていたわずかの間に数十メートルほども離れていたのか気づくのが遅れた純。異空間である畳の床が揺れてバランスが崩れてしまった所へ煙の向こうから突然、明るい光が飛んできた。


 キュウイイイイイイイイイイ・・・ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオー----!!!!


 赤い月に下からライトアップされた巨大な桜の木と同化したお城から特大の光が空を一直線に飛んで行く。


「―――――ッ・・・」


 大きく開かれた狐(女性)の口に集まった超高温の玉が小さくなっていく。そしてゆっくりと開けた口を閉じて狐(女性)が前方を見た時。前には異空間を突き抜けて城の遥か彼方まで飛んで行ったのか直径30メートルはありそうな大きく丸い形に燃えた城の壁と床があった。時空がゆがめられている為にお城自体の損傷は微々たるもの。しかしこの中の空間の一部。畳の在った床は真っ黒に焼け焦げていた。


「・・・」


 狐(女性)は放った箇所。純が居たであろう箇所をようく見る。その尾は既に8つになっていた。


「っ!」


 突然、大きく飛んで後退。するとその前を何かが通り過ぎて行った。


「はぁ・・はぁ・・・(外した・・・)」〔獣の直感でしょう。厄介な・・・〕


 純は狐(女性)の体の尾やシルエットの狐の部分だけを狙って斬撃を放ったが直前で避けられてしまった。


「っ・・・」〔火傷が数か所。軽微ではありますが、あと少し遅れれば焼死していました〕


 マナをごっそりと削られた純は、両腕や体の所々に火傷を負った。狐(女性)が放ったマナの攻撃を受けて一部の魔法の膜が崩され、そこからダメージが通ってしまったのだった。


 ポタ、ポタ、ポタ・・・。


 裂傷能力の様な衝撃もあったのか斬られた箇所から血が滴っていた。


「ウウウウウ~~~・・・」


 思いっきり歯をむき出して威嚇する狐(女性)。まだ純が確実に倒せるほど弱っていないと判るのか不用意には近づかない。


「はぁ・・・はぁ・・・。はっ・・・。最悪」〔おそらく・・・。これで最後・・・〕


 狐(女性)のマナが更に膨れ上がっていくのを感じ取っていた純達。何となくココが相手の限界値だろうという事。スーッと浮かび上がって伸びてくる尻尾。


 目の前の狐(女性)の尾は合計9本になっていた。


「ううう~・・・アアアアア~~~ッ・・・・・・!!」「っ!」


 空に向かって叫び出すと彼女の持っていたマナが外へと吹き荒れた。顔を覆いながら何とか踏み止まる純だが、力を失ったことで狐(女性)と相対しているのも辛くなっていた。


〔相手のマナに圧されてはいけません。まだ私達は〕「分かってるっ・・・」


 強風が吹き荒れる中何とか、踏み止まる純。


「(でもどうする?こっちは限界が近いのに、向こうはまだ・・・)」


 焦る純は気付かなかった。


〔これは・・・〕


 しかしサポートがいち早く反応した事で純も気付く。いつの間にか純のポケットにしまっていた白い指輪が再び輝き出し、勝手に宙へと飛び出していたのだ。






【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)

 レベル 38

 HP 724 MP 813

 STR 356

 VIT 301

 INT 393

 RES 334

 DEX 451

 AGI 428

 LUK 73

『マナ(情報体):レベル 9 』『波鋼:レベル 8 』『質量拡充:レベル 5 』

『魔法:水、風 』

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