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転と閃のアイデンティティー  作者: あさくら 正篤
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198 断ち切る誓い

 純も最初は怖がっていた。だが男から怨念とは違った別の何かを微かに感じとってもいた。それは悲しみなのかは分からない。しかし男が徐々に声を大きくハッキリと純に言葉をぶつけていくうちに、確かに感じたナニかがどうしても、戦闘をする気持ちに今一歩踏み出せずにいた。


〔純。・・・行きますよ?〕


 サポートも分かっていた。純が相手の事を考えて躊躇ってしまう事を。だからこそここで主を危険に晒すわけにはいかなかった。例え怒られようとも意識を切り替えさせるのが自分の務めだと判断し声を掛けた。


「・・・っ」


 純もサポートの声でようやく決心がついた。攻略だ何だと言っても。人というものが・・・。誰かの不幸な出来事に触れてしまう事が、どうしても自分の決心を鈍らせてしまっていた。あの時の・・・。かつて古城で倒してしまった吸血鬼に悲しむ女性の姿を思い出して・・・。しかし、純は進むと決めた。それが生きるために・・・。大切な人達を・・・。家族を守るために繋がるならと自分を奮い立たせて。


「行こう・・・。やろう・・・。何とかしよう」


 まるで自分を鼓舞する様に、もう一度立ち上がらせるようにハッキリと口に出した。


〔はい・・・。私達は道楽で来たわけではありません。ココの者達を・・・。この世界を何とかするために来たのです。行きましょう、純〕「うん・・・!」


 ボゴボゴボゴボゴ・・・・・・。


 体が歪に膨れ上がり大きくなっていく男。先ほどまでは普通の人間サイズだった体も背中に生えた2本の腕と同様にどんどんと大きくなり・・・。仏像と同じ3メートルほどの身長になってしまった。


「おおー・・・。オオ~~~ッ!!・・・貴様らに涅槃なぞ無い。・・・地獄に叩き落してくれる」


 巨大化した男の手には黒い靄から刀が2本、背から生えた手にも槍を2本が生み出されて、それぞれ持っていた。どれもが怒りに燃える炎の様な形のデザインをしていた。そして黒い顔には・・・まさに般若と思わせる角と鋭い牙が生えていた。


「・・・・・・貴様が落ちるのは地の底なり・・・」


 言い終わると同時に飛び出してくる男。先ほどの仏像とはスピードも圧迫感もまるで違った。


「っ!」


 振り下ろされる刀を受け止める。


 ガギィイィィイイィイイィイイィインンンン・・・・・・!!


 体重を乗せた1撃は簡単に周囲の床をも破壊していくほどの力が乗っていた。双剣で受け止める純を中心に更に石の地面が大きく窪んでいく。


「奈落に落ちるだけでは済まない・・・。地獄で後悔しながら苦しむがいい」「・・・とっ!」〔純、上です!〕「ぐううっ」


 右手で振り下ろされた刀を受け止めていた所へ左からの斬り払いに気付いた純が距離を開けようと飛び上がったが。それは誘いであり本当はもう2本で持った手による槍による突き刺しだった。何とかガードをして横へと逸らしたが攻撃の勢いは殺せず、吹き飛ばされてしまう純。


 ズザ~~~~・・・!


 何度か空中で横回転しながら着地。滑りながらも襲い掛かってくるかもしれない男に警戒しながら足に力を入れて踏み止まる様に努めた。


「・・・重い」〔膂力ではこちらも負けていませんが、身体面ではどうしても大きい向こうに利があります。ここは狭い空間で戦う方向に持っていくか・・・〕「敢えて・・・懐に飛び込むか。・・・っ!なんだ?」


 純はサポートとの話し合いから超接近戦に持ち込もうと走り出そうとした時、不意に足が引っ張られるような感触を感じした見た。


「手っ!?」〔あの者の力・・・?いえ、違いますね。これは・・・。っ、前!〕「っ、はあっ!」


 再び飛び出してきた男に対して純は咄嗟に双剣を振った。男は刀と相対するかと思いきや純の振り払いにより逆に外へと押し出されそうになった。しかし、何とか踏み止まろうとする所に衝撃波と飛ばす純。男は背中の手に持った槍でクロスガードを取って直撃を避けたが大きく後ろへと吹き飛ばされ石の壁に激突する。


「っ。これって・・・」〔はい・・・。この者達もまた・・・被害者です〕


 振り払うつもりで足を強引に引っ張り、引きはがしてマナを自分の体表面の数センチ外まで解放。しがみ付こうする無数の黒い手から守る。まるで下から急成長する草の様に飛び出してくる腕。それが石の部屋を埋め尽くす様にワラワラと下から生えてくる。


「・・・酷い・・・。あの子が言ってたのって・・・」〔きっとコレでしょうね。老若男女関係なく。全てを殺したのでしょう・・・。ケジメとして・・・ですか〕


 純はワラワラと近づき自分に掴み掛ろうとして掴めず、動く手を悲しそうに見ていた。


「魂が完全に消える事も無く・・・。ただ当時の苦しみと痛みがずっと残り続けているのか・・・」


 純はマナを纏った双剣で腕を切り裂いていく。


((あああああ~~~~っ!))


 純に切り裂かれた腕が霧散していく。


「・・・これで少しは成仏に繋がるかな?」〔お任せを。成仏という概念、定義は少し難しいですが。私と純の力で少しだけこの捉われたくらいマナの空気を循環させ空へと送ってあげましょう〕「頼む」


 純は近づいて来る健康的な成人の腕、老人の腕、赤子の腕であろうと双剣で、もしくは斬撃で切り裂いて行った。


「や・・・めろ。・・・止めろ!・・・それ以上。我ら家族を奪うなーっ!!」


 消えていく家族の腕に、怒り壁から飛び出してくる男。怒っている般若の目には血の涙が落ちていた。


「ぬわああっ!!」「っ」


 纏う黒い霧が男に身体能力を更に向上させるが、純はそれを受け止める。体格差などお構いなし。純はその男と斬り結び始めた。斬る、突く、払う、振り下ろす、薙ぎ払う・・・。石の部屋がどんどんと男の振り回す武器で壊れ崩されていくが、純はそれを難なく受け止めて、隙を突いては残っている下から生えた黒い腕を執拗に攻撃していった。


「う・・・ううっ。お願い・・・止めて・・・」「!」


 男の方から女性の声が聞こえ、攻撃していた純の手が止まった。


 カコン・・・カララ・・・。


 男の般若の様な顔だったモノが突然仮面の様に落ち、その下から男性と女性の顔が現れた。怒る男性の顔の左下にくっつく様に赤い涙を流す女性の顔があった。どうかというにはいびつな形で2つの顔がそこにはあった。


「う、うううっ・・・。お願い・・・。これ以上・・・家族を・・・皆を・・・あの子を傷つけるのは止めて・・・」「我らを落とし込めて、更には我が者達まで・・・貴様はどこまで・・・」


 そこには怒りと同じくらい悲しみが溢れていた。純は戦闘態勢を解き、スッと手を下げた。


「・・・俺達は少しだけしかこの世界について知らない・・・。だけど、ここにいれば・・・。この腕も、アンタ達も・・・。それにこの世界を生み出した人も・・・救われない。そんな気がするんだ」「黙れ!貴様に何がっ!」「・・・」「それでも・・・。ここには皆が・・・あの子が・・・」「・・・勝手に入って来たことは・・・謝ります。・・・それでも、コッチもやるって決めたから・・・」


 純はもう一度、双剣を構え直した。その目にはもう迷いは無かった。


「恨まれても仕方ないと思います。それでも。・・・ここで、倒します」


 純はハッキリと告げた後、周囲に残っていた腕に対して斬撃を飛ばす。


「いやあ~~~っ!」「・・・貴様~~~っ!!」


 震えた男は、溢れるほどの大量のマナを吹き出し周囲に黒い霧を撒き散らす。松明で照らされていた空間がどんどんと暗く、見えなくなっていく。しかし純とサポートはマナ感知で相手の姿も気配も見えていた。


 ガキン。ガキガキガキン・・・。ギンギンギンギン。


 暗闇の中、双剣と刀と槍の斬り結びで激しい火花が散る。マナによってもたらされる光が2人の周囲にだけをうっすらと何度も照らし出していた。


「ぐうううう~・・・。があああああああっ!!」


 男は叫び、純に攻撃を仕掛けるが弾かれてしまう。怒りに任せ繰り出す攻撃は悉くが防がれ、弾かれ、いなされた。そして、隙を突かれては純の攻撃を受けて、体から煙を噴き上げていく。


「地獄に・・・地獄に落ちるのは・・・。貴様」「ゴメン・・・」


 純は突き出してきた槍ごと男の腕を斬り飛ばした。


「があああああ~~~っ!!」


 純のマナによって切り裂かれ斬り飛ばされた腕から勢いよく煙が空へと霧散していく。更に追い打ちと純の斬撃が飛んでくる。


「ぐうううあああああっ!」「ああああ~~~っ!」


 もう片方の槍を持った腕は武器ごと消失する。飛んで行った斬撃は奥の壁を貫通し、遠くの空へと飛んで行ってしまう。


 ボッ・・・。ファ~~~・・・・・・。


 霧が純の攻撃を受けてマナに変化が訪れた。消えた松明の変わりなのか淡く周囲を照らし出していく。


「っ~~・・・「「っ!」」


 そんな中、純を見た男と女は止まった。


「・・・絶対とは言えない。でも・・・約束する。この世界を俺達なりに何とかするよ」


 マナの一部は純の周りを舞うように照らしていく。まるでマナの輝きは純を中心に発生している様だった。


「「・・・」」


 純の言葉とそこにある確かな何かを見たのだろう男と女は、ゆっくりと刀を下げた。


「・・・少しだけ・・・待っててほしい」


 純は一気に飛び出し・・・一閃。男の横を通り過ぎた。


「・・・あの子達を・・・頼む」「どうか・・・娘達を」


 振り返らず事無く話を聞く純に願いを託し、倒れる様に消えていくのだった。


「・・・」


 上を見上げる純に、見守られるように巨大化した男は白い小さな粒子に変わり。周囲に遭った腕も空へと小さな光となって消えていく。頭の中に電子音が聞こえてくる。


〔追加クエスト達成・・・でしょうか?〕「うん・・・たぶん、ね」


 空へと舞い上がっていく光を後に、純は来た道を戻るべく部屋を出て行った。


 ・・・石の部屋には、未だ漂う光が純が去って行くのを確認する様に留まっていたが・・・。


(・・・あの子達をどうか・・・)(我が子を・・・救って・・・)


 その言葉を最後に、部屋は初めから存在していなかったように何もない空間へと変わっていった。


〔純、急ぎましょう〕


 純はもう一度振り返った時、どこか異次元に吸い込まれていく途中なのか先ほどまで部屋があったのはウソの様に光景が変わっていく。少し驚いたが、それを最後に今度こそ、前に向き直り、二度と振り返ることなく上の離れから本丸の城へと戻っていくのだった。






【十時影 純 (クリス)】15才 人間・・・かな~?(進化)

 レベル 38

 HP 724 MP 813

 STR 356

 VIT 301

 INT 393

 RES 334

 DEX 451

 AGI 428

 LUK 73

『マナ(情報体):レベル 9 』『波鋼:レベル 8 』『質量拡充:レベル 5 』

『魔法:水、風 』

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