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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
207/473

204 繋ぎ止める何か

「ッ~~・・・!!」


 純に向かって駆けだしていた女性が急ブレーキをかける。女性が纏う火と巨体な体の重みに畳が耐えられず大きく歪み折れ曲がった角から火が舞い上がる。


「・・・」


 純も目の前に勝手に飛び出した指輪に固まってしまった。そんな2人を無視して更に輝き出した指輪から赤い糸が女性に向かって飛んで行く。


「っ」


 咄嗟に女性は身構えるが赤い糸は関係ないと貫通し胸の辺りに細い糸が届いた。


「がっ・・・ぐうぅうぐわああ~~っ!」


 何があるのか女性は苦しみ出しその場で薙刀や手で何かを振り払おうとしていた。そして赤い糸を掴もうとするが糸には触れていないのか女性の手が素通りしてしまう。


「がああぁ・・・ギャアアアアア~~~ッッ!!」「うっ」


 辺りに火を撒き散らす様に爆発させる女性。強い光に片手を上げて日陰を差して、次の出方を伺おうとする目を凝らす純。魔法で膜の様に張り、体を防御しているにもかかわらず、その超高温の熱が届いているのではと錯覚してしまうほどの威力が振りまく女性にはあった。


〔見てください〕「(・・・尻尾が3本)」〔力が増しているようです。何かに抵抗しているようですね〕


 チラッと目の前で浮遊し続ける白い指輪を見る。


「(分かる?)」〔いえ、中の内容までは。しかし彼女にとっては余程何かを拒絶したいモノのようですね〕「(あの子供の?いや)」〔はい。むしろこれは・・・〕


 サポートと話し合っている途中で指輪が効力を切らしたのか、突然畳に落ちてしまった。純はすぐさま拾い上げた。


〔それはおそらく彼女にとって大切なモノ。先ほどの行動は受け入れられない記憶や心に踏み込んだ何かを指輪が発した結果の拒絶でしょう〕「やっぱりか・・・」「はぁ・・・はぁ・・・はあ」


 ようやく赤い糸が切れて、平静?を保てるようになったのか頭を抱えた女性は何度が首を振って頭にチラつく何かを振り払っていた。それが終わると純を睨む。先ほどよりもその目に鋭さが増し殺気が迸りそうなほどだった。実際にその女性の感情が纏う火で表れ、周囲へと火の波が打たれる。純はすぐさま指輪をポケットにしまうと、飛んできた火の波を切り裂いた。


 ボアアアアアア・・・。ボアアアアアアアアアアアアアアアアアア~~ッ!!


 波が通り過ぎた後、自然と畳が着火されていく。いつしか歪んだこの異空間は見渡す限り火の海と化していた。女性や純のいる範囲の一部以外はほとんど火で燃え拡がっていた。


「ぅぅぅ・・・ぅうう・・・ううう~~~ッ!!」


 どんどんと唸る声が次第に大きくなっていく。女性が持っていた薙刀は粒子へと分解され自身の体の中に吸い込まれていく。それに伴い女性の形状自体が変化を始めた。花嫁衣裳の着物もそれに合わせて変化。2本足から4足歩行へと変わる様にしゃがみ込んだ女性。長い耳と尻尾だけだったモノからシルエットの様な何かが内側から出現してきた。そして女性の体を純の様に膜で覆うように朱色の粒子が形作っていく。


〔・・・もはや妄執に囚われたケモノの様ですね〕「・・・」


 目の前の女性を覆う狐のシルエットがサポートがそんな感想を抱かせた。狐が歯を剥き出しにして威嚇をすると、女性も同じ動作を取る。その時に発せられるマナから更に上昇していたのを感じ取った純達。


「・・・5本・・・か」〔流石にあのまま向上し続けると、どうなるか分かりません〕「(コクン)」


 循環するマナの濃度を更に引き上げる純。双剣の色が薄いピンク色へと変化していく。その純から発せられるマナに初めて女性は脅威を認識できたのか少しだけだが威嚇する様にして純の出方を伺う様な行動を取った。


「・・・」「ううう~~~・・・」


 唸りながらゆっくりと純の周りを旋回する女性。


「・・・!」


 そんな女性を見ていた純はゆっくりと手を下げると、低空姿勢で駆け出していった。


「がああっ!」


 女性というよりも纏っている狐が純に反応し体を動かしていた。迫りくる純に長く伸びたケモノの爪を立て、叩き潰す勢いで振り下ろすのだった。




「っ、何よ?!」「下がって翼」


 いつもの伸びた口調ではないスピードで來未は翼に声を掛けると同時に離脱。翼もすぐさま大男から離れた。


「なんだ?」「下がってください」「社長」「分かってる」


 骸骨戦士の異変と茉莉の警告に彰隆と芳守も十分な距離まで避難する。


「これは・・・」「どういう事なんやろうな~?」「・・・」


 佳胡が驚く中、変化に察知した花蘭と楓花も退避する。



 それは3体同時に起こった変化だった。3体が苦しみ出したと思った時には体から膨大な火を噴き上がらせ、周囲数メートルを地面を黒炭に変えた。



「あれって・・・」「私の後ろに居てください」「離れないようにね」


 その吹き上がった火は遠く離れた昂輝、岡部、木下達の目にも確認できた。何も分からない昂輝は困惑するが、2人は目を鋭くしてその先を睨む様に凝らした。手に持つ特殊銃に乗せる魔力が高まっていくのか銃に描かれたライン線が強い光を何往復も繰り返していた。



 それは世界中でも同時に発生していた。不用意に近づきすぎていた者は仲間に助けられたり。逆に判断が遅れ、消し炭になってしまったりしていた。


 女性が高まっていくマナや感情に呼応する様に世界中の影のモンスター達も影響を受けて、狂暴化してしまった。


「ぅぅ~ぅ・・・ぅぅぅうううううがああああああああっ!!」


 目が真っ赤に染まり口から泡を吹き出しながら立ち上がった大男。鋭い爪に激しい炎が巻き上がるだけでなく。体の血管が浮かび上がった様に赤いライン線が浮きだっていく。そして・・・。


「やば」「っ!」


 翼達の方へと振り返った大男。翼達が口に出てしまった時には大男は既に2人の目の前にまで踏み込んできていた。


「(はやっ)」「てえいっ!」


 出遅れた翼をフォローする様にハンマーに切り替えた來未が繰り出してきたストレートとぶつかるが・・・。


「うそ~!」


 ビキキ・・・。


 來未の武器に亀裂が入ってしまう。更に力に圧し負けて吹き飛ばされてしまう。


「來未!」


 吹き飛んで行く來未に飛びついて抱き留め、無事着地する翼。


「ふぅ」「ありがと~翼ちゃん」「どういたしまし・・・っ!」


 言い終える前に今度は2人に向かって振り下ろされてくる爪。接近と目では視認できたが反応できなかった。


「ふっ!」「があああ~・・・!」


 突如、横から白い輝きと矢が飛んでくる。爪に直撃した大男は、矢の威力に後ろへと大きく後退させられた。長い爪を持つ手をもう片方の手で持って膝を突いてしまう。睨むその目が新たな標的を認識していた。


「間に合いました」「鏡花・・・!」「助かりました~」「お2人が無事でよかったです」


 鏡花は札を取り出し、そこに巫術を掛ける。そして翼と來未の体に貼り付けた。


「・・・おお~」「はああぁぁ・・・癒されます~」「霊力で傷口を優先的に回復させていますが、あくまで一時的です」「十分よ」「はい~。今はそれでもオーケーです~」


 ゆっくりと立ち上がり体の調子を確かめる翼と來未。そんな2人よりも先に立ち上がった大男は3人に攻撃を仕掛けようと動き出すが。


「・・・」「・・・」


 鏡花が先制する様に矢を番える事で大男に牽制する。大男も睨む様だけで強制的に足止めされてしまう。


「・・・こういう所のサポート力があの子との違いよね~?」「そんなことありませんよ~。澪奈ちゃんだって、あの子なりに私達のサポートはしてくれてますし」「はあ?どこが?」「お2人も。お話し中申し訳ありませんが。この状態も長くは続きませんので」「・・・ええ?」「・・・その様ね。ごめんなさい」


 急ぎ戦闘に加勢してきたために思った以上に鏡花の持っている霊力マナの残量が少なくなっていたようだった。大男には見えない様にしているが、若干手の辺りが震えていた。そこに気付いた翼がすぐに状況を理解し戦線に復帰する。來未も何となく理解したのか武器の形をチャンジ。ハンマーから槍へと変えた。


「非力で申し訳ありません」「いえ、十分って言ったでしょ?あなたはちゃんと仕事をきっちりこなしてくれた」「はい~。おかげであと残ってるのはアレを含めた3体だけの様ですし~」「そう・・・言って、いただけると幸いです」


 柔らかく微笑む鏡花だが、その顔には大量の汗が浮かんでいた。


「無理しなくていいわ」「この結界も解除して大丈夫ですよ~?」「・・・」


 2人を直すために結界を張って念のための防御対策も取っていた鏡花。薄く張っていた白い膜を解除。微かに息を吐く鏡花の前に立って大男に向かい合う。


「さあ、第2・・・3?ラウンドよ」「そこはどうでもいいのでは~?」「雰囲気よ。切り替えの雰囲気」「・・・(ふ)」


 いつも通りの2人に安心した鏡花がその背中に小さく微笑む。


「んー・・・って言ってもね~」「はい~。あそこまで強くなるなんて反則ですよね~?」「・・・」


 ガクッと膝から崩れそうになる鏡花だった。



「・・・翼達の所と一緒か・・・」「火を纏っているようですね」「あの剣の真ん中にある杖の様なモノから魔力を感じるし・・・。きっとそうだろう」


 骸骨戦士はシモベのスケルトンを少数だが召喚していた。彰隆達の足止め程度に使うつもりのようだった。その目は燃える様な赤い光に変わり、必ず彰隆、芳守、茉莉の3人を殺すという意志が感じ取れた。


「・・・さて、どうしようか?」「・・・まあ、さっきの変化で強くなっているのは間違いないよね」「茉莉ちゃん。行けそう?」「・・・正直、言いましてスケルトンなら私でも何とか・・・。それに・・・、私は澪奈達から力の使い方を何となくですが理解して使用している程度なので、これ以上の出力は期待しないでください」「いや、茉莉さんのおかげでここまで戦えてるんだ十分だよ」「そうそう。・・・で?どれくらい持つ?」「・・・よくて10分。ですがあの状態からですと・・・3分だけ今の霊力が持ってくれれば良い方ですね。私が思った以上にこれは消費が激しいようです」


 出来るだけ普段通りに振る舞っていた茉莉であったが、まだ澪奈達に比べて新たな霊力マナの扱い方に慣れていないために、ただ維持しているだけで消耗している様だった。


「消してもいいよ?必要な時に」「これが再発動できるのは、今の私ですと数時間後に出せれば・・・。スミマセン」「・・・短期決戦か・・・。ま、元々コッチはそのつもりだし。仕方ないない。でも戦闘中に必要以上の消費を避けられるようには出来る範囲でしておいて?」「はい」


 彰隆に肩を叩かれながら軽い調子で言われた事にも真面目に返す茉莉。だが茉莉も元々その考えには同意だったようでこの戦闘が始まる少し前から、調整していた。その結果が今も体内マナを維持して発動し続けられている証拠だった。


「・・・翼の所には鏡花ちゃんが行ったか・・・。って事は向こうに澪奈ちゃんか?」「・・・その様だね。・・・楓花さん怪我していたようだ」「なにっ」「おや、珍しい。どうしたんだ社長?」「い、いや。何でもない。あいつもケガする事あるんだな~っと思って・・・」「ふ、後で助けに向かってはどうです?」「そういうんじゃないんだが」「はいはい」「あ、お前。信じてないな?」「警棒を振り回さないでください。子供ですか」「・・・うっふふふ」「「?」」「あ、ごめんなさい。芳守君や澪奈達に聞いていた通り、皆さんの事務所ってホント、会社というより家族の様な感じなんですね」


 茉莉の言葉を受けて、お互いを見合う2人。


「・・・まあ、飛んだ厄介者ばかりだけどね」「それは社長も同じでしょ?」「ちげーよ。これでも俺は色々としっかりとしてん」「佳胡さんがいつか会社と辞めようかと考えて」「ちょっとそれ・・・マジ?」


 彰隆が芳守の肩を掴んで本気の顔になる。その額にダラダラと汗を流して。


「自覚があるならもう少しどうにかしてはどうですか?」


 実際にはまだまだ学ぶことがあるという言葉を佳胡から聞いている芳守は一切そんな事を口には出さなかった。ただ、腕を組んでアレの事かそれともアノ事かと自分の中で何か心当たりがある事を探している彰隆を楽しんで見ているだけだった。


「(まあ、実際、あの人が社長の下を離れるのはまだまだ先だろうし。そうなっても、なんだかんだで付き合う様な関係は継続していくんだろうな。そういう意味では確かに寿さん達の言葉は当たってるかもしれない)」


 可笑しいが笑うわけにはいかないし何とも言えない表情で彰隆を見る茉莉を暖かる見る芳守だった。


 しかし、そんなひと時の時間はすぐに崩れ去る。


「っと、こんな事をしてる場合じゃないか」「(鼻息)・・・。社長、あのボスをお願いしますよ?」「ちょっと待ってくれ。いくら何でもそれは」「私なら大丈夫です」「・・・いいんだね?」「・・・子ども扱いばかりだよ?」「・・・ごめんごめん」「(おお~。珍しい彼女がデレた。・・・あ、いや待てよ?それってつまり)2人は付き合ってるの?」「え?」「は?」「あ・・・」


 素で分からないという2人の反応を見た彰隆。一瞬にして思い違いを理解してしまった。そしてそれ以上にあの2人から来る純粋な視線に何とも言えない罪悪感の様なモノが生まれてしまい目を逸らしてしまう。


「い、いや~・・・なんていうの?うん。ほら、君達もこの1ヶ月以上?一緒に行動してたじゃない?だからちょっと」「一緒に行動をしていたのは仕事で仕方なくですよ。茉莉さんもそれは知っていますし」「はい。まあ・・・今回は非常事態だと思いますし・・・」「そ・・・そうね。(ぐっ・・・。ここまでスルーされると心に・・・)」


 胸を押さえる様に後悔する彰隆はスッと2人の視線から逃げる様に戦士たちの方を向いた。


「まったく・・・」「ほんと・・・」


 芳守と茉莉はお互いを見ると口元を綻ばせるのだった。しかしすぐに2人も戦闘へと意識を切り替える為に戦士の方へと振り向くのだった。




「はぁぁっ・・・。ありがとう澪奈ちゃん」「いえ。応急処置ですから。傷口は塞ぎましたが、疲労までは回復しないので注意してください」「うん、わかったよ」


 処置を終えた楓花が立ち上がり、頭に巻いたショールをまたしても腕に結ぶ。その後、体の調子を確かめようと腕を回していた。そこへ花蘭が近づいて行く。


「どう?」「一応の処置は済ませた所です」「ありがとうな。この人、ちょっと無鉄砲な所がありますから」「あれ?そんなに一緒に戦った事ってあったっけ?」「あんたとあんたんトコの師匠はよう似てるってウチの師匠が言ってましたさかい。まあ、ウチもそう思うんやけどね~?」「早くも気付いてくれましたか」「・・・何時でも待ってるからな?」「その時は是非」「ちょっと~、ウチの子を勝手にスカウトしないでくれる~?」


 目の前で佳胡の両手を持ち親身になって話しかける花蘭に楓花が止めに入る。そんな光景を澪奈は半笑いで見た後。鏡花達や他のチーム達の様子を見回す。


「(・・・あっちも、そうもそう持ちそうにない感じね・・・。だけど・・・)」


 更に周囲を見渡してみるとほとんどが負傷者ばかり。戦闘継続が可能な者達のほとんどは負傷者たちの護衛と後衛の搬送に回っていた。中には参加しようと澪奈達に近づいて行くが、目の前の強敵に不用意な参加がメンバーを危険に晒すと判断し手出しできない状況だった。


「もし自分も危険だと感じたら、いつでも下がって良いからね?」


 スッと澪奈の横に来た楓花が騎士の方を見ながら話しかけてきた。


「澪奈ちゃん達は立派にやってくれた。ここであなた達が引いたとしても誰も文句は言わないわ」「それは・・・」


 花蘭、佳胡。そして遠くでこちらの話している事情と澪奈の表情から何かを察したのかベテランの守護者達が頷いていた。


「私達も限界と感じたら下がります。後退する様に待機している他の方々が少しの間は時間を稼いでくれるでしょう」「・・・倒せるのですか」「・・・。直球で来るね~。・・・・・・正直に言えば・・・分からない。勝つつもりではいるのよ。でも・・・」「ああ、なってからますますわからへんようなったんよ。むしろこっちが生き残れるのか不安になって来ましたわ」「・・・直接戦っている2人からして、どれくらい・・・?」「・・・3・・・いや、1割・・・いけば良い方かな?」「「・・・」」


 佳胡の質問に肩を軽くすくめつつもあっけらかんと返す楓花。戦闘中とはいえ、常に自分のペースを保つような行動を取っていた。それが今までの経験で培ってきた戦い方の1つだからだった。


「・・・」


 スリムなフォルム。兜の天頂部には長い羽の様なモノがひらひらと風に揺られている。騎士は長い大剣と細い剣に独自の赤い火と紫の火を纏い、澪奈達をジッと見ていた。兜の隙間から見える赤い眼光が鋭く刺してくるような威圧感を感じる。しかし、決してその場から動かず待っている様だった。


「・・・はぁ。まあ、このままジッとしてても意味ないか」「その前にどこかが崩壊しそうやしね」


 頭を掻いていた楓花が地面に刺していた刀を引き抜き、再び騎士の方へと歩いて行く。花蘭も薙刀を持ち直し続いて行く。


「澪奈さん。申し訳ありませんが2人のサポートをお願いします」「は、はい」


 佳胡も楓花と花蘭のフォローに付くために移動を開始する。残った澪奈は自分の中に残る霊力マナを確かめるために手に持つ札に巫術が乗る霊力の流れ具合で確かめた。


「(・・・持って数分。残りは・・・ほとんど・・・。分かってたけど・・・これじゃあ)」


 澪奈には何故かこの戦いに対して不安しかなかった。最初、まだゲートから異形モンスター達が飛び出してきた時は問題なかった。しかし3体のボスやシモベとなった異形モンスター達が仲間割れを起こし始めた辺りからずっと心に引っ掛かりの様なモノを感じ取っていた。


「(何でそんな事を思うんだろう?)」


 そっと服の上から心臓に手を触れる澪奈。そんな澪奈に何かを訴えかけているかのように澪奈自身が持つ体内の霊力マナが不安定な揺れ方をしているだけだった。


「(どうにかしなくちゃ・・・。でも私に何が・・・)っ!」


 澪奈が考え込んでいる間に周りでは戦闘が再開されていた。走り出す翼と來未にサポートしながら自らの果敢に挑む鏡花。戦士の従者たちに攻撃してルートを確保された所、突っ込んでいく彰隆達。そして目の前で騎士相手に何とか食らい付こうとする楓花と花蘭。そんな2人の隙間を狙って射撃する佳胡。数だけで言えば彰隆達が不利に見えるが実際の戦力は大体が同じであった。いや・・・正確には魔法を使うわけでも無いのに、肉体の頑丈さだけに頼る事の無い技量で楓花達を押さえつけている騎士がこの中では1番危ないと澪奈も分かっていた。だからこそ彰隆は実力と戦闘経験がメンバーの中で高い楓花に向かわせたのだった。花蘭も同門という事もあり戦い方の阿吽と言うのが事務所とは別に行えるだろうとの判断だった。


「っ!」


 澪奈は不安に押しつぶされそうな気持ちを首を振る事でどこかへと追いやる。


「(諦めない。ここで諦めてちゃ。またあの時の・・・)」


 似た様な場面はいくつも浮かぶ。しかし、その中でも強烈だったのは工場での事件。あの時最後に現れたボスは突然の弱体化が起きて奇跡的に助かった。もしアレが無ければ全滅していたのは間違いなかった。だからこそ、あの時よりも強くなるために・・・。日々、巫女としての力を付けて来た。


「(勝つ。勝ってみんなで帰るんだ・・・。だから・・・!)」


 澪奈は騎士達と戦う楓花達に向かって走り出す。


「っ(澪奈ちゃん?!)」「っ(急に?!)」


 楓花と花蘭が騎士に弾かれて距離を離されてしまったタイミングで佳胡が、騎士の足止めに撃つ。しかし、飛んできた弾を加速する事で回避。楓花に追撃を放とうと大剣を振り下ろそうとした所へ光の刀を生み出した澪奈が騎士に斬りかかった。


「っ」「きゃあっ!」「っ!」


 騎士は咄嗟に細剣ではじき返し、澪奈からの直撃を避けた後、飛んで大きく距離を開けた。吹き飛ばされていく澪奈に気付いた楓花が先回りして受け止めた。


「あ・・・ありがとうございます」「・・・もう~。無茶しちゃ危ないじゃない」「それ、アンタが言う事か?」


 花蘭も楓花達の傍へと寄った。佳胡も騎士に警戒しながら楓花達の傍へ。


「「・・・」」「「・・・?」」


 楓花は澪奈を見た後騎士を睨む様に見る。花蘭は騎士と澪奈を交互に確認する様に見る。そんな態度に疑問に思う澪奈と佳胡。


「・・・どう思う?」「あたし達の攻撃自体は危険だけど、そこまでの脅威じゃない。それに対して澪奈ちゃんの不意打ちに近い攻撃には以上に敏感に反応した・・・かな~?」「1回だけじゃあ、ウチも詳しくはわからんけど、同意見やな~。どういう事やろうな?」「・・・それだけ澪奈さんの力に忌避感を?」「少なくとも今の反応の仕方はそう思える様な行動やったな~って話。ほら・・・今も、その子だけよう見とるしな~」「え、・・・ええ?」


 当の本人だけも何故、そこまで注目されているのか分かっていない。


「とにかく、っ!」


 花蘭が楓花達に話を続けようとした瞬間には、騎士が大剣を構えて飛び出してきた。


「ぐっ、ううう~・・・きゃああっ!」「っ!」「・・・!(このっ)」


 一直線に飛んできた騎士の速度についていけなかった楓花達。騎士の狙いは迷わず澪奈に向けられ、大剣を突き出す様に飛んで行き、澪奈を3人から引きはがした。


 パンパンパンパンパンパンパンパン。


 一瞬反応が遅れた楓花達は焦り、急いで騎士を追いかける。佳胡もそれに気づいて射撃する。本来の、弾倉という概念を無視した連射。全てが騎士に向かって飛んで行く。それは弾き飛ばされていく澪奈を狙って騎士が追い打ちを掛けようとしていたからだった。


「ぐっ・・・うう~~~っ!」


 たまたま構えていた刀と巫術による最低限、身を護る為に貼り付けておいた札が発動したので澪奈は吹き飛ばされるだけで済んだ。が、地面を転がる勢いが止まらずたったほんの少しの時間で既に100メートル以上も引きはがされてしまった澪奈。何度目かのバウンドを繰り返した後、無理やり宙で体を捻り、足で着地して踏み止まろうとする。


「・・・っ!」


 迫りくる騎士の振り上げた赤と紫の大剣がスローモーションに見えた。


「澪奈ちゃん!」


 体内に残っている魔力を振り絞って、飛び出す楓花と花蘭。・・・だが、後少し足りない。


「「「・・・!」」」「・・・(澪奈!)」


 遠くで見ていた守護者達も急いで加勢に走り出すが間に合わない。楓花の声に反応した鏡花が、振り返り驚愕の顔を見せる。


「がああああ~っ」「危ないっ」「(え?・・・)」


 翼がよそ見をしてしまった鏡花を狙って大男の爪を振り下ろす間に入ろうと飛び込む。


「っ!」「芳守っ!」「(っ!)」


 彰隆達が戦うためにサポートしながらもスケルトンの排除をしていた茉莉だが、力が限界を超えたのか急速に弱まり、動きが鈍くなる。戦士との戦闘中に出来た僅かな隙に周囲を見た彰隆が自分よりもはるかに近くにいる芳守を助けに向かわせようと叫ぶ。気付いた芳守も走るが・・・。


 振り下ろされる大剣、爪、剣や槍。澪奈、鏡花、茉莉は己が死ぬ瞬間をゆっくりした世界で見ていた。


「・・・・・・」


 とても緩やかだった。自分にこれから起きる出来事なのにどこか他人事に感じる様な客観的な感覚を澪奈は感じていた。


「(・・・あ・・・死ぬんだ・・・)」


 諦めないとついさっき思っていたはずなのにあっけなく、それは終わる。そう感じた澪奈は悔しい思いがあると同時にどこかで受け入れて諦めてしまった。


「(そっか・・・。ここまで・・・)」


 目の奥が熱くなる。うっすらと中から透明で熱いものが湧きだしてくる。


「(悔しい・・・。これじゃああの子を・・・。?・・・悔しい?)」


 矛盾する気持ち。受け入れているのに、それでも心のどこかでは諦めきれない思いがあるのかそんな思いがつい出てきてしまった。しかしその後に出て来た言葉については分からなかった。ただ勝手に出てきてしまったのだ。


「(・・・え?あれ?)」


 知らないはずの記憶が呼び起こされる。映像は何処か壊れた建物。目の前には真っ暗なシルエットで全く見えないが悲しんでいると分かる誰かの顔。そして・・・何かを出来た嬉しさと何かを失う悲しみがない交ぜになった感情が一瞬だけ湧き上がって消えた。


「(これって・・・?)」


 次には日常の光景が。家族が、友人が・・・新しく出来た友達の顔が浮かび上がっていく。笑っている光景が・・・しかし、そこに見えたある少年を見た時、彼女の中で何かが苦しめられるのと同時に暖かくもなった。


「(・・・純、君・・・?)」


 どうしてかは分からないが、彼の顔を見た澪奈の中で何かが湧き上がってくる。


「(だめ・・・。こんな所で・・・まだ・・・私はっ)」


 ・・・カチリ。


 キッと目つきが変わった時。澪奈の中で何かが嵌った。


「ッッ!!・・・~~~ッ!」


 吹き荒れる澪奈の霊力マナ。大剣を振り下ろしていた騎士は澪奈の力に大きく弾き飛ばされてしまう。しかし、騎士も諦めてはいない。空中で姿勢制御をすると大剣に宿ったマナと独自の赤と紫の炎で斬撃を飛ばす。更に追加で炎を纏った細剣を澪奈に投げつけた。


「っ!ガアアア~~~ッ!!」「・・・~~~ッ!!」


 澪奈と同様、鏡花、茉莉も霊力が吹き上がっていた。当たったはずの爪が半壊し、大男の体を碧と翠の火が燃え広がり、大きく吹き飛んでいく。周囲にいたスケルトンが一瞬にして燃えて白い灰へと変わっていった。


「ッ・・・!」


 兜の中の赤い目が驚いていた。騎士は斬撃と細剣が澪奈の体から吹き出していた霊力によって、接触した部分かから一瞬にして分解されていくのを目撃してしまったからだった。


「・・・う、・・・?」


 強い痛みが来るだろうと目を閉じていた鏡花と茉莉は何も起こらない事に疑問に感じてうっすらと開く。


「え?あの?え?」「いや、私に聞かれても」


 すると目の前・・・正確には吹き上がった自分の霊力が、自らの体を覆っている状況を見て困惑してしまった鏡花は、翼を見てしまった。翼も鏡花の目から何を聞きたいのか伝わったのか手と首を振って答える。それは茉莉も似た様な状況だった。


「「「・・・」」」


 しかし、そんな状況の中、大男、戦士、騎士の3体は澪奈達の異様な何かを感じ取り自らのマナを噴き上げさせて明らかな警戒を示していた。


「はっ!」「そこや!」「ッ!!」


 だがよそ見をしていたのか騎士も同様だったのか、隙を突かれ楓花と花蘭の攻撃を受けてしまい。今度は逆に大きく人のいない場所に吹き飛ばされてしまった。それは戦士も同様だった。彰隆が呆気にとられている戦士にトドメを刺す気持ちで打ち込んだ攻撃で大きく吹き飛ばされていく。


「大丈夫ですかっ?」「はい。あの・・・コレは?」「私に聞かれましても~」


 翼同様、困惑する來未。


「怪我はない?茉莉さん」「はい。スミマセン・・・。しかし、この力は・・・?」「君も分からないの?」「ええ・・・。何でしょうか?」


 芳守の手を借りて立ち上がった茉莉は未だに吹き出している霊力を不思議そうに見ていた。


「澪奈さん、ご無事ですかっ?」「大丈夫か?」「怪我したのかっ?」


 佳胡や近くに集まった守護者が澪奈に話しかける。そこでようやく呆けていた澪奈は現実に戻ってきたように周囲を見回す。


「え?・・・あの・・・あたし・・・は?」「私が判りますか?」「え?はい、佳胡さん」「その魔力はどうしたんだ?」「魔力?えっ、何コレ・・・?!」「気付いてなかったのですね」「あの・・・コレは?」「私にも何が何だか・・・。とりあえず立てますか?」「あ、はい」


 佳胡の差し出された手を取って座り込んでいた姿勢から立ち上がる。そして改めて自分に見に起こっている事に疑問に感じていると。


「何かよくわかんないけど無事で良かった」「ホンマ、焦りましたわ」「楓花さん・・・あの」「ああ~。私に聞かれても分かんないからパス」「ええっ?!」「だって、見た事ないんだもん。花蘭分かる?」「ウチに聞かれてもな~・・・。特に今噴き出しているの以外、変化はあらへんの?」「うーん・・・特に・・・?コレって?」「どうしました?」


 澪奈は噴き出していた霊力が体の中で急に1つに集まりだしていくのを感じ取っていた。それは鏡花も茉莉も同様だった。そして噴き出していた霊力が内へ内へ収束していくと体から何かがはじき出される様に上空へと飛び出した。


「・・・?コレは?」


 ポーンと数メートル飛び上がったかと思うと澪奈の前に落ちてくる。澪奈は霊力の塊を両手で優しく受け止める様に下からキャッチ。すると霊力の塊が丸くなり何かを形作っていく。鏡花と茉莉の手にも霊力の塊が何かを形成していく姿が浮かび上がっていく。そして・・・。


 ポン・・・。


 軽く音と共に霊力が弾け、そこに姿を現したのは、眠い目を擦り耳を掻く白くて小さな狐だった。








【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)

 レベル 38

 HP 724 MP 813

 STR 356

 VIT 301

 INT 393

 RES 334

 DEX 451

 AGI 428

 LUK 73

『マナ(情報体):レベル 9 』『波鋼:レベル 8 』『質量拡充:レベル 5 』

『魔法:水、風 』

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